聖ヨト暦329年 ルカモの月 黒三つの日 夕刻
帝都サーギオス 処刑場




薄闇の色をした輝く翼を持つ黒き妖精がそこに着いた時、全てはもう終わった後だった。


そこで戦闘が行われたような形跡は無い。
兵士も処刑を担当するはずの訓練士もそこには居ない。
その場に残るのはただ二人。
見知らぬ衣装を身に纏う刃金のような男と、その腕に抱かれる赤き妖精のみ。


(処刑を邪魔した…という訳ね…)


黒き妖精は心の中で、そう呟く。
その胸中で渦巻くは如何なる感情か?


スピリットは人間の役に立たねばならない。
人の命令に従い、黙って任務を遂行するのがスピリットの美徳。
役に立てぬ道具であれば祖国のマナとなって貢献するが定め。
ここはそのための場所。
役に立てぬ道具─スピリット─をマナに還す場所。



(…私達は人に従うが定め…マナの霧となるまで戦うが定め……)



繰り返すように呟く。



(でも、それすらも許されず…廃品のように捨てられる…そのような終わりなど…憐れ過ぎる)



そう思えるのは、このスピリットが欠陥品であるがゆえか…それとも正しいことなのか…
まず…この世界の者なら9割5分が欠陥品だと酷評することだろう。



「…フ…所詮、私達は逸者(はぐれもの)だったわね…」



小声で…まるで自分で確認するかのように言うと、黒き妖精は二人の前に降り立った。




「─さて…天から落ちてきた君は天使か、それとも俺を殺しに来た死神かな?」


どこか楽しそうに刃金の男が声を掛ける。
左手には赤き妖精。右手には鞘に収められた黄金の太刀。
何があっても動けるように男は自然に構えている。


「…さあ? テンシもシニガミもよく分からないけど…貴方が思うように判断してみてはいかがかしら?」


黒き妖精も応える。
腰の刀はいつでも抜ける体勢。
寸毫の隙でも見せれば即座に切り伏せるだろう。


両者の間の空気が電気を通したかのように張り詰める。


「んじゃ、とりあえず君は天使って事でよろしく♪」



ニカッ…と笑って、臆面も無く男はそう言った。
敵意が無いと言うかのように肩を竦める。
その途端、張り詰めていたはずの空気は一瞬にして霧散していた。



「調子の良い解釈ね…軽薄なのは嫌いだけど、と・り・あ・え・ず…その天使とやらになっておいてあげるわ」



その様子に毒気を抜かれたのか黒い妖精も、どこか微笑を浮かべていた。



「それじゃ、天使として警告するわ。貴方…とっても危険な事になるわよ?」
「へぇ…それはどうしてかな?」


男は聞き返す。
すると、黒き妖精は艶やかな笑みを浮かべてこう言ったのだった…


「答えは簡単。…その娘を助けたでしょ? その娘は今、処刑されるはずだったのよ」


男の表情が渋いものになった。


「…………一つ聞くが…そいつはマジな話か?」
「? そのマジってなに?」
「ああ、すまん。本当か?」
「嘘をついて私に何か得でもある?」
「…いや、無いな」
「だから、そういう事…っていけない。こっちに来なさい。囲まれるわよ?」
「やれやれ…のっけからコレか…」



黒き妖精について男は飛ぶように走る。



「ああ…そう言えば忘れてた。俺はアキラ。カンナギ・アキラだ。良ければ君の名前を教えてくれないか?」



「…随分と余裕ね…私はセラ。セラ・ブラックスピリット。短い付き合いになるかもしれないけど宜しくね」





永遠のアセリア
The Spirit of Eternity Sword

〜人と剣の幻想詩〜

第一章
ACT-2
【スピリットの在り方】
- The Sera “Raison d'etre” -




聖ヨト暦329年 ルカモの月 黒三つの日 夜
帝都サーギオス スピリットの官舎 セラの私室



「…と、これが私達スピリットの概ねの状況ね」


セラは粗末な木で作られた椅子に腰掛けて俺に状況を説明する。
名前も知らない赤い少女はセラのベッドを借りて寝かせている。
本当なら水浴びでもさせてやるか、身体でも拭いてやるべきなのだろうが残念ながらその余裕は無かった。
それに現状…俺は拙いことに首を突っ込んでしまったらしいのである。

曰く…。

この世界はエーテル技術によって繁栄している。
エーテルはマナを変換して作られ、マナとエーテルは等価の存在である。
マナというのは土地や空間に内包されるエネルギーであり、国家はマナ資源を求めて争っているらしい。
まあ、ここまではありがちな話だな。
資源を求めて戦争をするのは人間…特に国家というものであれば当然の事だ。

んで、ここからが特殊だ。
目の前に居るセラや俺が助けた少女。
彼女達はスピリットと言う女性だけの種族であり、それは人に使役されている。
スピリットには青・赤・緑・黒の属性があり、それぞれに異なる特性を秘めている。
翼のように見えたのはハイロゥと言い、自分の永遠神剣を持つことで展開される。

そう、これは重大なことなのだが…スピリットという種族は例外無く永遠神剣を持っているらしい。
永遠神剣のもたらす力と脅威は契約の時に十分過ぎるほど味わっている。
彼女達も、あの恐ろしいまでの苦痛や恐怖を味わっているのかと思うと多少憐れを感じるな…

ああ、とにかくスピリットは例外なく永遠神剣を持つ。
と言うことは例外なく超人的な力を持っていると言うことになる。
それなのに人間に従わなければならない…というのは些か不自然だ。
力を持った存在が、力を持たない存在に良い様に扱われているのは自然の摂理からしても考えにくい。
その辺りを突っ込んでみたら「…それがスピリットの存在意義なのよ」と言われた。
…解せないが、その辺りは現状の俺にとっては重要でないから一応納得しておいたが…

…いかん。話が脇道にそれた。
スピリットと言うものはとにかく強力だ。
俺達の世界で言うなら猫と獅子の関係に似ている。
人間の力ではスピリットに対抗するのは不可能。
やろうと思えば1人のスピリットで人間の全軍を滅ぼしつくすことができる。
よって、この世界での戦争と言うものはスピリットによる代理戦争となるらしい。
彼女達は生まれたときから人間の道具であり兵士であるように訓練されていく。
その過程で一定以上の力を発揮できれば、彼女達は部隊へと配置されマナを獲得するための戦争へと駆り出されて行く。
さて、ここで
一定以上の力を発揮できないスピリットはどうなるのか…という話になる。
セラの話だと、そういうスピリットは<処刑>されるのだそうだ。
どうせやられて敵国のマナにされてしまうぐらいなら、いっそ最初から自国のマナにしてしまえ! という訳である。


「馬鹿げた話だな…」


思わず俺は、そうこぼしてしまう。
よく考えても見ろ? 幾らなんでも意思ある─しかも自分達に従順な存在を─役に立たないから…で処刑するか?
幾らマナが有限のものであり、そしてスピリットはマナから構成されてると言ってもだ。

…いや、まあ人間ならやりかねないってことは分かってる。分かっているのだが…

幾らなんでも俺ならやりにくい。
人を超えた力を持っている…とは言っても、俺から見れば彼女達は十分に人間らしく見える。
役に立たないから…の一言だけで処刑するには寝覚めが悪過ぎる。
あー、それになんだ。

こんな美少女達を処刑するなんて世の中の害悪だ。損失だ。むしろ処刑しようとした奴を処刑したくなる。

…じゃなくて! ああもう、なんで俺はこう変な方向に突っ走るのか?
俺はひょっとして、そういう願望でもあるのだろうか?


