???



「ですからっ! ついこの間から“向こう”の未来が見えなくなったっていってるんです!」


日本…神道の紅い巫女服を纏った少女が龍頭の男を前に声を荒げる。
龍頭の男は「ふむ…」と言いながら、詰め将棋に没頭している。
こう言っては何だが…全く適当にマイペースに相手をしているように感じられる。


「…うむ…少し待ってくれ。もうすぐ、この難問が解けそうなのだ」
「だぁ〜かぁ〜らぁ〜! そんな事をしている場合じゃないんですっ!」


─ダンッ! ダンッ!


激昂して机を叩く少女。
弾みで将棋板が宙を舞う…


「「あ…」」


─ガチャッ…


「お、おおおぉぉぉ!?…わ、我の…我の一手が……あと少しだったというのに……」
「あ…あは…あははは……ごめんなさい」


奇妙な声を上げ、哀愁を背に漂わせながら男はガックリと脱力した。
次の瞬間には昇天してしまいそうな程の落胆ぶりである。


「はっ……と、とにかく! ロウ・エターナルの策略かも知れないのですよ!?」
「ああぁぁぁぁぁ……我の…我の………ぉぉぉぉ…」


少女の言葉が一切耳に入っていないかのように悲嘆に暮れている。
そんな様子を見かねたのか部屋の奥から声がかけられた。


「あはははは♪ 今のは明らかにトキミが悪いね。トキミはもう少し落ち着かないとダメなんじゃないかな?」
「むきーーー! もういいですっ! ちょうど良い機会ですし、ローガスに聞いてもらいますから」
「あ、薮蛇」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛…」


矛先をローガスに変えたトキミが迫る。


「先程も言いましたけど…“向こう”の未来が突然見えなくなってしまったのです…いえ、見えないというか…時折ノイズが入るというか…」
「あ、ひょっとしてトキミは知らなかった? “チェイン・ブレイカー”の話」
「…確か…広域回廊を閉鎖していた永遠神剣ですよね? それがどうかしましたか?」
「うん。つい、こないだ契約者を捉まえて“向こう”に落ちたんだって。あはは、困ったね♪」


無邪気に笑うローガスとは対照的にトキミの顔は曇っていく。


「…あれは誰とも契約できないのでは無かったのですか!?」
「さあ? 僕に聞かれても分からないよ。でも、それが原因となってトキミの時詠が働き難くなってるんじゃないかな…」
「……ロウ・エターナルの策略に使われているのかも……」
「どうかな? そこまでは分からないけど…“向こう”のことはトキミに任せるって約束だったし…調べてみたらどうかな?」


ローガスの答えに頷き、踵を返すトキミ。
懐の『時詠』と『時逆』に手を触れる。


(……未来が見えなければ……悠人さんが……どうしても確かめないと!)


そのまま退出していく。
それを見てローガスは笑顔のままに肩を竦めた。


「相変わらずトキミは心配性だね。ま、どっちしにろ新しいエターナルの可能性を捨てる訳にも行かない…か」


「おぉぉぉぉ……」


「……ル、ルシィマ……まだ唸ってたんだ…」


「お、おのれ…トキミめ……我が遊戯の仇……此度の責務が終わったときに返してくれるわ…」




─尚、この事が原因でファンタズマゴリアでの任務後のトキミの休暇が消え去ったのは言うまでも無い。










永遠のアセリア
The Spirit of Eternity Sword

〜人と剣の幻想詩〜

幕間
“Oath and Emperor”
ACT-1.5

【秩序と混沌の舞踏祭】
- Interlude01 -
“Law and Chaos”




聖ヨト暦329年レユエの月 赤一つの日 夕暮れ
帝都サーギオス 街路




突然だが…黒金の如き肉体に毛皮のジャケットを纏った男…タキオスは途方に暮れていた。


………

……




『…タキオス。例の者は、何とも都合の良いことにサーギオスに落ちたそうですわね?』
『は…確かに、そのように聞いておりますが…』
『他の世界のシステムは順調に動いているようですし…暫くは、こちらの事を片付けるようにしませんとね…』
『は…』
『それで…ここ暫くの事ですけれど…『誓い』の強制力が弱まってきているようですの…』
『は?』
『もしかしたら、思った以上のイレギュラーかも知れませんわね…ですから、ちょっと調査してきて下さらない?』
『調査…でございますか?』
『そう。調査ですわ。『七鍵』とその契約者が使えるかどうか…イレギュラーなら直ぐに排除しても構いませんわ』
『…御意』


