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─聖ヨト暦332年 シーレの月 緑 二つの日 夕方
 マロリガン領 荒野

 タタタ・・・
 『あ、あれは・・・』
 辛うじて道と呼べるものの先に、人影が見えた。
 ゆっくりと立ち上がり、こっちを見やる。
 相手は悠人と闘護のよく知る人物だった。
 「ふぅ・・・よっ、二人とも。遅かったな」
 キィーン!!!
 「っ・・!!」
 光陰の姿を見たその瞬間、【求め】から沸き上がる壮絶な憎悪が、悠人の心を塗りつぶそうとする。
 「黙ってろっ、バカ剣っ!!!」
 怒鳴り、剣の声を鎮める。
 「ふ・・・相変わらず、その剣とは仲良くやってるようだな」
 悠人と【求め】のやりとりを見て、光陰はニヤリと笑う。
 その笑顔は、元の世界にいた時と何ら変わらない。
 剣を構え、対峙しているのが信じられないほど、光陰の態度は自然だった。
 『先に光陰が出てきたか・・・さて、これは幸か不幸か・・・』
 闘護は冷静に考える。
 一方、悠人は【求め】を抜くことなく、光陰に向かって叫ぶ。
 「光陰!今、俺達が戦う意味が何処にある?もうすぐ・・・もうすぐマナ消失でみんな吹き飛ぶぞ!!」
 シュォオオオオオオ!!!
 問いかけた瞬間、砂漠に佇む光陰から巨大なオーラフォトンが立ち上る。
 キィーン・・・
 両翼に控えた稲妻部隊のスピリット達からも、呼応するかのようなマナの高ぶりを感じた。
 張りつめた気が突風になって二人に襲いかかる。
 風で全身がビリビリと引きつった。
 『くっ、なんて力だ・・・』
 悠人は戦慄する。
 「俺達が戦う意味か・・・」
 光陰は不敵な笑みをたたえる。
 「お前達を倒せば、大将が神剣を暴走させる必要もない」
 そう言って、悠人を見る。
 「悠人よ。俺達にはそれぞれ大切なものがあるだろ?こっちの大将にもどうやら譲れないものがあるらしい。それは、そっちの女王さんも同じだろう?それが、意味として不足か?」
 「俺にはよく解らない・・・だけど、俺にとってはお前だって今日子だって大切で、譲れないものだ!!頼む、光陰。一緒に戦ってくれ!そうすれば・・・」
 『きっと何か道が開ける・・・そう信じないと、やってられない。元の世界にいた頃、光陰と今日子は俺の日常の一部だったんだ。かけがえのない人間・・・それなのに!!』
 悠人の悲痛の叫び。
 「・・・悠人」
 光陰の顔から笑みが消える。
 「今日子は神剣に飲まれている。このままでは壊れちまう。少しでも楽にさせてやる為には、眷属である剣を破壊するしかない。そのことはお前も知っているだろう?」
 次第に、その表情は険しくなる。
 「お前の【求め】、俺の【因果】、秋月の【誓い】・・・互いが互いを憎んでやがる。今日子の【空虚】も含めてな。生憎、今は俺が今日子に殺されてやるわけにはいかん。それは一番最後だ。まずは秋月、そして悠人・・・お前を倒してからと思っていたんだが・・・」
 光陰は苦い表情を浮かべた。
 「順番が替わっちまった」
 ブゥンッ!!
 巨大な双剣を光陰は無造作に片手で振り回す。
 切っ先から漏れ出すマナが、光となって軌跡を作った。
 今まで戦ってきたスピリット達とは比べものにならない。
 「逆に聞くが、女王さんを裏切ってこっちに協力するか?・・・それは出来ないだろう」
 光陰は肩を竦めた。
 「お前が佳織ちゃんを助ける為に戦うように、オレは今日子を守る為に戦うしかないんだ。俺にとって、今日子以上に大切なものは、この世界でも、向こうの世界でも・・・存在しない」
 光陰は笑った。
 「悪いな、悠人」
 そう言って笑う光陰には、もはや迷いはないようだった。
 「ぐっ・・・」
 言葉に詰まる悠人。
 『光陰の言葉には、力がある。理屈だけじゃない強さが・・・ある・・・だけど!!引き下がるわけにはいかない!諦めたくないんだ!今日子も光陰も佳織も、みんな一緒で俺は帰りたい!!』
 「何か、何か方法がある筈なんだ。それを探せば!!一人では難しいなら、力を合わせればいいだろ?」
 「残念ながら、今日子にはその時間はないんだ」
 「・・・!!」
 「お前なら解るだろう?この剣がどれだけ危険なものか。それにな・・・」
 光陰の表情が鋭くなる。
 「悠人。俺は、お前に消えて欲しいんだ」
 「・・・え?」
 「お前がいると今日子の心が揺れる・・・俺にとっては悠人、お前は邪魔なんだよ!!」
 そう言って、光陰はニヤリと笑う。
 「それにな・・・一度でいいから、俺はお前と全力でやり合ってみたかったんだ」
 強く言い放つ。
 「・・・何を言ってるんだよ。お前まで、神剣に呑まれたのか・・・?」
 悠人は信じられない表情で光陰を見つめる。
 「言葉の通りだ。俺はお前と、全力でやり合ってみたい」
 光陰は【因果】の柄を握りしめた。
 「悠人・・・」
 闘護が冷静な表情で悠人の肩を叩いた。
 「光陰は正気だよ・・・本気で、お前と戦いたいみたいだ」
 「そんな・・・」
 「目を見ろよ。あれが、狂った目か?どう見ても、理性が宿ってる」
 「・・・」
 悠人は光陰を見つめる。
 「お前にだって時間はないだろう?早く俺を殺さないと臨界になって全部吹っ飛ぶ。つまりはそういうことだ。悪いが死んでくれ。苦しまないように、全力で消してやる」
 そして、【因果】を構える。
 「待てよ」
 闘護が二人の間に割って入った。
 「君達が殺し合いをして、その結果救われて・・・岬君は喜ぶと思うのか?」
 「・・・」
 闘護は問いかけに、光陰は無言で闘護から目を逸らした。
 『ふん・・・それはわかってるということか』
 「ならば、確認したいことがある」
 闘護は一歩前に出た。
 「岬君の精神はまだ残っているんだな?完全に【空虚】に取り込まれたわけではないんだな?」
 「・・・ああ」
 光陰は渋々といった様子で答える。
 「そうか・・・」
 『ならば・・・!!』
 闘護は拳を握りしめる。
 「この戦い・・・もしも、悠人が勝った時は、俺の言うことを聞いてもらう」
 「はぁ?」
 「と、闘護・・・何を?」
 闘護の提案に、光陰と悠人は目を丸くする。
 「もう君達の戦いを止めることはできないのは解った。ならば、戦いの後のことを考えさせてもらったんだよ」
 闘護はニヤリと笑う。
 「・・・何を考えている?」
 光陰が訝しげに闘護を睨んだ。
 「戦いが終わったら教えてやるよ」
 「・・・」
 「いいな?」
 「・・・はっ、いいぜ」
 光陰は肩を竦めた。
 「何を考えてるかは知らんが・・・どうせ、俺が勝つからな」
 「こ、光陰!?」
 「OK。じゃあ、思う存分戦ってもらおうか・・・」
 闘護はそう言うと、光陰の両翼に控える稲妻部隊を見た。
 「お前達!!これは悠人と光陰の一騎打ちだ。こちらも手を出さないから、そっちも手を出すなよ!!」
 【!?】
 闘護の提案に、稲妻部隊の面々は困惑する。
 「闘護の言う通りにしろ。お前達は手を出すな」
 光陰が同意したことで、稲妻部隊も頷き、一歩下がる。
 「こっちも、手を出さない・・・君達も下がってくれ」
 闘護は控えているエスペリア達を見た。
 「し、しかし・・・」
 「いいから下がるんだ」
 「は、はい・・・」
 エスペリア達は渋々後ろに下がった。
 続いて、闘護はゆっくりと歩き出し、ちょうど悠人と光陰の中間で止まった。
 「特等席で見届けさせてもらう・・・構わないだろ」
 「好きにしろよ。死んでも知らんぞ」
 光陰は構えた。
 「悠人」
 「と、闘護・・・」
 今だ惑う悠人を、闘護は冷静な表情で見つめる。
 「迷ってる暇はない。この戦いは避けられないだろう・・・全力でいかないなら、お前が死ぬだけだ」
 「!!」
 「構えるんだ」
 「・・・くっ」
 闘護の言葉に従うように、悠人は【求め】を構えた。
 「さて・・・じゃあ、始めようか」
 光陰が待ちくたびれたように呟く。
 「いくぜ!!」
 「くそぉぉぉっっ!!」
 二人は飛び出した。
 「おらぁっ!!」
 光陰は【因果】を振りかぶると、悠人の脳天に目がけて振り下ろした。
 「っ!!」
 悠人は咄嗟に横に飛んでかわす。
 ズバァッ!!
 空振りした【因果】は、その勢いで凄まじい砂埃を巻き上げる。
 「うぉおおおっ!!」
 その隙に、悠人は【求め】を光陰の腕に目がけて横薙ぎに振り払う。
 「ちっ!!」
 光陰は手首を返して、【求め】を【因果】で受け止める。
 ガキィーン!!
 「ぐぅっ!!」
 しかし、力の入らない体勢では受け止めきれず、光陰は後ろに弾き飛ばされる。
 「はぁああ!!」
 間髪入れず、悠人は【求め】を振りかぶると、一気に光陰に向かって飛び出した。
 「ちぃっ!!【因果】!!」
 キィーン!!!
 【因果】からオーラフォトンの刃が無数に飛び出す。
 「くっ!!うぉおお!!」
 悠人は【求め】を振り下ろす。
 バシュウッッ!!!
 一気に、オーラフォトンの刃はマナの霧に還る。

