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Bloodstained Hand 
第一章 はじまりの刻

《ある世界にて》

 円を描くように、三人組が一人の男を取り囲んでいる。そこにいたのは金髪の青年。

が、包囲されているはずなのに、件の青年は焦ることもなくいたって冷静。むしろ、周りの三人の方が顔を緊張で縛り上げている。

 青年は手に持った剣を構えようともせずに、楽な姿勢をとっていた。

「……どうしても戦いますか?」

 ポツリ、と問う青年。その声は、辺りに充満した殺気と不釣合いなほど穏やかだった。

「……」

 だが、その問いに対して返事は無い。この場では、返事が無いこと自体が返事と考えていい。
 
 つまり、拒絶。

 それを証明するように、彼を囲む三人―――正確には男一人に女二人―――は、その身に強力なオーラフォトンをまとっている。

 常人であれば、この場を支配する殺気に圧倒され、戦意喪失する。あるいは窮鼠猫を噛む、というように闘争本能を掻き立てられ、後先も考えずに猛然と襲い掛かるかのどちらかだろう。

 それでも、青年はその雰囲気に飲まれることがないばかりか、剣を振るうことさえためらっていた。が、相手がどうあっても引きそうに無いほどの決意をみなぎらせているのを見て取ると、

「口で言っても無駄か…。おとなしく神剣を差し出していただければ、無駄な戦いをしなくてすむのですが…」

 ようやく自分も剣を上げた。



 青年の名はライアス。

 永遠神剣第二位『聖光(しょうこう)』を所持するロウ・エターナルの一人である。

 そして、彼の周りにいるのはカオス・エターナルに属する者である。

 かたや世界を守り、かたや世界をマナに還そうとする者。

 衝突は必然であった。



『聖光』が青白い光を発し始める。

 と同時に、恐ろしいほどのマナがライアスの周りを渦巻き、オーラフォトンに変わった。

 彼を囲む三人のオーラフォトンとて目を見張るべきものには違いないが、ライアスに比べればその差は歴然。

「!?」

 とっさに身構える三人だが、すでにライアスは動いている。

 高速で一人の女性エターナルに近づくと、すくい上げるようにして神剣を弾き飛ばした。

 ガギインッ!!

 高々と空中へ跳ね上げられる神剣。

「ローザッ!!」

 男性エターナルが彼女の名を叫ぶ。が、彼女自身はあまりに一瞬の出来事だったため、何が起きたのか把握し切れていない。

「……まずは、ひとつ」

 そう言って『聖光』を振るうライアス。

 すると『聖光』から巨大な光弾が放たれ、宙を舞うローザの神剣めがけて一直線に向かっていった。

 ローザには、その様子を呆然と見つめることしか出来ない。

 ゴバアッッ!!

 はじけるような音とともに、拍子抜けするほどあっさりと彼女の神剣は砕け散った。

 ここに至って、ようやく事態の異常さに気づいた残り二人が、ライアスめがけて一斉に飛び掛る。

「貴様ッ!!行くぞ、リルム!!」

 リルム、と呼ばれた女性エターナルが威勢よく答える。

「ああ、あんたこそ足引っ張るんじゃないよ、パーシェル!!」

 が、敵が間近にいるというのに何を思ったのか、ライアスは詠唱を開始してしまった。

 この大胆な行動は、パーシェルにしてみれば愚弄されるに等しく、

「この至近距離で詠唱だと?なめるなッッ!!」

 猛然と襲い掛かる。

 それでもライアスは目を閉じたまま詠唱を続けていた。

 そして、ついに攻撃圏内に到達した二人は、左右同時に切りかかり―――

 シャッ

「「!?」」

 だが、聞こえたのは剣が空を切る音のみ。

「ど、どこだ!?」

 何事かと辺りを見回すパーシェルだが、

「…!?上だよ、パーシェルッ!!」

 リルムの叫びに我を取り戻す。

 そして、その言葉にはじかれるように空を見上げると――――――

「惜しいですね、なかなかの力をお持ちのようですが………少々、冷静さが足りないようですね」

 そこにいたのは、紛れも無くライアス。

「『聖光』よ、彼の者どもを光へと誘え」

 詠唱が完成すると同時に、急速にマナが『聖光』にむかって収束してゆき―――――。

「シャイニング・ミストッ!!」

 高らかに響く声に応じるように、集まったマナが今度は一気に拡散。まばゆい光とともに『聖光』から広がってゆく。

 そのままカオスの三人組を包んでしまった。



(んっ………今のはなんだったんだ?)

