―聖ヨト暦３３３年 ホーコの月 青 二つの日 朝
ケムセラウト 宿の一室
出撃前のひととき。
悠人は、ケムセラウトの宿の一室にいた。
『直に戦いが始まる・・・』
意識を集中し、静かに気合いを入れた。
「・・・」
『思い出すのは、これまでの戦い・・・そして、命を賭けて戦うなんて思いもしなかった、元の世界でのこと』
小さく息をつく。
『【求め】から力が滲み出てくる・・・』
悠人は【求め】の柄を握りしめた。
「よし・・・行くか」
『きっと、みんなはもう待っているだろう』
立ち上がり、窓の外を見る。
暖かな光を感じながら、悠人は部屋を出た。
―同日、朝
ケムセラウト 宿の食堂
「ユート様。いよいよ帝国との戦いです」
エスペリアは真剣な表情を浮かべた。
集まっている悠人、闘護、光陰、今日子、セリアの表情も真剣である。
「旧ダーツィ領からの侵攻となりますが、敵国もエーテルジャンプ装置を実用化しています。攻めることだけを考えていたら、後方にかなりの被害を出してしまうでしょう。ラキオスの戦力に対して、帝国の運用部隊数はかなり多くなると予想されます」
エスペリアは思案の表情を浮かべた。
「マロリガンから得たマナを元に既に準備は終わっている。軍事面での差は確かに大きいが、勝てない戦ではない」
闘護が手元の資料を振りかざしながら言った。
「悠人達がいない間に、何度か帝国のスピリットと戦ったが・・・数は向こうが断然上だな」
光陰がゆっくりと言った。
「でも、数では負けてても、こっちの方が力は上よ」
今日子が強い口調で主張する。
「キョウコ様の言うとおりです。ラキオスは決して劣ってはいません」
セリアも今日子の意見を肯定する。
「うん。じゃあ、早速作戦の説明に入ろう」
闘護はテーブルの上に広げられた地図に目を落とす。
「まず、ケムセラウトから南下し、法皇の壁を突破。そして、リレルラエルを攻略する」
地図上のケムセラウトからリレルラエルへの道を指でなぞる。
「帝国との本格的な戦いに備えて、リレルラエルは確実に落とさなくてはならない。まずは全戦力を投入する」
闘護の言葉に全員頷く。
「さて・・・この作戦において、最大の障害はここだ」
そう言って、帝国を覆うように広がる線をなぞった。
「法皇の壁と呼ばれる障壁・・・これを突破しなくてはならない」
闘護は全員を見回した。
「ここは帝国にとって最大の防壁だ。向こうも防衛の為にスピリットを多数配備しているだろう。かなりの難物だ」
【・・・】
真剣な表情で闘護の言葉に耳を傾ける五人。
「だが、これを超えなくては話が進まない」
「そうだな」
光陰が頷く。
「この戦いさえ終われば、今度こそ大陸も平和になるはずですから・・・」
エスペリアが噛みしめるように呟いた。
「ああ。佳織を助け出し、この戦いを終わらせてみせる・・・絶対に！！」
悠人が力強く宣言した。
「その意気だ」
闘護がニヤリと笑った。
「それじゃあ、編成を発表しようか」
闘護は資料から二枚の紙を取り出した。
「一応、日本語で書いたものも用意した」
そう言って、取り出した紙をテーブルの上に置く。
「ラキオススピリット隊のみで進軍することになる。道も一本だから、編成も単純だ。リーダーは悠人。その下にサブリーダーとして光陰と俺がつく」
「アタシは光陰の補佐で、エスペリアは悠の補佐ね」
「トーゴ様の補佐はセリアですか・・・基本的な編成ですね」
今日子とエスペリアが紙をのぞき込みながら言った。
「他のメンバーはその下に配置する。小隊編成は臨機応変にいく」
闘護は補足説明をすると、全員を見回した。
「どうかな？」
「いいと思うぜ」
光陰が賛成の意を示す。
「私も賛成です」
「はい。問題ないと思います」
エスペリアとセリアもそれぞれ同意する。
「別にいいんじゃないの」
今日子が頷いた。
「悠人。どうだ？」
闘護の問いかけに、悠人はゆっくりと頷いた。
「これでいいよ」
「よし。それから・・・」
闘護は鋭い眼差しを全員に向けた。
「帝国軍には人間の兵士が混じってくる」
【！！】
「おそらく戦いを避けることは出来まい。つまり、スピリットだけでなく人間も相手しなければならない。そうなると・・・ラキオス王国のスピリット隊は人間を殺せん」
そう言って、闘護はエスペリアとセリアに視線を向けた。
「人間が出てきたら、退いていい」
「は・・・はい」
「わ、わかりました」
エスペリアとセリアは困惑気味に頷く。
「悠人、光陰、今日子。人間の相手は君たちに任せる」
「あ、ああ・・・」
「え、ええ・・・」
