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「タキオス、ボーヤの行方は掴めましたの?」

 

法衣を纏った少女が、宙に浮きながら傍で控える黒衣の巨漢に尋ねる。

圧倒的な威圧感を漂わせるこの二人は、上位永遠神剣に選ばれたエターナルだ。

そうとも知らずに、キハノレの住民は急に現れた二人に畏怖を抱き、襲い掛かった所を『秩序』の一振りで骨も残らず消されてしまった。

後には巨大なクレーターが残ったのみだが、今ではこの場所を位相空間とする為の作業へと取り掛かっていた。

 

「いえ、申し訳ありませんテムオリン様……。メダリオを筆頭に、配下を数名付かせて足取りを追っていますが、依然『求め』の行方はまだかと……」

 

その言葉に、テムオリンは、ふん、と鼻白を鳴らし一度黙考する。やがて『秩序』を目の前に翳して錫杖を振り、目の前にホモグラフの様な画像が映し出された。

映された画像の中には一台の馬車。そして、その馬車はラキオスへと『ある物』を輸送するために兵士とスピリットが配置され、護衛に付いている。

 

「タキオス、保険を使うときが来るかもしれません。『無我』の神格を下げラキオスに潜伏し、時が来ればこの中にある二振りの神剣にある細工を施してきなさい」

 

そう言うと、テムオリンは二つのマナ結晶体を集束させ、タキオスに与える。

タキオスはそれを受け取ると、テムオリンに目線で、これは? と尋ねる。

 

「ふふ、これは先刻『求め』から得たマナで作った――の結晶体ですわ。新たに力を加えて再現できるように改良しましたので、もし、ただ隠れているだけならばそれを使って誘き出しなさい。その中には記憶も残してありますから、媒体はあの二本の神剣を使えば蘇生は可能でしょう」

 

契約は切れているみたいですが、なんとかなるでしょう、と言い残して映し出された画像がズームに切り替わり、次に馬車の中が透視される。

そこには厳重に鎖で舗装され保管されている二振りの神剣。その今回の品物を指すと、次にラキオスへと帰路につくスピリット隊を映し出す。

 

「まあ、残されたこの者達を使って酷使することも可能でしょうが、こちらの方が華やかに行えるでしょうし……ふふ、あのボーヤにとっては大サービスですわね」

 

クスクスと笑って、テムオリンは宙を漂う。

タキオスはテムオリンの言葉に驚き、受け取ったマナ結晶体とテムオリンを交互に見つめる。

 

「しかし、それでは万が一の場合、時深が上手く立ち回っては戦力が増すことになるのでは?」

「ふん。たかだか――が二人増えたぐらいで私達には何の障害にもなりませんわ。『世界』を得るためです。多少の犠牲は伴いません」

 

タキオスはその矜持に満ちたテムオリンの態度に今一度尊重を抱き、そして、面白い、といった具合にほくそ笑む。

『求め』の使い手と同じように、楽しませてくれ、と内心歓喜して。

 

「トキミさんの方も気になりますが、当分はあちらもボーヤを探す為にこちら側に行動を移すことはないでしょう。監視は私が引き続き行いますから、そちらも以後、ボーヤの行方を追うように指示を出しなさい。

トキミさんより早く先に見つかればいいのですけども……何せトキミさんにとってあのボーヤは特別ですからね。どんな手を使うかわかったものじゃありませんわ」

 

下手をすれば、後先考えずに“時の三神剣”をフルに扱うかもしれない。普段は猫を被っているが、本性は子供のように大人気ないのだ。

一人で上位神剣を三本も所持する“時詠みのトキミ”は、エターナル内では名の知れ渡った人物で、『運命』の中核、テムオリンのライバルとも呼べるだろう。

ふと、『恋する乙女は無敵』と言う言葉をハイ・ペリアに出向いたときに聞いたことがあった。その言葉が本当ならば、時深は悠人の為にどんな行動に出るやらで―――

 

(まあ、トキミさんは『乙女』と言う年頃でもありませんわね……)

 

ハイ・ぺリアの神木神社で、一人の戦巫女が盛大にクシャミをした。

 

 


 

永遠のアセリアinサモンナイトV

−導かれし来訪者−

第一章 始まりの鐘

第四話 欠けた温もり

 


 

「ユートがいなくなった!?」

 

