聖ヨト暦329年コサトの月 緑五つの日 夜
帝都サーギオス 第3旅団官舎/食堂




「ダーツィとバーンライトの視察?」


第3旅団の食卓を支配する夜闇の料理人…セラは怪訝そうな表情でアキラに確認する。
出された料理を一通り胃の腑に納めると、アキラは頷いて口を開いた。


「ああ。陛下が予定通りに法整備とエーテル使用が為されているかを見て来いってうるさいんでな」


苦笑しながら珈琲(のようなもの)を飲む。
豆の渋みとハーブのような香気を楽しみながらチーズの切れ端にも手を伸ばす。
その様子を見ながら今度は隣に座っていたセシルが口を開いた。


「はぁ…バーンライトですかぁ…今更ですけど、やっぱり気になりますね…」


あまり良い思い出は無かったのだが、それでも長くを過ごした故国の事が話に出てセシルは複雑な表情をしていた。
あの子達も、こっちに来られれば…きっと…と呟いている。
その様子をみてフェリスが気を落とすな…とばかりにポンポンとセシルの肩を叩く。
傍目にも微笑ましい光景であった。


「どうせなら皆で行ければ面白かったかも知れないが…生憎、単身での任務だし…」
「それじゃ、ボクがアキラの護衛ということで一緒に行ってあげるよ♪」
「ダメだ。この仕事でスピリット連れだと警戒されるからな…ちなみにサラも連れて行けない」
「ま、マスター?…それは私を捨てちゃう宣言ですか!?」


アキラの話に乗って着いて行こうとするルーテシアを阻止しながらサラの勘違いをアホが…と一蹴する。
いつもと言えばいつもの光景。
纏わりつくスピリット達の相手をしながら食事を採る。
しかし、その日常の平穏はアキラの行動により破られる…


「お…ウルカ。リゾットの飯粒がついてるぞ?」
「…これは…かたじけない」


そう。意図せず彼はあの伝説の行動を取ってしまったのである!
アキラはウルカの口元に着いていた米粒を取ると自らの口に運んでしまった。
その手の機微に疎いウルカは全く気にしていなかったが周りはそうも行かない。
…そして騒ぎは始まるのだった…


「あ…あーーーっ!? ウルカ姉様ずるいっ! ボクだってしてもらったことないのに!」
「…は? はあ…一体何のことでありましょうか?」
「あ、アキラ様……はい。あ〜ん」
「だ、だめです! それは私の役目なんですぅ〜!!」
「な、何だ? 何か? 俺が何かしたか!?」
「……自覚症状が無いのね……」




こうして、騒がしい夜は更けていくのであった……






永遠のアセリア
The Spirit of Eternity Sword

〜人と剣の幻想詩〜

第二章
“Oath and Emperor”
ACT-3

【アキラの同盟国漫遊記@】
- In the Duchy “Pleasure Trip” -




聖ヨト暦329年ソネスの月 青一つの日 朝
帝都サーギオス 通用門近辺




初秋…という程の四季がある訳でも無いが、暦の上では一応の秋…
小さめのナップザックに一般的な旅装束を身に着けたアキラが帝都の東部通用門の前にいた。
周囲には数名の人影も見える…恐らくは見送りであろう。
その中の一人の人物が彼に声を掛ける。
焔のような紅い髪の娘…ルーテシアだ。


「ねえ、アキラ…やっぱり武器ぐらいは持っていったほうがよくない?」


心配そうに尋ねる。
さもあらん、今のアキラは本当に寸鉄一つ身に帯びていない軽装なのだ。
身に纏う外套だけはいつもの物だったが、それ以外は普通の旅人にしか見えない。
また、エトランジェが並外れた能力を持っているとは言え、それは神剣があってこそのものだ。
少なくとも世間様一般ではそういうことになっている。
そして、神剣を持っていない状況では神剣を持ったスピリットには到底抗しえない。
ところが当のアキラは何処吹く風…武器を持たないことに対する不安の様子は全く無い。


「なーに、大した問題じゃないさ…というより…『神薙』が俺の体内にあるって事を忘れてないか?」
「あははっ…ゴメン。そう言えばそうだったね」
「大丈夫ですよ。マスターはちゃんと出来る事と無理な事は弁えてますから」


アキラの発言に、ルーテシアとサラが答える。
彼は現在、永遠神剣『神薙』そのもので構成されているとも言えるのだが、その辺りの事情は誤魔化している。
変に正直に説明しても理解するのが困難だろうし、無駄な誤解を招くのも面白く無いからだ。
それに永遠神剣同士が契約するなどという話は、はっきり言ってありえない。
…ともあれ、そのような諸事情によりアキラは二本の永遠神剣と契約している…という扱いで彼女らに説明していたのだ。


「そうそう〜。アキラぁ〜約束したアレ…ちゃんと買ってきてよね?」
「はいはい。…バーンライトに寄ったら手に入れておいてやるさ」


軽い笑顔で頼み事を確認するクレリア。
その表情には少しの不安感も無い。
むしろ帰ってきたときの土産物に期待している眼差しだ。
やれやれ…とばかりに苦笑しながらもアキラは出発することにした。


「それじゃ行って来る。他の連中にも宜しく言っといてくれ。早めに戻るつもりだが、何かあったときには頼むぞ?」
「おっけ〜♪ お姉さん達にドンと任せといてちょうだい」
「早く帰ってきてね」
「マスター…危ない時には絶対に私を呼んで下さいね」
「ああ、分かってるよ」


それぞれ軽い抱擁と挨拶代わりの口付けを交わす。
そして、彼は北へと向けて走り出した……時速2クレ(約100km)に匹敵する速度で……


「………あらら…バカねぇ…あんなに急がなくても良いのに…」
「……まあ、アキラだし……」
「……マスター……遊ぶ気満々ですね……」
「「……………」」


ポツリと漏らしたサラの言葉に、どことなく不安を感じる二人であった……




聖ヨト暦329年ソネスの月 青一つの日 夜
ダーツィ大公国 ケムセラウト近隣 山林




「あー…それにしても…なんでこんな事になってるかな…」


呟きながらアキラは雨露に濡れる顎を擦る。
急ぎすぎたのがいけなかったのか?
それとも、楽しみついでに高空での超音速全力飛行を試してみたのが神の怒りを買ったか?
もしくは、ついでに関所抜けでもしようと山の中に降りたのが悪かったのか?
はたまた、このさっきから降り始めた雨が偶然の遭遇を呼んだのか?


