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─聖ヨト暦332年 スリハの月 赤 四つの日 朝
 訓練所

 「さて・・・今日から光陰と今日子にも訓練に参加する」
 闘護は整列しているメンバー─セリア、ヒミカ、ヘリオン、ナナルゥ─を見回す。
 「知っての通り、二人はエトランジェ。それも、悠人と互角に戦えるレベルの、ね」
 そう言って、後ろに控える2人─光陰、今日子─を見た。
 「手加減は無用だ。思う存分やってくれ」
 【はい!!】
 闘護の言葉に元気よく返事をする四人。
 「君たちも遠慮無くやってくれよ」
 振り返り、光陰と今日子に声をかける。
 「わかった。ラキオスのスピリットの力、見させてもらうぜ」
 光陰はそう言って神剣を担いだ。
 「よし。それじゃあはじめ!!」


 ガキーン!!ガイーン!!
 「くっ!!」
 「あぅ!!」
 ガキン!!ガキン!!
 「まだまだぁ!!」
 ガキガキガキーン!!
 「うくっ!!」
 「も、も・・げんか・・い・・!!」
 「むんっ!!」
 ガキガキーン!!
 「あっ!!」
 「キャッ!!」
 カラカラーン・・
 「そこまで!!」

 カキカキカキカキカキン!!
 「くっ!!つっ!!」
 「っ!!」
 「はっ!!はっ!!はっ!!」
 シュシュシュシュシュシュッ!!
 「ぅくっ!!」
 「!!」
 「やぁっ!!」
 カキカキーン!!
 「しまっ・・!!」
 「っ・・!!」
 カランカラン・・・
 「そこまでだ!!」


 「二人がかりでも、お前達と互角に渡り合えないか・・・」
 闘護は半ば予期していたのか、特に驚いた様子もなく呟いた。
 【・・・】
 その言葉に、セリア達四人─心なしかナナルゥも─はシュンとする。
 「まぁ、そうでなくては伝説のエトランジェの名が泣くか」
 そう言って、闘護は光陰と今日子に視線を向ける。
 「いや、そうでもないさ」
 光陰は四人に視線を向けた。
 「マロリガンじゃ、三人がかりで一分保たなかったんだからな」
 「それって稲妻部隊のスピリットか?」
 「ああ。それを二人で三分続いたんだ。十分凄いぜ」
 「へぇ・・・彼女たちで一分保たないのか」
 闘護は感嘆の表情を浮かべる。
 「それに、今日子の剣速にあそこまでついてこれる奴なんて、数えるほどだったんだ」
 「そうなのか?」
 闘護の問いかけに、今日子は複雑な表情を浮かべる。
 「ハッキリと覚えてないけど・・・なんとなく」
 「正直、これだけやれるとはな・・・流石、ラキオスの精鋭だ」
 光陰は四人を見回した。
 「そ、そんなことありません!まだまだ力不足で・・・」
 「ならば強くなればいい」
 ヒミカの言葉を遮るように闘護が言った。
 「確かに、今は二人がかりで三分程度だ。だったら・・・もっと修行して強くなればいい」
 「トーゴ様・・・」
 「君たちはこんなもんじゃない・・・俺はそう思っている。可能性があると、ね」
 【・・・】
 「さぁ、最後の戦いが残ってる・・・これからも、しっかり訓練を続けよう」
 【はい!!】
 「うん」
 四人の返事を聞いて満足げに頷く闘護。
 「なぁ、闘護」
 その時、沈黙していた光陰が声をかける。
 「何だ、光陰?」
 「彼女たちの実力はわかった。じゃあ、お前の実力はどうなんだ?」
 「・・・俺の?」
 闘護は自分を指さして首をかしげる。
 「ああ」
 光陰はゆっくりと神剣を担ぎ上げた。
 「お前の実力・・・見てみないな」
 「・・・やる気、か?」
 「ああ」
 闘護の問いかけに、光陰はニヤリと笑う。
 「ま、いいか」
 闘護は小さく頷くと、ゆっくりと構えた。
 「じゃあ・・・行くぜ!!」
 「ああ」
 タッ!!
 光陰は地面を蹴って一気に闘護との間合いを詰める。
 「はぁっ!!」
 そして、神剣を闘護に向かって一気に振り下ろす。
 『来た・・・』
 ゾクゥッ!!
 「っ!?」

 ブゥン!!

