2000年810日 1200

 

「あはははは・・・。ほら、沙羅、こっちだよ〜。」

少しだけ街から離れた所にある広い草原を、澄んだ青空の下で僕は手を広げながら走っていた。

「お兄ちゃん、速いよ〜・・・。ちょっと待ってよ〜・・・。」

後ろのちょっと離れた所から一つ年下の妹の沙羅がこっちに走ってくる。

だけど、僕は沙羅の呼びかけを無視した。

「待つわけないだろ〜。捕まったら鬼になっちゃうだろ〜。」

そういって沙羅から逃げるように走る。

僕たちは鬼ごっこをしているんだ。

「ひどいよ〜、お兄ちゃん。」

また少し沙羅と僕の距離が開く。その時・・・

「樺那希〜、沙羅〜、お昼にしましょう〜。」

沙羅の後ろの方にある小さな丘からお母さんが手を振りながら僕たちを呼んだ。

丘の頂上に生えている木の近くいるお父さんもこっちを見ているみたい。

「「はぁ〜い!」」

僕と沙羅は声をそろえて返事をした。

「ん・・・。」

丘のほうに歩きながら、僕は何気なく空を見上げた。

白い雲が綺麗な青の空を流れていく。

目を瞑れば、柔らかい風の感触や木々の揺れる音が聞こえる・・・。

(気持ち・・・いいなぁ〜・・・。)

そう考えていたんだけど・・・

「お兄ちゃん!お母さんたちの所まで競争だよっ!」

言うや否や、沙羅は丘に向かって駆け出した。

「えっ?あっ!ずるいぞ、沙羅〜!」

さっきまでのことさえ忘れて、僕も慌てて駆け出した。

 

 

 

「ハァ、ハァ、ハァ・・・・。」

僕はようやく丘のふもとまでたどり着いた。

沙羅より僕のほうが速く走れるけど、沙羅のほうが先に走り出していたし、丘に近かったから、

頑張って走ってもなかなか追いつけない。

沙羅はもう丘の真ん中を越えている。

(ううっ・・・負けるぅ〜!)

意外と負けず嫌いな僕はもっと速く走ろうとする。

けど、それが悪かったんだ・・・。

ガッ

「あっ!うわぁっ!」

ドテッ

足元にあった木の根に引っかかっちゃって転んじゃったんだ。

「あ・・・ぅ〜〜〜〜っ!痛・・・い・・・。」

その間に沙羅は・・・

「やったぁ〜!私の勝ち〜〜〜〜!」

お母さんの隣で嬉しそうに飛び跳ねる沙羅。

「むぅ〜〜〜!ずるいぞー、沙羅!この競争は無しだよ、なーしっ!」

「やだも〜ん。私の勝ちだも~ん。」

手を地面に着いて四つん這いのまま文句を言う僕。

それを許してくれない沙羅。

でも、そんな幸せな時間は・・・・

ダァンッ!ドォンッ!

「・・・・・え?」

たった二つの銃声であっけなく壊れてしまった。

胸から血を噴き出しながら倒れるお父さんとお母さん。

ドッ・・・サァ・・・

「お・・・・お父さん・・・?」

お父さんとお母さんを中心に血の海が広がってゆく。

時間がスローモーションになったみたいにゆっくりと感じる・・・・

「お・・・・おかあ・・・・さん?」

何が起こったのかわからなかった。

何でお父さんとお母さんが倒れたのか・・・・。

何故胸から血を流しているのかも・・・。

「お母さんっ!お父さんっ!!」

沙羅の声を聞いてハッとした。

そして目に映ったひとつの影。

(丘のところに・・・・誰かいる・・・?)

その誰かは笑っていた。

「くくくくく・・・・。俺の邪魔をするからいけないんだ・・・・。だから死ぬことになるのさ・・・。」

手に持った何かを沙羅に向けるその人。

それがなんなのかは僕にもわかってしまった。

テレビのドラマや漫画やアニメに出てくる・・・小型の銃。

「お母さん!お父さん!起きてよぉーー!!」

沙羅は気づいていない。

ずっと動かなくなったお母さんとお父さんに必死に呼びかけている。

「だから・・・・俺の邪魔をしたお前に関係する奴らを・・・」

雰囲気からなんとなくわかってしまった。

僕も銃で撃たれたらどうなるか知っている。

この前、テレビでやっていたから。

銃で撃たれたら・・・・・死んじゃうってことを。

(や・・・やめ・・・っ!)