(ま…全部だろうな…)


思い浮かんだ状況全てが影響していることは間違いない。
自分の間の悪さ(良さ?)を再確認して、アキラは嘆息する。
溜息の深さで不幸が計れるとするのなら、今のアキラは紛れも無く不幸だ。


「んだぁ? テメェは…」
「おらぁ! とっとと荷物を置いて去れっつってんだよ!」
「や…止めなさいよッ! あたしに手を出してタダで済むと思ってるの! このド変態!!」
「ごらぁ! 暴れんじゃねぇ! 犯りずれーだろうがっ…ちっ、またぶっ叩かれたいのか!」


頭痛がする…破滅的に煩い。
何故にそんなにありふれた使いまわしのような馬鹿共の相手をしなければならないのか…
神よ…貴方はそこまでして私に試練を課したいのですか…インシャラーなのか?
様々な思いがぐるぐると彼の頭で回転している。


「スカしてねーで、さっさと荷物置いてけってんだよこのウスノロや……」
「……取りあえず黙ろうな〜? 聞いてるだけで頭が悪くなりそうだからな〜?」


手斧片手に無警戒に近づいてきた無精髭の凶相…その顎が目視出来ない速度でピンポイントに打ち抜かる。
一瞬で脳を激しく揺らされた男は、無言で白目を剥いて膝から崩れ落ち…そのまま昏倒した。
目の前で起こったことを理解できずに呆気に取られる連中を無視して歩き出す。
彼としては瑣事に関わりたくも無いし、むさ苦しい野盗崩れを相手にするのは更に嫌だったからだ。
何処かの娘か誰かが手遅れになりかけているようだが全く関係の無い者を助ける義理も無ければ正義の味方でもない。
その筈だったが、ふと足を止める。
…そして一言。


「…言っておくが…タダでは助けてやらんぞ。君は俺に何を求め…何をくれる?」


久々に黒いアキラが降臨していた……
その様子はまるで契約書を手に魂を要求する悪魔そのもの。
誰がどこから見ても真っ当な存在には見えない。
いや、むしろ雨避けとして目深に被ったフードと黒いコートが死神の姿を連想させる。
だが、そのような得体の知れない存在が相手であってもなお彼女は助けを要していた…はず?


「そこの黒いのッ! 美少女の危機に代価を要求しようっての!? 普通はお金を払ってでも助けたいってもんでしょ!?」
「そうか…ではな。達者で過ごせよ?」
「え?…ちょ、ちょっと待ちなさいよ! この人でなし! ダーツィの公女を見捨てるつもり!?」
「ふむ…人でなしとは実に的確な表現だな…見事に本質を………なに………公女だと?」


あまりと言えば、あまりの展開に唖然とする周囲。
最早、その展開に誰もの脳が停止していた。


「…一応聞いておこうか…名前。それから宮廷付き女官長の名を言ってみろ」
「信じて無いわね…思い知りなさい! あたしは、アルティール。女官長はクソババアのサリエラ!」
「…ふむ…まあ、よかろう…まずは助けてやろう」


その言葉で止まった時間は再び動き出す。
そして、戦闘とも言えない一方的な蹂躙が始まった…








─3秒経過…








そう、正に3秒…
アキラは苦も無く野盗13名を殺す事無く昏倒させていた。
今更確認することでも無いが、常人とエトランジェの彼我戦力差は絶対的である。
それも元々、戦闘技術に特化したようなアキラが相手では象と蟻以上の格差があったのは間違いない。


「…終わったぞ…こいつらはどうする? 放置か? 殺すか?」
「………」


死屍累々と足元に転がる野盗を足先で突きながら問いかけるアキラ。
しかし、彼女は答えることが出来ない。
目の前で繰り広げられた瞬間の…閃光の如き舞武に魂を奪われたかのように呆けている。
それを見て、アキラは最近では恒例となった肩竦めをしてから、倒した野盗の戦利品を回収し始めた。


「盗賊に人権無しと、どこかの魔術師も言ってたしな…」


何気に行き成り人権否定を口に出す。
どこかで聞いたことのあるような意見だが、それに突っ込んではいけないのだろう。
ましてや、それに彼が答えることも無い。
口笛を吹きながら役立ちそうなものを回収していくアキラを見て、彼女はようやく正気に返る。


「ちょっと…」
「…何か?」
「いい加減…レディが縛られたままになっているのに無視するのはやめてくれない?」
「…ふむ…むしろ無視されていたのは俺のほうだと思うのだが…」


彼女の言葉に改めて、その姿を確認する。
年齢にして17〜18歳…長めの艶やかな黝い髪に整った愛らしい容貌…少しキツめだが素材は良い。
スピリットと比べるのは間違いだが、無駄無く…肉感的。そして何より扇情的な肢体。
所々が引き裂かれた上衣…雨滴の滲みたそれは隠すという機能を放棄している。
下は何も着ておらず、淡いデルタも美しい秘洞も晒されたまま。
何故かやけに倒錯的な縛られ方をされている。
それを見て思わずアキラは口を開いた。


