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─聖ヨト暦333年 シーレの月 黒 四つの日 昼
 悠人の部屋

 ベッドの上で横になりながら、悠人は天井をジッと見つめていた。
 「・・・」
 『どうして戦うのか?』
 瞬との戦い以来、ずっと頭の中に浮かんでいた疑問。
 「俺たちが争うこと・・・神剣が争うこと・・・」
 コンコン
 「ユート、入りますよ?」
 「レスティーナ・・・?」
 ドアを開けてやってきたのはレスティーナだった。
 こうして会うのは、目を覚ました日以来だった。
 『忙しいだろうし、立場を考えればいつもって訳にもいかないよな』
 「思ったより平気そうですね」
 「まぁ、な・・・ただ暇だから、余計なことを考えるんだけどな」
 「ユートは、少しくらい物事を考えた方がいいでしょう」
 「・・・なんか今、考えなしの馬鹿って言われたような気がする」
 「気のせいでしょう」
 レスティーナはにっこりと笑う。
 「ちぇっ・・・」
 「冗談はさておき、考え方が偏っているのは確かです」
 そこで、レスティーナは厳しい視線を悠人に向けた。
 「カオリのことは大事でしょうが、エスペリア達がどれほど心配したかわかりますか?」
 「う・・・」
 『自分を優先させた俺が悪いんだから・・・』
 悠人は言葉に詰まる。
 「後できちんと謝っておくのですよ。食事を抜かれても知りませんからね」
 「・・・はい」
 『こう説教されると、居心地が悪い。まるで、もうエスペリアを前にしているみたいだ』
 悠人はボリボリと頭をかいた。
 「怒るだろうなぁ・・・」
 「自業自得です」
 「厳しいな・・・いつっ!」
 身体をよじろうとすると、激痛に襲われる。
 「無理はしないように。助けがいるなら、そう言いなさい」
 レスティーナは苦笑して、悠人が身体を起こすのを手伝ってくれる。
 「ありがとう」
 「怪我人でいる間ならば、許します」
 レスティーナはそう言うと、真面目な表情を浮かべた。
 「そういえば、余計なことを考えたとか言ってましたね。どういったことでしたか?」
 ふとした興味なのか、レスティーナがそう問いかけてきた。
 「・・・結構、突拍子もないことだぞ?」
 「せっかくここまで来たのですから、何かおもしろい話を聞かせてくれても罰は当たらないでしょう?」
 レスティーナは悪戯っぽく微笑む。
 「ちょっとさ・・・違和感を、感じたんだ」
 「違和感、ですか?」
 「ああ。この前の戦いについて・・・どうしても、納得がいかないんだ」
 悠人は自分の掌を見つめた。
 「俺と瞬・・・戦う理由は佳織だけだったはずなんだ。俺は佳織が大事で、瞬は佳織を手に入れたい・・・それだけだった。少なくとも、元の世界では」
 「・・・」
 「けど、この前の戦いはそうじゃない・・・俺も瞬も互いに殺意を抱いてた。いつの間にか意識が変化していたんだ」
 ゆっくりと拳を握りしめる。
 「不自然なんだ・・・俺たちが戦うってことを誰かが仕組んでいるみたいなんだ」
 「誰か、とは・・・?それに、何のために?」
 「これは闘護が言ってたことなんだけど・・・」