 シュゥウウ・・・・
 二人からは30メートルも離れていない所にいる闘護には、度々二人の放つオーラフォトンの衝撃が襲っていた。
 その度に、白い煙が体から拭きだしていた。
 『凄い・・・』
 闘護は戦慄する。
 『エトランジェ同士の戦いとはこういうものなのか・・・とてもじゃないが、スピリットとは比べものにならない激しさだ』
 悠人と光陰の剣戟は、周囲の砂を一気に巻き上げたり、オーラフォトンによる激しい爆発を引き起こしていた。
 『前に悠人の神剣魔法でダメージを受けたが・・・光陰の魔法でも充分ダメージを受けるな。エトランジェの魔法を受けるのは厳禁だな』
 ゴクリと唾を飲み込む。
 『だが・・・悠人が優勢、か』
 悠人の剣は、半ば自棄糞気味なものであったが、それ故迷いがなかった。
 一方、光陰の剣はどこか、微妙にズレが感じられた。
 『迷いのない剣と迷いのある剣・・・勝つのは前者だろう』
 シュゥウウウ!!
 一際大きなオーラフォトンの衝撃波に、闘護の身体が煙で覆われる。
 『凄まじい戦いだ・・・が、そろそろ決着か』
 煙が晴れ、砂埃も大分収まった状況。
 「はぁ・・はぁ・・・」
 「はぁはぁはぁ・・・」
 悠人と光陰の姿を確認する。
 『傷の多さは悠人だが、疲労がたまっているのは光陰か・・・ならば!!』
 「うぉおお!!!」
 「はぁああ!!!」
 二人が同時に飛び出す。
 ズバッ!!!
 二人は交錯と同時に反転し、お互いを見つめる。
 「くっ!?」
 悠人は僅かに身を揺らした。
 「・・・結局・・・お前には敵わずじまいか・・・」
 ガクッ・・・
 光陰は片膝をつく。

