暁よりも赤い深紅・・

 

俺を彩る鮮紅

 

嗤う影・・・揺らめく影

 

何よりも紅く濡れたのは・・・・

 

夜よりもなお、暗い・・・・・昏い・・・

 

俺の・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

追憶が刻む協騒曲　　　「戦乙女の矜持」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っつ！？」

 

 

日に照らされた瞼の赤い色に目が覚めた・・・

 

左目に走る鈍痛と夢見の悪さに顔をしかめる

 

不快感で目覚めた目に映ったのは見覚えの無い洋風の部屋

 

少し記憶が混乱しているようだ

 

気持ちの悪い寝汗を拭ってから、昨日の出来事を思い出す

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日はもう遅いですから後の事は明日としましょう」

 

 

協力を誓った後

 

アズマリアのその言葉で部屋を辞した

 

ここは王城の客室の一つ

 

道中、女王騎士の青いのの視線がきつかった・・・

 

 

（何か気に障ることでもしたか？）

 

『おもいっっきり挑発してたじゃないですか』

 

 

ベットに立てかけられていた【無為】からつっこみが飛ぶ

 

・・・・そう言えばそうだったか

 

 

『大丈夫・・・ですか？　随分うなされていましたが・・・』

 

（・・・別に。慣れれば大した事じゃない）

 

 

ベットから起き上がり

 

用意されていた着替えに袖を通す

 

灰色を主体とした落ち着いたデザインの服だった

 

この国の軍人の衣装らしい、サイズは・・・・・ピッタリだ

 

上に丈長の外套を羽織る

 

 

「・・・・さて、また私室に来いと言っていたな」

 

 

今は多分、昼前位だろう・・・

 

外から差し込む日差しが随分と強い、そろそろ行った方がいい

 

客室の扉を開ける

 

 

ゴツ

 

 

「あうっ」

 

 

ドアに硬い手ごたえがあった

 

 

「ん？・・あ、すまん」

 

 

外を見ると小柄な緑スピリットがうずくまっていた

 

 

「うぅ・・・大丈夫ですぅ」

 

 

微妙に舌足らずな言葉遣いで喋りかけてくる

 

外見のせいもありとても幼く聞こえた

 

 

（聞いた事のある喋り方だな・・・）

 

『わたしはあんな喋り方してません！』

 

（自覚があるならいい・・・）

 

『むぅぅーー！！』

 

 

うずくまっていたスピリットが顔を上げる

 

どこか小動物を思わせるこの顔は・・・

 

 

「アンタは・・・女王騎士の・・「メイプルですぅ。ソウヤ様、あの女王が私室でお待ちですぅ。」

 

 

額を押さえたまま立ち上がり、着いてきて下さいと廊下を歩いていく

 

頭を押さえヨタヨタ歩くその後ろ姿に

 

 

「どうでも良いが、・・・こっちじゃないのか？」

 

 

逆の方向を指差して聞いてみた

 

一瞬考え、困った顔になり。そして・・

 

 

「へ？・・・あぅ・・・・間違えましたぁ」

 

 

少し泣きが入っている

 

 

（・・・・こんなのが優秀な女王騎士なのか？）

 

 

かなり真剣にこの国の未来を案じた

 

 

 

 

 

・

 

 

 

 

「御免なさい。この子が方向音痴で」

 

「それを迎えに出すか？　普通」

 

「あうぅ・・」

 

 

途中で赤スピリットの女王騎士、レア・R・スピリットと言うらしいと合流して私室へと向かう

 

出会うまで何度迷ったことか・・

 

 

「少し抜けた所はありますが優秀なんですよ。この子は」

 

「そんな私なんてまだまだですよぉ～」

 

 

謙遜しながらもその顔はしっかり緩んでいた

 

何故だろうお花畑が見える・・

 

 

「レアさんに褒められたー♪」

 

 

完全に自分の世界に行ってしまっている・・・

 

しかも、また行く方向を間違えてるし

 

駄目だろう・・あれじゃ

 

 

「・・・・・すこしお調子者ですが」

 

 

と、後ろに聞こえないように伝えてきた

 

眉が下がった力ない表情で

 

 

（成程、やっぱり苦労してるんだな・・・）

 

『やっぱりってどういう事ですかー？』

 

（考えてるとーりだ）

 

『うぅ』

 

 

そんな事をしているうちに目的地に着いた

 

途中数回、道を間違えたメイプルを探しに行く羽目になったが

 

 

 

 

 

 

・

 

 

 

 

