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─不明

 『・・・何だろう?』
 闘護は考える。
 『何も見えない・・・これは夢か?』
 目の前は闇だった。
 『意識はあるのに・・・』
 体を動かそうとする。
 『・・・駄目だ。動かない。感覚はあるみたいだが・・・』
 闘護は心の中で眉をひそめた。
 『俺はどうしたんだ?一体何が起きたんだ・・・そうだ、何が起きたんだ・・・』
 闘護は考える。
 『何が・・・』

 「・・・ぉ・・・ぃ・・・」

 『ん?』
 何かが聞こえた。
 『何だ・・・?』

 「・・・と・・・ぅ・・・」
 「・・・ご・・さ・・・ま・・・」

 『この声は・・・』

 「と・・う・・ご・・・」
 「ト・・・・ゴ・・・さ・・ま・・・」

 『悠人・・・エスペリア・・・』

 「つ・・・・・て・・・・・こ・・」
 「・・・は・・・・こ・・・・き・・・・ん・・・・で・・・」

 ガシリ
 『ん・・・誰かが俺をつかんだ』
 闘護の体が浮き上がる。
 『俺を背負った・・・?』
 誰かの上に負ぶさった感覚を覚えた。
 『誰が俺を・・・?』


─聖ヨト歴331年 アソクの月 黒 三つの日 夕方
 イースペリア郊外

 「ぅ・・・」
 「闘護!!」
 「トーゴ様!!」
 「ぁ・・・」
 闘護の目蓋がゆっくりと震える。
 「闘護!!」
 「ぁぅ・・・」
 「トーゴ様!!大丈夫ですか!?」
 「ぅ・・・ぁ・・・」
 闘護はうめき声ですらない程の、小さな声を発するだけである。
 それも、声なのか、息の音なのか、判断するのが難しいほどの大きさであった。
 「闘護!!」
 「トーゴ様!!」
 エスペリアは闘護の上着をはだけると、心臓の位置に耳を当てた。
 「・・・」
 「どうだ・・・?」
 「心音はあります・・・ですが、かなり弱っています」
 エスペリアは唇をかんだ。
 「直ぐに治療をしないと・・・」
 「治療って・・・何をするんだ?」
 悠人は闘護の身体を見る。
 かなり衰弱しているが、外傷は見あたらない。
 「トーゴ様には神剣魔法は効きません。とりあえず、何処かの街で休ませるしか・・・」
 「すぐに手配してくれ!!」
 「はい!!」
 エスペリアは頷くと、テントから飛び出した。
 「闘護・・・」
 悠人は闘護の手を掴んだ。
 「・・・ぁ・・・」
 「闘護・・・」
 悠人は心配そうに呼びかける。
 その時
 「トーゴ様!!」
 「トーゴ様が見つかったですって!?」
 テントの中にセリア、ヒミカをはじめ、第二詰め所にいるスピリット達が全員駆け込んできた。
 「み、みんな!!」
 悠人も突然の大軍に目を丸くする。
 「ユート様!!トーゴ様は!?」
 ネリーが叫ぶ。
 「トーゴ様は・・・?」
 シアーも普段ののんびりした口調ながらかなり焦った様子で尋ねる。
 「トーゴ様!!」
 ヘリオンがベッドの上に横たわっている闘護に駆け寄った。
 僅かに遅れて全員、闘護の周りに集まる。
 「ユート様。トーゴ様は、大丈夫ですか〜」
 いつもののんびりした口調ながら、眉を逆八の字にしたハリオンが尋ねる。
 「わからない・・・」
 「わからないって・・・それじゃあ!?」
 ヒミカが血相を変える。
 「生きてるが、かなり衰弱しているんだ。休ませて体力の回復を願うしか・・・」
 「では、早く街へ・・・」
 ファーレーンの言葉に悠人は頷く。
 「今、エスペリアが手配をしてる」
 「・・・死なせないでよ。絶対に」
 ニムントールが赤くなった目で呟く。
 「当たり前だ!!絶対に死なせるもんか!!」
 悠人が叫ぶ。
 「・・・ぅ・・・」
 「トーゴ様が・・・」
 ナナルゥが珍しく声を上げる。
 「トーゴ様!?」
 セリアが耳元で声を掛ける。
 「ぁ・・・ぅ・・・」
 「意識があるんですか?」
 「・・・ぅ・・・」
 しかし、闘護は相変わらずのうめき声らしき小さな声を上げるだけだ。
 「トーゴ様・・・」
 セリアは唇を噛み締めながら闘護の耳元から離れた。
 「ユート様!!」
 その時、テントにエスペリアが駆け込んできた。
 「エスペリア!!」
 「ラセリオへトーゴ様を運ぶ準備が整いました!!すぐに出発しましょう!!」
 「ああ!!」
 悠人は闘護を抱きかかえた。
 「君たちはどうする?」
 「ついて行きます!」
 ヒミカが即答する。
 「みんなも行くわよね!?」
 ヒミカの問いに、全員頷く。
 「よし。それじゃあすぐに行こう」
 悠人は歩き出した。


