作者のページに戻る

─聖ヨト暦333年 シーレの月 青 二つの日 深夜
 悠人の部屋

 『ここは・・・?何も見えない・・・広がるのは、一面の闇・・・』
 「何だ・・・俺はどう・・・つっ!!」
 ビキビキビキィ!!
 『腹が!!痛い!!!』
 「くっ・・・何が・・・」
 「気がつきましたか?」
 「え・・・」
 すぐ近くから聞こえる声。
 悠人が疑問に思う間もなく、顔から何かが取り除かれる。
 「あ・・・」
 『光が・・・そうか、目元まで何かが覆っていたのか・・・』
 「寝苦しそうでしたのでタオルをかぶせておきました。目元を冷やせば楽になる、と聞いたことがありましたから」
 「あ、ああ・・・」
 『そう言えば、僅かにひんやりとした感覚が残っている。さっきは何故気付かなかったのだろう・・・?』
 「レスティーナ・・・どうして、ここに?」
 悠人は声のした方を向いた。
 『俺がいたのは前線の筈だ・・・あれ?』
 「ここは、スピリットの館だ」
 周囲を見回す。
 『誰かが運んでくれたのか・・・?』
 「手が空いている者がいないのです。看病するのなら、あなたを恐れない者が必要ですから」
 「看病・・・っ!?」
 『いてぇ!!』
 悠人は眉をひそめた。
 「くっ・・・俺は、どう・・なったんだ・・・?」
 「私は詳しいことを聞いていません」
 レスティーナは首を振った。
 「知っているのは、アセリアがあなたを見つけ、城にエーテルジャンプさせたことくらい・・・死にかけていた、とのことですよ」
 「そうだ・・・思い出した!!」
 『瞬との対決、その結末・・・そして佳織に助けられたんだ・・・』
 「アセリアにも・・・また、助けられたのか・・・」
 「・・・最初の時といい、あなたとアセリアには不思議な縁があるのですね」
 レスティーナの声は淡々としている。
 だが、その内には確かに慈愛のようなものが見えた。
 「どれくらい、経った・・・?」
 「ユートが運ばれてからなら、まだ一日も経っていません」
 「そっか・・・」
 起きあがろうとする悠人。
 ビキビキビキィ!!
 「つぅっっ!!」
 再び激痛に襲われる。
 「傷は浅くありません。無理をしないように」
 「ぐっ・・・」
 レスティーナは、そんな悠人を見て眉をひそめた。
 『本当に死にかけていたのか・・・癒しの魔法ですら、すぐに全快しないほどに。だけど・・・』
 「俺は、佳織を助けないといけないんだ・・・っ!!」
 悠人は訴えるように叫んだ。
 「ならば尚のこと、今無理をすれば、その目的も敵わなくなります」
 「だけどっ!!」
 「今は、大人しく休みなさい」
 静かな言葉と共にレスティーナは悠人の肩が押さえる。
 エトランジェにとって小さな力であるはずが、悠人は起きあがることが出来なかった。
 「くっ・・・」
 冷静な顔のレスティーナを見ている内、悠人も落ち着きを少し取り戻した。
 「サーギオスのエトランジェと戦ったのですね」
 「え・・・?」
 驚く悠人に、レスティーナは小さく頷いた。
 「わかります。今のユートをこのように出来る存在は限られていますから」
 「・・・ああ」
 レスティーナの言葉に、悠人は頷く。
 「確かに、レスティーナの言う通りだよ。俺は・・・一人で瞬と戦ってこんな目に遭わされた」
 そう言ってレスティーナを見る。
 「アイツ・・・佳織を、連れてきてたんだ」
 「カオリを・・・?」
 驚いた顔をするレスティーナ。
 「・・・それで俺はアイツに負けて・・・」
 悠人は言いかけた言葉を呑み込む。
 『意識を失う寸前に聞いた佳織の声・・・自分が瞬の側にいるから、俺を殺さないでという懇願・・・!!』
 「俺の為に、佳織が・・・っ!!!」
 悔しさと怒りで、悠人の身体がブルブルと震える。
 「落ち着きなさい、ユート。あなたの今回の行動は、役を違えています」
 レスティーナは容赦ない口調で悠人に語る。
 「・・・」
 「焦り、一人で突き進んで、得るものはありましたか?」
 「・・・」
 「あなたの目的は佳織を救うことですが、私達はサーギオス打倒の為に手を結んでいるのですよ?このように、あなたの力を使えなくなるのは困ります」
 レスティーナの言葉は厳しかった。
 『わかってる・・・正しいってことは。だけど、それでも納得できない・・・!』
 「でも、俺・・・佳織を助けられるって思ったんだ・・・やっと・・・」
 悠人は縋るような視線でレスティーナを見た。
 「だって目の前にいたんだぜ?すぐ目の前に!仕方ないだろっ!?」
 「・・・」
 「確かに約束はした。それは忘れちゃいないし、破るつもりもないよ・・・でも、目の前に自分の目的があったんだ!佳織を助けられるって、そう思ったんだ!!でも、瞬が・・・アイツがっ!!」
 『レスティーナに言う言葉じゃない。だけど・・・!!』
 悠人は唇を噛んだ。
 「ユート、落ち着きなさいと言っています。悔やんでも、意味はありません。だから・・・」
 そこで言葉を切り、穏やかな顔をするレスティーナ。
 ゆっくりと悠人の頭を撫でる。
 さっきまでの言葉の厳しさとは裏腹に、その手つきはとても優しかった。
 「だから、私達の力を利用しなければいけなかったんです」
 「え・・・?」
 レスティーナの言葉に、悠人は顔を上げた。
 「一人で抱え込みすぎないように。私達がそうであるように、あなたもパートナーを利用していいんですから。ユート、あなたは同じ方向を向いている私達の仲間です。それだけは忘れないで」
 「レスティーナ・・・」
 レスティーナは小さく頷く。
 この話はもう終わりだとばかりに。
 悠人も大きく息をついて、身体から力を抜く。
 「完全に治るまで、無理をしてはいけませんよ」
 「・・・わかった」
 頷き、レスティーナの顔を見上げた。
 「でも、いいのか?もしレスティーナがこんな所にいるって知られたら・・・」
 「ふふ・・・でも、誰もいないでしょう?今はエトランジェの穴を埋める為に、この館のスピリットは全員で払っているのですから」
 笑顔でピシャリと締める。
 『うぅ・・・これが切れ者の女王の実力か・・・』
 「・・・悪かった。もう無茶はしない・・・約束する」
 悠人の言葉を聞き、満足そうに頷くレスティーナ。
 「では、本当に体を休めておくのですよ?いいですね?」
 念を押し、レスティーナはそのまま部屋を出て行った。
 「・・・レスティーナ、サンキュ」
 一人残されて悠人俺は呟く。
 『だけど・・・瞬への怒りも、自分の弱さへの苛立ちも・・・消えない!』
 ドンッ!!
 悠人は感情をもてあますように壁を殴った。
 『瞬・・・この借りはすぐに返すっ!!』


