???


「表題検索。言語条件:聖ヨト語。目的情報:システム。関連情報:エターナル。RSA:8.24.172.125……実行」


─検索結果該当…398件…基礎条件数位を超過。類似情報排除開始。自動再検索実行…4件


「参照開始」


─@エーテル変換システム。Aエトランジェ・システム。Bスピリット・システム。Cガーディアン・システム。


「@、Cを参照索引設定。A、Bをイメージ転写。実行」


─転写完了。


「表題検索。目的情報:システム。関連情報:テムオリン。『秩序』……実行」


─検索結果該当…1件


「参照開始」


─@世界破壊システム


「@をイメージ転写。実行」


─転写完了。


「アカシャ接続終了。フィルタリング設定7までを順次解放。境界領域を虚数隔離。許容係数9.75。実行」


─シャットダウン命令を認証。境界領域再構成まで…3…2…1…完了。アカシャ接続解除完了しました。




………

……






「サンクス、サラ。お陰でかなりの情報が集まった」
「どういたしまして、マスター♪ でも、無理しないで下さいね? この前みたいな時は遠慮なく私を呼んで下さい」


サラの言葉に、つい先日の事を思い出す。
あの時、さしたる被害も出さずに事が済んだのは奴らに見逃してもらったからだ。
当てにしていたトキミとか言うエターナルが居なくなった段階で、既に勝敗は決していた。
もし、奴らがその気になっていたら今頃は俺も帝都もこの世から消滅していたことだろう。


「しかし…世界破壊システムねぇ…所謂、仕組まれた破滅というやつか…」


アカシャから引き出された情報…それは完全に俺の予測を超えていた。
まさか、降りた先の世界がまさに計画の只中にあったとは…相変わらずの悪運に辟易してくる。


「まあ…私としてはマスターさえ居てくれれば世界なんてどうでもいいんですけど…」


サラが呟く…だが、彼女には俺がどう思うかは既に分かっているのだろう。
すでに数ヶ月も一緒に居るのだ。


「言わなくても分かっているだろうが……一応言うぞ?
気に入らんから、この計画は潰す。ここまで関わったしな……」
「やっぱり……」
「嫌か?」


俺も答えを分かっていて問いかける。
今更だが、意志の再確認というやつだ。


「いいえ。私はいつもマスターの思うままに♪」


そう言って嬉しそうに俺の腕を取ってくる。
柔らかな感触と体温が心地良い。
って…ん?


「……少し大きくなったか?」


「…赤ちゃんですか?」


「違うわアホ剣ッ!!」




お約束の如く発動した天然ぶりに頭を痛めながら俺は今後の計画に思いを馳せるのであった…









永遠のアセリア
The Spirit of Eternity Sword

〜人と剣の幻想詩〜

第二章
“Oath and Emperor”
ACT-2

【暗闘】
- The Conflict “Dirty Works” -




聖ヨト暦329年ホーコの月 青ニつの日 昼
帝都サーギオス アキラの自室




「…と、そういう状況ですね。分かっていたことですが、円卓ではあの件に関しては否定的です」


淡々とラハーチィが現況報告を行う。
それをアキラとウィルハルトは黙って聞いていた。
ここ最近は宮中ですら堂々と謀略・諜報戦が行われているため、重要な話はこの部屋ですることになっていた。
理由は、ごく単純なことである。
この部屋は『神薙』によって完全に管理・支配されており、情報漏洩の心配が皆無に等しいからだ。
それ以外にもアキラ自身の諜報戦に関する知識は頭抜けており、目に見える範囲内の書類は全て偽装されている。
激烈を極める現代世界の諜報戦と比べれば、この世界の諜報戦などは児戯にも等しいのである。


「…になっており、急進派の中には強硬手段を検討する声も上がっています」
「ふむ…余も嘗められたものよな…」


ラハーチィの報告に渋い顔をするウィルハルト。
だが、その表情には些かの動揺も怯惰も無い。
そこに在るのは、ただ王者の威厳のみ。


「あれだけこちらが妥協してやってもこの有様だ…呆れたものだな…目先しか見えていないようだ」


軽く肩を竦めて苦笑するのはアキラだ。
顔は笑っているが目は笑っていない。
その目の奥には底冷えするような何かが潜んでいる。


「どちらにしろ暴発は時間の問題かと思われます」
「…近衛と第3旅団を動かして早めに消火するべきか…」
「いや…どうせなら派手に燃え上がらせてやれ。その上で徹底的に不名誉な最期を与えてやるさ」


