西暦2008年12月9日 日本時間 21:38
神木町3丁目の街路




(まいったなぁ……ずいぶんと遅くなっちまった。佳織、もう寝てるかな)


ボサボサとした針金のような黒髪の青年──高嶺 悠人は、一人ぶつぶつと呟きながら帰途を急いでいた。
神木神社で倒れてから、もう随分と時間が過ぎてしまっている。
彼の溺愛する妹──高嶺 佳織を、待たせているという事実が、彼の足を更に急がせていた。
まあ、急いでいるといっても、まだ本調子ではないので早足…という程度であったが。


(くそっ、俺はどうしちまったんだ……それにあの変な耳鳴り、あれは一体……)


取り留めのない事を思考しながら、彼は寒風の吹く帰り道を早足に自宅へと向かう。
ぽつぽつと存在している街灯だけが、辺りを照らす光源。
周りの民家の明かりは既に消えて、安寧たる睡眠のうちに沈んでいたり、或いは家族の団欒というものを行っているのだろう。


家族。
彼は家族を二度喪っている。
一度目は、己の両親。
二度目は、引き取られた高嶺家の養父と養母。
どちらも彼にとっては大切な、とても大切な存在であった。
妹の佳織は、その事故でも生き延びた唯一の……そして、彼の最後の肉親。
それゆえか、彼の妹に対する保護欲とでも言うべきものは少々、常軌を逸したレベルにある。
今の彼の状態も、そのような事あってのことなのだが……


(はあ…それにしても寒いなぁ…早く帰って佳織にも────ッ!?)


─ドンッ!


鈍い音を立てて、彼は何かにぶつかって尻餅をついてしまう。
考え事をしたまま、俯きがちに歩いていたため、交差点から出てきた人物を避けられなかったのである。


「………おっと、危ないな。大丈夫か少年?」


低く、よく通るバリトン…それでも何処か涼やかな色合いを感じる声が悠人に向けられる。
その人物は街灯の逆光でよく見えなかったが、異国の薫りと…その荘厳ともいえる銀髪で、悠人には外人と認識された。
つい、慌てて英語で喋ろうとしてしまう。


「そ、ソーリー! ミスター…つい、え、えっと…
前、前ってなんて言ったっけ??


悠人のたどたどしい英語に、男は苦笑すると尻餅をついたままの悠人に手を差し伸べる。


「俺は日本語で喋っているのだが……大丈夫かな? どこか打ったりはしていないか?」
「あ、あははは…いや、大丈夫です。すいません」


大人嫌いの悠人は、不思議な事にその男の手を何も感じずに取る。
いや、嫌いとは言っても彼が嫌いで信用できないのは、彼とその妹に何かと干渉してくる訳知り顔の大人達だ。
道行く…偶さかぶつかった見知らぬ者にまでその敵意をぶつける程、彼は壊れてはいないということだろう。
また、差し伸ばされた手が鍛え上げられた男の手であったがゆえかも知れないが…
ともあれ、男は彼の手を握ると簡単に彼を立たせてしまった。


(凄い手だな……何をやっている人なんだろう……)


思いながら、悠人は立ち上がる。
制服についた埃を叩くと、彼は改めて頭を下げて礼を言った。


「あの…ありがとうございます。そちらこそお怪我はありませんでしたか?」


彼にしては珍しく、丁寧な口調で聞く。
答えて、男は軽く笑った。


「こちらは大丈夫だ。ふむ……考え事も若者の特権だが、考え過ぎれば何かを失うよ。気をつけるといい」


初めて視界内に入った男の姿に悠人は暫し見惚れた。
ラフでありながら、それでいて何処か上品な装い。同じく漆黒のコート。それは決して華美でもなく地味でもなく。
荘厳な銀の総髪が、寧ろその漆黒を引き立て……また漆黒ゆえに銀もより絢爛に輝いている。
顔立ちは柔らかな女性的な其れだったが、強さと鋭さをもった眉目と引き締まった口元は余りにも男性を意識させる。
肉体も刃金のように、引き絞られる弓のように鍛え上げられ、実戦本位の肉体であることが見て取れた。
何より、瞳であろう。
日本人に……否、人間に在り得ざる黄金の煌きを溶かしたかのような瞳。
黄金色なのに、光の当たり方では何色であるようにも見える。
それは現実と幻想の狭間に居るかのような人影(異形)であった。


「………」


魂を奪われたかのような表情の悠人に、男は再び苦笑する。
自らの持つ魔眼の力を封じるのを忘れていた事に気付いたからだ。
ポケットからブランド物と思われるスタイリッシュな眼鏡を取り出し、自らの目を隠すかのようにかける。


「さて、大丈夫なら俺はもう行くよ。時間も遅い。今度は気をつけて帰るようにな……」


ポン…と悠人の肩を叩き、軽く手を上げてそのまま去っていく。
そこに異国の薫りだけを残して……


悠人が我に返り、佳織の待つマンションへと帰ったのは実に22時も半ばを廻った頃であったという……






































???



「………晶さん?」


突如、男の背後に現れた巫女装束の少女が問い掛ける。


「…ふむ、何か?」


晶…と呼ばれた男が振り返らずに返答する。
背後の少女は、どこか得たいの知れない感情を滲ませるかのような声で続ける。
手に持った、儀礼用の短刀が男の首筋に当てられていた。


「…まさか……
私の悠人さんを……イケナイ道に引き摺り込む気じゃないですよね?


