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─聖ヨト暦332年 スリハの月 赤 三つの日 昼
 第二詰め所、食堂

 「さて・・・これからどうするんだ?」
 昼食が終わった闘護はゆっくりと尋ねる。
 「そうだなぁ・・・時間が中途半端だし、これから町に出てもすぐに戻らなくちゃならないし・・」
 悠人が難しい表情で考え込む。
 「ふむ・・・夕食は?」
 「あ、それなんだけど・・・」

 悠人はヒミカの提案を闘護に説明した。

 「いいよ」
 闘護は二つ返事で頷く。
 「それに、丁度いい。この機会に、二人にうちのメンバーの紹介をしたい」
 「そうか・・・あれ?」
 そこで、悠人は首をかしげる。
 「確か、ファーレーンとニムは前線に出てたんじゃ・・・」
 「ああ。二人以外・・・ということになる。ま、仕方ないさ」
 「・・・なぁ、闘護」
 「二人を呼び戻したら、前線が手薄になる。まだ開戦してないからって、それは危険だ」
 悠人の言葉を先読みしたかのように闘護が言った。
 「だったら、誰かに変わってもらえれば・・・」
 「変わってもらうったって、うちのメンバー以外にか?」
 闘護は難しい表情を浮かべた。
 「今、第一詰め所にはエスペリアだけだろ?まぁ、彼女が行けばファーレーンとニムの二人を呼び戻しても大丈夫だろうけど・・・」
 「アセリアの世話・・・か」
 闘護の言葉を継ぐように悠人が呟いた。
 「彼女を連れてくるにしても、誰かついていた方がいい」
 「だったら、俺がつくよ」
 「お前が?」
 悠人の提案に、闘護が眉をひそめた。
 「俺はアセリアと一緒に第一詰め所にいるからさ。エスペリアも前線に出てもらうよ」
 「しかし・・・」
 「二人を紹介するんなら、早めにしておいた方がいいだろ?」
 「それはそうだが・・・いいのか?」
 「ああ」
 「・・・わかった」
 闘護は食堂にいる全員を見回す。
 「いいかい、みんな?」
 【はい】
 ヘリオンとナナルゥの賛成の声が重なる。
 「あたし達は構わないけど・・・いいの、悠?」
 「いいって。それより、ちゃんと挨拶しろよ」
 「悪いな、悠人」
 光陰は頭を下げる。
 「じゃあヘリオン、ナナルゥ」
 闘護は二人を見た。
 「は、はい!」
 「今すぐケムセラウトに向かい、ファーレーンとニムを呼び戻してくれ」
 「わかりました」
 ナナルゥが頷き、ヘリオンと共に食堂から出て行った。
 「さて・・・」
 二人が出て行き、闘護は食堂から廊下に顔を出した。
 「ネリー!!シアー!!降りてきてくれ」
 ・・・ガチャリ
 しばらくして、食堂に二人が来た。
 「なーに、トーゴ様?」
 「なに・・・?」
 「第二詰め所の留守番を任せたい」
 「るすばん・・・?」
 「ちょっと出かけてくるからさ。いいかい?」
 「うん、いいよ」
 「シアーもいいかな?」
 「うん・・・」
 「じゃあ頼む」
 闘護は光陰と今日子の方を振り返る。
 「光陰、今日子。君たちも一度第一詰め所に戻ろう」
 「あたし達も?何で?」
 「エスペリアに夕飯の旨を伝えないといけないし、君たちに話すことがある」
 「・・・俺と今日子に、か?」
 光陰の問いに、闘護は頷いた。
 「わかった。いいぜ」
 「今日子もいいな?」
 「いいけど・・・どんな話なの?」
 「君たちの待遇についてだよ」


