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第一章 見知らぬ世界で

[ ]←は聖ヨト語の言葉です。なので、最初は英慈に通じません。
英慈が聞き取れるようになったら、「」←聖ヨト語もこれになります。
#1 出会い

---暗闇---

何も無い。
そこには、光も命も無い。
たった一つだけ存在するものは、自分の意思だけ。
ほかの物には干渉されない世界。
そして、過去のことだけが蘇る。


あれは、小学生2年の秋だった。
あのころはまだ幸せだった。
家族と普通に暮らしていたから。
そのころ、俺のクラスに転校生がやって来た。
赤茶色の髪を伸ばし、腰ぐらいまでとどいている。小柄な体でかわいい顔。
その当時は恋愛というものはわからなかったから単純に「あ、かわいいな」位にしか思っていなかった。
先生が黒板に名前を書く。
「この子は、神楽 理江ちゃん。」
「お父さんの転勤が多いらしくて、この学校に転校してきました。みんな、仲良くしてあげてね。」
はーい、という声が教室を飛び交った。
「じゃあ、みんなに自己紹介してもらおうか。」
「お願いね、理江ちゃん。」
「はい。」
少しも恥ずかしそうにせず、一歩前に出た。
「初めまして。神楽 理江です。」
・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
沈黙。
誰もがそれだけでは終わりでないと思っていたから。
「先生。終わりですけど。」
不意を突かれた先生は驚いた。
「えっ、あ、はい。」
「席はどこですか?」
「えっと、窓側の一番後ろね。佐藤君の隣りに座って。」
「はい。」
すたすたと歩いていき席に着いた。

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---異世界---

---湖---

英慈はトーラに飛ばされた後気を失っていた。
道の向こうから、老人と、青年がやってくる。
[あれ?爺ちゃん人が倒れている。]
青年が駆け寄る。
少し遅れて老人も駆け寄る。
[大丈夫かの?]
[大丈夫だ。ただ、意識を失っているだけだと思う。]
[とりあえず村まで運ぼう。]
[そうじゃの。]
青年は英慈を背負うと村まで歩いていった。

---国境の村クイアス---

英慈が連れてこられた場所は大陸北東部に位置するレーグア王国と大陸北西部に位置するアルカ帝国の国境となる場所にある村でごくまれに戦場となってしまうことがある村。
英慈はその村につれて行かれた。
「うっ、ここは?」
意識を取り戻し見た光景は自分たちの住むところとは、全く違うものだった。
「確か、トーラに飛ばされて・・・、誠一!」
辺りを見回す。
誠一がいない。
「別の場所に飛ばされたのか?」
かなりの不安。
いつも一緒にいた親友がいないだけでこんな不安に駆られている。
(こんな異世界に飛ばされれば誰だって不安に思うか。)
考えている内に青年と老人が入ってきた。
[気が付きましたかの。]
「は?」
[大変だったよね。ここまでつれてくるの。]
「え?」
訳の分からない言葉。
英語・・・じゃないな。
英語だったら俺は聞き取れる。
一応テストでは常に95点以上だからな。
リスニングでは間違えたことはない。
だが、この言葉はわからない。
いったいなんなんだ?
[あのー。]
「はい!?」
いきなり声をかけられたから驚いてしまった。
一応尋ねられていることは分かった。
[もしかして・・・「エトランジェ」さんですか?]
分からない言葉の中で一つだけ分かった単語がある。
「エトランジェ?」
[こりゃ、クーゴ!いきなりなんてことを聞くんじゃ!]
[だって、見慣れない服だし、もしかしたらそうじゃないかな〜って。]
「???」
わからない。全く持ってわからない。
[ん?]
クーゴがこっちを見た。
[ねえ、爺ちゃん、もしかしたらこの人、言葉が分からないんじゃないかな。]
[そんなことないじゃろ。大陸は聖ヨト語で統一されているんじゃから。]
「???」
[じゃあ、自己紹介してみる。]
クーゴが近寄ってくる。
[僕はクーゴです。あなたの名前は?]
「え?何を言っているんだ?」

少しの間

[やっぱり。]
[爺ちゃん!やっぱりこの人は「エトランジェ」だよ!]
またもや出てきた「エトランジェ」という単語。
何か特別な意味でもあるのか?
[やはりエトランジェなのかの。]

