―聖ヨト暦333年 コサトの月 赤 一つの日 夕方
リレルラエル スピリット隊宿舎
ガチャリ
「あ、トーゴ様」
食堂にいたヒミカとナナルゥは、訪れた闘護を見た。
「あれ?君達二人だけか、ここにいるのは?」
「はい。他のみんなは偵察、もしくはラキオスに帰還しています」
「そうか・・・」
闘護は小さく頷き、二人の対面に座る。
「君達二人が残っててよかった」
「私達が、ですか?」
「ああ。君達にして欲しいことがある」
闘護はそう言うと、持っていた紙束をテーブルの上に置いた。
「それは・・・?」
「資料だ。見てくれ」
闘護の言葉に従い、ヒミカとナナルゥは紙に目を通す。
「帝国軍の数、配置・・・拠点とその規模・・・これは、帝国軍の情報?」
「そうだ」
ヒミカの言葉に頷くと、闘護は二人を見つめた。
「いよいよ・・・君達が今まで学習してきた成果を発揮するときが来た」
そう言って、ニヤリと笑う。
「君達に、帝国侵攻の作戦を立案してもらう」
「えぇ!?」
ヒミカが素っ頓狂な声を上げる。
「この資料は好きに使ってくれ。期限は五日後だ・・・出来るか?」
「そ、それは・・・」
言い淀むヒミカをおいて、闘護はチラリとナナルゥを見つめた。
「ナナルゥ。君はどうだ?」
「命令ならば従います」
「ちょ、ナ・・・」
「これは命令だよ」
目を丸くするヒミカをよそに、闘護は答える。
「以前、君達は俺に言ったな。俺の仕事を担う覚悟があると」
「・・・」
「もう一度問おう。俺の仕事をやる覚悟があるか?」
闘護は強い眼差しを二人に向けた。
「全力を尽くします」
ナナルゥが僅かに力のこもった口調で答える。
「わ、私も!!必ずやり遂げて見せます!!」
ヒミカが慌てた様子で―しかし、はっきりと―答えた。
その様子を見て、闘護は小さく頷く。
「頼むぞ、二人とも」
【はい!!】
―同日、夜
闘護の宿泊室
コンコン
「どうぞ」
ガチャリ
闘護の返答を待って、扉が開いた。
「エスペリア、アセリア、ウルカ、ただいま戻りました」
「ああ」
椅子に座りながら、闘護は部屋に入ってきた三人を見た。
「先日の戦いの怪我は・・・もう大丈夫のようだな」
闘護はエスペリアとウルカを見回し呟く。
「はい。心配をおかけしました」
エスペリアはそう言って頭を下げる。
「手前も、己の未熟さ故にご迷惑をおかけしました」
ウルカも頭を下げた。
「・・・精神的疲労は大丈夫なのか?」
「はい」
「大丈夫です」
闘護の問いにキッパリと答える二人。
「そうか」
闘護は安堵した様子で頷いた。
「トーゴ様」
「ん?何だ、エスペリア?」
「私達をこちらへ呼び戻したのは、何故でしょうか?」
エスペリアは微妙に棘のある口調で尋ねた。
「もしや、出撃の時が近い・・・ということでしょうか?」
ウルカが少し緊張した口調で尋ねた。
「・・・」
闘護は無言で椅子から立ち上がると、そのまま窓の側により、外に視線を向けた。
「トーゴ様?」
「トーゴ殿?」
「・・・」
エスペリア、ウルカ、そしてアセリアの視線が闘護に向けられる。
「君達に言っておきたいことがある」
闘護は振り返らずに口を開いた。
「君達は悠人に好意を抱いている・・・そうだな?」
「え・・あ・・・その・・・」
「む・・・」
顔を赤らめるエスペリアとウルカ。
「ん」
それとは対照的に、アセリアは素直に頷いた。
「当たり、みたいだな」
三人の答えに、闘護は苦笑する。
「そ、それが何か!?」
照れ隠しのつもりか、エスペリアは少々声高に尋ねた。
闘護はゆっくりと振り返る。
「悠人に言い寄らないで欲しい」
【・・・え?】
闘護の言葉に、エスペリアとウルカが唖然とする。
「・・・」
アセリアは、特に表情を変えることもなく黙って聞いている。
「悠人に告白する・・・そこまではいいが、それ以上・・・例えば、体を重ねる・・・」
【!!】
エスペリアとウルカが顔を真っ赤にする。
「?」
一方、アセリアは言葉の意味がわからず首を傾げる。
「・・・体を重ねるというのは、“抱く”という意味だよ」
アセリアの様子に気づいた闘護は補足した。
「ん・・・わかった」
納得したように頷くアセリアを確認し、闘護は続けた。
「そういう行為を悠人としないで欲しい。例え、悠人が受け入れたとしても・・・な」
【・・・】
無言の三人に、闘護は小さくため息をついた。