─聖ヨト暦333年 シーレの月 青 三つの日 昼
 帝都サーギオス 皇帝の間

 「・・・」
 『また、戻ってきてしまった』
 佳織はそう思いながら俯いた。
 その隣では、瞬が愉快そうに笑っている。
 「もうすぐだ・・・もうすぐ、ラキオスの連中がここに攻めてくる!!」
 居並ぶ部下に向かって叫ぶ。
 瞬は、玉座の正面に立っていた。
 いや、その威風からは瞬こそが王であるように見えたことだろう。
 「だが、向かってきても無駄だ。サーギオスには僕がいる!スピリットがどれだけ来ようと全て返り討ちにしてやる!!」
 瞬の言葉に、謁見の間は喝采に包まれた。
 部下達は心酔した目で、瞬の姿を見る。
 そこには、暫く前まで怯えていた者の姿もあった。
 今、【誓い】の狂気は、帝国全土を包みつつある。
 「佳織は僕にとって女神だ。その佳織が近くにいてくれる限り、僕に敗北などありはしない!!」
 高々と腕を突き上げる。
 【ウォオオオオオオオオオ!!!】
 割れんばかりの歓声を受け、瞬は笑みを深くする。
 「それで、アイツらはどこにいる?」
 「まだ、ここまで辿り着いておりません」
 部下の報告に、瞬は鷹揚に頷く。
 「だろうな・・・全く弱すぎる。それとも、上にいたのがよっぽどの無能なのか」
 「ここに至る前に、全滅するのではありませんか?」
 「だったらそれでもいい。弱い奴等の相手をしても、面白くはない。その時は、ここで笑っていればいいさ・・・でも、つまらないな」
 瞬はニヤリと笑う。
 狂気に彩られたその笑みに、ある者は心服し、ある者は恐怖して、瞬に対する忠誠を誓うのだ。
 部下達は口々に同意し、瞬に頭を下げる。
 「佳織、これが実力だ・・・やっぱり、アイツなんてどうしようもないだろう?」
 「・・・」
 「力を得るのは、僕のような人間なんだ。アイツには結局、何一つ残りはしないのさ。フフフ・・・アーッハッハッハッハ・・・」
 佳織は何の反応も示さない。
 『お兄ちゃん・・・』
 ただ俯き、心の中で悠人の無事を祈っていた。
 それには気付かず、瞬はなおも佳織に話しかける。
 「あれだけの傷だ。アイツは長くは持たないだろう。必死になって、醜くもがき苦しんで、這い蹲ったまま消えるんだ」
 「・・・っ!!」
 「よかったな、佳織。漸く悪魔がいなくなったんだ。もう僕たちを脅かすような者は、この世界には一つもないのさ」
 「・・・」
 『お兄ちゃん・・・』
 そう呟きかけて、佳織は唇を噛んだ。
 『戦いはもう始まっている。悠人の為、瞬の側にいると決めたんだから・・・』
 「・・・」
 「さて・・・強いと聞いていたのに、ラキオスの奴等はまだなのかな」
 瞬の高笑いが響く中、佳織は無言で立ち続けるのだった。