 「・・・何、してんだ?」
 光陰が硬い口調で尋ねた。
 「・・・」
 闘護は無言で【因果】の切っ先を見つめている。
 「・・・何だよ、それ?」
 「・・・」
 硬い表情で見つめ合う闘護と光陰。

 闘護は尻餅をついて硬直していた。
 光陰の【因果】は、闘護の眼前数センチの所でピタリと止まっている。
 そして今日子達は、二人の様に唖然としていた。

 「・・・」
 スチャ・・・
 光陰は無言で神剣を納めた。
 「光陰・・・」
 へたり込んだまま、闘護はゆっくりと口を開いた。
 「一分どころか・・・一太刀保たないのか?」
 光陰は嘲りを含んだ口調で尋ねる。
 「・・・保たない」
 闘護は震える声で呟いた。
 「戦闘員としては本当に・・・無能なんだな」
 「そういう問題じゃない」
 闘護は吐き捨てると、ゆっくりと立ち上がった。
 「じゃあ何だよ?」
 「お前の一撃は・・・今まで俺が受けてきたものとは違う」
 そう言って、闘護は【因果】に視線を向ける。
 「お前の一撃を受けようとしたとき・・・俺は、悪寒を感じた」
 「悪寒?」
 「今まで、俺は自分の命に危険が迫ったとき、悪寒を感じていた」
 そう言って、呆然としているセリア達に視線を向ける。
 「彼女たちの一撃を受けるときはそんなことはなかった・・・だが、お前の一撃ではそれを感じた」
 【・・・】
 「・・・俺が強い、ってことか?」
 「お前じゃない。お前の神剣だ」
 闘護は再び光陰に視線を向ける。
 「お前の神剣は確か第五位・・・だったな?」
 「ああ」
 「多分、俺は・・・第六位以下の神剣なら受け止められるが、それ以上の神剣を受け止めることは無理だってこと・・・だと思う」
 「・・・」
 「今まで悠人と訓練でも組み手をしたことはなかった。俺が相手をしていたのはセリア達だけ・・・最高でも第六位だ」
 「神剣だけの問題か?」
 光陰は探るような目つきで闘護を見つめる。
 「それを試してみるのさ。今日子」
 「な、なに!?」
 突然声をかけられ、今日子はビクリと身をすくめた。
 「俺の相手をしてくれ」
 【!?】
 闘護の提案に、今日子だけでなくセリア達も驚愕する。
 「な、何であたしが・・・」
 「君の神剣は第五位だ。俺の予測を裏付けるには丁度いい」
 そう言って、闘護は構えた。
 「ちょ、ちょっと待ってよ!あたしはまだやるって・・・」
 「本気でやらなくていいよ。これはちょっとしたテストなんだから」
 「だ、だけど・・・」
 「早く!」
 「・・・ああ、もう!どうなったって知らないからね!」
 投げやり気味に叫ぶと、今日子は神剣を構えた。
 「勿論だ」
 「行くわよ!」
 タッ!!
 今日子は地面を蹴った。
 「やぁっ!!」
 ゾクゥッ!!
 「っ!?」

 ズバッ!!