「これは命令じゃない。俺からのお願いだ」
「・・・どうして、ですか?」
「何がだ、エスペリア?」
「どうして・・・ユート様と体を重ね合わせてはいけないのですか?」
エスペリアが震える口調で尋ねた。
「・・・俺が納得できないから」
「え・・・?」
「それは・・・どういう意味ですか?」
目を丸くしたエスペリアに変わり、ウルカが尋ねた。
「悠人と誰か・・・君達以外でもいい。とにかく、悠人が誰かと付き合うことは納得できない・・・もっと言うなら、許せないんだ」
渋面の表情を浮かべ、闘護は言った。
「・・・何故ですか?」
闘護の様子に、エスペリアは少し遠慮がちに尋ねた。
「・・・ある少女がいた」
闘護はゆっくりと三人から視線を外し、窓の外を眺めた。
「その少女は悠人に好意を持っていた・・・悠人が少女の好意に答えたかどうかは知らないが、少女が好意を持っていたことは確かだった」
【・・・】
「そして・・・その少女は、悠人を助けるために・・・」
闘護は拳を握りしめた。
「・・・消えた」
「消えた・・・?」
「どういうことですか?」
エスペリアとウルカの問いに、闘護は背を向けたまま首を振った。
「言葉通りだ。消えたんだ・・・存在そのものが、ね」
「存在・・・」
自分の神剣の名前と同じ言葉を聞き、アセリアは反芻した。
「存在そのものが消えた。つまり・・・存在しなかったことになっている。だから、誰も彼女のことを覚えていない」
「・・・その少女の名前は何というのですか?」
エスペリアの問いに、闘護はゆっくりと振り返った。
「オルファ・・・オルファリル=レッドスピリット」
【・・・】
「知らない・・・いや、覚えていないだろう?」
無言の三人に、闘護は小さくため息をついた。
「・・・トーゴ様」
「ん?」
「あの・・・本当に、そのような少女がいたのでしょうか?」
遠慮がちに尋ねるエスペリアに、闘護は小さく頷いた。
「いたよ。俺の記憶の中だけじゃない・・・物的証拠も存在する」
「物的証拠?」
「悠人が持っている黄色のリボン・・・見たことないか?」
「・・・あります」
ウルカがゆっくりと呟いた。
「そのリボンはオルファの物だった。間違いなく、な」
闘護はそう言うと、小さく息をついた。
「彼女は存在した。そして、彼女は・・・」
そこで、闘護は真剣な眼差しをエスペリアに向ける。
「ソーン・リーム台地にて、悠人をはじめとしたラキオス調査隊全員を守るために・・・消えた」
【!?】
驚愕するエスペリアとウルカをよそに、闘護は続けた。
「彼女は調査隊を・・・悠人を守るために命を賭し、そして消えた。好きな人を守るために・・・」
語る闘護の表情が、次第に哀しげなものに変わっていく。
「そんな彼女の想いを・・・忘れてしまったからどうでもいいと言えるか?」
【・・・】
「俺はそれが納得できないんだ」
沈黙する三人をよそに、闘護は続けた。
「俺は彼女を覚えている。そして、彼女の悠人に対する想いも知っている。だから・・・悠人が他の誰かと付き合うことを認められない。そうなれば、悠人は彼女の想いに完全に背を向けてしまうことになるから」
「・・・では、トーゴ様はユート様がその少女のことを思い出すまで、ユート様が誰かと結ばれることを・・・お認めにならない、と?」
エスペリアは少し硬い口調で尋ねた。
「少なくとも・・・この戦いが終わるまでは」
闘護はゆっくりと三人を見回した。
「悠人が彼女のことを思い出すとは・・・正直期待していない。ただ、彼女を失うことになったのはソーン・リーム台地での戦い、引いてはこの戦争そのものに原因がある。だから、せめて・・・この戦争が終わるまで、帝国を倒すまでは・・・悠人が誰かと付き合うことは納得できないんだ」
そう言って、小さく首を振った。
「これは俺のエゴだ。だから、君達に無理強いは出来ない・・・お願いと言ったのは、そういう理由なんだ」
「・・・手前らがトーゴ殿の意向に沿わないとしても構わないと?」
ウルカが探るような口調で尋ねた。
「俺の目の届く範囲内では邪魔をする。だが、範囲外ではどうしようもない。この件は俺一人だけでするから、俺から離れれば気にせず悠人に迫れる」
【・・・】
妙に冷静な口調で言う闘護に、エスペリアとウルカは複雑な表情を浮かべた。
「俺の言っている意味がわからないか?」