マロリガンでの遠征から帰ってきたエスペリアからの報告は、想像を絶するものだった。

経済的にも大きく進行を収めるコトができたラキオス王国だが、夕刻、謁見の間に訪れた際に隊長であるエトランジェがいないことに皆何か疑問を抱いた。

その中でも一層疑問を不安に駆り立てられたのはレスティーナである。最悪の事態が脳裏に浮かび、頭を僅かに振って雲散させる。

 

 

―――そして結果、最悪の一歩手前〈エトランジェ・ユートの突然の失踪〉だった……。

 

 

一瞬誰もが息を飲み、ざわつき始めた中で謁見の間にいる重臣の一人が尋ねた。それは確かなのか!? と。

 

「はい……。ニーハス簡易詰め所にて休息を取り、今朝方、私がユート様を起こしに訪ねた時には、もう……」

 

そのエスペリアの様子や、後ろに控える他のスピリットたちからの雰囲気でもわかるように、コトは由々しき事態にあった。

幼少組みのスピリットなどは目がやや赤くなっており、他の者も服にはスリ傷やドロ、木の葉などが付着している。きっと必死になって悠人を探したのだろう。

 

「も、目撃情報は…!?」

「……あり、ません。隈なく探したのですが、以前……神剣反応すら、掴めないのです……」

 

その言葉に、他の重臣達は世話しなくうろたえ始める。それぞれ顔を見渡してボソボソと小声で話し合う者や、狼狽する者などがスピリットを責めるなど……次第にコトが後を絶たなくなりつつあった状態だが、レスティーナに渇を入れられ、やがて大人しくなった。(舌打ちなどする者もいたが、反レスティーナ派の者達だろう)

―――アレだけ邪険に扱われていた悠人だが、マロリガンでのマナ消失を防いだコトや、これまでの勇ましい戦績――魔竜討伐など――を行ったコトから、少しずつ周囲の評価は高まりつつあったようで、中には悠人を、彼の四神剣の一人『シルダス』と重ね合わせる者もいた。

今や、ラキオス王国『求め』のユートと言えば、大陸全土にその名を轟かす程の勇将をして知れ渡っていたのだ。

 

 

 

それが、突然の――失踪……。

 

 

 

次に控えるは大陸最強と云われる<神聖サーギオス帝国>。ココまで来た以上戦争は避けられないだろう。

『誓い』のシュンや、そのエトランジェ率いる[皇帝妖精騎士団]。そして、かつてラキオス王国の隊長であったソーマ・ル・ソーマとその部下のソーマズフェアリー。

頑固な守り“法皇の壁”や、首都を守る“秩序の壁”など……地盤でも不利なこの状況下で、この報告は死刑宣告と変らないほど深刻なものだった……。

やがて、レスティーナの傍に控える客人。大賢者ヨーティア・リカリオンが顎に手を当てて呟く。

 

「神剣反応が無いってのは、おかしいね……あれほどの高位の神剣だ。よほど遠くに行くか……もしくは―――」

「―――!? い、言わないでくださいませ、ヨーティア様ッ! ユート様は……ユート、様は、そんな…コ、ト……」

 

ヨーティアの言いたいコトをいち早く察したエスペリアが、言葉を遮るように声を張り上げ、次第に曇っていく。

後ろに控えるピリットたちも、そのヨーティアの言葉に体が、ビクッ、と強張り、唇を噛みしめて拳を強く握りながら、僅かに震えていた。

 

「悪い……軽率、だったね……」

 

ヨーティアはすまなさそうに目線を下げ、吸っていたタバコを、クシャ、と潰すと、両手を白衣のポケットに入れ、レスティーナに目線で、どうする? と訴える。

 

「……とにかく今は、様子を見るしかありません……。こちらも以後、休息を取る間にも色々と調査を進めましょう。

これから神聖サーギオス帝国を攻略するのにかけて、ユートは必要不可欠です。内密に……捜索を行いましょう……」

 

重苦しい雰囲気の中で、レスティーナが歯切れの悪そうな言葉を告げる。だが、ソレに反論できる者はおらず――――

 

「 はい…… 」

 

と、皆も(しぶしぶ)承諾した……。

 

 

 

 