―聖ヨト暦333年 シーレの月 赤 一つの日 夜
 セレスセリス 宿営用の宿の一室

 「ふぅ・・・さて」
 闘護はテーブルの上に置かれた封筒に手を伸ばしたその時だった。
 ドンドン、バタン!!
 「闘護、いるか?」
 「光陰」
 椅子に座っていた闘護は眉をひそめた。
 「ノックの返答もなしにドアを・・・」
 「それどころじゃない」
 闘護の言葉を遮ると、光陰はテーブルの上に手をついた。
 「悠人が・・・秋月と戦った」
 「・・・何だと?」
 闘護の目の色が変わる。
 「シーオスの村周辺を偵察しているときに遭遇したらしい。いや、遭遇と言うよりも引き寄せられたって話だ」
 「・・・詳しく聞かせろ」
 闘護はそう言って椅子を勧めた。
 光陰は椅子に腰を下ろすと、懐から紙を取り出してそれをテーブルの上に置いた。
 「悠人が一人で偵察していたときだ。秋月が突然周辺の森に現れた」
 「突然・・・?」
 「いきなり神剣の気配がしたそうだ。エスペリアの話によると、おそらくエーテルジャンプを使用したらしい」
 「成る程ね・・・」
 闘護は頷き、紙を手に取る。
 「突然現れた秋月君は・・・っ!?」
 紙に書かれた文字を読み始めた闘護の表情が、不意に驚愕のものになる。
 「佳織ちゃんを伴っていた!?」
 「ああ・・・それだけじゃない」
 光陰は深刻な表情を浮かべた。
 「悠人は秋月を追い詰めた。だが、その時・・・」
 「佳織ちゃんを・・人質にした、だと?」
 唖然とした様子で闘護は呟いた。
 「その隙に秋月は悠人を攻撃した」
 「・・・」
 「とどめを刺そうとした秋月に、佳織ちゃんが自分を犠牲にして・・・悠人を助けた」
 光陰は苦い表情を浮かべて言った。
 「・・・俺の読みが外れた、か」
 闘護が苦い表情で呟いた。
 「読み・・・?どういうことだ?」
 「秋月君が佳織ちゃんに手を出すことはない。そう読んで・・・いや、信じていたんだが、な」
 小さくため息をつき、首を振る。
 「どうやら、彼は神剣に飲み込まれてしまったようだな・・・残念だ」
 「・・・妙な口ぶりだな。お前、秋月が嫌いじゃないのか?」
 目を丸くする光陰に、闘護は首を振る。
 「別に。彼を嫌う要因はあっても、俺自身が彼を嫌う理由はなかったからな」
 「そういえば・・・お前って、秋月と口をきくことが結構多いって噂を聞いたことがあるが・・・」
 「ああ。以前、佳織ちゃんにフルートを教えていたことについて少し言い合いをしたことがある。それ以来、少し口をきくようになったな」
 そう言って、小さくため息をついた。
 「その時に、彼の佳織ちゃんに対する思いは不純ではない・・・そうだな。言い換えるなら、佳織ちゃんを神聖視している」
 「神聖視・・・」
 「神・・・いや、悠人に聞いた話から考えると・・・母、かな」
 「母か。確か、秋月の母親は既に他界しているはずだな」
 「ああ。だからこそ、佳織ちゃんに母性を見いだしたんだろう。俺もそう踏んだから、彼女が浚われても、彼の側にいる限り大丈夫・・・少なくとも、手荒な扱いを受けることはないと思っていたんだがなぁ・・・」
 闘護はそう言ってボリボリと頭をかく。
 「残念だが・・・もう、秋月君は佳織ちゃんを何とも思っていない。いや、正確には神剣に飲み込まれた以上、彼はもう秋月君ではない」
 「つまり・・・」
 「【誓い】・・・四神剣の一振りだ」
 そう言って、小さく首を振る。
 「佳織ちゃんを傷つけてでも生きようとした・・・おそらく、侵食はかなり進んでいる」
 「・・・助けるつもりだったのか?」
 探るように尋ねる光陰に、闘護は当然とばかりに頷いた。
 「前に言っただろう?俺は助けられる者は全て助けたい。誰であろうが、ね」
 「・・・」
 「しかし・・・心の拠り所にしていたはずの佳織ちゃんを切り捨てる所まで来ているのは予想外だったな。どうしたものか・・・」
 腕を組んで考え込む闘護。
 「神剣に呑み込まれた結果がアセリアのように自我を失うのであれば何とかなると思っている。実例がいるからな。だが、神剣の意志に乗っ取られているとなると・・・今日子のようにするしかないか」
 「神剣を殺す・・・か」
 光陰が呟いた。
 「だが、それも秋月君の意志が神剣を拒んでいることが前提条件だ。意志に乗っ取られている以上・・・神剣の意志と秋月君の意志が同化している場合は・・・」
 言いかけて、苦い表情を浮かべる闘護。
 「おそらく・・・神剣の意志を殺すことは無理だ。そんなことをすれば、秋月君の意志も殺してしまう可能性がある」
 「だったら、方法は一つだ」
 光陰は肩をすくめた。
 「神剣を破壊する・・・それしかないな」
 「・・・そうなるな」
 そう言って、闘護はため息をついた。
 「簡単に破壊させてもらえるとは思えないが・・・」
 「それでも諦めるつもりはないんだろ」
 光陰の言葉に、闘護はニヤリと笑った。
 「まあな」
 「ったく・・・ん?」
 肩をすくめた光陰は、テーブルの上に置かれていた封筒に目をやった。
 「なんだ、それ?」
 「これか?これは極秘任務の報告書だ」
 そう言って、闘護は封筒を開けて中に入っていた紙を取り出した。
 「・・・ミュラー=セフィスとの接触に失敗した、か」
 紙に目を走らせながら、闘護はゆっくりと呟いた。
 「“剣聖”との接触を図っていたのか?」
 光陰が目を丸くする。
 「ああ。イノヤソキマに滞在しているという情報を掴んでね・・・是非ともラキオスに力を貸して欲しかったんだがな」
 闘護は小さくため息をついた。
 「“剣聖”ミュラー=セフィス・・・噂には聞いていたが、よく消息を掴んだな」
 「運が良かったのさ。ま、失敗したなら仕方あるまい」
 そう言って、闘護は紙をテーブルに置いた。
 「“剣聖”の消息は引き続き探索してもらおう」
 「見つかっても、ラキオスに参戦してくれるとは限らないだろ。どうするんだ?」
 「さて・・・ま、無理強いはするなと伝えてある。もっとも、無理強いなんて出来ないだろうが」
 闘護は肩をすくめた。