「………君は何か倒錯的な趣味の持ち主なのかな?」
「違うわよっ!!」
「…冗談だ」
「………」


自身の軽口に、むぅ〜と膨れる。
それを見て、彼は取りあえず代価を回収することにした。
もちろん彼女の身体で。


「まあ、たまにはこのような特殊なプレイも楽しかろう…」
「はあ?」
「いやなに…代価の話だ。物事には須らく等価交換の定理が働く」
「ま、まさか……?」
「このまま始めるのと、このまま激しく始めるのと、このまま最高に激しく始めるの…どれがいい?」
「全部同じじゃない!?」
「いや、俺の頑張り具合が全く以って違うのだが?」
「あたしにとっては同じことよっ!」
「ほほぅ…公女殿下は代価を払うのが嫌だと?」
「馬鹿にしないでよね。代価は払うわ…でも、どこの誰とも知らない男に身体を開くなんて下賤な真似は絶対にお断りよ」
「…結構。気が強いのは良いことだ」
「…あんた…絶対バカにしてるでしょ…」


言葉と共に縄が切断される。
緊縛状態から解放された彼女はようやく落ち着ける状態となった…
ひとまず安心して…自分の姿を再確認。
一瞬で羞恥に顔を朱に染めた。


「…ぅ……って、こんな格好じゃ帰れないじゃない!!」
「うむ…辿り着くまでに3回は襲われるだろうな…可哀想に…」


楽しげに笑うアキラを胡乱気に…恨めしそうに睨む。
彼は明らかにからかう事を楽しんでいるのだが、彼女には分からない。


「向こうに転がっている連中から服でも剥ぎ取って着れば良いだろう」
「嫌よ。あんな汚らわしい格好が出来る訳ないでしょ? あんたの外套でいいから渡しなさいよ」
「人に物を頼む態度では無いな……」
「な、なによぉ〜……っくちっ!」


打たれる雨に身体を冷やしたのか、くしゃみをする。
言葉遣いとは異なり、やけに可愛らしい。
流石に風邪まで引かれると気分が悪いのかアキラは観念した。
フードとコートを手早く脱ぐと、アルティールに着せる。
そして、そのまま彼女を抱き上げた。
俗に言うお姫様抱っこである。


「ちょ…待ちなさい! いや…降ろして!」
「さて…近くの町は…ケムセラウトだったな……なんだ、すぐ近くじゃないか」
「ひ、人の話を聞きなさいよね! え、えっと……?」
「アキラだ。飛ばすからしっかり掴まっていろ」


ケムセラウトに向けて軽快に走り出す。
同時に、轟いた雷光がアキラの姿を浮かび上がらせる。
その姿は、何よりも頼もしい守護神のように彼女の目に焼きついていた…




なお、当然だが野盗達は完膚なきまでに放置されたという事をここに記しておく…




聖ヨト暦329年ソネスの月 青二つの日 夜明け前
ダーツィ大公国 ケムセラウト




アルティールを宿屋に連れ込んだ次の日…
彼女を部屋に置いたまま、アキラは日課の基礎訓練を行っていた。
早朝から置きだして、軽く身体を解す。
神剣からのマナ供給をカットして、半クレ(25km)ほどの距離を1時間弱で走破する。
走り終えると同時に、沈静化訓練…暴れ狂う心肺機能と吐き出される乳酸を“意識的に”沈めていく。
数分とかけずに平常レベルまで落ち着かせると、竜氣を扱う訓練へと移行…自力でマナ変換を繰り替えす。
マナを集めた幻想の竜珠を身体の気脈を通し、龍門を次々と活性化させていく…
大気のマナは呼吸によってエーテル変換され、気海へと蓄積…火山の如く煮え滾る胞宮で竜氣へと変わっていく。
竜氣という更なるエネルギーを得た龍門は次々と輪転し、仏の権能とも言える程の異能を発揮し始める。
竜珠は遂に光背となり、後光の如きオーラとなって立ち昇る。
現代世界では成仏法とも呼ばれる神気の扱い…神仙の法…操竜師と名乗るならば、そのぐらいは行える。
実際に悟りを得て神格位を得るには、精神自体の修法も必要となるのだが…残念ながら彼は、それを知らなかった。
それゆえに彼の修法は常に独自のものであり異端の修法となる。


次にアキラは竜氣を巡らせたまま、精神のチャンネルをセフィロトに同調させた。
これは、本来余りにも異端であり危険な方法である。
基本的に西洋の魔術と東洋の魔術は、求める境地は同じではあるものの扱いが全く違う。
二つの修法を同時に成り立たせようとするときに魔術師に訪れるものは…自我境界の崩壊か、魔術回路の崩壊。
異なる魔術理論の合一は極めて困難であり、魔術師にとってはタブーとも言える。
無論、その常識を超えて新たな境地に立てる者も居る。
ただし、それを行うには何れかの魔術を極めた者だけであり、極めた術を一度放棄する覚悟を要するのだが…
ともあれ、それだけのリスクを伴う修法を彼はあの時以来…日課として行うようになっている。


意識のスイッチが魔術式へと切り替わる。
生が死へと流転し、境界を越えて世界が反転する。
セフィロトが起動し、上層世界から魔力が流入してくる。
全てのパスを通り満たされゆく感覚。
現実は幻想へ。
幻想は現実へ。
巡る神智は世界を変える。
魔力が全てのセフィラを満たすと同時に…
…アキラは、それを肉体と繋げた。


─瞬間


彼の世界は捻じ曲がり荒れ狂い鳴動した…
“竜氣”…それは生体から発せられるエネルギーであり、世界を満たす生命力であり、世界と自らを連結する力。
“魔力”…それは精神から発せられるエネルギーであり、世界を変える意志力であり、世界と自らを変革する力。
導き出される結果は同じでありながら、全く相反する形態の力。
二つが同じ所に働こうとすれば当然、そこには猛烈な干渉力が発生する。
魔力同士…または竜氣同士の反発というには生温い。
魔力と竜氣の干渉…それは、どちらかと言えば対消滅と言ったほうが正しい。
相反する力の合一……扱う力の量にもよるが……少しでも制御を誤れば行使者は破滅する。


