聖ヨト暦329年 エハの月 青四つの日 昼
バーンライト王国 サモドア山道



「アセリア! 突出し過ぎです!!」


目の前のスピリットを疾風の如き刺突で仕留めるとエスペリアは叫んだ。
呼びかけた相手はアセリア・ブルースピリット…つい先月にスピリット隊に配属されたばかりの娘だ。


「ん…大丈夫…わたしたちのほうが…強い!」


そう言って、そのまま敵へと突っ込んでいくアセリア。
『存在』の鋭い刃は次々と敵のスピリットを屠っていく。
…開いた戦線に黒い翼のスピリット達が次々と突撃していく様をエスペリアは苦々しく見ていた。


(…だめ……このままでは…戦線が延びきってしまう…)


確かにアセリアは強い。
剣に近いゆえの純粋さで迷い無く敵を切り伏せていく。
バーンライトのスピリット達は次々にマナの霧へと変えられている。
既に趨勢は決まっているのに戦い続ける敵兵達…
人の命令に従わねばならない彼女達は不利だからといって撤退することすら許されない。


「ははは! 圧倒的ではないか! 所詮は田舎のスピリット…小生が鍛え上げた妖精達に勝てる訳が無いのである!」


周りの様子を見ながら満足そうに哄笑する男が一人。
白衣の上にラキオスの戦士の羽織をかけた変な男だ。
名を、クィラス・グラスカイト…元々は帝国の訓練士兼技術者だった男だ。
彼は昨年の初めに帝国から亡命してきて、そのままラキオス妖精隊の隊長になってしまっていた。


「…クィラス様……このままでは戦線が延びきってしまいます。一度集結の指示を…」
「はて…一体何を言うのか…折角、あの忌々しいウルカを引き離したのである…今が攻め時だと分からぬか」
「…ですが…!」
「…エスペリア? 何時から貴女は小生に意見ができるほど偉くなったのであるか?」
「………申し訳ございません……」
「…うむ。分かったのなら直ぐに小生の妖精達と共にサモドアを陥とすのである!」


クィラスの言葉に絶望的な気分を味わいながらもエスペリアは前線に戻る。
せめて、アセリアは死なないように護らなければならない。



………

……





「エスペリア! こっち!」


エスペリアに迫る敵を焔の一撃で退けながら、ヒミカが叫ぶ。
一人で複数の敵を相手にしながらもヒミカの戦闘力は未だ健在。
近づくものを片端から薙ぎ倒す焔の戦輪となりながら突き進む。


「ヒミカ! アセリアは!?」
「その前に、こっちを片付けなきゃ追うにも無理よ!」
「くっ…」


そうこうしているうちにもウイングハイロゥで飛び回るアセリアはどんどん離れていく…
エスペリアはすぐさまヒミカと共に戦い始めた。


「どきなさい! 邪魔をするのでしたら…容赦しません!」


凄まじい加速から突き出された雷光の刃が疾る!
それは敵の氷鎧をいとも容易く突き破り、苦痛を感じさせる瞬間すらなくマナへと還す。


「観念しなさい…あなたが勝つ確率は万に一つもないわ」


最終通告を与えるように呟くとヒミカは『赤光』を構える。
赤のマナが収束し、刃が赤熱の輝きを宿す。
後は振り抜くだけで事足りた。
カウンター気味に決まった一撃は相手を袈裟懸けに両断していた…


「…すぐにアセリアを追います」
「了解。急がないとね…」




エスペリアとヒミカはサモドアへの山道を走り始めた。








永遠のアセリア
The Spirit of Eternity Sword

〜人と剣の幻想詩〜

第一章
ACT-6
【漆黒の翼A 交戦】
- Uruca the BlackWing “Cross Combat” -




聖ヨト暦329年 エハの月 青四つの日 昼下がり
バーンライト王国 サモドア山道



「おっと…意外と近かったな…」


人外の速度で飛翔し、走り抜けて約30分…そこは既に戦場となっていた…
殆どのスピリットは討ち取られ、残った者達も必死に戦っているが押されつつある。


「…ま、同盟国の戦力を全滅させる訳にはいかんしな…セラ! ルー! やるぞ!」
「了解!」
「うん!」


二人の返事を聞いて、俺は戦場へと飛び込む。
近くにいる指揮官と思しきバーンライトのスピリットを掴まえて話しかけた。


「サーギオスのエトランジェ…アキラだ。指揮官は誰だ?」
「帝国のエトランジェ様? あ、あの…隊長はサモドアに居ます…この隊の指揮は私が…」


まだ幼い感じが抜けきらない顔立ちのブルースピリットが答える。
連戦と緊張のためか顔色が悪い。
明らかに経験が足りていないように思えるのだが…


「そうか。では、残った者を集めてすぐにサモドアまで撤退。戦力を立て直せ」
「え? あ…その…あの?」


すぐに反応できない少女…
ええい、時間が惜しいというのに。


「いいから急げ。全滅するぞ! 何か言われたら帝国のエトランジェに命令されたと言っておけ!」
「きゃん! は、はい! すぐにやります!」


形のいい尻を引っ叩いて急かす。
それですぐに行動してくれた。


【…マスター……何だか物凄く手馴れてますね…】
(お前な……俺は一応の所、軍隊出身だぞ? それも10年以上も前線勤務だ…これで出来なかったら詐欺だろ)


サラの言葉で軍隊時代を思い出す。
硝煙と鋼鉄。生と死。敵と味方。人間とD’VA。
考えてみれば……いや、やめよう。
今は、目の前の戦いを片付けるのみ。


「ルー。サモドアに進もうとする奴がいれば片っ端からブチかませ!」
「うん。誰も通さないよ!」
「セラはさっきの通りルーの護衛を頼む。敵が浮き足立ったら攻めに転じてもいい」
「了解。任せておいて」


互いに頷き合う。


「よし…では、俺はもうちょい前線の味方を援護してくる。あまり互いの距離を離さないように注意しろ。
 ……それから…危険になったらすぐに合流しろよ? 耐え切ろうなどと思わないでもいい。死なないことを最優先しろ」
「…おかしな人ね…戦況より個人の命を優先するなんて…」


セラが呆れたように言う。
だが、何も根拠無く言っている訳ではない。
それに感情的にも、俺は自分に近い者に戦死して欲しくも無い。


「セラ…残される方の気持ちも考えろよ? それに、生き残らないと再戦の機会も自分の未来も全て<無>になる…」
「…でも、戦場は貴方が思っているほど甘いものじゃないわよ? どうしても何かを見捨てる必要が出る場合もあるわ…」
「……ああ、嫌になるほど知っている。助からない部下に自分で手を下したのも…1度や2度じゃない…」
「…アキラ………貴方……」


湿っぽい話になってしまった…それは余り好きじゃない。
俺は殊更に明るく言う。


「あーはいはい。この話は終わり! 何にしてもまずは敵は倒す! 俺たちは全員で生き残る! 分かったな?」
「…了解」


溜息を漏らすようにセラも頷く。
瞳は迷い無く澄んでいる。
そこにルーテシアが声を掛けてきた。


「ねぇ……さっきアキラも言ってたけど…ボクだってセラ姉様だってアキラには死んで欲しくない…それを忘れないでね?」
「大丈夫…無理はしないさ。サラだって付いているんだから安心して援護を頼むぞ?」
「……うん」


心配そうな顔をするルーテシアの頭を優しく撫でる。
軽くセラに視線を送り、俺は前線へと走り出した。




【マスター? もう…そう簡単に無茶はできませんよね? 私だってマスター以外を選ぶつもりはありませんから…】
(やれやれ……そんなに心配するな。俺もお前以外の剣を選ぶ気は無い…長い付き合いにするつもりなんだからな)


走る速度を上げる。
既にトップスピードは乗用車のソレを超えている。
すぐに最前線が目に入ってきた。




………

……






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聖ヨト暦329年 エハの月 青四つの日 昼下がり
バーンライト王国 サモドア山道 最前線



「抵抗しても…無駄……てぃやぁぁぁぁっっ!!」


純白のハイロゥを展開し、一気に加速した刃が相手を一刀両断にする。
微塵の迷いも恐怖感も無い…まるで捨て身のような一撃。
『存在』が喜ぶように倒した敵のマナを啜る。


「……………逃がさない……」


闇よりも深い漆黒の翼を持ったスピリット…『沈黙』のリーファが翔ぶ!
手にした長剣がマナに包まれオーラフォトンの輝きを身に纏う。
絶大な威力を持ったそれは、ガードに入ったグリーンスピリットごと背後の年若いブラックスピリットを断ち斬った。
倒れたブラックスピリットがグリーンスピリットに手を伸ばし……そのままマナへと還る。


それ以外の場所でもバーンライトのスピリット達は、少数のラキオス勢に押されていた。
小国ながら帝国の支援による強力なスピリット隊を持っていたはずのバーンライトの姿はどこにもない。
そこにあるのは、ただ強者による弱者の蹂躙のみ。


