戦う必要があったのだろうか・・・
何のための戦いだったのか、それすらわからない今。
何のために戦うのか知る必要がある。
だから考える。今この時だからこそ。
迷わず、真っ直ぐに未来を見つめるために・・・
五本目の神剣〜誓いの夜〜
最後の戦いを目前にしてリュミエールは訓練棟に来ていた。そこで先客が来ていることに気づいた。今は休んでいるようで床に座っていた。
「ファーレーンさん? こんな時間まで訓練を?」
「リュミエールさん・・・はい。なんだか動いてないと不安で」
「?」
その時気づいたのだが、ファーレーンはニムントールを膝枕していた。気持ちよさそうに寝ている。
「仲がいいのね」
「はい。そうですね。昔から一緒に居るからかもしれません」
愛おしそうにファーレーンがニムントールの髪を撫でる。
「うちにもそれくらいの娘が何人もいるわ。皆手がかかる娘で大変よ。よくここまで生き残れたと思ってるわ・・・シキ様がいなかったら最初の戦闘で皆死んでると思う」
「リュミエールさん・・・」
「大丈夫よ。あなた達はそれくらい強いってことだから」
「はい・・・そうですね。皆で戦えばきっと」
自分だけ立っているのも変な感じがしてファーレーンの隣に座る。
「ファーレーンさんは何のために戦ってるんですか?」
唐突に聞きたくなった。戦う事が好きでない彼女が何故戦うのか、そんな疑問が浮かんだからだ。もっとも直接聞いた事はないから、そう感じたからに過ぎないが。
「?」
彼女が訝しげにこちらを見る。
「ごめんなさい・・・人それぞれよね。そんなの・・・ちょっと、何のために戦ってきたのかなって思って、ね。もう国なんて関係なくなっちゃったから混乱して・・・」
ふう。とため息が漏れる。それからファーレーンが静かに口を開く。
「私は、ニムのために戦います。この娘が戦わなくてすむ日が来るように私は戦います」
「言い切っちゃうのね・・・そうね。それもいいかもしれないわ。皆が戦わなくてすむように頑張ってみましょう・・・死なない程度にね」
いつかの日を思い出し、くすっと笑う。そしてファーレーンに笑いかける。ファーレーンも笑顔を返した。
「サラ・・・」
年少組みのスピリットを寝かしつけたあとリビングでくつろいでいると突然エメラダに声をかけられた。
「どうしたのエメちゃん」
「・・・」
呼んでみるが返事が無い。おかしく思い近づくと、小さくだが震えていた。
「・・・怖い・・・怖いよサラ・・・明日が怖いの」
「エメ・・・」
震える彼女を抱きしめてあげる。
「大丈夫。いつも私が守ってあげたでしょう? 次も私が絶対守ってあげるから・・・」
優しく言い聞かせる。だが、エメラダは首を振る。
「だめ・・・サラ死んじゃう・・・そんな事してたらきっと死んじゃう! だからお願いがあるの!」
「・・・な、にを?」
彼女の剣幕に押されながらも平静を装って聞く。
「私を助けないで今度こそ、絶対・・・私は・・・死んでもいいから」
しゃくりあげながらそういうエメラダにサラは何も言う事は出来なかった。ただ抱きしめる事しか出来なかった。
嗚咽が静かな夜に寂しく響いた。
城の中庭、何故そんな所に来たのかと聞かれれば、まだ一度もここには来たことが無かったからだ。それだけの理由。本当にくだらない。
「『欲望』お前はこれでいいのか。嫌いだったんじゃないのか『求め』とかさ」
『そうね。だけど大陸のスピリットの殆どが戦えなくなった今じゃ仕方の無い事なのよ・・・あなたこそ、このままでいいの?』
「何がだよ」
『結局、この戦いってあなたにとっては、迷惑な事じゃなかった? あなただけがはじめから戦う理由も無く戦わざるをえなかった。それはあなたにとっても不幸でしかなかったはずよ』
「確かにな・・・だけど、知ってるか? 『不幸は幸せの二倍ある』って言葉。気にしても仕方ないさ。今までも不幸な事たくさんあった。この戦いだって俺が決めたんだ・・・それに、あいつは絶望していた」
脳裏に蘇るのは黒服の男。信じるものを無くし絶望した哀れな殺戮者。