―聖ヨト暦333年 シーレの月 赤 二つの日 朝
 セレスセリス 宿営用の宿の食堂

 「・・・というわけで、悠人が現在ラキオス王都にて静養、しばらく戦線に復帰できないとのことだ」
 【・・・】
 闘護の説明を、セリア達は緊迫した表情で聞いていた。
 「よって、第一部隊はしばらくシーオスに留まらざるを得ない。悠人抜きで進軍するのは危険だからな」
 「アタシ達はどうするのよ。今日にはラキオス軍の本隊も来るのに、悠が戻ってくるまでここに留まるの?」
 今日子の問いに、闘護は首を振った。
 「二週間後に出発、進軍を再開する。第一部隊がサレ・スニルを落とすより前に第二部隊の別働隊がサレ・スニルに到着するのならば、それはそれで構わないからな」
 「作戦では、ユート様率いる第一部隊より我々第二部隊の進軍が遅れる方が問題になります。サレ・スニル陥落後にユウソカへの侵攻が遅れると、第一部隊と第二部隊が完全に分断されてしまいます」
 闘護の説明にヒミカが補足した。
 「あまりこっちが早すぎても良くないが・・・まあ、大丈夫だろう」
 「二週間後に出発するなら、ゼィギオスに到着するのは順調にいってその三週間後ってところか」
 光陰の問いかけに、闘護は頷いた。
 「遅くとも四週間で行けると思う」
 闘護はそう言って全員を見回した。
 「みんな、準備しておいてくれ」
 【はい!!】


―同日、夜
 セレスセリス 宿営用の宿の一室

 コンコン
 「入ってくれ」
 ガチャリ
 光陰の返事を待って、扉が開いた。
 「失礼する」
 部屋に入ってきたのは、ラキオス軍の軍服―それも将軍位のものを―着た男だった。
 「ラキオス国ゼィギオス方面司令リク=アルヴァラスだ」
 「ラキオス国スピリット隊副長、因果のコウインだ。よろしく」
 光陰は椅子から立ち上がると、手を差し出した。
 「よろしく」
 リクはためらうことなく光陰の手を握り替えした。
 「・・・」
 「どうした?」
 少し驚いた様子の光陰に、リクが尋ねた。
 「いや・・・」
 「エトランジェを恐れないことがそんなに妙か?」
 リクの問いに、光陰は小さく頭を下げた。
 「失礼した」
 「いや、構わん」
 「かけてくれ」
 光陰に勧められ、リクは椅子に腰かけた。
 「早速だが、今後のことについて意見をうかがいたい」
 「ああ。それについてだが・・・」
 コンコン
 「どうぞ」
 ガチャリ
 「失礼するよ」
 扉が開き、闘護が入ってきた。
 「遅かったな」
 「ちょっとな・・・」
 光陰の問いかけに言葉を濁すと、闘護はリクを見た。
 「あなたがラキオス軍の総大将か」
 「リク=アルヴァラスだ」
 リクは立ち上がると、闘護に手を差し出した。
 「ラキオス国スピリット隊参謀、神坂闘護だ」
 闘護は手を握り替えした。
 「・・・久しぶりだな、ストレンジャー」
 「ああ」
 二人はニヤリと笑みを浮かべた。
 「知り合いなのか、二人とも?」
 光陰が目を丸くした。
 「以前、ラキオス王都にサーギオスのスピリット達が攻めてきたときにな」
 闘護はそう言ってリクを見つめた。
 「俺もさっき見て驚いたよ。しかし・・・よく、志願したな。元々は王城の近衛兵だったんだろ?」
 「レスティーナ様の理想を実現するためには、スピリットに任せるだけではなく俺も戦わねばならないと感じたのさ」
 リクは力強く言った。
 「そうか・・・」
 闘護は小さく―安心したように―頷いた。
 「思い出話はそれぐらいにして、そろそろ本題に入ってもいいか?」
 黙って聞いていた光陰が口を開いた。
 「おっと、すまん」
 闘護はそう言って空いている椅子に腰を下ろした。
 リクも続いて先程座っていた椅子に腰掛ける。
 「それじゃあ、今後のことについてだが・・・二週間後にリレルラエルを出発。ゼィギオスに向かう。ラキオス軍は、スピリット隊の後ろに下がってもらう」
 「スピリットは俺たちが相手をする。兵士はあんた達に任せることになる」
 光陰の説明に補足するように闘護が言った。
 「わかった。ゼィギオスに到着したらどうするんだ?」
 「こちらの作戦は・・・」