「あれか…例の6位と7位は……凄まじいな…まるで蒼い牙のようだ……」


サーギオスのエトランジェ…『七鍵』のアキラはそう言って眼下の光景を見下ろした。
数秒もかけずに戦域の状況を掌握。
彼の脳内で効率の良い戦術が次々と打ち出される。


【予想以上に酷いですね…早く助けないと全滅してしまいますよ?】
(分かっている。それから…今回はお前の機能を通して戦うから、その経験を無駄にするんじゃないぞ?)
【大丈夫ですよぉ…記憶力と分析力には自信があるんです♪】
(……そう言いながらハイロゥすらまともに扱えなかったがな…ま、そこはこれからの成長に期待しておくか…)


サラと声を交わすと、アキラはすぐさま戦闘体勢に入った。


「突出しているあの二名は後回し。まずは周囲の連中を掃除して撤退を支援する!」


アキラは『七鍵』を通してイメージを拡げる。
やることは魔術と変わらない。『根源』から『創造』を経由。イメージを『形成』し、現実世界に『表現』する。
手順はただの4つ。それが潤滑に回れば根本的には詠唱すらも必要無い。
本来なら神剣が無意識に行うことをアキラはあえて系統立てて行っていた…



─彼がイメージしたのは光の銃弾。
─軌跡を残し、敵と味方を識別し…障害だけを的確に排除する神弓の矢。
─彼のイメージに従い、オーラフォトンがそれを現実化するべく光の魔法陣を展開する…




「…我が敵を喰らえ…ストーム・シーカー!!」


輝く魔法陣に突き込まれた『七鍵』から無数の光が放たれる!
オーラフォトンの術式に導かれ、緑と無色のマナが激しく励起。己が使命を思い出したかのごとく光弾へと姿を転じる。
一際激しい光の狂奔!
その光はそれぞれが意志を持っているかの如く、複雑に軌道を変えながら自らの敵に喰らい付いていく!


─ズガッ! ドドドドドドドドッ!!


輝く光弾が次々とラキオスのスピリット達をマナに変えていく。
初撃を何とか耐え切った者も残った光弾が貫き、止めを刺す。
斃されたスピリット達は瞬時にマナへと変わり…天へ立ち昇ることなくアキラと『七鍵』に流れ込んでいく…
豊富なマナが世界に還る事無く、二人の神剣に直接…喰われていく…
…それは満たされる安堵…マナの快楽。


「意外に大漁だな…サラ…ぎりぎりで7位に戻れるぐらいの量があるぞ?」
【本当ですか? これで肩身の狭い思いから抜けられそうです♪】
「普通は剣格の上昇のためには器の格も上げないと無理なんだけどな…どこまで例外存在なんだ…」
【いやん…マスター。そんな細かいことを気にしちゃダメです♪】


大量のマナを確保できたせいか、やけにハイテンションな『七鍵』を放置してアキラは崖から下の山道へと飛び降りる。
突然の乱入者に周囲の動きが一瞬だけ静止する。


「バーンライトの妖精隊は即刻サモドアまで撤退せよ! 後はこちらに任せておけ!」


よく通る声に、生き延びたバーンライトのスピリット達が動かされる。
それぞれに肩を貸し合い、ウイングを持つ者は歩けないものを運ぶ。
だが、それを黙って見ているラキオス勢では無い。
すぐにリーファが飛び出した。


「………敵は全滅させる………」


『沈黙』を振りかぶり、必殺の一撃を加えようとアキラに迫る。
…が、あろう事かアキラはそれを悠々と歩いて避けた。
上体には微塵のブレもなく、歩調は極めて一定。
余りにも異質な体技だった。


「!?」
【…え?】


リーファとサラが同時に疑問の声を上げた。
彼女達からすればアキラの身体が武器をすり抜けたように感じたに違いない。


「………驚いた……ぶっつけ本番だったが……今の俺の能力だったら問題なく行使できるようだな」


確認するように呟くアキラに再び斬りかかるリーファ。
今度は加速しながら逆袈裟に剣を振り上げ、ハイロゥの力も加えて振り下ろす。
アキラは同じように緩やかに…なのに怖ろしいほどの正確さで初撃もニ撃目も避ける。
目の前に居るのに、まるで蜃気楼のように攻撃が命中しない。
まるで最初から攻撃がそこを通過すると分かっているかのような神憑った回避が続く。
それは定められた舞のように優雅で見るものを惹きつける。


「…どうにも…『俺たち』は、どの世界でも何かしら妙なことばかりに巻き込まれる人生だったらしいな……因果な話だよ…」
【……あ、あの! マスター!? これは流石に参考にならないんですが……余りにメチャクチャですぅ…】


サラが情けない声を上げる。
それも仕方の無いことか…アキラが行っているのはタダの計算や理論によって打ち出される<技>では無い。
過去から受け継がれた2000年以上の歴史と、竜の闘技…そして王者の慈悲を持ち合わせた<業>なのだから…
綿密な理論体系と経験。更には身体がソレを機能の一部とするまでに非常識な修練を重ねた者のみが得られる極め。
すぐに扱えるものなどではない。
アキラとて、それを得られうる可能性が無ければ決して扱えるものではない。
単に自分の別の可能性に、この<業>を会得する機会があっただけに過ぎない。


─7つの基幹世界の中で…自分が辿る筈であった無数の可能性を全て自分に還元する…
─■■■■を持つ契約者を『根源』へと繋ぎ、■■■■■としての覚醒を促すための存在…
─それが、本来の『七鍵』の特性であり役割…
─彼女自身すら知らぬ真実の特性…



(……これは……マスターには…こんな能力は無かったはずなのに…?)


真実を知らぬサラは混乱する。
まるで、自分の主が全く知らない何かへと変貌してしまったかのような危機感。


【マスター! なんだか変です! 凄くマスターらしくないです!】


得体の知れない恐怖に後押しされて彼女は叫ぶ。


「…俺か…それとも私か…まあ構うまい…あくまで本質は変わらない…我である事に変化は無い…」


─リィィーーーーン!


どこか忘我の境地にありながらも、攻撃を捌き続けるアキラに銀鈴のような音が響く。


【マスター! 正気に戻って下さい! マスター!!】


切羽詰った叫び声…いや…思念。
それに意識を割かれ、アキラは自分の状態を認識する。


(…ちッ…自分に……渦に……呑まれかけていた!?)


瞬間的に自我境界を再設定。
湖面の一滴になりかけていた精神を引き上げる。
無意識に高められていた自己同調率を70%まで引き下げ、表層領域を確保する。
あくまで無数の自分自身は否定しない。
完全統合のプロセスに入りかけた深層領域を一時的に凍結。
メインとなるアキラ自身をペルソナに配置する。
そう…自らの概念と、その方向性が決定付けられていない今は…統合の必要性は無い。



「すまない。少し同調し過ぎていたようだ……Thanks…サラ」
【マスター……うぅ……良かったです……あまり心配させないで下さい…】


─ブンッ!


「っと…まだ、戦闘中だった…ったたた!?」


急に同調率を下げたせいか、完璧を誇っていたアキラの回避が崩れる。
チャンスと見て、激しく切りかかるリーファの攻撃を今度はオーラフォトンの障壁で受け止めた。


「………バカな……!」


何か信じられないものを見た…とばかりに希薄な感情で呟くリーファ。


「まあ、要するに…だ。予め防御の雛形となるイメージを常に持っておく事だ。俺の場合は見ての通り…球形の立体方陣だな」


サラに解説するアキラの周りには確かに、無数のルーンで構成された障壁が展開されていた。
常に流動し、渦を巻くルーンは容易く刃を逸らし…魔術の焔すらも弾く。


「…アレだ。思い込みってもの重要なファクターだ。永遠神剣の力の源は精神…ひいては想い。
 それが強ければ強いほど…下位でも十分に高い力を引き出せる。逆に精神も想念も足りない場合…上位であっても駄剣に過ぎない…」


その目がリーファの長剣…『沈黙』を見据える……
『沈黙』がビクリ…と震えた…


「……そこの6位…貴様は正に駄剣だな……期待はずれだ…今すぐに砕いてくれる!」


スピリットのような美貌に獰猛な笑みを浮かべてアキラはそう宣言した。


「ヒッ……」


悲鳴のような声が漏れる……漏らしたのはリーファか…はたまた『沈黙』か?


「…消えろ…」


『七鍵』が優美な光を引いて振り抜かれる。


「ん……やらせない!」


そこにアセリアが飛び込んできた。
即座にリーファは離脱…アキラから距離を取るように後退する。


─ギャリッ!


想定していた刃筋から逸れた衝撃で、『七鍵』の刀身に激しい負荷がかかる。
その負荷が『七鍵』の限界を超える前に、アキラは力の方向を変化させた。
…そのまま、アセリアの体勢が崩される。


「ん…っく…」


たたらを踏みながらも耐え切るアセリア。
だが、その隙は致命的だった。
アキラは手首の返しだけでアセリアの首筋に剣閃を奔らせる。


─ギィンッ!


が、アセリアは素晴らしい反応速度でハイロゥを展開。
兇刃から自分を守り、ハイロゥを激しく発光させる。


「むッ…」


瞬間的な目潰しを喰らい、視界がホワイトアウト。
その隙にアセリアは羽ばたいて空に舞う。


「やぁぁぁぁぁっっ!!」


裂帛の気合と共に急降下…その瞬間的な質量を持って両断する必殺の一撃。
視界の確保できていないアキラはそのまま真っ二つにされるかと思いきや…アキラは目を閉じたまま、その一撃を回避した。


─ドォン!!


