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─西暦2008年 12月20日 6:20
 高嶺家 リビング

 次の日の朝。
 悠人は佳織の部屋に布団を敷き、一晩中アセリアの看病をしながら過ごした。
 結局、アセリアの熱は下がることはなかった。
 うなされて目を覚ますたびに何度も汗を拭ってやり、失われた水分を補給してやる。
 「“・・・ユート。だいじょうぶ・・・”」
 アセリアは、その度に悠人を安心させようとする。
 しかし、見ていても大丈夫ではないことは明白だった。
 悠人に出来ることは、アセリアを拭き水を飲ませ、励ますだけだった。
 「くっ・・・!!」
 『なんて無力なんだ、俺は!!』
 己の無力さに歯がみする悠人。
 『アセリアだけにじゃない。今まで佳織にも、今日子にも光陰にも、俺が何かしてやれたことがあったのか?いつも周りが苦しんでばかりだ・・・』
 「くそ、俺はこうやって悩んでるだけか・・・!?」
 悠人は苦悩する。
 『もし・・・このまま何も出来ないでいたとしたら。この世界にスピリットの生命力であるマナが無い、とすれば・・・』
 最悪の事態が脳裏を過ぎり、悠人は頭をガリガリと掻きむしって、必死にそれを追い払おうとする。
 「時深の葉書・・・これを信じるしかない」
 悠人は側に置いてあった葉書を手に取った。
 『12月22日。今日は12月20日だ。ということはあと2日間。その間に俺のするべき事は・・・』
 「俺に出来ること・・・」
 考える悠人。
 『クスリもダメ、医者もダメ、マナが無ければ解決にならないとすれば・・・取るべき行動は一つしかない。一刻も早くファンタズマゴリアへ戻ろう・・・』
 「その為には?」
 悠人は出来ることを必死に整理する。
 『するべき事は二つある。一つは、アセリアの看病をすることだ。汗を抜き水を飲ませる必要がある。氷も替えないといけない。もう一つは、またファンタズマゴリアへ戻るための情報をかき集めること。時深の葉書通りに、12月22日がチャンスだとすれば、出来るだけ確実な物にしたい。失敗は許されないのだから・・・』
 そこで、首を振る。
 『でも、ダメだ。アセリアを放っておいて、外に行くわけにはいかない!だが、看病だけというのも不安だ・・・』
 「一人って、こんなにキツイのかよ・・・」
 唇を噛み締める。
 『手分けを出来ないのが辛い・・・自分がどれだけ、みんなに助けられていたのかを痛感するな・・・』
 拳を握りしめる。
 『こっちの世界では、佳織や今日子と光陰に支えられていた。ファンタズマゴリアでも、闘護をはじめ、アセリアやエスペリアやオルファ・・・みんなに支えられていた。だけど今は助けてくれる者が・・・誰もいない』
 「・・・」
 コチコチコチコチ・・・
 「・・・くそっ!」
 『やけに時計の秒針の音が大きく聞こえてイラつく』
 時計を睨み付ける悠人。
 『何か手はないのか。何とか、アセリアを看病しつつ、情報収集も出来れば・・・』
 「こっちに飛ばされたのは俺とアセリアだけだからなぁ。せめて、もう一人誰か・・・」
 そう言って首を振る。
 『いや、いても無駄か。スピリットなら、誰であろうとアセリアのようになるかも知れないんだから。結局、誰もいないのと同じだ。ここで俺が頼れるような人間は一人も・・・ん?ちょっと待てよ・・・?』
 「いや、そんなことない・・・そんなことないぞっ!!」
 悠人は急いでテーブルの椅子に起きっぱなしになっていた鞄をひっくり返す。
 ガサガサとノートや教科書を掻き分けると・・・
 「あった!」
 悠人の携帯電話。
 急いでメモリから名前を探してゆく。
 「見つけた・・・」
 『夏 小鳥ちゃん』の文字列を見つける。
 『よかった!小鳥が勝手に登録した電話番号を残していたんだ』

 トゥルルルル・・・トゥルルルル・・・
 『頼む!出てくれ!!』
 トゥルルルル・・・トゥルルルル・・・
 『早く出てくれっ!!』
 ガチャ・・・
 「ふぁい・・どちらさまですかぁ〜」
 眠そうな声が携帯の向こうから聞こえてくる。
 「あっ!小鳥か!?俺だけど・・・」
 「ふぁい・・・小鳥ですぅ・・・夏・・小鳥ですぅ〜」
 『ダメだ・・・完全に寝ぼけてる』
 時計を見ると、まだ朝の6時だった。
 「悠人・・・先輩ですかぁ〜?あ、あぅ〜。今って・・・朝の6時ですよ〜?どうしたんですか〜」
 『うぅ・・・こんな時間に申し訳ない』
 いつものマシンガントークとは正反対のスローテンポ。
 「ゴメン小鳥、重要な頼みがあるんだ!学園に行く前に、俺の家に寄ってもらえないか?」
 『この状態で細かいことを説明してもダメだろう・・・とにかく来てもらって、話はそれからだ』
 「ふぁい。わかりましたぁ〜。小鳥の愛をお届けしますぅ〜」
 悠人の頼みに、小鳥は眠たそうな声で答える。
 「お、おい、小鳥!解ってるか?起きているか?」
 『夢の中の出来事と勘違いされても困るしなぁ』
 心の中にわき起こる不安。
 「大丈夫ですよぉ〜。身支度済んだら自転車で行きます〜。イーグル号、発進なんです〜」
 ちなみにイーグル号とは、小鳥の愛用自転車である。
 「ごめんな。朝早く叩き起こして」
 「いいですよ〜。小鳥の愛する悠人先輩に呼ばれれば、お呼びじゃなくても参上します〜」
 『・・・まだ寝ぼけているのだろうか』
 「悪いけど、ホント〜〜に頼むな」
 「ふぁい〜〜〜」
 ・・・ツーッ、ツーッ。
 『うぅ・・・切れた・・・ま、まぁ、なんとかなるだろう!』


 同時刻・・・

 ムクリ・・・
 「・・・ふわぁ・・・」
 ボリボリボリ・・・
 「随分と寝たなぁ・・・えっと・・・」
 ズキッ!!
 「ぐっ!!イテテ・・・くそっ、頭が痛いなぁ・・・どこかぶつけ・・・あれ?」
 キョロキョロ・・・
 「・・・俺の部屋だなぁ・・・あれれ?」
 キョロキョロ・・・
 「何で・・・俺・・・あれれれ?」
 キョロキョロキョロ!!
 「ここ・・・俺の、部屋!?」
 バッ
 「この服・・・ファンタズ、マゴ・・リア・・・っ!!」
 ドドドッ!!
 「悠人!!アセリア!!」