 悠人は以前、闘護と光陰の三人でした会話を語った。

 「四神剣の争いを画策した者・・・ですか?」
 緊張した面持ちでレスティーナが尋ねた。
 「ああ。闘護は永遠神剣そのものよりも、それを使って何かを企んでいるヤツがいると言っていた」
 そう言って、悠人は壁に立てかけてある【求め】を見つめた。
 「そいつは、俺たちを戦わせるために色々仕組んでいる・・・たとえば、アセリアが俺を助けたのだって・・・どうして俺の場所がわかったのか?アセリアは何となくって言っていたけど・・・」
 「私もそう聞きましたが」
 「何となく、何となく・・・それが不自然なんだ」
 悠人はレスティーナを見た。
 「どうして、“何となく”なんだ?“何となく”ってことは、無意識にってことだろ?じゃあ、俺は無意識のうちに瞬に殺意を抱いたのか?」
 悠人は次々とまくし立てる。
 「そりゃあ、俺は瞬が嫌いだ。ずっと佳織につきまとって・・・佳織を苦しめていた。だけど、だからといって殺したかった訳じゃない。いつの間にか、無意識に瞬を殺そうと思っていたんだ。もしもそれが誰かに仕組まれていたとしたらどうなんだ?」
 「それは・・・」
 「聖ヨト時代にいたっていう神剣の勇者。それが時間を超えて繰り返されているみたいなのも気になる」
 口ごもるレスティーナをおいて、悠人は続ける
 「クェドギンが言っていたこと・・・“運命”という言葉を何度も強調していた。人が作り出したものではない、大きな流れ」
 「・・・」
 「エトランジェ、スピリット、エーテル技術・・・考え始めたら、全部作為を感じるんだ」
 「・・・考えすぎでしょう」
 レスティーナはゆっくりと―自分に言い聞かせるように―呟いた。
 「身体が弱っているから、そのようなことを考えるのではないですか?」
 「そう、かもな・・・」
 『確信はないし、実際その方がいいんだ。だけど、それでもしっくり来ないんだよな』
 「それに・・・」
 納得できない表情の悠人に、レスティーナはゆっくりと語りかける。
 「たとえ仕組まれていたとしても・・・私たちは戦うしかありません。理想の明日のために・・・それが私の選んだ道です」
 「・・・そうか」
 『やっぱり、レスティーナは強いな。見ている場所があまりにも遠い・・・そして、迷わずそこへと向かっている』
 キィーン!!キィーン!!
 「・・・っ!がああああっ!!!」
 「ユート!?」
 ギィィィィンッ!!
 『くそっ!何度も何度もしつこいぞ!』
 激しい頭痛が悠人を襲う。
 〔【誓い】を滅ぼせ・・・〕
 「がぁっっ・・・うぁっ・・・!!」
 「ユート、大丈夫ですかっ!?」
 レスティーナはいきなりのことに驚き、心配そうにのぞき込んでくる。
 悠人はニヤリと笑みを返した。
 「何度も何度も、しつ・・っこいな・・・無駄だって言ってんだろ!!」
 ギィィィィンッ!!
 頭痛と圧迫感が跳ね上がる。
 「んぐっ・・!!」
 『これぐらい、今まで何度も耐えてきたんだ・・・大丈夫!!』
 「まさか、【求め】の干渉・・・!?」
 「大丈夫・・・平気だって・・・」
 レスティーナを安心させるように何度も悠人は呟く。
 「誰かを呼んだ方がいいですか・・・?」
 「いや・・・我慢できるさ。このくらい・・・」
 『どんなに辛くても、屈服してたまるか!!』
 悠人は顔を上げ、額の脂汗を拭った。
 レスティーナも頷き、悠人の手を強く握る。
 「耐えなさい・・・カオリを助けるのでしょう?」
 「ああ・・・わかってる!!」
 励ましの言葉に、悠人も頷きを返す。


─聖ヨト暦333年 シーレの月 黒 五つの日 昼
 トーン・シレタの森

 「イグニッション・・・!!」
 ゴォオオオオオオオ!!!
 【ウアアアアアッ!!】
 凄まじいマナの炎が敵スピリット達をなぎ払っていく。
 「今だ!!」
 光陰のかけ声を合図に、今日子、セリア、ヒミカ、ファーレーンが飛びかかる。
 「たああああっ!!」
 バリバリバリバリ!!!
 【アアアアアア!!!】
 今日子の電撃がスピリット達を一気になぎ払う。
 「・・フレイムシャワー!!」
 後方に下がっている敵スピリットが四人に向かって神剣魔法を唱える。
 「アイスバニッシャー!!」
 すかさずセリアがカウンターで神剣魔法を詠唱した。
 パキパキーン!!
 あっと言う間に敵スピリットの魔法によって放たれた炎の雨が凍り付いていく。
 「はぁあああっ!!」
 「ひゅうぅ・・・・っ!!」
 ズバズバズバズバッ!!!
 【っ!!!】
 間髪入れずにヒミカとファーレーンの繰り出す斬撃によって、敵スピリット達はあっと言う間にマナの塵となっていく。


