―聖ヨト暦333年 レユエの月 赤 五つの日 昼
謁見の間
「スピリット隊隊長【求め】のユート、そしてアセリア・・・任務、ご苦労であった」
玉座から立ち上がったレスティーナはゆっくりと頭を下げている悠人とアセリアをねぎらった。
「しばらくの間、ゆっくり体を休めるが良い」
「はっ!!」
悠人は返事をして立ち上がった。
続いてアセリアが立ち上がろうとした。
フラッ・・・
「あ・・・」
「アセリア!!」
ガシッ
ふらついたアセリアを、悠人は慌ててアセリアの腕をつかんだ。
「大丈夫か!?」
「ん・・・大丈夫」
アセリアはいつもの口調で答える。
『嘘だ。腕が震えてるじゃないか』
「館に戻ったら、すぐに寝るぞ。いいな」
「ん・・・わかった」
悠人はアセリアに肩を貸すと、再びレスティーナに視線を向けた。
「失礼します」
「え、ええ・・・アセリア、本当に大丈夫ですか?」
「ん・・・大丈夫。ユートがいるから」
【!!】
素直に答えるアセリアに、レスティーナを始め、謁見の間にいる者全てが唖然とする。
「か、帰るぞ!失礼します!!」
悠人は顔を真っ赤にしながらアセリアをつれて謁見の間から出て行った。
「・・・」
その二人の後ろ姿を、レスティーナが寂しそうな表情で見つめていた・・・
―同日、昼
第一詰め所
カチャリ・・・
「ただい・・」
バタン!!
「ユート様!!アセリア!!」
食堂からエスペリアが血相を変えて飛び出してきた。
「エ、エスペリ・・・」
ガシッ!!
「良かった・・・本当に良かった・・・」
悠人が何かを言う前に、エスペリアは二人を抱きしめた。
「エ、エスペリア・・・」
「・・・」
顔を赤らめる悠人とキョトンとするアセリア。
「ユート殿、アセリア殿」
開いたままの食堂の扉から、ウルカが出てきた。
「ウルカ」
「ご無事で何よりです」
ウルカは少し涙ぐみつつ頭を下げた。
「ああ・・・心配かけてすまなかった」
「ん・・・」
「いえ・・・」
ウルカは首を振ると、二人を抱きしめ続けているエスペリアに視線を移した。
「お二人とも、少しお休みなられた方がよろしいでしょう。エスペリア殿」
「え、ええ・・・」
エスペリアは名残惜しげに二人から離れた。
「それでは、夕食の時間になったらお越しに参りますので、しばらくお休みください」
「ああ。ありがとう」
「ん・・・さんきゅ」
悠人はアセリアの肩を持って歩き出した。
「あ・・・」
「む・・・」
その様子があまりに自然だったため、エスペリアとウルカは目を点にする。
「大丈夫か、アセリア?」
「ん・・・大丈夫」
寄り添うように歩いていく二人を、二人は呆然と見つめていた。
―同日、夕方
第一詰め所 食堂
食事の時間になり、ラキオスに待機しているスピリット―エスペリア、ウルカ、ファーレーン、ニムントール―は、食堂に集まった。
悠人とアセリアも、エスペリア達に事の次第を伝えるために食堂に行った。
「本当に無事で何よりです」
言いながら、エスペリアがテーブルに料理を置く。
「ああ。正直、無事に戻れてホッとしてる」
悠人は安堵の息をつきつつ言った。
「ですが・・・トーゴ様は大丈夫でしょうか?」
エスペリアの後ろから、料理を運んできたファーレーンは心配そうな表情を浮かべた。
「休息もとらず、ヒエレン・シレタからケムセラウトへ向かうのは、強行軍過ぎるかと思います・・・」
「・・・無茶ばっかり」
ファーレーンの言葉に続き、席に着いているニムントールがボソリと呟いた。
「俺も大変だって言ったんだけど・・・」
「ん・・・」
申し訳なさそうに俯く悠人と、悠人の言葉を肯定するように頷くアセリア。
「トーゴ殿のご様子はどうでしたか?」
席に着いているウルカが尋ねた。
「結構平気そうだった・・・というか、かなりの重傷を負ってたのが、一晩で殆ど治ってた」
「重傷・・・」
エスペリアが席に着きつつ呟く。
「どのくらいの傷でしたか?」
エスペリアに続いて席に着いたファーレーンが、神妙な面持ちで尋ねた。
「・・・合流したときは、本気で死にそうだった」
【!?】
悠人の言葉に、エスペリア達は驚愕する。
「だけど、その傷も・・・一晩たったら、殆ど治ってるんだ。で、その日の夕方にはほぼ完全回復してた」
言いながら、悠人は首を傾げた。
「一体、何なんだろう・・・闘護は」
「・・・ユート様。一つ、お聞きしてもよろしいですか?」
「ん?何だい、ファーレーン?」
「どうしてトーゴ様はそのような重傷を・・・負われたのですか?」
ファーレーンの問いに、悠人は苦い表情を浮かべた。
「逃げる途中に帝国軍に追跡されたんだ。その時に、闘護が囮になったんだ」
