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夢を、見ていた・・・。

ハイペリアで光陰と今日子、そして佳織と共に何気ない日常を送っていた時の夢だ。

いつものように親友二人が家に訪れ、今日子のハリセンで起こされてリビングに降りると、光陰は佳織の入れたコーヒーを飲んでいる。

佳織を付け狙い、今日子のハリセンで叩かれた光陰を風景の一つとして横切り、俺は写真の両親に挨拶をして、通学マラソンに入る。

坂の頂上には後輩の小鳥が手を振って挨拶をしている。佳織を背負い、坂を登りきると小鳥のマシンガントークが始まる。しつこくもあったが、嫌ではなかった。

バイトで疲れているので授業中はほとんど睡眠を取っている。コレも一種の睡眠学習という面目で誤魔化していたが、成果は表れずいつも今日子と最下位を競っていた。

・・・決して楽な生活ではなかった。誰の世話にもならず、事故で生き残った佳織と共に生きていくには厳しかったが、補助金などを受け取るコトはなかった。

しかし、苦しくも光陰や今日子、小鳥、義理の妹の佳織などに励まされて平穏な日常を送っていたと思う……。

 

 

そう―――あんなコトが、なければ・・・・。

 

 


 

永遠のアセリアinサモンナイトV

−導かれし来訪者−

第一章 始まりの鐘

第二話 夢なき未来  

 


 

 

【……者よ……】

 

 

(――…? 何、だ?)

 

【契…者よ……】

 

意識の沈む頭の中に、どこからか声が聞こえる。

そして、語りかけてくる声には聞き覚えがあり、悠人はすぐにその声について気がついた。

 

(その声は……『求め』? 一体、なんだよ……)

 

語りかけてきた『求め』に気ダルそうに答える悠人。どうやら眠っている間に『求め』が悠人の意識に割り込んできたようだ。

そもそもこのような状態で語りかけてくる奴は『求め』ぐらいなものだろう。意識はなくとも悠人と『求め』は契約により繋がれているのだ。

 

【契約者よ、これから話すことを心して聞くのだ…】

(なに…?) 

 

ボンヤリとしていた悠人だが、深刻な雰囲気で語りかけてくる『求め』になにか不吉な想いを抱き、精神を同調させて意識を研ぎ澄ましてゆく。

その際、なぜか不思議と自分でもすぐに落ち着くことができた。鬱屈とした気分で塞ぎこんでいた状態とは思えないほどの精神状態だ。

 

【ふん、先ほど口にした薬の影響だろうが……まあいい、話しやすいことに越したことはない。ただでさえ、契約者は普段から落ち着きがなさすぎるゆえ――】

 

皮肉を込めて語りかけてくる『求め』に、悠人は当たり前のように苛立ちを覚えたが、それもすぐに治まった。

 

―――今の『求め』は意識が微弱で、存在がどこか弱弱しかったのだ……。

 

まるで、最初にファンタズマゴリアに訪れた時のように、マナが急激に減っていた。

そうでもなければ、今頃はとっくに精神を呑まれていただろうが………なぜか悠人は、そのコトをどこか他人事のように思えていた……。

 

(……いいから早く、要点を話せよ)

 

小言を退け、無愛想に『求め』に語りかける悠人。

少なくとも『求め』が割り込んでくるまでは安らかな夢を堪能していたはず。安眠妨害とはこのコトだろうか?

 

【ふむ、そうだな。我とて無駄話をするためにわざわざ出向いたわけではない。……では、契約者よ―――】

(あん…?)

 

『求め』は一度間を取り、しかし淡々とした口調で――

 

 

 

「―――我はしばらくの間、休眠状態に陥る】

 

 

 

―――そんなコトを、スパッと言い放った……。

 

 

 

(……………は?)

 

唐突にそんなことを言われた悠人は、一瞬『求め』がなんと言ったのか理解できずに、ただ呆然となる。

シン、と静まり返る精神空間。呆然と佇む中で、先ほどの『求め』の言葉が脳裏で幾度もエコーした後……ようやく悠人の思考回路が全力で活動を始めた。

 

マロリガンでの戦争を終え―――

 

これからサーギオスに向けて進軍を始めると言うのに―――

 

なにも知らないこの場所で―――

 

 

 

―――『求め』が…… つ か え な い ?