 「作戦についての説明は以上だ。他に何か質問は?」
 光陰の問いにリクは首を振った。
 「いや、十分だ。戻って検討するが・・・多分、この通りに行くだろう」
 「そうしてくれると助かるよ」
 闘護は肩をすくめた。
 「こちらこそ、スピリットには負担を強いることになりすまないと思っている」
 リクは申し訳なさそうに呟いた。
 「スピリットの相手が出来るのはスピリットだけだ。それも仕方ない」
 「・・・あんたはどうなんだ?」
 闘護の言葉に、リクがゆっくりと問いかけた。
 「俺?俺はスピリット隊の一員だ。当然、スピリットと戦う」
 「だが、あんたはスピリットを殺せない。人間を殺すことは出来てもな」
 「・・・だから?」
 問い返す闘護に、リクはジッと闘護を見つめた。
 「何故、殺せないのにスピリットと戦うんだ?」
 「ちょっと待て」
 その時、黙って聞いていた光陰が口を開いた。
 「どうして今、そんなことを尋ねる?」
 「・・・世間はあんたを“虐殺魔人”と呼んでいる」
 光陰の問いにリクはゆっくりと言った。
 「だが、あんたはむやみに殺すような真似はしない。違うか?」
 「何故、そう思うんだ?」
 闘護の問いに、リクは頬をかいた。
 「あんたは俺の妻を助けた。レスティーナ女王様をおいて、な」
 「妻・・・?」
 闘護は眉をひそめた。
 「ああ。帝国のスピリットがラキオス王都に攻め込んできたときにな」
 「・・・まさか・・・あの時のメイド!?」
 ガタッ!
 椅子を揺らし、驚く闘護にリクは照れたように笑った。
 「ルディエ=アルヴァラス・・・あの後、つきあうようになって半年ほど前に結婚したんだ」
 「そうか・・・おめでとう」
 闘護の言葉にリクは小さく礼をした。
 「妻はあんたが誰かの命を粗末にするようなことはない、理由もなく人を殺したりはしない・・・そう信じている」
 「・・・で?」
 「ラキオス軍に参加しないでスピリット隊に所属しているのもスピリットを相手にするからで、スピリットを殺すことが出来ないあんたは必然的に誰も殺さないで済む」
 「・・・だから、俺はスピリット隊にいる、と?」
 「違うのか?」
 リクの問いに、闘護は首を振った。
 「スピリットを殺せないからスピリット隊にいるというなら・・・それは全然違う。俺がスピリット隊にいるのは、スピリット隊で俺が出来ることがあるからだ」
 「スピリットを殺せないあんたが?」
 「敵スピリットを殺せないが、スピリットの攻撃から仲間を守ることは出来る。そして・・・」
 闘護はジロリとリクを睨んだ。
 「人間を殺せないスピリットの代わりに、人間を殺すことが出来る。俺たちの前に立ちはだかる人間を・・・な」
 「・・・人間を殺すことにためらいはないのか?」
 「立ち向かってくる者を殺すことにためらいはない」
 「じゃあ・・・」
 闘護に負けじと、リクはにらみ返した。
 「人間を“殺したい”のか?」
 「そんなことは微塵も思っていない」
 「そう、か」
 即答する闘護に、リクは小さく息をついた。
 「あんたが闘護に聞きたかったことは、それか」
 傍観していた光陰がゆっくりと呟いた。
 「闘護が世間一般に言われるような、人を殺すことが大好きな化け物・・・そうかどうかを確認したかったのか?」
 「ああ。と言っても、確認したかったのは俺じゃない」
 リクは苦笑する。
 「妻が・・・“自分を助けてくれた人が、命を奪うことを楽しむなんて信じられない”と言ってな」
 「俺は・・・」
 闘護は小さく息をついた。
 「理不尽なことで命が奪われていくことを許容できないだけだ。“自分が楽しむ”などと、身勝手きわまりない理由で命を奪う・・・そんなことは絶対にしない」
 「じゃあ、マロリガンの事件も・・・何か理由があったのか?」
 リクの問いに、闘護は目を閉じた。
 「・・・」
 「なかったのか?どうなんだ?」
 問い詰めるリク。
 「そこまでにしてやってくれないか?」
 その時、光陰がゆっくりと言った。
 「あの事件はもう終わったことだ。蒸し返す必要もないだろ?」
 「むぅ・・・」
 リクは不服そうに光陰を見た。
 「あんたが確認したいことについては、既に闘護が答えた。もう十分じゃないのか?」
 「・・・わかった」
 リクは渋々頷く。
 「話はもう終わりか?」
 「ああ」
 「じゃあ、すぐに伝令を回してくれ。何か問題があったらこっちに連絡してほしい」
 「わかった。失礼する」
 リクは一礼すると部屋から出て行った。
 「ふぅ・・・」
 闘護は小さくため息をついた。
 「・・・どうだ、闘護?」
 「ん・・・?」
 光陰はニヤリと笑った。
 「理解のある人もちゃんと存在する・・・安心したか?」
 「・・・いや、まだだ」
 闘護はニヤリと笑い返す。
 「まだ、全人類が理解してくれた訳じゃない」
 「だが、その試みは着実に進んでいる。ゆっくりだが、着実に・・・な」
 「・・・そうだな」


