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 ケムセラウトでの戦いから、現在2日が経過している。
 オレたち翔撃隊は、イースペリア国内の小高い丘の上で休憩中。
 弁当と水筒、そしておやつがあればきっとピクニックと言っても通用するのに。
 ついでに「バナナはおやつかどうか」と熱い議論を繰り広げるのに。
 ……いや、分かってるさ。
 この世界じゃスピリットたちは、そんなこと許されちゃいない。
 そう考えれば平和の偉大さと、そして自分の幸福さ加減がよく分かる。
 まあ、それはともかく。
 みんなのハイロゥが白かったおかげで、イースペリア国内を怪しまれずに移動できたのは
間違いなくラッキーだった。
 そういえば上空から見ただけだけど、バーンライトもダーツィもスピリットのハイロゥが
黒かったよな。
 イースペリアはライトグレーで、ラキオスのスピリットは白。
 剣に呑まれた奴が黒くなる、だったか。
 ……あれ?
 だとすると、どうして――
「――よう、隊長殿」
「うん?ああ……アリエスか」
 無造作に、なんでもないようにオレの隣に座ってきた。
「なんであたしから微妙に離れるんだよ」
「あのな、オレだって男だ。女性に密着されたら恥ずかしくなるに決まってる」
 受け入れられるほど、オレは人間できちゃいない。
「女性、ねぇ……本当ならあたしらの場合、『メス』と言うべきなんだが」
 人間じゃないから、か。
 生憎だが、その手の重い話は苦手だ。
 悪いけど聞かなかった事にさせてもらう。
「ええと、アリエス……休んでおかなくて大丈夫なのか?」
 時々空を飛んできてる以上、休憩が必要だと思うけど。
「あたしはただぶら下がってるだけだし、そう疲れちゃいないよ。それは隊長殿だって一緒
だろ?」
「はは、ごもっともで」
 ウィングハイロゥでの運搬役を担当してる3人は疲労が激しいから、どうしたって休憩が
必要になってくるんだけどね。
 その代わり、休憩中の見張りはオレたち3人の担当。
「ん、そう言えば……フィアナは?」
「あいつなら『臆病』抱きしめてさ、体丸めて気持ちよさそうに寝てるよ」
「うわあ」
 思いっ切り猫じゃん。
 確かに日なたぼっこしながらの昼寝とか、好きそうだもんなあ。
「……ここだけの話だけどさ。あいつがあんな無防備な寝顔見せるようになったのは、割と
最近の事なんだよ」
「6へぇ」
「…………スルーするぞ。っと、具体的には……バーンライトでの戦闘あたりからかな」
 あれ?
 あれあれ?
 それはひょっとして、オレのせいですか?
 あの夜、まさかフラグ立ってました?
「多分実戦に触れたことで必要以上に怖がらなくなったんだろうとあたしは思ってるけどな
……隊長殿、話聞いてるか?」
「聞いてる聞いてる」
 アリエスの話を聞き流すだけの根性はないさ。
 そんなこと口には出さないが。
「あ、それと聞きたいことがあるんだが。一昨日の戦い、あっただろ?」
「そうだな、それがどうかしたか?」
「いや……あの青スピリットと話してたユートって、誰よ?」
 ユート。悠人。多分名前からして日本人。
 そもそもあの秋月と知り合いだって時点で確定か。
 もっとも、ユートと悠人が同一人物、という仮定に基づいての話だが。
「……『誓い』のシュンは知ってるか?」
「サーギオスのエトランジェだろ?会ったことはないけどさ」
 だろうな。
 あいつがスピリットに会う姿はどうも想像できない。
「そいつがオレに会ったとき、その名前を口にしてたのさ。殺しても飽き足らない、とでも
言いたそうにな。エトランジェと因縁があるってことはおそらくエトランジェだろうけど、
あの青スピリットがその名前を口にしてたってことは」
「ラキオス軍に所属してる確率が高い、よな」
 そういうこと。
 サーギオスに所属してる以上、いつかは戦うんだろう。
 嫌だなあ。
「そう言えば、明らかに戦力不足のラキオス軍がサードガラハム、だっけ?とにかく魔龍を
倒した、とか言ってたよな。ひょっとしたら、ラキオスの切り札ってのはそのエトランジェ
かも知れない」
 そしてもう1人。
 その悠人にとって、そして瞬にとってもキーパーソンらしい人物、佳織。
 まさか三四郎的三角関係って事もないだろうが、彼女もエトランジェだろう。
「へえ、隊長殿って意外と名探偵かもな……なるほど、ラキオスの異常な侵攻速度にしても
エトランジェと龍のマナがあると考えれば筋は通る」
「だろう?オレの推理に間違いはない、じっちゃんの名にかけて!」
 ……。
 あ、すべった。
「――隊長殿。ちょっと、本題に入ってもいいかな」
「オーケー、相談くらいなら乗る」
 何だ?
 軽い話から転換した割には、またずいぶんと真剣な顔してるけど……









 ※補足
  今回は少し長めですね。
  月泉鴇音です。
  特に補足が必要な内容でもないのですが……強いて言えば、この話は前編です。
  というか第16話に向けての前振りです。

  そう言えば、このコーナーは元々文中で使ったネタを解説するはずだったのですが。
  まあ、ネタは分かる人だけ楽しんでください。
  ……そんなにマイナーなネタは使ってない、と思いますので。
  それでは第16話「依頼」で、またお会いしましょう。

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