作者のページに戻る

---英慈side---



---暗闇---

ったく、何度目だ。ここに来るのは。
意思がはっきりしてきたのか、いろいろなことを考えられるようになってきた。
冷静に判断すれば、これは、過去を思い返しているだけなのだと。
そう考えている間もなく、過去が蘇る。


---帰り道---

俺の家は普通の人より、学校から少し離れたところにあって、川の真横を通らなければならない。
それでも一緒の方向に帰る友達は数人はいるのだけれども。
いつもと同じように、話をしながら帰っていると、友達の一人が、
「それにしても神楽って転校生、なんだったんだ。」
と、疑問を口に浮かべていた。
「英慈、席近かったんだから休み時間の時、何があったか知ってるだろ。」
「いや、俺も、『いいから私にかまわないで!』で、気づいたからよくわかんない。」
「なーんだ、じゃあ明日誰かに聞くか。」
そう言う話をしながら帰り道を歩いていく。
そのうち、分かれ道になり、
「じゃあな、英慈。俺等はこっちだから。」
「ああ。じゃあな。」
友達と別れ、一人で家に向かい歩き出した。


「あれ、あの子は。」
俺の前に理江がいて、川を背に立っている。
(なにやってんだろ。)
興味本位で少し近づいてみる。
(犬?)
犬が理江に向かって吠え続けている。
吠えられる度に理江が一歩づつ後ろ下がっていく。
「あっ!危ない!」
「きゃっ!」
下がりすぎた所為で川に落ちてしまった。
(大丈夫かなぁ?)
近くまで行ってみる。

バシャ、バシャ

(おぼれている!助けないと!)
俺は少し躊躇したが、助けなければ!と思い、ランドセルを放り投げ川に飛び込んだ。
水泳は昔から習っていたので、余程の事がなければ溺れることは無いだろう。
そして理江の前まで泳いでいく。
「捕まって!」
手をさしのべる。
しかし理江はつかまない。
手を伸ばすことも出来ないのか、手を掴んでこない。
この川は、その当時の俺達には深く、水深は1.5m位だった。
なので、理江は顔が、沈んだり、出てきたりを何度も繰り返していた。
そのうち、理江が力つきたように沈んでいってしまった。
「くそ!」
俺は水に潜り、理江を掴み引き上げていく。

「はあ、はあ。」
「けほっ、けほっ。」
溺れた所為で水を飲んだか、苦しそうにしている。
「大丈夫?」
「大丈夫・・・・・・。」
「どうして、川に落ちたの?」
「それは・・・・・・。」
理恵は俯きながら話し出した。

話を聞くと、犬を怖がっていたら、落ちてしまったらしい。
「それはそうと、何で学校であんなこと言ったの?」
また俯きながら口を開いた。
「私のお父さんが、転勤が多いのは知ってるでしょ。」
「うん。」
頷き、次の言葉を待つ。
「その転勤までの間隔がすごく短くて、友達を作ってもすぐに別の学校へ転校しちゃうの。」
「それで、何度も転校してたから『どうせ友達を作ってもすぐに転校なんだ。』って、自分で納得しちゃったの。」
「だから、あんなことを言っちゃった。」
「・・・・・・・・・・・・。」
そんな事だとは思いもしなかった。
転校というものを体験していないからだろうか、そんな事は分からない。
けれど、そんなことはいけないと思う。
「駄目だよ!」
「!」
俺が出した大声に、一瞬、体を竦ませた。
「すぐに転校するからって、友達を作らないのは駄目だよ!」
「少しの間でも友達と話したり遊んだりすれば楽しいじゃん!」
「・・・・・・・・・・・・。」
「あ・・・・・・。」
言ってしまってから気づいた。
今まで出したこともないような強い口調で、まだ良く知らない転校生に向かって、身勝手なことばかり言ってしまった。
「あ・・・・・・、えっと・・・・・・、その・・・・・・。」
「・・・・・・なら、」
理江がいきなり小さな声で言った。
「・・・・・・なら、あなたが私の・・・・・・ここでの最初の友達になって。」
それは、友達になってくれ。ということだった。
答えは、
「もちろんだよ!」
断る理由など無かった。俺も友達になりたいと思っていたから。
「ありがとう。」
理江が見せた笑顔。それは、今まで見たことの無いような笑顔だった。
そして、
「そういえば、ちゃんと自己紹介してなかったね。」
「俺は、新藤英慈。これからよろしく。」
「うん。」
そうして、家の方角が同じということで、いろいろな話をしながら家へ向かった。
体はかなり濡れているが、そんなことは気にならなかった。
これが、理江との出会いだった・・・・・・。





