はらり・・・・・はらり・・・・・・
くすんだ白が舞い落ちる・・・・
はらり・・・はらり・・・・・はらり・・・・・・
何処からか剥がれ落ちる・・・・
はらり・・・はらり・・・はらり・・・はらり・・・・・・・
それは止むことも無く
追憶が刻む協騒曲 「遠くから響く異音」
昏い・・・
暗い・・・・・
ここは・・・・・・
ここはとても・・・・寒い・・・・・
寒い・・・・
色の無い黒の森の中で立ち尽くす
この森に居るのは自分だけで
どこまでも樹の屍と墓標が並んでいる
生物の気配は絶無
ただ・・・月の浮かぶ夜空から温度の無い雪が舞い落ちる
・・・違う
これは・・・・灰
名も刻まれていない墓標に舞い落ちては消えていく
この世界では全てがその音を無くしていた
ただ静謐が森を満たす
「・・・・・・は・・・満・・・る」
虚ろな声が後方から響く
遠くから
しかし・・・
確実に近づきながら・・
「約・・の・・・は・・・・近い」
俺は・・・
オレは・・・・・
「心・・・・せ・・・よ」
声は近づく
背に熱を感じた
動けない・・
「汝・・・・の・・・終焉・・・は・・・・」
暁が世界を灼いた
視界が赤く染まる暁よりも紅く
夕日よりも熱い紅で
気付くと其処は暁に染まる街
あの日の・・・
「――――――――――――!!!」
叫びが響き渡る
身を引き裂くような絶叫が
身体が強張る
声は背後から響く・・・
責めるように・・・嘆くように・・・
俺を・・オレを・・呼ぶように
「――――――――――――!!!」
動けない
振り向けない
向いてはいけない
心が軋みを挙げる
此処から離れなければ
この声が聞こえない場所へ
「失せろ、紛い物が・・」
ダレカガ・・・・・ワラウ
・
「!!?・・・・・っ!!・・く・・あ・・・・ぐぅ・!!!!」
酸素がタリナイ・・
眩暈ガスル、動悸ガトマラナイ、アタマガワレル
足りない
タリナイ・・・
久方ぶりの激しい発作に悶絶する
・・・何時以来だろう
苦痛にもがく身体を遠くにふと思った
「ぐ・・・あ、うぁ・・・・く・・がぁ・・・・」
掻き毟る
酸素を・・・・、水を・・・・・
身体は糧を求める、それさえも他人事のようだ
「ぅぐ・・・・あ・・・が・・・・」
「!!――――――――!」
誰かに体を拘束される
暴れようにも体が言う事をきかない
完全に拘束される
そして・・・
暖かな光が体を包んだ
優しい力が身体に染み入る
「はぁ、・・・・・・はぁ、・・はぁ」
呼吸が落ち着き
発作も沈静する・・
同時に現実感も取り戻した
「う・・・く・・・」
混濁した意識も定まり始め
自分がどういう状況にいるかがわかる
「気が付きましたか? ソウヤ様」
音が鼓膜を揺らす
ぼやけた視界も像を結び
映し出されたのは・・
心配そうなキファの顔、起き抜けに珍しいものを見た・・・
「あ、・・ああ、・・・・・・ど・・う・・・して・・・俺・・は・・・・」
掠れた声で質問を放とうとするが
手に遮られた
判っているから黙って聴けと言う事らしい
よく見るとルティア以外はみんな揃っているようだ
治療してくれたのがチェルシーで
俺を押さえているのはアリアだろう、顔は見えないが
背に当たる柔らかいモノは多分アリアの・・・・・・
離れてしまった
少し・・勿体ない・・・・・
「聴いてますか? ソウヤ様」
「・・・・・ん?・・すまん。・・・ぼぉー・・・・と・・・してた」
前を見ると責めるようなキファの顔がある
どうも本当に心配しているらしい
「全く大丈夫なんですか? 本当に」
説教と共に状況説明が行われた
キファが言うには・・
帝国のソーマ隊と遭遇した後
あの後キファはルティアを背負い
アリアたちと合流、そのまま俺の所に戻ったらしい
その場で見たのは
倒れ伏したスピリットと立ち尽くす変態・・もといソーマの姿
そして・・
帝国のスピリットを圧倒する俺の姿だった
ソーマはキファ達が合流するのを見て即時撤退し
それを追おうとしたら
突然、俺がぶっ倒れ昏睡
そのまま此処、ランサの街に運び込んだらしい
それから今は丸一日経っている
というのが事の顛末らしい
回っていない頭でどうにか呑み込む
どうも記憶が曖昧だ
俺は・・・負けたはずなんだが。何故・・・生きているんだろう?
「とりあえず無事なようで何よりです」
「・・・・・・」
明日は雨だろうか
冷徹女が普通に心配している
『・・・・・・・・・』
(・・・【無為】?)
いつもなら突込みを入れるはずのポンコツが今日に限り妙に静かだ
おかしい・・・
ベッド脇に置いてある【無為】を手に取る
「ソウヤさん?・・・」
「どうかしたんですか? ソウヤ様」
「いや・・・・【無為】が応え・・・・」
『・・・・・・・Zzz』
何か聞こえた・・・・
耳を澄ます
「・・・・・・・・」
『・・Z z z z ・・・・』
ふむ・・・
安らかな眠りの最中のようだ・・・・
規則正しい寝息が聞こえる
とても安らかな・・・
「寝てんな!! ポンコツ神剣!!!」
ドガッ
床に全力で叩きつけた
容赦なく
『あうぅぅ・・・・、なにふるんでふか。まふたー』
「・・・・・・・」
ゴツ
寝惚けているようなのでもう一発
手加減抜きで
『い、痛いですぅ・・・』
(黙れポンコツ。何時から寝てた?)