 「・・・え?」
 振り返った今日子は、信じられないといった表情を浮かべていた。
 「・・・がっ・・!」
 ガクッ!!
 闘護は右腕を押さえながら膝をついた。
 【トーゴ様!?】
 その様に、セリア達が血相を変えて闘護の側に駆け寄った。
 「大・・丈夫、だ!!」
 闘護が腕を押さえて俯きながら叫ぶ。
 「ちょ、ちょっと!?」
 今日子も慌てて闘護に駆け寄る。
 「トーゴ様・・・その腕・・・」
 ヘリオンが闘護の腕を震える手で指した。
 「どうやら・・・俺の予想は正しかったみたいだな」
 闘護の右腕から血が流れていた。
 「トーゴ様がケガを・・・!?」
 ヒミカが信じられないという口調で呟いた。
 「すぐに手当を・・・」
 セリアは懐から布を取り出し、傷口に巻き付けた。
 「ありがとう・・セリア」
 「は、はい」
 闘護の礼に、セリアは顔を赤らめて頷く。
 「どういうことだ?」
 いつの間にか側にいた光陰が、冷静な口調で闘護に尋ねた。
 「ん?何がだ、光陰?」
 「予想通りと言ってたが・・・今日子の攻撃が効いたからって、お前の予想が当たっているとは限らないだろ?」
 「悪寒がしたんだよ」
 闘護は小さく肩をすくめた。
 「さっきお前の攻撃を受けたときに感じたものと同じく、な」
 「・・・」
 「よいしょっと・・・」
 闘護は立ち上がると、今日子に視線を向けた。
 「そして、君の一撃が俺に傷を負わせた・・・これが証拠だよ」
 「証拠って・・・まさかアンタ、あたしの攻撃をわざと?」
 今日子の問いに、闘護は首を振った。
 「いや、それは違う」
 「違うって・・・?」
 「悪寒を感じた瞬間、かわそうとしたんだけどな・・・」
 闘護はバツの悪い笑みを浮かべる。
 「かわしきれなかった・・・トーゴ様、が?」
 「そういうことだ」
 ヒミカの呟きに、闘護は頷いた。
 「今日子。闘護のどこを狙ったんだ?」
 「右肩・・・だけど」
 光陰の問いに、今日子は恐る恐る答えた。
 「成る程。かわしきれずに、腕をかすったのか」
 「ああ・・・ま、この程度ならすぐ治る」
 光陰の皮肉を軽くかわす闘護。
 「とにかく・・・第六位までの神剣では、打撲を除いて俺の体に傷を負わせることは出来なかった。さっき言ったように、悪寒を感じたこともなかったしね」
 闘護は肩をすくめた。
 「勿論、お前の力が相当なレベルであることは承知している。だが、今日子の剣については別だ」
 「あたしは別・・・?」
 闘護は今日子に視線を向けた。
 「君の剣速は確かに早い。だが、早さだけで俺の体に傷を受けることは出来ない。少なくとも、今までそういうことはなかった」
 「今日子と同じレベルの剣速を持つ奴と手合わせしたことがあるのか?」
 光陰が尋ねる。
 「ウルカとやったことがある」
 「“漆黒の翼”か・・・」
 「ああ。彼女の剣速は今日子に劣らない。だが、それでも俺に裂傷を与えることはなかったんだ。と、なると・・・技術云々じゃないと考えられる」
 「二人の違いは神剣の位、ということか」
 「ああ」
 光陰の言葉に闘護は頷いた。
 「神剣のレベルが高い場合・・・俺の体に傷を負わせることが出来ると思う。そのレベルは・・・第五位以上、だ」
 「ユート様、コウイン様、キョウコ様の三人ですね」
 「あと、秋月君も含まれる。だから、計四人だ」
 セリアの言葉に闘護が補足する。
 「とりあえず・・・俺はエトランジェと手合わせをしないようにしよう」