─聖ヨト暦333年 シーレの月 緑 一つの日 昼
 悠人の部屋

 「・・・」
 悠人の体はなかなか良くならなかった。
 神剣の力で回復はしているが、それはあまりにも遅かった。
 エスペリアを含め、癒しの力を使える者が出払っているのも大きいだろう。
 『佳織・・・佳織・・・っ!!』
 助けられなかったことを悔やむ悠人。
 「くっ・・・うぁぁぁっっ!!」
 〔許さぬ・・・力を・・・【誓い】を砕く力を・・・!!〕
 「くそっ・・・黙れ、バカ剣っ!!」
 傷の痛みではない。
 【求め】が高めようとする力に、身体が耐えられないのだ。
 「ぐああああぁぁぁぁっっっ!!はぁっ・・・・・あ、黙れっ!!」
 やってきた時と同じように、唐突に痛みが消える。
 『とりあえずは諦めたか・・・』
 「はぁっ・・・はぁっ・・・」
 呼吸を整える。
 落ち着いて、あの時のことを考えるために。
 コンコン
 その時、ノックの音が響いた。
 「ユート、入るぞ」
 「アセリア・・・?」
 ドアを開けてアセリアが入ってくる。
 悠人の方を見ると、少し驚いたようだった。
 「・・・どうした?」
 「ユートが心配だから来た。でも、思ったより落ち着いてる・・・」
 『ここで、『心配で』と言えてしまうのがアセリアなんだな・・・』
 悠人は思わず苦笑を浮かべた。
 ズキッ!!
 「つぅぁ・・・っ!」
 「あ、まだ動いちゃダメ・・・」
 「そうも、言って・・・られない、だろ」
 「・・・ん。無理しない」
 もがく悠人を、アセリアは自然に助けてくれる。
 『変わったな、アセリアも・・・』
 「さんきゅ、アセリア」
 悠人は上半身を起こしながら礼を言う。
 「ん」
 嬉しそうに小さく頷く。
 スルスルと布団に入ってきて、寄り添ってくれた。
 『何をするってわけじゃないけど・・・近くにアセリアがいるだけで気持ちが安らぐな・・・』
 そのまま、暫く無言で過ごす。
 「アセリア、俺・・・何だか違和感を感じるんだ」
 ふと、悠人は口を開いた。
 「・・・?」
 「瞬は酷いヤツだったけど、あそこまでじゃなかった。それに俺だって・・・」
 『佳織を巡る戦い・・・俺は佳織が大事で、瞬は佳織を手に入れたい。それだけだったはずだ。だけど、いつの間にか・・・』
 悠人は自分の手のひらを見つめる。
 『俺は瞬に殺意を抱き、瞬も俺に殺意を持っていた・・・殺し合うことが当たり前になっていた』
 「どこだ・・・どこですり替わった?」
 「・・・」
 考え込む悠人をジッと見つめるアセリア。
 『本来の目的、それがどんどん変わっていく。最後にどこに行き着くかはわからないが、俺が思うのは一つ・・・』
 「俺達の戦いは、誰かに仕組まれているんじゃないのか?」
 「仕組まれる?」
 「上手く言えないけど・・・俺が【求め】を持って、瞬が【誓い】を持って・・・佳織がさらわれて、アセリア達と一緒に戦って。どれもこれも、偶然だとは思えないんだ」
 悠人は深刻な表情で呟いた。
 「以前闘護が“俺たちが召喚されたのは仕組まれたことだ”と言っていた。その時は半信半疑だったけど、俺や瞬の意識の変化・・・確かにパーツが揃いすぎている・・・まるでジグソーパズルのように、できあがりの絵が最初から決まっている気がしてならないんだ」
 「・・・」
 『一枚の絵に戻った時、そこには何が描かれているのだろう?それに、クェドギンの残した言葉だって気になる』