そんな俺の瞬間的な葛藤(妄想)を遮るかのようにセラが口を開く。


「……何がです?」


そして、セラは無表情にそう言い放った。
にべも無いというか…何がそんなに馬鹿げているのか? と言うかのような反応。
そういう彼女の顔はどこか作り物めいた仮面のように見えた。


「そうだな…たかがマナ程度の理由で、よく簡単に意思を持った存在を処刑できるものだ…って思ったのさ」
「さっきも言ったけど…それがスピリットの在り方というものだからよ」


寸分の迷いもない受け答え。
だから俺は次の質問をぶつけてみた。


「…君は処刑だ…と言われたら…大人しく処刑されるのかい?」
「…………………それが命令なら」


今度は間があった。
なんだ……結局強がってる訳だ。
誰も、好き好んで死にたい筈がない。

俺だって元々は軍人だ。
指揮官の命令によっては決死の覚悟をしなければならない事だってあった。
でも俺がするのはあくまで『決死の覚悟』であり、簡単に生を投げるなど許容できなかった。
命ってのは自分の分しか確保できないし、死んだら何もかもが終わりだ。
少なくとも俺は、そういう考えだから生き延びられたのだと思っている。

生ある者は必ず死ぬ。
生者必滅の悟り…とはよく言ったものだが、それは正に正鵠を射ている。
ならば…生の始まりは選べなくとも、せめて死に様だけは選べてもいいはずだ。
少なくとも何も無く、ただ処刑されるなど俺には考えられない。
そして…戦場を駆ける戦士であろうセラも、そのような無為の死を迎えたいはずが無いのだ。
それが分かり、俺は何となく彼女に共感を持ってしまう。



「……強情だな…意地っ張りめ…」
「…ついさっき会ったばかりの貴方に言われたくは無いわね…不愉快だわ」



憮然とした表情で言ってきた。
少し怒らせちまったかな…まあいい。



「で…本題に入るが…確かに処刑を邪魔した俺が危ないってのは分かる」
「ええ、そうね。私達スピリットは国家の所有物だから…分かるでしょ?」
「…つまり、国家反逆罪に国有資産不当略取って訳か。どう考えても死罪・極刑間違いなしだな」
「ご名答」


思ったより事態は深刻なようだ。
さっきまで居た処刑場のあたりや本城近辺には無数の兵士が俺を探し回っている。
何体かのスピリットも動員されているようだ。
まさか、こんな目と鼻の先に隠れているとは思って居ないのか、この近辺までには手が回っていないようだが…


「…まあ、時間の問題ではあるな…」


状況判断は済んだ。事前準備などできるはずも無い。
一番簡単なのは、あの少女をここに置いて俺だけで逃げてしまうということなのだが…


「自分で助けておいて放置ってのも寝覚め悪いよなぁ…」


詰まる所、そういう事なのであった。
いわゆる手詰まり。

幾ら俺が彼女達に匹敵する…いや、恐らく超えるであろう力を持っていても数の暴力には敵わない。
いや、まあ何だ。現代で実際に戦争の訓練をやっていた俺ならゲリラの如く各個撃破をするってのは可能だろう。
だけど、それをするにはやはり俺一人で何とかしなければならない。


「……うむむむむ……」


しかし此処で考えてみよう。
仮に俺がレッドスピリットの少女を連れてここから脱出する事に成功したとする。
だが、俺にはこの世界の歴史や成り立ち。社会情勢や常識といった情報が圧倒的に不足している。
<門>を超えたとき…<門>から俺に情報が流れてきたが言語情報しかなかった。
契約時に入ってきた知識は永遠神剣とやらに関連する莫大な量の制御情報のみ。
はっきり言って、この状況ではクソほどの役にも立たない。
その上、スピリットは目立つ。
2人だけで逃げきるにも現状では先が見えている。
しかし、俺の感情は彼女を見捨てたくない。
イコール手詰まり。詰み。チェックメイト。



「………一つだけ。方法が無いでも無いわ」



爆弾発言確認!



「手があるのか!?」
「ええ、さっきは言わなかったけど…この世界にはエトランジェという伝承があるの」
「…エトランジェ…来訪者って意味か」
「そう。異世界からやってくる永遠神剣を扱う人間。その力は一軍にも匹敵し、龍すら打倒しうる……どう、心当たりがないかしら?」
「つまり俺がそのエトランジェだって言いたいわけか…そして、それだけの存在なら当然…」
「帝国としては手に入れたいでしょうね。エトランジェ自体は80年近く前にも来たらしいし…」
「………それしかないかぁ………」


頭をガリガリと掻きながら俺は言う。
軍で働くなんて、もう二度とゴメンだと思っていたが選択肢なぞ無い。
ゲームならここで「1:全てを捨てて逃げる 2:やるしかない! 3:セラをからかう」とか出るはずなのだが…
…残念ながら今の俺の選択肢は2番しか存在していないようだ。
ギシリ…と音を立てて椅子から立ち上がると、俺は扉へと向かった。


「多くは言わないわ。貴方は頭が良いみたいだから」


セラはベッドに眠る少女を見つめながら言う。


「…悪い気はしないが…何もでないぞ」


立ち止まり、しかし振り返らずに言葉を返す。


「…でも、底無しのバカね。無関係な道具なんてほっといて逃げれば良かったのに」
「悪いね。バカなんで、俺にはどうしても君達が人に見えるよ」
「呆れた…貴方もしかして妖精趣味?」
「言っている意味が分からん」
「……もし、生きて私と会えたら……その時には教えてあげてもいいわ」
「…期待しておくよ」
「そう。それじゃ、せめて貴方が無駄死にしないようにマナに祈っておいてあげる」
「そうしてくれ」


