俺は一人で薄暗い庭園を歩いている。
考えていることは唯一つ。
というよりも、俺にはそのことしか考えられない。
俺は間違っていたのだろうか?
俺の力は確かにそこいらのスピリットより強い。
だが、強すぎる力は更なる力や争いを生む。
だから、答えが決まっているのにもかかわらず、それを告げずにこれまでのらりくらりとしてきた。
俺の答えは間違ってはいない。
そう信じていた。
なのに、なのにこの気持ちは何だ!
考えている俺に、なにやら小さな声が聞こえた。
俺は気が付かれないように注意しながら、声の元へと近づいていった。
俺がこのイースペリアに来てから早二ヶ月近く。
答えは決まった、それでも俺は答えを告げてはいない。
それにはきちんと理由もある。とにかく、答えを出していないというのに、俺はイースペリアの行事等によく呼ばれた。
それも女王直々にだ。
そして、その女王の護衛ということでスピリットも一緒していたため、 それなり、・・・・・・・・と言うか、かなり彼女たちとも仲良くなった。
俺は与えられた部屋でのんびり過ごしていると、最早恒例となってしまっているが、
国境付近での戦闘を終えたスピリット達が、俺の部屋へとやってきた。
「ヤッホー。やっと終わったよ。」
そういって一番に入ってきたのは、俺が一番最初に出会った、エリアだった。
その後に続いて他のスピリット達も入ってきた。
・・・・・・・・・・・・だが、何か違和感がある。
エリアは空元気と言うか、無理して笑顔を作っていると言うか、とにかくそんな感じだし、
他のスピリットにいたっては、明らかに暗い。
それに、何だか物足りないと言うか
・・・・・・・・・・・・・そうか、そうだ!
「なぁ、ユリカはどうしたんだ?いつもは一番に飛び込んでくるのに、いないようだし。」
ユリカとは、まだ幼いスピリットで、シリカと一緒で俺のことを『お兄ちゃん』と呼び、慕ってくれていた。
先程も言った通り、いつもは一番に飛びついてくるのに、今日はそれが無かったのだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
みんな何も答えない。
俯いたままで何も言おうとしない。
そのことに、俺は言いようの無い不安に駆られた。
「なぁ、ユリカはどうしたんだ!」
俺は不安を誤魔化すように、先程よりも数倍も大きな声で尋ねた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・ユリカは、ユリカはいなくなっちゃった。」
最早悲しみの表情を隠すことも無く、シリカが答えた。
「なんだ、迷子になったのか?」
わかっている。
迷子になっただけではこんなにもなりはしない。
しかし、それでも、わずかな希望を願わずにはいられない。
「ちがうの。シリカと一緒に戦ってたんだけど、シリカが油断して
やられそうになったところを庇って、・・・・・・・マナに還っちゃったの。」
そこまで言って、再び泣き出すシリカ。
シリカとユリカはそれこそ姉妹のように仲がよく、いつも一緒にいた。
そのユリカが、しかも自分の不注意により死んでしまったことが、
シリカを苦しめているのだろう。
「そうだったのか。すまないな、嫌なことを聞いて。」
俺が聞いたことで、悲しみを呼び戻してしまったようなので、みんなに謝った。
「いえ、私たちは戦っているのです。そして戦っている以上、こうなることは当たり前なのです。ですからお気になさずらに。」
そう言うサリアだが、顔は必死に涙をこらえている。
それに、それは俺にではなく、自分自身にそう言い聞かせているようだった。
「そうか。・・・・・・・・・・・せっかく来てもらったところ悪いけど、一人にしてもらえないか?」
この場にいても彼女たちの悲しみは晴れないだろうし、むしろ無理をさせそうだし、
俺自身考えたいことがあったので、皆にそう告げて一人にしてもらいたかった。
「わかりました。ですが本当に気にしないでください。あなたは客人なのですから。」
そう言って、スピリット達は部屋を出て行った。
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客人、その言葉が俺の頭から離れなかった。
俺は庭園を歩きながら考えている。
部屋にいても何も解決しないと思い、こうして歩き回っているのだ。
しかし、まだ答えは出ていない。
強い力は更なる力や争いを生む。
そう考えたからこそ、俺はイースペリアに力を貸そうとは思わなかった。
だが、そこで手に入れた日常を捨てることができず、答えを出さないと言う方法により、そこにいることにした。
力を使わずに。つかうのは、どうしても必要になった時だけ、
その時以外は絶対に力を使わないし、国にも関わらないと決めた。
俺はそれが間違っているなどとは思わない。
・・・・・・・・・・・・なのに、なのにこの感情は何だ。
「・・・・・・ね。・・ん・・・い。」
俺は気付かれないように注意しながら、その声の元へと向かっていった。
「ごめんね、ごめんねユリカ。シリカが、シリカがもっとしっかりしていれば、もっと強ければ。」
そこにいたのは、泣きながらユリカに謝るシリカだった。
それを理解した瞬間、俺の頭の中にわからない光景が浮かんできた。
俺の目の前には、一人の女性が倒れていた。
その女性を俺は知らない。
知らないはずだ。
なのに、その女性がすごく懐かしく感じる。
そこに一人の男が現れた。
そしてその男は女性を抱え上げ、俺のほうへ近づいてくる。
俺の前まで来ると、男は立ち止まる。
そして、抱えられている女性が途切れながらも口を開く。
「・・・・・・・・・ユウガ、後悔だけは、・・・・・・・・後悔をするようなことだけはしないで。
私にかまわ・・・ず自由に・・・生きて。あなたを・・・・・・・・あなたを縛り付け・・・る・・・・・ものなんて
・・・・・無い・・・・の・・・・・だか・・・・・ら。」
「おに・・・・・・・・・ユウガ様?」
意識を飛ばしていた俺に、いつの間にか前に来ていたシリカが話しかけてきた。
そこで俺の中にあった映像は中断された。
あのあと、あの後だ。
よくはわからないが、あの後に何か大切なことがあったはずなんだ。
今ならわかる。
あれは俺の中にある記憶。
俺はあんなことを体験した記憶は無いが、あの感情が、それを本物だと語りかけてきた。
ひょっとすると、前世とかのことだったりするかもしれないが、とにかく、あれは本物だった。
「ユウガ様!」
そこで俺に再び声がかけられ、思考を中断する。
それにしても、『ユウガ様』?