─同日、昼
 第一詰め所へと続く道

 「で・・・」
 詰め所を出て十分程が経ち、光陰がゆっくりと口を開いた。
 「俺たちに何の話なんだ?」
 「さっきあたし達の待遇がどうとか言ってたけど、どういうことなの?」
 「今後についてさ」
 光陰と今日子の問いに、闘護は肩をすくめた。
 「君たちは正式にラキオス王国スピリット隊に編入された。だから、スピリット隊の訓練や任務に参加してもらうことになる」
 闘護はそう言って悠人を見た。
 「悠人。二人に何をするか説明したか?」
 「いや、まだだけど・・・」
 「そうか。まぁ、仕方ないな。二人とも、こっちに帰ってきたのは昨日だしな」
 頷くと、闘護は持っていた袋から封筒を二つ、取り出した。
 袋は、館を出る前に自室から持ってきた物だ。
 「当面の仕事は、ラキオス王都の警備と前線待機、あとは哨戒任務になる」
 言いながら光陰と今日子に封筒を渡す。
 「しばらくの間は、仕事になれてもらう為に他のメンバーと一緒にやってもらう」
 「わかった」
 「いいわよ」
 闘護の言葉に、二人が頷く。


─同日、昼
 第一詰め所、食堂

 「・・・というわけで、今すぐ前線に行って欲しいんだけど・・・いいかな?」
 「わかりました」
 悠人の問いに、エスペリアはコクリと頷いた。
 「今すぐ準備をします」
 エスペリアは頭を下げると、食堂から出て行った。
 「ふむ・・・」
 『仲直りをしたというのは確かだな・・・けど、少し素っ気ないというか・・・微妙に避けてるというか・・・』
 二人の様子を見ていた闘護は小さく息をついた。
 「何だよ、闘護?」
 「いや・・・何でもないよ」
 訝しげに見つめる悠人に、闘護は小さく首を振った。
 ガチャリ
 「お待たせしました」
 準備を終えたエスペリアが再び食堂に来た。
 「すまないが、よろしく頼むよ」
 「はい、トーゴ様。それでは、失礼します」
 エスペリアは頭を下げて食堂から出て行った。
 「アセリアを頼むぞ」
 「ああ」
 闘護の言葉に、悠人は頷いた。
 ガチャリ
 「待たせたな」
 扉が開き、光陰が入ってきた。
 「今日子は?」
 「もう少し時間がかかると思うぜ。あの量じゃな」
 「・・・大した量じゃないだろ?たった十枚なのに」
 「一枚一枚にびっしり書き込まれてるのにか?」
 驚く闘護に、光陰は呆れたようにため息をついた。
 「そんなに伝えることが多いのか?」
 悠人が尋ねた。
 「隊の規律から詰め所の決まり事等々・・・決して少なくはないな」
 闘護はそう言って肩をすくめた。