俺は後ろ手に扉を閉める。
この膨大な感情にももう慣れた。
制御するなど簡単なことだったのだ。

ゆっくりと思考を…感情を切り替える。
論理的に…戦いのために脳(こころ)を機械へと差し替える。
混沌とうねっていた感情の海が静謐な湖面へと変わる。
一瞬にして俺は冷徹な軍人としての仮面(ペルソナ)を取り戻していた。


【マスター…良いのですか? このままだと、この国で戦うことになりますよ?】
(理解している。問題は無い)
【この国って、なんだか嫌なんですよね…マナが淀んでいるし…そのくせやけにマナが濃いし…】
(…愚痴なら後で聞こう。今は目の前の任務に集中しろ)
【ううぅ…マスターがなんだか違う人になっちゃってますぅ…調子狂っちゃいますよぉ〜】


なおもブツブツと言い続ける『七鍵』に答えず、俺は外へと飛び出した。



>>View-Changed by Sera



─パタン


軽い音を立てて扉が閉まる。
アキラと名乗った男の気配が遠ざかっていく。


「…本当にバカね…私達のことを何も知らないくせに…」


独り言をいってみる。
見慣れない素材で出来たコートだけを着ているレッドスピリットの少女に毛布をかけておく。
少女は夢の中ですら何かに怯えているのか時折、身を震わせて縮こまる。
そして、コートを握り締めては安心したかのように落ち着くのだ。


「処刑される恐怖…か…」


正直なところ、当事者である彼女ほどには良く分からない。
そもそも処刑される気なんて無いし、逆に自分を失うくらいなら死んだほうがマシだとも思っている。
私が恐ろしいのはウルカ様の力になれなくなってしまうことだけ。
そんな弱い自分になってしまうなんて考えたくも無い。
スピリットは道具。
道具は主人に逆らわない。
戦争の道具であるスピリットは強いことが存在価値。
だから弱ければ彼女のように存在することすら許されず…
…強ければ剣に呑まれなくても…忌まれるだけで許される。

それは当然の事。
この世界はそのように決まっている。
彼女が処刑されることになったのは彼女に力が無かったからだ。

でも内心では、同胞である妹達が処刑されてしまうことは可哀想だと思っている。
しかし、この世界において役に立てない道具というものほど惨めなものは無い。
だから、一人でも多くの妹達には生きて戦って自分の価値を…意味を掴み取って欲しいと思っている。



「…やはり私は異端なのでしょうね…」



自分で声に出すことで自分の歪さを自覚する。
道具であれ。役に立つ存在であれ。自分は道具だ。と言いながらも私はこんなにも自分であり続けていたいと切望している。




『そうだな…たかがマナ程度の理由で、よく簡単に意思を持った存在を処刑できるものだ…って思ったのさ』
『さっきも言ったけど…それがスピリットの在り方というものだからよ』




とんだ詭弁。
自分こそタダの道具で終わりたくないと願っているのに私は自然に答えられた。




『…君は処刑だ…と言われたら…大人しく処刑されるのかい?』
『…………………それが命令なら』




死にたいはずが無い。
ウルカ様の下から外されて「お前は処刑する」と言われたら私は気が狂ってしまうだろう。
即答できなかったのは迷いを見透かされたような気がしたから。




『……強情だな…意地っ張りめ…』
『…ついさっき会ったばかりの貴方に言われたくは無いわね…不愉快だわ』




彼の目に、どこか共感のようなものが浮いていたのは私の気のせいだろうか?
共感なんてされたくない。
異世界出身といっても、所詮は人間。彼が私と同じ境遇にあるはずが無いのだ。
だから私は彼の全てを見透かすかのような態度が嫌いだ。
だって…そんな顔をされたら私がせっかく作り上げてきた<仮面>が剥がれ落ちてしまいそうだから…




「……………」




もし…もし、世の中の人間が彼みたいな考えだったら…私達も違うものになれていたのだろうか…?
いや、やめよう。そのような仮定の話をしても私の…私達の在り方が変わるという訳ではない。
私は彼のことを、まだ信頼できない。
それに信頼というのは一朝一夕になるものでもない。
その上、彼はどこか得体が知れなくて…何かがとても歪んでいる。


…でも、彼が死んでベッドで眠る少女が再び処刑場に送られる姿を見たくも無い。
だから心から祈った。
彼が上手く立ち回って再び私の前に姿を現してくれるように。








(…彼の行く道にマナの導きがありますように…)








>>View-Changed by Akira


聖ヨト暦329年 ルカモの月 黒三つの日 夜
帝都サーギオス 本城 中庭



「さて…これはまた随分と集まってくれたものだな」
【…当たり前じゃないですか! マスターが堂々と正面から行くからですよ】


『七鍵』が俺の独り言に答える。
別に返答を期待していた訳でも無いが、構うまい。
セラから聞いた話だと、エトランジェというべき存在は強くなければならない。
仮にここで俺が…「俺はエトランジェだ! 王に会わせろ!」…と叫んでも一笑に付されるだけだろう。
着ている服装と剣だけで説得力があるとは考えにくい。
なればこそ、ここは敢えて正面から乗り込み、まずは俺の力を証明しなければならない。


何十人もの兵士が取り囲む中、俺はただ悠然と歩を進める。


「とっ…止まれ! 動くんじゃない!」


取り囲む兵士の一人が、俺の歩調に合わせ後ろへと下がりながら警告する。
先ほどの前言を撤回しよう。これは、ブラフでも通用するかもしれないな。


「俺はアキラ…『七鍵』のアキラ…エトランジェとして貴君らの帝との会見を希望する!」


腹に響く…良く通る、演説用の声で怒鳴る。
ああ、待て。何も言わなくてもいい。軍人に演説なんて必要あるのかと言うのだろう?
残念ながらある。
教育過程で訓練させられるほどに普通だ。
戦場で隊長の声と言うのは部下に安心感を与え、勇気を鼓舞するものでなくてはならない。
それゆえに発声から間合いの取り方まで徹底的に叩き込まれるのだ。
特に下士官や将校であれば必須の技術。
…まあ、白状すると俺も今始めてそれを使うことになったのだが…


「エ・エトランジェだと? なら貴様が…」


先ほどの騒ぎの顛末はもう知られているのだろう。
兵士達の動揺は目に見えて広がった。
俺を取り囲む包囲の輪が大きく広がる。
原因は、恐怖。嫌悪。畏怖。
それら負の感情そのものが俺をより脅威的な存在として見せかけているのだ。


「先の一件のことであれば謝罪しよう。なにぶん来てすぐだ…知らぬ事があっても仕方あるまい?」


優しく…そして尊大な口調で俺は語りかける。
どうやらエトランジェと言う名の大きさはかなりのようなものだ。
趨勢は決した。
もはや俺の勝利は揺るぎ無いものになろうとしている。
だが…