イケナイ道とは如何様な道なのか…
兎も角、彼は突きつけられた短刀を歯牙にもかけずに飄々と答えた。


「…再確認するが…俺は衆道の気は持っていない。というか…何で発想がそこに飛ぶ? ついでに「私の」には早いと思うが?」


肩を竦めて。


「ふむ…時深。君の巫女装束はひょっとしてコスプレか? 近年流行っているという“腐女子”という輩かな?」


くるりと振り向きざまにプククッ…と肩を震わせて失笑。
いい度胸である。


─ヒュンッ!


そのまま振り抜かれる短刀。
だが、すでに間合いを外していたために、その刃は空を切る。
彼はそのまま跳躍し、宵闇に紛れていった。


「ムキーーー! ま、待ちなさーーーい!!」


後にはいい感じにテンパった時深が残される。
だが、すぐに彼女は彼を追って鬼女の豪速で走り出した。
何か色々と逝ってはイケナイ方向へ彼女が往ってしまったのは確かなようだ。


「ラキ、ラキ、ラキキキ……まぁ〜ちぃ〜なぁ〜さぁ〜いぃぃぃ!」


「それは色々とキャラが違うぞ〜〜!」



そして、その夜…街では一つの都市伝説が生まれたという…
この一連の騒ぎで、神奈川の某リゾート区で爆発事故として新聞沙汰になったのは、また別の話である。







永遠のアセリア
The Spirit of Eternity Sword

〜人と剣の幻想詩〜

第三章
“Eternity Wars”
ACT-1

【始動】
- Re Beginning -





西暦2008年12月11日 日本時間 18:02
神木神社 境内付近




「待たんかぁ! このニブチン悠ーー!!」


神社の境内に少女の声が響き渡る。
少女はツンツンとしたくせっ毛のショートカットを振り乱しながら走る。
走るたびに少々短い気のするスカートが捲れていたが、スパッツ着用のためか全く気にしていない。
その手に白い鈍器──ハリセン──を持った少女。岬 今日子は、神社の階段を駆け下りる高嶺 悠人を追いかける。
それは子供じみたふざけ合い。
それは彼と彼女の日常の光景。
だが、再び非日常の使者と彼は出会う事になる。


「待てといわれて待つ訳が無いだろ〜このガサツ女!─────って、ぶっ!?」


─ドシン!


階段から降り際に、自宅方面へと全力疾走しようとした瞬間、彼はまたも何かに衝突する事になる。
衝突によって身体が泳いでしまう悠人。
ぶつかった男は、衝突には揺るぎもしなかったが宙を掴もうとした悠人の指で、掛けていた眼鏡がズレた。
街灯に煌く黄金が一瞬だけ零れる。

注意一秒怪我一生。
余所見しながらの全力疾走は止めましょう。


(…ああ、何かついこの前も同じような事があったなぁ…)


得体の知れないデジャヴュを感じながら、勢いの反作用で転がるままにアスファルトに後頭部を打ちつけ彼は意識を失った。




………

……






「ご、ごめんなさいっ! うちのバカ悠が迷惑かけちゃって。後でキッつく教育しておきますからっ!」


何処へとともなく消え去った(片付けた?)ハリセン。
きゅう…という擬音が似合いそうな感じで倒れた悠人を起こしながら今日子は只管に謝っていた。
彼女に謝られ続けている男は、困ったような顔をしながら「いや、こちらは大丈夫だから」と返している。


「と、とにかくっ 本当にごめんなさいっ!」
「いや、本当に大丈夫……おや、この少年はこの間の……」


と言って、男は悠人の傍にしゃがみ込む。


「頭を打っているようだね。うん……脈拍も呼吸も問題はないが、病院で軽く診察してもらったほうがいい」


冷静に悠人の容態を調べる男に、今日子はようやく落ち着き始めた。
すると男は、今日子に悠人を見ているように…と指示を出すと、懐から携帯を出してどこかへと電話を始めた。
時折漏れてくる単語からすると、タクシー会社に電話を入れているようだ。
暫くしてやってきたタクシーに彼らは乗り込むと、一路…県立総合病院へと向かうのであった。




西暦2008年12月11日 日本時間 18:49
総合病院 ロビー




清潔な空間。
調整され、外気の穢れを許さない閉鎖された空気。
呼吸をすると、何処からとも無く感じる薬の匂い。
白の壁と、緑のリノリウム。
此処は病院。
悠人にとっては、どうしても嫌な記憶を想起させる場所。
生と死の境界。


タクシーの中で悠人は既に目を覚ましていたが、念のためということで今は検診を受けている。




………

……






「うん。うん。もう検査も終わって大丈夫だって。すぐ帰ってくるから。うん。そのまま光陰と待っててくれる?」


今日子は、ロビーの電話を使って佳織に連絡を入れていた。
本当は携帯を使いたかったのだが、病院内部での使用はマナー違反なので、こうして備え付けの公衆電話を使っている。


「……うん。それじゃ……え? ……ふぅん。分かった。うん、連れてくるから。じゃ、また後で」


─ガチャン


電話を切ると、今日子は「ふぅ」と溜息をついてロビーの中央まで戻ってくる。
果たして、そこには悠人と件の男が何かを話しながら待っていた。


「それにしても奇遇なことだね……まさか、また君にぶつかられるとは俺も予想外だったよ」
「…うぅ、面目ないです」


情けなく項垂れている悠人を見て、今日子が笑って近づいて来た。


「なぁ〜に? 悠。まさか、アンタ…二度もこの人にぶつかったの?」


クスクスと笑いながら悠人の額を指でつつく。
悠人は幾分、憮然とした顔つきになってしまう。
売り言葉に買い言葉で…


「悪かったな! 俺だって好きでぶつかった訳じゃねーよ」


…なんて言ってしまって、彼らの周囲にいつも通りの空気が流れ始めた。
病院のロビーでこんな騒ぎは無いだろう…と、幾人かの視線が二人に突き刺さる。
そんな二人を男は微笑ましく見ていたが、思い出したかのように口を開いた。