 あまりにまぶしさに思わず目がくらんでしまったパーシェル。が、ゆっくりとまぶたを開いた彼の前に広がるのは――

 ―――全くの無音の世界。

 しかも、あたり一面に広がる真っ白の霧のせいで、ひどく視界が悪い。

 ―――カツーン、カツーン―――

 何者かが歩み寄る足音。ここが地下トンネルであるかのように、その音だけが異常に響く。

 パーシェルは無意識のうちに身構えていた。

(来るなら来やがれってんだ…………返り討ちにしてやる!)

 だが、彼は気づいておくべきだった―――――自分の身に起こった異変に――――すでにライアスの術中に陥ってしまった自分に。

 無論、気づいたところで結果は変わらなかったろうが……。

 ようやく、視認できる距離まで相手が近づいてきた。

 霧の中から現れたのは、言うまでもなくライアス。

 とっさに飛び掛ろうとするとするパーシェルだが、一向に体がいうことを聞かない。それどころか、声を上げることさえ出来ない。

 かといって息苦しかったりするわけではなく、特にこれといって苦痛は感じなかったのだが……。

 が、その時、彼の興奮をより一層煽るようなものが目にとまった。

(!!それはっ……!!)

 気づけばライアスの手には『聖光』の他に、もう一本の神剣が握られていた。

 視線に気づいたのか、穏やかに話しかけるライアス。

「ええ、これはあなたの仲間の神剣です。………彼女は確か、リルム、とおっしゃいましたね?申し訳ありませんが、あなたの神剣も渡していただきます」

(…くそっ!!よせ、俺に近寄るなあッ!!)

 が、抵抗むなしく(身体は動いてさえいないわけだが)あっさりと神剣を抜き取られてしまった。

「では、すみませんが………少し眠っていてください」

 ドサッ

 首筋めがけて手刀を放つライアス。パーシェルの意識は一瞬で闇に沈んでしまった。

 彼が気絶するのと、あたりを包んでいた霧が消えるのは、ほぼ同時だった。

 次第に、元に戻ってゆく景色。

 ようやく戦闘が終わったのだ。あまりに一方的で、戦闘と呼ぶのも差し障りがあるが………。

 が、一息つく間もなく

 ひょい

 と、二本の神剣を放り上げるライアス。そして、

「では………………はあっ!!」

 ガキイイイィィィィン!!

 響き渡る金属音。

『聖光』の一振りのもと、リルム、そしてパーシェルの神剣は砕け散った。

 ヒトやスピリットに限らず、マナへ還る姿は美しい――――それは神剣とて例外ではない。

 二本の神剣は金色のマナへと姿を変え、『聖光』に吸い込まれていった。

(……すまぬな、ライアス。)

 頭に直接響く声。だがそれは、全然不快な感じではなく、むしろ穏やかで慈愛に満ちている。

 彼の神剣、『聖光』の感謝の言葉だった。

「いえ、これが私の仕事ですから。………それに、まだ終わってはいませんよ?もう一仕事残っています」

(ふふ、そうだったな。ご苦労なことだ)

 『聖光』の苦笑を浴びつつ、後ろを振り向くライアス。

 その視線の先にいたのは、今となってはただのヒトに過ぎない、三人の元エターナル。皆、気を失ってはいるが、傷を負ったものは一人もいなかった。

「では、行きましょうか」

 その言葉を残し、この世界から四人の存在が消えた。


《カオス・休息所》

「え?新婚旅行?」

 素っ頓狂な声を上げたのは聖賢者ユウトである。

 当然、隣には、アセリアとユーフォリアが控えている。

 彼らはちょうど時間修正の仕事を終え、ローガスにその報告をしていたところである。

 ここは、カオス・エターナルが情報交換のためによく使う小さな世界。生活に必要な施設も一通り揃っているので、任務の合間に休息のため立ち寄ることもある。

 今回はローガスの希望で、報告をこちらで受けることにしたため、悠人一家は任務を終え次第、こちらに向かうことになっていた。

 一応、四人が今いる部屋が事務室にあたる。まあ、事務室と言っても、部屋の真ん中に木製のテーブルとソファーを置いて、周りに書棚があるだけの質素なものだが。

 が、どことなくスピリット詰め所の食堂に似ていたので、悠人はこの部屋が好きだった。

 悠人一家は、ちょうどローガスと対面する格好でソファーに腰掛けている。

 お茶をすすりながら、ローガスの話に耳を傾ける悠人。

「うん。新婚っていうより、家族旅行かな。今回はちょっと面倒な仕事を回しちゃったからね。その休暇を兼ねてどうかな?と思ったんだけど……」

(そりゃ、ありがたいけどさ)