それぞれの発言に対し、にこやかにアキラは物騒な発言をする。
思わず顔を見合わせる二人…微妙な沈黙を伴って視線が集中した。


「「………」」
「…な、何故に俺をそんな目で見る?」
「いや…お前を他国に取られずに済んでよかったと思ってな…」
「…バルガ・ロアーの悪霊も貴方には負けますね…」
「酷い言われようだな…俺は今後の状況も考えて確実な手段をだな…こら! 目を逸らすな!」


二人の弁に慌てて反論を開始する。
当然ながら、それが効果を発揮することはなかったが…




聖ヨト暦329年ホーコの月 青三つの日 夜
帝都サーギオス ???




「して、計画は如何様にして進めるべきであろうな…」

「まず、最低限としてスピリットの動員は避けられまい。幸い、第3旅団以外はこちら側が掌握している」

「……それなのですが…残念ながら私の第1旅団は参加できそうにありませんな……」

「貴様…臆したか!?」

「いえいえ…先程、陛下よりバーンライトの戦力拡充のため教導支援に赴け…との命を受けましてね」

「……先手を打たれたか……いや、実際にバーンライトへの支援は以前より議題となっておったが…」

「…そういう訳でして…第1旅団の少なくとも半数はバーンライトへと連れねばなりませんな」

「…半数…と言ったな…残る半数はこちらで使っても構わぬのだな?」

「それはご随意に…私は準備がありますので、後の事はお任せ致しますよ…」

「行ったか…まあ良い。ともかく第1旅団の半数と第2旅団は動員できるな…兵士と他の諸侯への根回しは?」

「現在、かなりの数の同志を得られています…ですが、下層階級の者は動員できないでしょう」

「ふん…無知蒙昧の輩を加えても役に立つまい…して、訓練士のほうはどうなっておる?」

「帝都配置の訓練士は例外無く我らへの協力を約束しております」

「流石に他国への牽制上、正規軍は動かすわけにはゆかぬが…これだけの戦力さえあれば問題あるまい」

「……と、なりますと……後はタイミングの問題となりますか」

「その件ですが…近いうちに第3旅団はマロリガンの偵察任務に就くとの情報があります」

「なんと! まさしく天佑よな…」

「全くです。時も…運すらも我らに味方するとは…」

(……それすらも演出された好機に過ぎないものを……簡単すぎて張り合いが無いですね……)

「新たな夜明けは近い…皆の者…今暫くの辛抱だ」

「同志の諸君…この血判状にサインを……」




聖ヨト暦329年ホーコの月 青ニつの日 深夜
帝都サーギオス アキラの自室




「…今日は月が紅く見えるな…」


身体が蕩けるほど愛し合った後…彼は突然そんな事を言い出した。
私を胸に抱いたまま差し込む月光に眼差しを向ける。
彼が時折見せる、その表情を見ていると私はいつもどうしようもなく切なくなってしまう。
それが他の娘達には決して見せない表情であるなら尚更だ。


「赤のマナが強くなっているのね…まだ青の週なのに珍しいわね…」


彼が答えを求めていない事を承知の上で口を開く。
沈黙が、この温もりすらも奪い去ってしまいそうで怖かった…ということもあるけど…


「いや…な。俺の世界では、こんな夜は世界中の人間が悪巧みをしている…なんて言われているからな」
「……あら、悪巧みは貴方の専売特許じゃなかったの?」
「…酷いな…」


私の言葉に苦笑して、優しく抱きしめてくれる。
激しい交歓ではなく、どこまでも優しく包まれるような接触。
包まれるような…溶け合うようなフワッとした感覚が私は好きだった。
感情と身体の交わりが…どこまでも気持ち良くて…どこまでも安心できる。
それと同時に、この時間を失ったときの事を考えると……心が壊れてしまいそうなぐらいに不安になる。


(……以前は…こんな事…思いもしなかったわね……私は弱くなったのかしら……)


彼の温もりを感じながら自問する。
あの頃と比べて…私の戦闘技術も精神も…格段に強く成長している。
でも、それは仲間達や彼の存在が背後にあるからだ。
それを失った状況で、私は以前のように戦えるだろうか?