─西暦2008年 12月20日 7:00
 高嶺家 リビング

 悠人はシャワーを浴び、適当に髪を整えた。
 そして、お湯を沸かしてコーヒーを一杯飲んだりして小鳥を待つ。
 アセリアの様子を見る限りでは、体温こそ下がっていないものの、グッスリと眠れているようだった。
 汗をこまめに拭いてやり、氷さえ取り替えてやれば何とか寝ていることが出来る。
 それがわかっただけでも悠人はホッとした。
 ピンポーン
 「あっ、はーーーい!」
 玄関に急いで行く。
 悠人がドアを開けると、予想通りに小鳥が立っていた。
 「おはよ〜ございます!悠人先輩」
 「おはよう。悪いな、朝っぱらから呼び出したりして」
 「全然おっけ〜ですよ!だって悠人先輩のお願いですもんね。飛んできます!」
 満面の笑顔で答える小鳥。
 「とりあえず上がってくれ」
 「は〜い!お邪魔しまーす」
 靴を脱いでキチンとそろえると、悠人のあとをついてくる。
 「だぁ〜、佳織がいないときに、悠人先輩に会うなんてドキドキするな〜。まるで、不倫しちゃってるみたいで!!」
 アホなことを言う小鳥。
 小鳥はキョロキョロとキッチンを見回す。
 『だけど、言われてみれば、佳織がいない状態で小鳥に逢うのは初めてかも知れないな』
 「とりあえず座ってくれよ。コーヒーと紅茶・・・どっちがいい?」
 「悪いですよ〜。悠人先輩にお茶入れさせるなんて。私がやりますよ」
 「いいって。で、どっち?」
 「ええと、じゃ紅茶・・ミルクティーお願いします」
 「了解。両方インスタントだけどな」
 悠人は戸棚からティーバックを取り出す。
 そしてヤカンに水を入れ火にかける。
 『沸騰するまで、多少は時間がかかるから、その間にある程度は説明できるだろう』
 「すぐ沸くから、ちょっと待ってくれな」
 「はい。それで、お話って何ですか?」
 真剣な顔をする小鳥。
 悠人の電話の様子から、これから話をする内容が大切なことであることを察してくれている。
 『こういう所は本当に有り難い・・・』
 「・・・うん。これから話す事は・・・とても信じられないことだと思う。でも俺は嘘は何も言わない。静かに聞いてくれ」
 「はい・・・わかりました」

 悠人は少しずつゆっくりと、自分たちが体験してきたことを語った。
 小鳥は驚きの表情を隠せない。
 それでも茶化すことなく、真面目に聞いていてくれている。
 スピリット達のこと。
 永遠神剣の事。
 ラキオス王国のことにサーギオス帝国のこと。
 佳織がどうしているか・・・闘護のこと、そして今日子と光陰がどうなっているか。

 そこまで話した所で、ヤカンが沸騰を知らせる音を出す。
 悠人は一旦話を止めて、お茶を淹れようと立ち上がった。
 「・・・それで・・佳織は・・佳織は大丈夫なんですか?」
 心配そうな表情で見上げる小鳥。
 小鳥と佳織は、本当に親友という感じだった。
 それだけにこんな話を聞かされたら心配にもなるのだろう。
 「・・・わからないんだ」
 悠人は首を振った。
 「帝国に連れて行かれてからのことは、俺にも解らない。ただ、あの瞬がやったことだ・・・佳織に生命の危険が及ぶようなことはないと思う」
 『自分で言っていて不安になる。生命は大丈夫だろうが、アイツの歪んだ愛情の牙にかけられていないか・・・それに、神剣によって愛情をねじ曲げられていたりしたら、本当に佳織の身が危ないだろう』
 悠人はいつの間にか拳を強く握っていた。
 お湯をカップに入れる手が止まる。
 「悠人先輩?」
 「あ・・・ああ。ごめんごめん」
 悠人は気を取り直して、紅茶を淹れる。
 冷蔵から出しておいたミルクを注ぐ。
 「ほい」
 「ありがとうございます」
 ミルクティーのカップを二つ、テーブルに置く。
 「そんなことがあってな。俺自身もにわかに信じられないんだけど」
 悠人は冷蔵庫の隣に無造作に立てかけてある【求め】を持つ。
 薄青く光り輝く刀身を見て、小鳥がゴクッと息を呑む。
 「それが・・・永遠神剣なんですか・・・」
 「そう。これが俺たちが戦っている原因みたいな剣だ」
 悠人は小鳥を見た。
 「あとな・・・ここからが本題なんだけど」
 「はい」
 「さっき言ったスピリットという種族。永遠神剣で戦う種族。なんていうか、妖精・・・みたいなものだと思う。昨日の・・・アセリアがそうなんだ」
 「アセリアさんが、妖精?スピリット・・・?だから、あんなに綺麗なんですね」
 「そう・・・だな。こっちの人間とは違う外見をしているよな」
 「私、見とれちゃいました・・・こんな綺麗な人がいるんだ〜って。悠人先輩、凄い彼女見つけたなぁ〜って思いましたもん」
 「・・・話を戻そう」
 「ああ〜、誤魔化した!!」
 頬を膨らませる小鳥。
 「違うって!そのアセリアが、今問題なんだ。ちょっと来てくれ・・・」
 「はい」

 悠人は立ち上がり、小鳥を連れて佳織の部屋の前に行く。
 「ちょっと静かにしてやってくれな」
 「・・・はい」
 ガチャリ
 悠人はゆっくりとドアを開ける。
 カーテンを閉め切っている部屋は朝とはいえ暗いままだった。
 部屋の中はストーブと加湿器をつけっぱなしにしているため、室温はかなり高い。
 アセリアは相変わらず、少し苦しそうに寝返りを打っている。
 「昨日から・・・ずっとこうなんだ・・・」
 「アセリアさん、どうしたんですか!?」
 小声で話していても、小鳥の動揺が伝わってくる。
 それだけアセリアの体調が悪そうに見えるのだ。
 「スピリットはマナっていうのがないとダメらしいんだ。だけど、こっちにはそのマナがなさそうなんだ」
 「じゃあ、アセリアさんは・・・」
 小鳥は両手で口元を押させて、アセリアを見つめる。
 「・・・戻ろう」
 佳織の部屋をあとにする。
 小鳥はチラチラとアセリアを振り返っていた。

 「このままじゃアセリアが危ないんだ・・・」
 すっかり冷めた紅茶を一口飲む悠人。
 小鳥はずっと俯き、ミルクティーの水面を眺めている。
 その表情は暗い。
 「俺は、またあっちの世界に行かなくちゃいけない。アセリアを死なせるわけにはいかないし、佳織達も助けないとダメなんだっ!」
 「・・・」
 「小鳥、頼みがある」
 「・・・はい」
 「12月22日・・・つまり明後日なんだが、その日にもしかしたら向こうの世界に戻れるかも知れないんだ」
 「・・・」
 「だから今日と明日の二日間は、少しでも動き回って情報を集めたい。でもアセリアがあんな調子じゃあ、おちおち動き回ってられないんだよ・・・」
 悠人は佳織の部屋を見た。
 「悪いんだけど、今日と明後日の二日間、アセリアの面倒を見てくれないか?突然で申し訳ないとは思うけど、この通り頼むっ!!」
 『突然こんな事を頼まれたら、小鳥だって困るだろう。だけど今は小鳥しか頼れる人間がいないというのも確かなんだ!!』
 悠人は頭を下げた。
 「や、ヤですよ!悠人先輩っ!顔を上げて下さいよ!」
 小鳥はワタワタと焦りながら手を振る。
 「大丈夫です。任せて下さい!」
 真面目な表情で、自分の胸に手を当てる。
 その表情には決意が感じられた。
 「佳織のために戦ってくれた人は、私の恩人です!アセリアさんは、私が付きっ切りで看病します。学園と家の方にもうまく言っておきます」
 小鳥はニコリと笑った。
 「どうせ、もう冬休みですし」
 「さんきゅ・・・ありがとな、小鳥」
 「みんなが大変なときに私も手伝えて嬉しいです。悠人先輩は、少しでも手がかりを見つけて下さい」
 「わかった!」
 『感謝をしてもしきれない。佳織はいい友達を持ったものだ・・・』
 心の中で強く感動する悠人。
 「それじゃ!急いで家に戻って準備してきます」
 小鳥は立ち上がった。
 「佳織ちゃんが風邪で寝込んでいるから、看病に来るって設定にしますね。悠人先輩は仕事を外せないって事で。う〜ん・・・お母さんのことだから、家に佳織を呼ぶようにって言うなぁ〜」
 小鳥は腕を組んで考え込む。
 「それなら悠人先輩から離れたくないって、佳織が泣いちゃったことにしよう・・・うん、それで行こう!!」
 小鳥はマシンガンのように独り言を言ったあと、
 「じゃ、すぐ戻って来まーすっ!!」
 そう言い残して、嵐のように玄関から飛び出していった。
 「うーむ、頼もしい奴・・・」