 「なぁ、どうして俺があそこにいるってわかったんだ?」
 「ん・・・なんとなく」
 「なんとなく、か」
 『俺とアセリアには不思議な縁がある、そうレスティーナも言っていた。それすらも、仕組まれたことに思える・・・例えば、アセリアは俺の危機を救う役、って感じで』
 考えながら、悠人は天井を見上げた。
 『だとしたら、配役をした者はどこにいるのだろう?舞台の袖か・・・客席か・・・それとも、何食わぬ顔で登場人物の一人を演じているのか。いや・・・闘護の推理にあったテムオリン・・・奴なのか?』
 かつての敗北を思い出し、唇を噛みしめる。
 「どうした、ユート?」
 「いや・・・アセリアは神剣の勇者の話を知っているか?聖ヨト時代にいたっていう・・・」
 「ん。少しだけ」
 アセリアはコクリと頷いた。
 「スピリットも勇者も、どこから来たんだろうな・・・」
 「・・・わからない。でも、勇者はハイペリアからだと思う」
 「そっか」
 『俺や瞬達のような新たなエトランジェ。スピリットという存在。それに、エーテル技術。導かれた先には、間違いなくこれらが関わってくる・・・出来れば考えすぎであって欲しい。だけど闘護も疑っていた・・・』
 ギィン!!!
 「・・・っ!くぅっ、ぐぁあああああっ!!」
 「ユート!?」
 突然、頭痛が悠人を襲った。
 気が緩んだ隙をつくようだった。
 〔【誓い】を滅ぼせ・・・その為の力を・・・〕
 「ぐぅっっ・・・はぁっ・・!!」
 「ユート・・・ユートッ!」
 心配そうに覗き込んでくるアセリア。
 悠人はニヤリと笑みを返した。
 「へっ・・・無駄だ、バカ剣。俺はもう、お前に呑み込まれたりはしない・・・!!さっきは、いきなりで驚いただけ、だ・・・」
 ギィイイインッ!!
 頭痛と圧迫感が跳ね上がる。
 「っ!」
 『キツい・・・だけど、耐えられないことはない・・・』
 「・・・」
 アセリアがジッと悠人の顔をのぞき込んでいる。
 『情けない姿ばかり見せてたまるか!』
 「無駄だって・・・言ってるだろ・・・」
 額に脂汗が浮かぶ。
 アセリアは甲斐甲斐しく吹いてくれた。
 「サンキュ」
 「・・・ん」
 悠人が笑うと、アセリアも笑う。
 「本当・・・大丈夫か?」
 「ああ、これくらいなら・・・」
 「私が替われたら・・・いいのに・・・」
 「いや、これでいいさ。いつも守られてばかりじゃ、流石に格好がつかないだろ?」
 そう言って、隣にいるアセリアを抱きしめる。
 「だから、これで充分・・・」
 「・・・ん」
 耳元で囁かれ、少しだけくすぐったい。
 アセリアも、悠人の背に手を回し、ギュッと抱きしめた。
 「カオリを助けよう・・・あと少しだ」
 「ああ!」
 悠人は痛みに耐えながら頷く。
 『佳織は助けてみせる・・・だけど、それで本当に戦いが終わるのか?帝国を倒せばそれで・・・』
 アセリアを抱きしめながらも、心の中に生まれた不安を消すことが出来ない悠人。
 それでも、考えるのは後に回さなければならない。
 『早く、前線に戻らないと・・・』


―聖ヨト暦333年 シーレの月 黒 二つの日 朝
 セレスセリス

 「みんな、準備はいいな」
 闘護の言葉に、セリア達スピリット隊をはじめラキオス軍の面々が頷く。
 「光陰」
 「ああ」
 光陰は全員を見回した。
 「ラキオス軍、これより進軍を開始する!!」
 【ウォオオオオオオ!!!!】


