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 これは何かの間違いなのだろうか。

 遠野志貴は自分の存在に疑問を抱いていた。

エトランジェ、それは戦う存在だ。・・・少なくてもこの世界の常識はそのはずだ。

 だが、ここもある意味では戦場だといえるだろう。

 この戦場を飛び交うのは剣戟の音でもなく、神剣魔法でもなかった。追いかけるべき敵は無邪気に笑いながらあちこちを駆け回る幼いスピリットたち。統一性も無く、ただ自分たちがやりたい放題にしている。

 あるものはけんかをし、あるものはそれを止めようとし、あるものは泣き出し、あるものはそれらを無視し、あるものは何だかわけの分からんことをしている。

 真っ白だった。

 深い意味は無い。言葉のとうり、真っ白だった・・・頭の中が。

 「このこのこのっ! ユリなんてこうしてやる!」

 「いたっ! エリなんてこうしてやるんだから〜!」

 「ね、ねぇ。二人ともやめようよ・・・」

 どうやらユリとエリというらしいスピリットが実力行使に出ようとしたのを、仲裁しようとしているらしい。二人とも聞いてないが・・・

 「・・・(モグモグ)」

 明らかに全てを無視し続けて、食事を続けるスピリット。騒がないだけ前の二人よりは幾分かましだった。

 「・・・ごちそうさま」

 スタスタスタ・・・

 ・・・ましだったが、そのまま全てを無視するかのようにリビングをあとにしてしまった。

 クイクイ。

 「?」

 服の袖を引っ張られたのでそっちを見やると、そこにはやっぱりスピリットがいた。

 「・・・」

 じっと見つめたまま何もいわないスピリット。

 (何がしたいんだよ一体・・・)

 視界の端ではユリとサラのケンカがますますヒートアップしていた。

 志貴が完全に疲れ果てる前にリュミエールが言った。

「あの、エトランジェ様。この屋敷はいつもこんな感じですから気にしないで下さい。それより、食事が冷めてしまうので、早く食べてくださいね」

 やはり慣れていることなのだろう。周りを気にせず食事を続けている。

 志貴もそれに習って食事を再開しようとするが、先ほどのスピリットがまた袖を引っ張っていた。

 再びじっと見つめてくるスピリット。

 「・・・」

 そして、同じ沈黙。

 (俺、泣きそう・・・)

 『・・・耐えろ』

 『閃光』言う。志貴はハァ。と短いため息と共に志貴は自分の境遇を呪った。

 バーンライト王国のエトランジェ。遠野志貴はスピリットの館改め、託児所にて、新たな生活が始まった。









5本目の神剣 青春編〜始まりの歌の前奏曲〜









―バーンライト王国 サモドア 訓練棟―









 朝の騒動から数時間後、スピリットたちは訓練に出なければいけないということだったため、訓練棟に出かけていた。志貴も当然参加したわけだが、いきなりの実戦形式の訓練に少しだけ危機感を覚えていた。

 「マナよ火球となれ。彼のものを包み、敵を滅ぼせ!」

 リュミエールが掌を突き出すように構え、詠唱を始めると、そこに魔方陣が浮かび、マナがリュミエールに集まっていく。

 「ファイアーボール!」

 呪文が完成し、リュミエールの構成した神剣魔法が具現化する。それはまっすぐに標的へと伸びていった。

 つまり、自分に。

 志貴はリュミエールにマナが集まるのを確認し、すぐさま、防御のための神剣魔法を構成する。

 「マナよ。オーラとなりて彼のものの力の指向を狂わせよ! リフレクション!」

 ブワァァァ! と、一瞬のうちに集められたマナをオーラとして自分の周囲に展開する。次の瞬間には不可視の壁によって阻まれたリュミエールの神剣魔法があさっての方に飛んでいき、すぐに霧散した。同時に志貴のオーラも解除されてしまう。

 (なるほど、少しの間しか効果が現れないのか・・・)

 神剣魔法を防がれたのを見て、タンッ! と、地面を蹴る短い音と共にリュミエールが一気に間合いを詰める。志貴はオーラを展開したときの状態からまだ、体勢を立て直せずにいた。

 (速い・・・防がれることを予想していた!?)