凄まじい衝撃で大地が震える。
アセリアの一撃で山道には小さなクレーターができていた。
もうもうと舞う土煙…


「残念ッ! 俺は目が見えなくても周りを知覚できる…それに不意打ち時に叫ぶのは良くないなッ!!」


─ドンッ!ドンッ!ドンッ!


着地の衝撃でまだ動けないアセリアにホルスターから抜き撃ち気味にCz75で3点射撃。
秒速400mで疾駆する収束されたオーラフォトンの銃弾はアセリアを簡単に肉塊へと変える威力を持つ。
ところがアセリアは自らのハイロゥと氷の盾…そして神剣を使って致命傷を避ける。


「んっ……くぅ。ちょっと、痛い……」


あの攻撃を、その程度で済むほどの損害に抑えられる。
それを見たアキラは感心したかのように口笛を吹いた。


「ははっ! 君は凄いな…ほぼ完全に神剣とシンクロできている。さっきの駄剣とは大違いだ」
「……『存在』のこと……褒めてるのか?」
「ああ…両方だよ。敵なのが惜しいくらいだ」
「ん……エスペリアが…褒められたら礼を言えって言ってた……ありがとう」


戦場で妙な会話が交わされる。
ついにアキラは堪えきれなくなって吹き出してしまう。


「ふふっはははっ! いや、本当に最高だな! どうだ? ここいらで引いておくなら見逃すぞ?」
「……それは、できない……わたしたちはサモドアを陥とさないと…帰れない」


分かっていた答えだったが、アキラは心底残念に思った。
折角の楽しい相手をすぐに失うことに若干の寂しさを感じながら告げる。


「そうか…残念だ。なら全力で来い……さもなくば…すぐに死ぬことになる……」
「うん……『存在』よ、力を………はぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」


アセリアが翔ける…その身を蒼き牙へと変え、眼前の敵へと迫る。


アキラは迎え撃つ…黒いコートが風圧で翻る。


そして、蒼と黒が交差した……




………

……






「はぁ…アキラって凄く強いね……ボク達のやることが無いくらいだよ」
「…そうね…でも油断は禁物よ? 私達はバーンライトの娘達が退くまでここを守らないといけないから」


ルーテシアの言葉にセラが答える。
確かにアキラのあの戦闘能力は尋常じゃない。
10位神剣の契約者とは思えない身体能力にオーラフォトン…
様々な知識を持ち…戦場での経験も豊富。
まるで戦うために存在しているように感じるのに…本人はそれを余り好まない。
セラはそんなアキラが敵の主力である二名のスピリットを圧倒する様を見ながら考える。


「んっふっふ〜…姉様…今、アキラのことを考えていたでしょ?」


無邪気な笑顔でセラを見るルーテシア。
いや、無邪気とは早計。むしろ小悪魔の笑顔だ。
図星を突かれてセラはすぐに上気する。


「ちょっと…別に大したことじゃないでしょ?」
「ううん。十分大したことだよ……ボクね…本当はセラ姉様のこと、割と前から知ってたんだ」
「…え?」


ルーテシアの不意打ち気味の発言に困惑する。


「ウルカ様の遊撃部隊って、結構特殊だよね? そのときの姉様も何度か見たことがあったんだ…」
「………」
「その時の姉様ってさ、いっつもブスッ…としてて、不機嫌そうというか…憂鬱そうというか…そんな感じだった」


昔を懐かしむようにルーテシアが語る。
彼女が何時からセラを見ていたのかは分からない。
だが、そこに憬れのような…あるいは過ぎた夢を語るかのような感情をセラは感じていた。


「本当はもっと早く声を掛けてみたかったんだけど…ほら、ボク達って違う官舎にすら自由に行けないじゃない?」
「…そうね」
「だから、たまに姉様が戻ってきたときに観察してたんだけどね…あはは」
「観察って……」


セラは、どこか困ったようにルーテシアを見る。
このような時に何と言えばいいのか…彼女には分からない。
吹き抜ける風に銀髪をなびかせながら暫時…瞑目する。


「とにかく…その時の姉様からは考えられないほど…ここ最近はよく笑うなぁ…って思って」
「…………気のせいよ」
「そうかなぁ…特に、この前…アキラと一緒に資料室に行ってから…ボクも驚くぐらいに楽しそうにしてるんだよね」


ギクッ…という擬音が聞こえそうな感じで硬直するセラ。
貼り付けたような笑顔で手を振る。


「そ…そう? ちょっと自分では気付かないから…ほら! それより、周りに気を配らないと!」
「ん…そうだね」


慌てて話を変えようとするセラに乗ってルーテシアは前線に目を向ける。
先程の一撃で既に前線に突出していた部隊の殆どは全滅している。
それより離れた所からは別の一団が近づいて来ているが…ここに来るまでには多少時間が掛かるだろう。


「まだ…遠いみたいだけど…アキラの援護に行った方がいいかな?」
「いえ。見た感じではアキラが優勢だし…今の所は撤退の支援を続けましょう…」
「そうだね………アキラとしたとき…気持ちよかった?」
「ええ…そうね………って! ルー!!」


してやったり…とばかりにニンマリと笑うルーテシア。
対してセラは真っ赤になってルーテシアを睨んだ。


…そんなバカなことをしている間にも…眼下のバーンライト軍は撤退を進めている。


もはや、それを邪魔するものは何処にもいない。




………

……






─キンッ!


その瞬間…澄んだ音を立てて、『七鍵』の刀身が半ばから折れ飛んだ。
輝く銀が空を舞う。
アセリアは勝利を確信して『存在』をアキラに向かって振り抜いた。


「ん……とどめ!!」
【いやあッ! マスターーーーーッ!!】


それぞれの声と悲鳴が交錯する。
その場に居る誰もが一瞬先の最期をイメージする…ただ一人…アキラ自身を除いて…


「フッ……ハアァッ!!」


折れた『七鍵』を即座に手放し、微塵も正中線を動かさない…あの体術で半身に踏み込む。
『存在』の刃がアキラのコートの裾を引き裂き…マナの塵へと還す。
…だが、その刃はアキラの身体には全く触れていない。
完璧な見切り……それは同時に間合いの変転を意味する。
アセリアがそれに気付いた時には既に遅かった…


─ミシッ…ズグッ!


「あっ……ぐぅっ……!」


オーラフォトンの輝きに包まれたアキラの貫手がアセリアの胴鎧と胸骨を貫き…肺腑にまで達する。


─ギッ…ゴズンッッ!!


そのまま、胴鎧に指を掛け…引き込むと同時に心臓の真上に強力な掌打を放った…
人体が重力の法則を無視して、ほぼ水平に吹き飛ぶ!
アセリアは二転、三転しながら数十メートルの距離を吹き飛ばされる。
少なく見積もっても骨折多数。呼吸機能損傷。内臓破裂に…恐らく心停止。
常人なら10回死んでもお釣りが来るほどの致命的な打撃。


「ありゃ?…うーむ…吹き飛んだってことは…徹しが甘かったか……」


アキラだけが何処と無く不満そうに、落ちている『七鍵』を拾い土埃を払う。


【あ…え…? どうして?】
(…オーラフォトンの制御が甘いから折れるなんて醜態を晒すんだ…次からは注意しろよ?)
【…はあ…はい……なんと言いますか……ひょっとして…私を使わないほうが強いんじゃないですか?】
(バカ言え…得物があるのと無いのでは大違いだ。折れなければ、もっと危なげなく勝っていたっての!)


サラの台詞に呆れたように言い返すアキラ。
確かに、今の動きは『七鍵』を扱っていたときより速く見えたことだろう…
しかし、それは無駄の無い<実>の動作を追及した結果ああなった訳で、実際の動きやパワーが激増している訳ではない。
事実、パワーやスピードなら『七鍵』を使っていた先程のほうが圧倒的に高かった。


「あ…ぅ……ぐ…」


アセリアは朦朧とする頭で呻き声を上げる。
抉られた傷跡からは血がマナの霧となって立ち昇り、身体は呼吸をする度に苦痛を訴える。
幸い、『存在』だけは握り締めていたため回復能力は働いている。
すぐには死なないが…かといって動けないなら死んだも同然。


(ぅ…く………か…勝てな…い?)


立ち上がろうとして力を振り絞る…
…だが、まるで四肢に力が入らない。
それでも、必死に『存在』から力を引き出そうとして……アセリアの意識は闇へと墜ちた。




………

……






「まさか…あれをもらって生きてるとは……無意識に障壁でも張ったかな?」


呟きながらアセリアに近づくアキラ。
『七鍵』も既に刀身の再生を終え、戦力は微塵も減少していない。
エトランジェである事を差し引いて考えても異常なまでの戦闘能力。
もし、この場に…事情を知るものがいれば…むしろエトランジェのそれではなくエターナルに近いと看破したことだろう。
…それも永く戦いを続けているベテランのエターナルに…


【…あの一瞬にマナの動きを計測していますので、恐らく確実だと思いますよ? 大した人ですね♪】


サラの思念に頷いて寂しげに目を伏せる。
だが、次の瞬間には既に戦士の目を取り戻していた。


「…苦しませるのは本意ではない。戦い抜いた戦士には安らかな眠りを…」


呟き、止めを刺すべく『七鍵』を向け…
…その瞬間、背後から殺気が膨れ上がる!