「ふむ。これだけ元気が余っていれば大丈夫だろう……安心したよ。それじゃ、後は気をつけて帰るといい」


別れの挨拶代わりに、軽く目礼を行いそのまま自動ドアに向かって歩き出す…
が、それを止めたのは今日子だった。


「あっ…ちょっと待ってもらえますか?」
「何かな?」


今日子の言葉に、男は軽く眼鏡を指で直してから問い返す。
そして彼女は恐縮したような、緊張したような不思議な表情で、ゆっくりと本題を切り出した。




西暦2008年12月11日 日本時間 20:53
神木町 高嶺家




「やっほ〜! 佳織ちゃん。今日子さまのお帰りだぞ〜」
「誰が今日子さまだよ、誰が! それにここは俺の家だっての!」


高嶺家の玄関口に何時もの声が騒がしく響き渡った。
今日子と悠人の声に、パタパタと小さな少女─高嶺 佳織が駆け寄ってくる。
ついでにがっしりとした体躯に軽薄な印象を持つロリコ…もとい。坊主─こと、碧 光陰も一緒だ。


「今日ちゃん! お兄ちゃん!!」
「お、悠人。どうやら大丈夫だったようだな」


抱きついてくる佳織に苦笑しながら悠人は光陰に白い眼を向ける。


「光陰……まさか、俺の居ない間に佳織に……何もしてないよな?」


悠人のシスコンモードが起動していた。
そんな悠人に、光陰は気にした風も無くいつも通りに飄々と切り返す。


「ばかいえ。幾ら佳織ちゃんが魅力的だと言っても、こんな時に何かをするほど落ちぶれちゃいねぇよ。なー? 佳織ちゃん♪」
「もう、お兄ちゃん! 碧先輩に失礼だよ!」


光陰の「ほれみろ。ほれみろぉ!」とばかりに勝ち誇ったような顔と、佳織の剣幕にあっさりとヘタれる悠人。
この兄は、どこまでも妹に甘い上に弱い。
あっさりと降参して両手を上げる悠人に、佳織は笑顔を取り戻すと今度は今日子に視線を向けた。


「今日ちゃん…あの…」


言いにくそうに口篭る佳織に、ニッと笑みを浮かべる今日子。
すぐに自分の後ろにいた男に目配せする。
男は、分かったかのように首肯で返して、笑顔で佳織に向かう。


「初めまして。君のお兄さん…悠人君と二度もぶつかったアキラ・サッバーハ・カンナギという者です。宜しく。佳織君」


丁寧に、挨拶をして握手を求める。
悠人が微妙な表情を浮かべたが、自分の非やタクシー代。病院の費用等全てを持って貰っているため沈黙を通す。
悠人にとっては誰であれ佳織に親しく近づく異性に良い感情を抱く事ができないのである。
理性では納得できても、感情が決して納得しない。
それが結果的に■■に誘導された意識であるかどうかはともかくとして…

だが、佳織はそんな兄の気も知らず男──アキラの広い掌を握り返してこう言った。


「あ、あの…高嶺 佳織です。お兄ちゃんが迷惑を掛けちゃったみたいで…その、ごめんなさい」
「いや、そんなに畏まらなくても構わないよ? 俺は特に何でもなかったからね」


握手を済ませると、改めて佳織が笑顔を浮かべる。
どうやら、アキラが悪意や害意を持っていない事を感じて安堵したようだ。
光陰もどうやらホッと一息ついて安心しているようである。


「まあまあ…寒い玄関で立ち話ってのも何だろ。上がってもらったほうがいいんじゃないか?」
「そ、そうですね。あはは」


尤もな光陰の意見に佳織が慌てて頷いた。




西暦2008年12月11日 日本時間 21:40
神木町 高嶺家 リビング




高嶺家のリビングにある、小さめな食卓は5名も集まると一杯一杯の状態になっていた。
卓上には、ちょっとした菓子類と紅茶や珈琲が置かれ、お茶会の様相を呈している。


「ふ〜ん。それじゃあ、クウェートから留学に来ていたんだ…」
「ああ、技術を学ぶために隣の筑波大学にね。システム情報工学研究科という所に在籍させてもらっている」
「げっ! 技術系の最先端じゃないか。……今日子には一生縁の無さそうな所だよなぁ」
「……ついでに俺にもな」
「ちょ〜っと光陰? それ、どういう意味かしら?」


お茶会が始まってから僅かに数十分…
この珍客は、既に悠人達と打ち解けていた。
見た目とは違い、付き合いやすそうな性格が壁を越えさせたのであろう。
また、異国の日系人。近くに住んでいるという話も、その一因となった事は確かであるかも知れない。
そこに、新しいティーポットを持って佳織が戻ってくる。


「新しいお茶が入りましたよ〜」
「お、ありがとう佳織ちゃん。いやぁ〜佳織ちゃんの入れてくれたお茶は最高だな。な、悠人もそう思うだろ?」
「お、おう…」


ナイスタイミング…とばかりに光陰は佳織から紅茶を受け取ると、悠人を巻き込まんばかりに捲し立てる。
突然に話を振られて状況を理解できていない悠人が思わず、こくこくと頷く。
するりと折檻を回避した光陰に今日子は舌打ちをするのであった。