--------------------

---ある一室---

「・・・・・・さい。」

体が軽く揺すられる。
「・・・・・・てください。」
聞いたことがあるような、ないような声。
「起きてください。」
自分の意識が戻っていく・・・・・・。
「・・・う・・・。」
目を開けたときに映ったものは、
「ようやく目が覚めましたか。」
気を失うまで戦っていた少女達だった。
赤い髪の少女は俺を右側からのぞき込むようにしていて、緑色の髪の少女はその反対側で椅子に座っていた。
軽く辺りを見渡してみると、コンクリート(だと思う)で作られた部屋に見える。
真っ直ぐ見ると天井が見えることから仰向けに寝かされていたのだろう。
俺は体を起こし、少女達に、
「・・・・・・ここは?」
と、右側にいる赤い髪の少女に聞く。
その時に部屋の中に青い髪の少女がいることにも気付いた。
「ここは、レーグア王国、スピリット詰め所の空き部屋です。」
「レーグア王国?」
「あ、地名は分かりませんか・・・・・・。」
赤い髪の少女は手を顎に当て、何か考えているように見える。
「・・・・・・フィーナ。私の部屋から地図を持ってきて。」
「わかったわ。」
と言うと、フィーナと呼ばれた少女(反対側にいた、緑色の髪の少女)は、部屋から出ていった。
その背を目で追っていたら不意に、
「失礼ですが、剣は預からせていただいています。」
「・・・・・・あ。」
言われてから気付いた。
手元に『約束』が無いことに。
(まあ、大丈夫だろう。)
何故だか楽観的に考えてしまっている。
「それと、申し遅れましたが、私はメル・レッドスピリット。『焔』のメルです。」
自分の胸に手を当て、自己紹介する。
「彼女は、リリア・ブルースピリット。『未知』のリリアです。」
ドアの近くにいる青い髪の少女を示しながら言う。
「あれ、君は・・・・・・。」
少し考え、思い出す。
意識を失う直前、目の前にいた少女だと言うことを。
リリアと呼ばれた少女はこちらを一瞥すると、
「先に行ってる。」
とだけ残し、部屋から出ていってしまった。
それと入れ替わりに、フィーナという少女が戻ってきた。
「メル、ちょっと。」
フィーナはメルを手招きすると、何か話を始めた。
声も小さく、距離も結構あるので、何を話しているかは分からない。
ずっと二人を直視している訳にもいかないので、また天井を見上げる。
(誠一は大丈夫かな・・・・・・?)
俺よりしっかりしている誠一のことだ。きっと、どうにかしているだろう。
まあ、俺よりは危険じゃないと思うが。武術を習っているし。
そんなことを考えている間に話は終わったらしく、メルが近づいてきた。
「予定が早まりましたが、王に会ってもらいます。」
どんな予定があったかは知らないが、こうして王に会うことになった。





---レーグア城会議室---





「ここでお待ち下さい。」
メル、フィーナに連れられ、会議室のような部屋へと案内された。
大きな机が一つだけ、部屋の中央にあり、その周りに椅子がたくさん用意されている。
部屋の壁に沿って歩いていると、この世界の地図らしきものがあった。 どうやらこの世界には、大陸が一つだけで構成されていて、その周りに島がたくさんあり、大きな国が北西、北東、南の三ヶ所にあるようだ。
ただ単に、この辺りしか探索できていない可能性もあるかもしれない。
また壁に沿って歩く。次は綺麗な女性の肖像画が飾ってあった。
それは芸術が全く解らない俺ですら立ち止まらせる物だった。
ただ単に少し斜めを向いて座っているだけなのに、その絵には何かしら変な感じがした。
何というか、圧力? 存在感?
引き込まれるような感じがした。
「この絵が気になりますか?」
絵を見続けていると不意にメルが声をかけてきた。
「何か引き込まれるような感じがするんです。」
メルはそれを聞くと、フフ、と笑った。
「敬語はいいですよ。・・・・・・そうですね。そんな気もしますね。」
「この方は王妃様です。・・・・・・もう、前王共々お亡くなりになられてしまいましたが。」
少し伏せ目がちに言った。
「じゃあ、俺も敬語はいいよ。前王? ということは、今は王子か王女が王に?」
「いいえ、そう言うわけにはなりません。はい、王子ですね。子供は一人しかいらっしゃらなかったのでその方が王の座をお引き継ぎに。」
「敬語で話されると違和感があるから。へぇ〜、どんな人なんだ?」
「慣れて下さい。そうですね・・・・・・、敢えて言えば、かわ―――