─同日、昼
 訓練所

 「ふぅ・・・」
 「はぁはぁはぁ・・・」
 訓練が終わり、ベンチに腰を下ろしている光陰と今日子。
 「おつかれ、二人とも」
 そこへ、二本の瓶を持って闘護がやってくる。
 「闘護」
 「ほれ。水だ」
 闘護は二人に瓶を一本ずつ渡す。
 「悪いな」
 「ありがと」
 瓶を受け取った二人は、早速中身をあおる。
 「ゴクゴク・・・ぷはぁっ」
 今日子は美味そうに水を飲み干す。
 「・・・なぁ、闘護」
 瓶から口を離し、光陰が口を開いた。
 「ん?」
 「ラキオスのスピリットは凄いな」
 「何が?」
 「スピリットの練度だよ」
 そう言って、光陰は離れたところで休憩しているセリア達を見つめる。
 「マロリガンのスピリットだってひけは取ってないつもりだが・・・それでも、ラキオスが大陸の半分以上を攻め落としただけはある」
 「そりゃそうさ」
 闘護は当然とばかりに頷く。
 「ラキオスのスピリットの練度が高いのは、間違いない。多分、この世界でもトップクラスだ」
 「随分な自信だな」
 「少なくとも、俺はそう信じている」
 光陰の言葉に肩をすくめる闘護。
 「だが、マロリガンでも優秀な訓練士がいたと聞いたがな」
 「お褒めに預かり光栄だ」
 「え?」
 苦笑する光陰に、闘護は目を丸くする。
 「マロリガンでスピリットを鍛えていたのは俺だよ」
 「お前が?」
 「ああ。大将に頼まれてな」
 「なるほど・・・自我を保ったまま鍛えるというのは、この世界の人間の発想にしては不自然だと思ったが・・・お前がやったのか」
 闘護が納得したように頷く。
 「まぁ、闘護の言うとおり不自然だったかもしれないけどさ。別に大将は文句を言わなかったぜ」
 「運命に抗うなら、常識・・・この世界での、だ。その常識からかけ離れた方法を選んだ方がいいと考えたんだろう」
 「・・・そうか」
 「話を戻すが、ラキオスのスピリットの練度が高い理由・・・それは実戦経験だよ」
 「実戦経験?」
 「あ、そういうことか」
 闘護の言葉に、今日子は首をかしげ、光陰は納得したように頷く。
 「どういうこと?」
 「簡単さ。訓練はどこまでいったって訓練でしかない。訓練で得たものを実戦で試して、初めて力になる。ラキオスはずっと戦争をしていたからな・・・実戦に事欠くことはなかった」
 闘護は皮肉っぽい笑みを浮かべて解説した。
 「だが、それがなかったらマロリガンに負けてたかもしれないぜ」
 「かもな。まぁ、どれだけ言っても今更だ。こんな“たられば”は語るだけ無駄だよ」
 光陰の言葉に、闘護は肩をすくめる。
 「皆様」
 その時、訓練所の入り口からイオが入ってきた。
 「やぁ、イオ」
 闘護が軽く手を挙げて挨拶をする。
 「っと・・・紹介してなかったな」
 闘護は光陰と今日子に視線を向けた。
 「彼女はイオ。俺たちの仲間だ」
 「初めまして、コウイン様、キョウコ様。私はイオ。スピリットです」
 イオは丁寧に頭を下げた。
 「初めまして。碧光陰だ」
 「は、はじめまして。えっと・・・岬今日子、です」
 二人とも立ち上がって挨拶を返す。
 「どうしてここへ?君は今日の訓練には参加しない予定だったが・・・」
 「はい。主より、トーゴ様とコウイン様とキョウコ様を連れてくるよう言付かりました」
 「ふーん・・・丁度いい。まだ二人をヨーティアに紹介してなかったな」
 闘護は二人に視線を向けた。
 「二人とも、ちょっといいか?」
 「ああ。今日子はどうだ?」
 「あたしも別にいいけど」
 「じゃあ、すぐに行こう」
 「お待ちください」
 闘護が促すと、イオは頭を下げた。
 「主はユート様もお連れするようにとのことです」
 「悠人?悠人は第一詰め所にいるけど」
 「そうですか・・・では、私はユート様をお連れします」
 「じゃあ、俺が二人を連れて行こう」
 「お願いします」
 イオは頭を下げると、訓練所から出て行った。
 「・・・随分と礼儀正しい人ね」
 今日子が感嘆の口調で呟いた。
 「彼女は誰に対しても礼儀正しい」
 「今日子とは大違いだな」
 「一言多い!!」
 バシーン!!
 今日子のハリセンを食らって、光陰は沈黙した。