「トーゴ殿が、ですか?」
「ああ。俺とアセリアを逃がすために・・・その後、合流したのは森の大分西の方にある湖だよ」
「囮になると提案したのは・・・トーゴ様ですね?」
「・・・ああ。そうだ」
「やっぱり・・・また、無茶をしたんですね」
ファーレーンは小さく唇をかみしめた。
「ファーレーン・・・?」
「・・・いえ、何でもありません」
言葉をかけた悠人に首を振るファーレーン。
「今は、ユート様とアセリアの帰還を喜びましょう」
「あ、ああ・・・」
少し困惑気味に悠人は頷いた。
─聖ヨト暦333年 レユエの月 黒 一つの日 夕方
ラキオス城
「ふぅ・・・」
研究所で身体をチェックされた帰り、悠人は城に顔を出した。
『身体はもう大丈夫か・・・』
「もう少しだ・・・佳織、待ってろよ」
歩きながら、小さく呟く。
「ん・・・?」
『城の様子が・・・いつもと違う?』
ふと、悠人は城の中の様子に違和感を覚えた。
「なんだ?」
『緊急事態を示す鐘の音は聞こえないから、敵襲ではないのだろうが、何となく気になるな・・・』
悠人は周囲を見回す。
「・・・でも、何となくで聞いていいものかな」
『忙しいところに部外者が聞いたりしたら、怒られるかもしれないし・・・そういうのは極力避けたいんだけど』
「ユート様」
思案しているところへ、エスペリアがやってきた。
「エスペリア。どうしたんだ?」
「レスティーナ様がどちらへお見えかご存じありませんか?」
エスペリアの顔には明らかに動揺の色が見えた。
「レスティーナ・・・?いや、知らないけど」
「そうですか・・・。はぁ・・・一体、どこに行かれてしまったのでしょう?」
「俺に聞かれても・・・」
悠人の回答に、エスペリアは小さく頷いた。
「・・・そうですね。すみませんが、ユート様も探していただけませんか?どうも昼頃から行方が解らないらしいのです」
「昼頃から・・・?」
悠人は眉をひそめた。
『仮にも一国の女王なんだから、さすがにいなくなったではすまされないよな。それに・・・』
「まさか、迷子になってるとか・・・」
悠人のつぶやきに、エスペリアは目を丸くした。
「は・・・?えっと、それはどういう・・・」
「あ、いや、レスティーナの話じゃなくて、全然別の話!」
慌てて悠人は首を振る。
「そう、ですか」
エスペリアはションボリとしてしまう。
「・・・」
『しかし、レスティーナが本当はおっちょこちょいだ、などと言えるはずがないよな。エスペリアなんて、どうやら本当に尊敬しているようだし』
悠人は困ったように頭をかいた。
『いなくなったって・・・多分あそこだろうな』
「ああ、レスティーナ様・・・一体どちらへ・・・」
エスペリアは、オロオロと足を止める暇もない。
こんなに取り乱したエスペリアを見るのは、そんなに多いことではなかった。
「じゃあ、俺も少し探してみるよ」
「お願いします!」
泣きそうな顔で悠人の手をギュッと握ると、エスペリアはパタパタと足音をさせてその場を出ていった。
「さて、と。行くか」
─同日、夜
ラキオス城下町 高台
『多分城内にはいないだろう。彼女がいそうなのは・・・』
「・・・いた」
壁に寄りかかりながら、顔を伏せていた。
お忍びの時の、レムリアとしての服を着て。
その姿があまりにも弱々しかった。
『言葉をかけていいのかな・・・だけど・・・このままいても仕方ないし』
「やっぱり、ここだったんだな」
「あ・・・ユート、くん・・・」
『くん』の前に間があったのは、正体を知られてしまったからだろう。
「レスティ・・・いやレムリア、帰ろう・・・みんな待ってる」
「・・・やだ」
顔を伏せたまま、僅かに首が左右に揺れる。
そこには確かな拒絶があった。
『なんとかしなきゃいけない』
その姿を見て、悠人は拳を握りしめた。
『支えになりたい・・・レムリアの笑顔が、俺を支えてくれていたように』
「大丈夫だからさ。帰ろう?」
「もう、ダメなの・・・」
「レムリア・・・」
「みんな死んでいっちゃうの・・・そんなの、もう見たくないのに。でも・・・悲しくても、辛くても、私は平然としているの!涙が出ないの!!泣きたいのに・・・全然、涙が出ないの!!」
レムリアはギュッと拳に力を込める。
「・・・ダメなの・・・レスティーナは泣けないの。だから私はレムリアとして泣くの・・・そうしないと悲しさも解らないから」
身体は小刻みに震えていた。
『とても強い人間・・・俺はレスティーナをそう思っていた。理想の為に生き、しっかりとした意志を持って人々を導く・・・容易く真似の出来ることじゃない』