「はい。神薙さんもどうぞ」
「ありがとう。……不思議な味と香りの紅茶だね。オリジナルのブレンドかな? でも……うん、美味い」


香気と味を愉しんでから、柔らかな表情で礼を言う。
そんな晶に佳織は驚きと喜びに眼を輝かせる。


「よかったぁ……私の自信作なんですよ。でも、凄いですね。分かっちゃうんですか?」
「まあ、ほんの少しぐらいはね……セラが……ああ、二番目の妻が紅茶好きなんだ」


瞬時──時が凍った。


「え? 結婚してるのか?」


先に硬直から解けたのは悠人だった。
まあ、もっともこの手の話に鈍感なだけはある。
純朴な悠人の問いに、晶は悪戯っぽく片目を瞑る。


「……ん、そう言えば言ってなかったかな。確かに既婚者だよ。まあ、子供はいないがね」
「へぇ〜、全然そんな風には見えないけどな……」


一通り快笑を挙げて、ひらひらと手を振る晶に懐疑的な眼を向ける悠人。
そこに、住職の息子にして道を踏み外しかねない坊主候補、こと光陰が待ったをかける。
思わず立ち上がったために、椅子が音を立てて転がった。


「まてまてまて!
結婚? 二番目? ハーレムか! 漢の夢にして浪漫。涅槃の境地のアレか!?」


思わず立ち上がった光陰の剣幕で、今日子や悠人も聞き捨てならない部分が存在した事に遅ればせながら気がつく。


「な、な、何だってぇぇ〜〜〜〜!?」
「に、に、二番目ぇぇ〜〜〜〜!?」


今日子と悠人も続いて立ち上がる。
最早、詰め寄って尋問するかのような剣幕だ。
佳織も唖然とした表情で晶を見詰めていた。
場に混沌の嵐が吹き荒れようとしている(笑)


「夢や浪漫はともかくとして……単に愛する女が一人じゃなくて四人だったに過ぎないさ。まあ、少々特殊だとは思うけどね」
「で、ででで、でも四人? 四人って……それって問題ないのか?」
「そ、そうよ! あたしだって板挟みでやきもきしてるってのに、何なのよそれは!」
「……そうか…そうだったのか! 俺とした事が迂闊。御仏の愛が無尽であるように俺の愛もまた天上不変の……
ブツブツ


肩を竦める晶に突っかかっていく悠人と今日子。
光陰は、どこか別の境地へとトリップし始めている。
そんなこんなで、その晩は更けていくのであった。
近づいた小テストの勉強会を思い出したのは0時も廻ったころだったとか云々…




西暦2008年12月14日 日本時間 15:50
神木町 学園内




その日の彼らは、いつに無く賑やかであった。
いや、彼らが集まれば其処が騒がしくなるのは当然だったが、今日はそれに加え人目を引く要素が追加されていたからである。
それが例によって例の如く、神薙御一行様であることは語るまでも無い。
ただでさえ人目を引く容貌をしている晶。
現代世界の住人では持ち得ない美影の顕現たるスピリット達。
それに加え、何故か巫女装束の少女──倉橋時深までもが混じっていた。

学生。異邦者。妖精。巫女。

はっきり言って目立つ。
何の集団か、はたまた何の出し物か…勘違いを呼んでもおかしくは無い。
事実、先程まで一緒に居た、高嶺佳織の友人──夏小鳥などはマシンガントークを交えながら盛大に騒いだものだ。
晶をして「口から先に生まれた」と言わしめた程の彼女も、今は部のほうに行ってしまっている。
佳織だけは「後で部のほうに行くから」と彼らと一緒に話していたのである。


「それにしても、まさか晶さんと悠人さんがお知りあいだとは知りませんでした」


両手を組みながら笑顔で悠人に話しかける時深。
笑顔で平然と知らなかった振りをする彼女は、どこか黒い。
今回にしても、先日の事を知った時深が晶に言って無理矢理ついてきたのだ。
結構いい根性をしている。


「いや、俺もびっくりした。あ、そう言えば時深さん、この間はありがとう。本当に助かったよ」
「いいえ。倒れてる方を見捨てたりはできませんし……それに、「さん」付けは要らないですよ?」
「え? いや、でもちょっと…」


なにやら桃色のフィールドを展開しようと努力する時深。
だが、生来的に鈍感な悠人には、いまいちそれが通じにくい。
そんな時深の姿を見て晶がそ知らぬ顔で「被った猫は大きいなぁ…」とか呟いている。
その傍では、悠人の危機(?)にも気付かず三人の妖精達と仲良くおしゃべりしている今日子と佳織がいる。


「…佳織ちゃんのあの演奏は凄かったって! あ〜もう、最高! ねえ、セラもそう思うよね?」
「ちょ、ちょっと今日ちゃん…恥ずかしいよぉ」


凄いものは凄かったんだから…と、今日子の隣に立っている銀髪の女性──セラに訴えかける。
佳織は恥ずかしそうに今日子に言ったが、今日子は止まらない。
セラも優しく微笑みながら今日子の意見に頷き、「そうね。本当に素晴らしかったわ」…とそれに同意。
彼女の長く艶やかな銀髪が首肯に伴ってサラサラと流れる。
その身に纏う、秘書然としたスーツと防寒用のコートが彼女の怜悧な印象によく似合っていた。


「でも、ほんとに凄かったよ! ボク、ちょっと涙が出ちゃったもん。佳織の演奏は心に響くんだよね」
「そうそう。最後の辺りなんか魂篭ってたわよね。佳織ちゃん、絶対にいい音楽家になるわよ」


