ランサの街を出て数日後

 

途中、ダラムと呼ばれる街を経由してようやく王都イースペリアに辿り着いた

 

 

「ほぉ・・・、まるで御伽噺の世界だな」

 

 

石造りの街並みが異世界に居ることを意識させた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

追憶が刻む協騒曲  「求められた力」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

西洋にしか無さそうな王城を覗く中世の綺麗な通りを進む

 

活気のある街並みに純粋に関心する

 

 

「すごいでしょ。これも女王様のおかげなんだよ」

 

 

ルティアがどこか誇らしげに言う

 

旅の最中も何度か聞いたが中々に人望ある為政者らしい

 

立ち並ぶ店には見覚えの有る物や見た事が無い物が並び

 

石造りの建物が立ち並び舗装された道を子供が走り回る

 

 

(人の営みは何処も変らないもんだな)

 

 

行きかう人の流れに逆らわず街を進んでいく

 

 

「ねぇ、ボクの話聞いてる~?」

 

「ん? あぁ、すまん。街を見ていた」

 

「ソーヤさんの世界の、・・ハイペリアの街とは違いますか?」

 

「少なくとも俺の居た国にはこういう街並みは無いな」

 

「じゃあどんなの?」

 

「どんなの? と言われてもな」

 

 

言葉にするのはかなり難しい

 

神剣を通した知識でも説明できそうな言葉が無い

 

なにより俺はあの国に居た期間が長い訳じゃない

 

 

(ジジィにそこら中の国を連れまわされたからな・・)

 

「着きました。後は中の者の指示に従って下さい」

 

 

考え事をしていると事務的な声が響く

 

どうやら到着らしい

 

目を上げると石造りの巨大な門があった

 

俺を送り出すキファにアリアたちが

 

 

「ここで別れるんですか?」

 

「え~、もう? まだ聞きたい事あるのにぃ。・・・・ケチ」

 

 

キファはルティアの文句を黙殺して

 

微妙に青筋が浮いてたが・・

 

 

「えぇ、スピリット館で解散。後は自由行動よ」

 

「え、やった! ねぇアリィ一緒に買い物行こ?」

 

「解散するまで待ちなさい、ルティア」

 

「ブゥー、・・・はーい。それじゃね蒼くん」

 

 

面白く無さそうな顔から一転

 

顔を輝かせとっとと走って行ってしまった

 

 

「あ、待ちなさい!!・・・・もう」

 

「・・・・苦労するな。隊長殿?」

 

「・・・・あなたが心配する必要はありません。くれぐれも失礼の無い様にお願いします」

 

 

冷たい目で釘を刺し

 

それでは、と残りの二人を伴って行ってしまう

 

 

 

「ソーヤさん。またお話、聞かせて下さいね」

 

「・・・・・じゃ」

 

 

振り向くと兵士が二人こちらに来ていた

 

 

(【無為】、どうだ?)

 

 

錠前を見下ろし作業の進行具合の確認をする

 

 

『・・・あと20%位です』

 

(わかった引き続き頼む)

 

 

頭を切り替え

 

兵士たちのもとへ向かう

 

 

「さて、俺なりに失礼の無いようにしないとな」

 

 

見えないよう笑う

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「我らの剣になるのだエトランジェ」

 

 

豪奢な客間に通されて十分後

 

目の前で貴族だと思われる格好の老人どもが熱弁を揮っていた

 

 

曰く、エトランジェは王族に従う義務がある

 

曰く、強制力には逆らえまい

 

 

自分達が王族では無い事は忘れているらしい

 

待たされていい具合にいらいらした頭に油を注いでくれる

 

 

(馬鹿馬鹿しい、モノの頼み方を知らないのか?)

 

『マスターは人の事言えないです』

 

(・・・・・む)

 

 

間髪いれず、つっこみが飛んできた

 

思い当たる節があったので黙りこむ

 

まわりの言葉を完全に無視している俺の態度に周囲は我慢の限界を超えたらしい

 

 

「聞いて居るのか!! エトランジェ。貴様など我々の力で・・」

 

「・・ほぉ? あんたらの力でどうする気だ? 私兵でも差向けるのか?・・・やめとけ無駄だ」

 

「な、貴様!!

 

 

(器も浅い、これ位は受け流せないとな)

 

『容赦ありませんね~』

 

(野郎に向ける慈悲は無い。で、終わったか?)