その姿を見て、悠人は唇を噛みしめた。
『だけど、それだけじゃなかった・・・いや、強く見える仮面の下には、こんなにも普通の女の子がいたんだ』
顔を伏せ、震えるレムリア。
『レムリアという存在を作りだしたもの・・・それは、溜め込んだ感情を吐き出そうとする防御本能だったのかもしれない。心が壊れてしまわないように・・・普通の女の子のレスティーナには、普通の女の子としての時間が必要だったんだ』
拳を握りしめる悠人。
『限界が来る前に、誰かに相談できれば良かったのに。それは多分、俺でも良かったはずなのに。どうして・・・こんなにも俺達は不器用なんだろう』
嗚咽を漏らすレムリアに、悠人は言葉をかけることができない。
『国策について話す相手がいても、自分のことは相談できない。多くの国民に慕われ、沢山の人に囲まれながら、多分レスティーナは孤独だったんだ・・・』
「ユートくん・・・もう私・・・ダメだよ・・・このまま続けることなんて、出来ない・・・そんなに強くないんだよ。私って」
「ごめん・・・」
「・・・」
「気がついてやれなくて、ごめん」
『くそっ・・・こんな単純な言葉しか見つからない・・・助けを求めていることに気づけなかった・・・』
悔しそうに、申し訳なさそうに悠人は俯いた。
『佳織の時もそうだ。どうして俺はこんなにも気づくのが遅いんだ!!』
「・・・自分を責めないでくれよ。レムリアが悪い訳じゃないんだ」
レムリアは顔だけを上げて悠人を見る。
泣き腫らした目からは、今も涙が流れ続けていた。
「私の命令で、スピリット達がみんな死んでいっちゃうんだよ・・・?次の命令では、ユートくんだって死んじゃうかも知れないんだよ・・・?自分が悪くないなんて・・・そんなの、思えないよ」
「それは・・・」
『命令したくない気持ち。命令しなくちゃいけない立場・・・それがずっとレスティーナを苦しめてきたんだ』
レムリアの苦悩に、悠人は言葉を失う。
『命を奪うことを納得できない俺が、戦いながらずっと悩み続けてきたように・・・から、何となくだけどその気持ちは・・・いや、違う・・・俺の状況なら、まだ罪の意識は和らぐかもしれない。命令のせいで殺したんだって言い訳できるから・・・でも命令を出す立場のレムリアに、それは出来ないんだ』
悠人は小さく首を振った。
『“私だけは逃げちゃダメ”・・・レムリアは、確かにそう言っていた。あれはあの場面だけの話ではなく、これまでの人生そのものを象徴する言葉だったんだ・・・』
「だから・・・やっぱりダメだよ」
こぼれ落ちた涙が、地面に染みを残す。
その姿は、酷く痛々しいものだった。
「ユートくんのことだって、ずっと騙してた・・・嫌われたくなかったの・・・」
「そんな、俺は・・・」
「・・・一緒に居たかった!!私が私だって解れば、みんな白い目で見るに決まってる!女王の私は人殺しなんだもん」
心の叫びを吐露するレムリア。
「だから・・・ユートくんにも嫌われちゃう・・・それが・・・嫌だったの」
「レムリア・・・」
『自分が嫌いだから、自分を知られたら嫌われる・・・一笑にしてもいいくらいなのに、レムリアの言葉はあまりに重い』
苦い表情を浮かべる悠人をおいて、レムリアは続けた。
「父様のこと・・・憎んでた。それに母様のことも。カオリちゃんにヒドイことをして・・・ユートくんにもトーゴくんにもヒドイことをさせた。エスペリアやアセリアだって、私にとっては大切な友達の筈なのに・・・そんな友達を使って殺し合いさせて・・・それなのに偉そうにして、座ったままで笑ってた」
辛そうに言葉を紡ぐ。
『きっとこれが、レムリアの心に棘として刺さっていたものなんだ・・・』
「でもね。私も同じなの。私がしてることも同じ。友達を戦わせて、自分はお城を抜け出して遊んで・・・最低だよ」
自嘲の笑みを漏らす。
レスティーナにも、レムリアにも似つかわしくない表情だった。
「そんなことない・・・レムリアと俺達は仲間だ!一緒に戦っているじゃないか!!俺はさ、レスティーナに戦わされているなんて思ったことはないよ。佳織を助ける為に、自分の意志で戦っているんだ」
悠人はレムリアの心が少しでも軽くなるように訴える。
だが内容は、悠人にとって偽らざる本心だった。
「闘護だって・・・そうだ!!闘護だって、レムリアがレスティーナだって知っても、いつも通りだったじゃないか!!」
「・・・違うよ」
レムリアは悲しそうに首を振った。
「トーゴくんは・・・私のことをレスティーナだって見てた。だけど、それは私が女王だって・・・ただの女の子としてじゃなかったんだよ」