 悠人の【求め】が、光陰の【因果】よりも先に命中したのだ。

 「光陰!!」
 悠人が駆け寄る。
 「へっ・・・くそっ」
 弱々しいながらも笑みは消えない。
 『よかった・・・致命傷ではなかったみたいだ。それに近寄ったのに神剣の干渉はない・・・【求め】も【因果】も激しく力を消耗したのか沈黙しているみたいだ』
 「大丈夫か、光陰?」
 悠人の問いかけに光陰は首を振った。
 「行けよ・・・大将を止められるのは、もうお前・・・だけだ。絶対、佳織ちゃんを・・・守って見せろよ」
 光陰は大きくため息をついた。
 「ったく・・・意地張ってみたけど、ロクな事なかったぜ・・・」
 「何言ってるんだ。行くぞ、光陰。今日子を【空虚】から解放するんだ」
 悠人は光陰の手を取って立たせようとする。
 だが悠人の手を払い、光陰は自分で立ち上がった。
 「へっ!」
 まだ楽勝だ、と言っているように鼻で笑う。
 その不貞不貞しい表情は、遅刻寸前に佳織のコーヒーを飲んでくつろいでいる時と同じもの。
 「俺は大丈夫だ。暫く休んでいればどうとでもなる。まだコイツも死んじゃいないからな・・・」
 光陰はそう言って【因果】を見せた。
 「行け!今日子を頼む。あいつを救ってやってくれ。臨界を迎えれば、みんな吹っ飛ぶことになるだけだ・・・だから、行け!!」
 「その為には、お前の力がいる」
 いつの間にか、二人の側に闘護がいた。
 「光陰・・・約束、果たしてもらうぞ」
 「・・・ああ、負けたんだからな」
 光陰は苦い表情で頷く。
 「で、何なんだ?」
 「・・・」
 光陰と悠人は闘護を見つめる。
 「・・・岬君を助ける。それを手伝ってくれ」
 闘護はニヤリと笑った。
 「今日子を・・・」
 「助ける・・・手伝い、だと?」
 「そうだ」
 闘護は離れたところに控えている稲妻部隊を見た。
 「おい、こっちに来て光陰の治療をしてくれ!!」
 【!?】
 闘護の提案に、稲妻部隊は先程と同じく目を白黒させて困惑する。
 「闘護・・・何を」
 「エスペリア!!悠人の治療を!!」
 悠人の問いかけを無視し、闘護はやはり離れたところにいたエスペリア達を呼んだ。
 「は、はい!!」
 エスペリアが駆け寄り、早速悠人の身体の治療を始める。
 「おい!!早くしてくれ!!」
 一方、闘護は困惑したまま動かない稲妻部隊に再度要請する。
 「・・・」
 稲妻部隊のグリーンスピリットが数人、恐る恐る闘護達の元に近づく。
 「早くしてくれ。時間がないんだ」
 「・・・」
 グリーンスピリット達は、出来るだけ闘護や悠人達に近づかないようにしながら、光陰の治療を開始する。