焔のように紅い髪をシャギーの入ったショートカットに整えたボーイッシュな女性。
焔の髪とルビーの瞳を象徴するかのような緋色のコーディネイトに身を包んだルーテシアも今日子に同意した。
純白のブラウスと黒いチノパン。ブランド物のファージャケットを身に付けた勝気な美女……アルティールも同じ気持ちのようだ。
今日子を含めて四名もの美女に囲まれつつ褒め囃された佳織は表情をくるくると変えながら嬉しがる。
謙遜していても、褒められれば嬉しいものは嬉しいのである。


「それにしても、今日は本当に楽しかったよ。誘ってくれてありがとう。いい気分転換になった」
「本当ですよ。マスターったら、こういう事には気が利かないんですから」


晶と腕を組んでいた女神の顕現かの如き金髪紫眼の美女──サラが晶にギュッと抱きつく。
彼女の格好は、黒を基調としたシフォンブラウスに、ラグジュアリーな同色のプリーツスカート。
全体的に黒で纏めたコーディネイトに、肩口に掛けられたボレロがアクセントとなっている。
まあ、時折上着から透けて見える下着やガーダーストッキングが若さ溢れる学生達には目の毒ではあったが些細なことだ。
そんな美女と腕を組む晶に、呆れたような溜息をつきながらも光陰はニヤリと笑って答える。


「いやなに、いいって事よ。あんたにゃ、勉強でも世話になっちまったしな」


うんうんと頷く光陰。
「袖すり合うも他生の縁って言うしな〜」なんて呟いている。
だが、悟ったような表情も束の間、すぐに面白そうな表情になって顎の無精髭を擦った。


「しっかし、本当に四人も嫁さん連れてくるとは……俺はてっきり冗談とばかり思ってたのによ。
 それに、あっちの神さんにしては随分と過激な格好じゃないか?」
「神様ってのは割りと寛容なのさ。狭量なのは人間ばかりなり……ってね」


光陰の的確な突っ込みを晶は大人の余裕でスルー。
軽口を流された彼は、思わせぶりな表情でチラチラと視線を彷徨わせる。
初めて見る…まるで妖精のような(実際にスピリットなのだが)女性達を見て軽く嘆息。
最後に今日子のほうへ視線を向けると、肩を竦めてこう続けた。


「……今日子のやつも、もう少し女らしくなってくれれば俺も嬉しいんだがなぁ。こう……もうちょっと」


手を使ったジェスチャーで表現する。


「あらあら、今日子ちゃんは可愛いじゃないですか。きっと、あと2〜3年もしたら誰もが放っておかないですよ?」
「それに光陰。君は、佳織ちゃんが魅力的だとか何時も言ってなかったか?」


ジェスチャー混じりに遠い目をする光陰の台詞に、サラと晶が突っ込んだ。
だが光陰は飄々としたままで演説(?)を開始。
もはや止まる事を許されない勢いで加速していく。


「いや、確かに今日子と俺は付き合っていますよ? けど、ちっちゃくて可愛い女の子は別腹……いやいや、人類共通の宝だと思うんだ。
 ほら、その点で佳織ちゃんなんて、優しくて気が利いて健気で、こうギュッと護ってあげたくなるっていうか……
 いやいやいや、俺は決して邪な煩悩で行っている訳では無くてですね、人類のために御仏が使わしたかのような可愛い──」


「……真性のロリだな」
「……ですねぇ」


光陰の得体の知れない熱気と勢いに思わず一歩引いてしまう晶とサラ。
しかし、気分良く演説を続ける光陰の背後に白い悪魔が近づいてきた。
お馴染みハリセンの今日子である。


「光陰〜? もう遺言は終わったわよね?」


─ビクッ!


「きょ、きょきょ、今日子ぉぉぉ!? 待った! 俺、何にもしてないよな? なっ?」


何か血のような深紅なのに、宇宙の漆黒のようにも見える不気味なオーラを背負って今日子が迫る。
途端に慌てだす光陰。
何時の間にか自分の周囲から今日子以外に誰も居なくなっているのに気付いて光陰はじりじりと後ずさる。
いつもの飄々とした余裕など今は微塵も存在していない。


「ゆ、悠人っ! お前は…お前だけは分かってくれるよな? 親友だろ? なっ?」


哀れな光陰の視線から悠人は身体で佳織を庇い…素晴らしい笑顔で親指を下に向けた。
古代ローマ帝国時代から続く、死刑執行のサインである。
そして、鬼(今日子)が動き出す。


「ふっふっふ…」
「ちょ、ま、ま…」


─ブワッ!!


目にも止まらぬスピードで白い凶器(ハリセン)が振り抜かれた。
ハリセンにはあるまじき空を裂く音がはっきりと耳朶を打つ。


「煩・悩・退・散ーーーーー!!」


─バッシィィィィンッ!!