 

 

 

 

(――――)

 

 

驚きと共に浮かび上がるものは、単純な驚愕だけではない複雑な、想い。

戦えない――それはつまり、自分の力だけでやっていかなければならないという、不安と戸惑い。

だが他に、どこかで『もう戦わなくていいのか?』というコトに関して……微かに安堵を抱いているコトもまた事実だった……。

 

【…………】

 

『求め』はそんな悠人の心中を良くは思わないが、ここでの世界基準がわからない以上、己も無闇に迂闊なコトは言わずにしたほうがよいだろうと思慮し、あえて反発することなく辟易していた。

『求め』の目的は『誓い』の破壊。しかし、この世界では関係がないうえ、今のような状態では満足に戦えはしない。

今の状態では精々、第八位程度の力しか残されていない。この世界でのマナの密度はファンタズマゴリアと同等に満たされてはいるが、元の力にまで戻るよう自然に待つとすれば、あと三百年は掛かってしまうだろう。それでは遅すぎるのだ。

一刻も早くファンタズマゴリアに戻り、マナを摂取しなければならない。生き残ることに関して今は、少しぐらい臆病なほどのほうが良いか、と『求め』は考えていた。

 

【(そうでなくとも、契約者は普段から無鉄砲な所があるゆえ……もう少し妖精を上手く扱えば良いものを……(ブツブツ))】

 

―――不満を呟きながら。

そして現在、何故自分がこのような現状に陥ったのか趨勢を話す。

 

【……契約者よ。最後に我を扱っていたときのことを覚えているか?】

(え…? 最後に…?)

 

僅かに呆けていた悠人は、『求め』の言葉に自身が最後に『求め』を扱っていたときのことを回想し……テムオリンとタキオスのことを思い出す。

 

【契約者はあの時、瀕死の重症を負った…。そして我は力の大半を治癒に回し、エターナルから逃れるために急速に<門>を開いたのだ】

(!? あ、あぁ……それで、か…)

 

『求め』が、そうだ、と頷くように言うと、悠人はその時のことを詳しく思い浮かべる。エターナルの事は良く知らないが、強力な力を持つ相手だった。

悠人自身、あの時は瀕死の重傷を負っていたため意識が朦朧としていたが、微かにだが覚えていた。テムオリンにやられ、タキオスに止めをさされる寸前に蒼い閃光が立ち昇り、体が浮遊感に包まれ―――そこで、記憶は途切れているが……その際に、誰か男の人の声のようなものを聞いたような気がした。

『求め』…ではない。知らない人の声だった。おそらくはその人が<門>を導いてくれたのだろうが……あれは一体誰だったのだろうか……。

 

悠人が考える間にも、『求め』の話は続く。

 

【故に、我はその際に代償として力の殆どを失い……今では下位神剣並みの力しか、残されてないのだ…!】

 

『求め』の機嫌が悪いのが手を取ったようにわかる。ここまで感情を表に出してあらわす所を見ると、よほど不機嫌なようだ。

マナを悠人の治癒と、敵の『秩序』『無我』に呑まれたことにより力を失った『求め』。上位神剣な程に、呑まれたマナも大きかったのだろう。

おそらくマロリガン戦での蓄えも殆ど無くなってしまったようだ。道理で『求め』からの力が弱々しく感じるわけだった。

悠人も今回のことに関しては自分の不甲斐なさにより招いたことであって、『求め』にすまない気持ちを抱く。

 

だが―――

 

【……あの時『因果』と『空虚』を完全に破壊していれば、これほどまでに弱まることもなかったものを……】

 

(―――!?)

 

そんなことを言われ、悲痛な想いが蘇える。

 

(ぐっ…!)

 

下を向いて歯を食いしばる悠人。実は先ほど『求め』に言われたように、マロリガンでの戦いで悠人は『因果』『空虚』を完全には破壊しなかった。

あの二人との戦いの後、光陰の神剣『因果』、今日子の神剣『空虚』は近くにいた稲妻部隊の手に渡り、投降の際、上層部が摂取し、ラキオスに授与したのだ。

新たに持ち主が見つかれば即戦力になるだろう、などと司令部は言い、結果、破壊することなく二本ともラキオスに厳重に輸送し、保管することとなった。

当然、『求め』からは強い破壊要求の強制力が行われたが――『因果』『空虚』にすでに戦意はないこともあり――そう長く強制力が続くことはなかった。

悠人は周りにいる者達に心配を掛けないよう一人強制力に耐えていたが、一番の理由は……親友の扱っていた神剣を砕きたくはない、という願望ゆえだろう。

そのあたりのことに関しては『求め』も薄々わかっていたため、つまらぬことを少し口走ったか、と思い、話を変えようと現状での以後の対応を述べる。

 

【……まぁ、良い。今更過ぎたことを長々と言い永らえるつもりはないのでな……。

だが、現時点ではこの世界について何もわかぬ以上……休眠状態に陥っている間も、契約者には多少なりとも力は残しておいたほうがよさそうだな……】

 

その言葉に悠人は俯けていた顔を上げ、驚いた顔で『求め』に尋ねる。

後半の言葉にいたっては、悠人は気付いていないだろうがつまらないことを口走った『求め』なりの償いの意も含まれている。

 

(そんなことが…できるのか…?)

