ウルカの持ってきた報せの内容は単純明快。
曰く――
「北方のラキオス王国は魔竜サードガラハムを倒し、隣国バーンライト王国に宣戦布告した
模様。一刻の猶予もならない。速やかにバーンライトを救援せよ……だっけ」
現在オレたちはその命令に従い、バーンライト王国へと向かっている。
それぞれウィングハイロゥを持たない者は持つ者にぶら下がるような形で。
「しかし、どうして先鋒がオレたちなんだろうな。確か、サーギオスのスピリットの中じゃ
最弱なんだろ?」
「隊長の腕試し兼捨て駒、だと思いますが」
オレをぶら下げているユーシルの間髪入れない素早い答え。
捨て駒、か。
確かにオレが死んでもバーンライトの救援に成功しても、秋月の奴にはプラスになるわけ
だしな。
むう、なんか面白くない。
「……ところでユーシル、ラキオス軍について何か知ってるか?」
「特徴と言えるかどうか……能力はそれほどでもないようですが、潜在能力が極めて高いと
聞いたことがあります。有名なスピリットと言えば、『ラキオスの青い牙』の二つ名を持つ
アセリア・ブルースピリットでしょうか。しかし、スピリット自体の絶対数が極端に少ない
ので、彼女の実力をもってしても守り竜を倒せる戦力は保有していなかったはずです」
えっと、ちょっと待てよ。
「守り竜って、サードガラハムか?」
「ええ。ラキオス王国では代々かの魔竜を守り竜として信仰していたはずです。それが何故
突然、討伐する方針になったのかは不明です」
王国の守り神か。
「サードガラハムを倒したことで、ラキオスに何かメリットは?」
「マナの大量確保、でしょうか。」
ふうん。
魔竜を討伐する戦力はなかった筈なのに、なぜか討伐に成功したラキオス。
何らかの切り札があると見ていいのかも知れない。
ま、諜報活動をしたわけでもないのに、これだけの情報が得られただけでも儲けものか。
「――隊長、バーンライトに着きましたが。これからはどう動きますか?」
見下ろすと、確かに今までと違う大都市が。
「そうだな……。フィアナ、何か考えはあるか?」
「え!?えっ、わっ、私ですかっ!?」
「フィアナちゃん、あんまり動揺しないで。危ないよ」
ぶら下げてるフラリアが思わず苦笑するほどの動揺っぷり。確かに危険だ。
「えっと、その、私はですね……ラキオスの背後を取るように進むのがいいと思います」
東から迂回して北側から進み、バーンライト領リーザリオに向けて南下することしばし。
「敵反応、あり」
エクスキューレが呟く。どうやら敵を感知したらしい。
「赤、青、緑各1。ハイロゥに濁りが感じられない。ラキオス軍と思われる」
上空から見ただけだけど、バーンライトのスピリットはハイロゥ黒かったしな。
「1分後、接敵」
「……カケルくん、無いとは思うけど逆包囲には注意したほうがいいかな?」
無いとは思うけど。言い得て妙だ。
「それじゃ、そうだな。ユーシルとアリエス、あとフラリアは後方のガードと援護を頼む」
「あいさ。フラリアとユーシルは空中から頼むよ」
「任せて頂戴。……地上はよろしくね?」
よし、編成完了。
地上に降り立ち敵スピリットに向かい合う。
「……ところで、この部隊って名前決まってるのか?」
「いえ……特には。あ、カケルさん名前決めるんですか?」
フィアナの質問に軽く頷く。
「オレたちは――」
「――えっとぉ〜、わたしたちはラキオススピリット隊です〜。そちらは何者ですか〜?」
あう。
思わずこけてしまった。
一度気を取り直して……よし。
「オレたちは神聖サーギオス帝国所属、スピリット翔撃隊!行くぞ、ラキオスのスピリット
たちよ!」
オレの名前は新崎、翔。
カケルだから翔撃隊。安直だけど、誰も漢字を知らないからこの世界ではツッコミが入る
心配も無い。
……それはそれでちょっと寂しいけど。
※補足
いよいよ部隊にも名前が付きました。月泉鴇音です。
名簿にも書いたことですが、ユーシルは情報収集は得意ですがそこから結論を出すのは
苦手です。
ちなみに。
翔撃隊がいる場所は、リーザリオの北、1本分かれ道があるところです。
リーザリオを攻めるときにあの道に1部隊敵が出現するので、それを想定して下さい。
それでは初めての実戦となる次回、『ハッタリ万歳』をお楽しみください。
ただし、内容やタイトルは予告無く変更することがあります。