─西暦2008年 12月20日 8:40
 コンビニ

 ガーッ
 「いらっしゃいませ」
 「すいません!!」
 「な、なんですか!?」
 「ここで働いている高嶺悠人の家を教えて下さい!!」
 「え?え?」
 「早く!!」
 「ちょ、ちょっと待って下さい!」
 「待てないんだ!!早く!!」
 ガチャリ・・・
 「何だ、騒々しい」
 「あ、店長・・・この人が、高嶺君の家を・・・」
 「高嶺悠人の家がどこにあるか、教えて下さい!!」
 「・・・随分と焦っているようだが。君は誰だい?」
 「俺は神坂闘護。高嶺悠人の友達です!!」


─西暦2008年 12月20日 8:45
 高嶺家 リビング

 トゥルルルルル・・・
 「はいはーい」
 カチャッ
 「もしもし、夏・・・じゃない、高嶺です」
 「悠人か!?」
 「えっ?誰ですか?」
 「女・・・君は誰だ?」
 「そ、そっちこそ誰ですか?」
 「俺は神坂闘護だ」
 「神坂先輩!?」
 「っ!!」
 「私ですよ。夏小鳥です!!」
 「夏君?どうして君がそこにいるんだ!?」
 「えっと・・・それは海よりもふかーい事情がありまして・・・」
 「悠人は!?いないのか!?」
 「悠人先輩はちょっと出てますけど・・・」
 「・・・他には誰かいないか?」
 「えっ?」
 「青い髪の女性はいないか?」
 「・・・」
 「いるんだな!?」
 「あ、あの・・・」
 「すぐにそっちに行きたい!!住所を教えてくれ!!」
 「で、でも・・・」
 「いいから教えるんだ!!」


─西暦2008年 12月20日 9:30
 高嶺家 リビング

 ガチャリ
 「ただいま〜!」
 悠人は逸る心を抑えて鍵を開ける。
 スーパーで食料と薬を買い込むと、駆け足で家に戻ってきた。
 玄関には小鳥の靴と、アセリアの靴、そしてもう一足・・・
 「あれ?この靴・・・」
 悠人は眉をひそめた。
 「小鳥、いるか?」
 「・・・」
 返事はない。
 「小鳥?」
 悠人は中に入った。

 ガチャリ・・・

 「こと・・・」
 ドサッ
 リビングに入った悠人は、眼前の光景に唖然とし、持っていた袋を落とした。
 「おう」
 椅子に座っていた男が片手を上げた。
 「・・・な・・ん・・・で?」
 「ん?」
 「何で・・・お前がいるんだ・・・闘護!?」
 「さて・・・な」
 闘護は肩を竦めると、立ち上がった。
 「ただ、俺はここにいる・・・それが現実だ」
 「・・・」
 「夏君はアセリアの面倒を見ている。俺はお前を待っていたんだ」
 闘護は悠人に歩み寄ると、落とした袋を持ち上げた。
 「食べ物と薬か・・・」
 「・・・」
 「ん?いつまで呆けてるんだ?」
 「あ・・そ、その」
 「これ、夏君とお前の分だろ?」
 「あ、ああ・・」
 「夏君を呼んでくるよ。話はそれからだ」
 そう言って、闘護は悠人に袋を渡して佳織の部屋に向かった。
 「・・・冷静だな」
 悠人はボソリと呟いた。

 看病を中断した小鳥と闘護、悠人はダイニングの席に着いた。

 「えっと・・・これ」
 悠人は袋から取り出したお茶のペットボトルを、椅子に座った小鳥に差し出す。
 「あ、ありがとうございます。先輩」
 小鳥は両手でお茶を受け取ると、ペコリと頭を下げ微笑んだ。
 明るく振る舞ってはいるが、表情が疲れている。
 『病人の看病は、ずっと汗を拭いたり、氷を替えたりと忙しい。それに、何よりも心配し続けることで心が疲れるんだ・・・』
 自分のせいで無理をさせてると思うと、悠人は胸が痛んだ。
 「アセリアさん・・・今は眠っています。ちょっと前まではずっと苦しそうにしていましたけど。でも・・・熱が引かなくて」
 小鳥は俯いて哀しそうな、少し悔しいそうな顔をする。
 「うーむ・・・」
 闘護は難しい表情で考え込んでいた。
 「なぁ、闘護。何でアセリアは体調を崩したんだろう・・・?」
 悠人が尋ねると、闘護は首を振った。
 「わからないよ。お前は何か知らないのか?」
 「俺は・・・この世界はマナが希薄だってことが原因じゃないかと思ってるんだけど・・・」
 「マナが希薄、ねぇ・・・」
 闘護は佳織の部屋の扉を見つめた。
 「確かに、スピリットにとっては致命的になりかねないよな」
 「あの・・・神坂先輩」
 「ん?」
 「神坂先輩も悠人先輩達と一緒に異世界にいたんですよね」
 「ああ」
 「だったら・・・どうして今、ここにいるんですか?」
 小鳥の問いに、闘護は首を振った。
 「わからない」
 「え?」
 「気がついたら、俺は自分の部屋にいた・・・憶えているのは、悠人とアセリアが金色の光に包まれた時に、俺も光に向かって手を伸ばしたってことだ」
 「あの時いたのか!?」
 悠人が素っ頓狂な声を上げた。
 「ああ・・・と言っても、何が起きたのかは見てないぞ」
 「え?」
 「悠人とアセリアの姿が見えた・・・あとは、何か大きな影がいたと思うが・・・それだけだよ」
 闘護は頭を振った。
 「じゃあ、アイツを見てないのか・・・」
 「アイツ?」
 「ああ。俺とアセリアを襲った奴だ・・・」
 悠人は苦い表情を浮かべて、事の顛末を語った。