 戦闘終了後・・・

 「・・・凄まじいな」
 戦いの終わった戦場に立ったリクが呟いた。
 「スピリット同士の戦いというのはこんなものだ」
 隣を歩く闘護が肩をすくめた。
 今回の戦いは森の中で行われたため、あちらこちらで木々が薙ぎ倒されたり、焼き払われたりしていた。
 「だが・・・妙だな」
 闘護は眉をひそめた。
 「妙?何が妙なんだ?」
 「いや・・・この程度で済むものかと思ってね」
 そう言って闘護はゆっくりと周りを見回した。
 『セリア達の力は間違いなく上がっている。帝国のスピリットも、今まで戦った敵の中で最強レベルだ。しかも、戦場になっているここ、トーン・シレタの森はマナが肥沃という。なのに・・・』
 「以前の戦いに比べて被害に大きく差が感じられない・・・」
 「おーい、闘護」
 「光陰」
 駆け寄ってきた光陰は周囲を見回した。
 「斥候の報告で、周囲に敵はいない。とりあえず、今日はここでキャンプを張る」
 「そうだな。そろそろ日も落ちてきた」
 リクが空を見上げた。
 「闘護もいいな?」
 「ああ・・・構わない」
 「・・・どうした?」
 少し上の空の様子で頷く闘護に、光陰は眉をひそめた。
 「・・・いや、何でもない」
 闘護は小さく首を振る。
 「俺の気のせいだろう・・・」


─聖ヨト暦333年 スフの月 青 二つの日 昼
 ダスカトロン大砂漠

 「はぁはぁはぁ・・・まだぁ?」
 神剣を杖代わりに、荒い息をつきながらネリーが呟いた。
 「もう少し、です・・・多分」
 遠くを見つめながらヘリオンが答えた。
 「シアーさん、大丈夫ですかぁ・・・?」
 「あうぅ・・・」
 ヘリオンの問いに、シアーは荒い息を返す。
 「少し休もうよぉ・・・」
 「で、でも、もう少しだと思いますから・・・」
 「シアー、疲れたよぉ」
 「あとどれくらい歩くのぉ?」
 「ちょ、ちょっと待っててください」
 ヘリオンはウィングハイロゥをはためかせて飛び上がった。
 「えっと・・・遺跡は・・・あ!!」
 ヘリオンの視界にうっすらと浮かぶ建物群が入った。
 「ありました!!もう少しです!!」
 「ホント!?」
 「は、はい。ネリーさん」
 「じゃあ早くいこ!!」
 ガシッ!!
 「きゃっ!?」
 シアーがネリーに引きずられていく。
 「ね、ネリーさん、待ってくださーい」
 降り立ったヘリオンは慌てて二人の後を追った。


 「ここがミライド遺跡・・・」
 ヘリオンが眼前の砂漠に埋もれた遺跡を見上げた。
 「こんな所にいるのかなぁ・・・?」
 「うん・・・」
 ネリーとシアーが呟いた。
 「と、とにかく中に入りましょう」
 ヘリオンは遺跡の中へ足を踏み入れた。


 「失礼します・・・」
 奥をうかがいながらヘリオンが言った。
 「・・・誰もいないの?」
 中を見回しながらネリーが呟いた時。
 「こっちだよ」
 【!?】
 突然、奥から声が聞こえた。
 慌てて四人が声のした方を向くと、そこには・・・
 「よく来たね」
 背の高い女性が立っていた。
 「あ、あの・・・あなたが“剣聖”ミュラー=セフィス様ですか」
 ヘリオンが恐る恐る尋ねた。
 「“剣聖”と名乗った覚えはないのだけれど、ミュラー=セフィスであることは間違いないよ」
 その女性―ミュラーは優しい口調で答えた。
 「あのね、ネリー達と一緒にラキオスに来てくれないかな?」
 「ちょっ・・・ネリーさん!」
 単刀直入に尋ねるネリーに、ヘリオンが目を丸くする。
 「それは勧誘かな?」
 ミュラーは特に驚いた様子もなく聞き返す。
 「え、えっと・・・そうです」
 「ふむ・・・」
 ヘリオンが答えると、ミュラーは小さく頭を上げた。
 「これがレスティーナ女王の書簡です」
 ヘリオンが差し出した書簡を取ると、ミュラーは早速目を通し始めた。
 「・・・成る程。レスティーナ女王は噂通りの人物のようだね」
 一通り読み終わると、ミュラーは小さく頷いた。
 「ミュラー様・・・返事をお願いします」
 「そうだね・・・私も、女王と同じ意見だよ」
 ミュラーはゆっくりと言った。
 「このままではこの世界は滅びてしまう・・・私でよければ、手を貸すよ」
 「じゃ、じゃあ・・・!」
 「これからよろしく」
 ミュラーが手を差し出した。
 「は、はい!!こちらこそよろしくお願いします!!」