 しばらくして・・・

 ガチャ・・・
 「・・・」
 扉が開き、憔悴した今日子が顔を出した。
 「すごい顔だな・・・」
 素直に感想を言う闘護を、今日子はジロリと睨んだ。
 「何よ・・・あれ」
 「何って?」
 「何であたし達がスピリットの予定表を覚えなくちゃならないのよ?」
 「いずれ指揮をしてもらうからだ」
 闘護はそう言って光陰に視線を向けた。
 「おかしいな・・・そう書いてなかったか?」
 「ああ、確かに書いてた」
 「だろ?光陰に渡した物と今日子に渡した物は同じ物だったはずだぞ」
 闘護は首をかしげながら今日子に視線を戻した。
 「だから、何であたしがそんなことを覚えるのよ!?」
 我慢の限界を超えたのか、今日子は怒鳴った。
 「光陰は副隊長だから仕方ないとしても、あたしは関係ないでしょ!?」
 「そんなわけないだろ」
 闘護はヤレヤレと首を振った。
 「君には光陰の補佐をしてもらうつもりだ」
 「・・・あたしが?」
 「・・・俺の補佐?」
 今日子と光陰は目を丸くする。
 「そうだ。まぁ、肩書きがある訳じゃないけど・・・」
 そう言って、闘護は悠人を見る。
 「悠人にはエスペリアが隊長補佐として働いてもらっている。俺にはセリアが同じように俺を補佐してくれる。で、光陰」
 「俺にも補佐が必要?」
 「で、それをあたしにやれって?」
 二人の問いに、闘護はコクリと頷く。
 「悪くない人選だろ。互いに相手を知ってるし、少なくとも他のスピリットをつけるよりはいいはずだ」
 【・・・】
 「悠人。お前もそう思わないか?」
 「あ、ああ・・・俺もいいと思うけど」
 突然話を振られた悠人は、慌てて頷いた。
 「君たちは嫌なのか?」
 「・・・俺はいいよ」
 闘護の問いに、光陰が答えた。
 「今日子は?」
 「・・・」
 難しい表情を浮かべて沈黙する今日子。
 「今日子・・・」
 「・・・けど、スピリットならマロリガンから連れてきても・・・」
 「それはできん」
 悠人の提案を、闘護は遮った。
 「既に光陰達は知っているだろうけど、マロリガンのスピリットは全員マロリガンの防衛に回す。ラキオスとサーギオスの戦線に投入するつもりはない」
 そう言って、闘護は光陰を見た。
 「もう伝えたよな、そのことは?」
 「ああ。稲妻部隊も含めて、全員マロリガンの防衛にあたるように言っておいた」
 「だけど、一人ぐらいなら・・・」
 「補佐をするんだ。それなりの実力を持ってないと意味がないだろ」
 再び、悠人の提案を闘護は遮った。
 「先日の会議でな・・・」
 闘護は二人を見つめた。
 「エトランジェを二人連れてくることについては、上から反対があったんだ」
 【!?】
 闘護の言葉に、悠人と今日子は目を丸くした。
 「エトランジェの実力と、元敵・・・それが主だった理由だが、それだけじゃない」
 「マロリガンに戦力的空白を作ることは、帝国につけ込まれる可能性を作ることになるから・・・だろ?」
 「わかってるな、光陰」
 「予想はつくさ」
 闘護は小さく頷くと、悠人と今日子に視線を向けた。
 「エトランジェよりもスピリットを連れてくる方がよい・・・それを、俺とレスティーナがごり押しして、エトランジェ二人を連れてくることにしたんだ」
 【・・・】
 「帝国との戦いに必要なのはマナ以上に戦力そのもの・・・スピリットよりもエトランジェの方が有効だって言ってね」
 「それだけか?」
 「・・・どういう意味だ、光陰?」
 「俺たちに気を使った・・・ってのもあるんじゃないのか?」
 「あったよ」
 「正直だな」
 【・・・】
 素直に肯定する闘護に、肩をすくめる光陰と唖然とする悠人と今日子。
 「とにかく、そういう事情もあってマロリガンからスピリットを呼ぶことは出来ない。かといって、ラキオスのスピリットで光陰の補佐が出来るメンバーは・・・現時点ではまだいない」
 「そりゃ仕方ないだろ」
 「ああ。来て日が浅いんだ。だけど、そんなことを言ってる場合じゃない」
 闘護は小さく息をつく。
 「帝国との開戦はそれほど先の話じゃないんだ。早めに決めておいた方がいい」
 「・・・でも、無理だよ」
 今日子が力無い口調で呟いた。
 「あたし、そんなこと出来ないよ・・・」
 「何故?」
 闘護の問いに、今日子は俯いた。
 「あたし・・・エスペリアみたいにいろんなことできないよ」
 「その必要はない」
 「・・・え?」
 闘護の言葉に、今日子は顔を上げた。
 「光陰の補佐・・・ってのは、正直大したことじゃないんだ。というのも、光陰自体が何でも出来るから」
 そう言って、闘護は光陰の肩を叩いた。
 「ただ、時には光陰の代役が必要なときがある。それも、エスペリアやセリアのように机仕事や世話じゃなくて・・・戦い、だ」
 「!」
 「戦いが出来る、しかも光陰の代役を務められるほどの能力を持つ・・・そんなことを君以外の誰に出来る?」
 「・・・アンタ」
 今日子は無表情で闘護を見つめた。
 「あたしを・・・戦うことしか出来ないって思ってんの?」
 「ああ」
 「っ!」

 ガシッ!!