「ほぉ……お前がエトランジェだと申すか?」



朗々たる声が響く。
城内への入口には黒く豪奢なサーコートを身に纏い、王権を象徴するかのような華美な剣を帯びた若者が立っていた。
年齢に見合わぬ威厳ある声。
生まれた時から支配者として育てられた者のみが持つ独特なオーラ。
隣には上半身裸の上に同じく黒いコートを身に纏った神経質そうな男が一人。
漆黒のハイロゥを展開した3名のスピリットを従えて控えている。
む…少し状況が変わってきたか…



「いかにも。して貴方がこの国の帝であられようか?」
「うむ。余はサーギオス帝国皇帝 ウィルハルト・ゼィ・サーギオス…とは言っても3年前までは皇太子であったがな…」



チャンスを引けたようだ。
俺はすぐに片膝をつき、低頭する。



「お目にかかれて光栄の至りにございます…陛下」
「ふむ…しかし、奇妙なこともあったものだな…我が国のエトランジェと言えば『誓い』の担い手だと文献にもあるが…」



…意外な言い回し…ウィルハルトとか言ったか…どうやら曲者かも知れない。
俺は少し考えてから、こう答える。



「…残念ながら私には分かりかねます。この『七鍵』は、陛下に仕えよ…としか申しておりませんので」



【……よくもまあ白々しく嘘を並べ立てられるものですねぇ……】
(…余計なお世話だ)



「………ふむ」



若き皇帝が思案する様を見せると、隣に控えている男が口を開いた。



「…陛下…エトランジェは絶大な力を持つとのことです。
 ここは私めの妖精達を使い…この者が真にエトランジェたるのか確かめてみるのが宜しいかと…」



…まあ、当然の結論ではある。
最初から一戦あるとの予感はあった。



「そうだな…エトランジェが余に仕えると言うのなら、余はその力量をこの目で見ておく義務がある。良いな? エトランジェよ」
「ははッ…陛下の御心のままに!」



さて…この猿芝居…どこまで踊り続けられるか…
そして、すぐに戦いは始まった。





>>View-Changed by SidelinE


聖ヨト暦329年 ルカモの月 黒三つの日 夜
帝都サーギオス 本城 中庭(戦場)




─ヴァッ


漆黒の翼を広げ、ブルースピリットが舞う。
一瞬で十数メートルはあろうかという間合いを詰め、アキラに肉薄する。
刃が一条の光にしか見えない速度で振り抜かれる。

しかしアキラはその刃を僅か1cmにも満たない距離を保ちながら避ける。
攻撃が不発に終わった彼女は直ぐに大きく後ろに跳躍。間合いを離す。

その時には後ろに居たレッドスピリットの詠唱は完了しており、すぐさま炎の光線が打ち込まれてくる。
一の手をしくじっても、次々と攻撃を重ね反撃のチャンスを与えずに敵を斃す。
また例え敵に反撃されようとも被害を最小限に抑える。
そのような明確なメソッドに従った連携攻撃。
一人の敵を相手にするなら、これほど効果的な戦術は無い。


─ゴゥッ!


アキラに迫る一条の焔線。
しかし、アキラは瞬時に跳躍。
ありえない事に、超速の焔を完全に避ける。
いや、オーラフォトンすらコントロール不能な『七鍵』を使う以上、被弾は許されない。
続く攻撃…それを避ける避ける避ける!


「…どうしました! まさかエトランジェとは逃げるためだけの力しか持っていないのですかね?」


哄笑しながら妖精に次々と指示を出す男…ソーマ・ル・ソーマはそう言いながらアキラを攻め立てる。
だが、周りは分かっていない。
余裕を持っているかに見えるソーマの目に驚嘆の色が浮いていることを。

彼の妖精達の連携は完璧だった。
いかに強力な存在でも、完璧な連携に裏打ちされた攻撃を避けきることなど不可能に近い。
近づけば鋭い攻撃が。
離れれば強大な魔法が。
反撃しようともグリーンスピリットの鉄壁の防御が待ち受ける。
この戦術に隙など存在しない。
否、あるとすれば…それは互いの間に絶対的な戦力差がある場合のみ。


(…認める訳にはいけません…私の妖精達が、たかが一人のエトランジェに劣るなどッ)


少しずつ、手を変え品を変え…ソーマはひたすらに攻め続ける。


「……陛下……」


アキラは攻撃を避け続けながらサーギオス皇帝…ウィルハルト・ゼィ・サーギオスに語りかける。


「…何だ? 申してみよ」
「…スピリットは国の資産と聞き及んでおります…それをこのような試しで私が斬って良いものでしょうか?」
「お前は面白いことを気にかけるものだな…良いだろう余が許す」


─ジャッ!


銀光を難なく避ける。


「…在り難き幸せ。して、もう一つ…」
「まだあるのか?」
「…私が、このスピリット達を殺さずに取り押さえることができれば褒美が頂きたいのですが…」


今度こそ皇帝ウィルハルトは爆笑した。


「ふ…ふふふ…ふははははっ! 余に対してよくもまあ、こうまで物を言える! いいだろう。できたのなら何でも言うが良い!」


次にウィルハルトはソーマに向かい言い放つ。


「ソーマよ…余が許可する。殺す気でやれ」


ソーマは満面に喜色を浮かべ…彼の妖精達に命令した。
エトランジェを殺しなさい! と…



>>View-Changed by Akira


聖ヨト暦329年 ルカモの月 黒三つの日 夜
帝都サーギオス 本城 中庭(戦場)




ソーマという男が一言…殺しなさい…と命令した瞬間、スピリット達の動きが変化した。
先ほどまでの精妙な攻撃から、黒い殺意…そして歓喜に満たされた攻撃に。
もはや一片の加減も無い。
相手を破壊し焼き尽くし消滅させるための攻撃だ。

俺への攻撃が激化したことによって、怯えたように兵士達が離れていく。
まあ、当然か。
誰だって死にたくは無い。


「…それにしても…なんで君は、こうまで普通の神剣としてダメなのかね…」


『七鍵』に声をかける。いや、愚痴なのだが…


【マスター…それは余りにも酷いです…傷ついちゃいます…】
「………まあいい。その辺りは落ち着いてから追求するから安心しておけ」
【ふぇぇぇん…マスターが虐めるぅぅぅ…】
「さて! せめて自分の制御と俺のサポートだけは忘れてくれるなよッ!」


そう言って、俺は初めて『七鍵』を構えた。


これからは一手の手違いが死となって俺に降りかかるだろう。
俺は神剣としての力を素早く高めていく…
今まで使っていた力を徐々に高めていく。
基本制御系確立。主要増幅率変動。経路19から42を再接続完了。リンク係数再計算完了。
『七鍵』を今まで以上に近く感じる…そして世界がデータで表現され始める。
同調率90%を維持。マナ変換効率100%で安定。概念子制御を『神薙』に。主演算系を『七鍵』にバイパス。
…力が満ちる…全てが加速し世界が凍結する…
バイパス完了。強化制御率100%確認。カリキュレーション・オーヴァードライブ・スタート。


─キンッ!!