 「第三位・・・か」
 闘護は深刻な表情で呟いた。
 「ああ・・・はっきり言って、よく生きてるよ。俺も・・・アセリアも」
 「確かに、俺もあの時悪寒を感じたんだ」
 「悪寒?」
 「イースペリアや、お前を止めた時と同じタイプのな・・・尤も、ケタ違いだったが」
 闘護はブルリと身を震わせた。
 「・・・話を戻すぞ。俺はお前とアセリアがこっちの世界に戻ってくる・・・それに巻き込まれたんだろう。前に、こっちの世界から向こうへ召還されたように、な」
 「そうだな・・・」
 「で・・・原因は?」
 「・・・さぁ」
 闘護の問いに悠人は首を振った。
 「闘護。お前はどう思う?」
 「・・・わからない」
 結局、闘護も首を振る。
 「戻った原因は不明。戻ったのは俺と悠人・・・そしてアセリアの三人のみ」
 闘護はチラリと佳織の部屋を見た。
 「これじゃあ、何の解決にもなってない」
 「ああ。佳織達があっちの世界にいる・・・それに、みんなのこともある」
 『ラキオスのみんなをこのまま放っておく訳には・・・いかない!!』
 悠人は拳を握りしめた。
 「みんなのこと・・・ねぇ」
 闘護は探るような目つきで悠人を見つめる。
 「何だよ?」
 悠人は眉をひそめた。
 「戻ったら、また戦うことになるんだぞ」
 「・・・わかってる。だけど、このまま放っておく訳にはいかないんだ」
 一瞬の逡巡の後、悠人は言い切った。
 「悠人先輩・・・」
 「・・・そうか。だったら、いい」
 闘護は納得したように頷く。
 「だったら、さしあたっての問題は二つだ」
 そう言って、闘護は右手の人差し指と中指を立てた。
 「一つは向こうの世界に戻る方法。そしてもう一つはアセリアの体調だ。何か解決の糸口になる物はないか?」
 「・・・ある」
 「あるのか!?」
 悠人の返答に闘護は目を丸くする。
 「時深からの手紙でな・・・」
 悠人は懐から一枚の葉書を取り出す。
 「明後日の22日に、神社からファンタズマゴリアに戻ることが出来る・・らしい」
 「明後日・・・」
 闘護は悠人から葉書を受けると、じっくりと文面を見つめる。
 「アセリアも・・・その時に一緒にファンタズマゴリアに連れて行けば、きっと良くなる・・・はずだ」
 「どうしてだ?」
 「・・・この世界は、マナが希薄らしいんだ。アセリアはスピリットだから、その影響で体調を崩したと思う」
 「成る程、筋が通ってるな。ならば、俺達に出来ることは・・・」
 そこで、闘護は頭を掻くと首を振った。
 「・・・明後日を待つだけ、か」
 「ああ・・・」
 「・・・歯がゆいな」
 「そうだな・・・」
 闘護の呟きに、悠人は苦い表情で頷く。
 「先輩・・・」
 そんな二人を、小鳥は心配そうに見つめていた。
 「・・・アセリアの所に行くよ。小鳥は休んでくれ。ずっと看病してたんだろ?」
 悠人はそう言って立ち上がる。
 「わ、わかりました・・・」
 「闘護。お前はどうする?」
 「俺はここで待機してる」
 「そうか」
 そう言って悠人は佳織の部屋に入っていく。

 ガチャリ・・・
 悠人はベッドに近づき、アセリアの額にそっと触れる。
 「熱い・・・」
 『アセリア・・・もうすぐ帰れるかも知れないぞ。みんながいる、あの世界に。だからそれまで・・・明後日まで、頑張ってくれ・・・!!』
 悠人の手がプルプルと震える。
 「!」
 一瞬、悠人の頭の中を最悪の事態が過ぎった。
 悠人はブンブンと頭を振って、その考えを追い出す。
 「“・・・ユー・・・ト?”」
 「!アセリア!!」
 いつものアセリアとは比べ物にならないほどの、弱々しい声。
 「“・・おはよ・・・う”」
 グッタリとしたまま、熱で潤んだ目で悠人を見つめるアセリア。
 何とか笑顔を作ろうとするその姿に、悠人は思わず胸が熱くなる。
 「“もっと寝てろよ・・・な?腹が減ったなら、何か食べろ。色々と買ってきたからさ”」
 悠人はなるべく感情を押し殺して静かに話しかける。
 そうしないと涙がこぼれそうだったからであった。
 『俺が取り乱してちゃどうしようもない。せめてアセリアを安心させてやるくらい堂々としてろ、俺!』
 悠人はコンビニ袋から色々と取り出して床に並べる。
 スポーツドリンクにゼリー飲料、手巻きおにぎりに、卵のサンドイッチといった、食べやすくて消化の良い物。
 「“向こうじゃ食えない物ばっかりだ。結構イケるのもあるんだぜ?”」
 「“・・ごめ・・ん。今・・食べたく・・・ない”」
 「“それじゃ、あとで何か温かい物でも作ってやるよ。食べた方がいい。ちょっとキツくてもさ”」
 「“・・・ん。わかった・・・”」
 悠人はタオルで胸から肩にかけて、汗を拭ってやる。
 「“・・ユート・・・きもち・・いい”」
 「“そうか・・・良かった・・・”」
 悠人は黙々と拭い続ける。
 「“なぁ、アセリア。もうすぐ・・・帰れるからさ・・・それまで頑張れよ”」
 「“・・・ん。・・・わか・・った・・・”」
 「“ああ・・・帰ってさ、またメシ食わせてくれよ”」
 「“・・まずい・・・ぞ・・”」
 弱々しく微笑むアセリア。
 その姿が痛々しく切なくなる。
 悠人は涙が溢れるのを必死に堪える。
 「“かまう・・・もんかよ”」
 声を詰まらせる。
 「“俺はアセリアの・・・飯が食べたいん・・だ”」
 堪えていた涙が溢れていく。
 大粒の涙の雫が、アセリアの身体の上に落ちていく。
 「“ユート・・・私は・・平気、だから・・・大丈夫・・だから・・・”」
 アセリアは悠人の頬をそっと撫でる。
 頬に触れるために上げた腕が、とても重そうであった。
 『情けない・・こんなに衰弱しきっているアセリアに俺の方が心配かけてどうする!!』
 悠人は袖で涙を拭う。
 「“絶対に帰ろう。みんな、きっと待っているから・・・”」
 「“ん・・・”」
 「“だからさ。今は寝て・・・力を蓄えておいてくれよ”」
 「“わかった・・・”」
 ゆっくりと目を閉じるアセリア。
 すぐに規則正しい呼吸が聞こえてきた。
 「必ず・・帰ろう」
 静かな寝息を発する姿を見ながら、悠人は強く誓った。


 悠人が去って少しして・・・

 「それじゃあ、神坂先輩。失礼します」
 小鳥は立ち上がるとペコリと頭を下げる。
 「わかった。ところで、昼飯はどうするんだ?」
 「私が用意します」
 「いや、俺がやろう。君は悠人と交代でアセリアの面倒を見てやってくれ」
 「で、でも・・・」
 「頼むよ。悠人はともかく、俺はあまりアセリアのああいう姿を見ない方がいい」
 闘護の言葉の真意を察したのか、小鳥は頷いた。
 「わかりました」
 「んじゃ、お休み」
 「お休みなさい」
 小鳥は再び頭を下げると、悠人の部屋へ入っていった。
 「ふぅ・・・」
 一人になり、闘護は天井を見上げた。
 『さて・・・これはどういう事だ』
 眉間に皺を寄せて考える。
 『時深・・・何者かは知らないが、永遠神剣、そして【求め】の名を知るもの・・・』
 「おまけに、俺達がこちらの世界に戻ってくることを見越していた。悠人が葉書を見つけたのが先日・・・19日だとすると、俺達が飛ばされたのは18日だから、それまでに葉書を送りつけたことになる・・・」
 『ファンタズマゴリアに行く前に出されたとしたら・・・』
 腕を組む。
 『時深という人物は、俺達が飛ばされること、そしてこちらに戻ってくることを知っていたことになる・・・それも、“俺達が飛ばされる前から”だ』
 「まるで、未来予知をしていたみたいだな・・・」
 『だが、その可能性はあながち否定できないか。永遠神剣を知っているのならば・・・もしかしたら、未来を知ることが出来る能力を持つ神剣があるかもしれないし・・・』
 「ふぅ」
 小さくため息をつくと、首を振る。
 『どちらにせよ、情報が少なすぎる』
 「謎ばかり・・・だな」
 途方に暮れたように呟く。