 

『はい、もう復帰できますよ♪』

 

(ご苦労)

 

 

周囲を無視し【無為】と会話する

 

その間もギャンギャンと烏合が喚いている

 

本当に五月蝿い、態度に出しながら呆れかえる

 

日本語で愚痴る

 

 

「はぁ~・・・うぜぇ」

 

「く、話を聞いているのか!!

 

 

激したジジィが胸倉に手を伸ばす

 

ここで・・

 

 

「落ち着いて下さい翁。それでは話し合いが出来ません」

 

 

扉が開くと共に冷静な声が響く

 

怒り狂っていた老人共が下がっていく

 

 

「こ、これはルークス外務大臣。お恥ずかしい所を」

 

 

入ってきた若い男に周囲の老人共が頭を下げる

 

目の前のジジィも手を引っ込める

 

 

(大臣?・・・やっと黒幕の登場か)

 

 

扉の前に立った烏合の衆の親玉と思われる男

 

成程

 

烏合のジジィ達とは存在感が違う

 

見た目は、二十五前後、整った顔に人が良さそうな笑みを浮かべて喋りかけてくる

 

目はモノを見るような冷ややかさだったが

 

 

「失礼致しましたエトランジェ殿。気を悪くしないで下さい」

 

「別に構わないさ、で、アンタは?」

 

「これは失礼を私はルークス。ルークス・シル・ヴァルセイト。王族の傍系に当たる血筋の者です」

 

 

芝居がかった態度で一礼する

 

王族の・・というくだりに随分アクセントが乗っていた

 

 

「この国の外交に携わっております。お見知りおきを」

 

「・・・・成程、それで外務大臣殿。用件は何でしょうか?・・出来れば手短に」

 

 

相手の調子に合わせ猫をかぶる

 

半ばからかうような響き持たせたが

 

 

「そうですね、では単刀直入に。・・・・我々の力になって頂きたい、貴方の力を我が国の為に・・」

 

 

「断る」

 

 

最後まで言わせずにとっとと断ち切る

 

 

「・・・・・・・何故です? 貴方にはそれ相応の見返りを用意しますよ?」

 

「馬鹿らしい・・」

 

 

一瞬、相手の頬が引き攣った

 

顔から笑みが消え、冷たい眼差しだけが残る

 

 

「・・・・・その鎖は神剣の加護を失わせます、加えて私には王族の血が流れています」

 

「だから?」

 

「わかりませんか。あなたは私に手を出せない」

 

「へぇ、・・で?」

 

 

猫を被っていない俺の態度に冷静な仮面が剥がれていく

 

流石の黒幕殿もコケにされるのは腹が立つらしい

 

 

「くっ、私に従いなさい。今なら穏便に・・・」

 

「ほぉー、穏便とは。こう言う事か?」

 

 

ミシッ・・・・ビキッ

 

 

鎖が引き千切られる

 

 

 

カラン・・

 

 

周囲から一瞬、声が消えた

 

 

「そ、そんな馬鹿な・・・」

 

「脅すならばしっかり相手を見て行うことだ」

 

 

周囲がまた騒がしくなる

 

『《存在強化(リミテッド・ブレイク)》完了。どうですか?マスター』

 

(流石だ。いい仕事をしている)  『ありがとうございますー♪♪

 

 

まだ、ざわざわ煩い

 

黙らせるか・・・

 

 

「な、馬鹿な。封剣の鎖が、・・・・・だ、だが・・わ、私には王族の血が流れている。その意味が・・」

 

「だから? それがなんだと」

 

「貴様・・・・・」          

 

 

 

 

 

 

その場に今度こそ静寂が落ちた

 

ルークス、そう呼ばれていた男の首筋から一筋の血が流れていた

 

 

「弐式 哭牙(なききば)。 すまない・・・手が滑った」

 

 

ルークスの背後で調度品の壷が斜めにずれた

 

 

ガチャン

 

 

壷が床に破片を散らす

 

 

「な・・・・な・・・・」

 

「次はちゃんと首を飛ばそう」

 

 

柄にもう一度手をかける

 

相手の顔から血の気が引いていく

 

 

「ま、待て・・・・やめ・・・」

 

 

 

 

 

 

殺気を纏い首を・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「申し訳ありませんが、そこまでとして下さい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

涼しげな声がその場に響く

 

開け放たれた扉、そこには気品に溢れた女性が凛と立っていた

 

その声に一度、手を止める

 

刀は下げず睨み付ける

 

 