 「お、おい!」
 「・・・」
 目の前の光景に驚く悠人と、沈黙して見つめる光陰。
 「・・・くっ!!」
 「・・・悪いけど、ね」
 振り上げられた今日子の腕を押さえながら、闘護は真剣な表情で今日子を見つめる。
 「俺は君のことを何も知らない」
 「・・・え?」
 「君がどんなことが得意で、どんなことが苦手なのか・・・全然知らない」
 「・・・」
 「俺が知ってるのは、君がエトランジェで、光陰と悠人の幼なじみで、光陰の恋人であること・・・それぐらいだ」
 力が抜けた今日子の腕を、闘護は放った。
 今日子の腕は、そのままぶらりと垂れ下がる。
 「それらを踏まえて・・・君ほど光陰の補佐に適している人物はいないと考えた」
 「・・・」
 「どうしても嫌というのなら、無理にやって欲しいとは思わない。しばらくは光陰の補佐は無しということでいこう」
 そう言って、闘護は光陰を見た。
 「いいよな、光陰?」
 光陰は、ジッと闘護のを見つめる。
 「・・・よくない」
 「え!?」
 驚いたのは今日子だった。
 「俺は今日子以外に補佐をしてもらう気はないぞ」
 「こ、光陰・・・」
 「と、いうことだが・・・?」
 闘護は狼狽している今日子を見つめる。
 「で、でも・・・」
 「なぁに。難しく考える必要はないさ」
 光陰はニヤリと─いつものように軽く─笑った。
 「今まで通りやればいいんだよ」
 「光陰・・・」
 「だろ、闘護?」
 光陰の問いかけに、闘護は肩をすくめて一言。
 「そういうことだ」


─同日、昼
 アセリアの部屋

 ガチャリ・・・
 「アセリア・・・」
 悠人は、ベッドの上に座り込んでいるアセリアにそっと声をかけた。
 「・・・」
 しかし、アセリアは返事をするどころか、視線を動かすことなくジッとしていた。
 「・・・」
 悠人は唇をかみしめ、静かに部屋から出た。

 「状況は変わらず・・・か」
 闘護はゆっくりと呟いた。
 「ああ・・・」
 悠人は沈痛そうに頷いた。
 「夕食は、俺が第二詰め所から持ってくるよ」
 「頼む」


─同日、昼
 第二詰め所、食堂

 ガチャリ・・・
 「ただい・・・ん?」
 「これは・・・」
 「甘い匂いがするわね」
 食堂に入った3人は、部屋に充満している甘い匂いに気づいた。
 「お帰りなさーい」
 「お帰り・・・」
 椅子に座っていたネリーとシアーが顔を上げた。
 「ただいま。これは・・・」
 「あらあら、皆さんお帰りなさい〜」
 台所からハリオンが顔を出した。
 「ああ。この匂いはどうしたんだ?」
 「ヒミカとケーキを作ってるんです〜」
 闘護の問いに、ハリオンは楽しそうに答えた。
 「夕食後に出しますから、楽しみにしててくださいね〜」
 「ああ」
 ハリオンは笑顔を残して台所へ引っ込んだ。
 「さて・・・ん?」
 後ろにいる光陰達の方を振り返ろうとした闘護の視界に、ネリーとシアーの前に置かれた物が入った。
 「ネリー、シアー。それは・・・ノートか?」
 「うん。そうだよ」
 「勉強してるのか」
 「う、うん」
 「そうか」
 闘護は小さく─安心したように─笑うと、光陰達の方を振り返った。
 「とりあえず、勉強の邪魔になりそうだし・・・俺の部屋に行こうか」


─同日、昼
 闘護の部屋

 「好きに休んでくれ」
 「それじゃあ・・・」
 闘護の言葉に、今日子がベッドにそれぞれ腰掛けた。
 「ふーん・・・ここが闘護の部屋かぁ」
 今日子が部屋の中をキョロキョロと見回す。
 「テーブルと椅子とベッドと・・・クローゼットと本棚・・・」
 「どうした?」
 「何だか、飾り気ないわね」
 「・・・まぁ、不要な物は置かないようにしてるからな」
 闘護はポリポリと頭を掻いた。
 「・・・」
 光陰は、無言で本棚の前に立った。
 「これは・・・」
 一冊を取り出す。
 「“記録 聖ヨト歴330年シーレの月〜聖ヨト歴330年スリハの月”・・・」
 「それは日誌だ」
 闘護は近づくと、光陰からやんわりとその本を取り上げた。
 「日誌って・・・アンタ、そんな物をつけてるの?」
 「まあな。記録しておいて損はないだろ」
 「何を書いてるんだ?」
 「その日に何が起こったか、だよ。ちなみに、起こったことだけだ。起こったことに対する俺の感想とか意見は入ってない」
 闘護は本を本棚に戻した。
 「そうか・・・」
 光陰は側に置いてあった椅子に腰掛けた。
 「ねぇ、闘護」
 「ん?何だ、今日子?」
 「ちょっと聞きたいんだけど・・・」
 今日子は真剣な表情で闘護を見つめる。
 「アンタ、どうしてラキオスにいるの?」
 「・・・どうしてって」
 「アンタも、あたし達や悠みたいにこっちの世界に来たんでしょ?」
 「ああ」
 「あたし達、悠とアンタがどうやってこっちの世界に来たのか教えてもらってないのよ」
 「・・・それを知りたいと?」
 「ええ」
 「そうだな・・・俺も興味がある」
 黙っていた光陰が口を開いた。
 「わかった。じゃあ・・・」