─シュッ! ギィンッ!


背後から迫る超速の剣撃を、難なく受け流す。
恐るべき技量…否、技量というには余りにも逸脱し過ぎている。


「うぅ………く………アセ、リア………は………やらせない……」


そこにはさっき逃げたはずのリーファが剣を構えていた…
神剣を持つ手は細かく震えている。
『沈黙』の放つ強制力をアキラは自らの知覚素子を通して感じていた…
その意味は…「逃ゲロ!」…
だが、彼女はそれに逆らって『沈黙』を構え続ける。


(…呑まれた精神を……取り戻しかけている?)


「やああぁぁぁぁぁっ!!」


─シュキンッ! キィン! ギャリンッ!!


連続で放たれる剣撃…もはや狙いも何もない。
ただ、アセリアにアキラを近づけないためだけの連撃。
それも速度だけならブラックスピリットすらも凌駕する嵐のような連撃!
だが、それすらもアキラの技量には及ばず…すぐにでも斃されてしまうことは目に見えている。
それでも…その、ただ誰かを護ろうとする気勢にアキラは押される。


「…くッ……俺が…押されている!?」
【……………】


サラは思う…本来、あまり戦いを好まない彼女の主が…あの姿に何かを感じているから押されているんだろう…と。
実際、目の前のスピリットの能力はアキラのそれには到底及ばない。
それでも押されているのは…本当は…本心では殺したくないからではないのか?


「……せっかく自我を取り戻しかけているのに……残念だったな……自らの不運を呪え!」


迷いに押されたのも、ほんの数瞬。
アキラはすぐに反撃に転じた。
敵を倒すためではなく…速さと手数で近づけないための剣撃の懐に無理に潜り込むことはできない。
無理に飛び込めば、その瞬間ズタズタにされる。
かといってシールドを展開したままでは移動できず…防御障壁では貫通される恐れがある。
ゆえに、相手の剣撃に対応し…体勢が崩れたところで一気に決める。


─キンッ! ギンッ! キィン!


鋼と鋼が打ち付けられ合う。
まるで玉鋼の精錬のような金属音が響く。
黒き翼の妖精は剣風の嵐を持って黒衣の男の侵入を阻み…
黒衣の男は、嵐の中を少しずつ進む。

最大出力の銃…または神剣魔法を使えば簡単に状況は覆る。
目の前で必死に…運命に足掻く者を嘲笑いながら一瞬で何もかも消滅させることができる。
だが、それを行うことは彼の存在立脚点…その全てを否定することを意味する。
彼にとって、それだけは絶対に認められない事。
それゆえに彼は自分の技のみで目の前の妖精の相手をする。


─キンッ! ガキンッ! キンッ!


一つ一つの剣撃を計算ずくで逸らし、受け流しながらアキラは進む。
あと二歩で、敵の攻撃を完全に弾き…一瞬で切り伏せられる絶対の間合いになる。


─ギンッ! キィンッ! ギキンッ!


…あと一歩…


─ガキンッ! ギィィーンッ!!


…到達。
一際激しい金属音が響き…リーファの体勢が大きく崩れる。
驚愕と絶望の織り交じる表情が浮かぶ…


─ズシャッッ!!


剃刀の様に細く収束されたオーラフォトンの刃先がリーファの心臓を的確に貫いた…


「………剣は駄剣だったが、お前自身は素晴らしい戦士だった…天界で誇るがいい…」
「……ぁ……ふ…、ア…セリ、…ア……私…やっと………」


光の戻った瞳でリーファは一度、アセリアを見て……そのまま息絶えた…
アキラの腕の中で金色のマナとなり天へと還って逝く…


【マスター…良かったんですか? マナを全て放棄しちゃって……】


サラが話しかけてくる。
どこか遠くを見るかのように…アキラはこう答えた。


「…自らの意志のために…絶対の死を覚悟してまで戦い抜いた勇敢な戦士には…天界で休む権利があるからな…」


懐から<Sevens-Heaven>を1本取り出して、銀のジッポで火を点ける。
たなびく紫煙は鎮魂の煙か…幕引きの狼煙か…
まだ彼の近くで倒れているアセリアに止めを刺すのを中断し…アキラは煙を吸い込んだ。


視線は遠く…戦場は寂しく…


金色の霧と紫煙だけが天に昇り続ける…




………

……






>>View-Change by Espelia




「ハッ…ハッ…」


乱れる息を堪えながら私は走り続ける。
明らかに自らの持久力の限界を超える速度での疾走…


(お願い……アセリア……無事でいて…)


押し迫る絶望的な予感が…どうしても拭い去れない。
ついさっき…10近くは感じていた神剣の気配が一瞬にして消失した時から悪寒が私を薄ら寒くしている…


「はぁ…はぁ…エ、エスペリア……はぁ……このままじゃ…着いても…戦え、ないわよ!」


同じように息を切らせながらヒミカが声を掛けてくる。
そんな事は分かっている…分かっているけど…間に合わなかったら…私はもっと後悔する…


─……ッ! …ィンッ! ……ンッ!


剣撃の音が聞こえてくる。
もうすぐ…この坂を上りきれば…そこにはアセリアが…


─…キンッ! …ィィーンッ!!


一際高い金属音が響く…そして…静寂。
また…一つの剣の気配が消える。
新たに立ち昇っていく金色の霧…
…残るのは…微弱な『存在』の気配と……1つの神剣の気配だけ。


「ッ!」


走るのももどかしく、私はハイロゥの力を爆発させて大きく跳躍した。


「アセリアァァァーーッ!」


ついにアセリアに追いつく。
既に大地に倒れ付しているアセリアを見つける…
…激しく傷ついているけど、まだ死んではいない。
一抹の安堵が私の胸中に浮かび上がった。


「ふむ………この娘…どうやら武運はあったようだな……」


紫煙を上げる煙草を持った黒衣の男が、どこか楽しそうに呟く。
それを見て、私は一瞬だけ呼吸を止めてしまう。
どこか女性的で…儚く美しい顔立ち。
…それなのに怜悧さと意志の光を湛えた双眸は強く…鋭く…儚さという名の幻想を否定する。


「はあっ…はあっ…! エスペリア! アセリア!」


少し遅れてヒミカも到着し…これで2対1。
多少…後方と距離を開けてしまったけど…スピリットの移動力を考えればすぐに追いつけるはず。
私は警戒しながら男に向かい『献身』を構える。
ヒミカも息を切らせながら『赤光』を構えた。


「……さて…では、この娘と同じく聞こうか……退けば見逃す。退かねば殺す…単純な話だろう?」


静かな…それでもよく通る声で私に問いかけてくる。
先行していた部隊を殲滅し…アセリアすらも地に伏せさせ…なお余裕を見せる……
…まさか…?


「その前に……一つ聞かせていただけますか?」


私は慎重に男に聞く。
現状では、どうにもできそうにない。
少なくても…私とヒミカの呼吸が回復するか…後続部隊が追いつくまでの時間を稼ぎたい。


「…聞くのは構わんが…手短にするのだな。その娘…放っておけば長くは無いぞ…」


アセリアのほうを軽く目で示す。
…私から視線を離したというのに…多少の隙も見せてくれない…
それだけでも並々ならぬ手練れだということが伺える。


「…あなたは…エトランジェですね? どこの手の者です?」
「……ふむ…来訪者であるという意味でならその通りだ。今はサーギオスのエトランジェ…といった所か」


あっさりと正直に答えてくる。
誤魔化されるかと思ったけど…思わず拍子抜けしてしまう。


「それにしても一つと言いながら、同時に二つも聞いてくるとは恐れ入る」


片目を瞑って肩を竦める。
ニヤリ…という感じで笑うと私に先程の質問を繰り返してきた。


「もう良いな? では返答を聞こう………退くか? 死ぬか?」


一瞬だけ考える。
命令はサモドアの陥落。
でも、負傷したスピリットを回復させるという名目でなら?