 暫くして、二人の目に見える傷は完全に治癒した。

 「よし。後は体力が戻ればOKだ」
 闘護は悠人と光陰を見ながら頷く。
 「おい、闘護。どういうことだよ?」
 「ああ。今日子を助けるって・・・何か方法があるのか?」
 身体が動くようになると、悠人と光陰は早速質問を投げかける。
 「ああ。とりあえず、進軍を続ける」
 闘護は稲妻部隊を見た。
 「君達はここで待機しててくれ」
 【・・・】
 闘護の命令に、稲妻部隊は顔を見合わせる。
 「俺達はこれからマナ消失を阻止しに行く。だが、もしかしたら失敗するかもしれない」
 「闘護!!」
 「トーゴ様!!」
 悠人とエスペリアの叫びを手で制し、闘護は続ける。
 「その場合は・・・逃げろ。とにかく逃げろ。何としても生き延びるんだ」
 闘護は光陰を見た。
 「お前からも言ってくれ」
 「・・・闘護の言う通りにしてくれ」
 光陰はゆっくりと稲妻部隊を見回した。
 【・・・】
 光陰の言葉に、稲妻部隊は全員恐る恐る頷く。
 「光陰。お前は俺達と一緒に来てくれ」
 「・・・今日子を助ける為に、か?」
 「そうだ」
 「わかった・・・」
 光陰は小さく頷く。
 「よし。悠人、みんな。行くぞ」
 闘護は悠人とエスペリア達を見回した。


 稲妻部隊と別れ、悠人、闘護、光陰とエスペリア達ラキオスのスピリットはマロリガンに急いで向かった。

 「光陰。お前はどうやって今日子を助けようとしてたんだ?」
 先頭を走る悠人が尋ねた。
 「今日子は【空虚】に取り込まれている・・・」
 悠人の右隣を走る光陰が呟く。
 「正確には、取り込まれかけている、だろ」
 悠人の左隣を走る闘護が肩を竦めた。
 「ああ。助けるには【空虚】を破壊するしかない」
 光陰の言葉に、悠人は眉をひそめた。
 「破壊したらどうなる?」
 「【空虚】の精神が破壊されて、今日子が元に戻る・・・」
 光陰はため息をついた。
 「その為に、俺は【因果】を振るってたんだが・・・」
 「・・・」
 悠人は沈黙する。
 「どうやって破壊する?」
 「戦って・・・倒せばいい」
 闘護の問いに、光陰が答える。
 「・・・岬君は無事に済むのか?」
 「・・・」
 「おい、どういうことだよ!?」
 沈黙する光陰の態度に、悠人は眉をひそめた。
 「【空虚】が暴走しなければ・・・今日子が完全に取り込まれてなければ・・・」
 光陰は空を見上げた。
 「可能性はある」
 「そ、そうか・・・」
 悠人は安堵の表情を浮かべる。
 「だったら、なんとか・・・」
 「【空虚】は破壊されたくないだろう。暴走する可能性は高いと思う」
 闘護はボソリと呟く。
 「下手すると、岬君を巻き込んで・・・それこそ、とんでもないことになりかねない」
 「お、おい・・・」
 悠人の声を無視し、闘護は続ける。
 「まだ、【誓い】も残っている状況では、【空虚】を破壊するのは危険だろう。だから・・・」
 「だから?」
 「【空虚】を破壊するんじゃなくて、【空虚】を殺せばいい」
 「・・・殺す?」
 「永遠神剣を殺すのか?」
 悠人と光陰は首を傾げる。
 「正確には、【空虚】の心・・・精神を倒すって意味だ」
 闘護は後ろにいるエスペリア達を見た。
 「エスペリア。永遠神剣の精神を破壊することは可能か?」
 「・・・わかりません」
 エスペリアは首を振る。
 「だろうな。大体、そんなことを考えることもないだろうし」
 闘護は肩を竦める。
 「どういう意味だ?」
 悠人が尋ねる。
 「つまりだ。スピリットと永遠神剣はセットで生まれる。どちらか一方が消えたらどうなるか・・・おそらく、もう一方への影響は避けられないだろう」
 闘護は続ける。
 「しかし、岬君は違う」
 「・・・永遠神剣は後からついてきた、ってことか」
 光陰の呟きに、闘護は頷く。
 「そうだ。だから、彼女と永遠神剣の精神を乖離させても大丈夫なはずだ」
 闘護は悠人を見た。
 「悠人。岬君を救いたいなら、【空虚】を殺すんだ」
 「殺すったって・・・どうやってだ?」
 悠人が当然の疑問を口にする。
 「とりあえず、【空虚】を瀕死にさせてくれ」
 「瀕死に・・・?」
 光陰が首を傾げる。
 「とどめは俺がやる」
 「お前が・・・どうやって?」
 悠人は眉をひそめた。
 「俺の力・・・」
 闘護は走りながら呟く。
 「驚異的な自然治癒能力・・・その原因・・・」
 ニヤリと笑う。
 「それを使う。そうすれば、可能なはずだ」
 「どんな原因なんだよ?」
 光陰が尋ねる。
 「それは秘密だ」
 「秘密って・・なんで?」
 悠人が尋ねるが、闘護は首を振った。
 「それも秘密だ」
 『【自由】が言っていたから・・・って言ったら、今度は【自由】の説明をしないといけないし、それに・・・』
 闘護はゴクリと唾を飲み込む。
 『俺自身、【自由】の言葉を完全に信じていない・・・これは賭だ。二人に知らせるのはよくないだろう』
 「闘護?」
 「どうしたんだよ?」
 思考の海に沈んでいた闘護は、悠人と光陰の声に慌てて我に返る。
 「あ、ああ・・・なんでもないよ。とにかく」
 闘護は悠人を見た。
 「まずは、岬君を瀕死に追い込まないと駄目だ」
 「どうやって?」
 悠人が尋ねた。
 「【空虚】が支配している状態の岬君を殺す直前に追い込めばいい」
 【!?】
 闘護の答えに、悠人と光陰は顔色を変える。
 「お、おい!?それって・・・一歩間違えたら、今日子も・・・?」
 悠人は震える声で尋ねる。
 「そうなるな」
 「そ、そんな!!」
 悠人は愕然とする。
 「下手したら・・・俺の手で、今日子を・・・?」
 【・・・】
 悠人の呟きに、闘護と光陰は沈黙する。
 「俺には・・・無理だ」
 悠人は首を振る。
 「ならば、どうする?」
 闘護は硬い口調で尋ねる。
 「・・・」
 悠人は何も言えずに沈黙する。
 「彼女を助けたいのなら・・・」
 「なぁ、闘護・・・」
 その時、闘護の言葉を遮るように光陰が口を開いた。
 「何だ?」
 「どうして、お前がそんな方法を知っているんだ?」
 「・・・それも秘密だ」
 闘護は首を振る。
 「秘密って・・・秘密が多すぎるぞ」
 光陰は顔をしかめた。
 「わかってるよ。だが・・・信じる、信じないは君たちの自由だ」
 闘護は悠人を見る。
 「どうする?」
 「・・・本当に、今日子を助けられるのか?」
 「ああ。俺を信じろ」
 闘護はニヤリと笑った。
 「・・・わかった」
 「よし。それから光陰」
 闘護は顔を光陰に向けた。
 「お前にも手伝ってもらうぞ」
 「何をするんだ?」
 「隙を作る手伝いだよ」
 「隙って・・・なんの隙を作るんだ?」
 「俺が【空虚】を掴む隙だ」
 【【空虚】を掴む!?】
 闘護の言葉に、悠人と光陰は驚愕する。