……考えるのも嫌だった……
このどうしようもなく残酷な世界で…私達は奇跡的に幸運だ。
スピリットの立場で、仲間も信頼も愛さえも手の届く位置に私達は居る。
その要である彼を失う訳にはいかない。
いえ…失えない…私自身のためにも。


「…そんな不安そうな顔をするなよ…」
「んぅっ…」


不安が私の顔に出ていたのか、彼が強く私を抱きしめ…口付けする。
舌と唾液が絡み合い、熱い感覚が下腹部から上がってくる。
先程の不安をも押し流してしまう幸福感と充足感で私が満たされていく…


「ふ…ぁ…ぷ………も、もう…強引なんだから…」
「自分の腕の中で不安そうな顔をされると落ち着かないんでね」
「くすっ……ごめんなさい」


視線を交わして笑いあう。
彼に心配してもらえているという事実すらも心地良い。


「…でも…他の娘達にも同じ事を言ってるんでしょ?」
「否定は出来ないな…」
「普通は上辺だけでも否定するところよ?」
「君に嘘を吐いても仕方が無い…それに、他の娘には弱い所は見せられないしな…」


暗に私が特別であることを揶揄されて、くすぐったくなってしまう。
彼はこういう所が本当にずるい。
実際にはどうか分からなくても、そう言われたら怒れないじゃない…


「私の前では弱くてもいいってこと? 複雑な気分ね…」
「いや…ほら…最初で既に情けない所を見せてしまったしな…」
「謙遜ね…あの時から、貴方の弱い所なんて数えるほども見てないんですけど」
「むう……そう言われると弱いぞ……」


弱ったな…とばかりに苦笑する彼を見て、今度は私から口付けする。
再び絡み合う舌が互いを求め合う。


「ふふっ♪ さっきのお返しよ♪」
「やれやれ…この負けず嫌いめ…もういい加減に寝るぞ」


差し込む月光の中…温かい気持ちで抱き合う。
私達はそのまま互いの体温を感じながら眠りに落ちたのだった…




聖ヨト暦329年ホーコの月 青五つの日 昼前
帝都サーギオス 訓練場




「よし! ここまでだ!」


アキラの掛け声を聞いてスピリット達が訓練を中止する。
直ぐに整列し、アキラの次の指示を待つ。


「いい加減、俺のやり方にも慣れてきたようでなによりだ。皆、当初とは比べ物にならないほど成長したな」


訓練士としての厳しい表情を笑顔に変え、アキラは告げる。
彼の笑顔に何名かが赤面したが、その辺りの事情を気にするつもりは毛頭無い。
彼自身、その状況に慣れてしまっていた…という部分も多分にあったが。


「最初は心配だったが…杞憂だったようで何よりだ。この調子で精進しろ!」
「「はいっ!」」
「良い返事だ……尚、明日からはマロリガンまで旅行だ。残った時間は自由に使え。疲労を明日に残さないようにな」


旅行…と聞いて、一同に若干の緊張が走る。
旅団に於いて“旅行”というのは須らく任務の事だ。
特に第3旅団のそれは概ね全うな任務では無い事が殆どである。
ウルカ隊の時からそうだったが、皇帝直属となった今でも本質は変わっていない。


(…ふむ…緊張はあるが気負いは無いか…)


スピリット達の反応を見ながらアキラは心の中で安心する。
既に特務と暗闘…膨大な量の血で汚れた自分自身ならともかく、目の前の少女達にそれを要求するのは酷だと思っていた。
しかし、彼女達は十分に自分の立場というものを知り、何を為すかの覚悟もできている。
例えそれが世界の強要した在り方だとしても、覚悟の有無は生死に直結する重要なファクターだ。


(………)