「でも…いいのか?三人もエターナルが休暇をとっても。戦力的にユーフィは除外したって……」

「大丈夫だって。新米エターナルに頼らなくちゃならないほど困ってはいないよ」

 グイッ、とカップを傾けるローガス。中に入っているのは黒い液体……成分もほとんど同じなので、悠人たちはこれをコーヒーと呼んでいる。

 まあ、それはさておき……

 ちょっときつい言い方ではあったが、これもローガスなりの親切である。

 これから永劫の戦いに身を投じる運命にあるのだ、たまにハメをはずしてもバチは当たるまい。

 その気持ちは悠人にもしっかり伝わっていた。

 彼がカオスのリーダーを張っているは、何も一位神剣の持ち主だから、というだけではない。こういう思いやりを併せ持つからこそ、皆がついていくのだ。

(サンキュ、ローガス)

「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうかな。なあ、アセリア?」

「…ユート」

 アセリアは二人が話している間ずっと、身体を動かしたくてウズウズしているユーフォリアを、「めっ」といった感じで目で制していたのだが、ここに来てはじめて口を挟んだ。

「え、何?」

「シンコンリョコーって何?」

 首をかしげながら聞いてくる。

(あ、そっか。アセリアは知らないんだ。………確かにファンタズマゴリアにいたときは、そんな習慣聞いたことなかったなあ。第一、戦時下だったし)

 しかし、改めて説明を求められると恥ずかしいような……何よりアセリアの頭の中には結婚という概念がない。

(あ゛ーーー………何て言ったもんか………)

 クモの巣が張った脳みそをフル回転。

 残念ながら、『聖賢』を持ったからといって頭まで成長するわけではないのだ。

 いや、本来なら『聖賢』はその知識を含めた能力を契約者に与えるのだが、何故か悠人に限っては「勉強」の名のもとに知識を与えてもらえなかった。

 ある意味、悠人には一番必要なものだと思うのだが。

 まあ、無いものねだりをしても仕方ない。

 で、しばし熟考―――――

「……あのな、新婚旅行っていうのは、大切な人と一緒にいろんなところに行って、思い出を作ることなんだ」

 ようやく口を開いた悠人。彼にしてはかなり上手い説明じゃなかろうか。ある意味、昨今のマンネリ化した新婚旅行にグサリと突き刺さるものがあるように思える。

(ほっ………うまく言えてよかった。………こんなに頭使ったのは、今日子と試験で勝負したとき以来じゃないか?)

(……このバカ者が。普段からアタマを使わぬから、この程度で苦労するのだ)

(……ほっとけ)