─同日、夕方
 マロリガン領 荒野

 「はぁはぁ・・・マズいな。金色の柱がはっきりしてきたぞ」
 走り続けながら、前方の空を見つめる闘護。
 「ふぅふぅ・・・マロリガンのエーテルコアは、第四位の神剣で支えられているからな・・・臨界までは、まだ時間があるだろうが・・・」
 光陰が苦い表情で呟く。
 「はぁはぁ・・・第四位か・・・イースペリアでも第七位であの威力だ。はぁはぁ・・・マロリガンのエーテルコアが暴走したら・・・ふぅふぅ・・被害はイースペリアでの暴走とは比べものにならないって事か・・・」
 悠人は唇を噛み締める。
 「はぁはぁ・・・イースペリアのマナ消失・・・唯一生き残ったんだよな、闘護は」
 光陰は闘護を見た。
 「はぁはぁ・・・もしも最悪の事態が起きたら・・・」
 「ふぅふぅ・・今度ばかりは、俺も助からないと思う」
 光陰の言葉を遮るように闘護は呟いた。
 「はぁはぁ・・・俺だって完全に無敵ってわけじゃない・・・第七位で瀕死に追い込まれたんだ。第四位ならば・・・」
 「・・・」
 「はぁはぁ・・・とにかく、急ぐぞ!!」
 悠人は話を切り上げるように叫んだ。
 『頼む!誰も・・・誰も、死なないでくれっ!!』