大丈夫だろう…とアキラは判断する。
それに何かあったら自分や先任者達でフォローしていけばいい。
特に問題とはなりえない。
そう決めて、解散させることにする。


「ウルカは少し話があるから残れ。残りは解散! 風呂は浴びておけよ?」
「やった♪ ボクもアキラとお風呂〜♪」
「わ、私も!」
「…はいはい。アキラはウルカ様と話があるんだから、また今度にしましょうね」


セラがそう言ってルーテシアとセシルを引き摺っていく。
他のスピリット達も笑いながら去っていく。
そして訓練場に残るのはアキラとウルカだけになった。


「…して、アキラ殿…手前に何か?」


真面目な顔でアキラを見上げる。
それを手で遮ると、まずは座ろうか…とアキラは言った。




………

……






アキラ殿と共に訓練場の端にある長椅子に座る。
長椅子…と言っても、然程の大きさではないゆえにどうしても近い位置になる。
唐突に以前の騒ぎの事を思い出し、手前の心臓は早鐘を打つかのごとく加速していく。
い、いや…決して手前は良からぬ懸想をしている訳ではなく、その…


「…まあ、話というのは任務の事なんだが………どうした。調子でも悪いのか?」


スッ…と掌が額に当てられる。
広くて温かな掌の感触は今までに手前が感じたことの無い安らぎを与えてくる。
そう。人間で言うのでありますれば…こ、…いえ…父親のような。
無条件に信頼できて安心できる存在………はて…任務? 今、任務と言われたか?
茫…と仕掛けた精神を引き締め、手前は常在戦場の心得を取り戻す。


「いえ…申し訳ありませぬ…ところで手前1人を呼ぶ理由をお聞かせ願えますか?」


確認のつもりで聞く。
同じ任務であっても手前のみを呼ぶとあらば裏の事情というものが関わっているのでありましょう。
ならば手前は部隊長として、彼の期待に応えねばならぬ。


「予想しているとは思うが…今回の任務…勿論、裏の事情がある」


アキラ殿の言葉に無言で頷き先を促す。


「今…中央でキナ臭い事になっているのは知っているな?」
「はい。手前は詳しいことは知りませぬが…噂だけならば…」
「敢えて機会を作って一網打尽にする」


何でもないことのようにサラリと言い切った…
流石に手前も驚く。


「…一網打尽と言われましても…どうされるのです?」


手前の言葉に軽く瞑目する様を見ながら考える。
果たして彼は何を求めているのか…さりとて手前の及ばぬ深謀があるのやも知れぬ。
ところが、口を開いた彼の言葉は手前の思いもよらぬものだった。


「…その前に一つ聞こう……ウルカ……剣を振るう意味。もう手に入れたか?」
「─ッ! そ、それは……」


ここ暫く忘れていた自問。
己が剣を振るう意味…それを指摘されて押し黙るしかない己が身…
その余りの情けなさに涙したくなってくる。
言われて思い出すことで手前の中に再び“存在意義”という名の疑問が浮かび上がる。


「……その様子だと…まだのようだな……」
「……返す言葉もありませぬ……」


手前の言葉に軽く嘆息して自らの髪を整えるアキラ殿。
その短い沈黙が、今の手前には何より耐え難い…


「ウルカ…これでも俺は君の事を買っているつもりだ…」
「この身には過ぎた事ですが…感謝いたします」


今は…彼の持っている手前への期待が重く感じる…
剣の声も聞こえず…剣を振るう意味も見出せない手前は…彼の期待に応えることはできぬであろう…
…このような惰弱な心では…とても彼の期待を満たすことはできまい。
これから先の任務で…手前が彼や部下達の足を引っ張る可能性を考えると…