「……アセリアは…返してもらえるのですか?」
「俺の目的はバーンライトの撤退を支援する事だ。お前達が引くのなら戦う理由は無い」
「……分かりました。あなたの言葉…信用させていただきます」


私の言葉を聞くと無造作に私達に背を向け、歩み去っていく。
一瞬、ヒミカが動きかけたけど…私はそれを手で止めた。


「…ああ…それから、その娘…アセリアが起きたら伝えておけ。『力と速さだけが強さじゃない…もっと虚実を上手く使え』…とな」


去りながら忠告を残していく。
私は驚きの表情を隠せない。
最後に一旦立ち止まり…背中を向けたまま、こう付け加えた。


「…今回助かったのは…命がけでそいつを護った娘がいたからだ…次にその様な幸運があるとは思わない事だな……」


今度こそ歩み去っていく。
その姿を見送り…私はすぐにアセリアの治療を始めた。




………

……






>>View-Change by Uruca
聖ヨト暦329年 エハの月 青四つの日 夕刻
バーンライト王国 首都サモドア/サモドア山道通用門



強行軍で部隊を移動させ、おおよそ一日。
手前らが、そこについた時には既に当面の危機は回避されていた。
驚くべき事にラキオスは数多くの闇に染まったスピリットを率いて攻めてきたという話。
バーンライト独自の兵力では敵う筈もなく、全滅するはずの娘達を撤退させたのは我が帝国のエトランジェ殿達だと伝えられ更に驚く。
僅かに3名で十数もの前衛兵力を殲滅し、退く者に一名たりとも被害を出さず状況を止めたその手並み…見事としか言えぬ。
これはまさしく隊を率いるに相応しい手腕を示されたのではないのか?
そのエトランジェ殿に会うべく手前は臨時の宿営所へと足を運んでいる。


「……すみませぬが…エトランジェ殿が逗留しているのは、こちらで宜しいのでありましょうか?」


宿営所の門衛を行っている兵士に声をかけてみる。
一瞬だけ不機嫌そうな顔をされたが……手前の左胸に刻まれる紋章を見るや否や…それを押し殺す。


「…漆黒の翼か…確かにエトランジェは中にいる。奇妙な奴だからすぐに分かるだろう…」
「…かたじけない…感謝いたします」


礼を言って、門をくぐる。
しかし、奇妙とはまた面妖な表現をされる…
…一体どのような御仁なのか…手前は興味を抑えることができなかった。


………

……




手前は一つの扉の前で…困っていた。
扉には張り紙がされていて、中からは何か言い争うかのような声が漏れている。
静謐ながらよく通る声と怒鳴るような声。
それもあるが…何より、この張り紙…これがまた手前を困らせる。


「…エトランジェの魔窟…?」


いえ…まあ、エトランジェ殿の部屋という事は理解できますが…
されど、そこに魔窟と繋がる意味が手前には見出せない。
よく見ると下には但し書きのような文字も書き綴られている。


「…ふむ……『入る前にはノックを2回。挨拶後、所属階級氏名を申告。用件は簡潔に分かりやすくしましょう♪』……」


……エトランジェ殿は…礼儀にうるさい方なのでありましょうか……
それにしても、この但し書きは我が隊でも常々実行してもらいたいと手前も思う。


営所の奥から扉の一つ一つを確認するようにブルースピリットがやってくる。
服装から見れば…バーンライトのスピリットでありましょう。
その娘はエトランジェ殿の扉の前まで来ると…張り紙を確認し、何か大きく頷いた。
その顔は緊張に包まれ、何かを決断するかのよう…に?


『フンッ! 貴様なぞがおらなんでも、ラキオス如きに陥とされるサモドアではないわッ!』


─バンッ!


「へぶっ!?」


まるで蹴り開けられたかのように開かれる扉…それに強打されるブルースピリットの娘…
…見ているだけで手前まで痛くなってしまう…
乱暴に扉を開けた禿頭の威丈夫は、周りに気も留めず足音を響かせながら去っていく。
確かあれは…バーンライトの将軍でありませなんだか…?


「きゃうぅぅぅ……痛いですぅ……」


涙目で鼻頭を押さえる娘に手拭を当てる。
多少、血が出ているが…手前らの回復力からすれば大した事もありますまい。


「あ…ありがとうございます…」


礼を言う娘に笑顔を向ける。
バーンライトにおいても殆どのスピリット達は神剣に呑まれかけているというのに、この娘は生き生きとしている。
何となく…手前の部下を思い出して自然に頬が緩んでしまう。


「やれやれ……あのハゲ…本当に周りが見えていないな……おい、大丈夫か?」


部屋の中から男が一人出てきて声をかけてくる。
この御仁が…エトランジェ殿であろうか?
まるで鍛え上げられた刀のような体躯。
輝く闇としか表現できぬ黒髪…妖精も斯くやの美貌…だが、決して儚くは無い。
むしろその美しさは名刀か妖刀のそれに近いと手前は思う。


「…はッ………申し訳ございませぬ…不躾に眺めてしまいました…エトランジェ殿」
「…はあ…いや、もう慣れたよ…俺も自分で見たときはショックを隠せなかったからな…気にしないでくれ」
「は…はぁ…?」


まるで自分の姿を今まで見た事が無かったかのように語るエトランジェ殿に手前は混乱を隠せない。
なるほど…確かにこれは奇妙と言わざるを得ないのではないか?
そのように茫洋と考えてしまう手前をよそに、エトランジェ殿は続けた。


「まあ、とりあえず入ったらどうだ? ここでは邪魔になる。その娘は俺のベッドに寝かせてやれ」
「ハッ…感謝いたします。エトランジェ殿」


ブルースピリットの娘に肩を貸して、手前はエトランジェ殿の部屋に入る。
見た目と違い、気さくな方だと思いながら…




………

……






「ま、鼻血程度だし…すぐ治るだろ。全くあのハゲは……」
「ぷっ……だ、だめですよぉ…そんな事言ったら……将軍は気にしているんですから」
「…あのハゲの発毛願望とスピリット…どっちが大切かは言うまでも無い。よって、やつはテミ以下で十分だ」
「エ、エトランジェ殿……それは…流石に問題発言に……くっ…」


豪胆な方だと思いつつも注意を促す…
されど…ぷぷっ…手前もあの顔を思い出すと……た、耐えられそうもありませぬ…
部屋の中で忍び笑いを続ける手前達。


「さて…で、ここまで来たってことは…どっちも俺に用でもあったのだろう?」


一通りの衝動が過ぎ去った頃、エトランジェ殿が切り出す。
いつの間にか彼のペースに巻き込まれていた事に改めて気付かされ…手前は驚愕する。


「そうでありました…手前は帝国第3旅団。『拘束』のウルカと申します…職務の引継ぎのために参りました」
「エトランジェ『七鍵』のアキラだ。君のことはセラからよく聞かされている」
「…なんと…セラと面識がありましたか…して、セラは?」
「今は、食事に行かせている。まあ、すぐに戻ってくるだろう」


またも驚かされる。
あのセラが、アキラ殿に付き従っているという…
手前の隊でもライカと同等の人間嫌いの…あのセラが。
正直な話…このお人の懐の広さには驚嘆を禁じえませぬ。
事実…つい今しがた会ったばかりなのに…手前もアキラ殿には好感を感じている。


「…隊長交代の件に関してだが…現状はウルカ…君が続けてもらいたい」


真摯な表情で伝えてくるアキラ殿…その意図がいまいち理解できない。


「実の所…訓練士も押し付けられていてな…まだ、本隊の能力も把握できていない以上…現状では君が適任だ。
 今回のラキオス侵攻の件が片付き次第…それぞれと正式に顔合わせをして今後の事を決定する」


手前が怪訝な顔をしていたのか…アキラ殿はすぐに意図を説明してくれる。
これは…本格的に隊長に向いた適正と言えよう…


「ハッ…承知しました。では、今暫くは手前が本隊の指揮を執らせて頂きます」


手前の言葉に深く頷く。
アキラ殿は他の人間とは明らかに違う。
…明敏な機知と判断力…そして強さを持ち…それなのに決して驕ることが無い。
それがまた、手前には好ましく思えていた…


「それで…手前が指揮を執る間…アキラ殿はどうされますか?」
「ああ…それだが…もう暫く、セラは貸しておいてくれ。念のために別働隊として扱いたい」
「なるほど…セラならば適任でありましょう」
「…まずはこの面倒な状況を終わらせないといけないからな…ま、2日以内には終わらせるさ」


嘆息して頭を掻く。
次に腕を組んで壁にもたれる…


「見た感じでは、敵はサモドアを陥とすことに躍起になっているようだった…スピリットだけが突出し…兵士達の姿は無し…
 確かに制圧するだけならスピリットだけが居れば十分…だが…その後を考えるに…正規軍が居ないのは解せない。
 バーンライトの情報部から聞いた話だと…リーザリオでも部隊が動いていたらしいな?」
「ええ。手前たちはそれでリーザリオに派遣されましたゆえ…」


手の中で銀色の小箱を遊ばせる…
刀の鯉口を切るような澄んだ音が響く。


「俺が見た資料では…今までのラキオスの戦術は概ね、正面からの力押しだった…
 そして、今までは存在していなかったはずのラキオスの戦力増加…それを踏まえた上で…これを見てくれ」


パサッ…と軽い音を立てて紙の資料を手前に放る。
ザッと目を通して…手前は驚きの声を上げた…


「…これはッ…アキラ殿!」


持ち出し不可の章印。
項目は…スピリットと神剣の強化に関する報告。そして、被検体に用いられたスピリット達の詳細と似顔絵。
エーテル技術とスピリット技術の最先端報告書。
普段は第2資料室に厳重に保管されるはずの機密資料…


「これは俺がコピー…っていっても分からんか…とにかく写し書きしたものだ。まあ、無許可でだがな」


ニッ…と笑って平然と言い切る…
…本当に、呆れた……否、大したお方だ。


「まあ、重要なのはそこじゃない。問題なのは…そこに記されているスピリット…それをラキオス軍で見たと言うことだ」
「何と…まことですか!?」
「残念ながら…な。記憶力には多少自信がある。間違いない」
「…つまり…今、ラキオスが動いた理由は……」
「その通り。この研究に使われたスピリットごとラキオスに逃げた者がいる…ということだ…約20名程か…」