困惑気味に頷く悠人と今日子。
「人間を相手にするのは嫌かもしれんが、頼むぞ」
「・・・」
闘護の言葉に、光陰は小さく眉をひそめた。
しかしそれに気づかず、闘護は悠人を見た。
「悠人。まとめてくれ」
「あ、ああ・・・わかった」
悠人は慌てて頷くと、全員を見回した。
「みんな・・・必ず、勝とう！！」
【おう！！】
【はい！！】
会議が終わり・・・
「トーゴ様」
書類や地図を片付けていた闘護に、セリアが声をかけた。
「なんだい、セリア？」
「少し、よろしいでしょうか？」
「・・・いいよ」
真剣な表情のセリアに、闘護は小さく頷いた。
「先日の任務について、お聞きしたいことがあります」
「先日の任務って・・・悠人とアセリアの二人と遂行した事か？」
「そうです」
「・・・わかった」
闘護は側にあった椅子に腰掛けた。
「で・・・何を聞きたい？」
「ファーレーンから聞きました。トーゴ様は、任務中にユート様とアセリアを逃がすために囮になったと」
「・・・」
「どうして、そのような無茶なことをしたのですか？」
「無茶、ねぇ・・・」
セリアの問いに、闘護は小さく肩をすくめた。
「別に無茶とは思ってないけど」
「それが問題なのです」
セリアは厳しい口調で言った。
「もう少し自分を大切にしてください」
「してるよ」
「いいえ。していません」
「・・・弱ったな、どうも」
即答するセリアに、闘護はポリポリと頭を掻く。
「俺が囮になったのは、あくまで三人全員が生き残る方法として最善と考えたからだ。つまり・・・」
「スピリットの攻撃に耐性のあるトーゴ様が敵を引きつけることで、ユート様とアセリアが安全圏に逃げられる。そして、トーゴ様はそのまま単独で逃げられる」
闘護の言葉を継ぐように、セリアが言った。
「そういうことですね？」
「・・・おおむね正解だな」
「では、お尋ねします」
セリアは闘護の瞳をまっすぐ見つめた。
「トーゴ様は重傷を負われたと・・・ヒミカから聞きました」
「額の傷か？」
「そうです。かなり深い傷だったそうですね？」
「まぁ・・・な」
「もしかしたら、命を落としていたかもしれない・・・と」
「可能性は・・・あったかな」
闘護の声が、次第にしぼんでいく。
「・・・これが無茶でなくてなんだと言うのですか？」
厳しい口調でセリアが詰め寄った。
「確かに、最善の方法であることは理解できます。ですが、それでも・・・それでも、トーゴ様が危険であったことに・・・」
「任務遂行のためならば、危険であってもするべきではないのか？」
「もちろんです。ですが・・・トーゴ様は・・・自身を大切にしなさ過ぎます」
セリアは唇をかみしめ、俯く。
「三人で逃げ切る・・・その方が安全だったかもしれないのに、わざわざ囮になる・・・確かに、最善だったかもしれません。ですが、その為にトーゴ様のリスクが大きくなりすぎているように思えます」
「・・・」
「ユート様とアセリアを逃がすことが重要なのは理解しています。ですが、その為にトーゴ様がより危険な目にあわれる・・・おかしいと思います」
「言葉を返すようだがな」
闘護は小さく肩をすくめた。
「俺は自身を捨てるような真似はしていないし、する気もない。前にも同じようなことを言った筈だが？」
「はい・・・ですが、最近のトーゴ様の行動を見ていると、そうは思えないのです」
セリアは心配そうな表情を浮かべた。
「大丈夫だ。俺は自身を捨てるような真似はしない」
闘護は優しい笑みを浮かべた。
「信じて・・・いいのですね？」
「もちろんだ」
「わかりました・・・失礼します」
セリアは一礼して部屋から出て行った。
そして部屋には闘護が一人、残る。
「・・・俺は自身を捨てるつもりはない」
闘護は天井を見上げた。
「捨てるつもりは・・・ない」
「本当か？」
「！？」
突然の声に、闘護はビクリと身をすくめた。
「よう」
「光陰・・・」
声の主は、部屋の入り口に立っていた光陰だった。
「なんでここに・・・」
「ちょっと言いたいことがあったんだが・・・来て正解だったな」
光陰は肩をすくめると、部屋の中に入ってきた。
「・・・何を言いに来たんだ？」
「わからないのか？」
憮然とした表情で尋ねる闘護に、光陰は首を振った。
「さっきの作戦会議だが・・・随分な言い種だったな」
「・・・どういう意味だ？」
「スピリットと人間を区別していたことだよ」
そう言って、闘護の顔をのぞき込んだ。
「“人間を殺すのは嫌かもしれない”・・・あの場でこういうことを言うべきじゃない。あれでは、スピリットは殺すのは平気だが人間を殺すのは嫌だという意味になる」