─聖ヨト歴331年 レユエの月 青 四つの日 夕方
 ラセリオ、宿屋の一室

 コンコン
 「はい?」
 ベッドの上に寝ていた悠人は起きあがった。
 「ユート様。今、よろしいですか?」
 「エスペリア。いいよ」
 ガチャリ
 「失礼します」
 悠人の返事を聞いて、エスペリアが部屋に入ってきた。
 「どうしたんだ?」
 「報告が来ました」
 エスペリアは手に持っていた書簡を悠人に見せた。
 「どうなったんだ、イースペリアは?」
 「イースペリアのエーテルコアの暴走により、周辺地域のマナが消失しました。ダラム、ロンドはその影響をかなり受けたようです」
 「・・・」
 「漆黒の翼がいたことから、背後に帝国も動いているようです」
 「帝国・・・」
 悠人はボソリと呟いた。
 「どうして、帝国が?」
 「わかりません・・・」
 「そうか・・・」
 「今回の戦争で、どれだけの人とスピリットの命が失われたのか・・・まだ、調査中ですが・・・」
 「・・・」
 エスペリアの言葉に、悠人は苦い表情で俯いた。
 「それで、これからイースペリアはどうなる?」
 「イースペリアは我が国の支配下になりました。マナ消失が発生したとはいえ、それでも我が国は、大量のマナを手に入れ、国力は増しました」
 「・・・」
 「ラキオスは正規に、サルドバルトに抗議を行いました。すぐに宣戦布告が行われるでしょう」
 『宣戦布告か・・・とんだ言いがかりだな』
 悠人は唇をかんだ。
 『イースペリアで起きたこと。その全てが戦争をふっかけるためだったんだ・・・その為に、俺たちを利用して・・・』
 「くそっ!!」
 ドコッ!!
 悠人はテーブルを力一杯殴った。
 「何で、こんな事に・・・畜生っ!!」
 「・・・同盟の中ですら、こうなってしまうのですね・・・」
 二人は暗い表情を浮かべた。
 「・・・闘護は?」
 悠人の言葉に、エスペリアは首を振る。
 「まだ、意識が戻りません・・・」
 「・・・そうか」
 悠人は唇をかんだ。
 「ですが・・・」
 エスペリアは眉をひそめた。
 「なぜ、トーゴ様はあんな所に・・・」
 「・・・確かに」
 エスペリアの言葉に、悠人は頷く。
 『イースペリアのど真ん中・・・爆発で出来たクレーターの中心に大の字で仰向けになっていた・・・』
 「爆発に巻き込まれたのかな?」
 悠人の言葉に、エスペリアは首を振った。
 「いいえ・・・“マナ消失”に巻き込まれて生き残った者は・・・」
 「じゃあ、何であんな所に闘護は居たんだろう・・?」
 二人は難しい顔で考え込む。


─聖ヨト歴331年 レユエの月 青 五つの日 昼
 ラセリオ、宿屋の一室

 「ん・・・」
 闘護はゆっくりと目を開けた。
 『ここは・・・?』
 視界に入ったのは、何処かの部屋の天井だった。
 「くぅ・・・」
 ゆっくりと体を起こす。
 「俺・・は・・・」
 自分の頭を押さえる。
 『誰の・・・部屋だ・・・?』
 ぼやける意識の中で、考える。
 『見たことのない部屋だ・・・何で俺はこんな所に居るんだ・・・?』
 周囲を見回す。
 『・・・駄目だ。わからない・・・』
 闘護はゆっくりと頭を振った。
 「何があったんだ?」
 そう呟くと、ベッドから出た。
 「くっ・・・」
 『身体が重い・・・なんだ、これは?』
 立ち上がっただけで、猛烈な疲労感が闘護を襲う。
 「ぐぅ・・」
 ドン・・
 耐えられず、闘護はベッドの上に腰を下ろす。
 「はぁはぁはぁ・・・くそっ」
 闘護は小さく首を振る。
 「どうなってる・・・俺の身体は?」
 その時
 コンコン
 「!誰だ!?」
 闘護は慌てて叫んだ。
 「トーゴ様!?」
 ガチャッ!!
 勢いよくドアが開き、ヒミカが飛び込んできた。
 「ヒミカ・・・」
 「トーゴ様!!」
 ヒミカは血相を変えて闘護の側による。
 「目を覚まされたのですね!!大丈夫ですか!?」
 「あ、ああ・・・」
 ヒミカの剣幕に、闘護はたじろぐ。
 「良かった・・・本当に良かった・・・」
 ヒミカは涙ぐみながら呟く。
 「ここはドコなんだ?」
 「ラセリオです」
 「ラセリオ・・・ちょっと待てよ」
 闘護は額を掴む。
 「なんで、俺はラセリオに居るんだ・・・?」
 「イースペリアからこちらに移送したんです」
 「イースペリア?イースペリア・・・そうだ、俺はイースペリアにいた。イースペリアを救援に・・・っ!?」
 闘護の顔色が変わる。
 「トーゴ様!?」
 ガシッ!!
 「イースペリアはどうなった!?」
 闘護はヒミカの両肩を掴んで詰め寄る。
 「と、トーゴ様!?」
 「イースペリアはどうなったんだ!?」
 「お、落ち着いて下さい!!」
 ヒミカは闘護の剣幕にたじろぐ。
 「教えてくれ!!どうなっ・・・がっ!?」
 ガクッ・・・
 叫ぶ闘護の身体が突然沈む。
 「トーゴ様!!」
 慌ててヒミカが闘護の身体を支える。
 その時
 「ど、どうしたの!?」
 セリア、ハリオン、ヘリオンが駆け込んできた。
 「と、トーゴ様!!」
 ヘリオンが、ヒミカに支えられた闘護を見て叫ぶ。
 「どうしたんですか〜」
 ハリオンが二人の側に駆け寄る。
 「トーゴ様!!大丈夫ですか!?」
 ヒミカが声を掛ける。
 「あ、ああ・・・大丈夫、だ。それよりも」
 闘護はヒミカの顔を真正面から見る。
 「イースペリアはどうなった!?」
 「・・・」
 ヒミカは闘護から顔をそらした。
 「ヒミカ?」
 「イースペリアは・・・“マナ消失”によって・・・」
 「“マナ消失”・・・?」
 闘護は呆然と呟いた。