 実際リュミエールの神剣魔法は威力はぜんぜん感じられなかった。恐らく接近すらための目くらまし程度のもだったのだろう。

 (ならっ!)

 神剣から力を引き出す。オーラフォトンを高密度に練りだし、前方に展開する。光の網のようなものが急速に紡がれていき、リュミエールの神剣の一撃を防ぎ、与えられたのと同じ力で彼女の神剣を弾いた。

 「っ!」

 防がれるとは思っていなかったのだろう。驚愕の表情を浮かべる。弾かれたことで、完全にバランスを崩してしまった。

 その瞬間。ふっと、息を吐き出す音と共に志貴は正眼に構えた『閃光』を自分の頭ほどの高さまで振りかぶり、最短距離で袈裟懸けに振り下ろす。ぎりぎりの所でバックスッテプで避けるリュミエールをさらに間合いをつめて、切り反しをする。それは神剣に防がれるが、衝撃でリュミエールの腕が上がり、胴ががら空きになる。

「―っ!」

しまったという表情をし、彼女が胴を庇うように神剣を構えようとする。そこに切り上げた『閃光』の腹で叩く。

 ガン! と鈍い音と衝撃が伝わる。志貴はその勢いを殺さずに『閃光』を振りぬと勢いに押されリュミエールが倒れ、彼女の神剣が地面を転がっていく。

息をつき、倒れた彼女「達」を見て志貴は暫く考え込むようにしてから、疑問を投げかけてみた。

 「お前ら本当に戦争できるのか?」

 「・・・」

 誰も答えない。いや、答えられる者などいないであろう。彼女達は戦争をするために日々の訓練に励み、戦場に赴いている。いわば戦争のスペシャリストだ。それが、エトランジェとはいえ、ついこの間来たばかりの人間にやられてしまったのだ。しかも、10対1でだ。プライドが傷つかないわけが無い。

 (なんだかなあ・・・)

 途方も無い疲労感。何かとんでもない詐欺にあったような錯覚。別に彼女達が悪いわけじゃない。むしろ戦争が無くなくなれば、そんなものだって要らなくなるのだから。だが、それを迎えるためには生き残る事が絶対条件だった。現実と理想のギャップが大きすぎて、志貴には伝えるべき言葉が見つからなかった。

 が、これだけははっきり言えた。

 (お前ら弱すぎ)