 砂漠を抜けた荒野。
 陽炎に浮かぶ複数の人影。
 気配を隠すことなく、悠人達を待ち構えている。
 凄まじい威圧感で、空気がビリビリと震えた。
 相手が誰なのか、間違いようもない。
 「今日子っ!!」
 悠人は腹の底から叫んだ。
 「今日子!おい、今日子、今日子!!」
 【求め】から強い意志が伝わってくる。
 キィーン!!!
 〔戦え!倒せ!【空虚】を滅ぼせ!奴のマナを全て奪え〕
 「黙れって言ってるだろっ!バカ剣!!」
 「光陰。【因果】はどうなっている?」
 闘護の問いに、光陰は首を振った。
 「敗北を認めたからな。沈黙してるよ」
 「【空虚】からは・・・?」
 「剣呑な気配が伝わってきてる・・・互いに滅ぼすことしか考えていないようだ」
 光陰は苦い表情で呟いた。
 「目を覚ませよ!今日子っ!!!」
 「・・・」
 悠人は神剣を通し、自分の心を叩きつけようとするが、全く反応がない。
 『純粋とも言える殺意。これが剣に支配されるということなのか・・・元の今日子と全然違う・・・』
 悠人はゴクリと唾を飲み込む。
 夕日の赤に染まる今日子の顔は、再会した時に比べても険しくなり、全身から悠人に対する憎しみを振りまいている。
 『・・・いや、俺だけじゃない。この世界、この大地の全てに対して向けた憎悪・・・』
 「ラキオスのエトランジェ。【求め】のユート・・・」
 今日子の口から言葉が紡がれる。
 「お前は・・・【空虚】の敵。【求め】も【因果】も【誓い】も、全て滅ぼす。生き残るのはアタシ・・・それ以外は滅べばいい」
 氷のように冷たい言葉。
 「どうして戦わなきゃならないんだよっ!!」
 悠人は絶叫する。
 「何で神剣同士の戦いなんて馬鹿なことに付き合うんだ!!」
 精一杯叫ぶ。
 【求め】からの否定の意志をはね除け、必死に今日子に訴えかけた。
 キィーン!
 「・・・私は【空虚】。【求め】の主を、今ここで消す!」
 突然、今日子の気配が異質なものに変貌した。
 人の気配が消えて、永遠神剣そのものとなる。
 「よせ今日子っ!俺は戦いたくない!!」
 「無駄だ、【求め】の主よ。既にこの娘の心は淵へと沈んでいる。お前の言葉は届かず、二度と浮かび上がることはない・・・もう今日子という存在はない」
 「!!」
 『永遠神剣に取り込まれた魂は二度と蘇ることはない・・・いや、そんなことは!!』
 「ちっ!!悠人と光陰以外は全員下がれ!!」
 【は、はいっ!!】
 闘護の命令に従い、エスペリア達が慌てて後ろに下がる。
 「今日子を、今日子の心を!今日子の身体を返せ!!」
 「この者の心を取り戻したければ、私を倒すがいい。身体の保証は出来ないがな」
 悠人の叫びに、今日子の身体を支配している【空虚】は冷ややかな目を向けた。
 【・・・】
 悠人と光陰はチラリと闘護を見た。
 「・・・」
 闘護はゆっくりと頷く。
 「・・・」
 光陰も、苦い表情のまま小さく頷いた。
 それを確認すると、悠人は【求め】を構えた。
 『バカ剣・・・手加減は出来るな。とにかく、瀕死に追い込むんだ』
 〔契約者よ。無茶を言うな〕
 「無理は承知だ。いいから、やるぞ!!!」
 「ククク・・・我が勝利者となる。次は【因果】と【誓い】も消してやろう。全てのマナを我の者に」
 今日子の身体を借りた【空虚】はニヤリと笑う。
 「戦いの時だけ、僅かに心を戻そう・・・その方がお互い・・・戦いやすいだろう?ククク・・・」
 「くっ・・・いくぞ!!」
 悠人は飛び出した。
 「・・・壊れろ」
 フッ・・・
 【空虚】の姿が消える。
 「!!」
 悠人は咄嗟に【求め】を構えた。
 ガキン!!
 「っ!!」
 衝撃に、悠人は僅かによろめく。
 「ふっ・・・」
 【空虚】はいつの間にか、悠人から十メートル程離れた場所で嗤っていた。
 「その程度か。【求め】の主よ」
 「っ・・・くそっ!!」
 悠人のこめかみに冷や汗が流れる。


 「速いな・・・」
 【空虚】の剣戟に、闘護は感嘆の呟きを上げた。
 「【空虚】は敏捷性が高い・・・その分、防御は低いんだ」
 光陰が解説する。
 「みたいだな・・・悠人の一撃で、ふらついてる」
 闘護の呟き通り、悠人の攻撃を受けた【空虚】は、表情を歪めていた。
 『とにかく・・・何としても【空虚】を瀕死にしてもらわないと』
 「悠人を信じるしかない・・・頼むぞ」


 悠人と【空虚】の攻防は、一進一退だった。
 ギリギリの所でお互い致命傷は与えられてない。
 しかし、次第に互いの実力を理解していく。
 そして数度の激突の後・・・互いに距離を取って、流れが止まった。

 『次の攻撃が全力を尽くす勝負の一撃になる・・・』
 悠人は予感した。
 『だが、その前に今日子を!!』
 「お前らの戦いに、他人を巻き込むな!!」
 悠人は叫んだ。
 【・・・】
 闘護と光陰は真剣な表情で【空虚】見つめる。
 「目を覚ませよ、今日子!!剣なんかに操られてどうする!!元の世界に一緒に帰るんだよ!!」
 悠人の必死の呼びかけを聞いた【空虚】が、ニヤリと笑う。
 「呼びかけてみるか?それも面白い戯れだ。最後に残った意識を、返してみてやろう」
 「・・・」
 キィーン・・・
 「ユ・・・ユウ・・・・たす・・・・け・・・」
 「あれは!?」
 「今日子!!」
 闘護と光陰が叫ぶ。
 「今行く!そこで待ってろ!!」
 「ダメェ!来ないで・・・」
 悠人が一歩踏み出したが、今日子は首を大きく振る。
 「アタシ・・・一杯殺しちゃったよ。スピリット達、一杯!一杯だよ!!それに人だって・・・!!!」