「ぬ……く……っ」


額にプツプツと玉のような汗が浮かんでいく。
肉体と精神の両面からもたらされる苦痛に耐えるために歯を食い縛る。
苦痛の感覚を切断することは可能だが、それを行えば暴走の危機が高まる…ゆえにそれはできない。
制御を補助するために『神薙』を起動。
荒れ狂う力をマナを注ぎ込むことで制御。
徐々に内世界の鳴動は静まり、同時に圧倒的な力で満たされていく。
それを全身に巡らせながら、この力との親和性を高めていく。
そして数分後…力を完全に掌握した彼は訓練を終了し、全ての力を抜いた。


「っくぁぁぁ…合一から完全制御まで4分52秒…まだまだ実戦では無理だな。今更ながらジジイの凄さにゃ呆れるぜ…」


ジジイ…こと神薙 宗祇の顔を思い浮かべながらアキラは渋い顔をした。
アキラの世界でも3名も居ない対神級能力者…クラス9…その一人である宗祇は、この工程を実に一瞬で完成させる。
その実力の程を知れば知るほど、アキラは宗祇との距離が遠くなったような気がして鬱になるのであった…


「神剣持ってても勝てる気がしないからなぁ…生身であの戦闘力は犯罪だろ…」


軽くストレッチをしながら、今は遠い世界にいる祖父に愚痴を言う。
姿も何もかも変わった今では……もう会うことも叶わないだろう……
仮に会えたとしても、最早他人としか思われまい。
神薙の一族の中でも、最も敬愛しており幼少の頃から可愛がってもらった記憶があるだけに寂しい。
昔は少しも動かなかった感情が、今になって想いを形作っている…
自分が憧れ…遂に手の届かなかったものが今は在る。


「……それだけでも、あいつには感謝するべきかな……」


誰とはなく言葉を紡ぐ。
遠くの山嶺から、曙光が射す。
朝の光を眩しげに見つめると、アキラは来た道を戻っていった…




聖ヨト暦329年ソネスの月 青四つの日 昼
ダーツィ大公国 首都キロノキロ




「…それにしても…何故に俺が従者の真似事をしなければならないのだ…」


ぶつくさと呟きながらアキラは御者席に座り、エクゥ(馬)を操っている。
文句を言いながらも手馴れているところが彼らしいといえば彼らしい。


「あら、見目麗しいあたしを連れて城に入れるのよ? それにお父様からもきっと報酬が出るわよ。むしろ喜んでもらわないと」


車の部分……座席のソファに座って彼に答えるのはアルティール。
一応、ダーツィの公女だ…信じ難いことに。
アキラが助け出した時とは違い、今はそれなりの格好をしている。
ちなみに、彼女の上下から下着一式を買ってきた(買わされた)のはアキラだ。
元の世界とこの世界を含めても、アキラに屈辱を味あわせたのは現状では彼女ぐらいであろう。
彼がぶつくさ言うのも無理なからぬ事なのだ…


「全く本当に……来て早々に小娘の相手とは……」
「誰が小娘ですってぇ〜!」
「…すぐ挑発に乗ってくる命の恩人に素直に謝意すら言えないはねっ返りの小娘の事だが…自覚はしているんだな…」
「くぅぅ〜…あんただって見た目だけでしょうが!」
「これでも自分の実力には自負を持っている」


喧しく騒ぎ立てる彼女をフフン…と皮肉気な笑みを浮かべながらあしらう。
通行人たちは怪訝そうな顔をしながら目を向け…次には何事も無かったかのように目を逸らした。
まるで見てはいけないものを見てしまったかのように…


「ところで…先程から君が騒いでいるのを領民達が見ているのだが?」
「………はっ………た、謀ったわね!?」


謀ったも何も無く、彼女の自爆なのだが…それを指摘してくれる親切な者は誰もいない。
アキラはクックッ…と喉の奥で笑いを堪えるかのようにしている。
実の所、この姿を目撃した事で彼女の人気はより増していたのだが、知らぬは本人ばかりであった…




聖ヨト暦329年ソネスの月 青四つの日 昼
ダーツィ大公国 首都キロノキロ 城門前




城門前…衛兵達が詰めている場所の手前で馬車を止める。
直ぐに向こうから2名の兵士がやってきて、やや横柄な態度で用件を聞いてきた。
この手の対応には既に慣れきっているアキラは淡々と答えながら、馬車の中を指し示す。
怪訝な顔で中を覗いた兵士の顔が引き攣り、彼はすぐに馬車を通した。
公女の面目躍如の瞬間である。


「驚いた……」
「ふっふ〜ん…これが一国の公女の威厳ってものよ」


感心したかのようなアキラの言に、アルティールは胸を張って自慢する。
その目が見直したか! もっと褒めろ! と訴えていたが、当然ながら都合良くは行かないのが世の摂理。
次のアキラの科白が彼女に正面から炸裂した。


「…一応、真面目に喋れたんだな…驚きだ…」
「あんた…本当に失礼なやつね…」


アキラが驚いていたのは、その一点だった…
さっそく、彼と彼女の間で最近恒例となった視殺空間が展開される。
最早、両者ともこれを楽しみにしているような勢いだ…


「いやいや…君の猫被りにはとても及ばないさ…」
「「フッフッフッ…」」


奇妙な緊張感に包まれながら馬車は進む。
道行く兵士や女官達の奇異の視線を浴びながら…




聖ヨト暦329年ソネスの月 青四つの日 昼下がり
ダーツィ大公国 首都キロノキロ 城内




アキラは適当に遇され、今…客室の片隅で公女救出による報酬を受け取っていた。
まあ、世の中というものはこんなものである。
本来、何の地位もない一般人が一国の主から直接に礼を言われる事など無い。
こうして、城内で事務的に感謝の言葉を与えられ、恩賞を渡されるのみである。