………

……




(…とは言ったものの…俺には、その者の顔すら分からぬ…まあエトランジェを探せば問題なかろうが…)


そう。エトランジェであれば城にいるであろうと当たりをつけたタキオスだったが、困ったことにエトランジェの気配が無い。
忍び込んだとして…もしスピリットとの交戦になっても全く問題は無いが…やり過ぎるとシステムに支障が出る。
暗殺者でも諜報員でもなく、戦士に過ぎないタキオスには流石に手に余っていた。


(むう…メダリオかミトセマールを使うべきだったか?……否、無理だな…奴らでは暴走しかねん…)


今回の計画での調整用にとテムオリンが連れてきている同僚の姿を思い出して渋い顔になる。
ロウ・エターナルであれば当然のようなものだが…連中は、殆ど神剣と同化している。
ゆえに、自らの欲望や本能というものに遠慮が無い。
既にカオス側にも今回の計画が漏れている以上、いずれは戦うが…現状では目立った真似はできない。


「お、おい! 前! 前見ろって!」
「……なに?」


突然かけられた声に思わず振り向いてしまう。
その一瞬後…通りかかった馬車「は」タキオス「に」跳ねられた。
無意識に纏っているダークフォトンの障壁が馬車を文字通り粉々にしてしまったのだ。
当然の事だが…徹底的に目立っていた。


「…………」


タキオスは自分が思った以上に考え事に没頭していた事に気付くと、次の瞬間にはその場から消え去っていた。




聖ヨト暦329年レユエの月 赤一つの日 夕暮れ
帝都サーギオス 黒羊亭




トキミは黒羊亭の前まで来ると足を止め、建物を見上げる。
世界外からは思ったように機能していなかった時詠の力だが、世界内に入ってからは順調に機能しているようだ。
様々な未来を観測することで、トキミは『七鍵』の契約者……即ちアキラの居場所を探ったのである。


(…でも…どうして躊躇うのでしょうか…)


理由は至極簡単なことである。
エターナルとして様々な活動を行っているトキミではあったが…こんな場末には入った事が無い。
所謂、初めての経験に対する躊躇いのようなものだ。
加えて、今から得体の知れない存在と関わろうとするなら尚更である。


「…いよぉ〜変な服着たねーちゃん…こんな所でボーっとしてると連れてかれちまうぞぉ〜?」
「だぁ〜いじょうぶだって…へへっ…そんな薄っすい胸じゃあ子供と間違えちまわぁ」
「俺だったら、
(ピー)さえ付いていれば(ピピー)でも全然気にしねーけど」
「うわっ……おめぇ…そいつは病気だぞ?」


既に出来上がった酔っ払いの男達が、へらへらと笑いながら店の中へ入っていく。
一方トキミは呆然としていた。


(……変な服……胸が薄い……)


一つ確認しておこう。今更だがトキミは決して冷静な性格では無い。
ついでに、今の二つの単語は禁句に等しい。


(……胸が薄い……胸が薄い……胸が……)


「おいおい…そこの変な服着た乳の小さい嬢ちゃん…そんなとこに突っ立ってると危ないから、さっさと家に帰りな」


─ぷちっ


「“うるさーーーーい!! 誰が貧乳ですかぁぁぁぁぁぁーーーーーー!!!”(日本語)」


八つ当たり気味に振り回された扇に込められたオーラフォトンは店の入口を完全に破壊した。


「私だって…私だって好きで小っちゃいんじゃ無いんですよっ! それを…それを……うわぁぁぁぁん!」


泣きながら時速2クレにも相当する速度で駆け抜けていくトキミ…
後に残るは、腰の抜けた周りの人間と、徹底的に破壊された店の入口のみであった…




………

……






「がはははは! うちの店を破壊して逃げてくなんていい度胸した嬢ちゃんも居たもんじゃねーか! なあ! アキラ」
「おいおい…笑ってる場合かっての…折角、たまの休みを満喫していたというのに……」


バンバンとアキラの肩を叩きながら笑うのは、この店の店主。ドーン・アルマイトである。
存在しているだけで周囲に影響を及ぼしそうな筋骨を持つ豪快そのものの人物だ。
今も、店の入口を破壊されたというのに特に怒っている様子は無い。
アキラは嘆息しながらも店の中に入れた客の一人から事情聴取を続ける。