「・・・トーゴがいないところでユートに抱いてもらってもいいのか?」
【!?】
あっさりと言い放つアセリアに、エスペリアとウルカは驚愕する。
「まぁ・・・そういうこと、だな」
アセリアの言葉に、闘護も少々面食らいつつ頷いた。
「ん・・・わかった」
「わ、わかったって・・・何がわかったんですか!?」
エスペリアが驚きの表情でアセリアに詰め寄った。
「え、エスペリア殿。落ち着いてください」
慌ててウルカがエスペリアを制止する。
「何がわかったんですか、アセリア!?」
「ユートに迫らない」
いつもの口調で答えるアセリア。
「・・・え?」
「アセリア殿・・・?」
「トーゴが迫るなと言うなら迫らない」
唖然とするエスペリアとウルカを置いて、アセリアは闘護を見た。
「これでいいのか?」
一片の嫌みも含まれていないアセリアの声。
「・・・ああ」
闘護は小さく―居心地悪そうに―頷く。
「・・・わ、私は・・・」
「手前もトーゴ様の指示に従います」
エスペリアが口ごもった瞬間、ウルカがゆっくりと言った。
「そう、か・・・」
闘護は小さく―苦い表情で―頷く。
【・・・】
そして、微妙な沈黙が続く。
「・・・私も・・・」
沈黙を破るように、エスペリアが口を開いた。
「私も・・・トーゴ様の言うとおりにします・・・」
「・・・ああ」
闘護は小さく―申し訳なさそうに―頷く。
「話はそれだけだ」
そう言って、闘護は椅子に腰を下ろした。
「三人とも下がっていい」
「失礼します」
バタン
エスペリアの挨拶が終わり、三人が部屋から出て行った。
「・・・最低だな」
一人になった闘護は、ゆっくりと呟いた。
『正直に話せば、彼女たちは納得してくれる・・・俺は半ば確信していた』
「彼女たちは優しいから・・・」
苦い表情を浮かべ、首を振る。
『その優しさにつけ込んで、彼女たちを制止する・・・本当に最低だ』
「我ながら・・・最低だ」
ゆっくりと椅子に腰を下ろす。
『だが、後悔はしない。俺は俺が望む未来を求める。その為ならば手段は選ばない・・・オルファを尊重すると決めた以上、彼女たちには我慢してもらう』
小さく拳を握りしめた。
―聖ヨト暦333年 コサトの月 赤 三つの日 夕方
リレルラエル スピリット隊宿舎
「ふぅ・・・」
食堂の椅子に座り、食後のお茶を口にする闘護。
「そろそろ・・・だな」
対面の椅子に座っていた光陰がゆっくりと呟いた。
「・・・」
闘護は無言のまま視線を光陰に向けた。
「悠人の復帰も近い。準備は整った」
「そうだ、な。予定より一ヶ月ほど遅れたが、挽回は出来る」
「というより、しなくちゃいけないだろ」
光陰の言葉に闘護はため息をつく。
「予想外のことが起きたからな。まあ、帝国軍の主力部隊を潰せたから今後のことを考えれば決して無駄じゃない」
「ソーマズフェアリーか・・・ソーマを倒したのはお前だったな」
「戦意喪失していたから倒せたのさ。そうでなかったら、倒されていたのは多分俺だった」
「・・・そんなに強かったのか?」
「武術の心得を持ち、この世界の人間と比べれば十分強い部類に入る俺でも、ヤツの強さには勝てないと感じた。おそらく、この世界の人間の中ではトップクラスだ」
「それほどの強さを・・・」
「ま、それでもこの世界では強いことにはならない・・・人間の中では強くても、スピリットには勝てない」
闘護は小さく首を振った。
「それがヤツにとって最大の不幸だった」
「・・・嫉妬、か?」
「“力を持たざる者”の苦悩・・・その結末の一つだよ」
「“力を持たざる者”の苦悩か・・・お前には理解できたのか?」
光陰の問いに、闘護は肩をすくめた。
「多少は、な。お前には理解できるか?」
「難しいな・・・俺も悠人も、どちらかと言えば“力を持つ者”だからな」
「しかし、“力を持つ者”にも苦悩はある」
闘護はジッと光陰を見つめた。
「“力を持つ者”の苦悩は、対の立場にある“力を持たざる者”には理解しがたいだろう。その逆もまた然り」
「苦悩は誰しも持つ者だ。持たないヤツは己の意志を持たないも同然だ」
「意志を持たない者はただ命令に従うだけ。そこに疑問を抱くこともなく、故に苦しむことも悩むこともない」
「まるで神剣に飲み込まれたスピリットだな」
「同感だね。人形同然の存在・・・だからこそ、ソーマは歪んだ」