 闘護は二人に、この世界に来てから経験したことを語り出した。
 バーンライトのスピリット達と戦ったこと
 守り竜と戦ったこと
 北方五国での戦争・・・イースペリアのマナ消失について
 佳織との再会、そして瞬によって帝国にさらわれたこと
 マロリガンでの戦争・・・その過程で起きたこと
 元の世界に戻ったことについては伏せたが、大まかなあらすじについて説明をした。

 「・・・ということがあったのさ」
 説明を終えた闘護は二人を見た。
 「そっか・・・」
 「苦労してたんだな・・・」
 感慨深げに呟く二人。
 「君達だって苦労したんだろ」
 「まあな・・・」
 闘護の言葉に、光陰が肩をすくめた。
 「じゃあ、今度は君たちの話を聞かせてもらいたいな」
 「・・・どうする、今日子?」
 「別にいいわよ」
 今日子の了解を取り、光陰は闘護の方を向いた。
 「俺たちは・・・」


─同日、夜
 第二詰め所、食堂

 夕食の時間になり、食堂には第二詰め所のメンバー全員と、ゲストであり主役である光陰と今日子が集まった。

 「初めまして、コウイン様、キョウコ様。私は【熱病】のセリアです」
 「【月光】のファーレーンです。これからよろしくお願いします」
 「【曙光】のニムントール・・・です」
 3人は立ち上がり、それぞれ自己紹介をする。
 「碧光陰だ。こちらこそよろしくな」
 「岬今日子よ。よろしくね」
 光陰と今日子も立ち上がってそれぞれ頭を下げる。
 「光陰はスピリット隊副隊長に任命されている。今日子も力強い味方になってくれる。これからよろしく頼むよ」
 【よろしくお願いします】
 闘護の言葉に続いて、セリア達スピリット全員頭を下げた。
 「こっちこそ、よろしく頼むよ」
 「足手まといにはならないからね」
 二人もそれぞれ頭を下げる。
 「さて・・・じゃ、みんな座って」
 闘護の言葉に従い、立っていた五人が席に着く。
 「それじゃあ、グラスを持ってくれ」
 カチャカチャカチャ・・・
 全員がグラスを持ったことを確認すると、闘護は立ち上がった。
 「新たな仲間が二人増えたことを祝って・・・乾杯!!」
 【乾杯!!】