「！！」
光陰の指摘に、闘護はハッと身体を震わせた。
「お前と違って・・・いや、お前以外には、人間を殺すのもスピリットを殺すのも同じ・・・どちらも嫌なことだ」
「・・・」
「昨日の件も含めて、どうしてお前がそんなことを言ったのか、疑問に感じていたんだが・・・さっきのセリアへの対応を見て、なんとなくわかったよ」
「・・・どういうことだ？」
「視野が狭まってるんだよ」
光陰は闘護の顔をのぞき込んだ。
「余裕、ゆとりが無くなってるんだ。普段ならもっと考えて言う筈が、せっぱ詰まったというか・・・焦ったように言葉を吐いていた。言葉を選ぶ余裕が無いんだな」
「・・・」
「その原因は・・・多分、セリア達の事だろ」
そう言って、光陰は小さくため息をついた。
「自分の行動に意見・・・いや、文句を言う。それがお前を苛つかせている。そうじゃないのか？」
「そんなことは・・・」
「無い、と言いきれるのか？」
「うっ・・・」
言葉を詰まらせる闘護。
「昨日、ヒミカ達に言っていた言葉だが・・・あのときは気にならなかったが、今考えると少し言葉が過ぎたんじゃないのか？彼女たちはお前を心配してたんだぞ」
「・・・」
「彼女たちがお前の判断に意見を言うのは、お前を心配しているからだ。それを、お前は鬱陶しいと感じてるんじゃないか？」
「・・・」
「図星、か・・・」
沈黙する闘護に、光陰はため息をついた。
「どうしてそう感じるんだ？」
「・・・俺は、俺の考えが正しいと思って行動している。そして、その結果もまた、俺の望んだものになった。これは問題なのか？」
闘護は縋るような目つきをして尋ねた。
「・・・問題ない」
「だろ？」
「ただし、作戦の面から見たらの話だが、な」
光陰はジロリと闘護を睨んだ。
「闘護。お前は以前、俺と今日子と悠人の三人の関係に首を突っ込んだことがあったな」
「・・・ああ」
「あの時は俺たちにも非はあった。だから、お前の言い分に反論することが出来なかった。しかし、セリア達の言い分は正論だと思うぞ」
「俺は・・・俺の目的を達成するためにやっている。その責任は全て俺自身にある。ならば、どんなことが起ころうと、それは全て俺に返ってくるべきじゃないのか？」
「お前だけに返ってくることなんてあり得ない」
訴える闘護を、光陰は一蹴した。
「どれだけお前が自分一人で責任を取ろうとしても、その影響はお前以外の誰かに及ぶ。それが組織であり、仲間ってもんだ」
「・・・」
「ちょっと自己中心的な考え方になりすぎてないか？自分のことばかり考えて、周りのことを考えていないんじゃないのか？」
「・・・」
苦い表情のまま沈黙する闘護。
「それが、お前の視野を狭めている。結果、余裕を無くして周りに・・・迷惑をかけている」
そこまで言って、光陰は小さく首を振った。
「もう少し考えてみたらどうだ？」
「・・・」
沈黙する闘護に、光陰は肩をすくめた。
「あとは自分で考えるんだな。お前なら、それが出来るだろ？」
「・・・やってみる」
小さな声で答えた闘護に、光陰は小さくため息をつきつつ頷いた。
「じゃあな」
そう言い残し、部屋から出て行く。
「・・・」
ドン
闘護はテーブルに両手をついた。
「俺は・・・間違っているのか？」
『俺の目的・・・それを達成するためならば、どんなことでもする。それは間違っているのか？』
唇をかみしめる。
「全ての責任を俺が取ることは不可能・・・影響を全て自分が引き受けることは不可能・・・」
『確かに、光陰の言うとおりだ。俺の行動が周りに影響を与えることは否めない』
小さくため息をつく。
「俺は自分のために行動していた。だが、その結果で周りがどういう思いをするのか・・・それを考えていなかったのか？」
『ならば、それは身勝手に過ぎない・・・間違っている・・・』
天井を見上げた。
「くそっ！」
ドンッ！！
腹立たしげにテーブルを叩く
「俺は何て愚かなんだ・・・」
『自分がしていることが自分のわがままだと承知しているからといって、やっていい訳がない。そんなことに気づかなかったのか、俺は？』
苦い表情を浮かべる。
「光陰に言われるまで気づかなかったとは・・・そこまで俺は視野を狭めていたのか？」
『セリア達の心配を負担に感じていたのか？そんな失礼・・・ふざけた真似を俺は自覚のないまましていたのか？』
小さく首を振る。
「考え直さないといけない・・・自分の行動について」
―聖ヨト暦３３３年 ホーコの月 赤 一つの日 昼
ケムセラウト＝リレルラエル間街道
ドゴーン！！！ズガーン！！