「……で、とりあえず聞くが…変な服を着た貧乳の少女が突然、手に持った扇で入口を破壊したって言うんだな?」
「あっ…ああ、間違いない」
「ふむ…分かった。ありがとう」


男から事情を聞くと、アキラは腕を組んで思考する。
先程、外から聞こえた叫び声…否、絶叫……あれは紛れも無く日本語だった。
ということは…エトランジェの可能性が高い。


「あ! いた! 兄貴〜〜!!」
「ん? エシュリィか……どうした少年?」
「うん! 俺すっげー物を見ちゃったよ」
「凄いもの?」


突然外から走り込んで来たのは元ストリートチルドレンのエシュリィ。
以前、アキラにスリを仕掛けて捕まって以来の付き合いだ。
帝都下層の状況を目の当たりにしたアキラが段階的に生活状況を改善してから更に懐いている。
エシュリィは素晴らしい反射神経の持ち主で機転も利くことから、アキラもよく彼を鍛えたりしていた。


「さっき街路でドーンのおっさんぐらいの変な男を見かけたんで後をつけてみたんだよ」
「……ふむ」
「何か考え事をしていたみたいでさ、そのまま馬車に突っ込んでったんだ」
「…凄い…というからには、何かあったんだな?」
「うん。馬車が、その兄ちゃんに跳ねられてた。いや〜馬車が空を飛ぶ所なんて初めてみたよ」


これは間違い無いな…とアキラは確信する。
よりにもよって行き成り2件。少なくとも2名のエトランジェが居るということになる。
しかし、情報部にはエトランジェの兆しなどの報告は何もなかった…
果たしてこれはエトランジェなのかそれとも…


(……エターナル?)


「……いや……それだとすると……ここに居る理由が不明瞭だ……しかし可能性としてはありうる」
「あーあ…兄貴…また考え事始めちゃったよ…あ、ドーンのおっさん。ネネのジュースをくれよ♪」
「おう、坊主。ちょっと待ってな」


(…いや…今は考えるよりは確認したほうが良いな…念のためウルカ達を呼ぶか…ダメだ…エターナル相手では厳しい…)
(ならばサラだけでも呼んでおくか…剣化させて二重に強化を掛ければ或いは…)


─ドゴーン


「………こりゃスピリット隊も出動しそうだな…無駄死にさせたくも無いし…さっさと行くか……」


心を決めるとアキラは『鳴神』を持って走り出した。




聖ヨト暦329年レユエの月 赤一つの日 夕暮れ
帝都サーギオス 元・公園広場/現・焦土




「……あら…そんなに慌ててどちらに行かれるんですの?」
「くっ…まさか…テムオリンっ!?」


突如、天から降ってきた破壊の光に耐え切ったトキミは慌てて気配を探る。
果たして、そこには純白の法衣を身にまとう幼女の姿があった。


「ごきげんよう…トキミさん? まさか、また貴女が関わってくるとは…いい加減厭きてきますわね」
「…それはこちらの台詞です! 出会ったからには…ここで決着をつけましょうか…」


トキミとしては最高不安要素であるテムオリンの存在は排除しておきたいものである。
彼女自身の目的(野望)達成のためにも危険な芽は摘むに限る。
そして、それはテムオリンにとっても同じこと。
常にシステムを阻害しようとして関わってくるカオスの存在は、さっさと始末するに限る。
二人の殺意が物理的な領域まで高まり、無意識に干渉しあうオーラフォトンが火花と散っていく…


「…どうでも良いが…そこのロリータに巫女服…殺り合うなら迷惑にならん所でやれ…」
「「!?」」


別方向からの声に殺意が霧散する。
何時の間にか、そこには一人の男が立っていた。
研ぎ澄まされた刃金の身体にサーギオスの紋章を着けた黒き衣を身にまとう男…アキラであった。
周囲に渦巻く濃密な神剣の気配に内心では戦々恐々としていることは言うまでも無い。
だが、それを全く表に出さないのだけは流石に百戦錬磨の特務軍人と言った所か…


(やべぇ……マジにサラを連れて来るんだった……こいつら…洒落にならんぞ……)