 決して口には出さないが。

 とりあえず倒れているリュミエールに手を貸して起こしてやる。その表情からは悔しさが簡単に見て取れた。

 「なんで負けたかわかる奴いるか」

 「? エトランジェ様が強いからですか?」

 質問にリュミエールが答える。ふぅむとうなり、腕を組む。

 「まっ、確かに端的にいえばそうなるな。だけど、そういうことじゃない。戦ってるとき俺の事どう感じた?」

 「えーと、とっても早かったかな・・・」

 これはユリ。他のみんなと同じように倒れた格好のまま答える。

 「うん。それもたぶんそうだな。実際こいつの力を使えば、お前らには俺の姿なんてたぶん見えてないはずだ。だけど、それは最初だけだったろ」

 『閃光』を指していいながら続ける。

 「だけど、もっと根本的なことだ。お前らは剣はどんな風に使えると思う?」

 「?」

 とたんにみんなの顔が疑問符を浮かべる。志貴は小さく嘆息すると、声が聞こえるようにみんなを集めた。

 「じゃあ、剣は斬るものだと思う人挙手して」

 志貴がそう言うと、やっぱりというか。全員が手を上げた。それを確認してから続けた。

 「じゃあ、それ以外の使い方を知っている奴はいるか?」

 「・・・」

 期待を裏切らないというかやはり全員の手が下がった。

 「・・・つまり、こういうことさ」

 肩をすくめて言う。

 「俺から言わせてもらえば剣は道具だ。それを使うのは本人の意思に関わってくる。・・・そうだな、例えば剣は投げることが出来る」

 「は?」

 誰ともなしにの呟きだった。志貴はそれを無視して続けた。

 「捨てることも出来るし、折る事だって出来る。飾りとしてもいいか? 売りに出すのもありかな―」

 「ちょっ、ちょっと待ってください」

 慌てて志貴の声を制したのはアルエットだった。

 「いくら何でもそれは突拍子過ぎるんじゃ・・・」

 「まあ、待てよ。俺だってそんな使い方をお前らに望んだりはしないさ」

 志貴はアルエットをなだめてから先を続けた。

 「俺が言いたかったのは、お前らは剣の使い方がうまいとは言えないってことだ」

 「ど、どうすればいいんですか?」

 と、ジュリ。が言ったからというわけではないが、志貴は質問に答えるように言った。

 「とりあえずは、剣の基礎から教えていこうと思っている。いまさらな気もしないでもないが、やって損は無いはずだからな」

 今後の訓練の方針をその場のみんなに伝え、いない物には後で誰かが伝えるようにと言ってとりあえずその日の訓練は終わる事にした。









あとがき
 ふ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜(酸欠)。・・・はい! いきなり酸欠の作者です。今回もやっと終わったって感じで一息ついてます。では、あとがきらしく。志貴って、実は強いんですね。作者もびっくりです。それに比べてバーンライト勢は弱すぎです。戦闘シーンリュミしか出てきてないし・・・。名前も考えるのが大変ですね。バーンライトってどれくらいスピリットを保有しているんでしょうね。まぁ出てきたとこ勝負で追加していきますか。今回は何かしっくりとこない終わりになってしまいました。ので、次回作はBパート的なものになるだろうと思います。

新規キャラクター

・ユリ・ブルースピリット
 まだ、実戦投入されてから日の浅いスピリット。『黙許』の使い手。まあ特に重要なキャラクターでもないということだけは確か。エリ、ジュリといつも一緒にいる。

・エリ・グリーンスピリット
 ユリと同じく実戦投入されたばかりのスピリット。『童蒙』の使い手。恐らく重要でもないキャラクター。

・ジュリ・ブラックスピリット
 (中略)『蛮勇』の使い手。ユリ、エリ、ジュリは同じ施設で育ったため、家族意識が強く、いつも一緒にいる。名前がなんとなく近い気がするのは、施設の管理者がめんどくさがったためだとか・・・志貴に関して三人の反応は三者三様だが、あまり慕っているようではない。友達感覚である。

・アルエット・ブラックスピリット
 スピリット隊の中でトップクラスの剣の使い手。知略に富んだ『胆略』の使い手で、、部隊運用などはすべてアルエットが行っている。作戦立案などにも貢献しており、バーンライトのスピリット隊に無くてはならない存在となっている。志貴に対しては名前で呼び、様付けをする。リュミエールより丁寧なスピリットである。

スキル
・フラッシュストライク
 志貴のアタック用のスキル。光速でくりだされる連続剣。その驚異的な速さは目で捉えることなど不可能である。反面、体にかかる負担が尋常でないため、長くは続かない。

・オーラフォトンバリア・レイ
 志貴のディフェンス用のスキル。オーラフォトンを光速で展開するこの防御壁は、強力であるが、効果も一瞬で消える。そのためか光の網を紡いだように見える。

・リフレクション
 志貴のサポート用のスキル。周囲のマナにプリズムの効果を与え、周囲に展開することで、外部からのマナを反射させる。入射角が正しいと反射しないとか・・・。『閃光』は万能の剣であり、さまざまな効果を持つ神剣魔法を保有する。ただ、効果が一長一短で、使い道に困るというのが難点である。

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