 「キョウコ様は雷の力を操ることが出来るんですか〜」
 「凄いですね」
 ハリオンとヒミカが尊敬に近いまなざしを今日子に向ける。
 「そ、そんなことないって。だって、あたしはハリオンみたいに回復魔法を使うことは出来ないし、ヒミカみたいに力はないし」
 「いいえ。私たちにはキョウコ様のような攻撃魔法を使うことは出来ません」
 「それに、ブルースピリットの神剣魔法で凍結することも出来ませんし〜」
 「て、照れるわね・・・」
 素直に褒める二人に、今日子は頬を染める。
 「あたしなんて大したこと無いわよ。光陰の方が・・・」
 そこで、今日子は光陰に視線を向ける。
 すると・・・
 「ネリーちゃんとシアーちゃんは誰が一番好きなの?」
 「シアーだよ」
 「ネ、ネリー・・・」
 「じゃあ、他には?」
 「トーゴ様!」
 「うん」
 「そうかぁ・・・俺なんかどうかなぁ?」
 思いっきり鼻の下を伸ばして問いかける光陰。
 「こ〜う〜い〜ん」
 「はっ!?」
 いつの間にか、今日子の手にハリセンがあった。
 「な〜に〜を〜し〜て〜る〜の〜か〜な〜?」
 「こ、これは友好関係を築こうと・・・」
 「ほほぉ・・・じゃあ、どうして鼻の下を伸ばしていたのかなぁ〜?」
 「い、いやぁ・・・それは・・・」
 愛想笑いを浮かべる光陰。
 「ばっかもーん!!」
 バシーン!!
 「ぐはっ!!」
 一撃を食らった光陰はテーブルの上に突っ伏した。
 「ったく・・・ん?」
 【・・・】
 二人の掛け合いを、呆然と見ている第二詰め所の皆さん。
 「あ、これは・・・」
 「ただの夫婦漫才だ。気にしないでくれ」
 「と、闘護!?」
 サラリととんでもないことを口にする闘護を、今日子は慌ててにらみつける。
 「違うのか?」
 「ち、ちが・・」
 「いやぁ、闘護にはわかるか?」
 いつの間にか復活した光陰がニヤニヤ笑っている。
 「ああ。よくわかるぞ」
 「な、と、とう・・・」
 「しかし、毎度毎度ハリセン食らって・・・痛くないのか?」
 「ふ・・・これは今日子の愛のムチさ」
 「成る程。そうだったのか」
 「この痛みは今日子の俺に対する愛・・・情・・・」
 パチパチパチパチ・・・
 「こ〜う〜い〜ん〜」
 「あ、ま、まて・・・お、落ち着け今日子」
 「落ち着けるかぁ!!!」
 ドガーン!!!
 「ぐぁああああああ!!」
 電撃ハリセンを食らった光陰は、煙を上げながら再びテーブルの上に突っ伏した。
 「はぁはぁはぁ・・・」
 「今日子」
 「何よ?」
 ジロリと睨む今日子を、闘護は受け流して一言。
 「神剣魔法を突っ込みに使うなよ」
 「・・・」
 唖然とする今日子。
 「・・・ぷ」
 「ふふふ・・・」
 「あははは・・・」
 【あはははははは!!!】

 「全く・・・」
 『とりあえず、雰囲気を和ませた、かな』
 食事をしつつ、闘護は心の中で安堵する。
 先ほどの掛け合いを経て、みんなが二人に対して微妙に持っていた硬い思いが氷解したように、二人と接していた。
 「トーゴ様」
 「ん?」
 その時、セリアが闘護に小声で話しかけてきた。
 「あの・・・コウイン様とキョウコ様はいつもこうなのですか?」
 「こうって・・・?」
 「その・・・さっきみたいに神剣魔法を・・・」
 「さあ」
 闘護は小さく肩をすくめた。
 「俺は知らないけど・・・それが?」
 「いえ・・・その・・・」
 「日常生活であんな風に神剣魔法を使われるのはどうか・・・ってこと?」
 「・・・」
 「大丈夫だろ」
 闘護は心底疑いの無い口調で言った。
 「どうして・・・ですか?」
 「あの二人が恋人同士だからさ」
 「恋人同士・・・」
 「恋人同士だからこそ、ああやって明け透けに・・・もっと言うなら、素の自分をああやってさらけ出せるんだ。だから、他の・・・いや、悠人以外にあんなことをすることはないさ」
 「・・・恋人・・同士・・・」
 「・・・セリア?」
 「はっ!?い、いえ・・・なんでもないです!」
 一瞬惚けたようなセリアに闘護は訝しげに眉をひそめた。
 「・・・」
 「何でもないです!本当に何でもないです!!」
 「あ、ああ・・・」
 剣幕に押されて、闘護はたじろぎつつ頷いた。
 「セリア。どうしたの?」
 「な、何でもないわ」
 ヒミカの問いに、セリアは慌てて首を振った。
 「?」
 「やれやれ・・・」
 闘護は小さくため息をつくと、光陰と今日子に視線を向けた。
 『光陰は・・・ん?妙だな』
 光陰の視線が、微妙に泳いでいる事に気づく。
 目立たないように光陰の観察をしていく。
 『・・・どうやら、ネリー、シアー、ヘリオン、ニムの四人をチラチラと見てるみたいだな』
 そんな光陰の視線に気づいたのか、ファーレーンが微妙に光陰に注意を払っている。
 『なにやってんだか・・・後で聞いてみるか』
 そう考え、闘護は今日子に視線を移す。
 「ん・・・」
 『こっちはこっちで仲良くやってるな』
 今日子はハリオンやヘリオンと楽しそうに話している。
 『さて・・・とりあえず、仲間の和にとけ込むのはうまくいった、かな』
 心の中で小さく安堵する闘護だった。