やめて・・・そう声に出したつもりだったのに僕は声を上げることが出来なかった。

止めるために・・・沙羅を助けるために走って行きたかったのに動けなかった。

「全員殺してやるっ!!」

ドォンッ!!

「!!」

「え・・・あ・・・」

沙羅もお父さんたちと同じように倒れてゆく。

倒れるまでのわずかな時間の中で沙羅は僕のほうを向いて、

「お・・・にい・・・・ちゃん」

そう言って・・・倒れた。

「沙羅あぁぁ〜〜〜っ!!」

さっきまで動けなかったのに、急に動くようになった体を全力で沙羅の元へと走らす。

「お父さん!お母さん!沙羅!」

必死に呼びかける。沙羅に触れた時・・・・

ヌル・・・

「・・・っ!!」

顔の前に手を持ってくる。

そこには、おびただしい量の血がべっとりと付いていた。

僕の服も沙羅の血で真っ赤に染まってきている。

「嘘だ・・・・。嘘だよね・・・・?」

現実を否定する・・・・。

認めたくなかった・・・・。

「お前も・・・・」

ゴリッ・・・・

頭に何かが突きつけられる。

でもそんなのはどうでもよかった。

少しずつ冷たくなっていく、お父さん。お母さん。沙羅。

嘘だ・・・、嘘だよ・・・

そう思いたかった。

誰かに今、目の前に在ることを否定して欲しかった・・・。

嘘だ・・・嘘だ・・・嘘だ・・・・嘘だ・・・嘘だ・・・・嘘だ・・・

うそだ、うそだ、うそだ、うそだ、うそだ、うそだ、うそだ、うそだ、うそだ、

ウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダウソダ・・・

目を力一杯、閉じ全てを否定する。

そうしないと心の中で何かが壊れ始めそうだった。

その時、頬に生暖かい、それでいて冷たいものが触れた。

僕はすぐさま目を開いた。触れていたのは・・・

「おにぃ・・・ちゃ・・・ん・・・。」

血に濡れていた沙羅の手だった。

「さ・・・・・ら・・・・・?」

その触れている手を握る・・・。

でも沙羅は握り返してくれなかった・・・・。

「・・・ごめ・・・んね・・・、おにぃちゃん・・・。」

「沙羅・・・?何を・・・言って・・・?」

力なく笑う沙羅・・・。

もう、きっと僕の顔も見えてないんだと思う・・・。

とても痛くて、辛くて、苦しくて。

それでも、僕に笑いかけようとする・・・。

悲しかった、辛かった、悔しかった。

何の力もないことが。苦しんでる、死んでいこうとする、大切な人たちを助けられないのが。

「約束・・・・守れなくて・・・・。」

「やく・・・そく・・・?」

沙羅を抱きかかえながら、少しでも近くに感じられるように、顔を近づけて聞き返す。

「今度の・・・おにぃちゃんの・・・たん・・・じょうび・・・に・・・・ケホゴホ・・・。」

沙羅が言葉の途中で口から血を吐く。

それでも喋るのを止めない。

「遊園地・・・で、デート・・・しようって・・・。」

「いいよ。そんな事・・・。だから、お願いだから・・・何でもするから・・・。」

死なないで・・・

その言葉を続けることが出来なかった。

「お・・・にぃ・・・ちゃ・・・ん・・・。最後の・・・おねが・・・い・・・聞いて・・・くれる・・・?」

「何でも聞く!なんだってするから!最後なんて言わないでよ・・・。」

沙羅の顔が涙でよく見えない・・・・。

「おにぃちゃんは・・・・おにぃ・・・ちゃんの・・・まま・・・で・・・いてね・・・。」

「うん!わかった!わかったから・・・!」

「ありがとう・・・私の・・・だい・・・好きな・・・おにぃ・・・ちゃん・・・・。」

抱えている沙羅の体から、握っていた手から、完全に力が抜ける・・・。