─西暦2008年 12月20日 13:00
 街中

 昼食後、悠人と闘護は珍しく時雨駅の方まで来ていた。
 家で二人、頭を突き合って考えたものの、結局情報が無いことは変わらない為、情報を探して歩き回ってみたのだが、全くあてがないままここまで来てしまったのだった。
 「ふぅ・・・」
 闘護は時計を見る。
 「13時か・・・時深に指定された時間まで、あと48時間だな」
 「うぅ・・・どう考えても、この辺には何もなさそうだよなぁ・・・」
 周囲を見回しながら、悠人は肩を落とす。
 「仕方ない・・・別の所に行ってみよう」
 闘護の提案に、悠人は頷く。

 来た道を戻りながら、悠人は周囲に視線を配る。
 『俺がいたときから全く変わってないはずの風景なのに、やけに新鮮に見えるよな・・・よく歩いていた道から一本ずれるだけで、全く知らない店などがあったり、面白そうな物が色々見つかったし』
 そう考えて、小さく首を振る。
 『・・・いや、いつもいつも同じ道、同じ事を繰り返してるあまり、気がついていなかっただけで、元々それはあったんだろう』
 ふと、視界に入った高層マンションに気付く。
 『見慣れたはずの高層マンションも、以前見たときと比べて本当に大きく見える。向こうじゃ、こんなにデカい建物はないからなぁ。城も大きいけど、流石にここまでじゃないし・・・』
 「どうした、悠人?」
 闘護が訝しげに悠人を見つめていた。
 「あ、ああ・・・俺達のいた街って、こんな所だったんだなぁって思ってさ」
 「?」
 「俺達、ファンタズマゴリアにずっといただろ。久しぶりに戻ってみると、色々なことを見落としてたんだな・・・」
 「それは・・・確かに」
 闘護は頷くと、周囲を見回す。
 「でも、この世界で生きていた時は、それが当たり前だった思ってたからな・・・仕方ないと言えば仕方ないけど」
 「確かに、そうかもな・・・けどさ」
 「けど?」
 「もっと、自分のいる世界を知ってみたい・・・そう思わないか」
 「うん・・・同感だ」
 悠人と闘護は頷きあった。


─西暦2008年 12月20日 18:00
 神木神社

 境内に足を踏み入れた悠人と闘護。

 『まだ日が落ちてるわけでもないのに、見慣れていたはずの境内が、神秘的で謎に満ちたもののように感じられるな・・・』
 ゴクリと唾を飲み込む悠人。
 『神社というのは神を祭る社・・・得体の知れないものへの恐怖・・・人知を越えたものへの畏敬のような感覚が・・・何となくだけど、感じるな』
 闘護も拳をギリッと握りしめた。
 「今は12月20日の18時・・・俺達の知っている情報は、指定された時間にここで【求め】の力を解放する、それだけだ」
 悠人の言葉に闘護は頷いた。
 「とりあえず、神主さんに時深のことを聞いてみよう」
 「そうだな。けど、神主さんが戻ってくるまで時間があるぞ」

 先程、二人は社務所で神主さんのことを聞いたが、今は外出していて30分くらいで戻ってくるということだった。

 「神主さんとは休んでいるときに何度か話したことはある・・・いや、確か宮司さんだったかな?」
 「神主と宮司?どう違うんだろう?」
 闘護の呟きに、悠人は首を傾げる。
 「さぁ・・・?」
 「・・・とりあえず、ここで待つか?それとも何処かに行こうか?」
 「うーん・・・久しぶりにあちこち歩き回ってちょっと疲れたし、少し休まないか?」
 「そうだな」

 吹き渡る風。
 流石に冬だけあって冷たいが、昔みたいに身体を縮み込ませるほどに寒いとは感じなかった。
 二人はベンチに座ってボンヤリと空を眺めていた。
 「やっぱり、こっちの世界の夕焼けも、向こうの世界で見た夕焼けもどちらも同じくらい美しいな・・・」
 「うん・・・そうだな」
 悠人の呟きに同意する闘護。
 「お・・・悠人」
 「ん?・・・あ」
 ふと本殿の方から、宮司さんがこちらに歩いてくるのが見えた。
 「どうやら帰ってきたみたいだな」
 「ああ」
 二人は立ち上がった。
 「どうも、お待たせいたしました。こんな所で申し訳ありませんね」
 「いえ・・・突然、無理を言いまして申し訳ないです」
 悠人が頭を下げた。

