≪ 救ってくれ、あの島を・・・ ≫
かつて、戦争で最後まで守りたい者達のために戦い散った青年がいた。
≪ そこに住む者たちと・・・ ≫
やがて青年は闇に覆われ、体は滅び、精神は常闇に封じられ・・・
≪ 私と同じ道を歩もうとしている、彼女を・・・ ≫
守ろうとした者達は再び、脅威に経たされようとしている。
≪ ・・・救ってくれ ≫
そして青年は、一人の少年を喚んだ―――。
永遠のアセリアinサモンナイトV
−導かれし来訪者−
第一章 始まりの鐘
第一話 束縛する心
「――デラさま。―――し―」
近くで、声が聞こえる。
「ありが―――ン。―――るわ」
聞いた事のない女性の声。一体、誰が…?
「うぅ…ん……」
「!? アル―――目を覚まし――」
やがて悠人がゆっくりと目を開いていくと……そこには頭上で二人の女性が――至近距離で――悠人を見つめていた。
(はっ? ってえぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!? ――ッ!? な、なん…だ…?)
咄嗟に体を起こそうとしたが、何故か体に上手く力が入らない。
だがショートカットの女性が素早く悠人を起き上がらせると、そのまま背中を支えてくれた。
「あ、ありが…とう……」
「いえ、これも私の仕事ですから」
お礼を言う悠人に、支えてくれた女性は素っ気無い態度で返事を返す。
それに対し、もう一人のメガネを掛けた女性が苦笑しているみたいだが…普段からこうなのだろうか?
(看護婦と医師……かな?)
「大丈夫かしら?」
二人のことを考えていると、もう一人のメガネを掛けた女性が優しく悠人に微笑みかけてきた。
「あ、と……はい」
やや戸惑ったものの、悠人は素直に頷く。
正直、体がダルくて重いような気がするが……特に支障はないだろう。
「ふふ、いいのよ。そんなに硬くならなくても……まぁ、無理もないわね。起きたら急に知らない所にいるんですもの」
「え…? あっ!? そうだ、ココは……?」
女性の言うように、ここは知らない場所。
周りは機械に囲まれ、とても自分がラキオスにいるとは思えない。
エーテル変換施設でも、これだけの技術力は無かったはず、なら―――
(これだけの技術があり、俺が知らない所…? ――まさか!?)
まさかサーギオス領地内では!? と思い、悠人は咄嗟に腰に手を伸ばすが――『求め』が、ない。
「「あっ…!」」
悠人は支えてもらっていた女性の手から逃れ、二人から離れようとベッドから飛び降りて―――
「!!? ぐぅぁぁぅ――っ!!」
体中に痺れるような痛みが奔った……。
悠人は胸を掴み、おもわず膝をつく。するとすぐに二人が駆けつけ、悠人を抱えベッドに横たわらせた。
「落ち着きなさい! 貴方、自分の容態がわかっていないの…!?」
「容…態…?」
(――「……とんだ無駄足だったようですわね」――)
「!!? そ、そうだ、俺は!?」
慌てて服を脱ぎ、包帯を剥がして貫かれた胸を見る。
(えっ? 傷が……塞がっている……?)
まだ少しズキズキと痛むものの、どうやら一命は取り留めたようだ。
その時になってようやく気づいたことだが、上に着ていた服装がYシャツだけとなっていた。
(彼女たちが、治療してくれたのか…?)
はぁぁ〜、とため息を吐いて額に手を当てている女性を見て、悠人はすまない気持ちと共に、こんな風にエスペリアにも心配を掛けたものだな、と思う。
(皆、心配しているんだろうな……こんなことしている場合じゃないのに……早く、早く戻らないと――)
その時だった―――
―――戻って、そして……また殺すのか?
(!!?)
心に住まう闇が、自分を蝕み……自らに疑問を抱き始めたのは…。
昔からもこんな衝動はあった。だが……ここまで強く表だって現れ始めたのはごく最近のことになってからだろう……。
―――戦って、殺して、奪って……ソノ先に本当に俺の求めるものはあるのか?
(……止めろ……俺は、それでも俺は! 戦うしかないんだよっ…!!)
