─カツン…カツン…カツン…


硬い石畳にブーツの音が反響する。
闇を纏いながら重厚な気配が歩を進める。


高い身長。
全身を無駄の無い厚い筋肉で鎧ながらも動きは軽快。
只でさえも高い自分の身の丈をも超える長大な剣を背負って男は歩く。
その貌は、戦士のそれでありながら賢者のように苦悩を秘めているようでもある。


─カツン…カツン…カツッ…


男の足が止まる。
そこは一つの部屋の前。
男は軽く身を正し、扉を叩いた…

















永遠のアセリア
The Spirit of Eternity Sword

〜人と剣の幻想詩〜

幕間

【黒と白】
- Interlude00 -






─コンコン


男は、その体格からは想像もつかないような力加減でドアを叩く。
中に居るものに少しでも不快感を与えないように。


「テムオリン様…タキオスです。中に入っても宜しいでしょうか?」
長く生きた永遠神剣のように重厚・独特なイントネーション。
聞くものに敬意と畏怖を与える二重奏のような声。


『タキオスですか…いいですわ。はいりなさい』
対して、中からは鈴のような声が応えを返した。


返事を待ってタキオスは部屋へと入る。
後ろ手で極めて丁寧に扉を閉じる。
見た目に似合わず繊細な心掛けをも持っている男なのだ。


「失礼致します。テムオリン様。報告に参りました」
「そう。ご苦労様。では、さっそく聞かせてちょうだい」


純白の法衣を身につけた幼女…テムオリンはタキオスに先を促す。
外見に似合わぬその所作は洗練されながらもどこかあどけない。
純白の法衣と純白の髪はまるで神に捧げられた供物か、それとも天使の証左か…
しかし見た目に騙されてはならない。
これでもテムオリンは十数周期以上を既に生きている。
エターナルとしてはかなりの高齢だ。


「…はい。リージョン 8.24.172.125 <龍の大地>に於ける計画ですが…そろそろ第二段階に入る時期でございます」
「そう…現地の時間では…来年…ということになっていたはずですわね? それで…どうなの?」
「準備はほぼ完全です。既に4神剣は目覚めさせスピリットの供給も安定しております。
また、各国の調整も計画通りであり現在の所はイレギュラーの要素もありません」
タキオスは淡々と報告を続ける。


「タキオス? 私には『ほぼ』…というのと『現在の所は』…という所が気になったのですけど」
テムオリンは報告を聞きながら紅茶で口を濡らすと、タキオスに問いかけた。
微妙に口元を緩めつつ答えるタキオス。


(流石はテムオリン様。よく気がつくものだ)


「ええ、確かに。それに関しては追加の報告が二つほどあります」
「それは?」
「一つ目は、リージョン 7.210.154.127 …龍の大地で<ハイ・ペリア>と呼ばれる世界に関してですが…
どうやらカオス側の監視がついているようです」
「ふぅん…どうせトキミでしょ?」
「恐らくは。現在、他世界で進行中の計画から考えるとトキミ以外にはありえませんな。
ローガスは相変わらず沈黙を続けているようですし我が陣営の<姫>は今だ眠り続けておりますゆえ」
「タキオス…あの女のことは口に出さないでくれるかしら? 思い出すだけでもムカつくんですのよ?」
「ははっ…軽率でした」


そう。テムオリンたちは以前、<姫>と呼ばれるロウサイドのシンボルに挑み、まさに惨敗を喫している。
第1位永遠神剣『宿命』の力は単体でもテムオリン達の勢力全てを上回っていたのである。
テムオリンは消滅寸前にまで追い込まれ…多くのマナを浪費したことは彼女の中で最大級の屈辱として残っている。


「それで…二つ目のほうを聞こうかしら」
「御意…二つ目でございますが……『七鍵』が狭間から消えました」
「ふぅん…とうとう消滅したのかしら? あの忌々しい愚かな剣は。とても愉快ですわね」

コロコロと笑うテムオリン。
それに対してタキオスの顔は何処までも渋い。

「…それが…どうやら契約者を獲得したようなのです…」
「なんですって!」
「天位『永劫』、地位『刹那』は共に休眠しておりますし鞘は今だ不明のままです…全ての介入は確認されませんでした」
「……そう。では、もちろん行先は分かっているのでしょうね?」
「はい。どうやら龍の大地に落ちたようです」


今度こそテムオリンは苦い顔になった…


(困りましたわね…いかに7位の雑魚剣とは言っても、あの剣には謎が多すぎますし…)


なにしろエターナル界に現存する記録の最も古い段階から残っている永遠神剣である。
『七鍵』が望もうとも契約者を得られず、かと言って何処の陣営にも拠らず。
ただただマナを消費し、弱っていくだけの剣。
本来なら誰にも触れられずマナの塵に還っていくだけの剣。


(── 契約者殺し(チェイン・ブレイカー) ──)


テムオリンの脳は超速度で回転する。
そして、一つの考えに辿り着くとテムオリンはとても邪悪な笑みを浮かべた。


「タキオス…」
「は…」
「計画は続行しますわ。もちろん一つ段階は付け加えますけど」
「御意」




テムオリンは笑う。本当に無邪気に。透き通った笑顔で。
もはや、そこには邪悪なものは何一つ見られない。








































「本当に…楽しみですわね」























































Interlude Out…



独自設定資料

世界座標/リージョン・スフィア・アドレス(R.S.A.)
多元世界での位置情報とも言える数値。
根源であり始原ともいえる地点を絶対座標0。<aa.bb.cc.dd>の形式で表現される。
数値は左から<祖系><階層><分枝><連結>となる。
上位永遠神剣には、現在自分のいる世界のRSA情報を取得することが可能。
そして取得したRSAを元に<門>にアクセスすることでエターナルに<渡り>の能力を与える。
なお本来ならばエターナル達がRSAを直接に数値化して取り扱うことは無い。

祖系
祖系はどの1位神剣が元となったのかです。現時点では8つまでが確認されています。よって1〜8の数位が入ります。

階層
階層は根源からどのぐらい離れているかの指標です。遠いほど多様化され可能性が薄い世界だということになります。
256以上の階層になった場合、全可能性が展開されてしまうためリージョンスフィア内に存在できません。
255の階層にある世界は殆ど根源素子が存在できません。よってマナは限りなくゼロに近くなっています。

分枝
分枝は世界発生からどの段階で違う可能性を展開したかを意味する数値です。
例えば同一階層にあっても分枝値が違う場合、ごく近いパラレルワールドとなります。
同一階層内には256以上の分枝は存在することができません。
もし256以上になってしまった場合、もっとも可能性の薄い分岐世界が自動的に消失します。

連結
連結は、世界同士の繋がりを意味する指標数値です。エターナルに取っては最重要な数値でしょう。
永遠神剣の格にもよりますが、連結の数値差異が1〜3以内の場合<門>を呼んで<渡り>を行うことができます。
<ワールドクロスゲート>が存在している場合、連結値に関わらずに別の世界に移動することも可能です。
連結値は1〜255までの数値をとります。