目を開けた。
雪なんて何処にも見当たらない森の中。
オレが今見ている景色か、もしくは雪崩にあった記憶のうちのどちらか、もしくは両方が
夢や幻の類で無いなら、転送とやらはもう終わったんだろう。
えっと、何て言ってたっけ。
ファンタズマゴリア……ああいや、違う。
特に名前は無いんだったか。
地球上にそんな場所はオレは知らない。……地球じゃないのか、ここ?
(いかにも。契約者よ、少しこの世界についての説明をしてやろう)
『氷点』か。よろしく頼む。
「よし。何となくだけど、一通り理解はできた」
スピリット。エトランジェ。永遠神剣。位。強制力。マナ。オーラフォトン。エーテル。
いわゆる、設定関係の知識はもう大丈夫。だと思う。
「…………あれ?」
(どうした?)
「いや……、『氷点』、強制力かけてきてないよな」
それともオレが、気付いてないだけか?
(ふん。我は先代の契約者に、汝を助けるよう言われているからな。迂闊なことは出来ぬ)
そういうものなのか。
確かこの指輪、第五位永遠神剣『氷点』は母さんから貰った物だった筈だけど。
じゃあ、母さんって実はエトランジェだったのか。びっくりだ。
(……。まあ、そういうことだ)
所変われば品変わる、か。いろんな常識があるものだよな。
少なくとも今までの常識から言えば、指輪や剣に意志があるなんてあり得なかったし。
で。
これからどうしよう。
(そろそろ迎えが来る筈だ。大人しく待っておれ)
迎え?用意されてるんだろうか――
――騒(ざわ)っ。
どこかの小説の主人公、貧乳魔道士じゃないが、背筋に走る滅茶苦茶に嫌な予感。
とっさに前に跳ん――――
――――轟っ。
ほんの一瞬だけ間を置いて、さっきまでオレが立っていた場所に音がする。
形容はし辛い、ただしやたらに重そうな音。
冷や汗と共に振り返ると、そこには。
青い髪と黒い翼、そして一目で戦闘を想定していると判るような武骨な片手剣を持ってる
少女。
ああ、これがスピリットか……って、納得してる場合じゃない。
『氷点』の身体能力強化機能のおかげで助かったけど、死んでもおかしくはなかった。
ホント、運が良かったというべきか。
「――」
少女(スピリット)は口を開き、何かを言った。
オレには理解できない言葉で。
何が言いたいんだろう。表情も読めないから、判断のしようも無い。
ホンニャクコンヤク、だったか。あれが欲しいところ。
(焦るな、契約者。汝にもこの地の言葉、話せるようにしてやろう)
助かるよ、『氷点』。
と、少女が再び口を開く。
「エトランジェよ、聞こえなかったのか?私と共に、来い」
……おいおい、これが迎えかよ。
やれやれ、と呟きながらもオレは彼女の差し出した手を取った。
握り締めた手は暖かかったはずなのに、何故か。
冷たく感じられたような気がした。
※補足
さて、物語もいよいよ始まりました。作者、月泉鴇音です。
本編中で翔は「名前の無い場所は知らない」と言っていましたが、多分あります。
ジャングルの奥地とか。
ただ、「言い表しようが無い場所」というのは地球上に無いはずです。
地球上のほとんどの地域はどこかの国の領土になっていますから。
設定上の補足ですが、翔を迎え(?)に来たのはサーギオスのスピリットです。
つまり、彼はサーギオス所属として戦うことになるわけです。
それでは、続きをお楽しみください。