「……アキラ殿………手前は……」
「……殺せないということに引け目を感じている……」


思わず息を呑む。
その指摘は正しく手前の悩みを突いていたゆえに。


「奪った命の多さと重さに気付いたから。責任の所在に気付いたから」
「……」


それも正しい。
声が聞こえなくなった…従うべきものが無くなった。
ゆえに手前が剣を振るう理由が欲しい。


「20,848人…」
「それは…どういう意味でありましょうか?」


懐から銀の箱を取り出し、中から一本の煙草を引き出す。
無表情に…そのまま口に銜える様が、何故か彼を人形のように感じさせる。


「……元の世界で少なくとも俺が直接の原因となって犠牲にした命の数」
「ッ!?」


驚愕し、思わずアキラ殿の顔を見つめてしまう。


「驚くだろ? ラキオスとバーンライトの人間を殺し尽くして尚、足りない…」


自嘲するかのように口元を歪める。
されど目は死んではいない…少なくとも、その事実に潰されてはいない…


「失った命が還る事は無い…許される事も無い…だが、俺は奪った命に後悔だけはしない」


これだけの死を背負い…何故、普通で居られるのか…
自らに架された罪の数々を認めながら…何故、あのように笑えるのか…


「…俺が後悔したら、奪った命の誇りが失われる。それこそが魂の冒涜だ…後悔するぐらいなら…可能性を未来に紡ぐ」


銜えた煙草に火が点けられる。
どこか甘い香りのする紫煙が天へと昇っていく。
手前は何も言えない…答えられない。


「……ウルカが紡ぎたい未来というのはあるかい? 護りたい大切なものでもいいぞ」
「……手前は……」


優しく掛けられる言葉に想いを馳せる。
手前が欲しい未来…護りたいもの…
部下達…アキラ殿……手前らが心配なく笑いあえる…そんな未来があるのでありましょうか?
いや、それが無いとしても…手前はそれを手にしたい。
その為ならば…手前は如何様な障害をも斬ることができる!
新たな決意が手前の中に満ちていく…


「……見つけたようだな?」


ニヤリ…と笑うアキラ殿。
確かに…理想は手前の心の中に…
自らの禍々しさを怖れ…神剣の声からも捨てられ…戦う意義すら得られなかった…
スピリットとして外れていた手前にも、今…剣を振るうべき理由が見つかった。
もし、この理想を為すことができれば…手前が斬ったスピリット達も浮かばれよう…
身を震わせる歓喜に一筋の涙が零れ落ちる…


「……アキラ殿……手前は……漸く…漸く……」


幼子のように涙を流す手前の頭を、くしゃりと撫でる大きな手…
あの娘達が喜ぶ理由が良く分かる…この無条件に感じられる安心感…手前らには得られなかったものだ…


「俺達は力を持っている…そして、力を持つ者は常に自らの力に責任を持たなければならない…
 武力だろうが権力だろうが同じだ。揮うべき所で揮わず…使うべきでない所で使えば…後に待つのは破滅だけだ」


思えば…アキラ殿は力がもたらす悲劇というのを誰よりも深く理解しているのでありましょう…
自らが奪った命や背負った罪すらも誇れるような生き様…失われたモノに意味を与える生き様…
…それを貫くためには一体どれ程の強さを要するのか…


「ま、俺も…その事実を受け入れられたのは最近の話なんだがな…」
「いえ…それでもアキラ殿は、こうして手前らを導いて下さる……それで十分です」
「あまり頼り過ぎるなよ? 纏めて倒れちまうかもしれないからな」
「ふ……その時は手前が引き起こすと致しましょうか」


軽口を叩きあい、長椅子から立ち上がる。

今の手前は身体も心も満ちている。

これより如何なる任務があろうとも…それを成し遂げられる自信がある。

そうして、手前とアキラ殿は任務に関する詳細を詰め始めるのでありました……




聖ヨト暦329年ホーコの月 赤四つの日 昼
帝都サーギオス アキラの部屋




「さて…本日の夜警だが…予定通りに貴族派の連中で固まっている。連中が動くのは今晩と見て間違いないだろう」


俺は目の前の二人に向かってそのように断言した。
城内警備の配分は俺一人で決定している事柄ではない。
そして、あえて警備のローテーションに微細な変更を加えることで向こうに機を与えていたのだ。


「連中はスピリットを使って陛下の身柄を狙うだろう…穏便に退位を求めるか…または排除するためにな」


そう。ここに俺が残っている以上、奴らはスピリットを動員せざるを得ない。
そしてスピリットを指揮するために貴族系の騎士や兵士を使うことも間違いない。
この国の貴族は血盟主義が強い。
ゆえに、皇帝以外の命令で動くとなれば同族からの指示以外にありえない。
そのため本人が表に出なくとも、指揮系統から全て引っ張り出すことが可能だ。
だが、ここで尻尾切りをされるのも楽しめないので、俺はさらに確実な手を使うことにした。