「エトランジェ殿、どうかその刃をお下げ下さい。我が臣下の無礼どうかご容赦を」

 

「あ、アズマリア陛下・・・」

 

「・・・・・・・・・・」

 

 

 

 

視線を向ける俺に怯むことも無く目を合わせた

 

強い意志を感じさせる真摯な眼差しだった

 

殺気を解き、柄から手を離す

 

 

「有り難う。・・・ところで、ルークス外務大臣」

 

 

外務大臣殿に向き直る

 

 

(わたくし)はあなた方に彼との接触を許可した覚えはありませんが?」

 

「そ、それは・・・・「この件は後で聞きましょうか。下がりなさい」く、はい・・・」

 

「ル、ルークス殿・・・」

 

 

一瞬悔しげに顔を顰めたが大人しく引き下がっていった

 

老人どもも急いで退場していった

 

 

『ざまぁみろー

 

(黙ってろポンコツ)

 

『あぅ、すいません』

 

 

女王の方に体を向ける

 

護衛のスピリットが立ち塞がる

 

 

「失礼ですよ。下がりなさい」

 

 

周囲を護ろうとしたスピリット達を下がらせ俺の前に立つ

 

その目には・・・・

 

僅かだが怯えがあった

 

 

「改めて謝罪します。不愉快な思いをさせてしまいましたね」

 

 

それを感じさせない声音で話しかけてくる

 

その姿に肩の力を抜く

 

怯えさせてしまったか・・・

 

 

「・・・・いや、こちらも失礼した。貴方の臣下に刃を向けた事を謝罪する」

 

 

頭を下げる

 

相手は少し驚き

 

 

「気にしないで下さい。では、ここまでとしましょうか」

 

 

きれいな笑顔を向けてきた。

 

そこには先程のような威厳は無く。本当にやさしげな物だった

 

 

「では、はじめましてエトランジェ殿。アズマリア・セイラス・イースペリアと申します」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日が少し傾き始めた頃、茶をもてなされていた

 

何故か女王の私室で、同じテーブルに座って

 

流石に護衛が三人ついていたが

 

 

「どうぞ・・」

 

「ありがとう、コーラル」

 

 

給仕服を着た青スピリット、先ほどの護衛の一人、がお茶を出す

 

香りを楽しんでから口に含む

 

 

(ふむ、悪くないな)

 

 

初めて飲むこの世界のお茶に舌鼓を打つ

 

少し甘めだが悪くは無い

 

 

「しかし驚きました。貴方には神剣の強制力が働かないのですね」

 

 

ティーカップをテーブルに置き

 

相手が話を切り出してきた

 

 

『私にはそんな義理はありませんから』

 

「・・・伝承の四神剣と違って王族を守る義務が無いらしい」

 

「では、この場でわたしを・・・」

 

「ああ・・、殺せるな」

 

 

チャキッ

 

 

女王の後ろに控えていた三人の侍女、護衛のスピリットが警戒を増す

 

 

「・・・・冗談だ」

 

 

鋭い反応に笑みを浮かべる

 

なかなかに強烈な気配だ・・流石と言ったところか

 

 

「無礼が過ぎますよ。エトランジェ」

 

 

コーラル、そう呼ばれていた青スピリットが目を吊り上げる

 

殺気は他の二人よりも強い

 

 

(・・・後一押しで抜くかな)

 

 

笑みを深める

 

僅かに嘲りをのせて

 

 

「くっ、貴様・・・」

 

 

挑発と取ったか怒気が増す

 

 

「神剣を下げなさい。コーラル、メイプル、レア」

 

「ですが、アズマリア様・・」

 

 

俺と目を合わせ、そして微笑み

 

 

「彼は信用できます」

 

 

その言葉に少し驚く

 

 

「・・・・初対面のはずだが?」

 

「女の勘と言うものです」

 

 

笑みを深めて、言ってくれる

 

しかも自慢げに

 

 

「・・・・・・・敵わないな」

 

 

内心で苦笑を浮かべた

 

下がっていくスピリット達を横目に会話は続いてゆく

 

その間もコーラルと呼ばれたスピリットからは視線を感じた

 

 

 

 

 

 

 

 

主にお互いの世界に関する事や

 

他愛の無い話、お互いの事等を話した

 

ほとんど向こうが喋ってばかりだったが

 

ちょっとしたことに驚き、感心して、笑う

 

年上のはずの女王に少しだけ親近感を感じることができた

 

そしてまたこの神剣、【無為】の話題になった

 

 

「成程。では本当にその神剣は・・・」

 

「第五位【無為】だ。聞いていないのか?」

 

「・・ええ・・・・我が国も一枚岩というわけにはいかないようですね」

 

 

少し困った顔で微笑を浮かべていた

 

目には憂いが感じられたが

 

 

「・・・・・そうか」

 

 

さっきの無能老人どもと冷血男を思い出す

 

・・・・・・・あれは苦労しそうだ

 

 

(指導者というのは大変なものだな)

 

『完っ・・ペキに他人事ですね』

 

(それ以外になんと?)