 「何もかも・・・消えた、だと?」
 四人から全てを聞いた闘護は絶句した。
 「はい・・・」
 ヒミカが頷く。
 「トーゴ様は、イースペリアの中心にあったくぼみに横たわっていたそうです」
 セリアが言う。
 「・・・」
 「見つけたときは大分衰弱してましたが、外傷はありませんでした〜」
 「すぐにラセリオに運び、手当をして・・・今に至ったんです」
 ハリオンとヒミカが説明を終える。
 「・・・」
 闘護は俯いた。
 「と、トーゴ様・・・?」
 ヘリオンが恐る恐る声を掛けた。
 「・・・イースペリアの住民は全滅、したのか?」
 闘護はポツリと呟いた。
 「戦争が始まる前に避難した人々は無事です。現在、ダラム、ミネアへ難民として流れていますが・・・」
 セリアが答えた。
 「イースペリアのスピリット達は?」
 「・・・」
 「セリア?」
 「・・・残念ながら、全滅したかと」
 セリアは沈痛な表情で言った。
 「・・・“マナ消失”」
 闘護はゆっくりと顔を上げた。
 「誰が引き起こしたんだ?」
 「・・・サルドバルト王国のスピリットが引き起こしたそうです」
 ヒミカが答える。
 「サルドバルトが・・・?」
 「はい。我が国は正式にサルドバルトに抗議を送ったそうです」
 「・・・」
 「サルドバルト側は否定しています。おそらく、我が国は宣戦布告を・・・」
 「おかしい」
 ヒミカの言葉を遮るように闘護は呟いた。
 「は・・・?」
 「納得がいかない」
 闘護はそう言って頭を掻いた。
 「何故サルドバルトが“マナ消失”を引き起こす?」
 「いえ。“マナ消失”は、サルドバルドとイースペリアのスピリットの戦闘がエーテル変換施設内あった際に、起きたそうです」
 ヒミカの説明に、闘護は眉をひそめた。
 「エーテル変換施設内で?」
 「サルドバルドはイースペリアのエーテル変換施設を占領しようとしてたそうですから・・・」
 「・・・」
 「トーゴ様?」
 ヒミカの問いかけに、闘護は顔を上げた。
 「・・・悠人はいるか?」
 「ユート様ですか?いらっしゃいますよ〜」
 ハリオンがのんびり答える。
 「呼んできてくれないか?それと、エスペリアもいるのなら彼女も頼む」
 「わかりました」

 四人は部屋から出て行き、闘護が一人残る。
 『サルドバルトが“マナ消失”を・・・?』
 一人になった闘護は考える。
 『おかしい・・・わざわざ同盟を裏切ってイースペリアを攻めたのは、イースペリアを掌握したかったからではないのか?』
 ウーンと唸る。
 『イースペリアが滅びれば、全て無駄になる。それに、サルドバルドだってエーテル変換施設がどういうものか解ってるはずだ。“マナ消失”が起きるような真似をするのか?』
 闘護は眉をひそめた。
 『まてよ・・・形勢はサルドバルト優勢だった。イースペリアが“マナ消失”を引き起こした・・・自爆したのか?』
 小さく首を振った。
 『いや、そんな捨て身をするとは思えない・・・都市一つが滅ぶほどの威力だ。いくらなんでも、そこまでするだろうか・・・?』
 コンコン
 「はい」
 「闘護、俺だ」
 ドアの向こう側から悠人の声が聞こえた。
 「入ってくれ」
 ガチャリ
 「闘護・・・」
 「失礼します・・・」
 扉が開き、悠人とエスペリアが入ってくる。
 「大丈夫か?」
 悠人は闘護の側によると、心配そうな表情を浮かべながら尋ねた。
 「ああ」
 「本当ですか?大分衰弱されておられましたが・・・」
 エスペリアの心配そうな言葉を、闘護は首を振って遮る。
 「それよりも、聞きたいことがある。座ってくれ」
 闘護は近くの椅子に座るよう、二人に勧める。
 二人は素直に椅子に座ると、闘護を見た。
 「それで、俺たちを何か用があるのか?」
 「ああ」
 闘護は二人の顔をのぞき込んだ。
 「イースペリアの出来事について、だ」