ウォオオオオ！！！！
神剣魔法による爆発音と剣戟音、そして怒号・・・
街道では、悠人率いるラキオス王国スピリット隊とサーギオス帝国スピリット隊が激しい戦闘を繰り広げていた。
「トーゴ様！！」
後方に待機していた闘護の元へ、セリアが駆け込んできた。
「戦況は？」
「ユート様とキョウコ様が敵陣を突破しました！！」
「被害は？」
「ヒミカとシアーが軽傷したのみです」
「わかった」
「失礼します！！」
一礼して、セリアは戦線へ戻っていった。
「・・・とりあえず、順調か」
闘護は前方を見つめた。
怒号と爆音、そして猛烈な砂煙が立ち上る戦場。
その中で、時折緑色の光がちらつく。
「被害が少ないのは光陰のサポートが利いているからか・・・スピリットとの戦いは、何とかなる、か」
小さく頷く。
「だが・・・人間が相手ならどうなるか」
闘護の懸念は、すぐに現実のものとなった。
―同日、夕方
ケムセラウト＝リレルラエル間街道
「結局、予想していたことが現実になった訳か・・・随分と積極的に戦闘に参加する国民だな」
闘護は小さく肩をすくめた。
「スピリットが前に出てるのにも関わらず、平気で前線に飛び込んでくる人間なんて、初めて見たよ」
「・・・ああ」
悠人がゆっくりと頷く。
「こうなると、君たちはハンディを背負うことになるか・・・」
闘護はそう言ってエスペリアとセリアを見つめる。
「はい・・・私たちスピリットは人間を殺すことが出来ません」
「申し訳ありません」
エスペリアとセリアは小さく俯いた。
「そんな顔をするな。君たちは悪くない」
そんな二人に、闘護は首を振った。
「悠人、今日子、光陰。彼女たちが戦えない分、人間の相手は君たちと俺がする」
「ああ・・・」
「わかってるわ・・・」
複雑な表情で頷く悠人と今日子。
「・・・人間と戦うのは嫌か？」
闘護が探るような目つきで尋ねる。
「・・・人間だろうが、スピリットだろうが、戦うのは嫌だよ」
悠人が苦い表情を浮かべて呟く。
「そうか・・・そうだよな」
闘護は小さく、納得したように頷く。
「どうしたんだ？」
闘護の言葉に、悠人は目を丸くして尋ねた。
「いや・・・なんでもないよ」
小さく首を振る闘護。
【？】
その様子に首を傾げる悠人と今日子。
「・・・」
『どうやら、意識は変わったようだな』
ただ一人、光陰は小さくため息をついた。
「話を戻そう」
それに気づかず、闘護はゆっくりと全員を見回した。
「今日の戦いで確信した。これから相手をする帝国は、人間とスピリットの混成部隊・・・というより、人間の部隊とスピリットの部隊の両方を相手にしなければならない」
【・・・】
真剣な表情で闘護の言葉に耳を傾ける悠人達。
「だが、ラキオスのスピリットは人間を殺せない。そこで・・・人間の部隊と共闘することになる」
そう言って、闘護は懐から紙を取り出した。
「編成については帝国と同じく、スピリットの隊と兵士の部隊とにそれぞれ分ける。進軍は同時だが、相手の出方次第でどちらが前に出るかは変わってくる」
「それは臨機応変に対処するしかないな」
光陰が言った。
「ああ。兵士の部隊は既にこちらに向かっている。明日中には合流できるだろう」
「進軍はそれからか・・・」
悠人はゆっくりとため息をついた。
「このペースならば、法皇の壁まで三日前後で到着する。まずは、そこを落とさなければならない」
闘護は悠人を見た。
「ああ。最初の関門だ。みんな、一気に行くぞ！！」
悠人の言葉に、全員頷いた。
次の日、ラキオス軍がスピリット隊に追いつき、合流した。
そして一行が最初の関門となる法皇の壁へ到着したのは、闘護の予想通りそれから三日後だった。
―聖ヨト暦３３３年 ホーコの月 赤 五つの日 朝
法皇の壁
「・・・あれが法皇の壁、か」
遙か遠くに見える長い線を望みながら、闘護は呟いた。
「凄いな・・・ここからでも見えるぞ」
悠人が感嘆の声を上げる。
「万里の長城みたいだな」
光陰が肩をすくめる。
【万里の長城？】
エスペリアとセリアが首を傾げた。
「俺たちの世界にある建造物だよ。あんな感じで、長い、長い城壁さ」
闘護が説明する。
「ねぇ・・・あんなのをどうやって落とすのよ」
今日子が不安そうな表情で尋ねた。
「落とすというより、通過するというのが正しいな」
そう言って、闘護は懐から紙を取り出した。
「法皇の壁自体に拠点としての能力はない。あの壁の役割は、領地の分断と侵入者を阻むことだ」
紙を見ながら説明をする闘護。
「じゃあ、壁の向こうには何があるのよ？」