 宮司さんは物腰柔らかな白髪の老人だった。
 結構な年齢を感じさせる外見だが、背筋はシャキッとして、身体の何気ない動きに鋭さを二人は感じた。

 『この宮司さん・・・普通の人とちょっと違う・・・』
 悠人は漠然と思った。
 「それに・・・確か、君は神坂・・闘護君だったね?」
 宮司の眼差しが闘護に向けられる。
 「はい。お久しぶりです」
 闘護はゆっくりと頭を下げた。
 「え?闘護、知ってるのか?」
 「ああ。一度、お会いしたことがある」
 「どこで?」
 「そんなことは後回しだ。今は他に聞きたいことがあるだろ」
 「あ、ああ・・・」
 悠人は気を取り直して宮司を見た。
 「何か私に聞きたいことがあるということですが・・・一体何の用件ですかな?」
 「あ、はい・・そうなんです」
 宮司さんは二人の座っていたベンチに腰掛けた。
 『よし、時深のことを聞いてみよう』
 「聞きたいのは、以前こちらにいた巫女さんの、時深さんのことなのですが・・・」
 「時深・・・?さて・・こちらに時深などという名前のものはおりませんな」
 「え?」
 宮司の言葉に悠人は首を傾げた。
 『そんな馬鹿な・・・』
 「いや、確かにこちらであって話をしたんですよ。ここで目眩を起こして倒れたときに、介抱してもらったこともあります。間違いなく倉橋時深さんです。あ、そうだ、派遣されてきたって言ってました」
 「!」
 悠人の言葉に宮司は目を丸くした。
 「『倉橋』が派遣されてきたと・・・その者は口にしたのですね?・・・貴方と『倉橋』の関係は何ですか?」
 宮司は一瞬目を細め、その後表情を戻して悠人に尋ねた。
 『空気が変わった・・・どういう事だ?』
 宮司の態度に、闘護は眉をひそめた。
 「関係?えーと、特には・・・あ、ただ助けられたような気がしないでも・・・」
 『正直に言うと、実際にあって話をしたことなど数えるほどしかないんだ。彼女がどんな人なのかも俺はよく知らないし・・・ファンタズマゴリアのことを話してみたらどうかな・・・?』
 次の言葉に悩む悠人。
 「成る程、『倉橋』に助けられているのですか・・・いやはや・・・さぞや大変な目に遭われているのでしょうな」
 そう言って、宮司はニヤリと笑う。
 「!」
 悠人はビクリと身を竦めた。
 「・・・」
 一方の闘護は探るように宮司を見つめる。
 「・・・一つ、いいですか?」
 闘護はゆっくりと挙手する。
 「何ですか?」
 「何故『倉橋』という名字の方を気にするのですか?」
 「・・・」
 値踏みするように、悠人と闘護の目を見つめる宮司。
 『何か特別な意味でもあるのか?』
 ゴクリと唾を飲み込む悠人。
 「・・・あなた方は『倉橋』に守られし者。真実を話しても差し支えないでしょう」
 『真実?』
 『時深にはやはり何か秘密があるのだろうか』
 闘護と悠人は真剣な表情で宮司の話に耳を傾ける。
 「これから私が話すことは、絶対に他言無用として下さい。この国の・・・表には出せない大きな秘密の一つなのです」
 「は、はい!!」
 「わかりました」
 悠人と闘護の返事に頷くと、宮司はゆっくりと語り始める。
 「『倉橋』・・・その巫女がそう名乗ったならば、それは間違いなくこの世ならざる妖を滅する、戦巫女の『倉橋』一族の事でしょうな」
 【・・・】
 「話では『出雲』なる組織より派遣されると言います」
 「戦巫女?出雲?」
 「戦巫女・・・戦う巫女に出雲か・・・」
 「闘護。知ってるのか?」
 「いや、そういうわけじゃない。ただ、戦巫女ってのは言葉通り戦う巫女だろうし、出雲は確か・・・島根の一地方だ。それに、日本神話で聞く言葉だな」
 「ええ・・・今まで戦巫女と呼ばれた巫女の中にも、色々な種類の者達がいました。その中で『倉橋』一族だけは、紛れもない破邪の力を用いて、妖と渡り合ったといいます。中には、とある剣を使って気候を変化させる力や、炎を操る力を持つ者、過去と未来を見られる者もいたと聞きます」
 『戦巫女・・・破邪の力・・・嘘っぽいなぁ。向こうの世界でこういう話を聞いたというなら、まだ何となくわからないでもないが、こっちは、俺が現実として認識していた世界だしなぁ・・・』
 驚いた顔をする悠人。
 『とある剣・・・それに、過去と未来を見られる者・・・』
 一方の闘護は、真剣な表情で考えていた。
 二人に笑いかけ、宮司さんは説明を続ける。
 「神代より連綿と連なる倉橋の血筋を継ぐ者達・・・この世にて神憑りの力を用いる戦巫女達。それが倉橋の一族です」
 「んじゃあ、時深も・・・その一人って事ですか?」
 「おそらくは・・・」
 悠人の問いに含みのある答えを返す宮司。
 「・・・」
 『この国に本物の妖怪がいるなんて・・・多分、今までの俺だったら笑い飛ばしてた。でも、今は違う。同じくらい・・・いや、おそらくそれ以上に馬鹿馬鹿しいような事態を現実に体験してきたんだ。妖怪くらいいても、別に不思議じゃない』
 考え込む悠人に、宮司は小さく笑った。
 「ふふ、あまり驚かれませんな。『倉橋』と接触した者の大半は、ここで大抵驚いてくれる所なのですが」
 「あ、いや・・別に無い話じゃないと思いまして」
 そう答えた悠人を見て、一瞬目を細める宮司。
 「それは・・・よほど大変な体験をなされたのでしょうね。『倉橋』の一族は、妖を封印するため、この国の各地に派遣されている筈です」
 「そうだったんですか・・・」
 『だから派遣されてきたと言っていたのか・・・今にして思えば、時深は間違いなく神剣を持っていた。あの刀の気配、雰囲気・・・きっと、かなり上位の永遠神剣だったのではないだろうか?』
 悠人は考える。
 『でもそれじゃ、戦巫女があの世界に召還されてエトランジェになったって事なのかな?いや待てよ・・・そもそもああいう世界って、ファンタズマゴリアしかないのか?』
 「うぅ・・・」
 『・・・なんか複雑になってきた』
 考え込む悠人を後目に、闘護が真剣な表情で宮司を見た。
 「では、時深とは会ってはいないのですか?」
 「そ、そうです。ここに寝泊まりしてると言ってましたが・・・」
 「いやぁ〜・・・最近はあの一族と会ってはいませんねぇ・・・」
 二人の問いに宮司はゆっくりと言った。
 「おそらくは、貴方に接触するために訪れたのでしょう。基本的に倉橋の任務は、我々にも秘密なのです」
 「じゃあ今、時深はここにいないんですね?」
 「ええ。申し訳ありませんが」
 「そうですか・・・」
 『うぅ・・・もしかして時深はもうこの世界にはいないのだろうか・・・まさか、やっぱり向こうの世界にいるということなのか?それともコッチの世界の別の何処かにいるのかも知れないのか?』
 「ふーむ・・・」
 『これで手がかりはなくなってしまった・・・か』
 落胆する悠人と闘護。
 『しかしこの宮司さん、やけに色々なことを知っているし、一応もう少し聞いてみようか』
 「すみません。一つ、変なことをお尋ねします」
 悠人が挙手する。
 「どうぞ」
 「・・・この世界から、別の世界に行く、という話をご存じではありませんか?」
 『俺はこの神社からあっちの世界へと飛んだ。そして、コッチの世界に戻ってきたとき、やはりこの神社に現れたんだ。これが偶然とは思えなかった。それに、時深の葉書からしても必然としか思えないし・・・』
 「・・・そうですね」
 悠人の言葉に、腕を組み考え込む宮司さん。
 その表情は強ばり、何か言葉を選んでいるようだ。
 二人は、次の言葉を待ち続けた。
 「『神隠し』という言葉をご存じですか?突然、人が消えてしまい、二度と帰ってこない・・・そんな不思議な伝承が、この国・・・いや、世界中に多々あることを知っていますか?」
 「はい。聞いたことはあります」
 闘護が頷く。
 「我々の間では、それはつまりそういうことだと考えられています」
 宮司はゆっくりと言った。
 「『門』と呼ばれる、そういった場所がこの世界には多数点在しています。それは目に見える物ではなく、あくまで強い力がその場に溜まっているというもの・・・そして、それが何かしらの拍子で発動したとき、その場に居合わせた者が『門』の力によって別の世界に飛ばされる、と我々は考えています」
 「・・・門?」
 悠人は眉をひそめた。
 「そういえば・・・」
 『・・・ラキオスの守り竜、サードガラハムが言っていた役割が『門番』だった。やはり接点があるのか・・・こっちとあっちの世界には?』
 闘護は過去の記憶を思い出す。
 『これまでのことから考えると、『門』があるのはこの神社の筈だ!』
 「では、その『門』を通れば、向こう側の世界にいけるんですかっ?」
 悠人は興奮を抑えようと必死になりながら尋ねる。
 「いえ、どうやらそう簡単なものではないようですね・・・」
 宮司は首を振った。
 「『門』はそれぞれ別の世界に通じている、という伝えが残っているのです。そして何より『門』をこちらから開くことは出来ません」
 【!!】
 宮司の言葉に二人は目を丸くする。
 「ど、どうしてですか?」
 我慢できず、悠人が尋ねる。
 「『門』の存在を知った人々は、あらゆる手段を使ってそれを開いてみようとしましたが、全て失敗に終わりました。『門』はいわば、取ってのない開き戸。向こうから開けるしか方法はないのです・・・」
 「向こうからしか開かない・・・と、いうことは」
 『あの指定された時間・・・おそらく、その時間だけ向こうから『門』が開くんだ』
 悠人は心の中で納得する。
 「ふむ・・・」
 『時深の手紙にあった日時に、『門』が開く・・・その時を逃せば終わり、か』
 闘護は真剣な表情で考え込む。
 「その『門』って、何か形があるものなんですか?」
 「いえ・・・見ることも、触れることも適わないそうです。ただ、儀式によって開くきっかけは作れるという話も残っています」
 悠人の問いに、宮司さんは説明する。
 「先程の『倉橋』の一族も、儀式によって『門』を開き、そこから現れし異世界の者から力を授かったとも聞きます」
 「儀式!?」
 「そんなものが必要なんですか!」
 悠人と闘護は驚愕する。
 『それは想像していなかった・・・【求め】を持っていけば、それだけでいいと思っていたけど、力は今のところ使えないし・・・』
 『もしも、時深の指定した時間に『門』が開くとしても・・・開く方法がわからない。と、なると・・・自動的に開くんだろうか?』
 悠人と闘護は顔を見合わせた。
 「古来より伝わる神楽や舞の中には、近づいてきた『門』を引き寄せ、つなぎ止める効果があるものもあるそうです。簡単に言えば、飛んできたものを力業で離さないようにすることが出来るというわけですねぇ」
 「・・・」
 『神楽も舞も、何か大きな神社とかでやってる、というイメージがあるけど詳しくは全然知らない・・・でも待てよ・・・力業で『門』を押さえ込む?』
 「神楽や舞でなくても、何か別の強力な力があれば大丈夫なんですか?」
 「ふむ・・・そうですねぇ・・・」
 悠人の問いに、宮司は考え込む。
 『あのバカ剣・・・永遠神剣の力があれば十分なのではないか?多分時深も、それを言っているに違いない・・・多分』
 「物理的な力などでは無理でしょうが、それ以外の何らかの力があれば、あるいは・・・」
 「そうですか!」
 『よし、なんとなくわかった!多分指定の期日にここで神剣の力を使えば、あっちの世界に帰ることが出来るんだ』
 「成る程!」
 『ここで神剣の力を使うということか。それまでは力を貯めなければならないから、“神剣を使うな”と厳命していたのか』
 確信したように頷く悠人と闘護。
 「私達も『門』とその向こう側については、殆ど知らされていないのです。本来はこんな話は出来ないのですが、どうも貴方がたにはよほどの事情があると見える」
 宮司は、二人に優しく微笑む。
 そして懐かしそうに空を見上げた。
 「『倉橋』の巫女はじゃじゃ馬が多くてね・・・たいがい、男が振り回されて苦労するんですよ。貴方も気をつけて下さいね」
 【・・・】
 『・・・もしかして、この宮司さんも『倉橋』の巫女に苦労させられたのだろうか?』
 『この暖かい笑顔を見る限り、その思い出が楽しかったんだろうな・・・』
 悠人と闘護の思考に気付くことなく、宮司は二人を見つめた。
 「さて・・・私がお話しできるのはここまでです。他にご質問などありますか?」
 「いえ、これで十分です!」
 「どうも有り難うございました!」
 二人は深々と頭を下げる。
 『時深の葉書に対する裏付けが取れた。あとは【求め】の力をどう解放すればいいかだけだ。まぁ、それが問題なんだけど』
 悠人は心の中で呟いた。
 宮司は二人を見て、少し真剣な顔をする。
 「今まで、辛い思いをしてきたことでしょうし、悔しい思いも悲しい思いもしてきた事でしょう。そしてこれから、貴方がたはもっと大変な目に遭われることになる」
 宮司さんは真っ直ぐ二人を見つめた。
 「ですが、それに潰されてしまっては、何も成し遂げることは出来ません。己を強く持つこと・・・それだけを忘れないようにして下さい。たとえどんな場所にいても、それだけは変わりません」
 『いつか聞いた言葉。随分昔に聞いたような気がする。一体誰の言葉だったかな・・・』
 ふと、悠人の頭の中に疑問が過ぎる。
 『己を強く持つ、か・・・心だけは絶対に負けてはならない。確かに、それが一番大切なんだ』
 闘護は納得したように小さく頷く。
 「それだけで、意外とどうにでもなるものですよ」
 そう言うと、宮司は二人の肩をポンと叩いた。
 「・・!!」
 「!」
 軽い感じだったが、身体の芯まで響く強さがあった。
 『うぅ・・・絶対ただ者じゃないよ、この人・・・』
 『やはり・・・凄い人だな』
 悠人と闘護は心の中で呟いた。