 

 

「レアです。エトランジェ殿をお連れしました」

 

「・・・・・入って来てください」

 

 

少しの間の後、返事が返ってきた

 

扉が開かれた

 

部屋に入ると甘い芳香が鼻をくすぐる

 

中に目を向けるとスピリットが二人、奥に下がっていく姿が見えた

 

あれは・・

 

 

「どうしましたソウヤ？」

 

 

気を取られていると綺麗な声が俺を呼んだ

 

声の主は茶を片手に上品に微笑んでいる

 

 

「・・・食事中に失礼を」

 

「いえ、呼び出したのは私ですから」

 

 

猫を被り礼儀を尽くす

 

席に着きながら

 

 

「・・・どうでもいいんですが、こんな時間にケーキというのはどうかと」

 

 

と口元を指差す

 

 

「え゛・・・」

 

 

慌てて口元を手で拭う女王

 

 

（おいおい、いいのか？女王としてそれは）

 

 

優秀な女王の想像にひびが入る

 

 

「ご、御免なさい」

 

 

ばつが悪そうに笑っている

 

その顔も十分に魅力的だったが・・・

 

 

「いえ・・、構いませんが・・・」

 

 

昨日と違う姿に脱力した。内心でため息をつく

 

 

（この女王にしてあの・・・・・・・・・・・・・。やめておこう・・・・）

 

 

後悔しそうだ、色々な事を

 

 

「行儀が悪いですよ。アズマリア様」

 

 

奥の部屋から給仕服を着た黒スピリット、キファが出てきた

 

眉を寄せた顔で女王を諌める。

 

 

（・・何であいつが？）

 

 

本来居るはずの無い冷徹女の姿に疑問を持つ

 

俺に向けられた視線は何が気に入らないのか相変わらず冷たいものだ

 

 

「別にいいじゃないですか。キファ、彼はもう他人では無いのですから」

 

「それでも威厳を損なう行いは控えてください。それに私達は彼を認めた訳ではありません」

 

 

少しむっとした様にアズマリアが返す

 

キファの後ろにいた同じく給仕服を着た青スピリットも同意する

 

 

「私も必要な力とはいえエトランジェ殿を信じる事はできません」

 

「コーラル・・・」

 

 

女王の顔が曇る

 

レアたちも困った顔をして黙っている。どうも場の空気がおかしい

 

話が妙な方向にずれ始めていた

 

しょうがない・・・

 

 

「別に構いません。それより・・・」

 

 

周囲の視線が俺に集まる

 

グゥ～～

 

腹の音が響き渡った

 

 

「朝から何も食べていないんです。食事をもらえませんか？」

 

「くすっ、わかりました。すぐに用意しましょう」

 

 

腹の音と共に場の空気が緩む

 

話はお開きになり食事が始まる

 

二人のスピリットは不満そうだったが・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・で、陛下。本題に入りましょうか」

 

 

食事も終わり茶をすすりながら提案する

 

女王は少し考えた後

 

 

「そうですね。・・・・わたしの事はアズマリアで構いませんよ」

 

「わかりました。アズマリア様」

 

「様、は要りませんよ。この場では呼び捨てで構いませんよ、ソウヤ。後、その堅苦しい喋りをやめなさい」

 

 

対面に座るこちらを睨みながら言ってくる

 

猫を被っていたがお気に召さなかったようだ・・一応気を使ったつもりなのだが

 

 

「・・いいのか？」

 

「えぇ、貴方がどう思っているかはともかく、もうこの国の一員なのですから」

 

「・・・・・わかった。アズマリア」

 

「はい♪」

 

 

彼女は満足そうに微笑んだ

 

少しだけ幼く見える笑顔で・・・

 

 

「・・・では、始めましょうか。」

 

 

貌が女王のそれになる

 

纏う空気もそれに伴ない凛と引き締まった

 

 

「まず貴方の処遇ですが、客員仕官という形でよろしかったですか？」

 

「ああ、それで構わない」

 

「貴方にはイースペリアの女王騎士として部隊の指揮、運用、訓練に携わって貰いたいのですが」

 

「部隊に関わることに文句は無いが、女王騎士はやめてくれ」

 

「・・・何故ですか？」

 

「それだと、いざと言う時に動きにくい。それに」

 

 

苦笑しながら返す

 

 

「騎士様なんて柄じゃない、傭兵扱いでいいさ」

 

「・・・わかりました。ではそういう扱いで」

 

 

少し釈然としない感じだったが引いてくれた

 