『ふえ? えっと・・・・・内緒?』
ボケた答えを返してくれる
曲げてやろうか。こいつ・・・
力を入れようとして・・・・・全身が脱力した
身体が限界を超えてしまったらしい
後ろに倒れるようにしてベットに身体を沈ませる
【無為】を放り出して
(・・・・・もういい)
疲れ果てて溜息しか出なかった
どうにも調子が悪い
頭痛が治まらない
思考がまとまらない
身体に全く力が入らない
「・・・とりあえず、今日はしっかり休んでください。」
俺の様子を見てキファが言ってくる
なんか本当に調子が狂う
「思ったよりも元気そうで何よりです。さっさと動けるようになってください」
そのままみんなを連れて部屋を出て行ってしまう
何故か笑顔で・・
やっぱり冷徹女だわ・・・あいつ
何故だか口元に笑みが浮かんだ
・
退屈だ・・・
退屈だ・・・・・・
たいくつだ・・・・・・・
たいく・・
『判りましたから静かにしてください』
(たいくつだーーーーーーー・・・・・・・・)
動きたいが今のところ起き上がるだけで精一杯で動けない
かといって丸一日も寝ていた影響か全く眠くない
お陰で暇でしょうがない
誰も来ないし・・・
コンコン
控えめにノックの音が響いた
誰だろうか?
「・・・開いてるが」
返事を返すが扉は開かない
「・・・・・・・」
まだ・・・開かない
誰かが居る気配は伝わってくるが
扉の前で止まったままだ
気になるが、ベットから出られない
しょうがない・・
「はぁ・・・、いいから入れよ。」
扉の向こうの気配が跳ね上がる
おずおずといった動きで扉が開く
「・・・・・・」
居心地悪そうに普段着姿のルティアが立っていた
どうも向こうは軽傷で済んだらしい
なんとなく安心した
「えっと・・・・だいじょうぶ?」
控えめに聞いてくる
これまた珍しい
てっきりいつものノリかと思ったが
少し違うらしい
「どー・・見える?・・」
体調、精神ともに最悪だが
ゆっくりと身体を起こす
頭に鈍痛が走り、顔を顰める
「ああっ!! ね、寝たままでいいよ!!」
キーーーーーーーーーーーン
叫びが頭の中を駆け回る
痛みと衝撃で頭が揺れた
(!!!??)
『っ!!・・大丈夫ですか!? マスター!!』
(――――――!!!?)
思いもよらぬ追撃に頭を抑えて
前向きに突っ伏した
「あう、ご、ごめん」
『あ、あう・・・・ごめんなさい』
激痛に脳髄が揺れている
今の声がルティアの物だと判るまでかなりの時間がいった
痛みが引き、ようやく声が出る
世界はまだ揺れている・・・・・震度3・・位だろうか?
「お、・・・・おまえら・・・・俺を・・殺す・・気か?・・」
搾り出すような声に殺害未遂二人が小さくなる
ひどくなった頭痛に耐え
気を取り直す
「・・・で?」
「ふえ?」
「どうしたんだ?・・・・らしくない」
ルティアに声を掛ける
キョトンとした顔が俺の視線を受けて
気まずそうな表情になる
そして、ボソッと
「・・・・・ごめんね」
「ん?」
「ごめんね。ボクのせいで・・」
「・・・・・・」
成程、この阿呆は・・・
大きく溜息をつく
その反応にルティアが怯える
「あの・・「・・俺が好きでやったことだ」
言葉を遮るように強めに言う
これ以上あいつの自己嫌悪を聞くつもりは無い
「ふえ?」
「俺が勝手におまえらを逃がして、俺が好きで一人で戦った。その結果がこれ」
自分を指差し苦笑する
「それにお前らが責任を感じる必要は無い。気にし過ぎなんだよ」
「で、・・でも。ボク達は・・・・」
うろたえたようにルティアが言う
人を護る為の存在
それがこの国での彼女らの定義・・・・らしい
俺にとっては心底どうでもいいんだが
「はぁ・・・、俺はお前らに護ってもらわなければいけないほど弱くは無いが?・・・まぁ、強いわけでも無いか」
こんな格好ではいまいち説得力に欠けるが
まぁ・・・仕方ない
「俺は・・・お前たち、ルティア達と並んで共に戦う事を選んだんだ」
ルティアを見つめる
聞いているのか、どこか呆然としている
「護られる気は無い。俺はお前達と同じ場所に立ちたいんだ」
不器用な言葉を連ねる
少しでも伝わるように
「・・・・だから・・・・・俺たちは仲間だろ」
笑い掛ける
らしくない台詞だとわかっているが
「俺は・・・・「蒼くん!!」
続けようとした言葉が突然遮られた
そして
突然の衝撃
頭が揺さぶられ絶不調の身体に止めが入った
世界が前へと滑り
身体がどこかに落ちていく
最後に見えたのは
この部屋の天井と・・・
視界の端で揺れる蒼い髪
それを最後に意識がブラックアウトした・・・
「ああっ!!! 蒼くん? 蒼くん!!? 大変だ!!! チェル!!! チェルーーーーー!!!!!」
誰かが騒いでいる
その声はどこか遠い
『・・・・・・忘れるな、自分が・・・・自分で在り続ける意味を。・・・・その理由を・・・・・』
遠くでナニカ聞こえた
前にもこんな事があったような・・・・・