鋭い音を立てて、世界が凍る。

否、実際に凍った訳ではない。
これは『神薙』の思考と『七鍵』の思考だけが凄まじい速度で加速しているだけに過ぎない。
…実際には少しずつ世界は動いている。
これは刹那を永劫へと引き伸ばしたことで起こる現象に過ぎない。


俺へ殺意の刃を突き立てるべく迫るスピリットが俺へと辿り着くまで、主観時間にて43,213秒。
俺が避けるべく身体を動かすためにかかる時間…8,215秒。


…………………待てん!


「『七鍵』。クロックダウン1000単位実行! 以降この数値をデフォルトで設定しろ」
【イエス・マスター! あぁ…なんだか今日はマスターが格好良く見えます♪】


主観時間が戻り…周囲の流れが加速する。
よし、これ位ならやりやすい。


ゆっくりと飛んでくる青いスピリットの前に俺は無造作に移動してゆく。
まるで固体化した空気の中を進んでいるような抵抗感で、どうにも慣れない。
無表情に剣を振るうこのスピリットは一体何を考えているのだろう…ということを考えながら神剣を奪い…リンクを強制切断。
次に、赤いスピリットのほうへ走り…やはり同じように神剣を奪う。
魔法を行使するべく展開していたオーラフォトンの魔法陣は、彼女の神剣とのリンクが消滅した瞬間に薄れ始めた。
そして最後。緑のスピリットの神剣…いや、剣というより槍か…を奪って戦闘ともいえない<作業>は終了した。
俺の移動した後に、なんだか衝撃波的な靄(もや)が残留していたので、ついでにそれも消しておく。


「終わりだな。『七鍵』…オーヴァードライブを解除する。演算補助終了。ご苦労さん」
【イエス・マスター♪ お安い御用です♪】


─キンッ!!


再び硬質な音が鳴り…世界が動きを取り戻す。
神剣を失ったスピリット達が次々と力無く大地に伏していった…



「……そっ……そんなバカな……ありえません…これは何かの間違いですっ!」



ソーマが何か見てはならぬ異形を見るかのような目で俺を睨む。
まあ、確実だったはずの彼我戦力差をあっさりと覆されたのだ…無理も無い。



(…インチキみたいなものだからな…少し悪いことをしたか…)



未だ喚き散らすソーマから目を逸らし、俺は皇帝ウィルハルトの前に跪く。



「……御目汚しをいたしました。この通り、無傷にて取り押さえましてございます」
「ふ…これは余の期待以上だ…剣も抜かずにその力…確かにエトランジェと言えよう」


面白いものを見た…とばかりに言う皇帝。
驚嘆しているはずだが、欠片もそれを見せない。
ソーマなどよりも、よっぽど役者ができている。
なればこそ…この皇帝は一度自分が言ったことを翻すような真似は行うまい。


「お褒め戴き恐悦の至りにございます。この力を以って私は陛下の覇業に仕えましょう」
「うむ。期待するぞエトランジェ。そして余は約束通り…お前に褒美を取らすとしよう。なんでも言ってみるがよい」


来た! これで目的が達成されるのは確実。
俺は内心の喜びを抑えながら希望を言う。


「はッ…では1つ。本日、処刑されようとしていた赤き妖精…それを頂けませんでしょうか?」
「ほぅ…中々に興味深い提案だな…お前は役に立たぬ妖精を求めるのか?」


奇特なことだ…と言わんばかりの声で言う。
もっと、マシな物でも希望するが良いとでも言うかのような確認。


「……役に立たぬ…とは早計かと。少なくとも私はあのスピリットに力を感じましたゆえ。
 陛下が私にあれを下さる…というのなら私が鍛えて見せましょう」
「いいだろう。余は一度約束したことを反故にするほど恥知らずではない。あの妖精はお前の好きにするがよい」


言質はとった。
俺はホッと胸を撫で下ろす。


「ありがとうございます。陛下の寛大な御心に感謝いたします」
「気にするな。余はスピリット一人でお前を手に入れられるのなら安いと思っただけだからな。
 エトランジェよ…お前の処遇は明日決める。それまでは城の客間を使うが良い」
「ははッ…御心のままに」



こうして、俺はサーギオスのエトランジェとなった。
右も左も分からない異世界の中…まずは世界を知るために、どこかに身を置く必要がある。
その場所が帝国などという場所であったことは笑いを禁じえないが仕方あるまい。
俺はただ、新たな<仮面>で対応する。
決めるのは…動くのは世界の状況が分かってからでも遅くはあるまい。
今はまず俺と彼女の命が保障されただけでも喜ぼう。
全てはそれからだ。




>>View-Changed by Sera


聖ヨト暦329年 ルカモの月 黒三つの日 夜半
帝都サーギオス スピリットの官舎 セラの私室


夜も更け…もう一刻も時が過ぎれば明日になるという時間。アキラが帰ってきた。
出て行ったときと同じく飄々とした雰囲気で。


「いよっ♪ ただいま♪」
「……いつから私の部屋は貴方の部屋になったのかしら?」


しゃあしゃあと言い放つ彼を一刀両断に斬って捨てる。
斬ると言っても言葉で斬ったに過ぎないが。


「冷たいなぁ…一応ほら、助けてもらった仲だろ? 良いじゃないか」
「…良くありません」
「……………」


一瞬、渋い顔をするが何事も無く入ってくる。


「一応、皇帝に会って話をつけてきた」
「…えっ?」


この男は、自分が何を言ったのか理解しているのだろうか?
そんな、ちょっと出て行ってちょっと皇帝に会ってくるだなんて考えられない。
私は確かにエトランジェであることを利用すべきだ…とは言ったが…
幾らなんでも…まさかいきなり皇帝とは…


「貴方…やっぱり、底無しのバカでしょ?」
「…………悪かったな」


どこか拗ねるように言う彼に苦笑を誘われる。
彼はベッドに近づくと、寝ている少女に毛布をかけなおした。


「本当は、城の客間に居ておけって言われたんだがな…」
「じゃあ、なんでこんな所に居るのよ…」


彼の考えてることが読めない。
彼は普通の人間とは余りにも違い過ぎる。
だから私は何となく不安になってしまう。
だから私は呆れた顔をして彼に聞いてみるのだ。


「…ん…ちょっとソーマって奴のスピリットと殺り合った時に無理をし過ぎたらしくてね……ッグ…コフッ!」


良く見ると、顔色が悪い。
身体も小刻みに…痙攣するかのように震えている。
そして…今、彼の口から滴っているのは血ではなかったか?
…それはポタポタと流れ落ち、金色の霧へと変わっていく。