「…とのこと…大公は誠に感謝しておられる。これは褒賞の20,000ルシルである…大公のお心遣いに感謝を忘れぬように…」
「ははっ…御心…ありがたく受け取らせて頂きます…」


儀礼的に褒賞を手渡す書記官に、これまた儀礼的に受け取る。
受け取る際に、公女の命は2万ルシルで買える訳か…とばかりに皮肉気な苦笑をアキラは浮かべる。
…が、低頭していたため気付かれることも無く…滞りなく儀礼は終わった。
そして、受け渡しが済んだならさっさと帰れと言わんばかりに兵士が入口の扉を開いた。
それに逆らう事無く、兵士の後について歩き出す。


(…うーむ…期限は今月一杯…ならば、先に見物を済ませるか…先に仕事を済ますか…それが問題だ)


どこまでもマイペースな悩みをしていた…
予定外の時間を使ってしまった事で、彼の漫遊計画(笑)に歪が出来ていたのである。
各町で2日は滞在して、十分に楽しむつもりだったのに余分な事をしたせいで実質3日も損失している。
調査と仕事に余裕を持って其々1週をあてようと思っていただけに、この時間的ロスは戴けなかった…


(流石に一国の公女を連れたまま観光する訳にはいけなかったからなぁ…)


公女とは思えない出会い方をしたアルティールの事を思い出して可笑しくなる。
一国の公女が野盗に攫われた挙句、倒錯的な格好で縛られている……そこだけでも十分に笑える。
しかし…まあ、勿体無かった…と思った所で、ふと気付く。


(…何故、一国の公女ともあろう者が護衛すら付けずに野盗如きに攫われたのだ?)


可能性を考える…
@護衛を付けていたが野盗に全滅させられた→ありえない。却下。
A護衛を付けずに変装して出歩いていた→ありえそうだ。凄くありえそうだ。
B護衛を付けていたものの、抜け出して散策中に攫われた→可能性大…だがケムセラウトに護衛が居なかった…却下。


(…状況から言えばAだな…彼女は明らかにウッカリ暴走して自爆するタイプだ…)


思いついた憶測が正しいと、無意味に彼の直感が回答した。
無意識にニヤリと笑ってしまう…




………

……






「…聞いているのですか! 姫様!」
「聞いてる。聞いてるわよ…まったく……婆やは気にし過ぎなのよ…」
「それに、そのような喋り方はお止めになるように申し上げたはずでございます! 仮にも大公家の御息女ともあろう者が…」
「も〜〜! いい加減にしてよね!………っくちっ!」


…いま正に説教されている最中であった…




………

……






「着いたぞ。後は真っ直ぐ進めば城門だ」


年配の兵士が城門を指差す。
軽く礼を言ってからアキラは歩き出そうとした…


「…姫様の事で迷惑を掛けたようだな…衛士一同…貴殿には感謝している」
「…心だけ受け取って置くよ…あんた等も苦労するな…」


互いに苦笑する。
あの、はねっ返りの公女に関わったものであればこそ、互いに通じるものがあったようだ。
そして、今度こそ本当に城門へと歩いていった…
今日、明日はキロノキロを巡り歩こうと心に決めながら…




聖ヨト暦329年ソネスの月 青五つの日 夕刻
ダーツィ大公国 首都キロノキロ




「で…何故に君がまた俺の隣に居るかな…」
「なによ…文句でもあるってーの?」


ダーツィで最も古い…老舗の料理店…
見た目では、まるで中華料理店のような趣をした店内で再び彼と彼女は出会った。
…単に相席になっただけなのだが…


「…アティ…君は本当に懲りてないな…また警護も着けずにウロウロと…衛士の連中が泣くぞ?」
「いーの、いーの。あたしが変装しただけで気付かない連中なんだから」


そういうアルティールは確かに髪を結い上げて軽く化粧をすることで変装している。
服装もカジュアルかつ活動的な装いとなっており、一見では単なる民間人にしか見えない。
だが、それで気付かないという衛士はどうなのだろうか?
はっきり言って、気付かないはずが無い。
そう思い、周囲に気を配ってみると思ったとおりに数名ほどの私服衛士(?)が居る。
ついでに見た記憶のある年配の衛士もだ。
軽く視線を送ると、沈痛な顔をして頷いた。


「…気付いてないのは君だけだと思うがな…」
「あたしの変装にケチつけようっての? アキラのくせに…」


俺のくせにってのはなんだよ…という表情をしながら蓮華でスープを掬う。
味や、その他の構成も料理としては中華料理に近い。
多少、洋風のアレンジが入っているが根幹部分は同じ思想のようである。


(…ふむ…中華的な要素があるんだな…これなら俺も作れるか…)


一つ一つの料理に頷きながら黙々と平らげていくアキラを見ながら彼女も箸を進める。
何気に箸という文化が浸透しているのも、この国の特徴であるようだ。
サーギオスが、どこかアメリカとイギリスを足してアイルランドで割ったような感覚であり、そこで長く過ごしていた彼にとっては
ダーツィという国の持つ、どこか東洋的な雰囲気は懐かしさを感じさせるものがあった…


「そう言えば…前から気になってたんだけど…どうして老舗の料理店ばっかりに寄り道してるのよ?」


何で? とばかりに興味津々の眼差しで聞いてくる。
彼女の問いにアキラは大真面目にこう答えた。


「なに…食を知ることは、その国の文化を識る事に他ならないと言うからな…その国本来の姿を知りたいだけさ」


アキラの言葉にクスクスと笑うアルティール。
その顔は、似合わないことを言うわね…と明瞭に語っている。
だが、その程度で機嫌を害する様な繊細な精神を彼は持っていない。
ニヤリと笑って仕返しの言葉を返してみた。