・・・・・・・・・・・

クーゴと老人は言葉を失う。
[こんな俺とあまり年が変わらない人がこれからずっと戦っていなければいけないなんて。]
[それが「エトランジェ」の運命何じゃよ。]
何を話しているんだ?とりあえず俺についてのこと、というのだけは分かったが。
[そうだ、爺ちゃん!この人をこの村でかくまえないかな。]
[おお、それは良い考えじゃ。]
二人は何故かうれしそうだ。
[そうと決まれば村の人たちに知らせに行って来てくれ、爺ちゃん。]
[そうじゃの、]
老人が出ていく。
俺はクーゴと小屋に残された。
[そうだ、自己紹介しないと。]
[名前が分からないと不便だし。]
[僕はクーゴです。]
「何だ?」
クーゴは自分を指さし、クーゴ、クーゴと言っている。
「名前か?」
俺はクーゴを指さし、
「クーゴ?」
[そう。僕はクーゴ]
[あなたの名前は。]
今度は俺を指さし、口をぱくぱくしている。
「俺の名前かな?」
俺は自分を指さし、
「俺は新藤 英慈。」
[???]
自分を指さし、英慈、英慈と言う。
[エイジっていうんだ。]
まだ、名前しか分からないけど何故かうれしくなった。
こんな異世界でこんないい人たちに出会えたのだから。

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2週間経った。

俺は簡単な会話ぐらいならできるようになってきた。
この2週間の間に、国同士の小競り合いが3度起きた。
その度に防空壕に隠れなければいけない。
小競り合いが起こるたびに森などが焼き払われていく。
まるで、昭和の戦争みたいだ、と思った。
だが、いきなりの戦争より驚いたものがある。
戦っている人のことだ。
普通の戦争なら戦うのは男のはずだが、この戦争は女の子が戦っている。
それも剣を持って。
俺は理由を知りたくてクーゴに尋ねたことがある。
「なあ、クーゴ。何で女の子が戦っているんだ?」
「それは・・・。」
答えてくれず、さらに押し黙ってしまったのでそれ以上は聞かないことにした。
それはさておき今、俺は会話をしながら文字を読み書きできるよう勉強している。
それも日本語での、ひらがなのようなものを必死で覚えようとしている。
というか、日本語のような一字一字に形があるのではなく、英語の筆記体のような感じでつなげてあり、しかも、ミミズが並んでいるような字なので、全く理解できない。
「なあ、クーゴこれはなんて読むんだ?」
「なになに、これは・・・、これは前に教えたから自分で読んでみて。」
「まじで。こんなの習ったっけ。」
「うん。僕は教えたよ。」
勉強の度に1回は必ずこのようなやりとりがされている。

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勉強が終わった。
「じゃあ、今日はここまで。」
「ふぅ。やっと終わった。」
俺は英語はできるが、それは勉強好きにはつながらない。
ただ、おもしろそうだからやってみたらできてしまった、という感じだからだ。
「あ、そろそろ爺ちゃんが来るな。」
「え、何かあるの?今日。」
「ちょっとね・・・。」
クーゴは悲しげな顔をした。
(何かあったのかな?)

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「待たせたの。クーゴ」
「いや、別にそんな待ってないよ。」
「勉強もさっき終わったところなんで。」
「そうか、なら行かなければならないのぉ・・・。」
爺さんも悲しそうな顔をしている。
「なあ、ちょっと聞いていいか。」
「何?」
「これから何があるんだ?」
「お前等が何か悲しそうにしているけど。」
「それは・・・。」
「それは・・・行けば分かるから・・・。」
「向こうに行ってから説明する・・・。」
「ついてきて。」
そう言うと、クーゴと爺さんは歩き出した。

