「なんだあ?お前、この俺とやろうってのか?」
……なるほど、これは夢か。
過去の嫌な夢。
なら、過去の自分と同じ行動をしなきゃいけないだろう。
「由美をいじめる奴は、このボクが許さない」
幼馴染を背にかばって、オレは――まだ、一人称が『ボク』だった頃のオレは言い放つ。
5つ年上の、中学2年生に向かって。
「へえ、ずいぶん威勢のいいガキじゃん」
奴がそう言うと、周りのギャラリーから失笑が巻き起こる。
ギャラリーは全て奴の仲間。
奴を倒したところで、この人数相手に切り抜けるのは誰が考えても不可能。
だけど、それでも。オレは、『ボク』はあの時確かに――
「なあおチビさん、足震えてるぜ?逃げたほうがいいんじゃないの?」
「――い」
「……あ?なんつった?」
「うるさい黙れ社会のクズ」
そう言うと、ギャラリーからは失笑が、奴の顔からは表情が消えた。
「ふざけんなよ、クソガキ……」
呟きながら、奴は足元に転がっていた鉄パイプを拾い上げる。
「……おい、やばいって」
「やめとけやめとけ。アイツがああなったら、俺たちじゃ止められねぇよ」
そんな声もギャラリーから聞こえるが無視。
「――由美、少し下がってて」
「……翔?」
「――――死ねっ!クソガキが……っ!」
ダッシュから、渾身の振り下ろし。
対してその袖を掴んで、投げを狙う。
だけど……投げるには体重が足りない。
空振りの勢いに加えて袖を中途半端に引きずられた本人は、背中からではなく、まともに
頭から地面に落ちる。
――ごきり。と嫌な音がして。
ギャラリーは瞬く間に消え、オレたち2人だけが残された。
それからすぐに。
オレは二度と合気道の技を使わないことを宣誓させられた上で、道場を破門。
まあ、ある程度身に付いた基礎知識なんかは時折役に立ったけど。
だからオレの技は合気道の物と言うには、かなり歪んでしまっている。
オレの心も歪んでいる以上、お似合いと言って言えなくも無いんだけれどね。
戦うな。
止めを刺すな。
物事を最後まで煮詰めるな。
「……傲慢だよねえ……」
自分は負けない、最強だと考えていた滑稽なあの頃の、殺人の前のオレ。
自分の力が行動が、否応なしに周囲に影響を与えてしまう。
そんな勘違いをする程度に、自己の力を過信している。
今なら、それがよく分かる。
知りたくも無いけれど、よく分かる。
「…………えっと、カケルさん。まだ、起きてますか……?」
目を覚ましたオレにフィアナが話しかけてくる。
どうしようかな……。
1、無視する。
→2、起きる。
やれやれ、別にフラグを立てる趣味は無いんだが。
「どうしたんだフィアナ?」
答えつつ寝袋から出ると、相変わらず槍斧を抱えている。
補足しておくと、現在野宿中。
「え、え〜っと、その、1人で見張りは怖くて、その、話し相手が欲しくて……」
※補足
第10話突破しました。月泉鴇音です。
相変わらず、のんびりと行きたいと思います。
今回は過去編でした。
さて、この時点で伏線に気付いた読者の方はどれだけいらっしゃるでしょうか。
キーワードは……名前です。
それでは第12話、お楽しみに。