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 オレは偉い奴が嫌いだけれど、それは偉い奴ほど余裕を持って他人に接したがるからだ。
 そういう意味で、施しってのは偽善だと思う。
 とは言っても、偉い奴が正直に偉そうにしてても、やっぱりムカつくものなんだな。
 この部屋……皇帝の間の主たるこいつを見て、オレはそれを知った。いやだってほら、分
かりやすく偉そうにしてる奴ってそうそういないから。
「僕の名前は秋月瞬。神聖サーギオス帝国のエトランジェで、第五位『誓い』の主だ」
 へえ、こいつ日本人なのか。
 確かに言われてみれば、黒い外套の下には高校生らしくブレザーを着てはいるけれど。
 つーか……、まあいいか。
「新崎翔。貧乏大学生だ……あ、いや、だった。えーっと、第五位永遠神剣『氷点』の契約
者ってことになるのかな」
「ふうん……」
 値踏みするような目を露骨に向けてくる。まあ、オレだってある程度隠しているけれど、
似たような感じだろうし。
 両雄並び立たず、の言葉にある通り将来的にオレとこいつは多分戦うことになると思う。
 一応子供のときに多少合気道をかじってはいたから、1対1のケンカでは今まで負け知らず
なんだけど。
 『氷点』曰く、(身体能力は向上しているが、元来我は魔法型の神剣。格闘戦闘にはやや
難がある)とのこと。
 まあ、何とかするしかないんだけど。
 それに加えて、気になるのはずっと黙ってるもう一人。
 だらしなく羽織っている黒い外套はこの国の制服なんだろうか?
 だったら嫌だなあ。
 一方、それを着ている本人からは威圧感というか、その手のものを感じないからこいつは
神剣遣いじゃないみたいだけど。
 ただ……重圧というか、何だろう。侮るような、いたぶるような……
 例えるなら、あらゆる意味で嫌らしくなった科学者、みたいな。
 底が見えない分、秋月よりもこっちの方が厄介かもしれない。
 あ、やばい。目が合っちゃった。
「おや、私のことが気になりますか?『氷点』のカケル殿」
「……あ、いや、別に……」
「ふふ、私、ソーマ=ル=ソーマと申します。……以後、お見知りおきを」
 顔つきだけで反逆罪になりそうな粘りつく笑顔で丁寧に挨拶してくる。
 ……何故だろう。頭痛がしてきた。
「それはそれと、『誓い』の勇者殿。こちらのエトランジェには、例の部隊を率いて頂くと
いうのはいかがでしょう」
 何だ?その、例の部隊ってのは。
 すすす、と素早く秋月に近寄り、耳打ちするソーマ。
 嫌過ぎる絵だ。

 秋月が何度か頷き、ソーマが今度は小走りにオレに近寄ってくる。
「ではカケル殿、どうぞこちらに。……どうです、もしよろしければ夜の伽にとびっきりの
スピリットをそちらに向かわせますが」
「必要ない。結構だ」
 良かった、即答できた。
 ちょっと自分に安心。
 スピリットには生殖能力は無いらしいから、その、まあ……何だ、いくらヤッても妊娠の
危険性は無い。
 しかも人間には絶対服従だとか。
 まあ、オレはエトランジェだから別なんだろうか。
 …………いかんいかん、何を考えてるんだオレ。
 そんな事を考えてる時点で半分以上誘惑に負けてるぞ。
「そうですか、そう言えばシュン殿もお断りになられましたねぇ……」
 へぇ、あいつにそんな自制心があるようには見えなかったけど。

 ふと振り返ると、秋月が何やら呟いていた。
「これで悠人が死んでくれれば、後は佳織は……!」
 ……ふむ、悠人と、佳織、ね。
 オレと関わって来るかどうかは判らないけど、名前くらいは覚えておいたほうがいいか?




 ※補足
  第2話終了しました。月泉鴇音です。
  このSSを書き始めたとき、何とかしてセオリーを覆せないものかと考えました。
  それはもう、一晩徹夜して。
  その結果。
  「主人公が悠人に会う前に瞬に会う」というパターンは実はあまり無いのではないかと
 そう考えたのです。
  最も、サーギオスサイドから書いている以上当然と言えば当然なのですけれど。
  ちなみに、翔の「〜しそうな気がする」というパターンの勘は当たることが多いです。

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