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─聖ヨト歴331年 エハの月 黒 五つの日 朝
 第一詰め所、食堂

 第一詰め所の食堂に、悠人、闘護、エスペリアが集まった。

 「ユート様、トーゴ様。龍の魂同盟はダーツィ大公国に対して、正式に宣戦を布告しました。以後、ダーツィ大公国との戦争状態に入ります」
 「漸くか・・・」
 闘護は呆れたように呟いた。
 「サモドアより南下し、ダーツィ首都キロノキロを目指します。まずケムセラウトへ向かって進軍しましょう。そこでは、帝国から亡命した技術者が、保護を求めているそうです」
 「何でラキオスなんだ?ダーツィに亡命すればいいんじゃないのか?」
 悠人が尋ねた。
 「おいおい、忘れたのか?」
 闘護が呆れた表情で悠人を見る。
 「ダーツィ大公国は、帝国と同盟を結んでいる。あそこは帝国と同じだ」
 「あ、そうか」
 「ケムセラウトを占拠するためには、ヒエムナからの侵攻してくる敵に警戒する必要があります。サモドアの防衛力を利用しつつ防衛。ケムセラウトへ向かった部隊が挟撃されないように、中間地点に、部隊を配置するのもよいかと思われます」
 「成る程」
 エスペリアの提案に、悠人は頷く。
 「ヒエムナを守るスピリットは、非常に強力なスピリットという情報が入ってます」
 「非常に強力、ね」
 闘護は肩を竦めた。
 「とにかく、やるしかないんだ」
 悠人が決意の口調で言った。
 「ダーツィ大公国を制圧すれば、我がラキオスは、ダスカトロン大砂漠の入り口。帝国、マロリガン共和国へと繋がる道を手に入れたことになります。攻めるにも守るにも、重要な拠点となるでしょう」
 エスペリアが言った。
 「南下する為には、是が非でも落とさなければならない国って訳だ。なぁ、悠人」
 闘護は肩を竦める。
 「・・・」
 悠人は苦い表情で沈黙していた。
 「悠人?」
 「・・・戦いはいつまで続くんだ?」
 悠人の呟きに、闘護は首を振った。
 「クソ王が満足するまでだ」
 「・・・それまで、俺たちは戦い続けなければならないのか・・・?」
 「少なくとも、佳織ちゃんが解放されるまではな」
 「俺は・・・」
 「ユート様」
 エスペリアは悠人の手を握った。
 「今は、戦うことだけを考えて下さい」
 「エスペリア・・・」
 「カオリ様のためにも」
 「・・・」
 『そうだ・・・佳織のためにも、俺は戦い続けないとダメなんだ』
 悠人は小さく頷く。
 「ああ。わかってる」
 「ユート様・・・」
 エスペリアは安心したように微笑んだ。
 「・・・」
 『それでいいのか・・・戦いを肯定してもいいんだろうか?』
 そんな二人を、闘護は難しい表情で見ていた。


─同日、朝
 第二詰め所、食堂

 「と、いうわけで・・・これからダーツィ大公国と本格的な戦争状態にはいることになった」
 食堂に集まったメンバーを見て、闘護は言った。
 「どこへ向かうのですか?」
 ヒミカが尋ねた。
 「まず、ケムセラウトに向かう。そこで帝国の技術者を保護することが第一任務だ」
 闘護はファーレーンとニムントールを見た。
 「さて・・・ファーレーン、ニムントール」
 「はい」
 「なに?」
 「君たちには、ラセリオで待機しておいて欲しい」
 「えっ!?」
 闘護の命令に、ファーレーンが目を丸くする。
 「どうして?」
 ニムントールが尋ねた。
 「龍の魂同盟が宣戦布告したんだが、この戦いにイースペリアとサルドバルトは手を出そうとしない」
 闘護はテーブルの上に広げた地図を見た。
 「同盟国だから問題ないと思うんだが・・・ちょっと、気になるんだ。ラキオスではなく、同盟として宣戦布告したのに、戦争に参加しない態度が、な」
 「なにか思惑がある、と疑ってるのですか?」
 セリアの言葉に、闘護は肩を竦める。
 「一応な」
 「ならば、ラセリオだけでなくラースにも配置しておくべきでは?」
 「確かにセリアの言う通りなんだけどね・・・生憎、俺たちに戦力を割く余裕はあまりないんだ」
 闘護はため息をつく。
 「せいぜい二人が限界だ。そうなると、一人一人に分けるよりは一カ所にまとまった方が良いだろ」
 「では、ラセリオに決めた理由は・・・」
 「本隊がいるダーツィ領に近いからだ。それに万が一、ラキオスが攻められたとしても、ラセリオならばラースよりもラキオスに近いから、ラースからラキオスに攻め込まれる前にラキオスに戻れるだろ」
 「成る程・・・」
 セリアは納得したように頷く。
 「いいかい、二人とも?」
 闘護はファーレーンとニムントールを見た。
 「わかりました」
 「うん・・・」
 「よし。それじゃあ、仕度をしてくれ」
 【はいっ!!】