ギイッ

(変な)会話をしている最中に、重々しい音を立てて扉が開いた。そこに立っていたのは、見るからに―――――誰がどう見ても―――――俺より年を取っていない少年だった。
ふとメルの方を見ると、あの少年に向かって御辞儀をしていた。
まさかとは思うが、あれが王なのだろうか? そういえばさっき、王子が王になったといったが、まさかあの年で王位を継承したのか? 王政というものがよく解らないからどうも言えないが、あれでは随分と反対もあったのではないかと思うんだけど・・・・・・。血筋というものが何よりも優先されるのだろうか? いや、しかし、反対などがなければおかしい。普通、恐らく十歳を超えていないだろう少年に王位を継承させないだろう。もし継承したとしても、だれかお付きの人などがいると思うんだが。そう、歴史で言えば摂政、関白のような政治などを代行して行う人が必要だろう。大抵そのような人はほとんどの場合、一緒にいると思う。しかし、今は何故かあの少年だけ。この場合はそんな人がいない? いや、メル達は王の命令で会議室に連れていくように言われたのだと思う。ならばそこに王が来るのは当然だが、そんなことならお付きはこない? そんなことがある訳がない。それだとあの少年は王ではない? うん、そうだ。きっとあの少年は王ではないと思う。いや、そう思いたい。
「ご紹介します。あの方が我が国の王、ウィル・A(アールディスト)・レーグア様です。」
一瞬にして砕かれた考え。
むしろその方が良かった。いつもの悪い癖がでてしまっていたから。無駄に深く考えすぎる癖が。
直さないとな・・・・・・。
「初めまして、新藤英慈です。」
お辞儀をしながら、自己紹介する。
「初めまして、エトランジェ様。私がこの国の王、ウィル・A・レーグアと申します。」
その年の少年には似つかわしくない様な言葉遣いで自己紹介する。
「その、エトランジェ様というのはやめてもらえますか? 堅苦しいのは苦手なので。」
「あ、そう? ならいいや。じゃあよろしくね、エイジ。あ〜良かった。面倒だったんだよね、丁寧な言葉使うの。」
・・・・・・そっちが本性か!?
その後、主にメルがだが、俺の処置などについて話をした。
ウィルは所々に口を挟んで来るだけだった。
何故か、終始メルはニコニコと笑っていた。


     こうして、俺はレーグア王国に仕えることに決まり、スピリット隊第一部隊に配属された。
     帰れる日がいつになるか、その間に何があるかもわからない。
     元の世界に帰る。それを目的に過ごしていこうと思う。










-------------???side-------------



「これで全部か?」
男は傍らの女に尋ねる。
「待って、あと一人・・・・・・・・・・・・見つけた。」
女はそう言うが、何も見ていない。ただ眼を閉じているだけである。
「この娘で最後。・・・・・・行ってきて。」
・・・・・・は言葉を聞くと、闇へ溶けて行った。



―――――まだ、役者は揃っていない。―――――





あとがき

恐らく更新が一年以上されていなかったでしょう。
更新を待っていた方(いないと思いますが)、どうもすみませんでした。
多忙だった。という理由もありますが、アイデア、書く気が不足していたのが第一の理由のはずです。
ようやく主人公が国に仕えました。
漸く書きたかった、日常生活、戦闘が書けるようになるので、これからは少しずつでも更新していきます。
稚拙な文章ですが、お読みになった方、なる方、どうもありがとうございます。
今更ながらですが、私にはネーミングセンスというものが全くないと感じています。
名称を考える方法があれば、教えていただけると幸いです。

次は第二章に入ります。
二章では、笑えるところも多く含んでいきたいと思います。
シリアスばかりだったので。
それでは、第二章でお会いしましょう。

作者のページに戻る