「ッ! 貴方…怪我してるの?」


慌てて椅子から立ち上がる。
彼は、それを手で遮って続けた。


「いや…怪我じゃない…ちょっとした……技の後遺症って…やつだ…」


ゼィゼィと息を切らしながら壁際に座り込む。
身体の痙攣はより増していき…見ているだけでも痛々しい。


「いや…まさか、ここまで…キツイ、と…は思わなかった…んで…な、なる…べく…信頼…できる所…で、休みたい…」


目を閉じて震える身体を抱えている彼。
一体何が彼をここまで動かすのだろう…
どうして、たかだかスピリットである彼女のためにここまで疲弊しているのだろう…
そして…どうして彼は会ったばかりの私を信頼できるなんて言って無防備に振舞えるのだろう…
それは人とスピリットの在り方としては…とても異常だ。


─それが、どこと無く気持ちいいと感じている私は…とても異常だ。


だから私は不安になる。
今まで自分が信じてきた在り方が…実は間違っていたのではないか…なんて思ってしまっている。


─そんな事は認められない! 認めてはいけない!


だから私は『朧月』を抜くと直ぐに彼の首筋に押しつけた。


「…とてつもないバカで…その上、お人好しかしら? 私達は命令されれば自分さえも殺せるというのに…」


この世では人間とスピリットが信頼し合う事など無い。
人間はただ命令して、私達はそれに従うだけ。
それが世界の摂理。スピリットの意味。

この国ではスピリット同士が信頼し合う事も許されない。
人前で気軽に声を交わす事すらできないで、どうして信頼が生まれる?
信頼というのはタダではない。
ウルカ隊という奇跡のような環境ですら信頼を形にするために長い時間をかけてきた。
それなのに…信頼? 信頼しているですって?
会ったその日から生まれる信頼?
そんな夢物語…私こそが信じられない。
そんな簡単に信頼しているなどと言われたくもない!


「これで分かったでしょ? だから…軽々しく信頼なんてものを口にしないで!」


叩きつけるように言う。
これで、首でも落としてみても…まだ彼は私の事を信頼しているなどと言うのだろうか…
仄暗い激情が私を支配していく…


─ズグッ


震える右手で彼は私の『朧月』を握り締める。
─その手から血が滴る。
そして…自分の身体にゆっくりと刃を埋めていく…
─ああ…血が…血がたくさん!


「ッ! 何を考えているのよ!」


叫ぶ。叫んで私は慌てて『朧月』を引き戻した。


「……どう、した? 斬りたい、ん…だろ? …なぜ…剣を、引く…?」


凄絶な笑みを浮かべて…彼は言う。
私は何も言えずに彼の凶行に身を震わせるだけ。
そんな私に、彼はゆっくりと語りかけてくる。


「…そん、なに…肩肘…を、張るな…よ。…無理、が…見え、過ぎ…て…こっちが、痛く…なる」


…じゃあ、どうしろって言うのよ?
私を止めろとでも言うの?
どうして…どうして、そんな風に知った口を叩ける!
私達はウルカ様の下だけで安心して…笑いあえて…戦えていたのに…
貴方の存在はどうしても私に不安を抱かせる!


「……泣く…こと、無い…だろ…俺が、虐め…て、いる、みたい…じゃ…ないか…」


…うるさいうるさい!
私は泣かない。泣いてなんかいない!
これは…ちょっと汗が目に入っただけ。


「ま…いい、さ。俺…が、お前…を信頼、する…理由は…簡、単…だ」
「…………簡…単?」


理由…理由ってなに?
彼が私を信頼する理由…それが分かれば…私の不安も消えるのだろうか…


「……俺、を…助け…て…くれて、わざ…わざ、この…娘、も匿った…だろ?」


─ゴトッ


音を立てて『朧月』を落とす。


「…近、年…稀に…見る…い、い奴…だよ…お前、は…な」


……たった、それだけの事で……
彼は、私のほんの気紛れの様な手助けで…私を信頼してくれていた。
それが何とも彼らしくて…何とも私らしくて…私は笑えてきた。


「くす…あは…あはははっ。やっぱり、貴方は…変な人だわ…」


本当に笑ってしまう。
こんな簡単なことだったなんて…
本当に簡単なことだった。
バカらしくなってくる。
散々バカバカ言っておいて…実は私もバカだった…
本当に単純。


「……なん、だよ…セラ…や、はり…笑った…ほう、が、可愛い…ぜ?」
「〜〜〜ッッ!?」


震える身体で座り込みながら彼は優しい笑顔で私を見ていた。
瞬間的に血が沸騰する。
顔が熱い。
耳も熱い。
絶対、今…私の顔は真っ赤になっているに違いない。
なんてことだ…こんな不覚…絶対に見られたくない。


「ねえ…そう言えば…」


だから…


「…な、んだ?」


私は彼の口を塞いでおく事にした。


「妖精趣味…帰ってきたら教えてあげる約束だったわよね…」
「……そう、言え…ば…ッ!?」





そして私は、素早く…優しく…自分の唇で彼の唇を塞ぐのだった…
















To be Continued…




後書こぉなぁ〜♪


読者の皆様始めまして。前の話からの方は、また会いましたね。
まいど御馴染み、Wilpha-Rangでございます。

さて、1章第2話…『スピリットの在り方』…いかがだったでしょうか?
サーギオスだからって全部が全部、神剣に呑まれたスピリットや変態的な人ばっかりじゃ無いんですよ。
いやまあ、ソーマとか変な人も居るんですけどね?

今回、焦点が当てられたのはブラックスピリットのセラさんです。
『スピリットの在り方』のサブタイトルは『セラ@』と明言してもいい感じです。
彼女は、本来ならウルカ隊に配置されていますが現在は報告のためにサーギオスへ来ているわけですね。
そこで関わってしまうエトランジェは彼女にどんな変化を与えるのか?
興味は、まだまだ尽きません(笑)

新NPCも早速登場してしまいましたね。
現サーギオス皇帝。元皇太子のウィルハルト君です。
若いながらも帝国を継ぎ、王の責務に圧殺される彼の精神はどうなってしまうのでしょうか?


【…あの…最近…私の出番…少なくなってますよね?】


─ギクッ!?


ど、どどど、どこからか何か物凄く恨みがましい思念が飛んできましたが…


【それに…マスターの周りに…不穏な娘が多くなってません?】


し、ししし…『七鍵』さん? 気のせいです。ええ、気のせいですともっ!
ちょっとウルカ隊という所にスポットを当ててみたかっただけで『七鍵』さんのことを蔑ろにした訳ではッ…
ってねぇ、その手に持っていらっしゃるCz75は何でございますか?
あ、ちょっと! こっちに銃口を向けないで!?