「何もないよ。ま、小屋ぐらいはあるかもしれないけど」
今日子の問いかけに、闘護は首を振った。
「壁を突破することは重要だが、むしろ落とすべきなのはその先・・・リレルラエルだ」
「はい。リレルラエルを制圧しない限り、橋頭堡が確保できません」
闘護の言葉をエスペリアが補足する。
「つまり、さっさと通り抜けるってことだな」
「ああ。悠人の言うとおり、短時間で抜けなければならない」
言いながら、闘護は再び紙に視線を落とす。
「ところが・・・この壁がなかなか厄介でね」
「神剣魔法では破壊できん」
闘護の言葉を継ぐように、光陰が口を開いた。
「それに城壁での戦闘は守備側が有利だ。攻めるとなると、かなりの戦力を導入しなければならない」
「ああ。正面突破だと消耗戦になる上、攻める俺たちが不利だ」
「じゃあどうする？」
光陰の問いに、闘護はポリポリと頭をかいた。
「本当は“トロイの木馬”みたいなことが出来ればいいんだけどね」
【“トロイの木馬”？】
闘護と光陰を除いた全員が首を傾げた。
「何だよ、それ？」
悠人が尋ねた。
「ギリシャの昔話で登場する、城門を内側から開ける作戦だ」
「城門を内側から・・・どうやってそんなことを？」
セリアが尋ねた。
「囮を進入させて、門を開けさせたんだが・・・まぁ、それはどうでもいい。要は、城門を内側から開けられたらいいんだ」
「そんな方法、あるの？」
今日子の問いに、闘護は首を振った。
「いや、ない」
【・・・】
言葉を失う悠人達に、闘護は肩をすくめた。
「だが、内側ではないが、外側から門を開ける方法は存在する」
「まさか、強行突破で門を破壊する・・・なんて作戦じゃないだろうな？」
「その通り」
光陰の言葉に、闘護はあっさりと頷く。
【・・・】
再び言葉を失う悠人達。
「あのなぁ・・・それは作戦でも何でもないだろ」
「門を破壊するだけならな。重要なのは、その後だよ」
光陰の言葉に、闘護は肩をすくめた。
「どういう意味だ？」
悠人が尋ねた。
「作戦としては三段階・・・まず、第一段階である程度帝国軍を退かせる。第二段階で門を破壊し、第三段階で門から侵入した部隊と外にいる部隊で城壁に残った敵兵を挟み撃ちする」
そう言って、闘護は全員を見回した。
「その後、一気にリレルラエルへ進軍する。向こうが体勢を整える前にケリをつけるんだ」
「もう少し詳しく説明してよ」
今日子が焦れた様子で言った。
「ああ。まず、第一段階ではスピリットと人間の混戦になると考えている。ここでポイントになるのは人間とスピリットの連携だ」
闘護はセリアを見た。
「セリア。君には伝令係として戦場を飛び回ってもらう」
「わかりました」
続いて、闘護は悠人達を見回す。
「悠人、光陰、エスペリア、今日子には、スピリットとラキオス軍を率いて戦ってもらう」
「ラキオス軍を率いるの？」
今日子が驚いた様子で尋ねた。
「ああ。彼らには帝国軍の相手をしてもらう」
「スピリットとラキオス軍の切り替えはどうするんだ？」
悠人が尋ねた。
「それは指揮をする者の判断に任せる。臨機応変に頼むよ」
「・・・で、第二段階は？」
光陰の問いかけに頷くと、闘護は持っていた紙を懐にしまった。
「門を破壊する部隊以外は一旦退く。その部隊は一気に門に突撃する」
「トーゴ様。どのようにして門を破壊するのですか？」
エスペリアが少し遠慮がちに尋ねた。
「俺が壊す」
【・・・え？】
闘護の簡潔な答えに、全員目を丸くした。
「マナによる攻撃に耐性がある以上、物理的な破壊に頼るしかない。それならば、神剣を使わない俺が適任だ」
「ちょ、ちょっと待てよ！？どうやって破壊するんだ？」
慌てて悠人が叫んだ。
「だから言ってるだろ。“物理的に”破壊するんだ」
「物理的って・・・体当たりでもするつもりか？」
呆れたように尋ねる光陰に、闘護はあっさりと頷いた。
「それもすると思う。あとは・・・適当に殴り続ける、ってとこかな」
「って・・・それじゃあ、アンタだけで門を壊すつもりなの？」
今日子が眉をひそめた。
「ああ」
「じゃあ、他のメンバーは何をするのよ？」
「俺が門に到達、破壊するまでの護衛と時間稼ぎ。それに、第三段階で内側から攻撃してもらう」
「部隊の編成は決めてるのか？」
光陰が尋ねた。
「メンバーは俺以外に悠人、光陰、今日子、エスペリア、アセリア、ウルカ。全部で七人だ。他のスピリットは、城門を破るまでラキオス軍と共に退く」
「七人だけで・・・厳しいですね」
エスペリアが難しい表情を浮かべた。
「確かにな。だから精鋭を選んだ」