「…テムオリン様ッ!」
「遅かったですわね…タキオス」
「はっ。申し訳ございません…」


黒金の如き男…黒き刃の異名を持つ男…タキオスまでがやってくる。
最早、場の威圧感は常人が気死するほどのレベルにまで達している。


「……馬車を跳ねたというのはお前か……どうでも良いが、争い事は外でやれ。迷惑だ」
(…おいおい…この男もか……しかも、このプレッシャー……上級D'VAのクラスUにも匹敵しやがる……)
「ほう……貴様……この場に居合わせるという事は……お前が『七鍵』の契約者か……」
「…否定する意味も無いな…その通りだ。で…殺り合うなら迷惑にならんところでやれ…と言ったが?」


逃げ出したくなる心を強引にねじ伏せてアキラは正面からタキオスを見据える。
いざとなればどういう手を使ってでも逃げ切ればいい。
今は、この洒落にならない状況を何とかする必要があるのだから。


「面白いですわね…エトランジェ風情が私に命令するだなんて…力の差も分からないのかしらね?」
「……貴方は下がって! あの者達は貴方では手に負えません!」


テムオリンとトキミがそれぞれにアキラに声を掛ける。
そこからアキラは双方の利害関係を瞬時に把握した。


(テムオリン…それにタキオスと言うのは同じ勢力か…トキミとか言ったのは敵対勢力だな……使えそうだ)


「力の差などはどうでもいい…今重要なのは…お前らが帝都の平穏を乱しているという事だけだ」
「本当に面白いですわね……タキオス…始末してしまいなさい」
「…御意」


テムオリンの命令にタキオスが動く。
どうやらアキラを片付けるという方向で話が決まったようだ。


「仕方ない……おい、トキミとか言ったな……協力してやる。お前は、そこの白いのを片付けろ」
「そんな…無茶です! エトランジェではエターナルに敵いません!」
「向こうは、そのようなことを気にすまい…いいからさっさとやれ!」
「くっ…」


トキミからの返答を聞かずにアキラはタキオスと正対する。
タキオスは面白そうにそれを見ていた。


「ふふふ……どうやら骨の髄まで戦士の魂が染み渡っているようだな…お前のような戦士と戦えようとは…楽しみだ」
「一応名乗っておこうか…『七鍵』のエトランジェ…アキラ。故あって『七鍵』は持っていないが…お相手しよう」
「なに! では、その神剣は何だというのだ?」
「ああ…俺が打った刀…『鳴神』だ…遠慮は要らん…存分に相手をしてやる」
「ふ…ふははははっ! 面白い…我は永遠神剣第3位『無我』の主…黒き刃のタキオス……アキラよ! 我が剣に耐えられるか?」


問いかけに返すことなく、アキラは『鳴神』を抜かずに疾駆した。
黒き刃同士の戦いが始まる!




聖ヨト暦329年レユエの月 赤一つの日 夜
帝都サーギオス 元・公園広場/現・焦土




「…空間ごと貴様を絶つ!」
「っと…それは貰ってやれねぇな!」


『無我』の力が自らの座標に働きかける瞬間、アキラはオーラフォトンを注ぎ込んで空間固定を解除する。
一撃一撃がアキラの全力に匹敵する以上、迂闊に攻撃をもらうことは許されない。
タキオスの一撃を貰った瞬間、アキラは粉微塵にされるかも知れないのだ。
少なくとも空間操作をどうにかするまでは被弾は許されない。
自らの世界で体験した凄まじいまでの戦闘経験が、格上の存在を相手にアキラを生き延びさせていた…


「…ハッ! 殺ァァァァ!!」


返す刃で、苛烈な連撃を加えていく。
だが、それはタキオスの重厚なダークフォトンに遮られて傷の一つすらも与えることができない。


「その程度か……俺の防御を崩すにはまだまだ足りんな」


余裕すら見せて攻撃を無力化するタキオス。
武器で止める必要すら無いとばかりに自然体のまま攻撃を無力化する。
そこに油断が生まれた。
コンマ秒以下の速度で『鳴神』を鞘に納めると同時に一歩踏み込む。
既に“竜氣”の準備は万端。


「…受けろ…皇竜・神絶!!」
「ぬぅっ…それは受けられんッ!」


戦士の勘か、タキオスは必殺と成り得る一撃を的確に判別し『無我』をアキラに叩きつける。
刃筋が通っていないため、それはアキラの障壁を突破できず吹き飛ばすだけに留まる。


「驚いたぞ……この感覚……肝が冷えたのは久方ぶりだ……」
「冗談……俺はさっきから綱渡りをしている気分なんだ……そのぐらい代金だと思えよ」
「ククク…言ってくれる……ならば…『無我』の最大の力……味わうがいい!」


タキオスの言葉と共に、強大なダークフォトンが解放される。
最早、在るだけで衝撃となってアキラを粉砕しようかという密度…
『神薙』と比較しても数倍のマナ量。
この力技をどうにかすることは不可能に近い。


(ぐ……この一帯ごと吹き飛ばす気か!?)