闘護は唇をかみしめる。
「スピリットがもしも自分の意志を持った存在ならば、ソーマも歪みはしなかったかも、な」
「・・・随分と同情的だな。お前はソーマが嫌いじゃなかったのか?」
「ソーマは、俺の末路の一つかもしれないからな」
「“力を持たざる者”の末路、か?」
「普通の人間よりも力を持つ俺だが、スピリットには勝てない。負けないと言っても、勝てないという意味ではソーマのようなコンプレックスを持つ可能性が無いとは言えん」
「それがわかっているのなら大丈夫だろう」
光陰は肩をすくめた。
「己を知るものは、己を見失わない。ソーマは己を見失ったが故に歪んだんだ。お前は違うだろ?」
「まあな。少なくとも、俺はその手の嫉妬は持たん。勝てないことで足掻くことを否定はしないが、勝てないことで歪む気はない。勝てないなら、次の事を考える」
「次・・・例えば?」
「力で勝てないなら、知で勝つ。ソーマのように嫉妬をぶつけるような真似はしないし、何より嫉妬することが気に入らない。俺はその手のコンプレックスが大嫌いだ」
そう言った闘護の表情は厳しいものだった。
「俺は勝てないものには尊敬と憧憬の念を持つことを信条にしている。敵に対しても、基本的にはそうしている。仲間に対して嫉妬するような真似は絶対にしないし、それによって仲間を踏みにじるようなことは絶対に許さない」
「強いな、お前は」
光陰が苦笑する。
「よほど心が強くないと、そういう考えはできない」
「別に俺は自分が強いとは思っていないがな」
「・・・そう考えるところが、お前の長所であり、短所でもある」
「・・・」
「まあいい。この話はこれぐらいにしておこう」
沈黙する闘護をおいて、光陰は首を振った。
「悠人達が戻ってくるのは二、三日後だ」
「ああ。さっき言ったように、戦う準備は悠人達以外は既に出来ている。後は作戦だけだ」
「担当はお前だろ。どうなっている?」
「勿論、目処は立っているさ」
闘護は自信に満ちた笑みを浮かべた。
「そうか・・・」
闘護の様子に、光陰は安心したように息をついた。
ガチャリ
「トーゴ様、コウイン様」
その時、食堂のドアが開いてセリアが入ってきた。
「やぁ、セリア。どうしたんだ?」
闘護の問いにセリアは懐から紙を取り出した。
「作戦部から報告が来ました」
「報告?帝国の動きに何かあったのか?」
光陰が尋ねると、セリアは首を振った。
「いいえ。帝国の情報ではありません」
そう言って、セリアは紙を光陰に渡した。
光陰は紙をテーブルの上に―対面の闘護も読めるように―置いた。
「ふむ・・・クォーフォデ氏の説得に成功したか」
「技術者クォーフォデ=リウを仲間にしたのか!?」
冷静に呟く闘護に対し、光陰が驚きの様子で叫んだ。
「知ってるのか?」
「ああ。噂には聞いていたが・・・確か、国家に関わることは望んでいなかったはずだ。よく説得できたな」
「アカーリア氏が弟子だったそうでな。そちらのツテでアプローチしたんだ」
闘護はセリアを見た。
「報告、ありがとう」
「はっ。失礼します」
頭を下げ、セリアは退室する。
「とりあえず、技術者の確保は成功した。これで、今後の戦いを有利に運べる」
「そうだな。施設の早期建設を実現するためにも、優秀な技術者は一人でも多い方が良い」
「ああ」
闘護はカップを小さく掲げた。
光陰もそれに倣ってカップを掲げる。
チーン
二つのカップが交差し、澄んだ音を立てた。
―聖ヨト暦333年 コサトの月 赤 五つの日 夕方
闘護の宿泊室
コンコン
「どうぞ」
ガチャリ
「・・・」
「早かったな・・・悠人」
部屋に入ってきた悠人は無言で闘護を見つめた。
「体の調子はどうだ?」
「・・・」
「ふぅ・・・何か言いたいことがあるのか?」
闘護は悠人の顔をのぞき込んだ。
「・・・どうして」
「ん?」
「どうして・・・俺の問題に口を挟むんだ?」
「・・・」
「どうしてだ・・・?」
「・・・」
悠人の問いに、今度は闘護が無言になる。
「俺が誰を好きかはともかく・・・どうして、誰も好きになるなと・・・」
「そうは言ってない」
悠人の言葉を遮るように闘護が口を開いた。
「俺が言ったのは、お前がアセリア達に迫られても決して流されるな、断れ・・・ということのはずだ。お前個人の気持ちに口を挟んだ覚えはない」
バンッ!