「……まあ、外国に渡ったことの無い子供には難しい話だったかな……」
「な、なんですっ………もごっ」


いつもの如く騒ごうとした所で、口の中にナキゼクと呼ばれている小龍包のようなものを放り込む。
この店の自慢の逸品であり、限定された数しか作らないと言う題目に相応しい味わいが彼女の口の中に広がる。
思わず大人しく、口の中のものに集中し始めてしまう。
警護の連中は知らない振りをしながらも笑いを隠し切れない。
どこか明後日の方向を見ながら、その衝動に耐え続けていた…


「…ごくん……な、なかなか美味しいじゃない……」
「品質を維持するために毎日、決まった数しか作らないそうだ………喰うか?」
「し、しょうがないわね…決してあたしが欲しい訳じゃなくて…あなたがくれるというから。か、勘違いしないでよね!」
「はいはい」


よく分からない理屈で理論武装する彼女の前に手際よく料理をよそっていく。
どこか目を輝かせながら、それを待っている彼女の姿を警護の衛士達は微笑ましく見守っていた。




………

……






「っていうか、いい加減に帰れ」
「どこにあなたに命令される謂れがあるってのよ?」


食事を終えて、夕暮れの道を二人で歩く。
彼が向かっているのは今、宿泊している宿屋。
いかにまだ陽があるとは言え、女…それも公女を安宿に連れ込むのは色々と問題がある。
変装していると言っても公女である以上、一部の民衆に顔は知られている。
それが誰とも知れない男連れで宿に入るのはいかにも拙い。


「…別に命令権は無いが…どこまで着いてくるつもりだ」
「そうね…あたしが満足するまで」


唐突に猛烈な頭痛が襲ってきたアキラは思わず自分の米噛を押さえてしまった。
どうも向こうの調子に乗せられているような気がしないでもない。


「俺は今から宿に帰るつもりなんだが……言ってる意味……分かるな?」
「分かってる…って言ったら?
だって…まだ借りも返せてないし…


彼にとってはGOサインも同然の反応だったが、彼は自制した。
3日以上前だったら、間違いなくそのまま事に及んだだろう…
しかし、今の彼には問題が山積みだった。
周り…特に警護の連中からの視線が痛い。
痛いというか…どことなく若い連中の気配は殺気混じりになってきている。
そして流石に、ここで暴走して色々と今後の展開を崩壊させる訳にはいかない。
まあ、今後も機会はあるさ…とばかりに結論を下す。


「…少しは物を考えてから言葉は口に出すものだぞ?」
「痛ったぁ! もう! なにすんのよ!」


額をピシャリと叩かれて涙目になる。
一世一代の決心をあえなく遮られて、何処と無く寂しそうだ。


「……また何処かに行くんでしょ? あたしには、今日しかなかったから……暫く出られなくなるし……」
「まあ確かに、俺にも色々と用事はあるがな…」


沈んだ声で告げる。
だが彼は飄々とした態度を崩さないまま。


「あんたは旅人。あたしは公女。今を逃したら…もう接点は無いと思わない?」
「どうかな…意外に明日あたり…顔を合わせる事になるかも知れないぞ?」
「……気休めは止めてよ……」
「ふむ…では約束しようか? 明日出会えたら今日の続きをする…」
「…明日から出られないって聞いた上で言ってるの? あんたバカ? もうこんな機会は無いのよ?」


まるで親に置き去りにされそうな子供のように袖口を握ってくる。
どうやら彼女にとって、彼の存在は思った以上に大きなものとなっていたらしい。
気兼ねなく口喧嘩できて、気兼ねなく話し合えて、素のままの自分を受け入れてくれる存在。
大公家であり、貴族でもある彼女にとって…彼は紛れも無く得難い存在だった。


「…心配性だな…これでも俺は出来ない約束はしない主義なんだ…」


普段よりも優しげに話し、軽く抱擁する。
彼女を腕に包んだまま、彼は年配の衛士に目で合図を送った。
察してくれるかは彼にとっても賭けであっただろうが、その衛士は意図を正確に掴み取ってくれたようである。


「お嬢様! 探しましたぞ!」


その声にビクリと彼女の身体が震える。
それは別離の予感…
それは夢の終わり…


「あれほど勝手に出歩くのはお止しになってくださいと申し上げたではありませんか…」
「…警護の方か…どうやら心配をかけさせたようだな…」


アキラと警護の衛士が会話を始める。
漢同士の視線には言葉は要らない。
互いが何を話し、何をすべきかは直感的に理解しているのだから…


「私共の手落ちで、ご迷惑をお掛けしました…この礼はいずれ…」
「いや、気にしないでくれ。此方としても楽しい時間を過ごさせてもらったのだから」


彼女の意向を無視して話は進められる。
彼の温もりから引き離される。
終わりは刻々と近づいてくる…


「…では、お嬢様…そろそろお帰りになりませんと…御父様もご心配なさっています」
「嫌よ」


一刀両断に拒否した。
周囲が唖然とした空気に包まれる。
衛士達のみならずアキラまでも…


「い・や・だ! って言ってるの! 何、あんたら? あたしの邪魔する気?」
「お、え? ひ、姫様?」
「…いきなり何を言い出すんだ?」


動揺する周囲。
だがアルティールは止まらない。
暴走する乙女は決して止まらないのだ。


「あたしが是と決めたものを覆したことがある? あたしは一度決めた事は変えない! やると言ったら絶対にやるの!」
「ひ、姫! 落ち着いて下さい!」
「これが落ち着いていられるものですかッ! いいわ…そんなにあたしを連れて帰りたいのなら…」
「は、はあ…」
「彼も連れて行くから拘束しなさい!」
「な、何故そうなるッ!?」