─同日、昼
 ヨーティアの研究室

 コンコン
 「誰だ?」
 「俺だよ。新メンバーを連れてきた」
 「おう、入れ」
 ガチャリ
 「失礼」
 「失礼する」
 「し、失礼します」
 「おう」
 椅子に座っていたヨーティアは、立ち上がった。
 「相変わらずの汚さだな」
 闘護が眉をひそめる。
 【・・・】
 光陰と今日子も、部屋の散らかりように言葉を失っていた。
 「気にするな。慣れれば居心地も良くなる」
 「慣れたくないって」
 肩を竦める闘護は、固まっている二人に視線を向けた。
 「紹介したいんだが・・・大丈夫か、二人とも?」
 「あ、ああ・・・」
 「ええ・・・何とか」
 「その二人が例のエトランジェだね」
 ヨーティアが光陰と今日子を見る。
 「そうだ。碧光陰と岬今日子」
 闘護はそれぞれ指さして言った。
 「はじめまして。元マロリガン共和国スピリット隊隊長、【因果】のコウインだ」
 「あ、えっと・・・く、【空虚】のキョウコ、です」
 慣れた様子でエトランジェとしての自己紹介をする光陰とは裏腹に、今日子は拙い口調で言った。
 「いいよ、元の名前で。わざわざこっちでの呼び名で名乗る必要はないさ」
 ヨーティアはニヤリと笑う。
 「それに、敬語もいらないよ」
 「そ、それじゃあ・・・岬今日子よ。よろしく」
 「俺は碧光陰。これからよろしく」
 「ヨーティア=リカリオンだ。よろしくな」
 互いに、先程より砕けた口調で挨拶する。
 「アンタの天才ぶりは大将から聞いてる。期待してるぜ」
 「まかせときな。こっちも、アンタらの力に期待してるよ」
 「ええ。悠達をガンガン引っ張ってくからね」
 「頼もしいねぇ」
 端で聞いていた闘護がニヤリと笑う。
 「ん・・・?」
 その時、光陰がテーブルの上に置かれた灰皿に目を留める。
 「どうした、光陰?」
 「・・・いや、何でもない」
 闘護の問いに、小さく首を振る。
 「?」
 「何でもないって。気にするな」
 「・・・そうか」
 それ以上追及はせず、闘護はヨーティアに視線を戻す。
 「さて、それで二人はスピリット隊に所属するんだがね・・・」
 「コウインがスピリット隊副長になるんだろ」
 ヨーティアの言葉に、闘護は目を丸くする。
 「何だ、知ってたのか」
 「当たり前だよ。アタシをナメてるのかい?」
 「別にそんなことはないが・・・ってことは、俺が参謀になることも?」
 「ああ。他のスピリット達は納得したのかい?」
 「一応、ね」
 微妙に複雑な表情を浮かべる闘護。
 「説得に手こずったみたいじゃないか」
 意地悪げな笑みを浮かべるヨーティア。
 「・・・」
 闘護は頬を引きつらせつつ、顔を背ける。
 「まあ、それはともかく・・・」
 ヨーティアは光陰と今日子に視線を戻す。
 「早速だが、マロリガンのスピリットについて聞きたいことがあるんだ」
 「ああ、遠慮無く質問してくれ。解る範囲で答えるよ」
 「ああ、それじゃあ・・・」


 「・・・成る程」
 ひとしきり話を聞き終えたヨーティアはコクコクと何かに納得したように頷いた。
 「俺達が知ってるのはこれぐらいだが・・・役に立つか?」
 「十分だよ。うんうん」
 光陰の問いに返事をするヨーティアは、興奮気味に答える。
 コンコン
 「ヨーティア様」
 その時、ノックがして、ドアの外からイオの声が聞こえた。
 「おう、イオ。ユートを連れてきたのか?」
 「はい」
 「いいタイミングだ。入ってくれ」
 ガチャリ
 「失礼します」
 扉が開き、イオと悠人が部屋に入ってきた。
 「あれ?何で光陰達が?」
 悠人は部屋の中にいる三人を見て目を丸くする。
 「聞きたいことがあったんでね」
 ヨーティアはそう答えると、闘護に視線を向ける。
 「トーゴ。クェドギンと戦ったのは誰だい?」
 「クェドギンと?」
 「ああ」
 「俺と悠人と・・・光陰だけど」
 「そうか・・・」
 ヨーティアは小さく俯いた。
 「ヨーティア?」
 悠人が呼びかけると、ヨーティアは小さく首を振った。
 「呼んでいきなりすまないが・・・ユート。後でもう一度来てくれ」
 「へ?」
 「それから、トーゴ、コウイン」
 唖然とする悠人をおいて、ヨーティアは闘護と光陰を見る。
 「お前達も後で来て欲しい」
 「アタシは?」
 今日子の問いかけに、ヨーティアは首を振った。
 「キョーコはいいよ」
 「つまり、クェドギンと戦った者だけ呼んでるわけだ」
 ヨーティアの言葉に、闘護が補足した。
 「いいかい?」
 「構わないぜ」
 光陰が頷く。
 「俺もだ。ただ、あまり夜遅くなるのは遠慮したい」
 「それは、話次第だね」
 「そうか・・・悠人、お前はどうするんだ?」
 「別にいいけど・・・」
 闘護の問いに、悠人は消極的に賛成する。
 「それじゃあ、待ってるからな」