「そんなことない!!闘護はレムリアを一人の女の子として見てたって・・・」
「ううん、違うの・・・」
悠人の言葉を遮るようにレムリアは否定する。
「トーゴくんはね。私のことをレムリアとして、レスティーナとして・・・両方を受け入れてくれたの。でも、それはレムリアをラキオス女王と見てるだけ・・・ううん、レムリアを女の子と見てたのは本当だと思うよ。けど、違うんだよ・・・」
レムリアは悲しそうに笑った。
「私がレムリアでも・・・レスティーナとして見てた。どんなときでも女王って目で見てたの・・・」
「それは・・・」
「トーゴくんは、女王とか女の子とか・・・そんなことは関係ないんだよ。私のことを女の子として、女王として・・両方受け入れてくれるから。だから・・・トーゴくんの前じゃ、泣くことなんてできないんだよ」
「・・・」
『多分・・・レムリアの言ってることは正しいと思う。レムリアの一面を知っていながら、レスティーナに対して女王としての責務を果たすべきだって強く言ってた闘護だ』
レムリアの言葉を否定できず、悠人は小さく俯いた。
それに反応することなく、レムリアは悲しそうに首を振った。
「トーゴくんは私の嘘を見抜いてくれたけど・・・私を一人の“ただの”女の子としては見てくれなかった」
「・・・」
「ユートくんは・・・騙されちゃったんだよ。私の嘘に・・・」
返事には感情は含まれなかった。
一切の気持ちが消えて、虚無が顔を覗かせる。
「・・・何でそんな、哀しいこと言うんだよ」
「だって・・・」
「だってじゃないっ!!俺はレスティーナを尊敬してるっ!!レムリアとの時間が本当に楽しいって思ってる!!そんな気持ちを勝手に嘘にするなよっ!!!」
悠人は思わず声を強めてしまう。
ビクッと全身を震わせるレムリア。
「だって・・・だって・・・わかんないもんっ、ユートくんを騙しちゃった私が嫌われないなんて、信じられないもんっ!!」
「それなら、騙されてやるよっ!!」
「・・・え?」
レムリアはキョトンとする。
それだけ、予想外の言葉だったのだろう。
「望むところだからさ・・・遠慮せず、いつまでだって騙してくれよ」
「え、え・・・」
「あー、もうっ!!俺はレムリアが好きなんだよ!!」
「・・・」
長い沈黙。
瞬きを繰り返し、悠人の顔をジッと見る。
「・・・嘘」
「嘘じゃない!!」
「嘘だよ・・・ユートくん優しいから、私を騙そうとしてるんだよ・・・」
「じゃあ騙されとけよっ!!俺もレムリアも騙されて、おあいこだろ!!」
「・・・」
レムリアはポカンとして悠人を見る。
「・・・くすっ・・・ヘンなの」
まだ泣き笑いだけど、やっと表情が軟らかくなった。
いつものレムリアに会えてホッとする。
「ユートくんって・・・やっぱりヘン」
「レムリアだって十分変だよ」
「ね・・・好きってレムリアのこと?それともレスティーナのこと?」
「面倒だからそういうのは無しでいいよ。俺にとっては、どっちでも変わらないんだからさ」
「ユートくん・・・ありがと」
立ち上がり、小柄な身体が悠人の前に来る。
お互いの瞳を見つめ合った。
星明かりの下、涙のすじが光る。
「ユートくん・・・」
背中に手を回す。
身体の熱を感じながら、しっかりと抱きしめた。
「ユートくん・・・好き・・・」
レムリアは目を閉じた。
唇を重ねる。
「ん・・・ん、んふ・・・」
レムリアの唇は柔らかく、瑞々しい。
漏れると息が、肌をくすぐる。
「すき・・・ゆーとくん、大好き・・・」
首に回されている腕に力がこもる。
一層強く、唇が押しつけられた。
「ん・・・夢みたい・・・」
永遠とも思える数秒。
名残惜しさを感じながら、唇が離れていく。
レムリアは赤みの差した顔で真っ直ぐに悠人を見た。
ハンカチで涙の跡を拭うと、すっかりいつも通りになる。
「私、もう逃げないよ・・・ちゃんと、自分の役目を果たすね」
「ああ。俺も出来るだけの力を貸すよ」
「うん。それでね・・・えっと・・・」
「ん・・・?」
「ホントに・・・レスティーナでも、好き・・・かな?」
頬を染め、上目遣いで悠人を見る。
『う・・・なんか、今頃さっきの言葉が恥ずかしくなってきた・・・』
「ほ、本当だよ」
顔を赤らめつつ、しっかりと頷く悠人。
「・・・うん。私・・・それなら、頑張れるよ」
完全に普段の調子で笑う。
見ているだけで気持ちの良くなってくる笑顔だった。
「レムリアとしての私は・・・今日でさよならするね」
「・・・え?」
「これからはもっと忙しくなるし・・・レスティーナでも、自分を嫌いにならないで生きていけると思うから」
「・・・そっか」