周囲の視線が纏めて突き刺さる。
お前か? お前が悪いのか?…と空気が圧力を伴って意思表示をしてくる。
さっきのしおらしさは演技か…とばかりに女の恐ろしさを再確認したアキラは思わず、じりじりと後ずさり…


「………では、また逢おう!」


決断すると早かった。
一瞬で路地に逃げ込み、建物の壁を跳びながら逃げ去る。
呆然とする衛士を尻目にアルティールは叫ぶ。


「絶対に捕まえてやるんだからぁぁぁぁぁ!!」


その叫びは、マナの減少で活気の衰えたキロノキロの街中に騒々しく響き渡ったという…




聖ヨト暦329年ソネスの月 赤一つの日 昼前
ダーツィ大公国 首都キロノキロ 城内




その日、アキラは黒龍将軍としての制装をしてキロノキロ城砦大公府を訪れていた。
無論、皇帝から賜った監査任務の遂行のためだ。
城門で、一度だけ兵士に誰何されたが三頭蛇の紋章…そして剣を喰らう黒龍の紋章を見て即座に城内に通された。
サーギオスの紋章…何より“漆黒の悪夢”の名が帝国同盟の中では絶対的なものとして浸透している証左である。
そのカリスマ性は、この世界では当然の如く内包されるエトランジェへの嫌悪という感情すらも容易く消失させる。


「黒龍将軍閣下ッ! 大公閣下が執務室にてお待ちです!」


完璧な敬礼を行い、若い兵士が豪奢な扉の前に立つ。
緊張のあまり血管が切れそうになっているが…それも無理なからぬことか…
黒龍将軍の位階は、皇帝直下。
更には皇帝の警護から助言。訓練まで全てを担っているという傑物。
立場としては同盟国の王族よりも上位なのだから。
自らの不手際一つで仕える主人に不名誉が及ぶことを考えると、そうなるのも当然といえる。
それを自覚しながら自己の任務を全うしようとする青年にアキラはやんわりと笑みを見せ、敬礼を返す。


「ご苦労…」


短く視線を交わす。
そして、漆黒の外套を翻すとアキラは執務室へと入室した。




聖ヨト暦329年ソネスの月 赤一つの日 夕刻
ダーツィ大公国 首都キロノキロ 城内




アルティールは憂鬱だった。
理由は単純である。
それは自らの父親から与えられた一つの命令にあった。
曰く、帝国の黒龍将軍が来ているから籠絡しろ…
要は、自分の体を使って知りもしない男を誘惑しろと言っているのである。
いかに彼女が大公位の継承権が下位であったとしても冷たい言い草だ。
幾ら帝国の援助が欲しいからといって自分の娘を淫売のように扱うのはどうなのか?


「……あのクソオヤジ……あたしを何だと思ってるのよ……」
「……我侭娘もたまには役に立つとか思っているんじゃないのかな?」


そう。まさに父親…アーサミにとってはそういう扱いであろう。
それだけに腹が立つのだ。
こうなってくるとやはり昨日と言う機会を逃したのは途轍もなく痛い。
よりによって初めてが…初めてが、知りもしない何者かになってしまうとは…


「今からでも遅くは無いわね……いっそ抜け出して、そのまま逃げちゃえば……」
「やれやれ…本当に懲りてないな…アティは…」
「って! さっきから誰よ! 美少女の悩みを盗み聞きしてんのはっ! っていうか馴れ馴れしく愛称で呼ぶなっ!」


思わず叫んでしまうアルティール。
叫んでから城の中だと言うことを思い出し、焦って周囲を確認…
…そして彼と目が合った。


「さて、昨日ぶり…とでも言えばいいのかな?」


昨日と同じ…飄々とした態度で話しかけてくるのは…彼女がもう二度と会えないと思っていた顔。
考えてみれば、アティという愛称は彼しか呼ばない。
アルという愛称は男性に使うものだからと言って、勝手にアティと呼んでくるのは彼一人だ。


「あ、あああ…アキラ? 何でこんな所に居るのよ!」


思わず白昼夢でも見てるんじゃないかと思って頬を抓ってみる。
…………痛い。


「何故? 昨日、用事があると俺は言ったはずだがな…」


苦笑交じりの顔。
いつも自分を対等に扱ってくれる存在。
彼女が初めて好きになった男が眼前に存在している。
それも帝国の軍装を身に纏って…
それを見て彼女は……


「な、なんでよーーーー!!」
「ぐがぁぁぁっ!?…………ぐ…ぐふぅっ………その拳で……世界を…………
(ガクッ)


…渾身のコークスクリューブローを彼の脇腹に叩き込んだのであった…



































「こ…これが…乙女の……真の力…なのか……」


違います。












To be Continued...





後書(妄想チケット売り場)


読者の皆様始めまして。前の話からの方は、また会いましたね。
まいど御馴染み、Wilpha-Rangでございます。


漫遊。ことプレジャートリップ編が始まりました。
今回はダーツィ…いや、多分次回まではダーツィ? もしかしたらバーンライトまで終わる?
すいません。私自身にもワカリマセン(自爆)
ちなみに微妙に展開がアレなのが悩みの種です。
ダーツィ……どこか中華風な趣のある国ということに勝手に決定(爆)
なお、ウルカ隊ごと漫遊すると期待していた皆さんには御免なさい。
スピリット差別の都合上、スピリットは連れて行けませんでした。
その代わりに登場した騒がしい新ヒロインが突っ込みを担当します。
なぬ? 突っ込みじゃないではないか…と? ご尤もで(ぁ
しかし、そろそろ次回予告を考えるのに意味があるのだろうかと悩み中です。
何しろ予告を入れると、予告の通りに展開させる必要が出ますから(笑)
いや、別に妄想のままだけで走ったほうが楽だとかは…イッテマセンヨ?



