序章 運命
#1 謎
---病室---
何年経っただろう。
1年?2年?かれこれ5年は経っている。
彼等が意識不明になってから。
「今日も反応は無しか。」
「そうですね・・・。」
白衣の医者と看護婦が深刻な顔をしながら話している。
「あの子も毎日来て大変だろう。」
「そうですね。もう5年ですから。」
がらがら
勢い良く扉が開き、少年が一人入って来た。
「病院内では静かにお願いします。」
「あ、すいません。」
「やあ、英慈君。」
「こんにちは。先生。」
新藤英慈、これが少年の名前である。
彼は5年前、彼の家に放火され家が全焼し、家族4人が重軽傷を負った。
彼はすぐに逃げだしたので、軽い火傷で済んだが、家族は逃げ遅れ、全員ひどい火傷を負って、意識不明の日々が続いている。放火の犯人は捕まり裁判によって、懲役を科せられている。
病院の入院費は、国の保証により払われているので、英慈には負担は無いらしい。
「今日も反応は無いよ。」
「そうですか・・・。」
「もう5年もか。」
「はい。」
「君は直ってから毎日ここに来ているね。」
「当然です。それが残った僕の役目ですから。」
「そうか。」
そう。英慈は学校が終わって毎日親に会いに来ている。
家に帰れば叔父や叔母がいるが家だとあまり安心ができないからだそうだ。
「じゃあ私たちはこれで。」
「はい。ありがとうございました。」
がらがら
白衣の医者と看護婦が病室から出ていく。
彼は長い時間病室にいた。
---次の日---
「行って来ます。」
「・・・寒い。」
英慈が家を出るのは早い。
家にいてもやることは無いからだ。
叔父や叔母の前だと遠慮してしまうし、何より話をしても家族の状態だけだからだ。
だったら、学校に居た方がいい、と俺は思う。
朝練が無い人たちも早く来ていることもあるからだ。
「誰か居るかな・・・。」
---通学路---
今まで何度も通ってきたおなじみの道。
だが、今までとは違う気がする。
(なんだ、いつもと違う?)
そう思っていたが周りの人々はいつもと同じように過ごしている。
(気のせいか。)
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(ん?なんか変な人がいる。)
冬なのに半袖で、しかもかなり薄い。
(なんか、おかしくないか。)
(今日はかなり寒いはずだぞ。)
この道を半袖、半ズボンでランニングする人はいるが、普通に歩いてくる人はいない。
(しかも、腰に下げているのはナイフか、短剣。)
(あんなものを普通に見せていたら警察に銃刀法違反でつかまるぞ。)
だが、周りの人はその人に目も向けない。
(なぜだ?あんなおかしな人なら振り向くはずだ。)
考えている内にすれ違うくらいまでに近づいていた。
そしてすれ違いざまに、
「運命には逆らえない。」
「は?」
その男がいきなりつぶやいた。
振り返ったらすでにその男の姿は無かった。
(なんだったんだ。)
(独り言かもしれない。でも気になるな。)
(「運命には逆らえない。」か。)
---学校---
教室へ入ったら知っている顔があった。
「お、誠一。」
「ああ、英慈か。」
誠一は本を読んでいた。
「何読んでんだ。」
「べつに、たいしたものじゃない。」
そういっている内に本を片づけてしまった。
「そういえばお前部活は?剣道部。」
「ああ、めんどくさいから抜けてきた。」
「めんどくさいって・・・。」
「お前はどうしたんだ?いつもより遅いと思うが。」
そういわれて時計を見るといつもより15分遅く来ていた。
「なんか変な人を見てさ。」
俺は通学路で見た変な人について話した。
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「それは興味深いな。」
「えーっ!なんで?」
「運命には逆らえない。」
「その人が言う運命を知りたいとは思わないか?」
「それはそうだけど。」
「それに他の人は見えなかったって言っただろ。」
「うーん、見えないって言うか全然気にしてなかったんだよね。周りが。」
話している内に生徒も多く教室に入ってきた。
「見えてないんだったら何でお前には見えるんだ?」
「知るかよ。そんなこと。」
「俺も会ってみたいな。」
「は?何で。」
「だって、
キーンコーンカーンコーン
話していると始業のベルが鳴り先生が入ってきた。
「じゃあ、HR始めるぞ。」
「じゃあまたあとで。」
「ああ。」
さっきまで話していた俺の親友は、赤司 誠一
いつも冷静でいろいろなものに興味を示している。
成績も優秀で周りからの評判も高い。
一見すると運動は出来無さそうだが、家が道場と言うだけあって、子供の時から剣道と居合いをやっていて、その腕前は大人顔負け、達人の域まで達している。
ほかにも柔道、空手、合気道などができるから、あまり敵には回したくない。
男なのに髪を伸ばし後ろで結っている奴だ。そこがいいと女子には人気がある。
数少ない、俺の家族の事情を知っている奴だ。
生徒が席に着いた頃。
がらがら
勢い良く扉が開き、例の三人が立っていた。
「あっちゃー、やっぱ遅刻か。」
一番前の女が余裕のなさそうな顔で立っている。
「お前が起きないからだぞ。」
「この分じゃ佳織ちゃんも遅刻か。」
体格の良い男が後ろにいる男に話しかけている。
「んなこと言ったって、起きれないんだよ。」
「どうでもいいが早く席に着け。」