―聖ヨト暦333年 スフの月 赤 一つの日 昼
 シーオス

 ガチャリ
 「ただいま、みんな」
 【ユート(様、殿)!!】
 食堂にいたアセリア達は、戻ってきた悠人の元へ駆け寄った。
 「ユート殿、身体の方は?」
 「大丈夫だ。心配かけてごめん」
 「本当か?」
 「本当だって、アセリア」
 「ユート様」
 「エスペリア」
 二人より一歩下がった場所にいたエスペリアがゆっくりと口を開いた。
 スッ・・・
 二人の間をすり抜け、あっという間に悠人の前に立つ。
 「ユート様!!」
 「っと!?」
 そのまま、エスペリアは悠人の胸に飛び込んだ。
 「ユート様!!ユート様!!」
 「エスペリア・・・」
 「心配したんですからね!!もう、二度と一人で戦うなんて無茶はしないでください!!」
 「・・・ごめん、エスペリア」
 エスペリアの頭を優しく撫でる悠人。
 「俺は大丈夫。もう、一人で先走ったりしないよ。だから・・・」
 悠人は三人を見回した。
 「みんなで佳織を取り戻そう」
 「うん!」
 「はいっ!」
 「はっ!」
 悠人の言葉に、三人は力強く頷いた。


─聖ヨト暦333年 スフの月 赤 二つの日 昼
 ゼィギオス

 スタッ
 「ただいま戻りました」
 陣内に降り立ったセリアに闘護と光陰が駆け寄ってきた
 「ご苦労だった、セリア。状況を報告してくれ」
 闘護は地図を開いた。
 「はい」
 闘護の言葉に頷くと、セリアは地図をのぞき込んだ。
 「ゼィギオスの周囲にスピリットと人間の混成部隊が配置されていました」
 「スピリットの色は?」
 光陰が尋ねた。
 「若干ですが、北側に赤が集中していました」
 「成る程。俺たちが攻める側にレッドスピリットを集中させて一気に神剣魔法でなぎ払うか・・・闘護、どう思う?」
 「作戦としては有効だな。ラキオス軍を一気に殲滅させることが出来る神剣魔法が得意なレッドスピリットをぶつけて戦力を減らした後、一気に他の部隊が囲い込んで袋だたき・・・ってところか」
 「まぁ、予想していた通りだな」
 闘護は肩をすくめた。
 「そうですね。ヒミカも人間を狙ってくる可能性は指摘していました」
 セリアが頷いた。
 「ああ。セリア、リクを呼んできてくれ」
 「はい」
 闘護の命令にセリアは一礼してラキオス軍の待機している陣へ行った。
 「さて・・・うまくいくと思うか?」
 二人になり、闘護が呟いた。
 「今日子は既に準備済みだ。ラキオス軍のフォローは俺がするが・・・問題は、セリア達か」
 「そうだな」
 光陰の言葉に闘護は小さく頷いた。
 「ヒミカの作戦にはスピリットとお前だけだが、今日子も回した方が良いんじゃないのか?」
 「いや、籠城の阻止を優先した方がいい。やはり、作戦通りに行こう」
 闘護の言葉に、光陰はジロリと闘護を睨んだ。
 「・・・無茶するなよ」
 「可能な限りは、な」
 「可能な限りじゃなくて・・・と言っても、無駄みたいだな」
 言いかけた光陰はため息をついた。
 「そういうことだ。無茶をせずに勝てる相手じゃない事ぐらいはお前もわかってるだろ」
 「無茶が身勝手に変わってなければ、な」
 「・・・」
 光陰の言葉に闘護は沈黙する。
 「トーゴ、コウイン!!」
 その時、リクが走ってきた。
 「いよいよだな。こちらの準備は整ったぞ」
 「ああ。すぐに出陣する」
 闘護は頷くと、前線へ向かって走り出した。
 「・・・」
 その様子を光陰は微妙に苦い表情を浮かべて見つめていた。


 闘護は最前線に待機していたセリア、ヒミカ、ハリオン、ファーレーン、ナナルゥの基へ駆け寄った。
 「みんな、準備は良いか?」
 【(コクリ)】
 闘護の問いかけに全員頷く。
 「よし・・・突撃!!」
 ダッ!!

 ドカーン!!!