その後の指示で、兵の士気が少しでも下がらぬよう、現状を維持しつつも兵糧を普段より多く分け与えることに定め。

他の者達には訓練を取らせ、その間に新たな武具の調達や前線への食料の運搬、各施設の建築や敵の情報公達などに取り掛かるよう命じられた。

斥候部隊はすでに忍ばせているので、後は時が来るまで待機。報告会議は終了し、謁見の間にレスティーナとヨーティアの二人が残る。

他の重臣たちやスピリットたちはすでに帰路に着いているので、謁見の間に暫しの静寂が訪れた。

 

(さて、どうするかね……同じ四神剣の『因果』は気配を遮断することができる神剣だと聞いていたけれど、なら同じ高位の神剣である『求め』も同じことができるのかもしれないねぇ……。でも、だとしたらなぜそんなことをするのか、だ……)

 

ヨーティアはタバコを吹かし、重臣達の相手をして疲れて休んでいるレスティーナを見つめ趨勢を考える。

あれから ( クェド・ギン死後 ) 吸い出したタバコの銘柄は“ 自由 ( トヤーア ) ”。不思議と、行き詰まった時等に吸い始めると気分が落ち着くのだ。

 

(これからは『求め』の目的である『誓い』との戦いに入る。だったら協力は惜しまないと思うが……考えられる要素は三つ。神剣が破壊されたか、気配を隠さねばならない事態に陥られたか、またはこの前のようにハイ・ぺリアに出向いたか、ってことかね……)

 

一つ目以外のことに関してはいずれ時間が経てば戻ってくるかもしれないが、神剣が破壊されていれば、おそらくユートも同時に殺されていると考えて間違いないだろう。

『求め』を圧倒する程の相手だ。以前帰ってきた時に報告を受けた『無我』って神剣は第三位で『求め』より上だと聞いた。考えたくはないが、現状での可能性は高い。

 

(高位の剣に関してはイオに色々尋ねたけれど、基本的に他と比べて、神剣の自我が強いことと、強力な力を備えもつと言う事しかわかってなかったからねぇ。

う〜ん、もっとこの辺りの事を聞いとくんだったなぁ。……もっとも、『理想』の分析や解析はともかく、解体に関しては本気で拒絶されたからねぇ……)

 

解体の話を持ち掛けた時、イオはこめかみに薄っすらと青筋を浮かべて、無言で『理想』のオーラを高めて威圧してきた。

神剣自体も怒っていたようだが、無表情な分、イオは怒ると余計怖い。絶対零度にまで下がる雰囲気に、ヨーティアは以後この話を持ちかけることは二度となかった。

そして現在、ヨーティアの助手にして『求め』と同位の永遠神剣『理想』を持つイオは、サーギオス戦に向けてケムセラウトで建設の指揮を取っている。

詳しい報告に関してはすぐに伝令を出すとして、独自にエーテル通信で何か知っていないか連絡を取りたい、とヨーティアは考えていた。

イオは数少ないホワイトスピリット。もしかしたら他のスピリットとは違い、皆にはわからない“何か”を感じ取っている可能性はある。情報は少しでも欲しかった。

ヨーティアがタバコを吸い終わると、携帯灰皿に収め、ゆっくりとレスティーナに歩み寄った。

 

「まぁ〜たく。あのボンクラは……みんなに心配かけて、一体何をやってるんだろうねぇ?」

「ええ、まったくです」

 

ヨーティアが懐から新しいタバコを取り出して、苦笑しているレスティーナを見る。

 

―――悠人が行方不明と聞いた時、何より一番衝撃を受けていたのはレスティーナだった。

 

戦力ダウンは愚か、以後の指揮系統にも響くが……それ以前にヨーティアは、レスティーナが少なからず悠人に好意を寄せているコトを知っていた。

あの報告時の表情を垣間見たヨーティアは酷くいたたまれない気持ちになったが、レスティーナはすぐに沸き立った場を取り締まり、戦況に付いて冷静に判断を下した。

それは、さすが、と言えるものだった。先代とは大きく器が違うコトがよくわかる(反感を持っている重臣もいたが、レスティーナの威厳には手がでないようだ)

 

―――だが同時に、不思議になぜそこまで気丈に振舞っていられるのだろうか? と思う疑問も抱いた。

 

もしこの国がサーギオスに落ちれば、確実に彼女は討ち首になるだろう。それも、酷くいたぶられ、辱めを受けた後に、だ。

勿論、動揺を隠しているのはわかる。手先が微かに震えもしている。しかし、頑なに絶望に拉がれず、諦めずにいられる理由が他に何かあるのだろうか―――と、考え、

 