「ヒミカやナナルゥをさせないのはどういう訳だ？」
悠人が尋ねた。
「神剣魔法は遠距離の相手に攻撃することで真価を発揮する。第二段階で重要なのは、敵を倒すのではなく、門へ到達すること。それに、第三段階に移行したときに、城壁の向こう側とこちら側で戦力差が大きくなるのは避けたい」
「それにしては、随分と戦力が集中している気もするが・・・」
「まぁ、光陰の言うとおり、突撃する部隊にはスピリット隊の戦力を集中させている。だが、これは城壁を抜けたあとの事を考えた末の編成なんだ。壁を抜けた部隊には、援軍が来ない」
「ちょっと待ってよ。それってつまり、戦いが終わるまで向こう側で戦うのはアタシ達だけってこと？」
今日子の問いに、闘護は頷いた。
「ああ。だから七人は全員接近戦の得意なメンバーにしている。ただ、遠距離が出来ない訳じゃないだろ」
そう言って、今日子と悠人を見た。
「二人とも攻撃系の神剣魔法が使えるだろ。それに、ウルカもある程度使用することが出来る。そして重要なのは・・・この三人の神剣魔法は、ブルースピリットによる凍結を無視できる」
闘護は全員を見回した。
「どうだ？」
「・・・まぁ、いいんじゃないのか」
光陰が肩をすくめた。
「そうですね・・・法皇の壁を短時間で突破する作戦としては、良いかと思います」
エスペリアが頷く。
「ちょっと無茶だと思うけど・・・エスペリアが賛成するなら、それが一番かもね」
「おいおい、俺が賛成したのは信用しないのか？」
今日子の言葉に、光陰が慌てて口を挟む。
「何言ってんのよ。アンタは投げやりに返しただけでしょ」
「うぐっ・・・それは・・・」
「ケンカは後でやってくれ」
闘護は二人の掛け合いを止めると、悠人とセリアを見た。
「二人はどうだ？」
「いいぜ、その作戦で」
悠人が頷いた。
「セリアは？」
「賛成ですが・・・私は何をすればいいのですか？」
「君には、第三段階で他のスピリットを率いてもらう。城壁を挟んでラキオス側の戦闘の指揮を任せる」
「わかりました」
「ラキオス軍への伝令も任せる。頼むぞ」
「はい！」
闘護の言葉に、セリアは力強く頷く。
「悠人」
「ああ」
悠人は闘護の声に頷くと、全員を見回した。
「よし。すぐにラキオス軍に連絡する。戦闘開始は三時間後だ！！」
【おう！！】
【はい！！】
そして三時間後・・・法皇の壁を突破しようとするラキオス王国軍と、それを阻止線とするサーギオス帝国軍が激突した！！
―同日、昼
法皇の壁
人間とスピリットの混成部隊同士の戦い・・・
しかし、実際はスピリットが先陣を切り、その後方から人間の軍が攻めてくる形だった。
その中で、ラキオス王国のスピリット達は善戦していた。
各所で敵スピリットを打ち破り、帝国軍を押していく。
そして・・・
「いやぁあああ！！！」
ズバッ！！
「ァアッ！！」
シュウウウ・・・・
アセリアの一刀を受けたスピリットがマナの霧となる。
「ウァアアアアア！！！」
その直後、アセリアの右側から別のスピリットが飛び込んできた。
「っ！！」
「アセリア殿！！」
その時、アセリアとスピリットの間にウルカが割って入った。
「ふっ・・！！！」
シュパッ！！
スピリットは、何が起きたかわからない表情を浮かべ、自分の身体に視線を向けた。
「・・・ぁ？」
そのまま、ズルズルと上半身が沈んでいく。
ウルカの一撃は、スピリットの上半身と下半身を一刀両断したのだ。
ドサッ・・ドサッ・・・シュゥウウウウ・・・
地面に落ちた上半身と下半身は、そのままマナの霧と化していく。
「・・・」
冥福を祈るかのように、瞳を閉じるウルカ。
その側で、アセリアは周囲を見回した。
既に敵スピリットは全滅し、残っているのは呆然としている帝国軍の兵士のみである。
「終わり・・・」
アセリアはゆっくりと後ろを振り向いた。
「今だ！！」
【うぉおおおお！！！！】
アセリアの後方で控えていたラキオス軍の兵士が一気に突撃する。
【うわぁあああああ】
味方のスピリットを倒された帝国軍は、あっという間に駆逐されていく。
「・・・よし。人間は撤退していったな」
後方から戦況を見つめていた闘護は後ろを振り返った。
「撤退合図を送れ」
【はっ！！】
後ろに控えていた兵士達は、各自持っている銅鑼を掲げた。
ジャーン！！ジャーン！！ジャーン！！
『合図・・・！』
「ラキオス軍の兵士は全員撤退しろ！！」
光陰が声を張り上げた。
「よぅし・・・セリア！！」
ラキオス軍が波が退くように撤退していく様子を見て、闘護はセリアを呼んだ。
「はいっ！！」
