「なあ、フラリア」
「どうしたの、カケルくん」
「何でこんな事になってるのか教えてくれないか?」
ちなみに現在、ユーシルは部屋に運び込まれて。
フィアナ、エクスキューレ、アリエスの3人に手当されている。
「うん、いいよ」
状況に全くそぐわない笑顔で頷くフラリア。
笑顔かよ。
「……ユーシルちゃん、全力の一撃を放ってたよね?あれは、青スピリットが使える最強技
の『蒼天剣(ヘヴンズスウォード)』をユーシルちゃんがさらに強化したオリジナル技でね、
『覇王剣(ルーラースウォード)』って言う技なんだ」
いや、ちょっと待て。
少し回転数落として……。
「ちょっとストップ。最強技なんだから強化なんてできないだろう?」
「できるよ」
……何で?
「神剣から引き出すマナに加えて、自分自身を構成するマナをそこに上乗せすれば不可能な
事じゃないし、実際『蒼天剣』だってそう。だから、自分の神剣と同調(シンクロ)してない
スピリットには『蒼天剣』は使えないんだよ。分かるかな?」
同調……?ああ、そうか。
「同調してないと、剣のマナと自分のマナが拒絶反応を起こすからだな?」
シンクロ率が安定してないと人型兵器にも乗れないこの時代だし。
「うん、だけどね。『蒼天剣』にしても、急激にマナを消耗するからかなりの大技なんだ」
消耗するって言われてもピンと来ないけど。
「ユーシルの肉体がどこか欠けたりは……しなかったと思うけどな」
「戦闘に支障が出るから、肉体を構成するマナは使えないんだよ。だから自分の精神を構成
するマナを引き出して、使っていく――その結果使うたびに精神が消耗するから、少しずつ
だけど神剣に呑まれちゃうの。それが『蒼天剣』」
なるほど。
その強化版である『覇王剣』ともなれば、更に強度の神経衰弱を起こしてその場でダウン
してしまう、か。
だから……オリジナル技なんだろう。
一発に全てを賭けるような隙だらけの技、わざわざ考案する奴も居ないだろうから。
「じゃあ、ユーシルは……」
「まだ大丈夫。わたしが知ってる限り、まだあれは3回しか使ったことはないから」
なら良いんだけど……けど、気になる事はまだある。
「――剣に飲まれるって、具体的にはどうなるんだ?」
フラリアの顔が、急激に暗くなる。
「…………カケルくん。わたし達以外のスピリットに会った?」
何だろう……聞いちゃいけなかったんだろうか。
「ああ、街中で何人か見たな……なんか話しかけづらい雰囲気だった」
「ハイロゥ、黒かったでしょ?」
「そう言われれば確かにそうだな。それが普通だと思ってたけど」
言われてみれば、フラリア達のハイロゥは白い。
「あの娘達は、もう呑まれた状態なんだよ――」
フラリアがそう言うと、その背後から声が重なる。
「――感情の起伏が極めて乏しく、神剣の欲望のままに敵のスピリット達を殺戮することの
みを目的とする。瞳孔は清輝を失い人形の如くに従順。ハイロゥの輝きは黒く、通常よりも
戦闘力の著しい増大が見られる。重度の症状としては愛欲におぼれる傾向があり、指揮官の
命令によっては人間を殺害する可能性すら存在する。また、末期症状としては自我を完全に
喪失し、自分自身を永遠神剣と同一視するケースも確認されている……まあ、そんなところ
でしょうね」
事実のみを淡々と述べるその冷静な口調は、例えさっき会ったばかりでも間違えることは
ない。
「ユーシル……」
「……ユーシルちゃん、もう大丈夫なの?」
「ええ、フィアナの神剣魔法のおかげでマナは足りたわ」
まだちょっと違和感はあるけどね、と左腕を動かすユーシル。
いったい何をしたんだ?
「精神のマナを回復するために左腕斬り落として吸収するなんて、無茶ですよぅ……」
なるほど、それは確かに無茶苦茶だ。
「……ひょっとしたら上手く行かなかったかもしれないんですから、もうあんなことしない
で下さいよう」
「分かったわよ。大丈夫、左腕は戦闘には使わないから。……ところでフラリア」
「何?」
「出陣指令来てたの、忘れたの?」
……出陣指令って……え?
「あ、ごめんね。すぐに準備するから」
慌てて準備するフラリア、そして状況についていけないオレ。
こんなオレがもう出陣かよ。
「……あー、隊長殿?」
「ん、どうしたアリエス?」
「いやな、大したことじゃないんだけどちょっと気になったからさ。あんた、ひょっとして
実は魔法使えないとか?」
「――うっ」
鋭い指摘。
一瞬怯んでしまう。
「やっぱ図星か。OK、フラリアは割と準備に時間かかりそうだし……あたしが一丁教えて
やるよ。アリエス・レッドスピリット先生の特別授業の始まりだ」
※補足
第6話終了ですね。月泉鴇音です。
張った伏線は回収できるのかどうか、それは神と私のみ知る、ということで。
本編中で実行していますが、肉体の一部を犠牲にしてマインド回復は多分無理です。
よい子は真似しないでね(はぁと)
さて、書きたいネタが書けたところで。
このペースではあっという間に補足のネタが尽きそうです。
まあ、いざとなれば私の日常でも公開すれば……
……聞きたくない?そうですか。それは失礼しました。
とは言え、その頃には本編に関しての補足が多々必要になって来るでしょうからネタの
心配はしなくて済みそうですが。
では第7話、『特別授業』をお楽しみに。