─同日、夜
 第一詰め所、食堂

 コンコン
 「どうぞ」
 休んでいた悠人が返事をした。
 ガチャリ
 「失礼するよ」
 「闘護」
 食堂に入ってきた闘護は、持っていたバスケットをテーブルの上に置いた。
 「はい。夕食」
 「すまないな」
 悠人はバスケットの中身をテーブルの上に置いた。
 「光陰と今日子は?」
 「ああ・・・」
 闘護は頬を掻きつつ、あさっての方を向く。
 「今頃・・・まぁ、いろいろやってんじゃないの?」
 「いろいろ?」
 「ああ。まぁ・・・」
 ・・・・ドーン・・・
 闘護の声に被さるように、遠くから何か轟音が響いてきた。
 「いろいろ・・・な」
 「・・・そうか」
 悠人は小さく頷くと、椅子に座って早速食事を始めた。
 「なぁ、悠人」
 「何だ?」
 「光陰ってさ・・・ロリコンの気があるのか?」
 「ブッ!!」
 「うわっ!!汚いな!!」
 吹き出した悠人に、闘護は眉をひそめた。
 「ゲホッ・・・な、なんだよ、いきなり?」
 「いや・・・あいつ、食事中に妙に視線をネリー達に向けてたからさ」
 「・・・どうなったんだ?」
 「何が?」
 「今日子は?」
 「・・・今、なにかやってるよ」
 ・・・ドーン・・・
 再び遠くから響いてくる轟音。
 「そうか・・・」
 「で、どうなんだ?」
 「・・・まぁ、ロリコンなのかどうかよくわからないけど」
 悠人は小さく頭を掻いた。
 「幼女に妙な視線を向けるのは確かだな。実際、うちのオルファも見られてた」
 「そうか・・・ったく、仕方ない奴だな」
 闘護は呆れたように首を振った。
 「恋人がいるくせに、他の女の子にそういう視線を向けるとは」
 「・・・」
 「ま、そっちの折檻は今日子に任せておこう」
 闘護は気を取り直したように首を振った。
 「それじゃあ、俺は帰るよ。料理は二人分用意してるから、アセリアにも食べさせてやってくれ」
 「わかった」
 「じゃあな」
 闘護が部屋から出て行き、一人になった悠人は小さく呟いた。
 「オルファに変なことをしないように注意しておいた方がいいかな・・・」


─同日、夜
 第一詰め所近くの森

 「お疲れさん」
 森の中から出てきた今日子に、闘護は声をかけた。
 「光陰は?」
 「知らないわよ。どっかで寝てるんじゃないの?」
 素っ気なく答える今日子。
 「そうか」
 頷く闘護をおいて、今日子はスタスタと第一詰め所の方へ行ってしまった。
 「さて・・・一応、聞いてみるか」
 闘護は森の中へ足を踏み入れた。