 

 

今の所、無関係でしか無いのだが

 

 

『さーいてーい、れーいけつー』 

 

(・・・それは結構)

 

 

ゲシッ

 

ピーピー喚くポンコツを思いっきり蹴った

 

 

『あううぅ』

 

 

頭の中に叫びが響く

 

その音量に顔が少し歪む

 

 

「?・・どうしました?」

 

「いや、何でも無い」

 

 

お互い茶を飲み、気を取り直す

 

 

「それにしても、貴方は随分と冷静なんですね」

 

「ん?」

 

「いえ、異世界に飛ばされて来たと、言う割には随分落ち着いていると思いまして」

 

「別に驚かなかった訳じゃないが・・人より冷めててな」

 

「・・? どういう意味です?」

 

「なんて言うか、どうでもいいと思えるんだよ。自分を取り巻く全てが・・」

 

「・・・・」

 

 

苦笑しながら続けた

 

 

「だからか、そういう風に見えるんだろう」

 

「そうですか・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

互いの話題が尽きた頃、ついてきて下さい、と誘われテラスに出た

 

夕日に照らされた綺麗な街並みに何故か胸がざわめいた

 

互いに口を開かず街を眺める

 

 

「そろそろ本題に入りましょうか」

 

 

女王陛下が口を開く

 

表情が初めて見た時の凛とした女王の貌に戻っていた

 

 

「単刀直入にお願いします。(わたくし)に貴方の力を貸してください」

 

「・・・何故だ?」

 

「この大陸に戦乱が起きようとしています。わが国の理念と民を護るには・・」

 

 

街に眼を向ける

 

強い決意と愛しさを感じさせる眼差しで

 

 

「・・護るには力が必要です。振るわれる剣を止められるだけの力が。・・・・わが国にはそれが足りないのです」

 

「・・・専守防衛、侵略はしない、だったな。・・その為に俺に血を流せと?」

 

 

理想を語る彼女に視線を送る。批判を込めて

 

彼女は・・・

 

 

「はい、手を貸して頂けませんか」

 

 

暁に彩られた王都を背に背負い真っ直ぐこちらを見つめていた

 

向けた眼差しに逸らさず応えてきた

 

その目に宿る感情の色を見つめ

 

 

 

 

 

 

今度は恐れが無かった。覚悟をしている者の眼だった

 

流されてきた犠牲を忘れていない、しかしそれに囚われていない

 

そんな眼だった

 

 

俯き、見えぬ程度に笑む。その強さに僅かに気圧されながら

 

 

 

 

 

 

「・・・・・いいでしょう。アズマリア陛下、貴方の信用に応えましょう」

 

 

その場で膝をつき

 

刀を捧げ、忠誠を示した

 

その意志の強さに惹かれるものが在ったから・・

 

 

「我が名は、【無為】の異邦者(エトランジェ) 神名蒼夜。貴方が己の理念を見失わぬ限り、己が生み出す犠牲から目を逸らさぬ限り、我が身は貴方の剣と成りましょう。貴方の理想の為の剣に」

 

 

驚いた顔をしていた女王がそれでも平静を取り戻し

 

 

「・・・・・有り難う。貴方の助力を感謝しますソウヤ・・・」

 

 

剣に手を置き、礼を述べる

 

ただ・・見てみたいと思った、彼女思う理想を・・

 

だから・・ここに契約は成された

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スキル

 

弐式 哭牙(なききば)

 

神速の抜刀でオーラの斬撃を飛ばす技、威力は低いが隙が小さいので牽制に使える。放つ際に風が鳴ることから哭く牙と名付けられた。使い勝手はいいが射程距離は長くない

 

 

用語

 

封剣の鎖

 

神剣の加護を阻害する効果がある金属でできた鎖。もともとサーギオスから流れてきた物で妖精を捕縛しておく為の物の為、より力の強い来訪者の位階の神剣には効果が薄い模様