皮肉にも沙羅の誕生日にあげた天使の羽のレリーフの付いたサファイアのペンダントが、

力の入ってない沙羅の胸元で血で紅く染まって、宝石のところが黒ずんで堕天使のように見えていた。

「沙羅・・・?ねぇ・・・沙羅・・・。」

もう何答えてはくれない。

「あ・・・あぁぁ・・・・あ・・・・。」

理解してしまった、沙羅は・・・、もう笑ってはくれない。

今、目の前で・・・・死んでしまったんだ。

「あ・・・うぅぅ・・・さ・・らぁ・・・・!・・・く・・・ぅぅぅぅ・・・・。」

手が届いているのに、こんなに近くにいるのに・・・・。

「くく・・・ははは・・・別れはすんだようだな・・・。なら・・・」

聞こえてくる言葉より、目の前の現実が重過ぎて・・・・・。

お父さんたちも・・・もう、動いていない。

「安心しろ・・・すぐに・・・お前も・・・」

絶望が、悲しみが、無力感が、僕を包んでいく。

「うわああああぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜っ!!」

僕は余りにも大きすぎる悲しみに空に向かって心の底から叫んだ

その瞬間、世界が僕を中心に白く染まっていったように感じた。

その白い何もないはずの光の中に、逆行で顔がよくわからないけど、

僕の知らない一人の女の子が悲しそうに確かに立っていた。

その少女の姿を見たのを最後に僕は気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・」

目を開くと映ったのは白い天井だった。

「・・・・ここは・・・・どこ・・・?」

ゆっくりと起き上がる。

どうやら僕はベッドで寝かされていたらしい・・・。

周りには白い壁以外にはせいぜい入り口と簡易な椅子とカーテンくらいしか見当たらない。

まるで・・・・テレビで見た病院の個室のようだった。

(僕は・・・・なんでこんな所に・・・?)

ベッドから降りて、部屋の入り口へ向かおうとする。

でも、扉は僕が触る前に開いた。

「・・・え?」

「あ・・・、水瀬樺那希君、気が付いたのね・・・?回復おめでとう。」

いきなり現れた看護婦さんにびっくりして呆然としていた僕に、その人は話しかけてきた。

「・・・ここは・・・どこ?」

とりあえず聞きたいことを聞こうとして僕からも話しかけてみる。

「ここは病院よ。と言っても、その病院の個室棟だけどね。」

「病院・・・・?」

どうやら本当に病院だったらしい。

(なんで・・・・病院なんかに・・・?僕は今日は確かお母さんたちと・・・・・。・・・っ!)

そこまで考えて、そして思い出す。

忘れたいと願い、嘘だと思いたいことを・・・。

「・・・・お母さん・・・たちは・・・?」

「え・・・・?それは・・・・・・。」

言葉を濁す看護婦さん。

目も僕から逸らして何かを考えている・・・。

そこに・・・、

「どうかしたのか?ん・・・水瀬樺那希君じゃないか。気が付いたんだね?」

お医者さんが通路の奥のほうからやって来た。

(この人なら、教えてくれるかも・・・?)

「僕はいつここに来たの?お母さんたちは!?」

僕がそういうとお医者さんは考えるように下を向いてそして・・・

「・・・君は、8時間前くらいにここに運ばれてきた・・・・。そしてお母さんたちはあの部屋にいるよ・・・。」

廊下の先の部屋を指して、そう教えてくれた。

それを聞いた瞬間、僕は教えられた部屋に走り出した。

「先生!?」

「いいんだ・・・彼は、知りたがっていた・・・。いや、きっとすでに知っているはずだ・・・。」

 