─西暦2008年 12月20日 19:00
 神社からの帰り道

 「ふぅ・・・あとは時が過ぎるのを待つだけ、か」
 歩きながら闘護は呟いた。
 「そうだな・・・」
 答えるも、あまり表情の晴れない悠人。
 『あと2日・・・アセリアは保つんだろうか・・・』
 「くそっ!」
 「・・・アセリアが心配か?」
 「・・・」
 「悪い方向に考えるな」
 闘護は小さく肩を竦めた。
 「今の俺達に出来ることは待つだけだ・・・だけどその間中、ずっと心配してたらもたないぞ」
 「わかってるよ。だけど・・・」
 「少なくとも、アセリアと夏君の前ではそんな顔をするなよ」
 「えっ・・・?」
 闘護の言葉に悠人は立ち止まった。
 「俺・・そんなヤバイ顔をしてるのか?」
 「見るからに“もう駄目かも・・・”って顔だよ」
 苦笑する闘護。
 「・・・」
 「悠人」
 少し厳しい口調。
 「・・・わかってるよ」
 「本当だな?」
 「ああ」
 「・・・なら、いいんだ」
 闘護は納得したように頷く。
 そして二人は再び帰路を歩き出す。
 「・・・それにしても、かなり興味深い話が聞けたな」
 少しして、闘護が口を開く。
 「ああ・・・いろんな事がわかった。『門』や時深のこと・・・本当に良かったよ」
 「俺は“出雲”に興味が湧いた」
 「“出雲”・・・それって、妖怪を退治する組織の?」
 悠人は首を傾げた。
 「ああ」
 「・・・何でそんなところに興味が湧いたんだ?」
 「この世界でも不可思議なことがあって、それから世界を守る為に戦う組織が存在する・・・まるで正義のヒーローみたいじゃないか」
 「正義のヒーロー・・・か」
 「ファンタズマゴリアではそんなものは無かったからな・・・」
 「・・・」
 「実際の戦争・・・俺達はそれを見てしまった。その上で、そういう組織が存在するって聞くとさ・・・憧れないか?」
 「・・・まぁ、確かに」
 「俺達の戦いにも、ああいう正義の味方みたいなのがいたら・・・もう少し救われるんだけどな。正義と悪ってのが明確なら・・・」
 「・・・」
 「尤も、そんな戦いなんてあるわけ無いんだよな・・・人間同士が戦う限りは」
 呟いた闘護。
 二人はその後一言も言葉を交わすことなく帰途についた。


 家に戻った二人は、小鳥と共にアセリアの世話に集中した。
 もっとも、実際にアセリアの服を着替えたり、汗を拭いたりするのは悠人と小鳥で、闘護は二人が作業に集中できるように準備をするだけだったが・・・