─聖ヨト歴331年 レユエの月 赤 二つの日 昼
 イースペリアがあった場所


 「・・・」
 目の前に広がる更地に、闘護は絶句した。
 「これが“マナ消失”の結果なんだ・・・」
 悠人は苦い表情で呟いた。
 「何もかもが・・・消えた・・・のか?」
 「・・・ああ」
 「・・・」
 闘護はフラフラと歩き出した。
 「お、おい・・・」
 慌てて悠人は闘護の後を追う。
 「・・・悠人」
 「な、何だ?」
 「俺はどこにいたんだ?」
 闘護は周囲を見回した。
 「・・・あそこだ」
 悠人は更地の中で一番くぼんだ箇所を指さした。
 「あそこ・・・」
 「多分、エーテル変換施設があった所だ」
 「・・・」
 闘護はくぼみを凝視する。
 「闘護・・・」
 「・・・なぁ、悠人」
 「何だ・・・?」
 「悪いけど・・・一人にしてくれないか?」
 「・・・わかった」
 悠人はその場を静かに立ち去る。
 そして、闘護が一人残った。
 「・・・」
 ガクッ・・・
 闘護は地面に膝をついた。
 「・・・何だよ」
 地面の砂を握りしめる。
 「何だったんだよ・・・俺は何をしたんだよ・・・」
 握りしめた拳を広げた。
 砂は風に舞って飛んでいく。
 「俺は・・・何のために戦ったんだ・・・?」
 ゆっくりと周囲を見回す。
 『何もない・・・全て消えた・・・』
 広げた手が震え出す。
 『“マナ消失”・・・引き起こしたのは・・・』
 「クソ・・・野郎・・・!!」
 闘護は歯ぎしりをする。
 「ぅ・・・うおぉおおおおおおおお!!!」
 凄まじい慟哭を上げた。
 『許さん!!クソ野郎・・・絶対に・・・俺は、お前を許さない!!』
 その瞳には涙が浮かんでいた。
 『お前の命を、失われた命に捧げ・・・』
 「ぁ・・・」
 その時、闘護は目を見開いた。
 『捧げて・・・どうなるんだ?』
 ゆっくりと地面に視線を落とす。
 『クソ野郎を殺して・・・死んだ命は復活する・・・のか?』
 ゴクリと唾を飲み込む。
 『アイツを殺したところで・・・い、いや!!』
 ブルブルと首を振った。
 『迷うな!!アイツを許すな!!』
 拳を握りしめた。
 「クソ野郎を・・・殺すんだ!!」


