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 そんなわけで部隊詰所の前庭。
「それじゃまずは、神剣魔法の基礎とも言える障壁(シールド)の展開をやってみるか」
「すみません先生まずお手本を見せて下さい」
「うん?うんまあ、いいけど……」
 何せどんな詠唱かも分からないんではお手上げだ。
 できれば似非古文が一番楽、せいぜい英語までなら詠唱できるけど。
 ドイツ語とかラテン語になると流石に、日常会話が限度。
 ――アリエスが右手を前に突き出し、詠唱を開始する。
「……我が精神に応えて神剣の力よ、我を守れ!『精神障壁(マインドシールド)』!」
 似非古文での詠唱と同時に、赤いマナが巨大な三角錐の形になってアリエスを包む。
「これが障壁、か」
「もっとも、大抵の場合は詠唱が間に合わないから剣で直接受けることになるけどね」
 そりゃそうだ。
 ユーシルとの模擬戦を考えて、この速度じゃ確かに間に合いそうもない。
「じゃあこれって、意味無いのか?」
「……戦闘に慣れたスピリットなら無詠唱で発動できるけど」
 なるほど。
 経験の差ですか。
 右手を前にかざして――
「マナよ、我を守る壁となれ!『守りの壁(ブロックシールド)』!」
 ――何も起こらなかった。
 何も、起こらなかった。
「……これ、何かコツみたいなものはないのか?」
「ん〜、そうだな。強いて言うならマナを神剣から引き出して、そのマナをもう一度神剣を
通じて増幅した後、右手を起点に展開する、みたいな感じじゃないかな」
 そういうの、最初に言ってほしい。
 そう思ったオレは間違っていますか?
「ああ、それとさ」
「何?」
「いやほら、あんたの神剣名『氷点』だろ。名前からして、何となく氷系の神剣魔法が得意
そうな気がしたんだ」
 そんな安直なものなんだろうか。
 ……けど、名は体をあらわすとも言うし。
 マナの流れをイメージ化して掴む……よし、来た!
「――展開しろ!『氷の盾(アイスシールド)』!」
 …………。
「……えっと」
「スピリットとエトランジェじゃ違うってのは分かってるけど、それにしても半詠唱だけで
発動されると師匠としてはヘコむよ……ま、いいや。次行こう、次」
 なんとなく悪い気がしてきた。
 心の中で謝っとく。ごめんなさい。
「次?」
「ああ、攻撃魔法。ちょっとそこの草むらめがけて撃ってみて」
 えっと、いきなり攻撃魔法?
 ま、やるしかないんだけどね。
「――氷のマナよ空を翔け、我が的貫く槍となれ!『冷気双旋槍(チリースパイラル)』!」
 イメージどおり、冷気の槍が絡まり合うように進んでいく。
 だけど、それが見えていなかったのか。
 スピリットが1人、その軌道上に着地した。
「あぶな――」

 オレが声を発するよりも、着弾よりも一瞬早く冷気に気付いた彼女は。
 逃げるでもなく、防ぐでもなく。
 ――――斬。
 魔法を、マナを抜刀斬りで完全に断ち切った。
 嘘ぉぉおおおっ!?
 言葉もないオレとアリエスに向かって、彼女は言う。
 
 チャイナドレスのような、スレンダーな体のラインがくっきり出る服装。
 白銀の髪と紫色の瞳からはそうとは分からないが、褐色の肌からして多分黒スピリット。
 その証拠に、腰にはつい今しがた神速の抜刀斬りを放ったばかりの、刀身の反りが少ない
日本刀のような神剣を提げている。
 そして彼女を何よりも特徴付けるのは、闇よりもなお深い闇色のウィングハイロゥ。
 そんな1人のスピリットは――彼女は言った。

「手前は神聖サーギオス帝国スピリット遊撃隊、通称『ウルカ隊』の隊長。『漆黒の翼』、
ウルカ・ブラックスピリットと申します」





 ※補足
  第7話終了、そしてウルカ登場しました。
  こんにちは、月泉鴇音です。
  サーギオスサイドから書く以上、彼女を出さないわけには行きません(苦笑)

  本編中で翔が簡単に魔法を発動できたのは『氷点』が助けてくれたからです。
  決して彼の実力ではありません(笑)
  さて、そろそろ世界情勢にも触れて行きたい所。
  現在悠人はサードガラハムに勝利したところです。
  次回第8話、『初陣』ということでひとつお願いします。

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