「アキラ殿ッ!!」
「なっ…ウルカ!?…来るなと伝えただろうが!!」
「しかし! このような時に何もせぬ訳には!」


タキオスが『無我』を構える。
次の瞬間には一切の比喩ではなく、タキオスの一撃が帝都の半分を廃墟に変えるだろう。
もう、アキラには為す術は無い。
タキオスの『無我』が空間操作を行える以上…転移によって逃げるのも不可能に近い。
ここは生き延びて…『無我』が力を放出しきった瞬間に最大出力の神剣魔法をぶつけるしか無い…
瞬時にそれを判断してからのアキラの行動は迅速だった。


「…来い! 俺から絶対に離れるな!」
「あっ…」


ウルカを抱き寄せると十重二十重に結界を展開していく。
これすら、この一撃に耐えうるかは疑問。
自らの持てる知識・経験の全てを動員してアキラは生き残る手立てを講じていく。


「俺達の周りにシールドを張れ! 限界までだ!」
「くっ……承知!」


「……往くぞ……この世界のマナとなれぃ!!…ウォォォォォォォォォッッ!!」


「……タキオス…やめなさい。システムの駒を全部消されては困りますわ」


テムオリンの声が響くと同時にタキオスは『無我』を降ろした。
周囲に立ち込めていた力が霧消していく…


「…御意。トキミはどうされたので?」
「…『秩序』で回廊に放り出しておきましたわ。暫くは干渉できないでしょうね」


(……あの嬢ちゃん…どうやらやられたようだな……こちらは命を拾ったようだが…)


結界は展開したままアキラは油断無く様子を探る。
ウルカは、怖ろしいまでの圧力が急激に散ったことで、まだ呆然としている。
いざというときはアキラがウルカを連れて逃げるしか無いだろう。


「それに都合よく見極めることもできましたしね…このままシステムを進めても問題はないでしょう」
「ふむ…」


テムオリンの言葉に頷くとタキオスはアキラのほうへ向き直った。


「…フッ…命拾いをしたな……次に刃を交える時を楽しみにしているぞ…」
「…今の機会で倒せなかったこと…後悔するかもな…」
「よかろう…ならば後悔させてみるがいい…楽しみに待たせてもらおう」


テムオリンがシャラン…と『秩序』を鳴らす。
定められた世界律を歪め…異空の門が白い輝きと共に現れた。


「うふふ…では、ごきげんよう…せいぜい足掻くと良いのですわ」
「…アキラよ…次の機会にはもっと強くなっておくのだな…」


白光が視界を包んでいく…
そして次の瞬間には、二人のエターナルは目の前から完全に消失していた…


「くそ……何が起こっているんだ? ……システムとは何だ!」


ギリ…と音が鳴るほどに奥歯を噛み締める…
徹底的かつ完全な敗北だった。


(……位階差というのは……ここまでの影響があるというのか……)


技術や経験だけでは埋められない絶対的な格差というものがあった…
…いや、アキラは十分に戦えてはいた。
戦えてはいたが…結局は純粋なマナ量の差で圧倒された。
ならば…今後に備えるためにも…それに抗える何かが必要となる…


「……俺も修行のやり直しだな……」


ぎゅ…と無意識にかアキラはウルカを抱きしめた。
その瞬間、ウルカが正気に返る。


「あ、アキラ殿……少々苦しいのですが……いえ、その……もう少し…」
「あ…あぁ……済まん……」


パッと腕を離す。
ウルカは浅黒い肌を朱に染めて…どこか微妙な表情を浮かべていた。
日頃の彼女を知るものであれば驚きを隠せまい。


「……しかし……あれは何だったのでありましょうか……」
「…まあ、神様みたいな連中だろう…何にしても迷惑な存在だったな…」


アキラの呟きが夜空に消えていく。
続々と集まりつつあるスピリット達にアキラは指示を与え、被害復旧を始めた。




今回の事件は、反帝国派のスピリットによる破壊工作ということで片が付けられることになる…




歴史の表でも…裏でも…何かが動き始めていた……








To be Continued...