「ヒミカ達こちら側に残るスピリット達に待機するよう伝令を頼む！！」
「わかりました！！」
「任せたぞ！！」
セリアの返答に頷くと、闘護は走り出した。
タタタタッ
「はぁはぁ・・待たせたな」
「いや、俺たちも今揃ったところだ」
荒い息をつく闘護に、光陰が首を振った。
「みんな・・・」
悠人がその場にいる全員―闘護、光陰、今日子、アセリア、エスペリア、ウルカ―を見回した。
「準備はいいな？」
悠人の言葉に全員頷く。
「一気に攻め落とすぞ！！」
「ああ！！」
「おう！！」
「ええ！！」
「ん！！」
「はい！！」
「はっ！！」
タタタタタタ！！！
七人は凄まじい速度で法皇の壁にある門の一つに向かってひた走る。
バサササッッ！！！
そこへ、帝国の黒、青のスピリットが十数人、七人の疾走を阻止せんと群がってきた。
「邪魔はさせません！！」
「ん！！」
「はぁっ！！」
エスペリア、アセリア、ウルカが一歩前に飛び出す。
「【存在】よ。わたしに力を・・・はぁぁぁぁっ！！」
「いざっ、月輪の太刀・・・行く！！」
ズババババッ！！！
【！！】
シュウウウウ
アセリアとウルカの斬撃によって、あっという間に数体のスピリットがマナの霧となる。
「フッ・・・！！」
「ヤァッ！！」
しかし、別の二人のスピリットが間髪入れずにアセリアとウルカに襲いかかる。
「【献身】のエスペリアが命じる・・・風よ、守りの力となれ！！ウィンドウィスパーッ！！」
ヒュウウウウウ！！！
二人の身体を幾重もの風が包み込む。
キキキキーン！！！
【っ！？】
風はスピリットの攻撃を全てはじき飛ばした。
「てぃやぁぁぁぁっっ！！」
「ふっ！！」
ズバズバァッ！！
その刹那、素速く体勢を整えたアセリアとウルカの剣がスピリットを真っ二つに切り裂く。
タタタ！！
三人の間を、悠人、闘護、光陰、今日子が駆け抜ける。
「ヤァアアアア！！！」
それを止めようと、他のスピリット達が襲いかかる。
「闇よ、すべてを呑み込みて混沌と化せ。衝撃をもちて、彼の者を打ち倒せ・・・カオスインパクト！！」
ゴォオオオオオ！！！
ウルカが詠唱を終えると同時に、黒い衝撃波がスピリット達を襲う。
【！！！】
ズザザッ！！
スピリット達は襲い来る衝撃波に耐えられず、悠人達を追う足を止めた。
その隙に、スピリット達の間隙を縫うように四人は走り抜けた。
タタタタ！！
「むっ・・！！」
しかし十秒も走らないうちに、前方から赤スピリットが数人立ちはだかった。
「任せて！！」
今日子が一歩前に飛び出した。
「みんなまとめて、攻撃ィィッ！！」
かけ声を上げ、【空虚】を振り上げた。
バリバリバリバリバリ！！！
【空虚】から、稲妻が迸る。
「いっけぇぇぇっっ！！」
今日子は立ちはだかるスピリット達に向かって【空虚】を振り下ろした。
ドゴォーン！！！
【アアアアアアアア！！！！】
凄まじい電撃を受けたスピリット達が悲鳴を上げる。
「今の内に！！」
今日子のかけ声を背に、悠人、闘護、光陰はその間隙をすり抜けていく。
タタタタ！！！
いよいよ、三人は門にあと５０メートルというところまで迫った。
「来るぞ！！」
最後方にいる光陰が叫ぶ通り、城壁の上ではスピリット達が三人に向かって神剣を突き出している。
「加速する・・・！！」
先頭を走る闘護は身をかがめた。
「頼むぞ！！」
三人の真ん中を走る悠人は神剣を抜いた。
「援護は任せろ！！」
最後方の光陰も神剣を抜いた。
「おう！！」
シュッ・・・
かけ声と同時に、闘護の姿が一瞬ぼやけ・・・
ドゴォーン！！！
「・・・ぐぅっ！！！」
うめき声を上げる闘護。
闘護の体当たりを受けた門は、僅かに震えるだけだ。
ザザッ！！
【闘護！！】
僅かに遅れて駆け込んできた悠人と光陰。
「ぬぐぅ・・・まだまだぁ！！」
顔を歪めながらも、闘護は二歩後ろに下がった。
「うぉおおお！！！」
ドゴッ！！
右の拳を門に叩き付けた。
「うらうらうらぁ！！」
ドゴドゴドゴドゴドゴドゴ！！！
何十発ものパンチを門に向かってたたき込む。
【・・・】
その様を、城壁から唖然とした表情で見つめるスピリット達。
「ぐっ・・・うぉおおおお！！」
『拳が・・・保つか！？』
何十発もの拳を繰り出し続ける闘護の表情が、次第に苦悶のものになってくる。
「・・・な、何をしている！！」
城壁の上では、ようやく正気に返った指揮官らしき帝国兵が叫んだ。
「早くヤツを止めろ！！」
【！！】
その声に身をすくめると、スピリット達は城壁を降りて闘護に向かってきた。
「神剣よ、守りの気を放て。俺たちを包み、敵を退けよ・・・トラスケード！！」