─同日、昼
 ラキオス城城内

 「それにしても・・・」
 歩きながら、悠人は首を傾げる。
 「俺達に何を聞きたいんだろう?」
 「大方予想はつく」
 闘護は肩を竦める。
 「おそらく、クェドギンが何を言ったか、ということだろうな」
 「大将の最後の言葉、か・・・」
 光陰が呟く。
 「ねぇ、ちょっと」
 三人の後ろを歩いていた今日子が首を突っ込んでくる。
 「クェドギンってどんな人なの?アタシ、よく知らないんだけど」
 「どんな人って・・・」
 「どんな人なんだ?」
 今日子の問いに、悠人と闘護は光陰を見る。
 光陰は小さくため息をつくと、ゆっくりと口を開いた。
 「運命って奴に抗い続けた・・・そんな人間さ」


─同日、夕方
 ヨーティアの研究室

 「さて・・・」
 ヨーティアは、目の前に集まった三人を見回した。
 「早速だが・・・クェドギンが何を言ったか、教えて欲しい」
 「クェドギンの遺言を言え、と?」
 「・・・まぁ、そういうことだ」
 闘護の率直な問いに、ヨーティアは微妙に複雑な表情を浮かべつつ頷く。
 「人間・・・いや、この世界そのものが神剣の用意した舞台だと。そして、俺達は神剣に踊らされている」
 闘護がゆっくりと言葉を紡ぐ。
 「だから、自分は抗う。神剣によって生かされるのではなく、自分の意志で生きる為に・・・要約すると、こんなところだな」
 そう言って、闘護は悠人を見る。
 「そうだよな、悠人」
 「ああ。大体そんなことを言ってたけど・・・」
 「そう、か・・・」
 ヨーティアは重々しくため息をつく。
 「俺も出陣する前に同じようなことを大将から聞いている」
 光陰が口を開いた。
 「・・・」
 ヨーティアは目を瞑り、小さく俯く。
 「以前・・・クェドギンと接見した時に話した内容も同じだ」
 闘護が補足するように言った。
 「彼はこの世界を支配しているのは人間ではなく神剣だと言っている。どういうことだ?」
 闘護の問いかけに、ヨーティアは首を振った。
 「どうもこうもない。ただの仮説さ」
 「仮説・・・どれぐらい信憑性のある仮説なんだ?」
 「・・・」
 「ヨーティア?」
 「・・・信憑性は・・・かなりある」
 ヨーティアは重々しく呟く。
 「だが、仮説であることに代わりはない。確かな証拠がない以上、安易に信じることは出来ん」
 「ヨーティア。あなたはどう考えている?」
 光陰が尋ねる。
 「あたしか?あたしは・・・」
 ボリボリと頭を掻き、小さくため息をつく。
 「神剣によって支配されているとは考えていない。元々、運命というものを信じてないからね」
 「そう、か・・・」
 光陰は小さく、しかし少し残念そうに頷いた。
 「ヨーティア。ちょっと、いいか?」
 悠人が小さく手を挙げた。
 「なんだい?」
 「ヨーティアってさ・・・」
 悠人は遠慮がちな表情でヨーティアを見つめる。
 「クェドギンと・・・知り合いなのか?」
 【!?】
 悠人の問いに、吃驚したのは闘護と光陰だった。
 「・・・」
 ヨーティアは渋い表情で悠人を見つめる。
 「おい、悠人!!」
 ドン!
 「な、なんだよ闘護」
 「ちょっと!」
 闘護は悠人の肩を掴むと、ヨーティアに背を向けさせる。
 「もうちょっとTPOを考えろ、馬鹿!」
 「馬鹿って・・・俺は・・!」
 「・・・あのなぁ」
 闘護は呆れたように首を振った。
 「変な気を回すな、トーゴ」
 ヨーティアが低い声で注意する。
 「・・・」
 闘護は苦い表情で悠人を一睨みすると、ヨーティアの方を振り返る。
 悠人もヨーティアの方を向き直った。
 「クェドギンはね・・・帝国にいた頃の同僚、それだけさ」
 ヨーティアは背もたれに背を深く預ける。
 【・・・】
 「なんだ?他に何かあるのか?」
 三人の懐疑的な視線を受けて、ヨーティアが眉をひそめる。
 「いや・・・何もない」
 闘護が首を振った。
 「ふん・・・どうだか」
 ヨーティアは鼻を鳴らす。
 「・・・」
 沈黙する闘護
 「これで満足したか、ユート?」
 「あ、ああ・・・その・・・すまなかった」
 悠人は頭を下げる。
 「・・・」
 そんな悠人を、闘護は渋い表情で見つめている。
 「・・・なぁ、二人とも。大将は他に何か言ってなかったのか?」
 光陰が話を変える意図で尋ねた。
 「いや、それだけだよ。なぁ、悠人」
 「あ、ああ・・・」
 「そうか・・・ということだが」
 二人の返事を聞いた光陰が、ヨーティアに意見を求めるように視線を向けた。
 「わかった。それだけならいい」
 ヨーティアは首を振った。
 「用事はそれだけか?」
 「ああ。もういいよ」
 闘護の問いに、ヨーティアは手を振った。
 「お、おいおい。これだけの為に呼び出したのか?」
 悠人が口を尖らせる。
 「そうだよ。ほら、帰った帰った」
 ヨーティアはシッシと手を振る。
 「おい、ヨー・・・」
 ガシリ
 「わかった。失礼する」
 言いかけた悠人の方を、闘護が掴む。
 「行くぞ、二人とも」
 「え?ちょ・・・」
 「いいから!」
 闘護が悠人を引きずって部屋から出て行く。
 「じゃあ、お休み」
 光陰も挨拶をして闘護達の後を追って出ていく。
 「・・・」
 そんな三人を、ヨーティアは不機嫌そうな表情を浮かべつつ小さく手を振って送り出した。


