Bloodstained
Hand
第三章 動き始める運命
「はぁ〜あ。疲れた〜」
「…本当。ユーフィは元気すぎる」
背中に背負ったユーフォリアを見て苦笑する悠人とアセリアであった。
あの後は結局、ユーフォリアがはぐれないようにと二人であちこちついてまわったのだが、はぐれた恐ろしさももう忘れたのかチョロチョロ動き回るのだった。
そして疲れ果てたユーフォリアは悠人の背中で寝息を立てている、というわけだ。
「アセリアは…楽しかったか?」
「うん…。ずっと、ユートたちとこうしていたら幸せだと思った」
「俺は、アセリアとユーフィがいるだけで幸せだぜ?」
ちょっと格好つけてみる。
「私も、ユートとユーフィがいるだけで幸せだぞ?」
それを聞いて、悠人の口ぶりを真似するアセリアだった。
クスリ、と微笑みあう二人。
(本当にずっと、こうしていられたらいいのにな)
夕刻。
三人がついたのはローガスお勧めの宿(笑)。
「へ〜、ローガスも言うだけあって結構いいとこじゃないか」
部屋に案内された三人はまず部屋の広さに圧倒され、ついで庭の美しさに見とれた。
美しい山を背景に頂き、小さな池を掘り、天然石を巧みに配置した見事な日本庭園である。
食事も季節のものや、新鮮な魚介類をふんだんに使用した贅沢なものだ。
(来てよかったな)
後で宿泊費を見て目を丸くすることになるとはつゆ知らぬ悠人である。
これだけうまく丸め込むとは…あの少年、その方面で食っていけるのではなかろうか?
食事に舌鼓を打った後、やはり疲れていたのだろう、ユーフォリアは再び寝入ってしまった。
「あ〜あ、汗かいてんのに…。まあ、しょうがないか。俺温泉に行くけどアセリアはどうする?」
「ん、なら私も行く」
露天風呂もこの宿の売りのひとつだ。
何と言ってもこんよ…く?!
何となく、というか確実に先がわかってしまう悠人である。
「ユート…」
あ、やっぱり(笑)
そして悠人と背中を合わせて湯につかるアセリア。
(うう…、やっぱ恥ずかしいな)
周囲の視線が注がれる。(男限定)
何しろこれだけの美人が一緒に風呂に入っているのだから当然である。
そんな状況を知ってかしらずかアセリアは悠人に話しかける。
「ユート見て。夕日…」
首を回してアセリアの表情をうかがう。
…本当にうれしそうだった。
(ファンタズマゴリアでも今と同じように夕日を見たんだよな)
ふと、答えの返ってくるはずのない問いをしてみたくなった。
「なあアセリア…、ハイペリアとファンタズマゴリア、どっちの夕日がきれいだ?」
考え込むアセリア。しかし答えは思っていたとおりだった。
「うん…比べられない。どちらもきれい」
「そっか…そうだよな」
しばらく二人は夕日を見つめていた。
温泉から上がりアセリアが着替えるのを待っている悠人だったが、ふとコーン、コーンという小気味よい音がするのに気づく。
(へえ、定番ではあるけど卓球場もあるのか)
すると着替えたアセリアが出てきた。
「おう、アセリア。あのさ…」
と振り向く悠人。不覚にもドキッとしてしまう。
「ユート…、似合う?」
少し照れたような顔をするアセリア。
浴衣姿だった。
浴衣の藍色と水色の髪がよく合っている。
内心の動揺を悟られまい、と目を背ける悠人。
それを似合ってないと解釈したのかしょんぼりとうつむくアセリア。
「ちち、違うんだ!あんまりきれいだったから…」
悠人は自分の非を悟り、あわててフォローするのだった。
それを見ていたずらっぽく笑うアセリア。
「え…?」
「ユートはいつもそう。ふふ…」
からかわれたことにようやく気づく。
「でも…、だからユートが好き」
と、アセリアは頬をほんのりと染める。
「ははは…、ところでアセリア、卓球やってみないか?」
「卓球?」
「ああ、やり方は実際やってみればわかるから行ってみようぜ?」
「やり〜、俺の勝ち〜」
これで悠人の三連勝だ。しかも全て完封である。
何故そんなことになっているかというと単に悠人がピンポン球に回転をかけているからなのだが…。
「…?」
素直に球を打ち返すアセリアにはなぜ球があらぬ方向に、しかも打ち返すたびに違う方向に飛んでいくのかわからない。
カットやスライスも知らないのだから無理もない。
と、悠人の顔にいたずらっぽい笑みが浮かんでいるのに気づく。
「ユート、ズルしてる?」
「さっきのお返しだ」
ぷぅ、と頬を膨らませるアセリア。
「仕方ないなぁ…」
と、タネあかしをするのだった。
「…がはぁ」
一度夢中になるととまらないのはアセリアの癖だったが、今回もヘトヘトになるまでつきあわされてしまった。
部屋に戻るなりぶっ倒れてしまった悠人である。
「うう…、せっかく風呂入ったのに汗でびしょびしょじゃないか…」
まあ、自分がまいた種は自分で刈れということで…。
「ユート。風邪ひくぞ?」
と、布団をかけるアセリア。
たとえて言うなら酔って帰ってきたダメ親父を介抱する妻の図(笑)
「う〜、何もあんなにムキにならなくても…」
「それはユートが悪い。でも楽しかった」
「ああ…、それはそうだけど…」
「明日も、しよう?」
「…勘弁してください」
と、そのまま眠りに落ちてしまう悠人であった。
キィィン!!
最大級の警告が頭に響く。
(うわっ!今何時だと思ってんだバカ剣!)
つい昔の口癖でそう呼んでしまう。
眠りから覚まされた悠人は不機嫌そうに意識を『聖賢』にむける。
(…バカ剣はよせ。まったく相変わらずのんきだな、お主は)
(うるさい、そんなことのために起こしたのか?)
(そんなはずがあるまい。大至急伝えねばならぬことがある)
(何だよ?)
いまだ寝ぼけ眼の悠人は何気なくたずねる。
(おぬしら以外のエターナルが近くにいる。しかも強い神剣の力を感じる)
「何だって!」
ハッ、とユーフォリアを起こしたのではないかと目を向けるが、幸いすやすやと寝息を立てている。
(そういう大事なことはなんでさっさと言わないんだよ)
(今まで気配を隠していたようなのだ。第一伝えようにもなかなか目を覚まさぬではないか、お主は)
「くっ!アセリア、目を覚ませ!」
「ン…」
ユーフォリアを起こさないよう小声で呼ぶ。あらましを説明すると
「わかった。でもユーフィは?」
「ユーフィは置いていく。相手はかなり強いらしい。俺たちじゃ守りきれないかもしれない」
「ん、わかった。行こう、ユート!」