「そこで…陛下には囮になってもらおうと思う」
「……しかし…それは流石に危険ではありませんか? 私の証言だけでも十分でしょうに……」


俺の言葉にラハーチィが反応する。
尤もだが、それだけではダメなのである。
尻尾を切らせない…逃れようの無い状況に連中を追い込む必要がある。
後で冤罪だと騒がれるわけにもいかないのだ。


「後々に冤罪を理由に内乱が起こっても困るんだよ…だから逃れられない立場になってもらわないといかん」
「…良いだろう。余が囮になればよいのだな?」
「陛下!」


流石…俺が感じた王者の素養は間違い無かったようだ。
ニヤリと笑って頷き、『鳴神』を手渡す。


「いざと言う時のために持っていてくれ。陛下の剣腕なら十分に使いこなせる」
「うむ…預かろう」


鷹揚に頷き、『鳴神』を受け取る陛下。
その腕前は以前に見た。
剣の才能自体は俺を凌駕している。
『鳴神』に追加したラインからエーテル変換施設の力を引き出せれば十分な戦力を発揮してくれるだろう。
この辺りは『偽典』から得られた情報が物を言ってるな…
…いつか向こうで会ったら礼を言っておくとしようか…


「……所でアキラ様…私には何も無しですか?」
「今晩沢山くれて……うぉっ!?」


ヒュゴッ…と音を立てて投げナイフが掠めていった…
こ、怖えぇぇぇ…からかうのも命がけかい…
何か最初の頃のセラを思い出すなぁ〜


「アキラよ……お前は本当に無節操だな……」
「冗談に決まってるだろ! 本気で溜息つくなよ!」
「今更言うのも何ですけど…今は真面目な話をお願いします」
「やれやれ…分かった分かった…んじゃこれを」


先程投げつけられたナイフに魔力付与を施す。
限定的ではあるが…エーテルによる能力強化が働くように変換施設へのリンクを確保。
いや…本当に便利だ。
奴は紛れも無く天才だった。
そのお陰で俺は楽ができる♪


「それは私が投げたナイフですが……ひょっとして私を馬鹿にしていますか? していますね?」
「馬鹿になんてしてないよ…チィ…今、このナイフにエーテルを付けたから…」


詰め寄ってくるラハーチィを瞬時に抱き寄せ至近距離から視線を合わせる。
瞬時に硬直する彼女の唇に指を走らせる。
最近、この手の対処に慣れている自分が酷く鬱だ…
…もう運命と割り切ったが…


「…エーテル変換施設とのリンクにより…これを持っていれば限定的にではあるがスピリットに対抗できる…」
「ちょ…だめ…耳は弱いの……ふぁっ…待って…お願い」


彼女の弱点を弄びながら耳元で囁くように息を吹きかける。
ああ…何か楽しい…癒される…ふふふふふ……あ、なんだかデジャヴュ♪


「いい加減にせぬか! このセクハラエトランジェ!」
「んがふっ!?」


後頭部に突然の衝撃。
痛えっ! まて! 流石に曲がらず折れずが身上の『鳴神』で殴られると死ねそうなぐらいに痛いんだが!?
俺から解放されたラハーチィは床にへたり込む。
俺も思わず頭を抱えて苦痛に耐える。


「………あのな? 幾らなんでも…それで突っ込まれると……死ねそう……」
「自業自得だバカ者。やるなら迷惑にならぬ所でやれ!」
「…いや…やっていいのか?」
「既に手遅れだからな…」
「「…………」」


こうして俺の部屋の中に何とも間抜けな空気が漂うのであった…
一応、その後…ちゃんと作戦は立ててから解散したとは明言しておこう。




聖ヨト暦329年ホーコの月 赤四つの日 夜
帝都サーギオス 謁見の間




「何とも呆気ないものよな……」


サーギオス皇帝ウィルハルトは足元に跪かされている逆臣達を眺めながら呟いた。
結果的に彼らはアキラの策には嵌らなかった。
いや、策を弄するまでもなく自滅したのである。
スピリットや騎士に囲まれ悠々とやってきて、わざわざ円卓会議の総意とばかりに彼の前で退位を迫ったのである。
それも退位に同意する貴族達の署名と共に。