 その日の昼、ラキオス王国スピリット隊はラキオスを出発、ダーツィ大公国へ向かって進軍を開始した。
 一方、ファーレーンとニムントールは闘護の命令に従いラセリオへと向かった。


─聖ヨト歴331年 チーニの月 青 三つの日 昼
 ヒエムナ郊外

 ケムセラウトとヒエムナとの分かれ道で、闘護達と別れた悠人、アセリア、エスペリア、オルファリルの四人はヒエムナに向かった。
 ケムセラウトを攻める際に、挟撃されないためにヒエムナを先に落とすことになった。その上で、少数精鋭で一気に攻め落とす方法を選択したのだ。
 そして、ヒエムナ郊外ではダーツィ大公国のスピリットと悠人達が激しい戦闘を繰り広げていた。

 「ふぁいあぼーる!!」
 オルファリルの詠唱が終わると、炎の球が発射される。
 「アイスバニッシャー!!」
 バシュゥ!!
 しかし、敵は炎の球を神剣魔法で消滅させる。
 「ふっ・・・!!」
 アセリアが【存在】を振り上げて飛び込む。
 「ハッ!!」
 ガキーン!!
 一番前にいたブラックスピリットは、アセリアの攻撃を受け止める。
 「いやぁああ!!」
 エスペリアが間髪入れずにブラックスピリットに飛びかかる。
 「ヤァッ!!」
 ガキーン!!
 別のスピリット─グリーンスピリットが飛び出し、エスペリアの攻撃を受け止める。
 すると、今度はオルファリルの魔法を封じたブルースピリットがオルファリルに向かって飛び出す。
 「させるか!!」
 悠人がオルファリルを庇うように立つ。
 「タァッ!!」
 ガキン!!
 「くっ・・・」
 悠人は敵の攻撃を受けとみながら歯を食いしばる。
 『なんてコンビネーションだ。こっちの魔法を封じつつ、相手の攻撃を受けて、その上で攻撃を繰り出す・・・』
 ギシッ・・・
 「!!」
 ブルースピリットは、更に力を込めた。
 「パパァッ!!お姉ちゃん!!」
 離れたところにいるオルファリルが叫んだ。
 『しかも、密集してるから神剣魔法を使うのも無理か・・・だったら!!』
 「だぁっ!!」
 「!!」
 ガシーン!!
 悠人は無理矢理相手の剣を弾いた。
 すると、ブルースピリットの体勢が崩れた。
 「たぁあああああ!!!」
 悠人はそのまま一気に剣を振り下ろす。
 ザシュゥッ!!
 「ァアアア!!!」
 断末魔の悲鳴を残し、袈裟懸けに斬られたブルースピリットはマナの霧と化す。
 「うぉおお!!」
 更に悠人は、鍔迫り合いになっているアセリアの所へ飛び込む。
 「ッ!?」
 突然現れた悠人に、ブラックスピリットの動きが止まる。
 「・・・ん!!」
 その隙に、アセリアは【存在】を半回転させた。
 ガキン!!
 「!?」
 【存在】に巻き込まれるように、相手の神剣が弾かれる。
 「てやぁあああ!!!」
 そして、アセリアはそのまま半回転によって下を向いた【存在】を振り上げた。
 ズバッ!!
 「ァアッ!!」
 逆袈裟懸けに斬られたブラックスピリットは、マナの霧になって消滅する。
 「!!」
 その時、エスペリアと戦っていたグリーンスピリットの顔に動揺が走る。
 「たぁっ!!」
 ガキンッ!!
 「!?」
 その機を逃さず、エスペリアの【献身】が相手の神剣を弾く。
 「いやぁあああああ!!」
 体勢の崩れたグリーンスピリットに目掛けて、【献身】を振り下ろす。
 ザンッ!!
 「ァ!!」
 真っ二つにされたグリーンスピリットは、そのままマナの霧となった。
 「終わった・・・か」
 悠人は、力を抜いて呟いた。
 「ふぅ・・・」
 「はぁはぁ・・・」
 アセリアとエスペリアは少し荒めの息をつく。
 「パパ!!お姉ちゃん!!」
 オルファリルが駆け寄ってきた。
 「大丈夫!?」
 「ああ」
 悠人は笑って答えた。
 「ん・・・」
 「ええ、大丈夫よ」
 アセリアとエスペリアもそれぞれ答える。
 「よかったぁ・・・」
 オルファリルは心底安心したように言った。
 「さぁ、これでヒエムナを守っていたスピリットは全滅した。後はケムセラウトだ!」
 パン!!
 悠人は気合いを入れ直すように、自分の頬を張った。