『少し寂しいような、複雑な気分だ・・・二人で遊び回ることが出来ないのは、やはり残念だな』
落胆した表情を浮かべる悠人。
それを見たレムリアは、少し意地悪そうな笑みを浮かべた。
「ねぇ、ユートくん。ちょっと聞きたいんだけど・・・」
「何だよ?」
「えっとね。私とアセリア・・・どっちが好きなのかな?」
「ぶっ!?」
予期せぬ質問に、悠人は吹き出した。
「な、何を言ってるんだ・・!?」
「だって、ラキオスに戻ってきたときのユート君、アセリアの心配ばかりしてたでしょ」
「そ、それは・・・」
「アセリアだけじゃないよ。エスペリアは?ウルカは?」
悠人の顔をのぞき込むレムリア。
「あ、あの・・・えっと・・・」
しどろもどろになる悠人。
「どうなの?」
「えっと・・・その・・・」
「・・・いいよ。今は」
そこで、レムリアは少し寂しそうな笑みを浮かべて悠人から視線を外した。
「今は答えなくてもいいよ・・・」
「レム、リア・・・」
「ただ、これだけは覚えておいて」
そう言って、レムリアは悠人の手を取った。
「私はユート君が好きだから。この気持ちは、他の女の子とは関係ないから・・・」
「レムリア・・・」
「忘れないでね」
レムリアはゆっくりと悠人の手を離した。
「ふぅ・・・スッキリした!」
レムリアは吹っ切れたような表情を浮かべて伸びをする。
「それじゃあ、帰ろっか」
「あ、ああ・・・そうだな」
悠人は少し呆けた様子のまま頷いた。
「スキあり!!」
バッ
「うわっ!?」
レムリアが素早く悠人の腕に自分の腕を絡ませた。
「ほら!いつまでもボーッとしてないの!」
「レ、レムリア!ちょ、ちょっと・・・」
「ほらほら、早く行こっ!!」
動揺する悠人を引っ張るようにレムリアは歩き出した。
「ここまで、だね」
城の近くまで来て、レムリアはゆっくりと悠人から離れた。
「次に会うときはレスティーナだから」
「ああ・・・」
「それじゃあ!!」
レムリアは城下町の方へ―吹っ切るように―駆けだした。
「・・・」
その後ろ姿を、悠人は複雑な表情を浮かべながら見つめていた。
―聖ヨト暦333年 ホーコの月 青 一つの日 夕方
ケムセラウト
コンコン
「誰だ?」
ノックの音に、書類を睨んでいた光陰は返事を返す。
ガチャリ
「アタシよ」
部屋に入ってきた今日子に、光陰は顔を上げた。
「今日子か。どうしたんだ?」
「闘護が来たわ」
「闘護が?」
『闘護は悠人、アセリアの二人と共に極秘任務に就いてたはずだが・・・』
今日子の言葉に、光陰は眉をひそめた。
「光陰、どうしたの?」
「いや・・・なんでもない」
光陰は軽く首を振った。
「・・・」
光陰の様子に、今日子は訝しげな眼差しを光陰に向ける。
「・・・ここに通してくれ」
光陰はその視線を受け流して言った。
「・・・わかったわ」
納得いってない表情ながら、今日子は頷いた。
しばらくして・・・
コンコン
「どうぞ」
ガチャリ
「失礼する」
扉が開き、闘護が入ってきた。
「よく来たな」
光陰は闘護に椅子を勧めた。
「ああ」
椅子に腰を下ろすと、闘護はフゥと息をつく。
「それで・・・」
光陰が口を開いたときだった。
コンコン
「ん?誰だ?」
「アタシよ」
「今日子?どうしたんだ?」
ガチャリ
「遅れてゴメン。ここにいるみんなを連れてきたわ」
今日子に続いて、ヒミカ、ハリオン、ネリー、シアーが入ってきた。
「失礼します」
「しますね〜」
「しっつれいしまーす」
「し、します」
ゾロゾロと入ってきたメンバーを見て、光陰は今日子に視線を向けた。
「何でみんなを呼んだんだ?」
「闘護がそうしろって言ったからよ。みんなに話すことがあるんだって」
今日子はそう言うと、闘護に視線を向けた。
「ああ。やぁ、みんな。元気そうだね」
「トーゴ様も、お疲れ様でした」
ヒミカが頭を下げた。
「君たちには大分負担をかけたね」
「いいえ、そんなことないですよ〜」
ハリオンがのんびりした口調で答える。
「コウイン様とキョーコ様がすごいんですよ!!」
「うん・・・すごい」
ネリーとシアーが感嘆の眼差しを光陰と今日子に向けた。
「ちょ、ちょっと・・・」
「ま、伊達にエトランジェじゃないからな」
照れる今日子と受け流す光陰。
「そうか・・・」
闘護は安心したように頷いた。
「それで、本題だが・・・」
光陰はゆっくりと闘護に視線を向けた。
それにつられるように、今日子達も闘護に視線を向ける。
「悠人とアセリアはどうした?」
「それについては朗報だ」
闘護はニヤリと笑った。
「アセリアの自我が・・・戻った」
「何!?」
ガタッ!