つまり現在のラキオスの戦力は元々の数に加え…古参が数名。新規練成が数名。サーギオスの強化妖精が20名…
あのラキオス王が強気に出るのも分からぬでもない…バーンライトのそれを完全に上回っている。


「今日の戦いで11ほどは斃した。残りは9名…後はラキオス独自の戦力だろう。
 情報部の報告と過去の資料を信じるのなら…実質ラキオスが動員可能な戦力は15…エルスサーオ方面まで含めれば30ぐらいだな。
 …対して、バーンライトの残存は7〜8程度と聞いている。もし俺達が抜ければ…その瞬間にバーンライトは陥ちる」
「……………」


沈鬱な思いが浮かぶ。
スピリットは基本的に人の命令に逆らう事ができない。
まるで最初から定められた事のように…人の命令を受け入れてしまうゆえに…
手前の部下や…そこに座る娘のように明確な自我を持っているもののほうがむしろ異端。
その殆どは毎日の訓練や戦闘で呑まれていく定め…


「…そういう訳で、こうする」


机に広げられていた地図…その一部にアキラ殿は線を引く。


「飛行可能な別働隊がサモドア平原を突破。リーザリオ河川帯を下り、ラセリオ側のサモドア山道入り口を爆破。封鎖する。
 それを実行するまで、ウルカ隊とバーンライト隊はサモドアに駐留。防衛力を利用してラキオス軍の侵入を防ぐ」


ラセリオとサモドアに×をつける。


「封鎖後、別働隊は迅速にサモドア山道を上進。疲弊したラキオスの戦力を挟撃。完全に殲滅する…
 なお、相手を引き付けるため…防衛隊は勝ち過ぎてはならない。深追いをせずに少し戦って、すぐに撤退する」


ラセリオとサモドアの両方から矢印を引っ張り…中間地点で×をつける。


「…これは……手前にも完璧な戦術だと思えます。アキラ殿の戦力と現状の兵数を考えれば…」
「あっあのっ! これなら、私達も…頑張って協力しますっ!」


手前の言葉に、これまで沈黙を続けていたブルースピリットの娘も賛同の意を示す。
事実。手前にはこれ以上の上策というものを考えることができぬゆえ…


「だろ? そう思うだろ? なのにあのハゲ…『そんな奇策など認められん!』の一点張り…
いやまて…いっそさっさと始末すれば…


一瞬、耳に物騒な単語が入ってきて手前は額に汗を貼り付けてしまう。
なんにしても、バーンライトの将軍が認めぬ限り…その戦術を行うために協調することもできない。
如何に帝国という名がついていようと所詮はスピリット…勝手に事を行える権限など…無い。


「ふ…ふふふ…そうだ。さっさと魔眼で縛っておけばよかったんだ…うん。すぐしよう。そうしよう♪」


良い事を思いついた…とばかりにバルガ・ロアーに潜む悪霊の王も蒼白になりかねない邪悪な笑みを浮かべる。


「ア、アキラ殿?」
「アキラ様ぁ〜」


思わず恐怖で震えてしまう声で制止する手前と娘…
この方は…その身に一体幾つもの矛盾を抱え…平気な顔をしておられるのか…
と、こちらを見たときにはその邪笑は消え去っていた。


「ウルカ…それと……あーーー?」
「は、はい。セシル。セシル・ブルースピリットですっ!」
「うん。セシル…君達には明日から働いてもらうから。敵が攻めてこない限り今日はゆっくりしておいてくれ」


見るものを悉く魅了してしまう微笑を残し、アキラ殿は颯爽と部屋から出て行かれてしまう。
主の居ない部屋に残されるは、手前とセシルという娘のみ…


「ウ…ウルカさん……お互い大変なことになりそうですね…」
「…まったくです……何とまあ…奇妙なエトランジェ殿か……」


手前らは二人して顔を見合わせ…同時に微笑んでいた。


間近に迫っているはずの圧倒的に不利な戦い…


それなのに、手前たちの周りだけ…空気が軽くなっていた。






…聖ヨト暦329年エハの月…後に『サモドア山道の奇跡』と呼ばれる事になる戦いが始まろうとしていた…







To be Continued...





後書(妄想チケット売り場)


読者の皆様始めまして。前の話からの方は、また会いましたね。
まいど御馴染み、Wilpha-Rangでございます。


漆黒の翼A 交戦…いかがでしたでしょうか?
思わぬ戦力を手にしたラキオスの暴走…
小競り合いというレベルを超えた交戦…
そこに何者かの意志が介在しているのか…それとも?


また、今回はアキラが大暴れしてしまいました。
アセリアもいきなり大怪我させてしまい…アセリア愛好家(?)の方には心苦しい展開(ぁ
でも死にませんよ? ええ、死んじゃったら色々と拙いので助かる運命です。
逆に助かるはずだったのに死んでしまったのは『沈黙』のリーファ…
うう…色々と考えていたのに、運命というものは残酷です…
ちなみに漆黒の翼という題名は彼女の意味も絡んでいました…
…せめて次の人生(?)では幸多からんことを。


さて、ウルカとも無事に出会い…ついに運命の輪は回り始めます。
これが一体どのように変転するのか…
…BBSで出した予告ルートを覆してくれるのか?
妄想空間の神々はどのような採決をされるのでしょうか…
電波のままに筆記を続ける作者にすら謎です(笑)




脳内妄想列車は飛行中!(ぉぃ



次回。永遠のアセリア外伝『人と剣の幻想詩』…ウルカ“漆黒の翼B 決着”…乞うご期待。



「……幕引きだ…お前の刻は…尽きた……」


独自設定資料

World_DATA
D’VA(ディーヴァ)
D3γ228 ポゼッショナル・ウィルス(PV)に罹患、変質したモノに対する呼称。
PVは特定環境と条件が満たされたときに、どこからかやってきて生物・無機物を問わずに憑依・感染する。
アキラの世界では1949年に初めて確認され、その後も断続的に被害が発生。
それに対応するための法律や軍事規定まで制定されている。
中級以上のD’VAとなれば、下手をすればスピリットを超える戦闘能力や異能力を持っており、常人では全く対抗できない。
唯一の救いは強力な個体の発生数が少ないことぐらいであり、通常1体に対し数名のデバイス・チューナーが動員される。
人間以外にも、死体や小動物に感染・変異させる場合があり、それらの低級D’VAに対抗するために市民は小火器の携帯を許可されている。
1987年に開発されたE.M.R.波動干渉装置のおかげで2007年現在、都市部での低級D’VA発生はかなり抑えられている。
なお上位D’VAは高度な理性と自我を持っており、人間社会に溶け込むように生活していることもある。
国家機関やハンターズの中には、人間に協力するD’VAの存在も非公式ながら確認されている。
幸い、D3γ228-PVはキャリアから移住しないため、感染拡大の心配は無いようである。


「嫌になるほど知っている」/アキラの遍歴
アキラ・クオン・メビウスリンク・システムを統括するペルソナ…『神薙 晶』は元々軍人であることは前にも語った。
虚ろで、与えられた情報から人間の振りを続けた虚無の種子は、いつしか自分の事を人間であると誤認する。
初めにそれを感じたのは7歳のとき。祖父と両親の愛と教育が彼を人形から人間へと変えた。
次にそれを感じたのは15歳のとき。初めてD’VAに襲われたときに、生を強く意識した。
最後にそれを感じたのは29歳のとき。長く過ごした軍から離れ…様々な知識を得た結果、確固たるペルソナを得た。

人間として16から軍務についた彼は、その虚無を埋めるかのように様々な技術や知識を習得していく。
結果、僅か1年で彼は全教育課程を履修。その優秀さから対D’VA特務部隊へ配属され、正規の軍籍を抹消される。
さらに1年に渡ってA.M.D.技術を叩き込まれ、ケンと一緒に精鋭部隊の一翼を担うことになる。
身体能力はケンに遥かに及ばなかったが、A.M.D.同調率と制限予知能力の高さから『ブラックハウンド』隊の双璧と呼ばれた。
その後、18〜28歳まで常に前線でケンと共に分隊長を務め、著しい戦績を残し続ける。
が、ケンと1・2位を争うほどの命令違反数を誇り…その階級は最後まで曹長止まりであった。
最後まで利用したコードネームは『フェンリル』
最終的なエイリアスは『漆黒の殲滅者』