「同じことじゃないか!!」
悠人は我慢できなくなり、机を乱暴に叩いた。
「何で俺たちの事に口を挟むんだ!?そんな権利、お前にはないだろ!?」
「・・・なぁ、悠人」
怒る悠人を、闘護は冷静な瞳で見つめた。
「もしも・・・もしも、お前のことが好きだった少女が、お前を助けるために死んだとしたら・・・どうする?」
「・・・え?」
突然話が変わり、悠人は面食らった。
「そして、おまえがその少女のことを忘れていたとしたら・・・どうする?」
「え?え?ど、どういうことだ?」
「・・・まとめて言うから、少し落ち着け」
「あ・・・ああ」
悠人の様子を確認し、闘護はゆっくりと窓の外を見つめた。
「一人の少女がいた。名はオルファリル=レッドスピリット」
「・・・それって、前に俺に聞いた名前だよな?」
「ああ。彼女は悠人・・・お前のことが好きだった。恋心を抱いていた」
闘護は窓の外から視線を外さずに続ける。
「お前にその名を尋ねたのは、ソーン・リーム台地から戻ってきた時だったな?」
「ああ」
「ソーン・リーム台地の調査任務・・・彼女もそれに参加していた」
「え?そんなバカな・・・あの任務は、俺以外にはエスペリアしかいなかったぞ」
悠人の言葉に、闘護は小さくため息をついた。
「“そういう事実”になっているからな」
「・・・どういう意味だ?」
「彼女の存在をお前や他のみんなが覚えていたのは、その任務以前まで・・・それ以降、彼女の存在は俺を除く全員が忘れている」
闘護はゆっくりと悠人の方を振り返った。
「お前を除く全員が・・・?」
「確認を取ったのは数人だが、彼女の存在が消えていることを誰も不思議に思わない現状を鑑みれば、そう推測できる」
「・・・」
「何か言いたそうだな」
「・・・本当に、そんな子がいたのか?」
「まあ、そういう疑問を抱くよな」
予想していた問いに、闘護は小さく肩をすくめた。
「彼女の存在を記憶しているのは俺だけだ。だが、物的証拠も存在している」
「物的証拠?」
「そうだ」
闘護は悠人を指さした。
「黄色いリボン・・・持っているよな?」
「黄色いリボン?あ、ああ・・・」
悠人は懐から黄色いリボンを出した。
「お前が肌身離さず持ってろって言ったから持ってるけど・・・まさか!?」
「そう。そのリボンは彼女の持ち物だ」
驚愕する悠人を尻目に、闘護は冷静に言った。
「お前がソーン・リーム台地から戻ってきたとき、何故か持っていたと言った。ソーン・リーム台地で起きた事件・・・テムオリンと遭遇、戦闘になったにも関わらず全員無事だった」
「・・・」
「その任務の前後での差は一つ。彼女・・・オルファの存在の有無だ」
「お前は・・・その子が俺たちを助けたって言うのか?」
「命を賭して、ね」
闘護はそう言うと悠人の手元にあるリボンを見つめた。
「俺の記憶にある少女。そして、お前の持つ物的証拠・・・これらが、彼女の存在を肯定している」
「・・・」
「さて・・・話を戻そうか」
闘護は再び悠人に視線を戻した。
「さっき言ったとおり、彼女はお前のことが好きだった。そして、彼女はお前を守るために死んだ・・・彼女の存在を唯一知っている俺は、彼女の意志を尊重したい」
「・・・だから、俺に誰とも付き合うなって言うのか?」
「ずっと、とは言わん。この戦い・・・帝国を倒すまででいい」
闘護は頭を下げた。
「・・・わかったよ」
悠人はため息をつきつつ頷いた。
「すまん・・・」
「謝るなよ」
呟いた闘護を、悠人は窘めた。
「・・・」
「・・・」
暫くの間、重い沈黙が続いた。
「・・・なぁ、闘護」
それを破ったのは悠人だった。
「何だ・・・?」
「どんな娘だったんだ?その・・・オルファリルって娘は」
「・・・良い娘だったよ」
闘護は遠くを見つめるような瞳で窓を眺めた。
「そう・・・素直で明るい、お前を父と慕っていた・・・」
―同日、夕方
食堂
ガチャリ・・・
「ユート様・・・」
「ユート殿・・・」
「ユート・・・」
部屋に入った悠人に、テーブルに着いていた三人が顔を上げた。
「みんな・・・」
悠人は複雑な表情を浮かべて俯く。
「その・・・」
「・・・トーゴ様からお聞きになったのですか?」
言いかけた悠人の言葉を遮り、エスペリアが尋ねた。
「何故、トーゴ様が我々に早く戻ってくるように命令したのか・・・」