【…<役立たず>の作者は処刑しなければ…ねぇ?(微笑)】


こここ…殺されちゃう〜!?
作者死亡につき休載になる運命かッ!
た、た、た、助けてぇ〜ローガスさぁぁぁん。『運命』の力で私の死を回避させて下さ〜い!


「ん〜、ちょっと無理かな? 運命というのは大人しく受け入れるべきだよ♪」


─バキューーーーン!




脳内妄想列車も今日は大脱線
(屍)




次回。永遠のアセリア外伝『人と剣の幻想詩』…異端者達の非日常(セラA)…乞うご期待♪




「……異端だからこそ好きにやれるのさ」


独自設定資料


World_DATA
「無理をし過ぎた」

基本的にアキラの能力は『七鍵』程度の総合力であっても普通のスピリットのそれを凌駕する。
しかし、オーラフォトンの制御がまだ確実ではない『七鍵』では敵の攻撃一撃でも致命傷になる可能性を孕んでいる。
よって、確実に<力>を見せ付けるためには【オーヴァードライブ】に頼るしかなかった訳である。
【オーヴァードライブ】を始めて使用したアキラは、経験不足からリミットを越えてしまい心身に多大なダメージを受けることになる。
ちなみに、戦闘後…皇帝の前で倒れるのを避けるためにアキラは神剣の機能を利用して鎮痛物質を大量放出させる。
実はガタガタの状態で辛うじてセラの部屋に帰りついたのである。
セラの『朧月』を握ったり自分にブッ刺したりしても痛みを感じていなかったのはそのせい。


永遠神剣のお仕事
お仕事というのも変なのだが…永遠神剣の基本目的はマナを集めること…これに尽きる。
問題は、それが本能から出るのか自我から出るのか…ということだ。
本能しか存在していない永遠神剣の場合、衝動的にマナを集めるがために破壊行動に走る。
この世界において、マナを集めるのに最も手っ取り早い方法はスピリットから奪うことである。
そのため、スピリットを殺害するか性的交渉による強制リンクを行わせることが殆ど。
そういう風にいちいち暴走してもらっても困るため、国家はスピリットを維持するためにもエーテルを割いている。
さて、自我がある神剣の場合は多少のマナ欠乏程度であれば我慢(?)することもできる。
だが、長期にわたりマナ不足が続くと自分を構成するマナ(マナ上限)を自分で削り、存在維持にまわさなければならない。
上限が、どんどん減っていくとヘタをすれば消滅してしまうため、永遠神剣はこれを非常に嫌がる。
最初に『求め』が悠人をひたすらに強制しようとしていたのは、最初で深刻なマナ不足に陥っていたため。
その後もチマチマと強制力を発動させていたが、マナに余裕が出始めるにつれマナ摂取のための強制力発動は減っていった。

▼機能制御のお仕事
なんと言うか普通はいらないだろうが…日頃、神剣が自動制御している内容を妄想してみる。

@基本制御系
呼んで字の如く。永遠神剣としての主機能をコントロールするための制御系統。
永遠神剣は精神(マインド)を介して、自分の全ての機能を直観的に理解。制御する。
もし機能を完全に理解・自覚して使えるのなら自分の位階以上の事を行うことも可能となる。
まあ、それにしても限度というものはあるのだが。

A主要増幅率/強化制御率
主要増幅率とは、永遠神剣の持つ主機能に割り当てるマナの増幅効率を示しているものである。
主要増幅率が高いレベルで安定するほど少ないマナで効率的に機能を運用することが可能となる。
強化制御率とは、永遠神剣のパラメータの一つである<総合力>の運用率である。
契約者とのシンクロ率。更には契約者のマインドレベルによっても変動するため、完全に能力を発揮させるのは難しい。
強化制御率は通常、60〜80%を推移している。
契約者との間で目的が一致した場合や精神の昂ぶり。感情の合一があった場合100%を超えることもある。
永遠神剣歴代の瞬間強化制御率の番付は以下の通り(アセリアルートを基準として)

1位:287% 悠人&『求め』
2位:258% ミューギィ&『宿命』
3位:211% アセリア&『永遠』
4位:200% タキオス&『無我』
5位:180% 瞬&『誓い』(『誓い』同化の瞬間)
6位:155% 悠人&『聖賢』
6位:155% ユーフォリア&『悠久』
8位:139% アセリア&『求め』
9位:123% ウルカ&『冥加』

見ての通り、契約者や神剣の持つ感情のリミットが高いほど瞬間的に大きな力を発揮できる。
よって完全に神剣に呑まれた者や感情の揺れ幅が低い者ほど爆発力(底力)が無い。
ちなみに悠人が287%もの強化制御率を叩き出しているが、あくまで瞬間効率。しかも神剣は第4位『求め』。
エターナルであるタキオスの高能力+第3位『無我』×200%の前にはやはり届かなかったりするんだなぁ…(笑)

B経路
永遠神剣内部に存在するマナ循環経路のこと。
<剣格>が高いほど数多くの経路を持つ。
この経路と契約者の精神をつなぐことで永遠神剣は力を外部へと放出する。
(即ち、契約者の居ない神剣はその殆どの能力を制限されることになる)
※自身が永遠神剣である『神薙』の場合、実の所は契約者が無くても力を行使できる。

Cリンク係数
経路と契約者との接続数。
契約者の精神があるまま(かつ精神が弱いまま)だと拒絶反応が起こるため、リンク係数は低めになる場合が多い。
そのような契約者を持つ永遠神剣は契約者を乗っ取ってリンク係数を高めることもある。

D同調率
そのまんま。シンクロ率である。
永遠神剣と契約者がどの程度まで同調しているかの指数。
シンクロ率が低いと永遠神剣の全機能効率が低下してしまう。
最大で100%に達し、この時点で初めて永遠神剣は最大の力を発揮する。
アセリアは永遠神剣との同調率が100%に近いため、その能力は自分より上位のウルカに匹敵する。

Eマナ変換効率
永遠神剣がマナをエーテルに変換するときの変換効率。
100%に近いほど良い。
100%に満たない場合、変換時に満たない分のマナが浮きマナとして空間に放出されてしまうことになる。
例えば、必要エーテル100点の技があったとしよう。
変換効率が100%であれば100マナを消費して発動できる。
だが、変換効率が50%しかなければ行使するために200点もマナを消費しなければならなくなるのだ。
なお、永遠神剣がエーテル・コアになっている場合、浮きマナの微小な差分を永遠神剣が
ガメてしまう。
これがラクロック限界として有限世界のマナを減少させていくことになるのである。