 「・・・始まったな」
 遠目から見ていた光陰が呟いた。
 「大丈夫、でしょうか・・・?」
 側にいたリクが心配そうに尋ねた。
 「さぁな」
 「さぁなって・・・」
 「あんた達は自分が死なないことだけ考えてればいい。闘護達の事は気にするな」
 「し、しかし・・・たった五人であれだけの大軍を・・・」
 「敵の数も計算している。彼らの目的は敵を混乱させることとサーギオス軍を引きずり出すことで戦うこと自体が目的じゃない」
 そう言って、光陰は肩をすくめた。
 「光陰!」
 その時、今日子が駆け寄ってきた。
 「ちょっと、闘護達は大丈夫なの?」
 「それを聞くために、こっちに来たのか・・・ったく」
 光陰は呆れたようにため息をついた。
 「光陰?」
 「コウイン殿?」
 「もう少し、闘護達を信用しろよ」
 少し窘める口調で光陰は言った。
 「うっ・・・うん」
 「は、はい・・・」
 苦い表情で呟く二人を一瞥して、光陰は前線を見つめた。
 「もっとも・・・」
 『セリア達はともかく、闘護が一番信用できないんだがな』


 【フレイムシャワー!!】
 ゴォオオオオオオ!!!
 「アイスバニッシャー!!」
 バシュウウウウ!!!
 敵スピリットの神剣魔法をセリアの放った神剣魔法が相殺する。
 「くっ・・・!!」
 しかし、敵数の多さに押されてセリアが苦悶の表情を浮かべた。
 「セリア!!」
 バッ!!
 その時、闘護がセリアの前に飛び出した。
 「トーゴ様!!」
 「うぉおおお!!」
 闘護はセリアの神剣魔法が届く前に、敵の神剣魔法に向かって身体を投げ出した。
 シュウウウウウ!!!!
 神剣魔法を受けた闘護の体から凄まじいマナの霧が噴き出し周囲を覆う。
 「ナナルゥ!!今のうちに・・!!」
 「はい・・・インシネレート!!」
 バアアアアアアア!!!
 【ァアアアアア!!!】
 ナナルゥの神剣魔法を受けて敵スピリット達が悲鳴を上げる。
 「ヒミカ、ファーレーン!!」
 【はい!!】
 ダッ!!
 その隙に、闘護の掛け声を合図にヒミカとファーレーンが飛び込む。
 「ファーレーン!!レッドスピリットを!!」
 「はい!!」
 タタタッ!!
 【ァアアア!!!】
 その隙を見逃さず、二人の繰り出した斬撃が瞬く間に敵スピリットを切り裂いていく。
 「ヒミカ、右!!」
 「やああっ!!」
 ファーレーンの声に反応してヒミカが右に飛んだ。
 ズバズバッ!!
 【!!】
 ヒミカの斬撃が敵スピリットを切り裂く。
 「っ!右側から来たわ!!」
 右翼に控えていた敵スピリットが二人の突撃に合わせたように動き始めた。
 「後ろに回り込まれたら・・・!」
 「任せて!!」
 ヒミカが右翼の敵軍に突っ込んでいく。
 「ヒミカ、深追いは危険よ!!」
 「大丈夫よ!!」
 ダッ!!
 「はぁああああ!!!」
 敵陣の真ん中へ突っ込んでいくヒミカ。
 「ヒミカ・・・っ!!」
 【・・・】
 急いでヒミカの後を追おうとしたファーレーンの前に、スピリットが立ちふさがる。
 バッ!
 「くっ!!」
 ガキガキーン!!
 繰り出された攻撃を受けるファーレーン。
 「ヒミカ!!」

 「このっ!!」
 ザシュザシュッ!!
 【!!】
 囲んできた敵スピリット達を切り払うヒミカ。
 「誰も傷つけさせないんだからっ!!」
 更に奥へ突っ込んでいく。
 「やぁっ!!」
 ズバズバッ!!
 【ァアア!!】
 ヒミカの繰り出す斬撃が容赦なく敵スピリットを切り裂く。
 「まだまだぁっ!!」
 【!!】
 ガキガキガキン!!
 更に囲んできたスピリット達。
 「っ・・・数だけいたって!!」
 ガキンガキン!!
 神剣と神剣が激しくぶつかり合う。
 しかし、一対多の有利不利はすぐにやってきた。
 【・・・】
 ガキンガキンガキガキン・・シュッ!!
 「くっ!?」
 ガキン・・ズバッ!!
 「っ!!」
 受けきれない攻撃がヒミカの体に届き始めた。

 「トーゴ様!!ヒミカが囲まれてます!!」
 空から戦況を窺っていたセリアが叫んだ。
 「ちっ!!君達はファーレーンと合流して敵軍を散らせ!!ヒミカの所へは俺が行く!!」
 ダッ!!
 【トーゴ様!?】
 そう言うなり、闘護はセリア達の制止も聞かずにヒミカの方へ走り出した。