無駄に肩書きが多いと苦労するだけなんだが・・

 

 

「ああ、あと出来れば前線に回して欲しい。王都で飼い殺しは勘弁だ」

 

「えぇ、その心算です。現在の我が国にそんな余裕ありませんから」

 

 

こちらに笑いかけてくる。

 

その顔は妙に嬉しげだったが・・

 

 

「・・・では、貴方には守護隊の１番隊に所属してもらいますね」

 

（・・・・・１番隊？）

 

 

つい最近耳にした単語に引っ掛かる

 

 

「待ってください！　何故ですか！！」

 

 

疑問の答えは大音響で返ってきた

 

キファが異議ありと声を張る

 

背後から響いた声で微妙に耳が痛い・・

 

 

「理由ならありますよ？・・キファ、隊規を忘れた訳ではないでしょう？」

 

「・・・う、それは・・・ですが！！」

 

「何故呼んだか解りました？」

 

「く・・・」

 

 

反発は予想済みだったのか、笑みを返すアズマリア

 

その笑みに腹黒さを感じたのは俺だけでは無いと思う・・

 

したり顔で説明を始めた

 

 

「隊規に定められた隊の構成人数は最低五人、対しキファの１番隊は現在四人、ここまで言えばわかりますか？」

 

「・・・く、しかし。実力がわからないような者と」

 

「でしたら・・・ソウヤ」

 

 

アズマリアからの視線を感じる

 

仕方ないか、雇い主の依頼だし・・

 

それにあいつとは一度話をつけたいと思っていたし・・・・

 

テーブルに背を向け背後のキファに提案する

 

 

「なら、戦って決めようか。そっちが勝てばこの話は無し、俺が勝てば晴れて１番隊所属だ。どうだ隊長殿？」

 

「・・・っ・・いいでしょう。その言葉を忘れないで下さい。・・・・では」

 

 

キッと俺を睨み付けさっさと部屋を出て行くキファ

 

別に俺が決めたのではないのだが・・

 

言っても無駄なんだろう・・・多分

 

 

（おお、怖い・・怖い・・）

 

「キファ！」

 

「あ、お姉さま」

 

 

コーラル達女王騎士も後に追って出て行く

 

去り際、青いの・・コーラルに睨みつけられた

 

どうにも嫌われているようだ・・・・・・・どうでもいいが

 

 

「これでよかったか？」

 

 

背後で溜息をつく女王に振り向く

 

あの態度に彼女もそれなりに頭を悩ませているようだ

 

 

「えぇ、すいません悪役を任せてしまって。あの娘も普段はあれほどひどくはないんですが」

 

「構わないよ、だが何故わざわざ？」

 

「・・・・さあ、何故でしょうね？」

 

 

少し気にはなったが深く関わるのはやめておく

 

アズマリアは憂いを籠めた瞳を窓の外に向けている

 

 

「貴方が優しそうだから・・・ですかね」

 

 

外を向いたままとんでもない事を仰ってくださった

 

不意に放たれた言葉に一瞬返答が遅れた

 

 

「・・買い被りだ」

 

「そうでもありませんよ。貴方は貴方が思っているよりも優しいですから」

 

 

こちらに綺麗な微笑を向けてそんな事を言ってくる

 

予想外の言葉に少し焦る。急いでアズマリアに背を向けた

 

 

「・・・・それこそ、買い被りだ。・・・行こうあまり待たせるものじゃない」

 

 

顔を見られないように部屋から出る

 

 

「ふふ、そうですね」

 

 

楽しそうな声が背後から響いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで？　どのようにやりますか？　エトランジェ殿」

 

 

王城の中にある訓練場でキファと向かい合う

 

給仕服から着替えていつもの格好に戻っていた

 

当たり前だが・・

 

中には何人かスピリットが残っていたが今は隅に集まっている

 

どうも見学する気らしい

 

 

「神剣を使った実戦形式で行こう。勝利条件は相手を行動不能にする事。構わないか？」

 

 

アズマリアに確認をとる

 

神剣を使う以上、下手を打つと怪我では済まないが・・

 

 

「・・・任せます」

 

「許可も出たし。・・・戦ろうか？」

 

「えぇ・・」

 

（【無為】頼む）

 

『はい、《存在強化(リミテッド・ブレイク)》Lⅴ２起動』

 

 

多少の違和感と共に身体に力が張る

 

 

『・・・あれ？』

 

（・・？　どうした？）

 

『い、いえ何も』

 

 