最初に人間を殺したのは、18歳。D’VA駆逐戦で予防措置として民間人12名を強制排除。
20歳のときのテロリスト鎮圧任務の裏方(汚れ仕事)で200名の人質ごとテロ・グループを殲滅。
23歳のときにPVに感染した部下3名を自らの手で射殺。
24歳のときに特務軍の任務中に、個人的な知り合いとなったD’VAを逃がすため軍に虚偽報告後、町一つを完全破壊。
26歳のときにPVワクチンの研究成果奪取の単独特務で、中国国際防疫公司を全焼。
27歳のときに率いていた訓練隊が上級D’VAの襲撃を受け、目の前で新隊員17名全てを喪失。
28歳のときに妹のような存在だった少女が特殊型D’VAに侵食される。翌日…それを殺害。自らの手で焼却。
最終軍歴時の民間人被害総数20,827名。関係者喪失数17名。自発的殺害数4名。総数20,848名。
最終戦歴は…
航空機4機撃破。地上車両162台破壊。巡洋艦1隻撃沈。A.M.D.チューナー9名殺傷。
個人駆逐D’VA…下級257体。中級72体。上級1体。
2005年4月1日付けをもって、陸上自衛軍 第23混成師団 『ブラックハウンド』を退役。
全個人情報の抹消後、恩給生活に入る。
2007年12月24日以降…消息不明(ファンタズマゴリア召喚)


以上の事から推察できる通り…まさに「嫌になるほど知っている」訳である。


ケンに話していた辞める理由も実際には適当で…本当は繰り返される汚い闘争に嫌気が差したから。
正味な話では、新しい興味ができたというのもこじ付け。
内面の葛藤も外面の悩みすらも人間らしくあろうと見せるための閾下による自作自演に過ぎない。
情報による装飾と人間としての制御情報すらも停止すると、まさしく機械人形の如き情報知性体に堕ちてしまう。
真の意味では『七鍵』よりも人間らしくない究極的に歪な存在。
そんな彼に、真の意味での感情と人間としての生。神剣としての力を与えてくれた『七鍵』に彼はもっと感謝すべきだと思うのは筆者だけだろうか?
まあ、その辺りも徐々に自覚していくものと思いたい。


なお、デバイス・チューナーとしての彼は、その業界では伝説的な存在となっている。
…某きのこワールドの如く、守護者システムが存在していれば確実に守護者化させられると思われる(笑)


魔術(Magi)
読んで字の如く。魔の術(すべ)である。
世界に満ちるマナと個人を巡るエーテルをイメージにより魔術公式化。現実に影響を与える。
多くの世界において認識によるマナ分散リスクを避けるため、魔術師は徹底的にそれを隠匿しようとする。
自在に行使するためには高度な自己暗示能力とイメージ能力。柔軟な思考力が必要とされる。
マナの密度と才覚。不断の練磨…そして星辰の機さえ合致させれば先端科学技術をも上回る奇跡を呼び起こすことも可能。
高位の極まった魔術師はスピリットの戦闘能力を凌駕することも珍しくない。
問題は、そのクラスの魔術師は世界でも5人と存在しないことなのだが…
アキラの居た世界では、やはり秘匿されてはいるものの…D’VA。異能者に次いで珍しくもなんともない存在。
アキラ自身も魔術理論の基礎(のみ)を学んでいる。


異質な体技
実際にアキラが行使したのは『操竜師』と呼ばれる流派の体術。
歴史自体は非常に旧く…その起源は知らされていない。
全身の気脈を解放し、天地のラインを繋ぐことで恐るべき戦闘能力を発揮する。
気弾で大地を砕き、貫手で鋼鉄を貫き、竜氣が通された四肢は神剣の障壁も易々と突破する。
ベースが人間である以上、エーテルの限界はあるが体得者は限定的に生身で上級D’VAにすら対抗できる。
体得者は『竜遣い』と呼ばれ、宗家の命により各地の魑魅妖魔の類を狩り立てている。
その特性上、『出雲』にも数名の人材が派遣されているようだ。
現在の宗家は『神薙 宗祇(97)』
宗祇は個人的にも『叢雲』と繋がりがあるというが……?


渦(メイルシュトローム)
無意識と潜在意識…そして『根源』を繋ぐボーダーライン。
別名、夢幻虚数領域。クラインスペース。
通常、これに呑まれると存在消失か存在変異が発生する。
よく人が変わったとか人格が変わったとかいう話を聞くであろうが…あれに近いものだ。
違うのは人格が両立…または分裂するのではなく表層人格が崩壊して全く別の人格が誕生するという点だ。
場合によってはそのまま魂が壊れ、二度と目覚めない眠りにつくこともある。
神剣に呑まれるよりも数十倍性質が悪いことは言うまでも無い。


駄剣
アキラ曰く、存在する価値の無い永遠神剣。
見ると何故か砕きたくなるらしい。


Sevens-Heaven
佐倉煙草協会で限定生産されている煙草。
全て手作りであるため、出荷量は少なく佐倉愛煙者の会のメンバーしか手に入れられない。
通常の葉ではなく突然変異種の葉を使って作られている。
沈静効果と共に多幸感をもたらす。
『ブラックハウンド』においては人生最後の1本と呼ばれる。
別名、天国への切符。
一箱しかないので滅多に吸わない。
アキラは限定同時生産のメタルパッケージに大切に仕舞っている。


魔窟
意味合い的には悪魔の住む洞窟?
何をもってアキラがそういうフレーズをつけたのかは不明。
奴の事だからきっとネタだったに違いない。


魔眼
魔力を持った目。
視線を通すだけで様々な奇跡を発現するというとんでもない代物。
魅了や催眠。認識操作といったものを行う、魔術の一環で得られるものが一般的に知られる。
上位ともなると死線を観る『直視の魔眼』、相手を石化させる『キュベレイ』、魔力を操作する『グラムサイト』などまで存在する。
某きのこ氏の世界観では上位の魔眼は生まれ持っての神秘であり、ノーブル・カラーとも呼ばれるが…それはまた別の話。
ちなみにアキラの持つものは『幻視の竜眼』という名称が付いている。


ハゲ
バーンライト軍大将、ニルスリッチの事。
余りの思考の固さにアキラも辟易。
帝国とルーテシアの事がなければ2秒で斬殺されたことは間違いない。
後にアキラに赤テミ将軍ニルスリッチ殿と王宮で呼ばれて、爆笑される。
しまいにゃハゲもなにも気にしなくなってしまったとかどうとか…(笑)




Skill_DATA

ストーム・シーカーT (サポートスキル)
修得Lv:30
Lv:13 属性:緑
対HP効果:2300 最大回数:3 行動回数:1
種別:エンドサポート(ab)
ターゲット:敵全体 ターゲットスキルLV:16
MB:85〜100
MD:0
台詞
「我が敵を喰らえ…ストーム・シーカー!」
「さあ…我が命へと還れ…」
パラメータ変動
攻撃:+0 防御:+0 抵抗:+0 回数:+0
青:+0 赤:+0 緑:+0 黒:+0

【解説】
オーラフォトン・レイに酷似しているが、その性質は大きく異なる。
永遠神剣『神薙』により発動される全体攻撃用サポートスキル。
生み出された光弾は意志を持つかのように敵を何処までも追尾し敵を貫く。
分隊単位で行使されるが、レンジを最大限にすれば戦域全ての敵を対象にできる。
さて、ストーム・シーカーの最も恐るべき特徴は…その『魂喰らい』の能力である。
これによって止めを刺された存在はマナに変わり、その全てを『神薙』に吸収される。
つまり世界全てのマナ総量が減ってしまうのである。
情報子や概念子も取り込むので、ミニオンの原料を大量収集するには便利ではある。


皇竜・瞬歩T (ディフェンススキル)
修得Lv:31
Lv:13 属性:無
対HP効果:0 最大回数:∞ 行動回数:3
種別:ディフェンス
ターゲット:自身 ターゲットスキルLV:16
MB:0〜100
MD:+2
台詞
「…無駄だ…この程度では掠りもしない」
「ま、次回にチャレンジ…ってな」
(クリティカル)
「ぬぐッ……やってくれる…」
パラメータ変動
攻撃:+0 防御:+0 抵抗:+0 回数:+0
青:+0 赤:+0 緑:+0 黒:+0

【解説】
『竜遣い』の基本体技。
素手・剣撃・銃弾・砲弾・ミサイルを問わず、あらゆる物理攻撃を「歩いて」回避する。
熟達するとマシンガンやバルカンの如き鋼鉄の嵐すら難なく避けると言われている。
『竜氣』を回避に特化しているため、魔術や異能力に対する防御が全く働かないのが欠点。
カウンターとしての属性も持っており、敵の攻撃力の70%を反射する。


皇竜・神槌T (アタックスキル)
修得Lv:27
Lv:12 属性:無
対HP効果:700 最大回数:6 行動回数:2
種別:アタック
ターゲット:アタッカー ターゲットスキルLV:16
MB:0〜100
MD:0
台詞
「それでは、またの機会に♪」
「…吹き飛べッ! 神槌ィィィィィ!!」
パラメータ変動
攻撃:+0 防御:-30 抵抗:-30 回数:-1
青:+0 赤:+0 緑:+0 黒:+0

【解説】
『竜遣い』の基本アタックスキル。
『竜氣』を掌に収束。指向性を与えて敵を吹き飛ばす。
神槌の上位技にもなると、相手を吹き飛ばさずに身体内部をズタズタにする。
物理技であるために実体を持たない相手には全く通用しない。
肉体に触れることで発動するため、ハイロゥで止められた場合も不発する。
だが、このスキルは相手の結界防御(通常のディフェンススキル)を完全に無視する。
よって、このアタックスキルによる攻撃は必ずクリティカルになる。