 ヒエムナの守備隊を殲滅した悠人達は、ラキオス正規軍にヒエムナを任せ、闘護達が戦っているケムセラウトへ向かった。


─聖ヨト歴331年 チーニの月 青 五つの日 夕方
 ケムセラウト郊外

 「闘護!!」
 悠人は、兵士達と打ち合わせをしていた闘護を見つけた。
 「ん?おう、悠人」
 闘護は悠人の方に小さく手を振ると、兵士に持っていた書類を渡して悠人の所に駆け寄った。
 「ヒエムナは落としたみたいだな」
 「ああ。そっちは?」
 「今日の昼過ぎ、敵が降伏して終了だよ」
 闘護は肩を竦めた。
 「もう落としたのか・・・早いな」
 「戦力が充実していたからな。多分、そっちよりも楽だったかもしれない」
 「みんな大丈夫か?」
 悠人が心配そうな表情で尋ねる。
 「当然だろ」
 闘護はニヤリと笑った。
 「まぁ、ヒミカとネリーが怪我をしたが、ハリオンが治療した。そっちは?」
 「こっちも大丈夫だ」
 「そうか」
 「それで、例の技術者は・・・?」
 「問題ない。護衛と一緒に保護したよ」
 「護衛?」
 「訓練士だそうだ。多分、今後はラキオスの訓練士として働いてくれるだろう」
 「ふーん・・・」
 「お前も急いできたんだろ?少し休め」
 「いいのか?」
 「どうせ、こっちも事後処理は大体終わったよ」
 闘護は肩を竦めた。
 「次の指令も届いている。とりあえず、夕食終わってからにしよう」
 「わかった」
 闘護の言葉に悠人は頷いた。


─同日、夜
 ケムセラウト郊外

 悠人のテントには、闘護、エスペリアが集まった。

 「ヒエムナとケムセラウト。ダーツィ大公国の、重要な拠点を二つ制圧しました。作戦は成功です」
 エスペリアの言葉に、悠人と闘護は頷いた。
 「とはいえ、まだ残存戦力は侮れません。気を引き締めましょう」
 「だろうな」
 闘護は肩を竦めた。
 「これからどうするんだ?」
 悠人が尋ねた。
 「ヒエムナを経由してキロノキロへ進軍します」
 エスペリアの言葉に、闘護はテーブルの上に広げた地図に視線を落とす。
 「帝国がダーツィに救援を送る可能性は?」
 「無いとは言えません・・・ですが、今のところそのような動きはないようです」
 「ふーん・・・ケムセラウトには正規軍だけが残るのか?」
 「はい」
 「じゃあ、スピリット全員でキロノキロに向かえば良いんだな」
 悠人の言葉に、エスペリアが頷く。
 「・・・それと気になる情報が入りました。どうやらサルドバルトに動きがあるようです。気に留めておいて下さいませ」
 「サルドバルトに・・・?」
 闘護は地図に目を走らせた。
 「ラキオスに何か仕掛けてきたのか?」
 悠人の問いに、エスペリアは首を振った。
 「わかりません・・・」
 「・・・さっさと、ダーツィを落としておいた方が良さそうだな」
 闘護が呟く。
 「はい」
 「だったら、明日の朝出発しよう」
 悠人の言葉に二人は頷いた。