【えぇ!?】
「おいおい、落ち付けって」
椅子を蹴飛ばし立ち上がった光陰と、素っ頓狂な声を上げた今日子達に、闘護は苦笑する。
「落ち着けと言われても無理ですよ!!」
ヒミカが興奮冷めやらぬ口調で叫ぶ。
「そうですよ〜」
「どういうことなのよ!?」
ヒミカの言葉に同意するハリオンと、闘護に詰め寄る今日子。
「言葉通りさ。アセリアは自我を取り戻したんだ」
「それじゃあ、アセリアは・・・」
「ああ。もう大丈夫だ」
光陰の言葉に、闘護は頷いた。
「そう、ですか・・・」
「よかったですね〜」
安心したように脱力するヒミカとハリオン。
「ねぇ、闘護。どうやってアセリアの自我を取り戻したのよ?」
今日子が当然の疑問を口にした。
「ヨーティアの目論見通り、帝国にアセリアを治療する為に必要な資料があったんだな」
光陰が補足するように言ったが、闘護は首を振った。
「いや、違う」
「違う?」
首を傾げる光陰に、闘護は小さく肩をすくめた。
「悠人とアセリアが自分たちでやり遂げたのさ・・・」
闘護はゆっくりと、任務について語り出した。
「・・・というわけだ」
「そう、か・・・」
全てを聞き終えた光陰は、静かに頷いた。
「悠とアセリアは直接ラキオスに返したの?」
「ああ。二人とも、消耗が激しかったからな。報告を兼ねて、ラキオスへ帰還させた。俺はお前達に報告するために、ここへ直接来たんだ」
「わかった。わざわざすまないな」
光陰が頭を下げた。
「大したことじゃない。早く知らせておきたかったからな」
闘護は他のメンバーに視線を向けた。
「後顧の憂いは早いうちに取り除いた方がいい」
「ですが、トーゴ様は大丈夫なのですか?」
ヒミカが心配そうに尋ねた。
「ユート様とアセリアの消耗が激しかったということは、トーゴ様も同じのはずです」
「大丈夫なんですか〜?」
ヒミカの言葉を継ぐように、ハリオンが尋ねた。
「ああ。俺は平気だよ」
闘護はケロリとした口調で答える。
「本当かなぁ?」
「かなぁ・・・?」
ネリーとシアーが疑うような眼差しを闘護に向けた。
「嘘じゃないさ。何なら、証拠を見せようか?」
「証拠?何を見せるのよ?」
今日子が首を傾げた。
「俺の体だよ。怪我一つない、キレイな体をな」
そう言って、闘護は自分の体をポンと叩いた。
「そこまでしなくても・・・」
言いかけた光陰は、ジッと闘護を見つめる八つの瞳に言葉を詰まらせた。
「お願いします」
「その方が安心できますよね〜」
「うん。ホントに大丈夫かわかるもんね」
「ね〜」
ヒミカ達の言葉に、闘護は小さく頭をかいた。
「ったく・・・わかったよ」
そう言うなり、闘護は服を脱ぎだした。
「キャッ!」
今日子は慌てて顔をそらした。
それを無視して、闘護は上半身全裸になった。
「ほら。怪我なんてないだろ」
【・・・】
ヒミカ達四人は食い入るように闘護の体を見つめる。
闘護の言うとおり、闘護の体には傷一つなかった。
「確かに・・・」
「怪我はないみたいですね〜」
「納得したか?」
闘護の問いに、四人はコクリと頷いた。
「ふぅ・・・裸を見せる趣味はないんだがな」
軽口を叩きつつ、闘護は服を着た。
「なぁ、闘護」
その様子を見ていた光陰が口を開いた。
「何だよ?」
「怪我がないのはわかったが、怪我をしていない・・・訳じゃないんだろ?」
「・・・鋭い質問だな」
闘護は小さくため息をついた。
「じゃあ、怪我をしたことはしたんだな?」
「流石に無傷で遂行できるほど、甘い任務じゃなかったからな」
「って・・・それじゃあ、どうしてそんなキレイな体なのよ!?」
今日子が声を上げた。
「なんだ、君も見たのか」
「うっ・・・」
顔を赤らめて言葉を詰まらせる今日子。
「今日子を苛めるなよ」
「悪い悪い」
渋い顔をする光陰に、闘護は謝る。
「で、正直な話・・・どれぐらいの怪我をしたんだ?」
「致命傷は・・・なかった、かな」
「重傷の類は?」
「額をかち割られた」
【!?】
サラリと言った闘護に、ヒミカ達は戦慄する。
「かち割られたとは穏やかじゃないな」
「傷跡はないけどな」
渋い表情の光陰に、闘護は額を見せた。
「・・・確かに、何もないな」
光陰が小さく頷いた。
【・・・】