「マナよ、我が求めに応じよ。オーラとなりて、守りの力となれ・・・レジスト！！」
パァアアアアア！！！
悠人と光陰が詠唱を終えると同時に、三人を光が包み込む。
キキキィーン！！
【！？】
襲いかかったスピリット達は、光に弾かれた。
ドゴドゴドゴドゴドゴドゴ！！！
その間にも、闘護は拳を繰り出し続けている。
門はデコボコになり、どんどん揺れが大きくなっていた。
「この・・・」
闘護は右手を引いた。
「砕け・・・ろぉ！！！」
そして、一気に門に向かって突き出す。
ドゴォーン！！！
「やった！！」
悠人が声を上げた。
凄まじい轟音と共に、門が吹き飛ばされた。
「悠人！！」
「わかってる！！」
闘護のかけ声に答えると、悠人は【求め】を門の奥へ向けた。
「マナよ、我が求めに応じよ。一条の光となりて、彼の者どもを貫け・・・」
パァアアアアアア・・・
【求め】の刀身が光り出す。
【ウァアアアアア！！！】
門の奥に待機していたスピリット達が声を上げた悠人達に飛びかかってきた。
「オーラフォトンビームッッ！！！」
バァーン！！
【ウワァアアアア！！！】
ドゴォーン！！！！
【求め】より発された閃光は、とてつもない爆音と衝撃を立て、スピリット達を吹き飛ばす。
「悠、光陰！！」
「ユート様！！」
「ユート！！」
「ユート殿！！」
その直後、今日子、エスペリア、アセリア、ウルカが駆け込んできた。
「行くぞ！！」
悠人の叫び声に続き、七人は一気に門の跡を抜けた。
―同日、夕方
法皇の壁
その後、日が落ちる直前に戦いはラキオスの勝利で終了した。
城壁を挟み込んだラキオス軍の前に、帝国軍は為す術もなく壊滅、撤退していったのだ。
「はぁはぁはぁはぁ・・・」
闘護は城壁にもたれ、荒い息をつく。
「おい・・・大丈夫か？」
疲労で肩を上下に揺らしている悠人が近づいてきた。
「・・・いや、こんなザマだ」
そう言って、闘護は両手を悠人に見せた。
「うわっ！？」
それを見た悠人は悲鳴を上げた。
闘護の両手は、文字通りボロボロになっていた。
指も甲も、皮どころか、肉すらえぐれて骨が露出していた。
しかしそれ以上に不気味な現象が起こっていた。
「肉が・・・動いて・・・」
震える口調で悠人が呟いた。
悠人の言葉通り、露出している骨を覆うように、肉が少しずつ動いているのだ。
否、動いているのではなく、再生しているのである。
「再生能力ってのは・・・直で見ると気持ち悪いな」
闘護は苦笑いを浮かべた。
【トーゴ様！！】
その時、セリアをはじめとする第二詰め所のメンバーが駆け込んできた。
「トーゴ様、ご無事で・・・っ！？」
言いかけたセリアはもちろん、他のメンバーも闘護の両手を見て絶句した。
「そ、その手・・・」
ヒミカが震える指で闘護の両手を指す。
「城門を開けた代償、だな」
「すぐに治療しますね〜」
ハリオンが包帯を取り出すと、闘護の両手に器用に巻き付けていく。
「ありがとう、ハリオン」
「ありがとうじゃありません！！」
セリアが我慢できず叫んだ。
「どうしてこんな無茶を・・・」
「・・・心配をかけてすまん」
闘護は頭を下げた。
「と、トーゴ様・・・」
闘護の謝罪に、セリアは面食らう。
【・・・】
他のメンバーも困惑した表情を浮かべていた。
「少々焦ってしまった。早く門を破壊しないと、護衛の悠人達が敵に囲まれていた」
そう言って、闘護は悠人に視線を向けた。
「闘護・・・」
「けど、な」
そこで、闘護はニヤリと笑った。
「急いだおかげで、作戦通り法皇の壁を突破できた。そしてこの手も一晩もあれば治るさ。なぜなら・・・俺は生きてるからだ」
【・・・】
唖然としているセリア達に、闘護は再び頭を下げた。
「心配してくれてありがとう。俺は大丈夫だ。だから・・・」
顔を上げ、真剣な表情を浮かべて全員を見回した。
「俺を・・・信じてくれ」
闘護はゆっくりと、訴えるような口調で言った。
「確かに俺は無茶をしている。だけど、決して無謀じゃないんだ。俺は自分を粗末に扱ったりしない。俺は・・・絶対に死なない。だから・・・信じてくれ」
「・・・信じて、いいのですか？」
ヒミカが震える口調で尋ねた。
「ああ」
「・・・わかりました」
セリアがゆっくりと頷いた。
「トーゴ様を信じます・・・無謀な無茶はしないと」
そう言って、セリアはヒミカ達を見回した。
「みんなも・・・いいわね？」
【は、はい・・】
セリアの問いかけに、ヒミカ達は少し困惑しつつ頷いた。
「ありがとう、みんな」
闘護は再び頭を下げた。