扉を蹴り破くかのようにあけ、部屋に飛び込む。

「お父さん!お母さん!沙羅!」

そこは薄暗く僅か光しかなかった。

そしてそこにあったのは・・・白い布を顔にかぶせられたお父さんと・・・

誰が見てももう生きられないぐらい弱りきったお母さんの姿だった。

「お父さん・・・お母さん・・・。」

部屋に入り、まだ生きている・・・ううん、違う。

僕のためにまだ無理に生きようとしているお母さんに近づく。

「か・・・なき・・・・。」

息も切れ切れに僕を呼ぶお母さん。

僕はそっとお母さんの手を握った。

「何・・・?お母さん・・・?」

もうわかっていた。

お母さんたちは助からないこと。

もうすぐ・・・死ぬってことも。

沙羅が何故ここにいないのかは知らない。

けど、それは僅かに沙羅が生きてるかもしれないと僕に思わせてくれた。

辛いのを、泣きたいのを我慢し続ける。

「家の・・・ひき・・・だしの・・・箱を・・・これであけ・・・なさい・・・。」

僕に手渡されたのは小さな金色の鍵・・・。

「わか・・・った・・・」

頷きその鍵を胸の前で握り締める。

「かな・・・き。死を・・・望まないで・・・。」

「どういう・・・こと・・・?」

もうお母さんには僕の声も、姿も見えていないようだった。

おそらく最後となる言葉を、僕のために続ける。

「どんなに・・・理由でも・・・死は、悲しい・・・・ことだから・・・・。」

「・・・」

「殴った手の・・・・いた・・・みを・・・忘れちゃダメ・・・よ・・・。」

「うん・・・・うん・・・。わかった・・・絶対に忘れないよ・・・・絶対・・・・。」

その言葉を最後に、お母さんは息を引き取った。

その瞬間、僕は泣き出した。

お父さん・・・お母さん・・・・大切な両親を目の前で死なせてしまったことに。

「う・・・・ぅぅぅ・・・・お父さん・・・・お母さん・・・・!」

 

 

 

・・・・・

もうどれくらい泣いていたのだろう。

ものすごく長く感じたけれど、もしかしたらとても短かったのかもしれない。

それでも、まだ僕はお母さんとお父さんの遺体の傍で泣いていた。

そんな時・・・

「ですから、あの少年の倒れていた周り1m前後が陥没していたんですよ!」

(・・・・!この声・・・・!)

扉の向こうから聞こえてきた声は・・・・・聞き覚えがあった。

‘くくくくく・・・・。俺の邪魔をするからいけないんだ・・・・。だから死ぬことになるのさ・・・。’

「その場所には何一つ残っていなかったんですよ!これは異常なことです!」

(あいつだ・・・・。お父さんを・・・お母さんを・・・・殺した・・・・。沙羅を傷つけた・・・!)

それが確かにあいつのものとは限らないかもしれない。

でも、許せなかった。

お父さんたちは死んでしまったのに、あいつが生きていることが。

(許さない・・・・許さない・・・・許さない・・・!)

僕はその声がするほうへと歩き出した。

ふつふつと湧き上がる負の感情。

怒り・・・憎しみ・・・そして殺意。

体の底から力が湧き上がってくるようだった。

いや・・・確かに湧き上がっていた。

だんだんと声の元に近づく。

視界は涙のせいで何もかもが歪んでいて見えていないからあいつの姿は見えない。

右腕に体中を駆け巡る力を集め、構築する。

何故出来るのかなんて考えなかった。

それは黒い電流となって僕の右腕を彩る。

「あの少年に何かあるに違いないですよ!!」

「じゃあ何か?お前はあの少年があんなことを出来ると思っているのか?」

(・・・・いた・・・・ミツケタ・・・。)

越えの元に辿り着く。

隣に誰かいるようだけど・・・・あいつと話をしているなら・・・。

お父さんたちを殺した・・・・共犯者だ・・・。

「それは・・・っ!」

コツ・・・

「・・・!?君は!」

「・・・?腕に・・・電流が・・・・!?」

僕はあいつらのすぐ後ろに立つ。

その時に鳴った足音に二人が気づく。

でも・・・もう逃げられない。

何故か今の僕にはこの力の使い方がわかっていたから。

「・・・お前が・・・・。」

力を全て具現させる。

それは幾重にも折り重なり、大きな黒き雷となって僕の右腕を包む。

そしてそのまま右腕を振りかぶる。

「お前があぁぁーーーーーーー!!」

右腕をあいつらに向かって振りぬく。

それと同時に黒き雷を・・・力を解き放つ。

瞬間、世界が雷の光によって白く染まる。

(・・・!?また・・・誰か・・・?)

その中にまた見えた少女はとても悲しそうに泣いていた。

光が消え全てがゆっくりと流れる。

放たれた黒き雷は目の前にいた二人の体を貫き、後ろの壁を完全に壊した。

貫かれた二人は、胴体が半分近く無くなり、下半身は完全に消滅していた。

周囲に肉の・・・たんぱく質こげた嫌なにおいが広がる。

ズドドドドドドオオオオオォォォンン!

全てのことを確認してから音は遅れてやってきた。

「・・・・・え?」

倒れている二人・・・いや、死んでいる二人を見る。

そこにいたのはあいつではなかった。

その二人の会話を思い出す。

‘ですから、あの少年の倒れていた周り1m前後が陥没していたんですよ!’