ヒミカ達も、凝視した視線を元に戻した。
「自然治癒力には自信があるからな。悠人やアセリアとは回復速度が違う」
闘護は肩をすくめた。
「だから、こっちに報告に来たのは俺一人・・・というわけだ」
「成る程・・・わかった」
光陰が納得したように頷いた。
「こっちにはここにいるメンバー以外で誰がいるんだ?」
「セリア、ナナルゥ、ヘリオンです。現在前線にて哨戒任務に就いてます」
闘護の問いに、ヒミカが答えた。
「他のメンバーは王都に?」
「ああ。エスペリアとファーレーンに内務処理を任せて、他のメンバーは王都の警護にあたらせている」
「そうか」
光陰の回答に、闘護は納得したように頷いた。
「三人はいつ帰る?」
「今日の夜よ。アタシとハリオンとネリーが代わりに哨戒に出るわ」
今日子が答える。
「そうか・・・じゃあ、三人には戻り次第報告しておこう」
闘護は光陰に視線を向けた。
「俺の報告は以上だ」
「わかった。ヒミカ、闘護を開いてる部屋に案内してくれ」
「はい。トーゴ様、こちらへどうぞ」
「ああ」
ヒミカの先導に従い、闘護は部屋から出て行った。
「ハリオン達も夜の任務に備えて休息をとってくれ」
「わかりました〜」
ハリオンはネリーとシアーをつれて部屋から出て行った。
そして、その場には光陰と今日子の二人が残った。
「しかし・・・神剣に直接呼びかける、か」
光陰は椅子に腰を下ろした。
「よく成功したな・・・」
「ホントよね」
「正直、口で言うほど簡単なことじゃないと思うけどな」
光陰は背もたれに背を預けた。
「それだけ、悠がアセリアを大事に思ってたってことかな?」
「多分な。同時に、アセリアが悠人を大事に思っていたのさ」
そう言って、光陰は小さく俯いた。
「・・・」
『今日子が神剣に飲み込まれたときに、俺が今日子ともっと強い絆を持ってたら・・・悠人達と戦わずに済んだかもしれない、か』
苦い表情を浮かべる光陰。
「光陰・・・」
「ん・・?」
「アタシ達はアタシ達、だからね」
今日子が照れたような口調で言った。
「だから、変な気を回さないでよ」
「今日子・・・」
「いい?わかった!?」
ズイッと身を乗り出す今日子。
「・・・ああ、わかったよ」
光陰は苦笑しつつゆっくりと―安心したように―頷いた。
―同日、夜
ケムセラウト
夜になり、セリア、ナナルゥ、ヘリオンの三人が帰還すると、闘護は早速彼女たちを呼び出した。
そして、彼女たちにアセリアのことについて説明をした。
「そうですか・・・アセリアが自我を・・・」
全てを聞き終え、セリアは安心したように呟いた。
「よかったですね、トーゴ様」
ヘリオンが潤んだ瞳を闘護に向けつつ言った。
「ああ。肩の荷が下りたよ」
闘護はゆっくりと頷いた。
「さっき、ラキオスから連絡が来た。明日の昼過ぎに悠人とアセリア、そしてエスペリア達がここに来る」
「では、いよいよ・・・」
「ああ」
セリアの言葉に闘護は頷いた。
「ラキオス王国は、帝国と本格的に戦争をする」
【!!】
闘護の言葉に、セリアとへリオンが身を震わせた。
「詳しい作戦については、明日悠人達が到着次第、話し合うつもりだ」
「・・・トーゴ様」
「どうした、セリア?」
「帝国の戦力について・・・報告しておかなければならないことがあります」
「・・・言ってみてくれ」
真剣な表情のセリアに、闘護は小さく頷いた。
「帝国軍はスピリットだけではなく・・・人間も戦闘に参加します」
―同日、夜
ケムセラウト
コンコン
「ん?誰だ」
「俺だよ」
「闘護か・・・どうぞ」
ガチャリ
「失礼す・・・む」
部屋に入った闘護は、漂ってきた煙に眉をひそめた。
「よう」
椅子に座っていた光陰は、煙草を咥えたまま手を振った。
「光陰・・・お前、煙草を吸うのか」
「ちょっとな・・・」
光陰はプゥーと煙を吹いた。
「煙草は身体に良くないと・・・ん?」
光陰に近づいた闘護は、テーブルの上に置かれている煙草の箱を見て眉をひそめた。
「これは・・・“トヤーア”じゃないか」
「知ってるのか?」
「ヨーティアが吸ってるものと同じ銘柄だ」
そう言って、箱を持ち上げる。
「何でこれを吸ってるんだ?」
「ん・・・ま、こっちの世界に来てからの変化ってヤツだな」