 ガキガキガキン!!
 「くっ、うっ!!」
 剣戟を捌ききれず、追い込まれていくヒミカ。
 「ヒミカ!!」
 スッ・・・
 【・・・】
 ヒミカの方へ駆け寄ろうとした闘護だが、そこへ敵スピリットが囲い込んでくる。
 「どけっ!!」
 タッ!!
 それを無視するように闘護は囲いの突破しようと突っ込む。
 【!!】
 敵スピリット達は闘護の突破を止めようと攻撃を繰り出してきた。
 ドカドカドカッ!!
 「ぬぐぉおお!!」
 凄まじい数の斬撃が闘護に襲いかかる。
 ドカドカドカッ!!
 「ぐっ・・・」
 両腕で頭を抱え、亀のような体勢で斬撃を受け止める。
 『こんな所で止まってる暇はないんだ!!』
 「どけぇ!!」
 ブンブンッ!!
 闘護は両腕を振り上げた。
 ガシガシガシン!!
 【!?】
 神剣をはじかれた敵スピリット達の動きが一瞬止まる。
 『今だ!!』
 ダダッ!!
 その隙に、闘護は一気に囲いをすり抜けた。

 ダダダッ!!
 「ヒミカ!!」
 「トーゴ様!?」
 駆け寄ってきた闘護に、ヒミカが目を丸くする。
 「大丈夫か!?」
 「は、はい!」
 「セリア達の所へ戻るぞ!!」
 そう言ってヒミカの腕を掴もうと手を伸ばした時だった。
 カーン!!カーン!!
 「鐘の音?これは・・・」
 突然、戦場に鳴り響く鐘の音。
 ババッ!!
 「スピリット達が!!」
 その直後、二人を囲んでいたスピリット達が左右に散った。
 「これは・・・っ!?」
 ヒュンヒュン!!
 「トーゴ様!!」
 ドスドスッ!!
 「ぐっ!!」
 突然、ゼィギオスの方向から飛んできた矢が闘護の肩に刺さった。
 「トーゴ様!?」
 「大丈夫、だ!それより・・・」
 【ウォオオオオオオ!!!】
 雄叫びと共に、ゼィギオスから帝国軍が突出してきた。
 「人間か!ヒミカ、合図を!!」
 「は、はいっ!!」
 バッ!!
 ヒミカは神剣を掲げた。
 「ファイアボール!!」
 ババババッ!!!

 「コウイン殿、あれは!?」
 「ああ。行くぞ!!」
 光陰が一歩前に出た。
 「人間対人間の乱戦になれば、敵スピリットも不用意に神剣魔法は撃てないことを基本に動け」
 「はい!!全軍、突撃!!」
 【ウォオオオオオ!!!】
 凄まじい砂煙を上げて、ラキオス軍が進み出す。
 「さて、俺もやるか」
 光陰は【因果】を構えた。
 「神剣よ・・・その力を現せ!!」
 バァアアアアアア!!!

 タタタッ!!
 【トーゴ様!!】
 「来た、か・・・」
 セリア達が闘護とヒミカの元へ駆け寄ってきた。
 「ラキオス軍が攻め入りました!!」
 「スピリット達は?」
 「帝国軍に合流していきます。先程、コウイン様の神剣の力が解放されるのを感じました」
 「手はず通り・・・だな」
 セリアの報告に闘護が頷く。
 「セリアは今日子に合図を。ヒミカ達はラキオス軍の護衛に回ってくれ」
 「トーゴ様は・・・」
 「俺は帝国軍を混乱させる」
 ザッ・・・
 闘護はゆっくりと帝国軍の方を向いた。
 「無茶です!その体では・・・」
 ブシュブシュッ
 セリアの言葉を遮るように闘護は肩に刺さっていた矢を抜いた。
 「問題ない。この程度ならば十分動ける」
 「ですが!!」
 「これは命令だ!!行け!!」
 ダッ!!
 【トーゴ様!!】
 セリア達の制止を聞かず闘護は走り出した。


 「うぉおおお!!!」
 ドガッ!!バキィッ!!
 寄ってくる帝国兵を拳や脚で倒していく闘護。
 【オオオオオ!!!】
 「ちっ・・・」
 しかし、神剣魔法や複数の敵を相手にする技を持たない闘護では、一人倒してもその都度、新たな敵が群がってくる。
 『数が多い。だが、負けるわけにはいかない!!』
 「来い!!」
 気合いを入れるように闘護は叫んだ。


 戦線から離れた後方・・・
 「・・・まだなの?」
 今日子は一人、唇を噛み締めた。
 「はっ・・・先程の合図の後、前線よりまだ連絡がありません」
 後ろに控えていたラキオス軍の兵士が恐る恐る答える。
 「ったく・・・ストレス溜まるわね」
 呟き、今日子は作戦会議を思い出す。