反応のおかしい【無為】をいぶかしんでいるうちに準備が整った

 

一足で飛び退き間合いを開ける

 

向かい合う相手との空間に緊張感が増していく

 

 

「手加減ならいらないぞ」

 

「元よりその気などありません」

 

「・・それは楽しみだ」

 

 

お互い神剣を構え相手を睨む

 

流石に隙がない

 

気配の応酬だけで沈黙を埋めていく

 

 

 

 

「始め！」

 

 

開始の合図が響いた・・・同時にキファが懐に飛び込んでくる

 

初手は相手に取られた・・

 

 

 

（っ、迅い！）

 

 

そのまま・・

 

 

「居合いの太刀！」

 

 

三連斬

 

反応が出遅れた身体に斬り、払い、突きと繋げてくる

 

 

「くっ」　　　　　　　　　　　　　　　　　　振　撃　撃

 

 

初撃はバックステップでかわし残りを鞘で受ける

 

斬劇の勢いを殺しきれず間合いが開く。・・・・そこに

 

 

「月輪！！」

 

 

撃

 

 

「ぐっう、・・・・つ」

 

 

追撃が飛ぶ

 

オーラが乗った強烈な一撃を鞘で防ぐ

 

重い・・

 

 

「くぅ・・・ちっ！！」　　　　　　

 

 

重い一撃に耐えられなかった体が勢いそのまま後ろに飛ばされる

 

威力を殺すことも出来ず床を滑り

 

壁に叩きつけられた

 

 

（くっ・・・・・出来るね。なかなか）

 

 

叩きつけられた身体は軋みを上げている

 

ソレを黙殺して伏せた顔に苦笑が浮かべる

 

 

（隊長を任されるだけの事はあるって事か・・）

 

『だ、大丈夫ですか？』

 

（別に・・問題ない。それより）

 

『う、ごめんなさい。すぐに調律します』

 

（・・頼む）

 

 

異邦者(エトランジェ)の強化された力がいまいち身体がしっくりこない

 

この世界で初めて戦ったあの時とは違い何かが一つずれている様な感覚が反応を鈍らせている

 

 

「この程度ですか？」

 

 

冷え切った声に意識を戻す

 

上げた視線に冷たい顔でキファが続ける

 

射るような眼差しをぶつけながら

 

 

「負けを認めるなら・・」

 

「気が早いな、まだ始まったばかりだろ？」

 

 

身を起こし服についた埃を払う

 

右の掌に視線を落とし、開いたり握ったりを繰り返す

 

違和感はまだ拭えない・・

 

 

「なら、力を示しなさい。エトランジェ！！」

 

 

冷たい怒声と共に再び間合いを詰めてくる

 

神速の踏み込みから振るわれる白刃が弧を描く

 

 

閃

 

 

居合いから刃の応酬が続く、いずれも鋭い閃撃が空間を疾っていく

 

うまく動かない身体で掠らせつつも交わしていく

 

 

「受けなさい！！　月輪の太刀」

 

 

間近に迫った相手から神速の居合いが放たれる

 

殆んど抜き手の視えない一閃が迫る

 

 

『マスター！！』

 

「っ・・初式　無明」

 

 

 

 

撃

 

 

 

白刃と黒刃が真っ向から激突する

 

鋼の音が響き渡る！！

 

 

「くぅ、っ！！」

 

 

弾かれたのは黒刃・・しかし、キファの顔が一瞬くもった

 

相手は弾いた勢いを乗せそのまま蹴りを・・

 

 

蹴

 

 

下腹に食い込ませてきた

 

胃の中身が逆流する感覚に耐えながら後方に身をずらしダメージを軽くする

 

重い痛みに耐えながら間合いを開ける

 

 

「・・・・やりますね」

 

 

刃を収め軽く利き手を振りながらキファが喋る

 

多少は効いてくれたらしい、こちらが受けたダメージは比にもならないが

 

 

「・・・・ふぅ、もういいでしょう。次で終わらせます」

 

 

静かにキファが宣告する

 

 

「抵抗しなければ楽に終わらせて差し上げます。片手を無くすことになりますが・・」

 

 

洒落にならない事を洒落ではない口調で淡々と突きつけてくる

 

こちらを見下した物言いに流石に頭に来るものがある

 

 

「はっ・・、舐めんじゃねぇ」

 

 

怒気を含ませた低い声と共に重心を軽く下げ迎え撃つ体制をとる

 

冷徹女は一瞬顔をゆがめ

 

 

「・・・っ、なら後悔なさい！！　エトランジェ！！」

 