 

そこで、ふと、この場で交わした『約束』に付いて、思い浮かんだ……。

 

 

あぁ…、とヨーティアは一人納得したように頷き、その様子に?の疑問を浮かべるレスティーナにタバコを一息吸ったあと、尋ねる。

 

「―――信じているのかい? あの、ボンクラを……」

 

ヨーティアもまた、口元が微かに緩んでいるのがわかった。このような状況でまだ、自分は穏やかな表情ができるものなのだな、と心の中で密かに苦笑して。

その質問に対してレスティーナは動揺した素振りも見せず、落ち着いた様子でヨーティア同様、一度、フフッ、と笑い、穏やかに微笑んで―――答える。

 

「はい。信じていますから、ユートを……。

それに、『約束』も交わしました。この場で、“共に戦う”と―――」

 

その言葉に、迷いや戸惑いはない。不安はあるだろうが、『諦める』という疑念は、彼女の中には存在していなかった。

ヨーティアはその答えに、心底満足そうに、ハハハ、と笑いながら口を開くと、

 

「レスティーナ殿、アンタはいい女だよ。国を治める女王としても……一人の女性としても、ねぇ」

「〜〜〜!? ヨ、ヨーティア殿!」

 

レスティーナは先ほどと違い、今度は明らかに動揺し、頬を赤く染める。

慌てて落ちつこうとしているが、先ほどの言葉が頭の中から離れないのか“誰か”をその場に思い浮かべて……また頬を赤らめた。

 

「はっはっはっ! それじゃぁ、私もやるコトは山程あるんでねぇ。あの送られてきた『二本の神剣』についても解析を行いたいし、ここらで失礼するよ〜」

「あっ、よ、よろしくお願いします」

 

そう言うとヨーティアは、振り向かずに片手を上げてさっさと謁見の間から出て行った。レスティーナには見えなかったが、彼女もまた決意に満ちた表情をしていた。

再び静まりかえる謁見の間。先ほどからかわれたレスティーナは一つ溜息をつくと、ふと、横の窓から見える外の光景を眺めた。

すでに夕刻は過ぎ、太陽は沈み果てている。レスティーナは窓に近づき、遠く市内の向こうで哨戒中のマナの灯りが目についた。

 

―――今頃はオルファとウルカが見回りをしているはず、しかし、本来ならばあの中にもう一人……悠人も加わる予定だった。

 

マロリガンでの出来事は報告と共にすでに知っている。悠人が友人のマロリガンでのエトランジェ二人を殺めてしまったことで、どれほど塞ぎこんでしまっていたのかもエスペリアの報告書には随時に記されていた。(他の重臣たちに渡した書類には戦果しか記されていない、エトランジェの事情など記した所で無駄だからだ)

ヨーティアもその書類を見たときは、悲痛な辛い表情を浮かべていた。そして結果、次のサーギオス戦が嫌になり、敵前逃亡したのではないか!? と大声で喚き散らした重臣が出た。

近衛隊長にその重臣をすぐに下がらせたが、スプリットや私達(レスティーナとヨーティア)が言い伏せていた言葉をズバッと言い張った時には、さすがに立場など関係なく腹が立ったものだ。無神経にもほどがある。即座に厳しく口を黙らせ処罰した。

そんなコトを思い浮かべながら外を眺めていたレスティーナは、もう一度、フゥ、と溜息をつき……ボソッと、呟く。

 

 

「早く、帰って来てね……ユートくん」

 

 

レスティーナではないもう一人の少女、レムリアの声が……彼女以外誰もいない謁見の間に、小さく木霊した……。

 

 

 


 

後書き

 

悠人のいなくなったファンタズマゴリア編です。

今回『――』を使い文章を伏せる表しを行いましたが……もしかして、大体皆さんも何のかわかってしまった、かな?(ダッタラワスレテ

この世界での影響がどうなるのかが、話のもう一つの醍醐味ですが考え方が足りなかったらすいません。本人なりにがんばってやっていきますんで!

では、また次の後書きで会いましょう。

 

 

追伸

 

次回からは執筆方法がやや変更(久しぶりにこのSS書くので)しますが、何とぞご理解のほどを。

うぅむ、しかしレベルアップしていればいいのだが・・・。

 

 

 

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