─聖ヨト歴331年 レユエの月 緑 一つの日 昼
 謁見の間

 「ストレンジャーが帰還しました」
 「・・・何だと?」
 兵士の報告に、王は目を丸くした。
 「馬鹿なことを言うな。ストレンジャーが帰還するわけが無かろう」
 「は・・・?」
 「ストレンジャーは死んだのだ。下らぬ冗談を言うな」
 王は兵士の言葉を真っ向から否定する。
 「で、ですが現に・・・」
 「ストレンジャーは死んだのだ。生きているはずがない」
 「何故そう言いきれるのですか?」
 レスティーナが尋ねた。
 「・・・」
 王は鬱陶しげにレスティーナから視線をそらす。
 「あの・・・」
 報告をした兵士が続ける。
 「何だ?冗談をこれ以上続けるなら・・・」
 「ストレンジャーが報告をするとこちらへ向かっています」
 「・・・」
 兵士の言葉に、王は絶句した。
 「父様?」
 「・・・ありえん・・・ありえん」
 ラキオス王は譫言のように呟いた。
 「“マナ消失”から生きて帰るはずが・・・」
 「あるんだよ」
 「!!!」
 王の言葉を遮るように、謁見の間に声が響いた。
 「トーゴ・・・」
 レスティーナが謁見の間の扉の方を見た。
 そこには、闘護と悠人、そして他のスピリット達が全員いた。
 「・・・」
 闘護は無表情のまま、無言で謁見の間に入ってきた。
 「と、止まれ!!」
 当然、衛兵が闘護を制止しようと闘護の前に出てくる。
 そして、槍を闘護の前に突き出した。
 「陛下の御前だ!!控えろ!!」
 「・・・退け」
 ギンッ!!
 闘護は重い声で呟くと、凄まじい殺気を帯びた視線を衛兵に向けた。
 「ヒ、ヒィッ!!!」
 衛兵は恐怖して、槍を引っ込める。
 闘護は再び歩き出し、いつも悠人達が控える場所で立ち止まった。
 「・・・」
 王は真っ青な顔で闘護を凝視している。
 「さて・・・」
 闘護はゆっくりと口を開く。
 「何か、言い残すことはあるか?」
 「・・・何故だ?」
 王は震える口調で呟く。
 「何故、生きている・・・何故だ?」
 「・・・それが最後の言葉か」
 闘護は一歩、前に出た。
 「ヒィッ!!」
 王は悲鳴を上げる。
 「ま、待ちなさい、トーゴ!!」
 その時、レスティーナが慌てて叫ぶ。
 「・・・」
 闘護は無言でレスティーナに視線を向けた。
 「一体何があったのですか!?」
 「・・・やはり、君も知らなかったか」
 レスティーナの言葉に、闘護は小さくため息をついた。
 「やはり?」
 「そこのクソ野郎はな・・・」
 闘護は王を睨んだ。
 「ッ!!!」
 「“マナ消失”を起こし、俺をそれに巻き込ませた」
 【!!】
 闘護の言葉に、レスティーナだけでなく、謁見の間にいた文官、武官全員が言葉を失った。
 「そこまでされたら、こっちも黙ってられない」
 闘護はそう言って更に一歩前に出た。
 「そこのクソ野郎を殺す」
 「ヒッ!!ま、待て!!」
 闘護の言葉に、王は慌てて手を振る。
 「わ、儂に手を出したら、人質が・・・っ!!!!」
 言い掛けた王は、闘護の凄まじい殺気を含んだ視線に言葉を失った。
 「どうやら、楽に死にたくはないようだな・・・ズタズタに引き裂いてやろうか」
 闘護はまた一歩、前に出る。
 「お、おい、闘護!!」
 悠人が慌てて闘護の肩を掴む。
 「何をするつもりなんだ!!」
 「そこの椅子にふんぞり返ってるクソ野郎を殺す」
 闘護は王を睨んだまま答える。
 「え、エトランジェ!!その男を殺せ!!」
 王は震える口調で叫んだ。
 「な、何だと!?」
 王の命令に、悠人は目を丸くした。
 「スピリット達もだ!!早く殺せ!!」
 【・・・】
 スピリット達も、唖然とする。
 「・・・ユート、スピリット達よ」
 レスティーナが落ち着いた声で言った。
 「トーゴを押さえなさい。トーゴに、父様を殺させるわけにはいきません」
 「な、何を甘いことを!!殺せ!!その男を殺せ!!」
 レスティーナの言葉に、王は血相を変える。
 「おい」
 「ヒィッ!!!」
 闘護が重い口調で言う。
 「お前、喋るな。これ以上戯れ言をのたまうなら、五体バラバラにして、首を晒すぞ」
 バシッ
 闘護は悠人の手を叩き落とす。
 そして、再び闘護は歩き出す。
 「ユート!!」
 「!!」
 レスティーナの叫びに、悠人はハッとする。
 「闘護!!」
 ガシィッ!!
 悠人は闘護の身体を羽交い締めする。
 「・・・」
 羽交い締めにされた闘護は無表情のまま、ゆっくりと後ろ─悠人の方を振り向いた。
 「闘護・・・」
 「放せよ」
 闘護は酷く冷めた口調で言った。
 「・・・」
 悠人は緊張した顔で首を横に振った。
 「放せってんだ・・・よ!!」
 ブン!
 「う、うわっ!?」
 闘護は強引に身体を左右に振り、悠人を振り払おうとする。
 「み、みんな!!て、手伝ってくれ!!」
 【は、はい!!】
 悠人の言葉に、スピリット達は我に返って闘護を取り押さえようとする。
 ガシッ!!ガシッ!!!
 「ぐっ!?」
 左足にヘリオンとニムントールが飛びつく。