─同日、夕方
 ラキオス城城内

 「闘護、放せよ!」
 バシッ
 部屋から出ると、闘護は悠人を乱暴に放り出した。
 「何だよ、いきなり」
 「あのなぁ・・・空気を読めないにも程があるぞ」
 闘護は怒り半分、呆れ半分の表情で悠人に吐き捨てると、歩き出した。
 慌てて悠人と光陰が闘護の後を追う。
 「空気って・・・どういうことだよ?」
 「・・・ヨーティアと大将の関係についてだよ」
 悠人の問いに答えたのは光陰だった。
 「何であんな無神経な質問をしたんだ?」
 「無神経って・・・ヨーティアがクェドギンとどういう関係かって聞いたことがか?」
 「そうだ」
 「おかしいことじゃないだろ。この前まで敵だった奴と知り合いだってなら・・・そんな奴と戦ってたんだぞ」
 次第に悠人の表情が苦いものになる。
 「そんなの・・・まるで、俺達みたいじゃないか」
 【・・・】
 「だから・・・その・・・もしそうだったら謝ろうって・・・」
 「・・・多分、余計なお世話だよ」
 悠人の言葉を遮るように闘護が呟く。
 「何で、余計なお世話なんだ?」
 闘護の物言いに、悠人はムッとする。
 「あの態度から察するに、ヨーティアはクェドギンとの関係について追及されたくない・・・と思う」
 「・・・だろうな」
 闘護の言葉に、光陰が同意する。
 「お前が謝罪した理由は解った。その気持ちは・・・理解できるけどさ」
 闘護は小さくため息をつく。
 「今はそっとしておく方がいいと・・・思う」
 「・・・」
 「闘護の言う通りだよ、悠人」
 「光陰・・・」
 「以前、大将がヨーティアの名を口にした時、微妙に表情が変わってた。多分、只の同僚じゃないだろう・・・だからこそ、下手に首を突っ込むべきじゃない」
 そう言って、光陰はジロリと闘護を睨む。
 「そうだよな、闘護」
 「・・・今回は、な」
 ボリボリと居心地悪そうに頭を掻きつつ答える闘護。
 「・・・でもさ」
 悠人が苦い表情を浮かべる。
 いつの間にか、三人は外に出ていた。
 「俺達は結局・・・クェドギンを助けることは出来なかったんだ」
 【・・・】
 「何でこんな事になるんだろう・・・こんな事になったんだろう?」
 「・・・目的を持って戦った。それはお前も大将も同じだよ」
 光陰が慰めるような口調で語りかける。
 「本当に・・・戦わなければならなかったんだろうか?」
 『俺もクェドギンも・・・多分、目指していたものは同じだったんだ。なのに、戦って・・・殺しあって・・・』
 拳を握りしめ、唇を噛み締める。
 「結局・・・お前は、“戦う”ことに悩み続けてるんだな」
 闘護はゆっくりと言った。
 「佳織ちゃんを助けるためとはいえ、“戦う”ことを拒み続ける限り、その苦悩は無くならないぞ」
 「・・・」
 「じゃあ、お前は何も悩んでないのか?」
 光陰が闘護に尋ねる。
 「悩んでるよ。“守る”ことに」
 「“守る”?」
 「正確には“守れない”ことを認めなくちゃならないことに・・・だな」
 闘護はそう言って空を見上げた。
 「俺は、“戦う”ことには悩まない。君たちみたいに、スピリットを殺せる訳じゃないし、人間を殺す機会はほとんど無いからね」