【ふん。見くびるなよ契約者よ。力は衰えたとは言え、まがりなりとも我は第四位の神剣だぞ? 

契約者に我の力の一部を切り離し、契約者自身を媒体として残された力を扱えば、多少の活動は可能だろう】

 

なるほど、自身を媒体にして力を酷使する方法があるのか、と悠人は頷く。

こんな時にでも、『求め』の矜持に満ちた態度は普段と違い、いつもより頼もしく思えた。

 

(でも、いいのか? 少しでも早く回復したいはずなんじゃ……)

【幸い、瞬発的に使った力ならば回復にそうはかかるまい。この世界は契約者の言うファンタズマゴリアと同等のマナに満ちているゆえ】

 

そうなのか、と軽く頷く。同等のマナに満ちているということは生命の源となる核の部分がファンタズマゴリアと似ているということだろう。

そして悠人はハイ・ぺリアのように休眠状態に陥るのならば、加護なしで、以後『求め』とは当分接触できないものだと思っていたので、この提案は正直ありがたかった。

知らない土地ではどうしても不安に駆り立てられるため、生身でいることを考えるとずっと頼もしく感じるのだ。

 

(そっか……サンキューバカ剣。けっこういいとこあったんだな)

【ふん…。契約者の死は我の死でもある。『誓い』を砕く前に死なれては困るのだ】

 

などとぶっきらぼうに答える『求め』。あくまで目的のためと言い張る所に不器用な心遣いを感じ、なんとも笑えるものがあった。

一瞬、余りにも物分りがいいので、なにか企んでいるんじゃないのか? とも思ったが……弱っているみたいだし大丈夫だろう、と自分に言い聞かせる。             

 

だが―――

 

【……契約者よ、もう一度言っておくが……ただでさえ少ない力を多少分け与える“だけ”なのだ。

“力を引き出せば”低位の神剣魔法の一つや二を使えるだろうが――】

(あん…?)

 

どうやら悠人は『求め』の言った意味、使いどころを良く理解していなかった。

『求め』は『多少なりとの力』と言っているのだ。つまりいつものような状態ではなく――――

 

 

 

【身体能力の強化はほぼゼロだと思え】

 

 

 

と、言うことだった。

 

 

(…………)

 

今度こそ言葉が出ない。驚きの言葉すら……。

要は、結局戦いになれば自らの力量で戦わなければならないということだ。いつもと違い、戦い方は大きく変ってしまった。

神剣からの加護はない。使いたいときに残された力を使えばよいが、底が尽きたら終わりと言う事だ。使いどころには気をつけないと。

 

【能力的に、周囲の完治能力を人間にも当てはまるようにはしておくが……あとは契約者の腕次第だな】

(…………まぁ、それでもないよりかはずっとマシ、か……。

バカ剣。じゃあ休眠状態に陥るって言うけど、回復には一体どの位かかるんだ?)

 

『求め』は考えるように一度言葉を区切り。やがて難しそうに口を開く。

 

【そうだな……短くて半年、といった所か……】

(うっ、短くて半年、か……先は長そうだな……)

 

悠人がどうするべきか頭を悩ましていると、その様子を眺める『求め』から、どこか呆れたような声が聞こえた。

 

【……契約者よ。半年と言うのは元の世界で“最低限”戦える力量の事を言うのだ…】

(は? ん…じゃあまてよ。ってことは……)

 

本調子にまで戻るまで待つとすれば一体―――

 

【『誓い』を砕くにはほぼ完全に回復する必要がある。故に、この世界で自然と回復を待つだけならば……あと、三百年はかかるだろう……】

 

(!!? さ、さ、三百年―――――――ッ!!? 

む、無茶言うんじゃねえよバカ剣ッ!! そんなに待てるわけがないだろうがあっ!!!