 ガシッ!!ガシィッ!!ガシッ!!
 「うっ!?」
 右足にオルファリルとネリーとシアーが飛びつく。
 ガシッ!!ガシッ!!
 「っ!?」
 左腕にハリオンとファーレーンが飛びつく。
 ガシッ!!ガシッ!!ガシィ!!
 「がっ!!」
 右腕にアセリアとエスペリアとナナルゥが飛びつく。
 闘護は立ったまま、あっという間に取り押さえられた。
 「くっ・・・放せよっ・・・」
 「落ち着け、闘護!!」
 悠人が叫ぶ。
 「落ち着け・・・だと?」
 悠人の言葉に、闘護の表情が一気に憤怒のものに変わる。
 「ふざけるな!!!」
 ギシシィ!!!
 闘護は体中に凄まじい力を込めた。
 【!!?】
 「あのクソ野郎が何をやったかわかってるのか!?」
 闘護は絶叫する。
 「“マナ消失”!!それがどんなものかわかるか!?」
 闘護は王を睨んだ。
 「ヒィッ!!!」
 「あれは未曾有の大災害だ!!敵も味方も関係ない!!何もかも消えた!!」
 闘護は凄まじい表情で叫ぶ。
 ズル・・ズル・・ズル・・・
 取り付いた悠人達を引きずりながら、闘護はゆっくりと、しかし確実に前進する。
 「くっ・・・なんて、力だ・・・!!」
 悠人が汗だくの顔で叫ぶ。
 【トーゴ様!!】
 ガシガシッ!!
 「ぐっ!!」
 前からセリアとヒミカが闘護を押さえつける。
 「セリア・・ヒミカ・・・!!」
 「落ち着いて下さい!!」
 ヒミカが叫ぶ。
 「落ち着いてられるか!!アイツはとんでもないことをしでかしたんだぞ!!」
 「くっ・・・みんな、頑張って!!!」
 セリアが必死の表情で叫ぶ。
 「俺はな!!イースペリアの人間やスピリットを助ける為に戦い続けたんだ!!」
 闘護は続ける。
 「それを・・・“マナ消失”が全て無にした!!イースペリアがどうなったか知ってるのか!?」
 いつの間にか、闘護の瞳に涙が浮かんでいた。
 「何もかもが消えた!!みんな死んだ!!全部お前のせいだ!!」
 闘護は凄まじい形相で王を睨む。
 「・・・」
 王は、闘護の殺気に完全に恐怖して放心していた。
 「サルドバルトに宣戦布告だと!?ふざけるな!!!そんなことをする前にすることがあるだろうが!!!」
 放心している王に向かって叫ぶ。
 「イースペリアで犠牲になった命に謝れ!!お前の下らない野望の犠牲になった人たちに謝罪しろ!!」
 ズルッ・・・
 「な、なんて馬鹿力だ・・・」
 悠人とスピリット達に体中を押さえられながらも、闘護は前に進み出す。
 「みんな、放してくれ!!あの野郎が死なないと、犠牲になった命が浮かばれない!!」
 闘護が絶叫する。
 「だ、駄目です!!」
 ヘリオンが必死で叫んだ。
 「そうだよ!!駄目だよ、トーゴ様!!」
 「駄目だよ・・」
 ネリーとシアーも必死になって闘護を制止しようとする。
 「そだよ。駄目だよ、トーゴ!!」
 オルファリルも小さい体で掴んだ足を押さえようとする。
 「殺すなんて、駄目ですぅ〜」
 ハリオンが、彼女にしては少し焦りを含んだ口調で言う。
 「駄目なもんか!!放せ!!放すんだ!!」
 闘護は強引に前に進もうとする。
 「あのクソ野郎をぶち殺してやる!!」
 「闘護!!」
 悠人が叫んだ。
 「アイツを殺してどうなる!!」
 「なんだと!?」
 「アイツを殺したって、死んだ人たちは生き返らないんだぞ!!」
 悠人は闘護を羽交い締め─いや、闘護にしがみつきながら叫ぶ。
 「!?」
 悠人の叫びに、闘護の動きが止まる。
 「お前の手をあんな奴の血で汚す必要なんか無いだろ!!」
 「ユート様・・・」
エスペリアが憂いの口調で呟く。
 「落ち着くんだ、闘護。落ち着け」
 悠人が諭すように言った。
 「・・・」
 ガクッ・・
 闘護の身体から力が抜ける。
 【あっ!?】
 闘護は半ば全員に支えられるような状態になった。
 「・・・ちく・・・しょう」
 闘護が力無く呟く。
 悠人達が解放すると、闘護は両膝を着いて頭を垂れた。
 「闘護・・・」
 「・・・わかってたさ」
 闘護は力無く呟く。
 「クソ野郎を殺しても、誰も生き返らない・・・無駄だって事ぐらい」
 闘護は小さく首を振った。
 「わかってた・・・」
 「闘護・・・」
 「・・・」
 闘護はゆっくりと立ち上がった。
 「・・・おい」
 闘護は頭を上げて王を見た。
 「!!な、何だ!!」
 闘護に呼ばれ、王はビクリと身を竦めた。
 「二度と・・・」
 そこで一度、ハァと息をつく。
 「二度と俺の命を狙うな」
 闘護の言葉に、王は息を呑む。
 「な、んだと!?」
 「二度と俺の命を狙うな。二度と俺を殺そうとするな」
 闘護は冷静な口調で続ける。
 「次に俺の命を狙ったら・・・」
 ギンッ!!
 闘護は凄まじい殺気を突然発し、王を睨み付ける。
 「!!!」
 「殺す・・・必ず、な」
 そう言って、闘護は王に背を向けた。
 「・・・あ」
 闘護が出て行って、漸く悠人は我に返った。
 「ま、待てよ、闘護!!」
 【ト、トーゴ様!!】
 悠人とスピリット達は慌てて闘護の後を追った。