―聖ヨト暦333年 シーレの月 黒 三つの日 夕方
 シーオス 宿営用の宿

 ガチャリ
 「ふぅ、疲れた疲れた」
 「はふぅ・・・」
 ネリーとシアーが汗を拭きつつ食堂に入ってきた。
 「お帰りなさい」
 椅子に座って休んでいたヘリオンが声をかけた。
 「あれ〜、ヘリオンだけなの?」
 椅子に座ったネリーが尋ねた
 「はい。ニムは部屋で休んでます」
 「ウルカは?」
 ネリーに続いて椅子に腰を下ろしたシアーが尋ねる。
 「まだ帰ってません。ちょっと遠くまで行くから、戻るのは夜だって言ってましたけど・・・」
 「ふーん」
 ガチャリ
 その時、扉が開いてエスペリアが入ってきた。
 「お帰り、エスペリア」
 「お帰りなさ〜い」
 「お帰りなさい、エスペリアさん」
 「あら?三人だけですか」
 エスペリアは三人を見て小さく首を傾げた。
 「この時間帯なら、ニムもいるはずだけど・・・」
 「ニムは部屋で休んでます」
 「そう・・・わかったわ」
 ヘリオンが答えると、エスペリアは小さく頷いた。
 「ところで、あなたたち三人に特別任務があります」
 エスペリアはそう言って懐から紙を取り出した。
 「なになに?何をすればいいの?」
 ネリーが興味深そうに身を乗り出した。
 「ネリー、シアー、ヘリオンの三名は、ミライド遺跡へ向かい“剣聖”ミュラー=セフィスに接触、ラキオス陣営への参加を承諾させるように・・・とのことです」
 「“剣聖”にですか!?」
 ヘリオンが素っ頓狂な声を上げた。
 「そうです。帝国との戦いも激しさを増し、スピリット隊の増強を可及的速やかに、と陛下から厳命されています」
 エスペリアは顔を上げた。
 「新たなスピリットの配属も準備しています」
 「誰か新しく来るの〜?」
 シアーがのんびり尋ねた。
 「ええ。攻略した拠点の守備隊にもスピリットは必要ですからね」
 「ネリーたちの所にも来るの?」
 ネリーの問いに、エスペリアは首を振った。
 「侵攻軍には参加する予定がありません。トーゴ様が反対されていますから」
 「どうしてトーゴが反対してるの?」
 「あ、ニム」
 その時、ニムントールが部屋に入ってきた。
 「それは・・・帝国のスピリットは人を殺せるからです」
 エスペリアは小さくため息をついた。
 「ラキオス王国のスピリットは人を殺せません。ですから、帝国のスピリットと人の混成部隊と戦うにはスピリットと人を引き離す必要があります。それには、少数精鋭で・・・というのが、トーゴ様の方針です」
 【・・・】
 「仮に我が国も私たちスピリットと人の混成部隊で戦えば、私たちは敵を倒すよりも人を守ることに意識が行ってしまい、より危険だということです」
 「大丈夫だよ!ネリー達強いもん」
 ネリーが自信たっぷりに言うと、ニムントールも小さく頷く。
 「守るのは、得意だから」
 「・・・私も、あなたたちと同意見です」
 エスペリアが微笑んだ。
 「私たちはこれまで数々の戦場を生き抜いてきました。ですから、人を守りながら戦うことも無理ではない・・・と思います」
 「だったら・・・」
 「でも、トーゴ様はそうは考えていません」
 ヘリオンの言葉を遮るようにエスペリアは言った。
 「トーゴ様はずっと私たちを守るように戦ってきました。つまり、人とスピリットの混成部隊におけるスピリットの役割を。ですが、それがどれほど困難であるか・・・トーゴ様の様子を間近で見てきたあなたたちも理解しているでしょう?」
 「トーゴ様はいつもケガしてた・・・」
 シアーが呟いた。
 「スピリットを守る・・・トーゴ様がそれを成し遂げてきた要因は、スピリットの攻撃に対する異常なまでの防御力とあらゆる負傷が瞬時に治癒する異常なまでの回復速度です。それらが無い私たちで、トーゴ様と同じことが出来ると思いますか?」
 【・・・】
 「出来るとは思えない・・・それがトーゴ様の考えです。そして、それを否定することが私たちには・・・出来ません」
 エスペリアは悔しそうに呟いた。
 「トーゴ様ももっとネリー達を信じてくれたらいいのに」
 「うん・・・」
 ネリーとシアーが不服そうに言った。
 「私たちも強くなったのに・・・」
 「・・・ムカつく」
 ヘリオンが寂しそうに、ニムントールが不機嫌そうに呟いた。
 「・・・みんな、トーゴ様に認めてもらいたいんですね」
 エスペリアが少し羨ましそうに四人を見つめた。
 「あ、そういえばユート様はどうだったの?」
 「ユート様は大丈夫ですよ。もう少ししたら戻ってきます」
 「アセリアも一緒にいるの?」
 「!」
 ネリーの問いに、エスペリアのこめかみがヒクッと震えた。
 「え、エスペリア・・・?」
 「ど、どうしたんですか?」
 その様子にネリーとヘリオンが後ずさる。
 「アセリアなら、ユート様の側にいますよ」
 妙に迫力のある口調でエスペリアは答えた。
 「えっと・・・エスペリア、怒ってる?」
 シアーが恐る恐る尋ねた。
 「怒ってませんよ。ええ、怒ってませんとも」
 【・・・】
 『ウソだ!!』
 『ウソ・・・だよね』
 『絶対、怒ってます』
 『怒ってる・・・』
 心の中でエスペリアの言葉を否定する四人だった。

作者のページに戻る