「・・・ああ」
悠人はゆっくりと顔を上げた。
「・・・ごめん、みんな」
「どうして謝る?」
アセリアが首を傾げた。
「どうしてって・・・」
「アセリア殿の言うとおりです。ユート殿に非はありませぬ」
ウルカが口を開いた。
「それは・・・その・・・」
「“今”は、いいんです」
エスペリアが首を振った。
「“今”・・・?」
「私達は戦いが終わるまで・・・トーゴ様の意志に従います。ですが・・・」
そこで、エスペリアは悪戯っぽく笑った。
「その後は・・・我慢しませんからね」
「へ・・・?」
「手前どもはオルファリルという方の想いを汲みます。しかし、トーゴ殿は“戦いが終わるまで”と申しました」
「だから戦いが終わるまで我慢する」
「・・・」
三人の言葉に唖然とする悠人。
「・・・なんとまぁ」
部屋の外で聞き耳を立てていた闘護は目を丸くした。
「女は強いねぇ」
―聖ヨト暦333年 コサトの月 黒 一つの日 昼
闘護の宿泊室
「さて・・・」
テーブルの上に広げられた地図に視線を落とし、闘護はゆっくりと腕を組んだ。
『いよいよ帝国内部に侵攻する、か・・・』
コンコン
「どうぞ」
ノックの音に、視線を落としたまま返答する闘護。
ガチャリ
「失礼します」
挨拶の後、ヒミカとナナルゥが部屋に入ってきた。
「待っていたよ」
闘護はゆっくりと顔を上げた。
「宿題は出来たか?」
「はい」
ヒミカは頷くと、持っていた資料をテーブルの上に置いた。
「じゃあ、早速説明してもらおうか」
―同日、夜
リレルラエル スピリット隊宿舎
ガチャリ・・・
「すまん、遅れた」
「遅いぞ、光陰」
窓の外を眺めていた闘護が振り返りつつ渋い表情を浮かべる。
「悪い悪い」
光陰は謝りつつ、椅子に腰を下ろす。
「何してたのよ?」
今日子が尋ねた。
「会議で報告することをまとめてたんだが、予想以上に時間がかかったんだ」
そう言って、持ってきた鞄から書類を取り出す。
「待たせてすまなかったな」
「気にするなって。俺だってさっき来たばっかりなんだ」
椅子に座っていた悠人がフォローする。
「さて・・・全員そろったな」
闘護はテーブルを囲んでいる面々を見回した。
席に着いてるのは、悠人、光陰、エスペリア、セリア、そしてヒミカとナナルゥの六人だ。
「それじゃあ、始めようか」
闘護が席に着き、全員が頷いた。
「ここ、リレルラエルの基地化は完了した。いよいよ進軍を再開することになる」
「全軍、準備は整っています。編成が決まり次第、すぐに出発できます」
セリアが報告する。
「闘護。もう作戦は考えてるんだろ?」
悠人の問いに、闘護は小さく肩をすくめた。
「それについては、後で説明する。まずは、大まかな侵攻経路についてまとめておこう。エスペリア、頼む」
エスペリアはテーブルの上に置かれた地図に、指示棒をおいた。
「リレルラエルから、サーギオス首都への経路は二つです。南西に進み、シーオスの街を経由して、サレ・スニルへと至る道。南東に進み、セレスセリスを経由して、更に南下し、ゼイギオスに向かう道です」
それぞれの道を表す線を指示棒でなぞる。
「ヨーティア様からの報告によりますと、首都サーギオスを囲う城壁、秩序の壁にはエーテルジャンプを使った罠が仕掛けられているようです。マロリガンが実用化していた物を、更に広範囲にしたもののようです」
「厄介ですね・・・」
ヒミカが深刻な表情で呟く。
「解除する為には、秩序の壁を維持しているエーテル供給を止めなければなりません。その為には・・・サレ・スニル、ゼイギオス、ユウソカ。以上の三都市を占拠しなければなりません」
続いて、エスペリアは三つの都市を指した。
「三都市の防衛力は絶大です。その経路でも次々と敵兵が現れることが予想されます」
「三都市に到達するだけでも、かなり時間がかかるな」
光陰が難しい表情で呟いた。
「はい。また、リレルラエル南部に広がる暖気の大平原。ゼィギオスの西に広がるトーン・ジレタの森、ユウソカ周辺のオリンの大地・・・どれもマナが異常なほど溢れています」
そう言って、各地域を指示棒で囲む。
「その為、お互いに想像を超える被害が発生します。ポイントでの戦闘は、とにかく用心して下さい」
「補給しつつ、進むってことになるわね」
今日子が腕を組みつつ呟いた。