 闘護が去り、悠人達が闘護を追いかけて謁見の間から出て行き・・・
 謁見の間から、スピリットとエトランジェ、そしてストレンジャーがいなくなった。

 「・・・おのれぇ」
 王は心の底から吐き出すように呟く。
 「このわしに生意気な口を・・・許せん・・・許せん!!!」
 その顔には憤怒の表情が浮かんでいる。
 あまりの形相に、その場にいた全員が恐怖を感じた。
 「必ず・・・必ず、復讐してやるぞ・・・」
 震える声で呟く。
 『何故・・・何故、それほどまでにトーゴを目の敵にするのですか?』
 レスティーナは沈痛な面持ちで王を見ていた。
 『彼が、命を狙われながらもラキオスのために働いていることは、この場にいる全員がわかっていること・・・今では、彼に同情を寄せる者もいるというのに・・・』


─同日、昼
 第二詰め所前

 「・・・」
 【・・・】
 黙って歩き続ける闘護の後ろを、悠人達がついて行く。
 闘護の背中から出てくる静かなオーラに、誰も声を掛けられない。
 「・・・」
 第二詰め所の前まで来て、闘護はピタリと止まった。
 【・・・】
 「・・・すまなかった」
 闘護は振り返らずに呟いた。
 「頭に血が上ってどうにも止まらなかった・・・すまん」
 「トーゴ様が謝る必要はありません・・・!!」
 エスペリアが喉の奥から声を絞り出すように呟く。
 「トーゴ様は悪くありません・・・悪いのは・・・私です」
 「・・・」
 「“マナ消失”を引き起こしたのは・・・」
 「命令したのはクソ野郎だ」
 エスペリアの言葉を遮るように闘護は吐き捨てた。
 「自分を責める時間があったら、反省して次を考えろ」
 闘護は振り返る。
 その表情には鋭さと悲しさがあった。
 「命令に従うことが正しいとは限らない・・・スピリットは人形ではない」
 「・・・」
 「少し、休む」
 闘護はそう言い残して詰め所の中に消えた。