 

怒鳴り上げる悠人。いくらエトランジェと言えど寿命の長さまでは変わりはしない。例え戦いはせずとも、戻るコトは確定として考えているのだから当然だ。

仮に長生きできたとしても、三百年後には佳織も、仲間も、城下町で暮らすレムリアも(ついでに瞬も)すでに寿命でこの世を去っているだろう。戻る意味がない。

そもそもこの世界とファンタズマゴリアとでは時間の流れがハイ・ぺリアと同様に違う可能性も高い。グズグズしてはいられないというのに―――

 

【―――当たり前だ。我とてそのような時間まで掛けるつもりはない】

(へ……? そ、それはどういう―――)

 

その時、『求め』がニヤリと笑ったような気がした。実際剣は笑わないので、表現するとすれば、だ。

 

【我は自然と回復を待つ“だけ”ならば、と言ったのだ】

(だけ、だと……?)

 

そうだ、と『求め』が答えると、何かを振り返るように言葉を発つ。

 

【この大地―――いや、島か。それも孤島だが、まばらに力を感じる。おそらく人か魔物の類だろう……。

だが<門>を潜る時に微かに感じたのだ。この島に強い力を持つ者が二つ存在している事に。おそらくは……我と同じ高位の剣……】

(!? な、なんだと!? じゃあ待て、あれか? まさか――この世界にも永遠神剣が存在するっていうのか!?)

 

二本、それも『求め』と同等の力を持つ高位の神剣。

確かにそれだけの力を持つ相手を破壊できれば、力も比較的回復できる目指しとなるだろう。

 

が―――

 

(おい……まあ、言いたい事はわかった。なるほど、ようするにそいつらを倒せってことか?)

【うむ】

 

納得顔で頷く『求め』(あくまでそんな雰囲気がするだけ)に悠人は青筋を立てて、溜息を吐きながら頭をガシガシと掻く。

確かに理論上はその二つを砕けば力は回復する兆しは見え、ファンタズマゴリアに戻れるだけの力を取り戻せるかもしれない。

 

しかし―――

 

(……けどな、バカ剣? 今の状態で、しかも! 身体能力の強化を行えないほどの力で……で き る と 思 っ て ん の か ?

【無理だな(キッパリ)】

 

即答。コイツ、ふざけてんのか? 意識が戻ったら即座に叩き壊してやろうかと本気で思った。

高位の剣、エトランジェ級の奴らはおろか、今の悠人にはスピリットにも―――いや、神剣の加護がないのならば、人にさえ満足に勝てない身だろう。

それを元の世界に戻るためとはいえ……無謀も良い所だった。

 

【ふん。我とて“今の”契約者にそのようなことを強調すれば、返り討ちにあうことぐらいはわかる】

 

まぁ、その前に悠人自身に叩き壊されるかもしれないが……。

 

【それに、この島には何か他に危険な……我とて近づきがたい、巨大な負の感情を感じる。不穏な気配が蟠っているのはそのせいかもしれん……】

(巨大な力? それってさっき言ってた二つの気配の他にか?)

【うむ。二つの気配についても剣の構成が不安定……とでもいうものなのか、場所が上手く把握できん。

この島にいることだけは確かなようだが……色々とやっかいな相手だ】

 

どうやらまずは探すところから始めなければならないようだ。ヤル気はないが、もしかしたら戦わずにしてすむ方法があるかもしれない。

何もしないよりかはマシだろうし、目的も活動内容も決まっていないので、とりあえず捜索から始めることを前提にやっていくことを心がける。

 

(待てよ……『求め』、それってもしかして『因果』みたいに気配を消せるってことか…?)

 

かもしれん、と頷く『求め』。だとしたら相手は随分と厄介なことだ。最悪、出会いがしらに攻撃でもされたらその時点で殺されるかもしれない。

『求め』のことはなるべく公にしないほうが良さそうだ。元々戦う気などないが、逃げる時にも有効に働くことだろう。

 

【よって当分は――ムッ―? そろそろ我も―限界のようだ―な――】

 

『求め』の意識が途切れがちになり、次第に明滅し薄れていく。どうやら残された時間は少ないようだ。

 

(くっ、もうかよ。バカ剣、『当分は』ってなんだ? 何か考えでもあるのか…?)

【うむ。よいか、契約者―よ。力を蓄えるために―もこの島にいる魔物達を倒し、力を得―るのだ―】

(なっ…!? ま、魔物、だとぉ?)