‘その場所には何一つ残っていなかったんですよ!これは異常なことです!’

そう確かに言っていた。

(僕の周り1m前後が陥没・・・?その場所には何もなかった・・・?)

思い出す。

あのときの状況を・・・。

僕の周りに・・・1m以内にいたのは・・・あいつと・・・そして・・・。

(さ・・・ら・・・?)

そう沙羅がいた。

そして周りには誰もいなかった。

そして今、使えた力・・・異常な現象。

(まさか・・・・・。ま・・・さ・・・か・・・?)

沙羅があそこにお父さんたちといなかったのは・・・。

(僕が・・・消して・・・しまった・・から・・・?)

最後に残っていた沙羅の生きているという儚い希望が今崩れていった。

「お父さん!お父さーん!」

「起きてよ・・・!起きてよ!」

後ろから沙羅ぐらいの年齢の二人女の子が・・・僕の殺してしまった人たちの遺体に走りよる。

(僕が・・・殺した・・・?この子たちのお父さんを・・・?)

「あ・・・ああ・・・・・あ・・・・・。」

自らが犯した罪を自覚する・・・。

(僕が・・・・殺した・・・。あいつがしたのと同じように・・・!)

ドサァ・・・

僕はそこで倒れてしまった。

沙羅がいない理由。

人を殺してしまったこと。

その事実の全てが自分にあると知って。

僕は己の罪の大きさに負けて・・・気絶してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのあと、3時間たって気が付いた僕は・・・一人家に帰った。

シーンと静まりかえった家がとても悲しくて。

僕はお母さんの部屋に皆との思いでの品を抱きしめて泣いていた。

「僕が・・・殺したんだ・・・。皆を・・・沙羅を・・・関係なかった人を・・・。」

あの二人が死んだことは怪奇事件とされ、未解決のまま調査が終わったそうだ。

それがとても辛かった。

罰して欲しかった。

お前が悪いと言われたかった。

そのほうがきっと楽だと思えるから。

(お母さん・・・お父さん・・・沙羅・・・。)

死にたいと思った。

死を願った・・・。

そして死ぬために・・・台所の包丁を取りに行こうと思った。

手首を切れば死ねる。

テレビでやっていたから、そうなんだろう。

そう思って立ち上がったとき・・・

チャリン

ポケットから落ちた金色の鍵。

「あ・・・。これ・・・・。」

お母さんに渡された・・・形見の品。

‘家の・・・ひき・・・だしの・・・箱を・・・これであけ・・・なさい・・・。’

そうお母さんは言っていた。

僕は急いで机の引き出しの中にあった小さな箱を取り出した。

そこには小さな鍵穴がひとつあった。

僕は早く開けようとしたけれど、気持ちが焦れば焦るほど、うまく鍵を入れられなかった。

そしてようやく鍵が鍵穴と思われるところに入った。

「・・・・・」

ゆっくりと鍵を回すと・・・

カチャリ

小さな音を鳴らして箱の蓋が少しだけ開いた。

ちゃんと開いて中を見てみると・・・

「・・・手紙?」

箱の中には手紙が入っていた。

そこにはこう書かれていた。

 