 「敵はスピリットと人間の混成部隊。そして、スピリットは人間を殺せる。そこが、セリア達との決定的な違いだ・・・そこにつけ込む。ヒミカ、説明を」
 「はい。我々スピリット隊がゼィギオスの全面に固まって出撃します。もしも、帝国軍がスピリットと混成した状態で迎え撃った場合は、神剣魔法で牽制しつつゼィギオスから引き離します」
 「俺はどうするんだ?」
 「コウイン様は、ラキオス軍と共に待機してもらいます。その際、神剣の気配を消して相手に気づかれないようお願いします」
 「ふむ・・・」
 「帝国軍とラキオス軍の距離が縮まったら、ラキオス軍も迎撃します。コウイン様はラキオス軍の護衛をお願いします。戦線が膠着状態に入ったら、キョウコ様が後方より一気に前線を突き抜けてゼィギオスの城門へ向かい、城門を破壊します」
 「あとは、帝国軍を散らしつつゼィギオスに突入する。セリア達は光陰と今日子と共にスピリットの相手を任せる。質問は?」
 「セリア達だけってことは、五人で帝国軍を引きつけるのよね。少なすぎない?」
 「俺も参加する。帝国軍を前に出すには十分だろう」
 「アタシもそっちにいた方がいいんじゃないの?」
 「城門を速やかに破壊するには、キョウコ様の素早さがカギなんです。分厚い敵陣をすり抜けて城門まで到達して破壊することに必要な能力を兼ね備えたのはキョウコ様だけです」
 「光陰では城門にたどり着く前に時間がかかるし、俺やセリア達は帝国軍の攻撃を受け止めなければならないからな。体力を温存する意味で、今日子は下がっておいてほしい」


 「いい加減、我慢の限界なのよ。アタシは」
 苛立たしげに今日子は前線を睨み付けた。
 「お気持ちはわかりますが、もうしばらく・・・あっ!!」
 兵士が必死で宥めようとしたときだった。
 「キョウコ様、あれを!!」
 兵士が指さした方角から飛んでくる影があった。
 「・・・ええ」
 今日子は頷いた。
 影はどんどん今日子達の方へ近づいてくる。
 「来たわね、セリア」
 今日子が呟き、まもなくセリアが到着した。
 「キョウコ様!!帝国軍が出撃しました!!」
 「了解!!行くわよ!!」
 今日子は一気に前線へ向かって駆けだした。


 「そぅら・・よっ!!」
 ズババババッ!!
 【ウァアアアアア!!!】
 光陰の一振りで、数十人の帝国兵とスピリットが薙ぎ払われる。
 「ったく・・・護衛しつつ戦うってのも、なかなか厳しいな」
 額の汗を拭いつつ、光陰は周囲を見回した。
 「むっ・・・?」
 『帝国兵の動きが止まった・・・妙だな。何があった?』
 帝国軍の動きに光陰が気づいたその時。
 「コウイン様!!」
 空からファーレーンが降り立った。
 「ファーレーン。状況は?」
 「帝国軍が混乱し始めています!!」
 「何があった?」
 「前線に出た帝国軍の動きがすぐに止まりました。おそらくトーゴ様が・・・」
 「闘護が飛び出したか・・・ったく。今日子は?」
 「帝国軍が突出した事を伝えました。作戦通り、城門へ向かっています」
 「よし。こっちも帝国軍を押すぞ」
 「はい」
 「俺が前に出る。ファーレーンはヒミカ達とラキオス軍の護衛に回れ」
 「わかりました。それから・・・」
 言葉を濁らせるファーレーンに、光陰は小さく肩をすくめた。
 「闘護の事は心配するな。あいつのことだ、ヘマはしない」
 「・・・」
 複雑な表情を浮かべるファーレーンを、光陰は見つめる。
 「今は、勝つことだけを考えるんだ。いいな?」
 「・・・はい」
 ファーレーンは頷くと、飛び立った。
 「・・・ったく。あのバカ」
 光陰は小さく吐き捨てると神剣を担ぎ上げた。