声は続く、そしてその一言一言が悠人の心に深く、深く突き刺さる。
このような引き金になった理由は主に両親の死。次にファンタズマゴリアに来てから行われた戦争。
そして最終的に蠢き始めたのは……アセリアの神剣化、そして殺した……親友。
―――まるでスピリットのような答えだな? いや、誤魔化して殺して罪を広げていくだけ、俺の方が重罪なのかもな……。
(違う!! 俺は…俺は、殺したくてやっているわけじゃないっ!!)
―――だが……結果的にそうなっているじゃないか…?
(!!? そ、それは……それは―――)
―――忘れたのか高嶺悠人? 俺はお前、お前は俺だ。常に一緒に居た。そして……多くの罪を……犯してきただろ?
(……俺が犯した……多くの、罪……?)
―――そう。実の両親に、新しい家族にして佳織の両親を…。
―――ファンタズマゴリアにて斬ってきた名前も知らないスピリットたちを…。
―――イースペリアの“マナ消失”。罪も無い大勢の市民を…。
―――俺を妬む瞬。そのせいで攫われた佳織を…。
―――神剣に精神を呑まれたアセリア。失った仲間にして戦友を…。
―――親友であった光陰と今日子。そして二人を慕う稲妻部隊を…。
―――苦しめ、殺したのは…………誰だ?
(――――――――――!!!!!)
駆け巡る衝動が、心に住まう闇を一層引き立て悠人を蝕む。
そして同時に思い出す、悲劇と―――絶望。
(くっ…! …うぅ、お…れは…違う…俺、は……そうだ……俺は―――!!)
自己嫌悪で嫌になる。気分が悪い。吐き気がする。余りの衝動に意識が朦朧としてきた。
慟哭して自らを否定したくなる。だがそれは今まで殺してきた者達をも否定することになるかもしれない。
悠人は下を向き、歯を食いしばりながら静かに一人震え始めた……。
――― アルディラ視点 ―――
「アルディラさま。どうやら怪我の方は順調に回復しているようですが、重度の疲労状態にあるようです。
蓄積された疲れは中々取れませんので、あと数日は安静にしていたほうがいいかと思われますが……いかがいたしましょう?」
クノンがここであえて返答を求めたのは、彼をこのままココに置いておいていいのでしょうか? という問いかけだった。
あの時、瀕死の重態を負って倒れていたところを咄嗟に助けたものの……その時の格好といい、先ほどの動きをいい……戦闘において心掛けがあるようだ。
船の生き残りだと思い、保護しようと考えてはいたのだが……今は敵の帝国軍がいる。もしかしたら罠かもしれない。保護する立場として考え直す必要があるだろう。
「そうね……。でも彼には色々と聞きたい事もあるし、それから考え――って、ちょ、ちょっと貴方!? どうしたの、大丈夫…!?」
異変に気づいたメガネの女性――アルディラが悠人の両肩を揺さぶる。
だが悠人はアルディラのことに気づかず、蒼白な表情をしたまま拳を握って俯き続けている。
(この子、震えてる…?)
「心拍数上昇。精神が不安定に傾きかけています。初期症状のようですが、このままでは危険です…!」
「クノン、急いで
クロルプロマジン
を!」
・・・
・・
・
薬を飲んだ悠人は、次第に落ち着きを取り戻し今は静かに眠っている。
最初は飲むのを嫌がっていたが、無理やり目を合わせて懸命に言い聞かせると少しは納得したのか……次第にゆっくりと薬を口に含んでくれた。
「……クノン、私はこれから以前話したソノラの武器について泉の方に出かけてくるから、その間
隣の子
の事もお願いね」
「わかりました、お気をつけて」
そう言ってアルディラは大きな本を抱え、扉を潜り出かけて行く。
その際にもう一度、ベッドに横になって眠っている悠人を見て……先ほど目を合わせたときの事を思い出す。
(なんて、悲しい目をしているのかしら……まるで――)
―――かつて、愛しい人を失った……私のように……。と。
後書き
第一話終了です。
ゲームの物語としては今『第五話・自分の居場所』ですね。
悠人は途中参加です。本当はもっと最初辺りから、とも思ったのですがそれだと話が少し合わなくなるので止めました。
そして次回『求め』が―――
では、また次の後書きで。