樺那希へ

 おそらくあなたがこれを見ているときには、お母さんは・・・、

いいえ、もしかしたら誰もいなくなっているのかもしれないわね。

樺那希一人だけになってしまっているのかもしれない・・・。

もし、そうなった時のためにこの手紙を残します。

本当は私の口からあなたに伝えたかったんだけど・・・。

それは叶わなかったようです。

もしかしたら、気づいてしまってるかもしれないけれど、

あなたには人とは違う力を持っています。

あなたが3歳になった誕生日に、あなたは手から電気を空に向かって放ったことがあります。

それが一体なんなのかは詳しくはわからないけれど、

あなたから、そして何も無い所から生まれた力ということだけはわかりました。

その日から私とお父さんは、その力について色々と調べ始めました。

そうして、全く同じとはいかないものの、あなたの力と似たものを見つけることが出来ました。

それは、〔魔術〕・・・あなたにもわかりやすく言うなら〔魔法〕かしらね・・・。

そういった文献には〔魔力〕を用いた秘術としてあなたが使った力について書かれてありました。

何故あなたがそんなものを使えるのかはわかりません。

その力はとても大きくて、強くて、そして危ういものです。

もし、あなたがそれを無闇に使ってしまったら、多くの人が死んでしまうことでしょう。

そうでなくとも、あなたがその力を恐れ、死を選んでしまうかもしません。

それでも、お母さんたちの望みはひとつだけです。

死を選ばないで、どんなに辛くても、苦しくても。

その力は何のためにあるのかはわかりません。

でも、あなたが望んだことのためにあるのだと思います。

あなたがもしその力をあなたの望みのために使ったとしたら、一つだけ忘れないでください。

殴った手の痛みを・・・。

誰かが死ねば誰かが悲しむのは、もうあなたにはわかるでしょう。

恨み・・・憎しみ・・・そんなものでは何も生まれません。

だから、あなたは強くなってください。

どんなに周りが騒ごうとも自分が正しいと思えることをできるように。

この手紙の入っていた箱の下に鍵とお守りを入れておきます。

鍵はお父さんの部屋にあるあなたの力についての文献のある部屋への鍵です。

お守りは私たちの祈りが込められています。

どうかあなたが幸せでありますように。

それだけを私たちは祈っています。

               私たちの愛しい人へ。家族の皆より。

 

僕は手紙を右手に持ったまま、箱のそこを見る。

そこにはひとつの紙袋が入っていた。

開けて中を取り出してみると、そこには小さな蒼い鍵と・・・

「・・・これは・・・沙羅のと・・・同じ・・・」

そこには天使の羽のレリーフが付いたペンダントがあった。

沙羅のとの違いは宝石がサファイアではなくエメラルドであったこと。

そしてメッセージカード。

そこには沙羅の字で、

 

お兄ちゃん。

 よくわからないけど頑張って、大好きだよ。

 

とだけ書かれていた。

「あ・・・・ぐぅぅぅぅぅ〜〜〜っ。」

僕はそれを見て、また泣いてしまった。

ペンダントと鍵と手紙とメッセージカードを強く握り締めて。

心にあるのは、謝罪の言葉。

(ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・。)

約束を守れなくて。

殴った手の痛みを忘れて。

人を殺してしまって。

そして同時に決意した。

もう、誰も殺したくない。

もう誰も死なせたくない。

もう誰も殺させたくない。

そのために・・・そのために・・・。

僕は、生きて・・・戦うんだと・・・そう決めた・・・。

ペンダントに付いたエメラルドが涙に濡れて淡く光を帯びていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから8年後・・・。

僕は17歳になっていた。

あの日から変わらぬ決意を胸に抱いたまま。

 

 


IFExist Administer

〜優しすぎる少年の歌〜

prologue

僕が初めて罪を背負った日、そして今ある自分

 

 


20081216日 2000

 

 

僕は今、学校を休んでとある所にいってきた所だった。

そのあるところとは・・・・・墓場。

死んでしまった家族の墓。

そして、今はあの事件の起きた草原に・・・。

風が木々を揺らす。

あの日か・・・8年前から何も変わっていなかった。

「・・・もう、あのときの跡は残っていない・・・・か・・・。」

手に持っていた花束・・・沙羅の好きだったすみれ草をあの丘の上の木の傍に置く。

そして・・・僕は目をつぶり祈った。

(僕は・・・まだ生きているよ。それなりに幸せに・・・・ね。)

