「とりあえずご馳走と、おせち料理だな」
「かしこまりました。ですがユートさま、ご馳走はわかりますけど、オセチとはなんなのでしょう?」
「まあ、あれだよ。家で料理を作る人って、毎日忙しいだろ? だから俺たちの世界では結構日持ちのする料理を作って、正月の間はそれで料理をしなくてもいいように、って風習があるんだ。俺はよく知らないけど、それに入ってる料理にも色々と意味があって……」
「なるほど……」
エスペリアにおせちの何たるかを指示している悠人。
ツンツン。
と、不意にその腕が突付かれる。
振り返ってみれば――
「ん? どうした、アセリア?」
「私も、作る」
「作るって……アセリア、おせちって俺達の世界でも、そうそう簡単には作れないような難しいやつだぞ?」
「ん。問題ない。今ので大体わかった」
そして差し出されたのは、携帯用の乾し肉。
無論戦闘用の糧食であり、めでたさなどは微塵もない。
……加えて言えば、「料理か?」という問題でもある。
「……アセリア。気持ちはわかるが、それは普段でも、ていうか普段しか食べないだろ?」
「これは……オセチではないのか?」
「ああ、残念ながら。おせちっていうのは、もっとこう、めでたいものなんだ」
「そうか……」
残念そうに、乾し肉を引っ込めるアセリア。
動揺の気配を感じて振り返ると、慌ててウルカがなにやら後手に袋を隠している。
(あれは確か……)
悠人にも思い当たる節がある。
ウルカが隠した袋の中身は、恐らく豆を塩や砂糖で煮詰めて、乾燥させたもの。
栄養価はそれなりに高いが、しかしそれもアセリアの乾し肉同様、兵士の携帯食料である。
(惜しい、ウルカ。豆だけは合ってたんだけどな)
ウルカのプライドを傷つけないように、極めて自然に視線を逸らす。
エスペリアに向き直ると、どこからか手帳を取り出し、既にメモの準備態勢に入っていた。
いろいろと心配性だが、一端やると決まればそこはもう、なんだかやる気まんまんな彼女である。
が……
「それでは、ユートさま。オセチとは、詳しくはどんなものなのでしょうか?」
「ん、あー。言われてみると、俺も詳しくは知らないな。そう言やいつも佳織に任せっきりだったし」
「はあ……」
「というわけで、やっぱおせちは後回しにしよう。とりあえず今回はご馳走だけでいいや」
「はい……は?」
「期待してるぜ? エスペリアの料理はいつも美味いけど、今回はさらにご馳走だからな」
「は、はい。ありがとうございます……」
「じゃ、頼んだ」
困惑しながらも頬を赤らめるエスペリアを残し、悠人はそそくさと居間を後にする。
(下手な教えかたして凄いもんが出てきたら……いや、エスペリアが作るんだから食えないものが出るはずはない。けど……う〜ん……)
想像するのは、『日持ちのする料理』ばかりで固められたおせち。それは元来の意味で間違ってはいないはずなのだが……
どう考えても、それを目の当たりにすれば「お正月遠征」の準備としか思えない。
悠人はとりあえず自室に戻り、四半刻ばかり「めでたさ」について改めて考えることとなった。
報告。異文化を知るためには、自分のそれについても深い知識が必要である。今回は後者に重点をおいて対処することとした。