─聖ヨト歴331年 チーニの月 赤 三つの日 夜
 キロノキロ=ヒエムナ街道

 「大変です!!」
 テントで休憩していた悠人の元に、エスペリアが血相を変えて飛び込んできた。
 「ど、どうした!?」
 「情報部から緊急連絡が入りました!!」
 エスペリアは手に持っていた書簡を悠人に手渡す。
 悠人はすぐに書簡の中身に目を通す。
 「サルドバルトが、イースペリアへと宣戦を布告したとのことです!!」

 報告を受けた悠人は直ちに闘護を呼ぶ。
 闘護は直ぐに来て、会議が始まった。

 「どうなってる?」
 闘護は首を傾げる。
 「サルドバルトもイースペリアも龍の魂同盟だろ。なのに、どうして戦う?」
 「わかりません・・・」
 エスペリアは首を振る。
 「・・・それで、イースペリアの状況は?」
 「既にサルドバルト兵とイースペリア兵が交戦しているらしく、民衆にかなりの被害が出ています」
 「・・・くそっ」
 闘護は舌打ちする。
 『戦争になれば民衆に被害が出る。それすらわからないのか?』
 闘護の表情に憤りの色が浮かんだ。
 「とにかく、さっさとダーツィを落としてイースペリアに救援に行こう」
 悠人が言った。
 「イースペリアが占拠されたら、ダラム、ミネア経由でラキオス首都も狙われるしな」
 闘護が続ける。
 「はい。ダーツィを急ぎ制圧し、ヒエムナ経由でイースペリアに向かうように指令が下されました」
 そこで、再びエスペリアは浮かない顔をする。
 「特別指令になるとのことです。どんなものなのでしょうか。胸騒ぎが・・・します」
 「特別指令ね・・・」
 闘護はあからさまに不愉快な表情を浮かべた。
 「どうせろくでもないことだろう。今までの経験から考えるとな」


─聖ヨト歴331年 チーニの月 緑 一つの日 昼
 キロノキロ郊外

 「いよいよ、キロノキロの攻略か・・・」
 闘護は遠く眼前に写る城壁を睨んだ。
 「帝国からの救援は結局来なかったな」
 悠人が呟いた。
 「なんでだろう?」
 「わからん・・・」
 闘護は首を振った。
 「ダーツィは帝国に隣接している。ラキオスが帝国を攻める時の通過地点だ。落とされたら厄介なはずだが・・・」
 「何か理由があるのかな・・・?」
 「かも、な」
 闘護は肩を竦めた。
 「とにかく、ダーツィを落とせば帝国からの干渉が発生する可能性は十分にある。気をつけないとな」
 「・・・そうだな」
 悠人は頷いた。
 「ユート様、トーゴ様!!」
 その時、エスペリアが二人の所に駆け込んできた。
 「イースペリア救助のためにも、急ぎ制圧を!行きましょう!」
 エスペリアの言葉に、二人は頷いた。


 その後・・・戦いはラキオスの勝利に終わった。
 バーンライト王国との戦いとは違い、スピリット同士の戦いは街から離れた場所で繰り広げられ、その場で集結した。
 その為、街に被害はほとんど無く、スピリットを失ったダーツィ大公国は早々にラキオス正規軍に占拠された。
 ダーツィ大公はラキオス正規軍に引き渡され、ここにダーツィ大公国は滅び去った。