 

初めて感情の篭もった怒声が響き

 

同時に終幕を告げる一閃が神速をもって俺へと迫る・・・

 

辛うじて残像だけが瞳に移り捉えることの敵わなかった一閃が・・・左腕を・・・

 

 

『マスター。行きます！！』

 

 

撃

 

 

「・・・なっ！？」

 

 

腕を跳ね飛ばす前に蒼銀のオーラを纏う鞘で受ける

 

先刻まで弾くことしか出来なかった一閃を今度はしっかりと止めていた・・

 

 

“《存在強化(リミテッドブレイク)》Lv2　　《肉体強化(エンハンスド)》《神経加速(アクセレート)》《感覚拡大(リンカー)》正常稼動”　

 

 

視界の裏に移るメッセージが本調子に戻ったこと教えてくれる

 

身体は羽のように軽く、研ぎ澄まされた感覚は相手の動きによる空気の流れさえも精確に読み取る

 

目の前では予想外のこちらの反応に虚を衝かれキファの動きが止まっている

 

 

「しまっ・・」「遅い」

 

 

キファが自失を抜けるのと同時で・・

 

 

蹴

 

 

回し蹴りが相手を捉える

 

 

「くぅっ！！」

 

 

相手の顔が歪む

 

鞘で直撃を避けたようだが顔が苦痛で歪んでいる

 

後ろに下がるキファを他所に関節を解して調子を確かめる

 

多少、下腹が痛むがそれ以外では全く問題なく身体が切れる

 

 

『どう・・・ですか？』

 

（・・・うん。こんなもんだろ・・・さて）

 

 

態勢を立て直し、今度こちらを警戒しているキファに向き直り

 

 

「・・・・反撃開始と行こうか」

 

 

口元に笑みだけ刻んで相手を睨みつける

 

そして・・・・

 

 

「防げよ・・」

 

 

言い放ち、瞬身で間を

 

 

「！！」

 

 

 

 

詰める・・

 

 

 

 

 

 

「なっ」

 

 

「無明・・」

 

 

撃

 

 

「つ、くぅ」　　　　

 

 

瞬身からの速度の乗った一撃

 

崩れた態勢でそれでも受け止めたようだ。そのまま鍔競り合いになる

 

オーラによって強化された膂力は容易くスピリットの身体を押し飛ばす

　　　

 

 

「っ・・く！？」

 

・・・ガ・・・キィ！！

 

 

拮抗はすぐに崩れ相手は勢い良く後ろへと吹き飛んでいく

 

空中で態勢を崩す相手に・・

 

 

「弐式　哭牙」

 

 

蒼銀に閃く斬線を追撃に飛ばす

 

 

「っ！？　くっ」

 

 

背にハイロウを展開し中空で斬線を防ぐキファ

 

勢いまでは殺しきれなかったらしくそのまま壁に激突した

 

 

「キファ！！」「御姉さま！！」

 

 

観客たちの顔が驚きに変わる・・何故か微妙に周囲の視線が痛い・・

 

一部のスピリットから圧力を感じた

 

視線の先でキファが立ち上がる

 

ゆっくりとした動きには隠し切れないダメージが見て取れた

 

 

 

「・・・・どうする、続けるか？　やめるか？」

 

「・・・っ！？　もちろん続けます」

 

 

挑発と取ったのかこちらを睨み付け、剣の柄に手を掛ける

 

こちらとしては一応身を案じたんだが・・・相手は戦る気満々のようだ・・

 

 

「・・・次で終わりだ」

 

 

言い放ちキファの戦意に応えるように身を深く沈め一気に踏み込む

 

瞬時に懐に踏み入った

 

 

「っ」

 

 

相手は居合いを警戒して間を離そうとしない

 

そのまま居合いに・・

 

移るように見せ、さらに頭の位置をさげる。そのまま水面蹴りへ移行、相手の足を狙う

 

 

一閃

 

 

「！！」

 

 

キファはその動きに対応しハイロウで後方に飛び退き引く

 

かわされた水面蹴りからそのまま上段回し蹴りに繋げる

 

空中に浮いた相手の肩口を狙い・・・・・・・・蹴りこむ！！

 

 

「っ、くぅ！」

 

 

一撃は鞘で受け止められ、弾かれる

 

一瞬だけ間隙はいり、わずかに早くにキファの足が地に着く

 

そして

 

 

「っ、月輪！！」

 

 

 

こちらへ切り下ろしの一撃を振るった

 