「ぐえっ!?」


光陰は、そのまま大地(床)に沈んだ。
剣豪もかくやの一撃を加えられ一瞬で涅槃へと送られかねないダメージを受ける。
哀れ光陰はピクピクと痙攣する何かへと姿を変えていた。
バイオレンスである。
もしかしたらモザイクが必要かもしれない。


「………あ、あ、愛情…表現に…しては、か、苛烈……すぎ、るぞ……今日…子」
「あいっ変わらずしぶといわねー。まあ、いいわ。今日は、この今日子様の魅力を徹底的に教育してあげるんだから!
 覚悟しなさいよ。光陰っ!」


光陰と今日子の夫婦漫才に誰もが笑い声を上げた。
世界はまだ平和のうちにあり、日常は日常のままとして存在する。
今はまだ。





































契約の……時は……近い』


『奇跡…の…
代償……刻が……来る』


契約者よ……』







































西暦2008年12月17日 日本時間 23:15
神木町 神木神社 境内




「いよいよ明日……か。で、良かったのか? まだ“接触”するには早かったのだろう。そっちの予定だと」


冬の風が踊る寒々とした境内の近く。晶は石造りのベンチに座る時深に熱い緑茶の缶を放りながら言った。
辺りを照らすのは数えるほどの数しかない街灯と、自販機の灯りと、すでに半分となった月明かりのみ。
時深は、缶を受け取るとプルタブを開けずに、その熱気で掌を暖めるように転がした。
熱い缶を玩びながら彼女は沈黙を続けている。


「………だんまり、か。まあ、構わんのだが…俺としては<門>さえ開いてもらえるならな。
 何しろ俺の“跳躍”だけじゃ、あの三人を置いていく事になる…流石にそれだけは避けたい」


手に持ったブラックコーヒーの安物の酸味に顔を顰めながら晶は、神社の御神木を見る。
それは一見しても何も変わらない。
だが、マナを感じ…マナを見ることのできる者達の目には、この夜の中でも煌々と輝いて見える。
その輝きも、明日を過ぎれば一時的に失われ物理的にも霊的にもただの樹となってしまうのだろう。


「……やっぱり、戻るんですか? また、彼女達も危険に巻き込まれますよ?」
「何を今更……彼女達の故郷は向こうだし、あの大地には其々に残してきた者達もいる。本当に……いや待て」


物憂げな時深の視線を真っ向から見返して、晶は何かに気付いたかのように指差す。
若干怯んだように視線を逸らす時深。


「前も言っていたが、さては時読みが上手く働かなくなるから……何て理由じゃなかろうな?」
「…………………な、なんの事でしょう?」
「その間だけで状況証拠は十分なんだが。時読みをしたければ、時深も向こうに行っておけばいいだろうに…」
「だっ、ダメですっ! それじゃ悠人さんとの劇的な再会が演出できなくなっちゃうじゃないですか!?
 それに、エターナルが堂々とその世界に入ったら絶対に感知されるんですから!」
「『時詠』とか『時逆』とかの力を一時的に封印してエトランジェとして侵入したらどうだ?」
「そ、そんな事しちゃったらテムオリン達に対抗できなくなっちゃうじゃないですか!」
「時深…意外と我侭だな…」
「ほっといて下さい!」


プンスカと擬音がつきそうな感じで時深はそっぽを向いてしまう。
さっきの物憂げな表情は全て演技だったようである。
流石はエターナル。伊達に長生きはしていない。
そのクルクルと変わる表情と態度に圧倒されたのもつかの間、すぐに気を取り直して問い返す。


「結局、時読みが阻害されるのは『七鍵』の存在力のせいなのだろう? だったら簡単な事だと思うのだが…」


手に持った缶コーヒーを指でカンカンと弾きながら晶は続ける。


「ECCM(Electric Counter Counter Measure)って知ってるか? もしくはANCS(Active Noise Control System)でも構わないが…
 あれと同じことさ。邪魔な干渉波があるなら、そこを迂回するなり逆位相の波をぶつけて中和するなりしたらいい。
 剣格は『時の三神剣』のほうが遥かに上なんだから、ノイズ消去に集中させれば従来通り“読む”事はできると思う……ぞっ!」


空っぽになった缶をゴミ箱へ投げる。
投げた缶は、狙い過たず中へと吸い込まれた。
同時に、時深が立ち上がって緑茶のプルタブを漸く開ける。


「…なるほど。詳しい事は分かりませんが試してみる価値はありそうですね」


コクコクと独り頷く時深。
可能性や実現性を考えたり『時詠』と相談したのだろう。
先程とは違った表情で彼女は温くなった緑茶を一気に飲み干した。


「ふぅ…とにかく。あの約束は守ってもらいますからね?」
「了解だ。今回の件に関して、それとなく彼を見守ればいいんだな?」


確認。
晶の問いに時深は頷いて答える。


「はい。その通りです。ついでに悠人さんのヘタレな所も治してくださると助かります♪」


輝かんばかりの笑顔で空き缶を握り潰した。
投擲!──そのまま、空き缶はゴミ箱へ
突き刺さる。


「…ヘタレなのか?」
「少なくともヘタレじゃない悠人さんの未来はまだ見えません」


笑顔の中に一抹の不穏な何かを感じる。
時折呟く単語に
「ここまでお膳立てしても…」とか「女のプライドが…」とか剣呑なモノが混じっている。
晶は、冷や汗を流しながら自分の意見を語る。


「諦めろ。むしろそれが彼の良い所じゃないのか? まあ、ヘタレなら正面から飛び込んでいく事を勧めるぞ。
 そういう者は得てして告げられるまで想いに気付いてくれないと相場が決まっているからな」


彼の科白に、徐々に剣呑な気配を納めていく時深。
それでも、
「分かっているんですよ…でも、どうしても最後でヘタレちゃうんです…」などとブツブツ呟き続けている。
それも徐々に収まっていき……時深は軽く嘆息すると共に深呼吸。
心を落ち着けると同時に、自分の行動に対する恥じらいの朱をのせつつ謝った。


「すみませんでした。ちょっと興奮していたかも知れません」
「いや、いいのだが……まあ、兎に角その辺りまでは約束できんという事を理解してくれれば問題は無い。
 向こうに行けば、俺もしがらみに縛られるし時深の意向に添えない場合もあるのだからな」