 「おらぁ!!」
 ドガァッ!!
 「グギャァッ!!」
 闘護の拳を顔面に受け、帝国軍の兵士が吹っ飛ばされる。
 「まだまだ!!」
 更に、闘護は落ちている槍を拾い上げる。
 「喰らえ!!」
 ビュッ・・・ドスッ!!
 「ぎゃああ!!」
 闘護の投げた槍は、向かってきた兵士の胸を貫いた。
 「怯むな!!敵は一人だ!!」
 【ウォオオオオ!!】
 鬼神の如く戦う闘護を前に、帝国軍は武器を振り上げて向かってくる。
 「はぁはぁ・・・上等・・だっ!」
 ガシッ
 闘護は荒い息をつきながら、地面に斃れている帝国兵の死体の足を掴んだ。
 「俺はストレンジャー・・・人に非ず、スピリットに非ず!!」
 そのまま闘護は死体を持ち上げた。
 「恐れを知らぬ者はかかってこい!!」
 ブーン!!
 闘護はそのまま死体を帝国軍に向かって投げつけた。
 「うわああっ!!」
 自軍の死体が飛んできて、兵士達が怯む。
 ダダダッ!!
 その隙に、闘護は兵士達に肉薄する。
 「うぉおおおおおっ!!」
 ドゴォッ!!


 タタタ・・・
 「さぁ・・・行くわよ」
 乱戦が繰り広げられている戦場を眼前にして、今日子は体勢を低くした。
 その刹那。
 シュッ・・・
 今日子の姿がかき消える。
 「どいたどいたぁ!!」
 タッ・・・タッ・・・タッ・・・
 今日子は凄まじい速度で乱戦の中をすり抜けていく。
 そして、一気に前線を突破すると、そのまま城門に向かって突っ込んでいく。
 「やああああっ!!!」
 スガァッ!!
 凄まじい轟音が鳴り響く。
 「まだまだぁっ!!」
 ズガズガズガズガッ!!!
 今日子は連続で城門に突きを繰り出す。
 凄まじい衝撃に城門があっと言う間にボコボコになっていく。
 タッ・・・
 もう一歩というところで、今日子は後ろに飛んだ。
 「特大の・・・」
 そして、神剣を後ろに引く。
 「いっぱぁーつ!!」
 ドゴォオオオオーン!!!


 「はぁはぁ・・・っ!?」
 『今の音は!?』
 ゼィギオスの方から聞こえた轟音に闘護は顔を上げた。
 「城門が破られた!!!」
 「敵が雪崩れ込んでくるぞ!!」
 僅かに遅れてそんな叫び声が耳に飛び込んでくる。
 「よし・・・」
 『今日子がやったな』
 闘護はニヤリと笑った。
 帝国兵の攻撃を受けてボロボロになった姿に加え、血と泥に塗れた顔に浮かんだ笑みは酷く凄惨だった。
 『出来るだけゼィギオスに撤退させないように戦わなければならない』
 「文字通り、蹴散らしてやる・・・覚悟しろ!!」
 闘護は死体から奪った剣と槍を構えた。


 「むっ・・・」
 『敵兵が引き始めたな。さっきの轟音から察するに、今日子がやったな』
 光陰は鋭い視線をゼィギオスの方へ向けた。
 「コウイン様!!」
 その時、上空からセリアが降り立った。
 「キョウコ様が作戦通り、城門へ突撃、破壊しました」
 「よし。リクに全軍追撃するよう伝えてくれ。帝国軍がゼィギオスに戻らないように散らさせろ」
 「はいっ!!」
 セリアは頷くと、再び飛び立った。


 「はあっ!やぁっ!」
 ザシュッ!!ズバッ!!
 群がる帝国兵を、リクは馬上よりハルバードでなぎ払う。
 「リク様!!」
 「はぁはぁ・・・んっ!?」
 そこへ、セリアが降り立った。
 「ゼィギオスの城門が破壊され、敵兵が退却を始めました。コウイン様より追撃とのことです」
 「わかった!」
 リクはハルバードを突き上げた。
 「敵兵が引き始めてる!!今こそ好機!!」
 【うぉおおおおお!!!!】
 凄まじい雄叫びを上げ、ラキオスの兵士達の士気が一気に高まる。
 「全軍、突撃!!ゼィギオスを攻め落とすぞ!!」


 「ライトニングブラスト!!」
 立ちふさがるスピリット達に向けて、今日子は神剣を振った。
 バリバリバリバリ!!!
 【ァアアアアアア!!】
 幾つもの雷球がスピリット達を襲う。
 「まだやる?」
 弱ったスピリット達に向けて、今日子は余裕の態度で神剣の切っ先を突きつけた。
 【・・・】
 バババッ
 「そうそう。それでいいのよ」
 撤退していくスピリット達に、今日子は頷く。


 そして・・・空が朱く染まる頃に、ラキオス軍の勝利で戦は終わった。

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