F概念子制御
永遠神剣はマナを利用して様々な奇跡を起こす。
それらの奇跡は、何の法則もなく顕現していると思われがちなのだが、それは間違いである。
永遠神剣は、その強大な精神と処理能力を使って常に<概念子>と呼ばれる情報体を制御している。
<概念子>には励起状態と中立状態があり、励起状態の<概念子>によって素粒子は様々な形態をとる。
もし<概念子>が中立状態となった場合、物質の定義はシュレーディンガー状態に移行し偏在化する。
そして中立状態の<概念子>に新たな法則を与えれば物質はその新しい状態に変化・安定してしまう…という訳である。
永遠神剣はマナを使うことで<概念子>を中立状態に戻し、更にイメージによって奇跡へと変換しているのだ。
ちなみに、スピリット達が神剣魔法を使うときに呪文を使っているが、本来ならそれは不必要である。
同調率とスピリット自身のイメージ力さえ高ければ、一切の詠唱無く公式変換・魔法発動に持っていける。

G主要演算系
様々な情報を収集・計算するための制御系。
永遠神剣で言えば<目>のような部分がそれに該当する。
別に電子制御でもICが入っている訳でもないため、そこでぶん殴っても機能がおかしくなったりはしない。
外部から収集した様々な情報を数値化し、自動的に意訳して永遠神剣の機能・行動を適正に管理する。
人間で言えば脳であり感覚器官。
ちなみに『神薙』と『七鍵』では処理速度・演算能力に天地の差があるためアキラは主要演算を全て『七鍵』にまわしたのである。




Skill_DATA

オーヴァードライブT (サポートスキル)
修得Lv:21
Lv:10 属性:無
対HP効果:-10% 最大回数:2 行動回数:1
種別:スタートサポート(ab)
ターゲット:単体【本人】 ターゲットスキルLV:16
MB:80〜100
MD:-4
台詞
「貴様らに行動などさせん!」
「…思考よ…刹那から永劫へと迸れ!」
パラメータ変動
攻撃:+100 防御:+0 抵抗:+0 回数:+2
青:+20 赤:+20 緑:+20 黒:+20
※サポートスキルの回数は増えない。

【解説】
思考速度と神経反応を異常加速させ、恐るべき速度で行動するためのサポートスキル。
実はマナの放出により時間さえも制御しているのだが、その辺りは本人も知らない。
スタートサポートタイミングに発動し、敵の全ての行動フェイズを消去してしまう。
よって、敵は一方的に攻撃されてしまうこととなる。
しかしながら限界を超える思考演算や肉体酷使が与えてくる反動は凄まじく、限界を超えると一気に膨大なダメージが返ってくる。
最大回数が0になった場合、戦闘後…酷使された脳や肉体は悲鳴をあげ全ての戦闘パラメータが暫く半減してしまう。
気をつけて行使すれば強力無比。
その特性上、オールラウンダー時にしか使えない。



Personaly_DATA
セラ・ブラックスピリット/Sera Black-Spirit(『朧月』のセラ)
身長:162cm 体重:48kg スピリット。肩口まである銀髪。黒瞳。Size:87/57/84
知的能力:高い 精神性:理性的外向型 性格:冷静・理知的 容貌:かなり良い
性別:女性 誕生日:聖ヨト暦310年スリハの月 黒1つ
年齢:18(外見:19)
技能:居合術。神剣魔法。広範囲知識。戦術知識。調理技術。
属性:黒
神剣:第6位『朧月』
光輪:ウイングハイロウ
特筆事項:指揮能力に優れている。
所持品:スピリット用服飾品。

基本能力コード(常人の平均値を10とした場合。右は修正済みの値)
筋力:15
+20=35/98(280%)
耐久:12
+20=32/89(280%)
敏捷:19
+20=39/109(280%)
魔力:14
+20=34/95(280%)
感覚:17
+20=37/103(280%)
幸運:11
+20=31/86(280%)

戦闘パラメータ(LV1の状態で)
生命力:500
攻撃力:
100%
防御力:
128%
抵抗力:
114%


特殊能力:
<刹那の見切>

※攻撃の間合いを計る天性の才能。
※ディフェンススキルの対HP効果が+400。最大回数が+4。行動回数が+2される。
※また、ディフェンススキルがカウンター系のものである場合、反射ダメージを+30%する。

解説:
サーギオス帝国ウルカ隊所属のブラックスピリット。
ウルカに次ぐ戦闘能力の持ち主であり、ウルカが単独行動をとる場合には副隊長として行動する。
攻撃よりも防御に特化した能力を持っており、彼女のカウンタースキルは至高の位置に達している。
ウルカを敬愛し、彼女のためには死をも厭わない。
サーギオスではかなりの古株であり、人とスピリットの距離感には敏感。
彼女にとって人間というのは命令を下す存在であるとともに信用に値しない存在である。

ウルカ隊のスピリット達を実の妹のように可愛がっている。
実は料理が趣味で、いつも何かと工夫を重ねている。
性格は理知的で冷静。口論でも理詰めで迫るが、感情が爆発してしまうと思考が空回りしてしまう。
いつも無骨な戦闘服と胸鎧を着けているので分からないが…脱ぐとス…
(斬ッ)…んDeath…(死



SubChara_DATA
ウィルハルト・ゼィ・サーギオス/Wilhalt Zei Sergios
身長:174cm 体重:69kg 人間。黒髪紫瞳。
知的能力:かなり高い 精神性:理性的内向型 性格:王様 容貌:比較的良い
性別:男性
年齢:22
職業:サーギオス帝国皇帝
解説:
聖ヨト暦325年に突然死を遂げた前皇帝に代わり帝位についた若き皇太子。
賢君とは言えないが名君。
状況を理解し、それに対応し、事態を解決させる手腕は凄まじい。
また事態を収束させるために犠牲が必要と見れば、即座に最小限の犠牲を切り捨てる。
巨大な帝国の歯車として『誓い』に選ばれた、いわば傀儡なのだが…?

「…余はサーギオス帝国皇帝…ウィルハルト・ゼィ・サーギオスなる」
「…フ…残念だが…余は皇帝などという器ではない。なのに何故に余はここに居るのだろうな?」



Eternity Sword_DATA
永遠神剣 第6位 『朧月(ろうげつ)』
セラ・ブラックスピリットの保有する永遠神剣。
ご多分にもれず刀型。
司るのは「隠された真理」
スピリットの持つ神剣としてはかなりの力を持っており、契約者のスピードを著しく強化する。
本能と自我を持ち合わせており、マナが足りなくなるとセラを唆して集めさせようとする。
どちらかと言えばカオス側の自我を持っており、原初に還るという本能には懐疑的。
好きなものはマナとセラ。
苦手なものは錆とアキラ。