コートを翻して社に向き、そのまま半円の月を見上げる。
月は、薄雲に隠れていて朧気になっている。
まるで薄絹を纏ったかのように。
そして彼は、再び口を開く。


「…そして、俺が向こうで何と呼ばれていたか…何をしていたか…君は知っている筈だ。
 それに勿論、俺はエターナルじゃない…向こう側の記憶と記録は保持されているだろう。
 それでも俺に頼むと…君は言うんだな?」
「ええ。晶さんの手が届く範囲でも構いません。と…いいますか…今は晶さん以外にはアテがありませんから」


自らが動く事のリスクと、既知の存在であるという事の利得・弊害を確認する。
だが、悪戯っぽい表情で返される。
晶は困ったように頭を掻きながら、「やれやれ…責任重大だな。荷が重い話だ…」と言った。
しかし…


「ご謙遜ですね。神剣の担い手でありながら、独自に神格位も目指そうとする貴方がそれを言いますか?
 古来より神格を得た存在は少ないのですよ? ましてやエターナルに匹敵する神格を体現できた存在は僅かに1名。
 自らの身で永遠神剣『悟り』を体現したエターナル……死睨だけです」


…と、彼女は淡々と語る。その表情は、どこか哀しい。
死睨の逸話を知っているが故に、その表情は「止めるべきだ」と語る。
が、晶はその表情に気付かないフリをして、謳うかのように呟き始めた。


「人が、その心に“剣”を得て、神への道程を切り開く……なんて、昔からありふれた話さ。
 単に誰もが、その可能性に気付かないだけ。螺旋の渦に導かれる天空と大地の存在を認識できないだけ。
 人が人として尊い生を全うするならば決して開かれない道。
 早々と道を踏み外してしまった俺には相応しいのかも知れないな…その道は」


遠くを見るかのように目を細め…晶は皮肉気な表情で答える。
軽く吐いた息が、白く流れ夜気へと散る。
そして…


「5年…結局“真理”を見つけ、“起源”を超えて、我が唯一の神名──オリハルコン・ネーム──を見つけ出すにも至っていない」


星を掴むかのように掲げられる手。
無論、それで星を掴める事は無い。
それでも彼は、先を求める事を止めはしない。
何故なら、それが…その道こそが自らの護るべきモノを護り続けるために彼が選択したものであるがゆえに。


「…………晶さん……貴方は──」


時深が何かを言おうと口を開いた瞬間、彼はそれを遮るかのように明るい口調で再び喋りだした。


「あー、何だ。そんな辛気臭い話は止め止め! さっきの話は了解だ。過保護にならない程度で見守ってやるさ♪」


先程までの雰囲気と表情は何処へやら。
飄々とした雰囲気を取り戻して、ニカッと晶は笑った。
時深もつられて笑みを浮かべる。
そのまま彼は、片手を振って神社の階段を下りていく。
グリーン・スリーヴスの口笛を吹きながら…












「…以前は南。今度は北か…ま、暫くは様子を見ながらボチボチやるさ…」








西暦2008年12月18日 日本時間 17:30
神木町 神木神社




─キィィィィーーーーーーン!!


凄まじいまでの神剣の波動が、晶自身と共鳴し甲高い金属質の剣音を響かせる。
それと共に、ビリビリと空気が震えるかのような振動が伝わり、空間にマナが満ちていくのを感じる。


「ゆ、悠ッ!! 大丈夫!? あんた、悠に何したのよッ!」
「お兄ちゃん! お兄ちゃんっ!」
「おい! 悠人しっかりしろ! おいっ!!」


あの日、出会った若者達の声が聞こえてくる。
その声は相当に切羽詰っており、聞くもの全てに危機感を与えるだろう。
そんな声を聞きながら、晶。サラ。セラ。ルーテシア。アルティールの5人は境内の裏手…御神木の陰で様子を眺めている。


「始まったな…」


晶の声に、四人が頷く。
これから何が起こるかは既に聞いている。
強大な四神剣の奇跡力と、上位永遠神剣『時読』にサポートによる開門の儀。
それにより出現する<門>を通って、あの苦しくも懐かしい大地へと帰る。


「…でも、あの子たちが辿るでしょう苦難を考えると…少し悲しくもあるわね」


セラが表情を曇らせて呟いた。
他の三人も、思いは同じようで相応に表情は暗い。


「だが、それも彼らの運命なのだろう…それを切り開けるかは…彼らの意志と絆しだいだろうな」


チンッ…と軽い音を立てて翻ったジッポで、晶の銜える煙草に火が点る。
流れる煙は、彼らに対する想いか…はたまた、彼らが掲げるであろう運命への叛逆の狼煙か…


「悠人さん、自分を信じてください。それが悠人さんの力となります……」


時深の言葉が聞こえた。
これから<門>を固着し、転送路を開くのだろう。
まだ、十分に残っている煙草の火を消し、踏み潰す。


「…そろそろだ。皆…離れるな。向こうで離れてたら厄介な事になるかもしれないからな」
「「「「(コクリ)」」」」


頷いて、それぞれが晶へと抱きついてくる。
前後左右から抱きつかれて、傍から見れば著しく殺意を煽る構図となっている。
が、そこには煽られるべき人々は存在していないので問題はないようだ。


「門が……来ます!」


時深の言葉と共に、手に持った『時詠』が真一文字に振り抜かれる。
その瞬間、高嶺悠人の裡で何かのタガが外れ、膨大な奇跡力とマナが溢れ出した!