 

そういえば先ほど、高位の剣がいると聞かされたときにもそんなことを言っていたような気が……。

しかしあれか? スピリットではなくこの世界ではそんなものがいるのか? 魔物というからには、ゲームみたいな怪物のような姿をしていて―――

 

【そう―だ。現に契―約者は先ほ―ど強い力を―持つ―魔物二体と接触を―したはず――だ―】

 

(…………え?)

 

悠人の中で浮かび上がる人物に、不吉な影が篭る。

 

(先ほど接触した…? 魔物二体と…? ……俺、が? は、ははっ、まさか、な……)

 

思い違いだろうと考える。しかし……この世界に来てから出会った人物と言えば―――

 

【スピ―リットとは違い、マナそのモノ―ではない―にしろ――この―世界で――も“魔力”と―いう―力が―働いて―いるよ―うで――】

(お、おい、バカ剣……)

【? なん―だ?】

(先ほど接触した二人って……ま、まさか……)

 

悠人は、自分の聞き間違いであってくれ、と内心懸命に祈る。

 

だが―――

 

 

 

【わから―ないのか? そうだ―な確か先―ほど『アルディラ』―『クノン』と―名乗って―いたよ―うだが――】

 

 

 

(――――!!?)

 

 

 

―――現実は冷たく、そして……残酷だった。

 

 

【良いか、契約者―よ、くれぐ―れも注意―しろ。この島―には二本の剣―の他―にも、何―か巨大な力を多く―感じる。

おそら―く、これから―多くの―困難―が―降りかかる―だろうが――気を―引き締―め――てか―――か――――れ―― ――― ―…   】

 

 

――― パシィィィ―――――ィィン・・・ ―――

 

 

そう言い残し、『求め』は群青色のマナを四散して、気配が消えた。

だが、悠人は他の事で頭がいっぱいになっており……『求め』がいなくなったことに気づいていなかった。

 

(倒すって…ことは……『殺して』マナを……奪う、こと。なら―――)

 

やがて、浮上する意識の中で……悠人は思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(――「ふふ、いいのよ。そんなに硬くならなくても……まぁ、無理もないわね。起きたら知らない所にいるんだもの」――)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの、優しそうに笑っていた彼女が―――?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(――「いえ、これも私の仕事ですから」――)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう言って、俺の背中を支えてくれた彼女が―――?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(――【よって当分は、力を蓄えるためにもこの島にいる魔物達を倒し、力を得るのだ】――)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オ レ ノ コ ロ ス ア イ テ ――― ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(なんで……なんでだよ!? どうしてッ!!?)

 

余りの理不尽な現状に、怒鳴りあげる悠人。噛んだ唇からは血が流れていた。

 

(くそおっ!! 佳織を助けるためと言う理由で……俺にまた、罪もない人を……彼女たちを、殺せっていうのか……?)

 

そんなのごめんだ! と内心で反発する。恩を仇で返す、と言う言葉があるがそんなものは生ぬるい。

そもそもそんなことをすれば、本当に『壊れてしまう』だろう。自害したほうがマシだ。悠人の精神はすでに限界近くまで追いやられていたのだ。

後味の悪い空気が残る。もうじき目を覚ますだろうが、それでもヤらねば帰れる比率は低いまま……。

 

「……迷うな。戦場での迷いは、“死”へと変る―――か?」

 

もう自身に残された者は、ラキオスの仲間と……佳織、なんだ。

なら、効率よくするためにはどうすればいいかわかっているだろう?

これからのことを考え―――悠人はボソッと呟いた。

 

 

(わかってるさ……俺が、人殺しだってことも―――そして、これからも……)

 

 

得るモノの変りには、必ず失うモノもある。

そんなこと……嫌というほどわかっていたはずだ。

それでも、譲れないものもあるのだ。

 

「は、はは、ははははは……」

 

葛藤の果てに、自然に笑みが零れてくる。

前も後ろも地獄。進む先にあるものは、より多くの屍か。

悠人は人知れず自傷気味に笑い。自らの咎を認め、自分の運命を呪って嘆いた……。

 

 

 

 


 

後書き

中々執筆できないものですねぇ。しかも、今回は何やらダーク系になってしまった・・・。(ナゼコンナケッカニ?

『求め』が使えない悠人。そして現れるもう一人の自分。あぁ、これ以上原作を崩さないようにしなくては(orz

では、また次の後書きでお会いしましょう。

 

ちなみに、現在の悠人のマインドは30です。

 

 

 

 

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