今までなら『お兄ちゃん』だったんだが、どうしたんだ?
別に嫌われたようではないんだが。
「なぁシリカ、その『ユウガ様』ってのは?」
「おに・・・ユウガ様はユウガ様ですから。そういうところからきちんとしないと、強くはなれませんから。」
そう言って俺のほうを向くシリカ。
しかし、その無理をしていることが一目でわかる笑顔を見れば、とてもではないが受け入れることなど出来ない。
「・・・・・・・・・・・シリカ、無理はするな。
確かに普段から張り詰めていることも大切かもしれないが、
それだけがすべてじゃないだろう。余裕を持つことも大切だと思う。
油断とは違う、余裕を。そこまで張り詰めなくても、気持ちさえあれば強くなれるさ。」
シリカに俺はそう言って聞かせた。
シリカは最初はボーっとしていたが、突然泣き出した。
『後悔をしてはだめ』か。
させてもだめだな。
俺は泣きじゃくるシリカを優しく抱きしめ、新たな決意を胸にした。
>>>>>>>>>>>アズマリアの部屋<<<<<<<<<<<
「それで、答えをお聞かせいただけるとのことでしたが?」
アズマリアが俺に向かって口を開く。
聞いてきてはいるが、彼女の顔を見るに、答えなどわかりきっているようだ。
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「そうですか。理由については聞きません。今はただ、お礼だけを述べましょう。ありがとうございます。」
あの後にイースペリアにつくことを話した俺に、アズマリアは動機は聞かずに礼だけを述べた。
本来は腹を探るために理由ぐらいは聞くのだろうが、気を利かせてくれた。
・・・・・・・・・・・・・・というか、たぶん動機はバレバレなのだろう。
とにかく、アズマリアは笑顔で俺を迎え入れてくれた。
俺は二つの笑顔にそれぞれ誓った。
アズマリアのような笑顔を守ること。
そして、シリカや他のスピリット達のような悲しい笑顔を絶対に作らないことを。
続く・・・・
後書き・・・・
はい、幽鬼です。
『A,T,E』第五話でした。
今回はシリアスになったでしょうか?
僕はこれが限界です。
今回は新たな名前が出てきたのですが、もう死んじゃってると言うことで紹介はなし、と言う方向で。
ぶっちゃけ、原作の段階では、死ぬのはシリカだったのですが、ここでは別の方に逝っていただきました。
・・・・・・・・・・・・・・・・・別に
「せっかく設定までしたキャラを死なせるのはもったいない。新たなシリカキャラ考えるのメンドイし。」
とか言う考えがあったわけではありませんよ?
ええ、ありませんでしたとも。
とにかく、シリカにはせっかく生き残ってもらったわけですから、後々重要な役についてもらいましょう。
まぁ予め言っておきますが、現在からしばらくはユウガ以外の多くのキャラが飼い殺し状態になってしまいます。
それが終わるのは、早くても『ユウガの出会い編』が終わり、新たな話の展開に入っていく頃。
要するに、種運命の主人公化してきた頃かと。
直せるものなら直したいのですが、初心者の僕の実力や、友人との打ち合わせ等もあるため、それが限界かと。
それでも努力はいたしますので、見捨てずにお願いします。
それでは、また次話にて。
今回の別にどうでもいい話はお休みです。
理由は、友人に、
「お前本文より後書きに力入れすぎ。」
と言われたから。
実際どうなのでしょうか?
・・・・・・・・・おっとっと。
また変に長くなるところでした。
それでは、今度こそ本当に終わります。
ではではっ!
前回もこんな終わりじゃなかったか?
まぁ、わからないならいいのですが。