つれて行かれたのは何度か入った防空壕だった。
この防空壕は、森の中にある洞窟を改良して作ったところだ。
入り口はうまく隠されていて、遠くからじゃ見つかることは無い。
「こんなところに何があるんだ。」
防空壕の奥にある大岩のところまで来た。
クーゴは、大岩の隣りに隠されているレバーを動かした。
レバーを動かした瞬間から、大岩が動き出し、扉が出てきた。
「こんなところに扉?」
「ここに入る前に君に話さなければいけないことがある。」
「何だ?」
「この世界のこと、君のこと、戦っていた少女たちや、僕らについて。」
「まずこの世界について。
 この世界はファンティジアビスという名の世界だ。
 北東部に、レーグア王国、北西部にアルカ帝国、南部にヤールーク共和国がある。
 この間、この世界にエトランジェ・・・これは後で説明するね。
 が、やって来た。で、今は、まだ居場所が分かっていない。
 次に君のこと。
 さっきも出たが、君はエトランジェ。これは、別の世界から召喚された人物のことを指すんだ。
 エトランジェの特徴は、見知らぬ服、言葉が通じない、という感じだ。
 だから、君を助けたとき、エトランジェじゃないかって、言ったんだよ。
 次は戦っていた少女について。
 彼女らはスピリットと呼ばれる種族だ。
 永遠神剣という、剣と共に生まれ出て、ただ、戦うだけに生まれてきた。
 そして、最後に僕らについて。
 僕らは、まあ、どちらかというと今はただの一般人だ。
 でも、追われている。
 なぜなら、僕らは元々アルカ帝国の技術者だったからなんだ。
 だから、ここまでこのような知識があるわけだけど。
 研究資料を持ち逃げして、今は追われているんだ。
 と、まあこんなところだけど何か分からなかったところはある?」
「じゃあ、質問をいいか?」
「なぜ、俺は召喚されたんだ?」
「それは、分からない。召喚したのが誰かも分からないし、もし分かってもその人が何を考えているかなんて、分からないし。」
「エトランジェは召喚されて何をするんだ?」
「昔の童話だと、世界を統一させる手伝いをしたらしいがこれは童話上の話だから本当か嘘か分からない。」
「なら、永遠神剣って、なんなんだ?」
「永遠神剣、それはスピリットが生まれたときに持っている剣。
 なぜ、スピリットは生まれるか、なぜ剣を持って生まれるか、それは分かってはいない。
 話がずれたな、永遠神剣は、その剣ごとに位と名前がついている。
 位は第一位〜第九位まで知られているが、それ以上もあるそうだ。」
「他には?」
「なんで、アルカ帝国から、逃げ出してきたんだ?」
「それは・・・、スピリットを使った実験をしていてそれに耐えきれなくなったからだ。」
クーゴはうつむいた。
「最後に・・・。」
「何?」
「・・・性格変わってないか?」
「・・・地だよ。・・・こっちが。」
「さて、質問はもう無いね。」
「ああ。」
「じゃあ、この扉の奥へ。」
クーゴが扉を開く。
俺はクーゴについていき、扉をくぐった。
「! これは!」
扉の中の部屋の中央に、剣が突き刺さっていた。
剣の刀身に十字架が描かれている。
「この剣は、永遠神剣第五位『約束』。君の剣だ。『約束のエイジ』」
俺は剣から目を離せないでいた。

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あとがき

序章を読んでいただきありがとうございます。
一章#1終了です。
英慈が飛ばされてから『約束』を見るまでです。
最初に出てきた神楽 理江はこれから、ちょくちょく出てきます。
それと、英慈は2週間で聖ヨト語をだいたい話せているのですが、これは、クーゴや、爺さんが話すスピードを下げてくれているので聞き取れ、会話できるだけです。まだ、完璧ではありません。

キャラや地名などの設定を載せておきます。

新藤 英慈
性格は単純で、すぐに熱くなる。
訳も分からないままトーラに召還された。
元の世界で家族全員が意識不明になっている。

赤司 誠一
ほとんどの時が冷静な男。大切なものに手を出されることには耐えられず、キレる。キレたら手を出したものを完膚無きまでに倒す。
訳も分からないままトーラに召還された。英慈とは親友で英慈の家の事情を知っている。いろいろな武術が使える。

クーゴ
元アルカ帝国技術者。
スピリットの実験に耐えられず逃げてきた。

爺さん
クーゴと同じ元アルカ帝国技術者。
クーゴに説得され一緒に逃げてきた。
名前は考えていませんでした。

ファンティジアビス
英慈と誠一がトーラに送られた世界

レーグア王国
大陸北東部に位置する国
王政で治安も良く収入も安定している。農作物が豊富。

アルカ帝国
大陸北西部に位置する国
帝王政で治安も良く収入も安定している。木材などの材料などが豊富。

ヤールーク共和国
大陸南部に位置する国
共和制で治安も良く収入は安定していない。あらゆるものが豊富
三国の中で一番強大。




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