「手加減はしません。最善最良の策で葬り去るのみです」
「混ざってる混ざってる」
思わず突っ込み。
後半の台詞はきみのじゃないだろう。
「――ヘリオン!」
「はいっ!」
台詞に気を取られた一瞬。
指示とほぼ同時に、オレの至近距離まで黒スピリットが接近していた。
まずい、速すぎる!
このスピード、このタイミングで抜刀斬りを放たれたら回避は不可能……
「居合の、太刀っ!」
「……あぶない?」
とっさに割って入ってくれたフラリアの語尾が疑問形になった原因は敵の剣速。
えっと。
何ていうか、接近、踏み込みと比べて明らかに遅い。
具体的には接近されてからでも、回避が間に合うぐらいに。
「――マナよ、偉大なる炎の力よ――」
静かに紡がれる言葉。
黒スピリットはただの牽制、本命は赤魔法(そっち)か!?
「させるかっ!ユーシルは消去(バニッシュ)、フラリアとフィアナは黒を押さえ込め!何と
してもあの詠唱を止めないと!」
「……邪魔はさせないわ」
オレたち三人の目の前に、残った青スピリットが立ちふさがる。
正直、かなり強そう。勝てる気がしない。
ここはユーシルの消去に期待するしかない、か?
「――『封魔氷陣(アイスバニッシャー)』!」
よし、間に合った!
ユーシルの作り上げた魔法陣から冷気が走り、敵の赤スピリットの魔法陣を直撃。
「――――『大業火(アークフレア)』」
……確かに、直撃したはずなのに。
魔法陣からは炎があふれ、上空でプラズマ現象を起こしつつある。
「……無駄だ。死ね」
「そんな、止まらない、ですって……?」
ああ。
なるほど。
要するに、パワー不足で失敗したのか。
……『大業火』なんてど派手な名前の魔法、まともに喰らって生き残れるとは思えない。
つまり――
「――氷の名を冠する神剣よ、その力もちて炎を止めよ。魔法を紡ぐ言霊諸共、全て凍らせ
我らを救え――」
――オレが止めるしかない。
何も考えちゃいない適当な詠唱だが、今一番必要なのはスピード!
「――『言霊凍結詞(フリーズスペル)』!」
氷のマナが展開されていく。
あっという間に、連鎖大爆発を起こしかけていたプラズマを包み……そして。
何も、起こらなかった。
――消去、成功?
「くっ……このままでは、ユート様に会わせる顔がありません。ヘリオン、ナナルゥ、行き
ますよ!」
まずい、捨て身で突撃するつもりか!
「ちょっと待った待った、ストップ!」
「?何だと言うのです?……まさか、この期に及んで退け、などとは言わないでしょうね」
不審そうに、詰めかけた間合いを再び離す。
「いや、きみ達に突撃されると、お互いに甚大な被害が出ると思う。それは避けたい」
「それで、どうだと言うのです?」
くっ……!
クールだ。このスピリット、きっとツンデレに違いない……!
「つまりだな、オレ達はこの場は退く。この街も明け渡すから、追撃はしないで貰いたい」
「…………理解できませんね。サーギオスにはありえない行動です」
「気にするな。信用はしなくてもいいから」
青スピリットは少しだけ、考えるような振りをした後。
「いいでしょう。……どの道、こちらにも追撃するだけの戦力はありません」
「君が話の分かる奴で助かった。それじゃ、悠人とやらによろしく言っといてくれ」
※補足
クール系青スピリットと某策師がかぶると思うのは私だけでしょうか?
月泉鴇音です。
ついに、翔がまともな青属性魔法を習得したようです。
『言霊凍結詞(フリーズスペル)』……まあ、要するにアイスバニッシャーですが。
このSS内では、アイスバニッシャーは敵の魔法陣を封殺する魔法、という設定です。
それに対して『言霊凍結詞』は、発動した魔法を丸ごと凍らせて止めてしまいます。
この違い、後々響く……でしょうか?
では、またお会いしましょう。