後書(妄想チケット売り場)


読者の皆様始めまして。前の話からの方は、また会いましたね。
まいど御馴染み、Wilpha-Rangでございます。


幕間という名の間隙に姿を現すエターナル達。
彼らと接触することで、自らの力不足を痛感するアキラ…
これにより、裏方の存在を知ってしまった彼は、どう行動していくのでしょうか?
ちなみにエターナル達が立ち去ってもアキラの記憶が失われていないのは仕様です(笑)
トキミに関する事件は世界外への転送でスパッと無かったことになってしまいましたが。
なお、『秩序』による世界移動は特殊な門を経由しているという設定ですので、テムオリン達の記憶は無くなりません。

さて、次回はどういう事件が待ち受けるのか…アキラの苦労は続く(笑)



脳内妄想列車は現在走行中(時速2クレ)!



次回。永遠のアセリア外伝『人と剣の幻想詩』…第ニ章“暗闘”…乞うご期待。



「……力持つ者は常に自らの力に責任を持たねばならない……」


独自設定資料

World_DATA
システム

ロウ・エターナルであるテムオリンが考案した、効率よく世界を破壊するシステムのこと。
主に、世界の柱となる永遠神剣を暴走させることが最終フェーズとなっている。
暴走させるマナを集めるために、その世界の住人を上手く操って破滅的な戦いを起こさせるのも特徴。
ファンタズマゴリアの場合は、ついでとばかりに『世界』を復活させるというオマケも用意されていた。
一度発動させてしまえば、後は勝手に世界を滅ぼしてくれる便利なもの。


禁句
言ってはならないこと。地雷。
トキミやレスティーナの場合は“貧乳”という言葉が該当する。
まあ、それ以外にも個々人に存在していることだろう。


距離概念
ファンタズマゴリアでの距離や長さの表現。

【距離】
ラレ→5km
※軽装の旅人が1時間で歩く距離。
クレ→50km
※軽装の旅人が1日に歩く距離。

【長さ】
トゥニクル→約2cm
※成人の指関節一つ分の長さ。
ストゥニクル→約200cm=2m
※トゥニクル100単位で構成されたもの。主に建築や中程度の距離を示すときに使用。




Skill_DATA

皇竜・神絶T (アタックスキル)
修得Lv:47
Lv:15 属性:黒
対HP効果:900(+12%) 最大回数:4 行動回数:2
種別:アタック
ターゲット:アタッカー ターゲットスキルLV:16
MB:0〜100
MD:-1
台詞
「…我が掌撃の咆哮は内部より全てを打ち砕く…」
「…奥義・神絶!!」
パラメータ変動
攻撃:+0 防御:+0 抵抗:+0 回数:+0
青:+0 赤:+0 緑:+0 黒:+0

【解説】
『竜遣い』の上位アタックスキル。
自分のマナと相手のマナを相互干渉させることで敵のマナ構造をバラバラに引き裂いてしまう。
体格や存在の格差を超えたダメージを与えられるが、神槌と同じく直接触れなければ不発に終わるという欠点がある。
神槌とは異なり、霊体などにも有効。
防御スキルを発動させないために、このスキルによる攻撃は必ずクリティカルとなる。




Personaly_DATA
※Nothing



SubChara_DATA
エシュリィ・クロス/Eshuly Cross
身長:152cm 体重:45kg 人間。茶髪茶瞳。
知的能力:並以上 精神性:感情的外向型 性格:元気でヤンチャ 容貌:野生的
性別:男性
神剣:無し
年齢:13(外見13)
職業:ストリートチルドレン
解説:
元々は帝都下層のストリートチルドレン。
アキラにスリを仕掛けたことで捕まって以来の付き合い。
アキラの事を兄貴と呼び慕う。
反射神経や機知に優れており、逃げ足も速い。
現在はアキラの変わりに街中を見て回り、何かあったらアキラに報告している。
週1回のペースでアキラの訓練を受けているため戦闘能力もそこそこにはある。


「兄貴〜〜! 大変だよっ!」




Eternity Sword_DATA
※Nothing