「俺はあいつの絶望に答えてやらなくちゃならない。」
『なら、私から言う事は何も無いわ』
「シキ様。こんな所でどうしたんですか?」
背後から声がして振り返る。アルエットがいた。こんな時間まで雑務をこなしていたのかと思う。
「アルエットはどうしたんだ?」
「質問を質問で返さないで欲しいんですけど・・・」
アルエットが少し困ったような顔をする。それが微笑ましくてつい表情が緩む。だが、それもすぐ消える。
「なあ、少し聞いてもいいか」
「はい・・・なんですか?」
「俺は隊長としてどうだった」
彼女の顔を見ないで言う。暫く黙ったあとアルエットの声が聞こえてくる。
「いい隊長だったと思います。皆が生き残る事ができるようにいつも最善を尽くしてくれました」
彼女の言葉は本音から出たものだろう。穏やかな口調でそう言う。それに答えるように今度は自分が口を開く。
「でも、足りなかった。死んだ者は帰ってこないし、守れなかったものが多すぎる。最善をもってもまだ足りなかった」
「シキ様・・・」
「きっと次も俺は最善を尽くす。だけど、きっと足りない。今度はもっと大きく足りない」
彼女は何も言ってこなかった。構わず続ける。
「だから、俺は今度こそ本当に何も言えない。お前達にかける言葉が見つからない・・・だけど約束する。俺は絶対に諦めない」
イースピリアの訓練棟で今日子は目の前で訓練をしている二人を見ていた。
「はぁっ!」
短い気合とともに光陰が『因果』を繰り出す。竜巻と言っても差し支えないその一撃を掻い潜り瞬が『誓い』で切りかかる。
「もらった!」
「ちっ!」
『因果』を引き戻し何とか受け止める。その後何度が切り結ぶが決定打の無いまま打ち合いが続く。
そんな時ふいに声がかかる。
「キョウコ殿」
見るとウルカだった。つい先ほどまで一緒に訓練していたのだが、自分のほうが早く根を上げてしまったのだ。手にタオルを持っていた。
「これで汗を拭いてください」
「ありがとう。使わせてもらうわ」
素直に受け取る。
水はぬるかった。まず顔の汗を拭う。それから肌の露出している部分にタオルを当てる。腕や足には擦り傷と打撲の後が残っていた。それが染みる。
「情けないわね。私だけなんだか足手まといみたい」
「そんな事はありません。キョウコ殿は十分、力があります。手前が保障します」
「ありが――」
ありがとう。そういおうとし時、引きつったような悲鳴が響く。と同時に
「相手の前で急所を広げる奴がいるか?」
「き、貴様・・・っぅ・・・!」
呆れ声とうめき声。光陰がうずくまっている瞬をしてやったりとした顔でほくそ笑んで見下ろしている。
「何やってんだか・・・」
呆れる。だか、ウルカはそうでもなかったようだ。感心したように言う。
「いえ。戦いの前にあのように心が穏やかに出来るのはよいことだと思います」
「あれって・・・そうなのかな?」
館の外。空には星が瞬き、輝いていた。悠人もそれを眺めていた。背後から誰かが近づく気配がする。振り返らなくても足音でわかる。そんな気がした。
「ユートさま、こんな所でどうしたんですか〜? あしたは、大変なんですから〜、もうお休みしなくちゃいけませんよ」
ハリオンだった。こんな時でもらしいといえばらしかった。
「他の皆は?」
「もう、寝ちゃたようです〜。今は、ユートさまと、二人っきりです〜」
「そっか・・・なあ、星を見ないか?」
「それじゃあ〜、少しだけ〜」
寄り添うようにハリオンが隣に来る。
「ありがとう」
今までのこと振り返り、心の底からそう思う。
「どういたしまして〜」
「ありがとう」
「いえいえ〜」
やっぱりハリオンだなと思い空を見上げる。
暫くそうしているとハリオンが口を開いた。
「ユートさまは〜、戦いが終わったらどうしますか〜?」
「そう言えば、明日で全部終わるんだよな・・・考えた事ないな」
そう言うと、ハリオンが両手を胸前であわせて顔を輝かせてこちらを見やる。
「それでしたら〜、一緒にお菓子屋さんをしませんか〜?」
「お菓子屋さん?」