次回。永遠のアセリア外伝『人と剣の幻想詩』…第ニ章“アキラの同盟国漫遊記A”…乞うご期待。



「……楽しみだね…私が相手をするよ……」


独自設定資料

World_DATA
伝説の行動
口元の米粒を食べる。あ〜んと食べさせる等。伝説とされる行動各種の事。
何かと騒動の種となる。
別名、お約束(笑)


超音速全力飛行/HSSF
普通は戦闘機とかが行う。
流線型の障壁とラムジェットのように外気とマナを直接的に推力に変換可能なウィングハイロゥで初めて実現できる。
戦闘でも流用できると思われるが、そのクラスの速度での交戦は恐るべきGがかかるため自爆の可能性が高くなる。
そもそもが航空力学や飛行技術の発展していないファンタズマゴリアで音速を超える速度で飛行可能な存在は数少ない。
出来るとしても、それなりのエターナルか飛行型のガーディアン程度であろう。
超科学の産物とも言える浮遊大陸の技術や、虚空の開拓者であれば音速飛行は可能かも知れない…


野盗
盗賊の同類。
特に旅人などを狙って盗みや犯罪を働く集団。
士気は低く、団結力も殆どない。
通常の兵士団でも簡単に殲滅できるが、転々と本拠を変えるために駆除は面倒くさい。
よって、基本的に国や街にとって深刻な被害が出ない限りは放置される事が殆どである。
アキラ曰く。盗賊に人権無し。


倒錯的な趣味
まあ、ほら…色々とあるのだろう…
縛られないと燃えないとか亀がどうだの蜘蛛がどうだの…
ちなみにSMやBLなども倒錯的な趣味であることは間違いあるまい。
尚、筆者には倒錯的な趣味など無いことを明記しておく(爆)


竜氣と魔力
相反しながらも同質の結果を導き出す存在。
本文で解説されている通りである。
ファンタズマゴリアでのエーテルと同じく、人がマナを扱うための一つの形態。
エーテル変換施設のそれとは違い、マナ・ロストが発生しない。
何故なら、竜氣や魔力は自然や世界から引き出される力だからである。
ただし変換の際に、本人の活力を消耗するので無制限に行使することはできない。
扱いに熟練するほど、消耗する活力は効率化され、軽減されていく。
これらの異能は、特質的なものではなくメソッドであるために適切な施設や指導者がいれば一般人でも身に着けることが出来る。
まあ、基礎訓練や地味な鍛錬に数年の時間を費やす気があるのであれば…だが。


クラス9/対神級能力者
アキラの世界における能力者位階の最高位。
一切の装備や準備無しに対神性体戦闘を行える能力者のことを示す。

※以下は裏設定
多世界移動は不可能だが、所属世界内で限定するならエターナルを超える戦闘能力を持つ。
クラス9は世界自体の防衛意識機構と同調しているため、無制限の活動エネルギーを行使できるからだ。
第一分岐世界の「根」とも言える世界であるがゆえのシステムであり、各時間樹に数世界は同じようなものがある。
本来は転生者によって「根」の世界が“時間断絶”されることを防止するための抑止力的な存在。
ゆえに、クラス9が外世界に移動すると外世界の制限に合わせて能力を著しく制限されることになる。


クラス9:対神級
クラス8:神域級
クラス7:伝説級(エターナルに匹敵)
クラス6:人外級
クラス5:超越者
クラス4:異能者(エトランジェに匹敵)
クラス3:能力者(スピリットに匹敵)
クラス2:特殊人
クラス1:一般人


屈辱
屈して辱められること。
概して恥ずかしい思いをさせられること。
そりゃ、女物の服やら下着やらを買って来させられたら屈辱であろう。
店員に変な目で見られたことは間違い無いと思われる。


命の代価
公女救出の代価に受け取った2万ルシルのこと。
公女の命は2万ルシルで購えるんだなぁ…と誰かさんは黒い考えをしたらしい。
何にしても世知辛いお話である。


ダーツィ料理
それは中華の心。
多分決め手は火力にあるに違いない。
ちなみにキロノキロ名物はナキゼクとかいう小龍包のようなもの。


剣を喰らう黒龍
“漆黒の悪夢”を意味する紋章。
龍と言う存在が神剣を喰らう意匠に、どのような意図があるのかは不明。
同盟諸国にとっては畏敬をもたらし、敵対国には恐怖を与える。
何にしても重みを持った紋章であることは間違いない。


コークスクリューブロー
対HP効果:800 ※クリティカル確定
不意打ちとは言え、素手でアキラを悶絶させたことは評価に値する。
っていうかギャグだからか? ギャグだからなのか!?




Skill_DATA
※Nothing




Personaly_DATA
※Nothing




SubChara_DATA
アルティール・ダーツィ/Arthiel Duchy
身長:166cm 体重:48kg 人間。黝い長めの髪に紫を帯びた碧眼。Size:84/58/81
知的能力:かなり高い 精神性:感情的外向型 性格:活動的・自信家 容貌:少しキツめの美人
性別:女性
神剣:無し
年齢:20(外見17)
職業:ダーツィ大公国第二公女
解説:
ダーツィ大公国の第二公女。
上に兄と姉がおり、自らの継承権は低い。
そのためか、貴族としては比較的自由に育てられた。
自信家で、やや品のない言葉遣いをするのが特徴で、よく城を抜け出してあちこちに行ってしまう。
今回、野盗に攫われていたのも彼女の不注意が原因。
いかに賢く、腕が立つとはいっても護衛も付けずに歩けば数差の前にああなるのである。
今回の一件から帝国大学に入学することになるのだが…それはまた別のお話。
アキラと付き合ううちにファンタズマゴリアの異常性について考え始める事になる。



「あたしが是と決めたのを覆した事がある?」




Eternity Sword_DATA
※Nothing