実際にアキラが居ないのであれば、それで良かっただろう。
だが、用意された機に食いつき…確信した勝利とばかりに慢心して、墓穴を掘ったのだ。
また彼らが連れてきたスピリット達との戦闘になるかと思いきや、それすらも起こらなかった。
彼女達は、自らの意志でアキラとウィルハルトに協力することを選んだからだ。
例外は、ソーマの妖精達であったが…それすらもアキラの一睨みで大人しくなった。
更に、非番だったはずの騎士や兵士達まで自発的に集まってきた所で連中は降伏した。
叛乱とも闘争とも言えない間抜けな戦いは、本当に一瞬で終わっていた……


「正直…俺は物凄くガッカリしているぞ……こう…もう少し歯ごたえがあってもよかったと思うんだが…」
「……アキラよ……お前の世界の常識というものは、少々行き過ぎておるようだな…」


お互いに苦笑をしつつ、これからの処分を考える。
結論は言うまでも無いが…片端から一族郎党皆殺しにする訳にもいかない。
だが、皇帝に叛乱し弑逆しようとしたからには死罪以外にはあり得ない。
やり過ぎは更なる叛乱を招き…足りなくば懲りない輩が出るのは必定。
そこをどの様に解決するかが今の彼らの課題であった。
足元で醜く助命を訴える声を煩わしく聞き流しながら彼らは思考する。


「…アキラよ…この場合、帝法ではどうなる?」
「首謀者含め賛同者は死罪。関連する一族の10歳以上の男子も死罪。財産は没収」
「……ふむ……」


思案するように目下を見回すウィルハルト。
若いながら威厳に満ちた視線に射られ、次々と顔を蒼くしていく…


「……一応、今後の事を考えれば軽率な判断は更なる混乱を招く……と言っておくぞ……将軍として」
「…分かっておる…」


アキラの言葉に渋い顔をする皇帝。
暫時、瞑目して直ぐに決断を下す。


「皇帝の名に於いて命ずる。此度の首謀者含め賛同者は家名没収の上、死罪とする……」
「…連れて行け。刑の執行に関しては明日中に指示する」
「「ハッ!」」


騎士やスピリットに監視されながら叛逆者達は連れ去られる。
中には既にショックで痴呆のようになっているものすら居たが、アキラ達は気にも留めなかった。
そのような醜態を晒したくなければ最初から叛逆など企まねばよかったのだから。


「一族に関してはあれでよかったのか? 今後の憂いになるかも知れんぞ…」
「なに…邪魔者は消えたのだ。後はお前の示した法を成立させれば自然に無能は排除されよう…」
「…そこまで考えているなら何も言わないがな…」
「今回の件で帝国内部の腐敗…その殆どは排除できた…後は真に優れた者達こそが上に立てる仕組みを作るのみ」


皇帝の意匠が凝らされた外套を翻し、ウィルハルトは歩き出す。
それに続きながらアキラは考えていた…
…果たしてそれを、あの白き幼女は認めるのだろうか…と。


(…更なる備えが必要になるかも知れんな…)


心の中で呟きながら、いずれ来るであろう時を考える。


(…タイムリミットは、そう遠くは無い…か…)


うっすらと放たれる『誓い』の強制力を中和しながら考える。


(いざとなれば…四神剣全ての破壊も考える必要があるな…)


そう…エターナルの計画の一部。


エトランジェによる大規模戦争…


カオスの介入を防ぐために考えられた、その世界の住人達に行わせる自滅的システム。


世界の暗闇で行われる闘争に関わることをアキラは選択しつつあった……











To be Continued...