 『聖賢』のきつい一言にふて腐れる悠人。『聖賢』も呆れ果てるばかりだった。

 …………どうやら彼の名を呼ぶときは、ヘタレの上にバカの二文字を追加する必要があるらしい。さっき持ち上げたばかりで、いきなり落とすのは気が引けるが。

 が、そんな悠人をよそに

「そうなのか……。うん……。ユートと、私と、ユーフィで思い出、作ろう」

 そう言ってユーフォリアを抱き上げるアセリアの笑顔は、本当にまぶしかった。

 人は人を変える………初めて悠人と出会った頃のアセリアを知るものならば、誰しも納得できるだろう。

 その逆も然り。

 アセリアがいなかったら、このわずか百年という、エターナルにとってはごく短い期間ですら悠人には耐えがたかったに違いない。

 お互いを信頼し、頼りあえる。いや、相手がいてこその自分………もはや悠人はアセリアの、アセリアは悠人の一部。そういっても過言ではない。

 誰もがあこがれる、そんな関係にこの二人はある。

「みんなでお出かけするの?やったあ!」

 抱き上げられたユーフォリアも、満面の笑顔で答える。彼女もまた、二人にとってかけがえの無い存在である。

「あ…、でもどこに行こうか?」

 ふと肝心なことに気づき、腕組みをして考え込む悠人。

 それを待ってましたとばかりに、

「大丈夫、抜かりはないよ」

 バサッ

 テーブルの上にぶちまけられる大量の紙切れ。

「……パンフレット?どこでこんなモノを……」

 が、よくよく見れば、どうやらローガスの手作りらしい。

 事前に調べておいてくれたらしく、どれも写真入りで懇切丁寧な説明が、というよりどこかで見たようなキャッチフレーズが大きく載っていた。

『真夏の海!!三泊四日リゾートツアー!!』

(まあ、悪くはないけど…)

『おいでませ○○。浴○美人がお出迎え!』

(ちょっと待て、新婚旅行だぞ?)

『激安!!食べ放題の旅!!』

(いや、もはや新婚と何の関係もないから)

 中にはなぜか「○○旅行(株)」、だの「有限会社○○観光」などという文字もちらほら…

(………代理店かどこかの回し者か?)

 この少年、確かに面倒見がよく思いやりもあるので、誰からも好かれるのだが………ユーモアがありすぎて困る。

 しかし本人はいたって楽しそうである。挙句の果てには、

「じゃ、決まったら教えてね〜。旅館の手配なんかもしなくちゃならないからさ」

 などと言い残し、さっさと退散してしまった。

(ローガスって、あんなキャラなのか?)

 人知れずつぶやく悠人。

 が、アセリア&ユーフォリアはといえば、珍しい写真が満載のパンフに目を惹かれっぱなしで、

「ねーねー、お父さん。これなんかどう?」

「ユート………見ないのか?」

 と、やたらはしゃぐものだから、つい引き込まれて、

「あ、悪い。んー……これなんかどうだ?」

 パンフもどきをあさる三人だった。




「ローガスさん」

「ん、時深か。どうしたの?」

 悠人たちにパンフを渡し、部屋を出たローガスを待ちかまえていたのは時深だった。

 が、普段の闊達さは見られず、どこか彼女の表情は冴えない。

 それに気づかないローガスではないが、とりあえず話を聞かないことには始まらない。そこで、表情で先を促す。

「たった今、『友愛』のローザ、『黎明』のリルム、『衝天』のパーシェルの三名が帰還しました」

「そっか。まあ、今回の彼らの仕事は監視だけだったから、そこまで大変じゃなかったかな………と言いたいところだけど、その様子じゃそういうわけにはいかないみたいだね?」

 ローガスも真剣な顔になる。どんな場合でも、仕事とそうでないことの区別をしっかりつけられるのはさすがと言うほかない。

「……三人とも神剣を持っていないんです」

「え?」

「かといって傷を負っているわけでもなく………というか、神剣がない時点で<門>を開けないわけですから、ここまでどうやって戻って来たのかも分かりませんし、いえ、それよりも三人ものエターナルが一度に…」

 しどろもどろに話す時深。どうやら彼女自身、この状況に動転してしまっているようで、話にまとまりが無い。

「わかった、わかった………とりあえず落ち着きなよ」

「あ、すみません、私ったら……」

 ようやく時深が落ち着いたのを確認して、おもむろにローガスは口を開いた。

「その件は、特に深くは気にしなくていいよ、いつものことだから。……っと、こっちのエターナルがやられて、気にするなってのは語弊があるかな」

「え………前にもこんなことがあったんですか?」

「うん。彼にやられたのは……これで37人かなあ?」

「彼って……たった一人に!?」

「そうそう、ロウ・エターナルにしてはかなりの変り者だよ。いつものパターンだとそろそろだね………」

「そろそろって………何がです?」

 ローガスの言葉を聞いていたかのように、『運命』がある波長を拾った。

 ちなみに、神剣同士の波長を合わせることで声を伝えられるのはご存知のとおり。エターナル間でも使う通信手段だし、人間ではヨーティアが実用レベルにまで技術を向上させた。

 さて、話を戻そう。

 そこから聞こえてきたのは、落ち着いた感じの声。

(ご無沙汰しております、ローガス殿)

 そう、ライアスである。

(そうだね。もう二周期と半分くらいかな?………それにしても、毎度よくやってくれるよ。こっちの戦力にも限りがあるっていうのにさ)

(申し訳ありません………。ですが、私もロウ・エターナルの一員。仕事はしなくてはなりませんからね)

(ま、そりゃそうか。で、今度は何の用?)