 【空虚】は戦いの記憶を全て、今日子に見せたのだった。
 スピリットとの戦い、俺との戦い、そして国を滅ぼす時に人を殺めたこと。

 「今日子!考えるな!お前がやった事じゃないんだ。神剣の罠だ、気を強く持ってくれ!!」
 「ダメ・・・だよ。だってアタシ、悠にまで、こんなこと・・・」
 今日子は力無く笑った。
 「アタシ、生きてちゃダメ、だよ・・・佳織ちゃんを助けるのじゃ邪魔して・・・一杯殺しちゃって、さぁ!」
 「だったら償えばいい!!」
 悠人は絶叫する。
 「俺の手も血で汚れている。今までだって、何度も殺してしまった。頭に悲鳴が張りついているんだ」
 「アタシには何もないの・・・悠みたいに、佳織ちゃんを助けるとか、そういうのは何もないの・・・」
 今日子は強く首を振った。
 「ただ帰りたいからって、自分の我が儘だけ。自分の勝手で殺しているんだよ?」
 涙声の今日子。
 『こんなに弱々しい姿は見たことがない・・・』
 「俺が佳織を助けるのだって我が儘だ。だから殺していいなんて思ったことは一度だってない。俺だって、殺人者だ。それ以外の何者でもない」
 「アタシ・・・人殺しなんてヤダよ・・・」
 今日子は首を振った。
 「でも、それなのに、もうアタシ・・・こんなに殺しちゃってる」

 「今日子・・・」
 苦しい表情で呟く光陰。
 トントン・・・
 「・・?」
 光陰の腰に何かが当たる感触。
 闘護が肘を当てたのだ。
 「・・・」
 『そろそろだ・・・準備してくれ』
 闘護はチラリと光陰に視線を向ける。
 「・・・」
 『解った・・・』
 光陰は小さく頷く。
 そして二人は互いに言葉をぶつけ合っている悠人と今日子に再び視線を向けた。

 「俺達に出来ることは償うことだけだ!!」
 悠人は叫ぶ。
 「死んで償うなんていう言葉があるけど、あれは嘘だ!死んだらそこで終わりなんだぜ?償えないだろ!?」
 「悠・・・」
 「だからお前は死ぬなんて簡単に言うなよ!生きて、それで・・・何か償おうぜ」
 「悠、アタシ・・・自信ないよ・・・また取り込まれたら、アタシどうなるかわからないよ」
 力無く笑う今日子。
 『神剣に心の弱さを見せたら・・・っ!!』
 「バカ!気を強く持て!!俺を信じてくれ!!」
 「ごめん・・・悠・・・アタシを殺して・・・」
 今日子は哀しそうに言った。
 「また・・・アイツが出てくる・・よ・・・もうアタシが自分じゃいられなくなる・・・だから、お願いっ!悠っ、アタシを殺してぇぇっっ!!!」
 キィーン!!!!
 【空虚】の力が膨れあがっていく!!
 「駄目だぁっっ!!諦めるな、今日子ぉぉっっ!!」
 「・・・約束だから・・・ね」
 カッ!!
 次の瞬間、強力な電光が【空虚】から天に立ち昇った!!!
 ドゴォーン!!!
 「・・・〜〜っっ!!」
 目も眩むような閃光が辺りを真っ白に染め上げた。
 そしてその中心地には、傷一つない今日子。
 『いや、この気配は・・・!!』
 「時間切れだ・・・所詮は心の弱い存在。私の強制に勝てるはずもなかった」
 つまらなそうに呟く【空虚】。
 〔駄目だったようだな。もう【空虚】の気配しか残っていない。あの娘の心は脆く弱い。【空虚】程度の力すらも、抗うことは出来まい〕
 「くそっ!!」
 悠人は【求め】を構えた。
 「それでは行くぞ。【求め】の担い手よ!」
 【空虚】も構えた。

 その時!!

 「うぉおおお!!!!」
 悠人の後方にいた闘護が走り出した。
 そして、闘護はそのまま悠人の横を通り過ぎ・・・
 「・・・」
 『行くぞ!!』
 視線で小さく合図をする。
 「!!」
 それに気付いた悠人は小さく頷く。
 闘護はそのまま【空虚】に向かって突っ込んでいく。
 「邪魔を・・するな!!」
 【空虚】は闘護に向かって神剣を向けた。
 「雷よ、敵を打ち据えろ・・・ライトニングブラスト!!」
 「!!」
 タンッ!!
 刹那、闘護は地面を蹴って横に飛んだ。
 ドゴーン!!!
 僅かに遅れて、闘護がいた場所に落雷が起こる。
 「っ!!」
 ゴロゴロゴロゴロ
 闘護は飛んだ勢いのままに地面を転がっていく。
 「でやぁあ!!」
 間髪入れず、悠人が飛び出す。
 【空虚】は神剣魔法を唱えた直後で、体勢が整っていない。
 「小賢しい真似を・・!!」
 【空虚】の表情が怒りに燃える。
 「たぁっ!!」
 悠人は【求め】を振り上げて飛んだ!!
 「ちっ!!」
 【空虚】は強引に体勢を立て直そうとする。
 「させるか!!」
 ブンッ!!
 その時、光陰が【因果】を投げつけた。
 「!?」
 飛んできた【因果】は、【空虚】の身体の中央に向かってくる。
 「くっ!!」
 ガキーン!!
 【空虚】は無理矢理、神剣を振り上げて【因果】を弾く。
 しかし、それによって神剣を持つ右腕が振り上がってしまい、その勢いで僅かに後方に倒れかかる。
 「でやぁああ!!!」
 そこへ、頭上から悠人が【求め】を振り上げて飛び込んでくる。
 「!!」
 体勢の崩れた【空虚】はそのまま棒立ちになっていた。
 ズバァアッ!!
 「っあ!?」
 【空虚】の口から悲鳴が上がった。
 ブワァ!!
 同時に、【求め】の斬った跡から血とマナの霧が吹き出す。