今度は完全に捉えた刃が・・・それでも瞬速をもって迫る

 

こちらも回し蹴りを放った蹴り足が地を掴むと同時に

 

 

「漆式(しちしき)　緋月(ひづき)」

 

 

後の先を取るように最下段からの神速の居合いが蒼銀の月弧を描く

 

 

撃

 

 

上弦を描く月弧がキファの神剣を弾き飛ばす

 

そのまま流れるように下弦の月弧を・・・首元に突きつけた

 

 

 

 

 

 

 

 

「く、・・・私の負けよ」

 

 

これで勝負がついた。刀を引き、一息つく

 

思ったよりもずっと苦戦を強いられた。流石に隊を任されるだけはある

 

 

 

 

 

 

・

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、これで一番隊所属か。・・・まぁ、よろしく頼む、隊長殿」

 

 

刀を納め手を差し出す

 

キファはその手を取らず立ち上がった

 

 

「・・・私の隊に所属する以上、隊規には従ってもらいます。エト・・・ソウヤ様」

 

 

言い捨てるように背を向け、少しふらつきながらすぐに行ってしまう

 

数人のスピリットがその後に着いていった

 

 

「・・・・蒼夜様ねぇ。名を呼ばれただけ一歩前進なのかね？」

 

『微々たるものですね』

 

（黙ってろ、ポンコツ）

 

『ひど・・』

 

 

相変わらずキファは険悪なまま。先行きは・・・不安だ

 

 

（上手くやっていけるかねぇ？）

 

 

女王、・・・アズマリアが少し困った顔をして近づいてきた

 

 

「御免なさい、しかし流石ですね。あの娘に勝つなんて」

 

「いや、虚を突けなければ負けてたよ。それに神剣魔法を使われていれば違った結果だったろうしな」

 

（それに多分・・本気じゃなかったし・・・）

 

 

久しぶりに本気で戦った分、疲労も軽くは無い

 

冷や汗も掻いている事に気づき苦笑し、袖で汗を拭う

 

 

「それでもすごいですよ。キファさんに勝つなんて。この世界のスピリットの中でも屈指の使い手なんですよ！！」

 

 

興奮した様子でメイプルが喋っている

 

その内容が引っかかった

 

屈指の使い手？

 

 

「・・・・・・・そんなのといきなり戦らせたのか？　アズマリア」

 

「ふふふ、勝てたのならいいじゃないですか。実力の証明になりましたし♪」

 

 

戦うよう仕向けた本人は笑って誤魔化す心算らしい

 

頭が痛くなる

 

 

「少しは後先を考えてくれ・・」

 

 

と、周囲の以上に気づく

 

気が付くと周りが他のスピリットに囲まれていた

 

尊敬の眼差しや興味の篭もった眼差しでこちらを見ている

 

 

「それでは私は公務が在るのでこれで」

 

「ちょ、ちょっと待て！」

 

 

女王様が意地悪い笑みを浮かべながら居なくなる、同時に退路が絶たれた・・

 

周囲を見る。興味深々の眼は逃がしてくれそうに無い

 

 

（・・・・【無為】　）

 

『無理です。諦めてください♪』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからスピリットたちに捕まり質問攻めにあった

 

日が沈むまで放してもらえず

 

・・・本当に疲れた。先行きは限りなく不安なようだ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スキル

 

漆式(しちしき)　緋月(ひづき)

 

神速の切り上げ切り下ろしの二連撃。下弦、上弦と呼ばれる二連撃からなり、その軌跡が月弧に見えることから月の名を持つ。対空、対地両方に優れ、間合いも広い、下弦を牽制に使い即座に振り下ろされる上弦で仕留める

 

 

 

人物

 

メイプル・G・スピリット

 

イースペリアの女王騎士。防御の魔法を得意とし防衛戦の指揮も得意としている。小柄な身体と童顔、舌足らずな喋り方の為いつも子ども扱いされるが実はコーラルやアリアよりも年上。本人はそのことをあまり気にしていない。お気楽な性格で神経質なコーラルとはうまくバランスを取っている

 

 

レア・R・スピリット

 

イースペリアの女王騎士の現筆頭。イースペリアで最年長のスピリットでとても落ち着いた性格をしている。

キファとの付き合いも長く彼女に意見できる数少ないスピリットの一人。赤スピリットでは珍しく直接戦闘も得意で後衛、前衛どちらも出来る。年長のスピリットとして責任感が強く、コーラルとメイプルの行動に頭を痛めながらうまく纏め上げている