─西暦2008年 12月21日 0:38
 高嶺家 リビング

 12月21日 午前0時38分

 ガチャリ・・・
 「ふぅ・・・」
 「悠人先輩っ!今呼びに行こうと思ってたところなんです」
 悠人が佳織の部屋から出ると、既に小鳥は目を覚ましていた。
 テーブルの上に弁当屋で買ってきたと思われる弁当が三つ並んでいた。
 「おう、悠人」
 椅子に座っていた闘護が軽く手を挙げた。
 小鳥は闘護とちょうどお茶の用意をしている所だったのだ。
 「アセリアさん、どうですか?まだ・・・熱は下がりませんか」
 「ああ・・・やっぱり薬は全然効かないみたいだ」
 悠人は首を振った。
 「俺には向こうの世界の薬は効いたけどな。やっぱり原因は別にあるみたいだよ」
 ため息をつく。
 「マナか・・・」
 闘護の呟きに頷く悠人。
 「多分な。やっぱり、この世界にアセリアは存在できないんだと思う」
 「そうですか・・・」
 小鳥は残念そうに呟く。
 「あっ!お弁当買ってきました。ヒレカツとフライミックス。あと唐揚げが二つです」
 悠人の家から自転車で15分くらいの所に、24時間営業の弁当屋がある。
 小鳥が自転車で買ってきてくれたのだ。
 ちなみに、闘護が買いに行かなかったのは、小鳥が“私にも悠人先輩のお手伝いをさせて下さい!!”と強く言ったので引き下がったからである。
 「さんきゅ。あ、俺の財布からお金とっといてくれ」
 「いいですよ。そんなの」
 小鳥は手を振る。
 「それよりも、アセリアさんも何か食べた方が・・・私が見ていたときも、何も」
 小鳥は辛そうに言う。
 「今は眠っているから。次に起きたときには、俺がお粥でも作ってみるよ。それよりも小鳥、家に帰らなくて平気だったのか?」
 小鳥の家は、佳織から聞いている限りだとかなりの放任主義ではあるらしいが。
 「大丈夫です。佳織の看病っていったら、まるで問題なしでしたから」
 「そっか。小鳥はどれ食べる?」
 「悠人先輩が選んで下さい。私はどれも好きなものですから!」
 「闘護は?」
 「俺も後でいい。先に選べよ」
 「わかった」
 悠人は頷いて、テーブルの上に並んである物を見る。
 『ヒレカツ、フライ・・・それに唐揚げ、か。意外に脂っこいものが好きなのかな、小鳥は・・・』
 心の中で苦笑する。
 『今日子は結構なんでも食べるが、佳織は結構脂っこいものが苦手なので、親友の小鳥もそうなのかって思ってたな・・・まぁ、それはともかく』
 悠人は小鳥が淹れてくれたお茶の入った湯飲みを受け取る。
 『あちち・・!!』
 突然自分の感覚が戻ってきたような、不思議な感じがした。
 「じゃ・・・こっちのヒレカツにしよ」
 「俺は唐揚げをもらおうか」
 悠人と闘護がそれぞれ弁当を手に取る。
 「じゃあ、私はミックスフライ」
 小鳥が取って、最後に一つだけ、唐揚げ弁当が余る。
 『アセリアに食べてもらおうと買ってきたのだろうが、今の状態はとてもじゃないが無理だ・・・それは小鳥もわかっているだろうが、それでもアセリアの分まで買ってきてしまうのが小鳥なんだろうな』
 『この子は本当に優しい。佳織ちゃんも、良い友達に恵まれたな』
 小鳥の優しさに感動する悠人と闘護。
 『ようし。こうなったらアセリアの分まで食べてやる』
 悠人は自分のヒレカツ弁当と、アセリアの分の唐揚げ弁当を両方とも開いた。
 「いただきます」
 「いただきます」
 三人は手を合わせて、いただきますのポーズを取る。


 「悠人先輩、神坂先輩。手がかりはどうだったんですか?」
 弁当を食べ終わった三人は、今はお茶を啜っていた。
 「うん。少しだけど、何とかなりそうな感じだよ」
 「とりあえず、大体の目星はついたな」
 悠人と闘護は頷く。
 「だから12月22日・・・明日になったら、必ずアセリアを連れて俺達は元の世界に帰る。必ずさ・・・」
 小鳥は微笑んだ。
 「悠人先輩・・・いつの間にか・・・あっちの世界が元の世界になっているんですね」
 少しだけ哀しそうな笑顔。
 「そう言えば、そうだな」
 闘護も目を丸くする。
 「あ・・・そういえば」
 『言われて初めて気付いた。そうか・・・いつからだろう・・・向こうに『帰る』とか『戻る』とか思い始めたのは。俺にとっての家はここの筈なのに・・・』
 「悠人先輩、元々素敵でしたけど、すっごくカッコ良くなりましたよ」
 小鳥はニコリと笑った。
 「私にとってはたった一日ですけど・・なんだか、別人みたいにカッコ良くなってます。ヒーローって感じですよ。ふふ」
 「な、なんだよそれ・・・そんなことないって。確かにいろいろあったけどさ・・・」
 「良い雰囲気だな・・・俺、お邪魔かな?」
 意地悪な笑みを浮かべながら闘護が呟く。
 「と、闘護!」
 「そ、そんなことないですよ!!」
 慌てて取り繕う二人に闘護は苦笑する。
 「冗談だって。そんなに慌てるなよ」
 「・・・」
 「も、もう、神坂先輩ったら!!」
 赤い顔で沈黙する悠人と、やはり赤い顔で照れる小鳥。
 「そ、それより悠人先輩、神坂先輩。必ず佳織を連れて帰ってきて下さい!あと岬先輩も、碧先輩も」
 「小鳥・・・」
 「夏君・・・」
 「私はみんな一緒がいいんです。佳織との夢もあるんです」
 「夢・・・?」
 「初耳だなぁ、それ」
 闘護と悠人の疑問の視線に小鳥は悪戯っぽく、かつ楽しそうに笑う。
 「それは秘密です。佳織と悠人先輩だけにはバラしちゃダメって約束しているんですから」
 『夢か・・・佳織が持っていたということが、なんか嬉しいな・・・そのためにも』
 「そっか、わかった。必ず佳織達は連れて帰る」
 「安心して待っていてくれ」
 「お願いします!悠人先輩、神坂先輩」
 ペコリと頭を下げる。
 「二人とも眠って下さい。アセリアさんの具合は、私が見ていますから」
 「大丈夫か?」
 「さっきまで寝てましたから。先輩達も力を蓄えないと」
 小鳥は立ち上がった。
 「もしアセリアさんが何か食べられそうになったら、お粥を作っておきますね」
 「しかし、君に全てを任せるわけにはなぁ・・・」
 「いいよ。眠れないと思うしさ」
 闘護と悠人が渋い表情を浮かべるが、小鳥は首を振った。
 「ダメですよ!目をつぶっているだけでも疲れは取れます」
 そう言って、佳織のメッと同じポーズをする。
 「休むのだって仕事ですよ。悠人先輩と神坂先輩は元の世界に帰ることに集中して下さい。アセリアさんは私が見ていますから!」
 「わ、わかったよ」
 「た、頼む」
 小鳥のパワーに気圧されて、悠人と闘護は素直に頷いた。
 『何かここ数日で小鳥の力強さを感じた・・・、というか、印象が随分変わったな・・・』
 悠人はふと考える。
 『いつも騒がしくて元気な佳織の親友。それが今まで俺が持っていた小鳥のイメージだったのに』
 小鳥の顔を見る。
 『でも違った。しっかりした考えと強さを持つ女の子だったんだ。俺ってホント何にも見えてないなぁ・・・みんな強いなぁ。それとも俺が弱いのか?』
 悠人は思わず自分自身に苦笑してしまう。
 「どうしたんですか?」
 不意に笑った悠人を見て、小鳥は不思議そうにする。
 「いや、何でもないよ。ゴメン」
 悠人は手を振った。
 「それじゃあ、俺達は少し眠らせてもらうよ」
 「悪いけど、アセリアのことよろしく頼むな」
 「はい。任せて下さい。お休みなさい」
 「ああ、お休み」
 「お休み」
 悠人と闘護は席を立ち、悠人は自分の部屋に、闘護は居間の方へ行った。

 やはり疲れは十分にあったのか、二人とも目を閉じてすぐに意識を失った。

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