 「・・・」
 「おい、光陰」
 うつぶせになって倒れている光陰を闘護は揺さぶった。
 「起きてるんだろ。おい、光陰」
 「・・・何だよ、闘護」
 うつぶせになったまま返事をする光陰。
 「こんなところで寝てたら風邪引くぞ」
 「・・・」
 ゴロリ・・・
 光陰は一回転して、仰向けになる。
 「・・・」
 「どうした、光陰?」
 「俺はさ・・・」
 「ん?」
 「小さな女の子が好きなんだ」
 「・・・ロリコンか」
 「勘違いするなよ」
 光陰は真面目な瞳で闘護を見つめた。
 「別に幼女に対して性的欲求がある訳じゃない」
 「・・・」
 「ただ、小さな女の子が好きなだけだ」
 「それを世間一般ではロリコンって言うんじゃないのか?」
 「・・・そうかもな」
 光陰はムクリと起きあがった。
 「だけど、可愛いものを愛でるのは罪じゃないだろ?」
 「・・・」
 「本当に、俺は幼女に欲情してる訳じゃないんだ」
 「俺に言い訳したって仕方ないだろ」
 闘護は光陰の隣に座り込む。
 「別に言い訳じゃないさ」
 「・・・今日子は知ってるっていうのか?」
 「ああ。少なくとも、欲情してないってことは・・・な」
 「そうか」
 「俺と今日子の掛け合いはスキンシップだ。ケンカじゃないさ」
 「どうして・・・俺にそんなことを言う?」
 「お前は誤解してそうだからな」
 光陰はそう言って闘護を見つめる。
 「俺にとって“そういう存在”は今日子だけだ・・・だから、変な気を回さないでくれ」
 「・・・変な気って?」
 「今日子のフォローをしたりするな、ってこと」
 「・・・」
 「俺たちはこれが普通なんだ」
 「悠人がいても、いなくても・・・か?」
 闘護はジッと光陰を見つめる。
 「・・・ああ。そうだ」
 「ならばいいけど、ね」
 闘護は小さく肩をすくめた。
 「だけど、あまりネリー達に変な視線を向けるなよ」
 「別に変な視線のつもりはないんだけどな」
 「アレが変じゃないと?」
 「ああ」
 「・・・十分変だよ」
 闘護は呆れたようにため息をついた。
 「まあいい。変な気を回すなと言うなら回さないさ」
 「ああ。そうしてくれ」
 「その代わり、何かあったら自分でケリをつけろよ」
 「言われなくてもわかってるよ」
 「あ、そう」
 闘護は立ち上がった。
 「じゃあな」
 「ああ」
 「明日は訓練だからな。遅れるなよ」
 「わかってるって。お休み」
 「お休み」
 闘護が立ち去り、一人残った光陰はゆっくりと呟いた。
 「俺には・・・今日子だけなんだ」


─同日、夜
 闘護の部屋

 コンコン
 「どうぞ」
 書類を整理していた闘護は振り返らずに声を返した。
 ガチャリ
 「トーゴ様・・・?」
 「ん?どうしたんだ、みんな?」
 入ってきたのは、ネリー、シアー、ヘリオン、ニムントールの四人だった。
 「あの・・・ちょっと、話したいことがあるんですけど・・・」
 ヘリオンがおずおず言った。
 「何?」
 「・・・コウイン様ってどんな人なの?」
 ネリーが少し遠慮がちに尋ねた。
 「どんなって・・・どうしたんだ?」
 「食事の時・・・ニム達を変な目で見ていた」
 ニムントールが複雑な表情で答える。
 「変な目?」
 「シアーのこと・・・見つめてた」
 シアーがこれまた複雑な表情で呟く。
 「・・・」
 『こういう誤解が発生するんだよなぁ』
 闘護は小さくため息をついた。
 「どうなの?」
 ニムントールが少しすがるような視線を闘護に向けて尋ねた。
 「いい奴だよ。間違いなくね」
 闘護はそう言って、出来るだけ安心させるように優しい笑みを浮かべた。
 「君たちを見ていたのは・・・君たちが可愛かったからだ」
 【!?】
 闘護の言葉に、四人は同時に目を丸くした。
 「だから、見とれていた・・・それだけだよ」
 「本当ですか・・・?」
 不安そうなヘリオン。
 「本当だって。さっき本人から直接聞いた」
 『少なくとも欲情してる訳じゃない』
 心の中で一言付け加える。
 「心配する必要はない。変なことは起きないさ。大体・・・」
 そこで、闘護は呆れたように肩をすくめた。
 「今日子って恋人がいるんだ。妙なことにはならないさ。俺が保証するよ」
 【・・・】
 「ん〜・・・俺の言葉は信用できないか?」
 闘護の問いに、四人とも首を振った。
 「わ、わかりました」
 「トーゴ様が言うんなら・・・」
 「大丈夫・・・」
 「・・・トーゴが言うんだから」
 四人の様子に、闘護は心の中で呟いた。
 『光陰なら大丈夫だ。本気で今日子が悲しむような真似はしないだろうからな』

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