「ぁあッ…ぅわっ、うわああぁぁあぁあっ!!」


悠人が絶叫する。
内に秘めたあらゆる物を解放するかのような叫び。
或いは、上位永遠神剣にも匹敵するポテンシャルを保有する、『求め』からもたらされる恐るべき力に耐えるための咆哮。
或いは、侵食し浸食し神触してくるソレから己の自我を保つための…


「きゃっ! なに…? 眩しいっ…なに? この光」
「これは…なんの光だ……? 今日子っ!」


黄金の輝きをもつ光の柱が雲を突き抜けながら天空へと伸びていく。
今日子と光陰の叫び声が聞こえる。
彼らの目の前に発現した金色の柱──マナが大量に集束したときに発生する黄金の可視光──に怯む今日子。
その今日子を庇うために、光陰はホワイトアウトした視界の中、彼女の元へと走り…そのまま抱き締めた。


「…佳織っ、かおりぃぃぃ〜〜!!」
「…お、兄ちゃ……ん」


悠人と佳織の声が聞こえる。
自由に動かぬ身体にもどかしさを感じながらも彼は懸命に義妹の手を掴もうとしている。
それでも、その手は届かず一足先に少女は光の中へと消失する。
空を切る手。
だが、諦めずにひたすらにその手を捜し続ける。


─ガカッ!!


マナが物理的な影響を及ぼしうる程に高まる。
その一瞬は、何も知らぬ者達からすれば雷のそれと思ってしまうかもしれない。
ついに黄金の光は視界全てを埋め尽くし…








「自分を信じて……」








何事も無かったかのように光は消え…後にはただ一人、その場に残った時深の哀しげな声だけが風に溶けていった…





















Starting the “Eternity Wars”
World Shift → Phantasmagolia.

To be Continued...




後書(妄想チケット売り場)


読者の皆様始めまして。前の話からの方は、また会いましたね。
まいど御馴染み、Wilpha-Rangでございます。


どもども〜。ついに第三章…本格的に開始しました。
まずはお約束という事で、原作の序章に当たる部分をお送りいたしました。
この時点での接触が、後にどのような影響を与えるか……それは未だ分かりません。
アキラ達は、はたして悠人達と共にラキオスへと入ってしまうのか…それとも?
何にしても次回のお楽しみ……という事で(笑)


「人と剣の幻想詩」…いよいよ疾風怒濤の永遠戦争編です。
四神剣のエトランジェ…そしてイレギュラー…
彼らが交わる事で何かが……




独自設定資料

World_DATA
腐女子

ん〜、何というか…そのまま女性のオ○ッキー?
主に801等のBL文明の導き手にして、そこに“萌え”を感じる種族の人。
必ずしも悪い意味での言葉では無いが、通常のオ○ッキーと同じように行き過ぎる事で犯罪に走ってしまう場合もある。
何事も程々が一番ということか。
ちなみに筆者は801やらイケナイ関係やらには耐性が無く、見てしまうと著しくやる気とマインドを消失してしまう。


ラキ、ラキ
某対戦ゲームの巫女(古神道系)の台詞より。
ボス扱いだったときは、それはもう犯罪的なものだった。
ちなみに持っている武器は「ミ・ゴウの玉串」なる、色んな意味で危険なモノ。
同じ巫女さんでもスリーサイズは天地の…
んがふふッ!?


爆発事故
序章で悠人が読んでいる新聞の一面より。
「人剣」世界ではトキミとアキラの仕業で発生してしまう。
きっと原作ではちょいネタ。
個人的には、「出雲」と「光をもたらす者」達の抗争だったら面白いなぁ…なんて思ってたりする。


ハリセン
白い悪魔。
突っ込み属性の非常に高い武器にして、今日子愛用の品。
これによる攻撃は何故か命中率補正が掛かるらしい。
その威力からして、単なる紙でできたハリセンだとは思い難い。
いったい、どのような素材で出来ているのだろうか……


サッバーハ(サバーハ)
アキラのハイペリアにおけるミドルネーム。
クウェートを実質的に支配する家から取ったもの。
当然、そこの親戚という形で戸籍を偽造した事は言うまでもない。


ハーレム
漢の夢にして浪漫。涅槃の境地のアレ……だそうである(光陰 談)
色々と偏見の目で見られるが、当人達にとっては全く気にならない事が多い。
イスラム教圏…特にアラビア圏では、割と普通に受け入れられている事もある。
まあ、それを作るにも維持するにも色々と要求されるものは存在すると思うが。


ECCMとANCS
ECCM(Electric Counter Counter Measure)
レーダーやミサイルへの電子戦妨害(ECM)に対処、対抗するための手段(対電子妨害対抗手段)。
各種ジャミング下における味方の索敵、通信、兵器誘導等の精度を確保することを目的とする。

ANCS(Active Noise Control System)

音(騒音)に対して逆位相の音(制御音)をぶつけて特定の点あるいは領域で減音させる技術。
音響関連の技術としての他、一部では軍事用としても用いられている。


時の三神剣
『時詠』、『時逆』、『時果』の事。
全て、トキミが保有している。
この事からも、トキミの真の実力が単なるエターナル・レベルに留まっていない事が推測される。
仮に全ての神剣を持ち出せば、トキミだけでもテムオリン達に対抗できたのではなかろうか?
それをしなかった、その裏には悠人への乙女心が多分に含まれていた事は間違いないと思われる。




Skill_DATA
※Nothing




Personaly_DATA
※Nothing




SubChara_DATA
※Nothing




Eternity Sword_DATA
※Nothing