ガラティーンT (アタックスキル/ディヴァインマジック)
修得Lv:15
Lv:9 属性:赤
対HP効果:1000 最大回数:16 行動回数:3
種別:アタック
ターゲット:サポーター ターゲットスキルLV:16
MB:0〜100
MD:0
台詞
「邪魔者は先にご退場願おうか!」
「…1ショット1キルってね」
パラメータ変動
攻撃:+0 防御:+0 抵抗:+0 回数:-1
青:+0 赤:+0 緑:+0 黒:+0

【解説】
オーラフォトンを打ち出す魔銃となったCz75を使った射撃攻撃。
スキルの種類によって対象を変化させることも可能。
銃弾だけはあって、その衝撃だけで行動回数を削減させることができる。
アタックスキルだが、ダメージ判定はディヴァインマジックとして計算する。
射撃武器であるため、基本的にカウンタースキルで反撃を受けない。
エトランジェやスピリットの反応速度で扱うからこそ有効だが、常人が扱ってもスピリットに命中させるのは至難の業。
またブラックスピリット級のスピードがある場合、20m以上距離を開けると視認後に回避されてしまう。
微妙に使いでに悩むが…近接距離におけるサブウェポンとしては非常に優秀。
やはり有効なのは、詠唱中のスピリットを射撃することだろう。


ルーン・スフィアT (ディフェンススキル)
修得Lv:34
Lv:13 属性:白
対HP効果:2000 最大回数:9 行動回数:3
種別:ディフェンス
ターゲット:自身 ターゲットスキルLV:16
MB:50〜100
MD:0
台詞
「…この程度ではな…」(ノーダメージ)
「…結界突破…くッ…この力はッ…?…」(通過)
「うぉぉぉッ! た、耐えられるのか!?」(クリティカル)
パラメータ変動
攻撃:+0 防御:+50 抵抗:+50 回数:+0
青:+10 赤:+10 緑:+10 黒:+10

【解説】
原初マナと概念子が結びついた神秘文字であるルーンによって編まれた防御結界。
原理的にはスピリットやオーラフォトンによる障壁と同じ。
その強大な魔力と加護力は並大抵の事では打ち崩せない。
発動する度に防御・抵抗能力を高めていく。




Personaly_DATA
ウルカ・ブラックスピリット/Uruca Black-Spirit(『拘束』のウルカ)
身長:156cm 体重:44kg リュトリアム・ガーディアン。銀髪紅眼。Size:78/56/72
知的能力:意外と高い 精神性:理性的内向型 性格:丁寧・武人 容貌:かなり良い
性別:女性 誕生日:聖ヨト暦308年シーレの月 青三つ
年齢:21(外見:18)
技能:剣技。居合術。瞬動。戦術知識。神剣魔法。小隊指揮。
属性:黒
神剣:第6位『拘束』
光輪:ウイングハイロウ
特筆事項:ルシィマの因子を持つため龍の属性を持つ。
所持品:スピリット用服飾品。

基本能力コード(常人の平均値を10とした場合。右は修正済みの値)
筋力:19
+20=39/109(280%)
耐久:16
+20=36/100(280%)
敏捷:20
+20=40/112(280%)
魔力:17
+20=37/103(280%)
感覚:17
+20=37/103(280%)
幸運:12
+20=32/89(280%)

戦闘パラメータ(LV1の状態で)
生命力:500
攻撃力:
150%
防御力:
90%
抵抗力:
90%


特殊能力:
<龍の因子>

※第3位までの力による存在構成情報に対する侵食を無効化する。
※また、高濃度のマナ(エーテル)を蓄えることで瞬間的に能力を跳ね上げることが可能。
※反面、魔法に対する耐性が低下する。神剣魔法による被害が常に+50%されてしまう。

<超反応>
※超絶的な反応速度を得られる。完全に使いこなせれば知覚・判断・反応・動作を1タイミングで行えるようになる。
※全てのコンバットスキルの行動回数が+1される。


解説:
言わずと知れたサーギオス帝国で最強のスピリット。
その実力と黒きハイロゥから『漆黒の翼』の異名を持つ。
龍の属性を持ち、剣の腕前は大陸でも頂点に位置している。
サーギオスやウルカ隊の中ではセラやフレイアが料理担当であるため知られていないが…
…ウルカの料理の腕前たるや、正にバルガ・ロアーの料理人である。
毎日の修練を欠かさない努力家でもある。
ちなみに、読書も趣味。
その際には余りに集中し過ぎて、後ろから近づいたものを危うく斬る所だったとかどうとか…(笑)



SubChara_DATA
セシル・ブルースピリット/Cesil Blue Spirit
身長:150cm 体重:41kg スピリット。青髪碧眼。
知的能力:並以上 精神性:感情的内向型 性格:天真爛漫 容貌:かなり良い
性別:女性
神剣:第8位『泉水』
年齢:12(外見15)
職業:バーンライト妖精隊第ニ分隊長
解説:
前線でベテランの妖精達が戦死してしまったため、何の因果か前線指揮を任せられてしまう。
見た目も心もまだまだ少女のものであり戦場に慣れてはいない。
そのためか比較的に自我も保っているようである。
戦場でアキラに叱咤されて以来、アキラに懐いてくる。
別名、バーンライトのヘリオン的存在(笑)


「あ、あのっ! アキラ様っ あ、明日はお時間空いてますか?」


リーファ・ブルースピリット/Riepha Blue Spirit
身長:154cm 体重:41kg スピリット。青髪碧眼。
知的能力:高い 精神性:理性的外向型 性格:真面目 容貌:かなり良い
性別:女性
神剣:第6位『沈黙』
年齢:19(外見17)
職業:ラキオス妖精騎士団
解説:
クィラスが提唱していた強化妖精部隊の被検体。
その中でも最も完成度が高く、絶妙なバランスの上に成り立っていた傑作。
同化比率91:9で調律されており、神剣に完全に呑まれることなく神剣と深く同調する。
日常においては、より同化の進んだナナルゥの如き対応をするが自我が無い訳ではない。
アセリアとは仲が良く、二人一緒に無言でずっと空を見上げていた光景がよく確認されていた。

強化妖精は、マナ結晶の指輪とセットで運用され、瞬間的に通常のスピリットの数倍の能力を発揮する。
原作においてはラキオス郊外でユートとウルカを襲った帝国の妖精に匹敵する。

本来は理性的で真面目な性格な持ち主だった。
ラキオスに来てからは多少ながら自意識を取り戻しかけていたが、サモドア山道の戦闘にて戦死する。
戦いだけに使われ続けた悲運の妖精。
次の生あらば、今度は幸せになってもらいたい。


「……誰?……誰でもいい……この渇きを満たしてくれるのなら………」


クィラス・グラスカイト/Quilas Graskyte
身長:170cm 体重:60kg 人間。くすんだ金髪と茶褐色の瞳。
知的能力:極めて高い 精神性:理性的外向型 性格:紙一重 容貌:黙っていれば魅力的
性別:男性
年齢:37(外見29)
職業:ラキオス妖精騎士団長&ラキオス訓練士長&ラキオス上級技術者
解説:
性格はある意味で破綻しているが紛れもない天才。
スピリットと神剣に関する技術ではヨーティアを超える能力を発揮する。
その奇抜な発想と実力。暴走しがちな行動力は、ソーマやネツァーに疎まれリレルラエルの第7研究所をクビにされてしまった。
辞令が下りたことを知った瞬間、クィラスは決断。即座に行動に移す。
研究成果の全てと被検体のスピリットの全てを連れてラキオスに亡命したのである。
試験的ながら強大な力を持つクィラスの妖精騎士を通常のスピリットで止めることは不可能だった。
自分の育て上げた妖精騎士たちを溺愛しており、手がけた娘達に価値をつけるためにバーンライト侵攻を行う。
彼の不幸は、たまたまそこにアキラが居た事だと言わざるを得ない。


「…小生の娘達は例外なく美しく…その強さたるや無敵…帝国のボンクラになど負けぬのである!」




Eternity Sword_DATA
永遠神剣 第8位 『泉水(せんすい)』
一般的な西洋剣…ロングソードの形状をした永遠神剣。
特に自我は無く、本能だけでマナを求める。
属性のコントロールが甘いため、『泉水』のスピリットはアタックスキルに属性を付加することができない。
代わりと言っては何だが、身体系の制御能力は高く、また比較的簡単に同調してくれる。
そのため、スキルの最大回数と行動回数が高くなる傾向にある。


永遠神剣 第6位 『沈黙(ちんもく)』
バスタードソードの形状をした永遠神剣。
刀身も厚く、片手でも両手でも扱える。
全体的に高い能力を持っており、刀身内部に常にオーラフォトンが通っているため強靭無比。
並みのスピリットの神剣などは簡単に砕いてしまう。
蓄積されたマナ量のお陰で自我を持ち始めており、リーファを侵食しようとしていた。
契約者に高い能力を与え、属性を乗せた一撃で次々と敵を狩り、マナを喰らう。
その能力を最大に発動させたヘヴンズソードはアセリアのそれに匹敵する。
アキラ曰く、駄剣。