「ああ。長期戦になることは覚悟しなくてはならない」
闘護がゆっくりと頷いた。
「三都市を占拠した後、秩序の壁を突破。一気に帝都へ突入します」
エスペリアが帝都を指す。
「具体的にはどうやるんだ?」
悠人が尋ねた。
「詳細はトーゴ様が担当ですが・・・」
言葉を濁しつつ、エスペリアは闘護に視線を向けた。
「ああ。それについてだがな」
闘護はヒミカとナナルゥに視線を向けた。
「ヒミカとナナルゥに、今回の作戦立案をしてもらった」
闘護の紹介を受け、二人が頭を下げる。
『よろしくお願いします』
「へぇ・・・二人が考えたのか」
悠人が感嘆の口調で言った。
「早速見させてもらいたいな」
「はい」
ヒミカが光陰の言葉に頷く。
そして二人は書類を全員に配った。
「ヒミカ。説明を頼む」
「はい!」
ヒミカは書類を片手に全員を見回した。
「まず、部隊を二つに分けます。第一部隊はサレ・スニル、第二部隊はゼイギオスに侵攻します」
「二面作戦か・・・確かに、一点集中では時間がかかるな」
悠人が頷いた。
「各部隊の編成は次の通りです。ナナルゥ、説明をお願い」
「はい」
ナナルゥが立ち上がった。
「第一部隊はユート様を隊長、エスペリアを副長とします。メンバーはアセリア、ウルカ、ネリー、シアー、ヘリオン、ニムントール、以上八名です。第二部隊は隊長にコウイン様、副長はトーゴ様です。メンバーはキョーコ様、セリア、ヒミカ、ハリオン、ファーレーン、そして私です」
「何でそんな構成にしたんだ?」
光陰が尋ねた。
「それは俺が説明しよう」
闘護が挙手する。
「何で闘護が説明するんだよ?」
「部隊編成については、俺の意見が入ってるからだ」
光陰の質問に答え、闘護は全員を見回した。
「第一部隊はサレ・スニルを経てユウソカを目指す。その上で、戦力は長期戦に対応できるように攻撃よりも防御・・・ブルースピリットを三人、それにニムを入れたんだ」
「ヘリオンちゃんがいるのは?」
「防御に力を注ぐとしても、攻撃が手薄ではサレ・スニルを落とせない。だから、ブラックスピリットの彼女を入れた」
「ブラックスピリットなら、ファーレーンでもいいんじゃないのか?」
「第二部隊はゼイギオス占領後、二手に分かれる。そのうち、一方はサレ・スニルに向かうからな。その時、戦力のバランスを考えるとファーレーンは第二部隊に欲しい」
「・・・」
「他に何かあるのか?」
「その・・・なぁ・・・」
光陰は言葉を濁す。
「何だよ?」
「ちょっと・・・」
光陰が小さく手招きをした。
闘護は小さくため息をつくと、席を立って光陰の側に来る。
「何だよ」
「耳、貸してくれ」
「・・・」
周囲の視線を気にしつつ耳を寄せる闘護。
「俺を第一部隊にまわしてくれないか?」
「何で?」
「何でって・・・わかるだろ?」
光陰がニヤリと笑う。
「・・・ああ、そういうことか」
闘護は納得したように頷く。
「第一部隊には、お前の好みのスピリットがいるから、と?」
「そうそう、わかってるじゃないか」
「ああ、わかってるよ」
闘護は肩を竦めた。
「だから、こういう構成にしたんだ」
「な、なんで?」
「戦闘に集中しなくなるから」
「そ、そんなことないぞ!俺は・・・」
「お前じゃなくて、スピリットたちが」
「何言ってるんだ?この俺がついてれば、みんな安心して戦えるだろ」
光陰の言葉に、闘護はハァとため息をつく。
「寝言は寝て言ってくれ」
「失礼な。俺は寝言なんていってないぞ」
「そうだな。後ろの様子を見れば本気で言っていることがわかる」
闘護は光陰の後ろに視線を移す。
「何を・・・言っ・・て・・」
光陰はちらりと後ろに視線をやって固まる。
「こ〜う〜い〜ん」
見ると、そこには周囲に放電しながら笑顔で二人を見ている今日子がいた。
「何を闘護にお願いしてたのかなぁ〜」
「え、えっと・・・それは・・・」
「好みのスピリットがいる第一部隊に配属を変えてくれだとさ」
闘護があっさりと暴露する。
「と、闘護!!」
「どうぜバレてるんだ。潔く折檻を食らって来い」
ドン!
「う、うわっ!!」
闘護は光陰を今日子の方へ突き飛ばす。
光陰はこけそうになりながら今日子の傍で止まる。
「あ、あはは・・・」
「覚悟はい〜い?」
「い、いや・・・まだ出来てないから、待ってくれ!!」
「待てるかぁ!!」
ドゴーン!!!