(はい、先程そちらにお送りした三人の件ですが……)

 が、皆まで言い終わらないうちにローガスはさえぎった。

(分かってる。神剣をなくした彼らの身の保証、だろ?)

(…ええ)

(ふぅ、何度も言うようだけど、僕らは力を失った者を君達………いや、ロウのように用済みだ、なんていって抹消するつもりは無いよ?)

(すみません、ただ………どうしても気になってしまうもので。それに、直接手を下したのは私なのですから………そのくらいの責任はあるかと)

 苦笑まじりのやり取りを交わす二人。

(それにしても、相変わらず律儀だね。神剣だけ砕いて、持ち主には傷ひとつ負わせない。しかも彼らを護送してきたばかりか、わざわざ僕に知らせるんだから。そっちでも変わり者で通ってるんじゃないの?)

(……よくご存知で)

 再び苦笑するライアス。が、すぐに真面目な声に戻ると、

(ですが、それが私のやり方ですから。それに、彼ら三人のおかげで『聖光』も力を蓄えられたようですし)

(じゃあ、そろそろ僕を狙ってくるのかな?)

 半分冗談、半分本気でたずねるローガス。

 それに対して、またしても苦笑するライアス。

(まさか………まだ、私も消えたくは無いですからね。それは当分先にしていただきたいものです)

(ふ〜ん。ちょっと残念……かな)

(ふふ、おだてても何も出ませんよ?………では、そろそろ失礼させていただきます)

 ブツリ

 電話が切れるような音がすると同時に、向こうからの音声もシャットアウトした。

「ローガスさん、今のは?」

 何者かと会話するローガスをじっと見ていた時深だが、ひと段落ついたことを察し、話しかける。

「ああ、さっきの犯人。ライアスっていうんだけどさ」

「え?」

 いきなり答えを言われ、頭の整理が追いつかなくなる。

 強いて自分を落ち着かせる時深。 

 ようやく意味が理解できたが……………内容が内容なだけに、またしても混乱してしまった。

「ちょ、ちょっと待ってください!それじゃあ……敵が自分から連絡をよこしたってことですか!?」

「だから言ったでしょ?変わり者だって」

 言葉を失う時深。はっきり言って、彼女の知るロウ・エターナルにこんな人物はいない。

 多かれ少なかれ、ロウ・エターナルの性格はテムオリンに似たり寄ったりなのだ(まあ、彼女はかなり凶悪な部類に入るが)。

「あの、当たり前ですけど………その人は敵、ですよね?」

「まあ、そうだけど………どうもそういう実感は湧かないんだよね。彼にやられた仲間には悪いけどさ」

「はあ………。ですが、それほど厄介な相手なら、こちらから仕掛けるのも難しいですね」

「うん。それも相当の犠牲を覚悟した上での話だよ。……まあ、それ以前に彼の居場所が分からないんだけどね。いっつも一人で動いてるらしいから」

「はぁ……じゃあ今は打つ手なし、ですか」

「そゆこと」

 二人仲良くため息を漏らし、肩をすくめあうのだった。




NEW SKILL

シャイニング・ミスト(Shining Mist)

 『聖光』はその名の通り、光をつかさどる。そこからはほぼ無尽蔵にエネルギーを引き出すことができ、いかにそのエネルギーを使いこなすかが使い手のウデの見せ所である。
 シャイニング・ミストは字のごとく、一定範囲を霧で包み込む技。ただし霧といってもそれは見た目の話で、正体は発光するオーラフォトンである。この力場の中ではオーラフォトンの干渉により、術者以外の身体の動きに制約がかけられる。さらにバニッシュ効果もあるが、アイスバニッシャーと異なり無色のスキルを打ち消すことが可能。ただし、どちらの効果を狙う場合についても、相手が術者を越える力を持つ場合はこの限りでない。
 もともと相手を傷つけるのを好まないライアスが、危害を加えることなく神剣を奪うために『聖光』の力を借りて編み出した神剣魔法で、彼以外にこのスキルを使うものはいない。ただし、ライアスの基本能力はロウ・エターナルでもかなりの上位にあるため、大概の獲物はこのスキルの餌食となる。

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