─同日、夜
 闘護の部屋

 「・・・」
 闘護は床に胡座をかいて座っていた。
 『・・・誰も救えなかった』
 心の中で呟く。
 『俺は・・・スピリットの攻撃に耐えられる俺なら、イースペリアを助けることだって不可能じゃない・・・そう過信してたのか』
 天井を見上げた。
 『誰でも助けることが出来る。それは烏滸がましい考え・・・そんなことは解っていた』
 唇をかむ。
 『だが、それでも・・・少しでも助けることは出来た・・・助けてきた・・・』
 目を閉じる。
 『イースペリアのスピリットへの加勢・・・逃げ遅れた住民の救助・・・』
 ゆっくりと頭を下げる。
 『だが・・・それも、“マナ消失”の前には何の意味もなかった・・・』
 拳を握りしめる。
 『結局・・・俺は無駄なことをしていたのか・・・?』
 自問する。
 『クソ野郎の掌の上で踊っていたに過ぎないのか・・・?』
 小さく震え出す。
 『俺は・・・無力なのか・・・?』
 「畜生・・・」
 コンコン
 その時、ノックがした。
 「誰だ・・・?」
 「俺だ・・・悠人だ。入って良いか?」
 「・・・いいよ」
 闘護の返答があって、悠人が部屋に入ってきた。
 「・・・また、床に座ってるのか?」
 「ああ・・・」
 悠人は闘護の側にあった椅子に座った。
 「闘護・・・」
 「何だ?」
 「その・・・謁見の間では・・・」
 「君は正しい事をした」
 悠人の言葉を遮るように闘護は言った。
 「あのとき、俺は頭に血が上っていた・・・感謝してる」
 「・・・」
 「用件はそれだけか?」
 「いや・・・」
 悠人は気を取り直すように首を振った。
 「俺だってさ。ラキオス王は許せないよ」
 悠人は闘護を見た。
 「今、考えると・・・俺がお前を止める理由なんてなかったんじゃないのかなって思って・・・」
 「そんなことはない」
 「そうか・・・?」
 「あの時言っただろ。クソ野郎を殺したって死んでいったイースペリアの人々やスピリットは戻ってこない」
 「・・・」
 「止めて正解だったんだよ」
 闘護は小さく苦笑した。
 「だから、自分の行動に自信を持てよ」
 「・・・」
 「納得したか?だったら、一人にしてくれないか?」
 闘護はそう言って俯いた。
 「お前・・・自分を責めてないか?」
 悠人の言葉に、闘護は顔を上げた。
 「・・・何で、そんなことを聞くんだ?」
 「いや・・・お前って、結構自分を責めるだろ」
 悠人は心配そうに言った。
 「その・・・だから、もしかしたらと思って・・・」
 「俺を励ましに来たのか?」
 闘護は苦笑する。
 「いや・・・その・・・」
 「てっきり、俺に励まされに来たのかと思ったよ」
 「あ・・・」
 『そう言えば・・』
 悠人は恥ずかしそうに頬を掻いた。
 「・・・俺のことを心配してくれて、ありがとう」
 闘護はゆっくりと頭を下げた。
 「と、闘護・・・」
 「確かに・・・俺は自分を責めてた」
 闘護はフゥを息をついた。
 「イースペリアで出来るだけのことはした・・・したつもりだ。だけど、結局誰も助けられなかった・・・」
 「・・・」
 「俺は・・・何をしてきたんだろう?」
 「・・・それは俺だって同じだ」
 悠人が呟いた。
 「俺だって・・・ラキオス王の命令に従って・・・イースペリアを救えなかったんだ」
 「・・・」
 「俺もお前と同じだよ。イースペリアを助けるどころか、イースペリアを・・・何をしてきたんだろうって思った・・・」
 「・・・」
 「だけど、俺は・・・」
 悠人は拳を握りしめた。
 「佳織のためにも立ち止まるわけにはいかないんだ」
 「悠人・・・」
 闘護は悠人を見上げた。
 「だから、今は振り返らない・・・前だけを見続けるつもりだ」
 「・・・」
 「お前はどうする?」
 「えっ・・・?」
 「正直、もう戦うのがイヤなら止めてもいいと思う」
 悠人はそう言って苦笑した。
 「お前は俺と佳織の為に残ってるだろ?だけど、もうお前がいなくても大丈夫だからさ・・・」
 「・・・」
 「それに、これ以上ここにいると・・・殺されるかもしれない」
 悠人は深刻な表情で呟いた。
 「だから・・・」
 「もう手遅れだ」
 闘護は首を振った。
 「闘護・・・?」
 「何度か殺されかけたよ」
 そう言って、闘護は笑った。
 「お、おい・・・ホントかよ!?」
 悠人は目を丸くした。
 「全部回避できたけどね」
 「・・・何で、そのことを言わなかったんだ!?」
 「事情があったんだよ・・・」
 闘護は小さくため息をついた。
 「事情・・・?」
 「・・・ああ。詳しくは言えないけどね」
 「・・・教えてはくれないか?」
 「すまない」
 「いいよ、別に。だけど、それならやはり出て行った方が・・・」
 「・・・いや」
 闘護は首を振った。
 「今の言葉で決心がついたよ」
 闘護は小さく笑った。
 「残る・・・」


─同日、夜
 第二詰め所、食堂

 ガチャン
 「あ、ユート様」
 ネリーが立ち上がった。
 「あれ?みんな揃ってたのか?」
 悠人は目を丸くする。
 食堂には第二詰め所のスピリットが全員集まっていた。
 「あの・・・トーゴ様は?」
 ヘリオンが恐る恐る尋ねた。
 「ああ・・・」
 悠人は小さく笑った。
 「大丈夫だよ」
 「大丈夫・・・ですか?」
 「闘護は強い・・・残るってさ」
 悠人の言葉に、スピリット達は安堵の表情になる。
 「そうですか・・・」
 セリアがハァと息をついた。
 「・・・」
 スピリット達の様子に安心しながら、悠人はさっきの会話を思い出す。


 『俺は・・・残る』
 『闘護・・・いいのか?』
 『確かに、俺はエトランジェの制約がないから逃げることは出来るだろう・・・だけど、君と佳織ちゃんを残して逃げるほど落ちぶれちゃいない』
 闘護は小さく笑った。
 『それに・・・』
 『それに?』
 『俺には仲間がいる・・・みんなを放って逃げられない』
 闘護はゆっくりと立ち上がった。
 『闘護・・・』
 『そして、俺は俺の命を狙うヤツ・・・クソ野郎を野放しに出来ない』
 闘護は肩を竦めた。
 『・・・』
 『だから、俺は残るよ。残ってクソ野郎の動きを監視したり、邪魔したりする』
 『闘護・・・』
 『二度と・・・イースペリアのような真似はさせない』
 『・・・そうだな』


 『闘護は俺や佳織だけじゃない・・・彼女たちのことも考えていた』
 悠人は安心して笑い合っているスピリット達を見た。
 『俺はどうなんだ?確かに、佳織を助け出せれば逃げられる・・・だけど、そうしたら、エスペリア達はどうなるんだ・・・?』
 悠人は考える。
 『俺は・・・』


─同日、夜
 謁見の間

 「・・・わかりました」
 「頼んだぞ」
 「はっ」
 兵士は敬礼して謁見の間から出て行った。
 一人、残った王は歪んだ笑みを浮かべた。
 「何がストレンジャーだ・・・儂を怒らせたことを後悔させてやる」

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