光陰は煙を燻らせた。
「別段うまいと感じる訳じゃないんだが・・・これを吸ってると、何となく大将の背中が見える気がしてな」
「クェドギンの・・・背中、か」
闘護は箱をテーブルの上に置いた。
「それで、こんな時間に何の用だ?」
「いや・・・もし良かったら、と思ったんだがな」
そう言って、闘護は懐から酒瓶を取り出した。
「アカスク・・・まぁ、ウィスキーだ。ここへ来る途中に買ったんだ。一杯どうだ?」
「酒か・・・遠慮しておく。俺にはこれがあるからな」
光陰は煙草を持つ手をかざした。
「そうか」
闘護は空いている椅子に腰掛けた。
「何だ。ここで呑むつもりか?」
「ダメか?」
「別に構わんが・・・」
困惑気味な光陰をおいて、闘護は酒瓶のふたを開けた。
「お前が酒ね・・・それも変化か?」
「ま、変化と言えば変化だが・・・お前ほど意味のある変化じゃないさ」
酒を口に含み、肩をすくめる闘護。
「単に、ヨーティアに勧められて・・・たまたま口にあった。それだけだよ」
「ふーん」
興味を失ったように、光陰は煙草を吹かした。
「・・・なぁ、光陰」
「ん?」
「これから帝国と戦うことになるが・・・一つ、確認したいことがある」
そう言って、闘護は酒瓶を呷った。
「何だよ?」
光陰は短くなった煙草を灰皿でもみ消し、尋ねた。
「お前は人間を殺せるか?」
「・・・唐突だな」
目を丸くする光陰。
「気にするな。それより、答えは?」
「殺せるよ。殺したい訳じゃないがな」
即答する光陰に、闘護は小さく頷いた。
「そうか」
「もう聞いたのか?帝国側の戦力について」
「ああ。帝国の兵士は好戦的らしいな」
「積極的に前線に出てくる。事実、陽動作戦中の小競り合いでも人間を見かけた」
光陰はそう言うと、新しい煙草に火をつけた。
「本格的に戦争に突入すれば、戦いは回避できないだろう」
「おそらく、な。その時になって、“人間は殺せない”なんて言われたんじゃ、お話にならない」
「・・・お前は割り切ってるのか?」
光陰の問いに、闘護は肩をすくめた。
「割り切るもなにも・・・俺が殺せるのは人間だけだよ」
そう言って、闘護は酒瓶にふたをした。
「俺よりも、悠人や今日子を心配した方がいいんじゃないか?」
「確認するまでもない。二人とも嫌がるに決まってる」
光陰の言葉に、闘護は肩をすくめた。
「どうするつもりだ?」
「別に。どうもしないさ」
「なに?」
眉をひそめる光陰に、闘護は首を振った。
「どうせ、人間の相手をするのはスピリット隊じゃない」
「・・・まぁ、確かに」
光陰は小さく頷いた。
「人間の相手は人間にさせる。ただ、“もしも”の可能性は否定できないからな」
「俺だけに確認するのか?」
「言っただろ。悠人と今日子については確認しなくてもわかるってな。俺の想像は間違ってるか?」
「・・・いや。多分、正しいな」
「だったら、確認する必要はないだろ」
闘護はそう言うと、ゆっくりと立ち上がった。
「さて・・・俺が確認したかったことはそれだけだ」
「それだけ?そんなことのためにわざわざこんな夜遅くに来たのか?」
「酒の相手をしてもらおうとも、思ってたけどね」
呆れたように言う光陰に、闘護は苦笑する。
「用件も済んだし、酒瓶も空になったし・・・」
そう言って、酒瓶を振る。
「そろそろ退散するよ」
「そうか。お休み」
「ああ・・・っと、そうだ」
闘護は思い出したように懐からライターを取り出した。
「煙草を吸うなら、これをやるよ」
「ライターじゃないか。どうしたんだ、こんなもの?」
「前に元の世界に戻ったとき、悠人からもらったんだ」
そう言って、テーブルの上にライターを置く。
「いいのか?」
「ああ。一回しか使ってないし、もう使うこともないと思うんでな。お前なら、オイルが無くなるまで使ってくれそうだし、その方がいい」
「わかった。ありがたくもらうぜ」
光陰はライターを手に取った。
「それじゃあ、お休み」
「ああ、お休み」
バタン
「・・・ふぅ」
闘護が部屋から出て行き、光陰は短くなった煙草を灰皿に置いた。
「お前は殺すのか・・・闘護?」
次の日・・・
悠人、アセリア、エスペリア、ウルカ、ファーレーン、ニムントールがケムセラウトに到着した。