「はい〜。わたしの、夢なんですよ〜。ヒミカも誘ったんですけど、断られちゃいました〜」
ハリオンが肩を落として言う。
「何でも、『二人の邪魔になるから』って言うんです。一体、誰の事なんでしょうね〜。聞いても教えてくれないんですよ〜」
ハリオンが不機嫌そうな顔を作ってみせる。もっとも全然そういう風には見えないが。
「・・・そっか。ヒミカがそんな事言ってたんだ」
「変ですよね〜」
「そうだな・・・生きて、明日を終えることが出来たら、一緒にお菓子屋をやろうな」
「はい〜。末永く、よろしくお願いします〜」
(・・・本当は全部わかってて言ってるんじゃ・・・)
星空のしたで二人はお互いの未来を誓った。
悠人とハリオンが外で星空を眺めている時、少し離れた茂みの影に三つの影がうごめいていた。
「・・・ハリオンは何であんなのがいいのかしら。理解できないわ」
セリアだった。隣にいるもう一人が口を開く
「セリアってさあ。本当は自分があそこにいるはずなのにって思ってない?」
ヒミカが茶化すように言う。
「ば、馬鹿いわなでよ! 私が・・・・・・・・・あ、ありえないわ!」
「先の程の間は何ですか」
「ナ、ナナルゥまで変なこと言わないでよ・・・そ、それじゃあヒミカはどうなのよ! 覗きに来たって事はヒミカだってそうなんでしょ?」
「そうとは、どういうことですか」
「だ!・・・だから・・・男と・・・女の・・・・・・関係よ」
セリアは次第に声がしぼんでいく。それを見ながら、ヒミカが口を開く。
「そうよねぇ。セリアって何度もユート様に助けられてたしねえ。そうなっちゃうのも無理ないか」
「同感です。そう言えば、ヒミカも最近はユート様を見つめている事が多く感じられます。恋愛感情を抱くとそういう傾向が出てくると以前聞いた事があります」
「ええ! そ、そうかしら」
ヒミカの頬を冷や汗が伝う。
「そう言えば、あなた最近ため息が増えたわよねぇ」
いたずらっぽくセリアが言う。それに同調するようにナナルゥも言う。
「それも一つの特徴でもあります」
「だ、だから何よ。結局ユート様はハリオンを選んだわけだし、別にいいじゃない」
「あら、開き直るの? でも、そうなのよねぇ。今更私たちが出て行っても仕方ないわ」
ふう。とため息が漏れる。そこにナナルゥの落ちつた声が響く。
「以前コウイン様から聞いたことがあります。『女は男を得るためには仲間ですら仇となす』と。これはその時の状況にとても酷似しています」
セリアとヒミカが暫し見詰め合う。
「・・・ヒミカ」
「・・・そうね。私たちは女になる必要があるわ」
「ここからは一人の男を奪い合うために敵同士となります」
「てっ、ナナルゥも!」
「はい。以前からそういった傾向が強く出ていた事は認識していました」
「はあ、それじゃあ、意思表示だけはしておかないとね・・・ユート様! お話があります!」
だっと茂みの中からセリアが抜け出す。続いてヒミカも、
「セリア! 抜け駆けは許さないわよ!」
「では、行きます」
最後にナナルゥが行く。
彼らのだけはまだま混迷をさまよいそうだった。
あとがき
「悠人さんが! 悠人さんが!」
とりあえず作者の首を絞めるこの手を離してくれると嬉しいんですが・・・
はい。とりあえずこんな感じです。次で最後でしょうねきっと。
「何で悠人さんがエターナルにならないまま終わっちゃうんですか! 納得できません!」
元々エターナルならない話で書いてたのでそれはしょうがないかと・・・
「いいえ! 断固拒否します!」
いや、無理だって。
「話が途中で伸びるのはよくある話じゃないですか!」
作者の力じゃ無理。
「話の途中で新たな敵が出る事だってあるじゃないですか!」
もう出たし。
「話の内容が突然百八十度変わる事だってよく聞きます!」
聞いたことないし(作者は)
「代筆が話を書くことだってざらじゃありません!」
誰に頼むんだよ。
「うっうっうっ・・・作者にいじめられた」
泣くなよ・・・
というわけで、最近○ピたんにはまりまくりの作者でした。次回作に会いましょう。