 闘護は肩を竦める。
 「しかも、君たちの“戦う”理由は・・・“誰か”のため、だろ?」
 闘護の言葉に、悠人と光陰は顔を見合わせる。
 「それは・・・そうだけど」
 「確かに、な」
 「生憎、俺にはその“誰か”ってのが明確じゃないんだ」
 闘護の言葉に、悠人は首を傾げた。
 「明確じゃない?」
 「俺はさ・・・“みんな”を“守り”たいんだ」
 「“みんな”?」
 「要するに、守れるものは全て守りたい」
 「・・・ふ」
 闘護の言葉に、光陰は小さく笑った。
 「おかしいか?」
 闘護が尋ねる。
 「おかしいというか・・・無理だろ、それは」
 「なぜ?」
 「お前、この世界の人間全てを守りたいと言ってるんだろ?」
 「スピリットとか・・・とにかく、この世界に存在するすべて、だな」
 「そんなことは不可能だ」
 光陰は肩を竦めた。
 「俺たちに出来ることなんてたかが知れている。今、俺たちはラキオスにいる。じゃあ、サーギオスの人間を守れるか?」
 「・・・」
 「しかも、スピリットや他の全て?そんなことが可能だと思って・・・いや」
 言い掛けた光陰は首を振った。
 「お前・・・無理だってわかってるんじゃないのか?」
 「・・・多分、な」
 光陰の言葉に、闘護は小さく頷いた。
 「俺の力なんてちっぽけだ。全てを守ろうなんて事を考えること自体、烏滸がましい」
 そう言って、闘護は苦笑する。
 「それは、イースペリアの“マナ消失”で痛感した」
 【・・・】
 「だけどさ・・・」
 闘護は二人を見る。
 「それでも、出来ることをしたい・・・諦めるのは簡単だ。だけど、それでも全てを守ろうとすることは図々しいか?」
 「・・・そんなことはない」
 悠人が震える口調で呟く。
 「俺だって、戦わなくて済めばいいと思うし、犠牲は少なくしたい・・・」
 そう言って、悠人は光陰を見る。
 「光陰や今日子を助けることが出来たのも、諦めなかったからだと思ってる」
 「・・・ありがと」
 光陰は小さく礼を言う。
 「だから、闘護の考えは間違ってない・・・俺はそう思う」
 悠人の言葉に、闘護は頷いた。
 「ありがとう」
 闘護はそう言って二人を見た。
 「悠人は戦いたくなくても戦う。俺は守りたくても守れない・・・お互い、根本で苦悩してるなぁ」
 「ま、そういうのもいいんじゃないのか?」
 光陰は肩を竦める。
 「俺は、戦っても守れないものがあることを認めるし、戦わないと守れないものもあると思ってる。お前達と比べると、割り切ってるからな」
 「そういう考えも、必要だよ」
 闘護は小さく笑う。
 「何もかも拾おうとすれば、結局全てを失う・・・そんな現実だって十分あり得るんだからな」


─聖ヨト暦332年 スリハの月 赤 五つの日 朝
 闘護の部屋

 「ふわぁ・・・」
 椅子に座って大きく欠伸をする闘護。
 「むぅう・・・退屈だな」
 『内務を、研修を兼ねてヒミカ達に全部任せたら・・・やる事って無いんだなぁ』
 伸びをして、ゆっくりと立ち上がる。
 「さて・・・これから、どうしようかな」

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