「はぁはぁはぁ・・・」
「・・・さて、気は済んだか」
荒い息を吐く今日子に、闘護は冷静に言葉をかける。
「・・・少しはね」
「そりゃよかった」
闘護は横たわる光陰の側に寄った。
ツンツン
「おーい、光陰」
横たわる光陰をつつく闘護。
ツンツン
「大丈夫か?」
横たわる光陰をつつく悠人。
「・・・」
無言で横たわる光陰。
ツンツン
「うーむ・・・ちょっとやりすぎ、かな」
つつきつつ、そっぽを向いている今日子を見る。
「何よ。アタシが悪いっての?」
「原因は光陰だが、やりすぎだよ」
「こんなのいつもの事よ」
冷静な口調で窘める闘護に、今日子は口をとがらせる。
「いつもの事ねぇ・・・」
「ほら、さっさと起きなさい」
呆れる闘護を尻目に、今日子は横たわっている光陰を揺さぶった。
「・・・」
「光陰!」
何の反応も示さない光陰に、今日子は更に乱暴に揺さぶる。
「キョ、キョウコ様!?」
「少し様子がおかしいのでは?」
焦るエスペリアと心配そうに呟くウルカ。
他の面々―心なしか、アセリアとナナルゥも―も心配そうに光陰を見つめる。
「ちょ、ちょっと・・・!?」
普段とは違う様子に、今日子は慌てて光陰を抱え起こす。
「こう・・・」
ムニュッ
「んぁっ!?」
【!?】
抱え起こした光陰の頭が今日子の胸に乗っかかる。
「うーん・・・」
今日子の胸の中で小さくうなる光陰。
【・・・】
「あ・・・あ・・・こ・・・」
突然の事態に呆然とする悠人達と言葉にならない声を上げる今日子。
ガシィッ!!
「ったく・・・」
その時、一人冷静だった闘護が光陰の胸ぐらを掴んだ。
「むんっ!!」
グイッ!!
「ぐぉっ!?」
うめき声を開け、目を見開く光陰。
闘護は、その光陰の顔に自分の顔をぐいっと近づけ一言。
「起きろ」
「ぐ、ぐるじい・・・」
うめく光陰を、闘護はポイッと放る。
「っと・・!」
光陰はよろめきながらもしっかり二足で立った。
「下らない三文芝居で話を止めるな」
「いやぁ〜、今日子が心配してくれるんでつい・・・」
「つい・・・何?」
【!?】
恐ろしくドスの効いた声にビクリと身をすくめる光陰と悠人達。
「君が心配するのが嬉しいからつい甘えたんだとさ」
一人、冷静な闘護が冷静に状況を分析し、冷静に答える。
「怒る気持ちは理解するが、折檻は後に・・・」
「やかましい!!!」
バシコーン!!
「ぐぁっ!!」
ガクッ
今日子のハリセンを頭頂に受け、片膝をつく闘護。
「こ〜う〜い〜ん〜」
「ま、待て、今日子!!」
恐怖一杯の表情を浮かべて後ずさる光陰に、迫力のある笑みを浮かべながらゆっくりとにじり寄る今日子。
「か〜く〜ご〜は〜い〜い〜?」
バチバチバチッ・・・
先程闘護に叩き付けたハリセンを振り上げる。
マナの雷が今日子の周囲に渦巻いていた。
【・・・】
悠人達は恐怖の表情で一言も発せない。
既に一撃を受けてダウン中の闘護は蹲ったまま動かない。
「ちょ、調子に乗りすぎた!!ゴメン!!」
「ダメ!!お仕置き!!」
手を合わせて頭を下げる光陰に、容赦なく振り下ろされるハリセン。
ドゴーン!!!!
「はぁはぁはぁ・・・」
「・・・気は済んだか」
荒い息を吐く今日子に、頭を押さえた闘護が冷静に言葉をかける。
ちなみに、床にはブスブスと黒煙を上げて黒こげになった光陰が転がっていた。
「ええ、少しはね」
「そりゃよかった」
そう言ってゆっくりと立ち上がった闘護は、唖然としている悠人たちに視線を向ける。
「ほかに質問は?」
「・・・闘護」
今度は悠人が挙手する。
「何だ、悠人?」
「帝都サーギオスに到着するまで・・・どれくらいかかるんだ?」
「そうだな・・・早ければ四ヶ月。遅くて半年、というところだ」
「長期戦になりますね・・・」
セリアが重い口調で呟いた。
「三都市全てを落とさないと道は開けない。そしてその次は秩序の壁・・・先は長い」
「はい・・・扉をこじ開けましょう。あと、もうほんの少しで全てが終わるのですから」
「ああ。エスペリアの言うとおりだ」
悠人が頷く。
「・・・私たちにマナの導きがあらんことを」
エスペリアが祈るように手を組み呟いた。
なお、光陰が復活したのは十分後だった。
―聖ヨト暦333年 コサトの月 黒 四つの日 昼
闘護の宿泊室
「・・・」
闘護はテーブルの上に置かれている籠手を撫でた。
「この戦いが終われば・・・どうなる?」
『秋月君を倒し、佳織ちゃんを助け出す。そして、俺たちの戦いは終わる』
ゆっくりと瞳を閉じた。
『だが、そうなったら・・・四神剣はどうなる?』
「既に【空虚】は死んだも同然だ。【因果】も降伏している。【誓い】は・・・勝てば砕かれるだろう」
籠手を持ち上げる。
『残るは【求め】・・・そして・・・』
コンコン
「む・・・誰だ?」
「セリアです。スピリット隊の出陣準備が完了しました」
「わかった。すぐに行く」
扉越しに返事をして、闘護は籠手を身につけた。