 「取り押さえろっ!!」

 【!!】
 闘護の絶叫に、【求め】を振り下ろして固まっている悠人と、【因果】を投げて固まっている光陰が反応する。
 「うぉおおお!!」
 ガシッ!!
 【空虚】の背後から、闘護が羽交い締めにする。
 「っ・・・!」
 【空虚】は僅かに身じろぎする。
 「悠人、光陰!!」
 【!!】
 「手伝え!!」
 ドサッ!
 【求め】を手放し、悠人は【空虚】に操られた今日子の左半身に飛びつく。
 ガシッ!!
 更に、駆け寄ってきた光陰が今日子の右半身を押さえる。
 ガシッ!!
 「悠人、身体を抑えろ!!光陰は右腕を固定させるんだ!!」
 【あ、ああ!!】
 二人は闘護の指示に従って今日子を押さえ込む。
 「はな・・っせ!!」
 【空虚】が弱々しい力で抵抗する。
 「五月蠅い!!」
 闘護は一喝すると、【空虚】本体の神剣に向かって右手を伸ばした。
 ガシッ!!
 「っ!!!」
 ビクンッ!!
 「うぉ!?」
 「うわぁっ!!」
 突然、今日子の身体が跳ね上がり、悠人と光陰は慌てて押さえ込む。
 「うぉおおおおお!!!」
 シュゥウウウウ・・・
 闘護の右手から白い煙が吹き出す。
 「っぁああああああ!!!!」
 今日子の口から絶叫が上がる。
 「くぅっ!!」
 闘護は必死の形相で【空虚】を掴み続ける。
 シュゥウウウ・・・
 「あああああっ!!うぁ!!あくぅ!!」
 【今日子!!】
 悠人と光陰も、必死で今日子の身体を押さえる。
 「ぬぐぅ・・・い、いい加減、に・・・消えろぉ!!!」
 バシュウ!!
 「あぁあああああっ!!!」
 一際大きな絶叫を上げる。
 「ああぁ・・・あ・・・」
 ガクッ!!
 突然今日子の身体から力が抜けた。
 「っと!!」
 「う、うわっ!!」
 「っ!!」
 三人は慌てて今日子の身体を支えた。
 「岬君!!」
 「おい!!今日子!!」
 「今日子!!しっかりしろ!!」
 「・・・ぁ・・・」
 【今日子!!】
 光陰と悠人の声に、今日子の口から小さなうめき声を上げた。
 「大丈夫・・・脈はある」
 いつの間にか、神剣ではなく右腕を掴んでいた闘護が答えた。
 「マナはどうなんだ?」
 「・・・大丈夫だ」
 「ああ。感じる・・・」
 悠人と光陰の言葉通り、今日子から微弱ながらマナが感じられた。
 「だが、傷が・・・」
 悠人が心配そうに自分の与えた傷痕を見つめる。
 「まずい・・・傷の治り具合が遅くなってる」
 「神剣の支配から解き放たれた代償か」
 光陰の呟きに闘護は背後にいるマロリガンのスピリット達を見た。
 「おい、お前達!!」
 【・・・】
 「こっちに来て岬君の手当を!!」
 闘護の呼びかけに、スピリット達は戸惑いながら顔を見合わせる。
 「来てくれ!!」
 【!!】
 光陰が呼びかけると、スピリット達は慌てて駆け寄ってきた。
 「光陰。彼女を頼むぞ」
 闘護が光陰に今日子の身体を押しつける。
 「あ、ああ・・・」
 「悠人。俺達は先を急がないと・・・」
 「わ、わかった」
 頷くと、悠人も今日子から手を離す。
 「光陰。お前も治療を受けろ。大分消耗してるだろ?」
 「・・・」
 闘護の問いに、光陰は無言で闘護から目を逸らした。
 「君達」
 闘護は駆け寄ってきたマロリガンのスピリット達を見つめる。
 「二人を頼む」
 【・・】
 スピリット達は少し戸惑いながらも頷く。
 「有り難う。俺達にとって大事な友達なんだ」
 悠人の言葉に再度頷くスピリット達。
 「悠人、闘護・・・」
 今日子を抱えながら心配そうに二人を見つめる光陰。
 「心配するな。必ず止めてみせる!!」
 「俺達を信用しろって」
 悠人と闘護は安心させるように答えた。


 そして、悠人と闘護はエスペリア達と共にマロリガンへ急いだ。

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