あの日から僕は父さんの部屋にあった文献を読み続けた。

ほとんど父さんが解読していたし、していなかった所は自分で解読した。

〔魔法〕に関する文献を解読するのに1年・・・。

それをものにするのに2年・・・。

そしてその時にこの大きすぎる力は・・・・、とても大きすぎて危険なことに気づいた。

その力・・・〔魔力〕を制御し、封印して、あまり危険の無いレベルまで下げるための術式を作るのに1年。

それを使って、無理矢理下げた力が暴走しないようにするのにさらに1年。

ここまで来るのも大変だった。

あと、〔魔力〕が無くてもある程度戦える・・・誰かを守れるようにするために・・・、

父さんの部屋にあった、1枚だけあった、古武術を解読するのに1年・・・。

その古武術はどうも筋力酷使術のようだった。

精神力で、無理に筋肉を腱を、引き絞り、通常では出せない力を出す・・・、そういったものだった。

さらにそれに力に方向性を持たせ、一点に集中することで鋭さを増すもの。

そのためには自分の身体・・・肉体、精神、神経の限界を知ることと、それらを高めることが必要だった。

身体を鍛えるのは嫌いじゃなかったし、精神とかは〔魔術〕の訓練で慣れていたから、

この武術を習得するのに1年ですんだ。

あとの1年はそれらを忘れぬように、さらに高めるように行う反復練習だけだった。

もちろん・・・母さんたちが望んでいたように・・・普通の生活もした。

学校に行って、趣味を作って、色々なことをした。

お金は元からあった両親の遺産を食い潰しながら生活していた。

バイトはしたほうがいいのだろうけど、きっと家族は快く思わないと思ったからやっていない。

親族や血縁者は昔、僕の両親以外で行った旅行の時に・・・・・テロで全員死んでしまった。

だから・・・事実上僕は天涯孤独の身になってしまった。

でも、それでいいと思う。

誰かがいたら、きっと力の訓練とかは出来なかったと思うから・・・。

そして毎年、家族の誕生日の時は必ずこれらの場所を訪れることにしている。

自らの罪を忘れぬように・・・。

「・・・また・・・来るよ・・・。」

僕はそういってこの草原を後にした。

空は、すでに黒く染まり、星々が輝いていた。

 

 

 

電車を降り、帰路に着く。

辺りはもう真っ暗で街灯と家の光だけがあった。

人影すらもう無い。

時計はすでに2200を指していた。

少し立ち止まって空を見上げる。

(・・・人気の無いって言うのは寂しいかな・・・?)

そう思いながらも目を伏せる。

(・・・別に誰もいないわけじゃないのにね・・・。)

そう思い直し、前を見ると、そこには・・・、

「え・・・・?」

暗い道の先交差点の所にぼんやりと白く光る少女が一人気配も無くたっていた。

「一体、いつの間に・・・?」

僕は古武術の鍛錬のついでに、気配を探り、読み取る訓練もしていた。

いずれ必要になる・・・そう思っていたから。

それなのに全く気配を感じなかった。

その少女はこっちを向いているようだったが、顔が髪の毛に隠されて表情が読み取れない。

少女は白い服に、蒼っぽい長い髪を自然に流している。

なんとなく雰囲気から悲しそうにしているとわかる。

そこまで来て、理解する。

(僕は・・・この子を知っている・・・?)

あの日、白き光の中で二度見た少女・・・・。

あの少女に瓜二つだった。

そうして立ち止まっていると、少女が交差点の影へ僕に背を向けて歩き出す。

(!?・・・・追わないと。彼女は僕の何かを知っている気がする!)

「ま・・・待って!」

僕はあわてて走り出す。

昔と比べ、武術の訓練をするようになってから、走る速さもかなりのものになっていた。

足の分散する力に流れを持たせ、集中することで普通より早く走れる。

多分、今このことが出来るのは僕だけだろう。

これを使えば、おそらく50mを5秒代でいけるだろう・・・。

学校では決して使わないけど・・・。

その通常ありえないくらいの速さで走り出す。

そして少女の曲がった交差点へ滑り込む。

だが・・・

「な・・・・!?いない!?」

少女の姿はそこには無かった。

この速さでなら、あの少女の歩いていた速さなら、軽く追いつけたはずなのに・・。

「あの少女は・・・いったい・・・?」

 

気配の無い、そして消えた少女。

この少女との再びの出会いが・・・。

この僕の選択が全ての始まりとなった・・・。

そう・・・永遠の時をまたにかける、そして異世界での戦いという名の運命という物語が。

そこで僕は・・・大切な何かを・・・譲れないものを・・・知ることになる。

 

 

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後書きという名の言い訳ですね・・・これ。

 

 どうも〜、夢の翼です。

 えーと・・・とりあえずプロローグです。

 ・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・

 ・・・・・

 ・・

 ・

 なんだ?これー!?

 な・・・なんていう・・・駄文!!

 ダメだーー!

 自分で書いててなんですが・・・読む気が起こらない・・・。

 うううぅぅぅ・・・・。

 

 

 えーと、すみません。取り乱してしまいました・・・。

 こんな駄文が続くと思うと・・・。

 ・・・こんな駄文ですが・・・たぶん続けていきますが・・・・、

 どうか見捨てないでよろしくお願いします。