呆れた顔で先生が三人を見ている。
先生だけでなく生徒も見ている。
「はい。すいません。」
三人は自分の席に向かって歩いている。
「ああ、そうだ。おい、お前等。」
「遅刻多いから掃除だからな。」
「「「やっぱり・・・。」」」
この三人はいつも遅刻をしている。
先頭にいた女は岬 今日子
運動神経が良く、いろいろなスポーツができる。
部活はというと陸上部に入っている。なぜなら簡単だからと言う理由で。
それでも、陸上部のエースになってしまっている。
何故か、ハリセンを隠し持っていて何かあるごとに二人をたたいている。
後ろにいた金髪の男は碧 光陰
神社の息子のようだが、どちらかというと不良にも思われそうだ。
成績は優秀で、テストも上位をキープしている。
岬とはつきあっているらしい。
一番後ろにいたのが高嶺 悠人
実の親を亡くし、引き取られた親も亡くし、今は血のつながらない義理の妹と暮らしている。
遅刻が多いのは、食べていくために、夜までバイトしているからだそうだ。
(やっぱりあいつ等は遅刻か。いないと思ったら。)
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午前の授業が終わり、昼休みになった。
普通の生徒はこの時間に昼飯を食べる。
俺もその一人だ。
「さっきの話の続きだけどな。」
俺は、誠一と屋上で昼飯を食べている。
「何で逢ってみたいんだ。」
「ああ、それはな、いろいろとあるんだよ。」
「何だそれ。」
「まあ、気にするな。」
誠一は購買のパンをかじりながら、
「それと、明日は朝、お前の家に行くからな。」
「・・・そこまでして逢いたいか。」
「まあな。」
「じゃあそろそろ戻るか。昼休みも終わりそうだし。」
「ああ。」
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「ん?」
男二人が口喧嘩している。そばにいる少女は困っている。
「あれ、悠人と、えーっと誰だっけ。」
一緒にいた誠一に訪ねる。
「あそこに居るのは、高嶺と、高嶺の妹と、秋月か。」
「・・・そうやって力で佳織を押さえつけるのか。」
「何だと。」
悠人は今にも飛びかかりそうだ。
それを佳織が止めようと抱きつく。
「やめてよお兄ちゃん。・・・秋月先輩も、もう行ってください・・・。」
「佳織・・・。」
「佳織がそこまで言うのなら、引いてやる。」
「お前では佳織は幸せにできない。佳織を幸せにできるのは僕だけだ。」
「佳織は必ず僕の方へ来る。お前のような疫病神には合わないんだよ。」
「何だとっ!」
「お兄ちゃん!」
悠人は瞬を睨み付けた。
「待っているから。佳織・・・。」
そう言い残し瞬は踵を返し歩いていった。
(相変わらず嫌なやつだな。)
誠一は心の中でつぶやいた。
悠人と口喧嘩していた男は秋月 瞬
おぼっちゃまで、金も権力もある。高嶺の妹、佳織とは幼なじみらしい。
何かあるごとに悠人とあのように喧嘩になっている。
性格はかなり悪い。
俺はこれぐらいしか知らないな。
その側にいた少女は高嶺 佳織
悠人の義理の妹で、悠人と兄妹になってから飛行機事故が起き、家族は死んでしまったが、彼女だけは奇跡的に助かったらしい。
こっちもこれぐらいしか知らないな。
「あいつ等は相変わらずだな。」
「そうだな。」
そう話しながら教室へ戻った。
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午後の授業も終わり生徒たちは、部活へでる者、家に帰る者などいろいろ出始めた。
「今日も行かないと。」
席から立ちながらつぶやく。
「じゃあな、誠一。」
「ああ。」
俺は教室から出て、病院へ向かった。
---病室---
病室へ入ると誰もいなかった。
「診察は終わったのか。」
ベットの近くにあるいすに腰を下ろす。
「ふぅ。」
「運命には逆らえないか。」
「これも運命なのかな。」
考えている内に意識は闇の中へ・・・。
---夢の中---
「ん?」
目の前に朝の男が立っていた。
「あんたは?」
男は答えずに家族を見ている。
「何してるんだ?」
またも答えない。
「なあ、あんた・・・!何してるんだ!」
男は父の額に手を添えた。
何故か、その男の手から、淡い青色の光が一瞬でてきた。
そして、順番に母、弟へと同じことをした。
「答えろ!」
男を無理矢理こちら側に向かせた。
「何もしていない。」
「強いて言うならばお前には関係は無い。」
男はそう言いながら英慈の手を払った。
そして何も言わず出ていこうとする。
「待てよ!」
立ち上がった拍子にいすが倒れ、棚の上にある花瓶が落ち、割れた。
「もし・・・、俺の家族に何かあったら、俺はお前をどこまでも追いかけて・・・、殺す!」
「何もしていないと言っただろう。」
「それでもだ。」
「・・・勝手にしろ。」
男はそう言うと病室から出ていった。
沈黙が流れた。
「ふう。」
「何だったんだあの男は。」
「・・・・・・・ん?」
がばっ。
「あれ?俺は今何して・・・?」
辺りを見回す。
割れたはずの花瓶が割れていない。
倒れたはずのいすが倒れていなく、さっきまで座っていた。
「夢・・・?」
あれは夢か。そう納得した。
あの男も本当は来ていなくただの夢だった。ということにしよう。
ふと時計を見る。
時計は5時45分を指していた。
「帰らないと・・・。」
そうして病室を後にした。