後書(妄想チケット売り場)


読者の皆様始めまして。前の話からの方は、また会いましたね。
まいど御馴染み、Wilpha-Rangでございます。


暗闘…見えない所で繰り広げられる戦い。
人間が起こすものもあれば、神が起こすものもある。
気に食わないというだけの理由でエターナルの計画に抗する事を決めたアキラ…
サーギオスを掌中にすべくウィルハルトと共に歴史を駆ける。


最近アキラが真面目に行動していて楽しく無いぞ〜!
もっとギャグ成分をくれ〜(笑)
という訳で、次回は多少軽めにいきたいと前向きに善処してみます。



脳内妄想列車はトランスフォーメーション準備中!(マテ



次回。永遠のアセリア外伝『人と剣の幻想詩』…第ニ章“アキラの同盟国漫遊記@”…乞うご期待。



「……食を知ることは、その国の文化を識る事に他ならない……」


独自設定資料

World_DATA
「気に入らんから…」
アキラがエターナルの計画を潰すと明言したときの台詞。
しかし、気に入らんからというだけの理由で計画の足を引っ張るというのはどうか?
そして現時点の圧倒的戦力差を考えて物を言って下さい。お願いですから。


「赤ちゃんですか?」
いや、できないでしょ?
っていうか、仮に出来たときにどんな存在が生まれるのかが非常に怖いのですが…


諜報戦
つまりはスパイや工作員を使って行われる情報戦争。
情報を制したものこそが戦いを制するのである。
現代世界の諜報戦はそれはもう熾烈で変質的。
暗殺の危険も考えればアドレス帳の蓋やケトルの蓋すらも安心して開けられないぐらいである。
…こう考えるとファンタズマゴリアって割と気楽な世界ですよね?


血判状/血盟書
志を同じくするものが一つの事に当たる際に、名を記すもの。
互いの命運が一蓮托生であることを示すと共に、裏切りをさせないための予防策でもある。
また、中世社会であれば国主に命を賭けて嘆願…または弑逆するときの御免状ともなる。
一個人が国主を殺せば単なる犯罪だが、血盟書に基いて殺せばそれは政治的手段として判断されるのである。
当然だが逆に、事が失敗した場合にはこれが原因となって芋蔓式に粛清されることは間違いない。
良くも悪くも一団の同志の命運を左右する重要文書。


各国の人口
読んで字の如く。各国の人口である。
ファンタズマゴリア……特に大陸の人口だが、我々の世界と比べると余りにも少ない。
以下に各国の総人口を示したいと思う。

※数値はオフィシャル小説より抜粋。
ラキオス:約1万人
バーンライト:約0.9万人
イースペリア:約1.3万人
ダーツィ:約3万人
サルドバルト:約4万人
デオドガン:約1万人
マロリガン:約5万人
サーギオス:約14万人


セクハラエトランジェ
今更解説の必要性があるのだろうか?
言うまでもなく奴の事。
むしろエロランジェと呼んでやれ!
戦後…気がついたら隠し子が沢山いそうで怖いぞ(笑)




Skill_DATA
※Nothing




Personaly_DATA
※Nothing




SubChara_DATA
ラハーチィ/Laherchy
身長:168cm 体重:49kg 人間。黒髪茶瞳。Size:83/58/79
知的能力:高い 精神性:理性的内向型 性格:丁寧。微妙に慇懃 容貌:魅力的
性別:女性
神剣:無し
年齢:33(外見23)
職業:サーギオス帝国所属工作員
備考:SLAST同調者
解説:
現在、アキラ付きとなっているメイドの人(笑)
蟲惑と清純が同居したような外観の持ち主で、これを利用して様々な情報を集めてくる。
元々は貴族側からの暗殺者として送り込まれてきた。
スピリットの戦いで家族を失っているため、エトランジェやスピリットといった存在を憎んでいた。
アキラに対しても何食わぬ顔で夜伽とばかりに迫り、致死毒が塗られた針を突きたてようとする。
最初は関わる気は無かったものの、彼の行動…打ち出される政策を見ているうちに自発的に協力するようになっていく。
ちょっとした手違いでSLASTに同調・感染してしまっている。
ちなみにエシュリィと仲が良い。

※名前と運命はアセリア舞台劇の登場人物から頂いていますが、彼女とは別存在という扱いです。



「…そろそろお休みになっては如何でしょうか? 宜しければ永遠に…」




Eternity Sword_DATA
※Nothing