─同日、夜
 キロノキロ

 「・・・以上で報告を終わります」
 エスペリアは手元の書類から目を離した。
 「ご苦労さん、エスペリア」
 闘護が労いの言葉を掛けた。
 「ダーツィ大公はどうなるんだ?」
 悠人が尋ねた。
 「おそらくは・・・」
 エスペリアは言葉を濁した。
 『処刑されるか・・・敵国のトップなんだから、仕方ないか』
 エスペリアの態度に悠人は心の中で呟いた。
 「しかし、みんな大分消耗したな」
 悠人は難しい表情を浮かべた。
 「ああ。ヒミカとシアーは、傷が癒えるのに3日はかかる。それに、他のメンバーも体力の消耗が著しい」
 闘護が頷いた。
 「イースペリアの救援に行くにしても、暫く休む必要があります」
 「そうか・・・疲労が溜まったままじゃ、満足に戦うことは出来ない・・・仕方ないか」
 悠人は小さいため息をついた。
 「はい」
 「それで、何日ぐらい休むんだ?」
 「二人の傷が治癒するのに3日・・・体力回復を含めて、最低10日は必要でしょう」
 「10日か・・・」
 エスペリアの回答に、悠人は腕を組んで考え込む。
 「次の命令はまだ来ていないよな」
 「はい。特別指令が来るとのことですが・・・伝令は来ていません」
 「だったら、命令が来るまでしっかり休養を取らせよう」
 「はい」
 エスペリアは頷く。
 「・・・」
 しかし、闘護は難しい表情を浮かべた。
 「どうした、闘護?」
 「いや・・・」
 闘護は二人を見た。
 「イースペリアは大丈夫かと思ってな」
 「イースペリアが大丈夫かって・・・随分と、心配するんだな?」
 闘護の言葉に、悠人は目を丸くした。
 「悪いか?」
 「いや・・・何で、そんなにイースペリアに肩入れするのかなと思って・・・」
 「別にイースペリアに肩入れしてる訳じゃない」
 闘護は首を振った。
 「では、何故大丈夫かどうか、心配するのですか?」
 エスペリアも腑に落ちない様子で尋ねた。
 「・・・俺は、イースペリアの住民が戦争に巻き込まれて犠牲になっていないかどうかが心配なだけだ」
 「住民が・・・?」
 「ああ」
 「・・・お前、そんなことを気にしてるのか?」
 悠人の問いに、闘護は頷く。
 「戦争に巻き込まれて理不尽に死んでいく・・・そんなことは認めたくないんでね。もっとも・・・」
 闘護は自嘲の笑みを浮かべた。
 「俺自身が戦えない以上、大きな口を叩く権利はないんだけど」
 「トーゴ様・・・」
 「俺に出来ることは、待つことだけだな・・・」
 闘護はフゥと息をついた。
 「闘護。大丈夫だって」
 悠人は励ますように言った。
 「イースペリアだって大きい国だ。簡単に負けることはないだろ・・・なぁ、エスペリア?」
 「はい。ユート様の言う通りです」
 エスペリアは闘護の手を持った。
 「今は、休むことを考えましょう」
 「・・・確かに。今は守りを固めるのが先決だな」
 闘護は頷いた。


─聖ヨト歴331年 チーニの月 緑 二つの日 昼
 謁見の間

 「父様、ダーツィから兵をイースペリアに向かわせたというのは本当ですか?」
 レスティーナが厳しい表情で詰問する。
 サルドバルトが同盟国であるイースペリアを裏切り、侵略したという報告を受けたレスティーナは、血相を変えて謁見の間へと乗り込んだ。
 「ああ、そうだ。イースペリアにエトランジェ達を向かわせた。龍の盟約通りにな。裏切りは許すわけにはいくまい」
 さも当然という王に反して、レスティーナは狼狽する。
 『ダーツィから兵を引かせるのは理解できる・・・けれど、敵が集結しつつあるイースペリアに向かわせるなど・・・!!』
 「それは・・・、いくら龍の盟約とはいえ、無謀です。サルドバルトの背後には帝国がいるのは明らか。今は守りを固めるとき・・・明らかに戦力不足です。貴重なスピリット達を!!」
 「イースペリアに各国のスピリット共が集結する・・・それに意味があるのだ」
 王の言葉にレスティーナは眉をひそめる。
 「どういう意味ですか・・・イースペリアに何が・・・」
 しばし考えた後、ハッとした表情になり父王を睨み付ける。
 「ま、まさか!?」
 それは実の父に対するものではない。憎しみに近い感情が込められていた。
 「我が国・・・ラキオスこそが、北方を治めるのだ。多少の犠牲など大したことではない」
 「その場にはエトランジェ達もいるのですよ!」
 「【求め】さえ回収できれば良い。エトランジェは、もう一人いるではないか」
 王は歪んだ笑みを浮かべる。
 「スピリットなども補充できる。エトランジェが二人いることこそマナの導きというものだ」
 「人のやることではありません」
 レスティーナは怒りの感情を出来るだけ殺して呟く。
 だが王は、それを気にすることもなく上機嫌に答えた。
 「これで生き残れるものならば、それなりの待遇を用意しようではないか。まさに勇者の再来というものだ。そして・・・」
 王は歪んだ笑みを浮かべる。
 「邪魔者も、これで消えてくれるだろう」
 小さい声で呟いた。


─聖ヨト歴331年 チーニの月 黒 一つの日 朝
 キロノキロ、闘護の部屋

 コンコン
 「ん・・・?」
 部屋で休んでいた闘護は、ノックの音に顔を上げた。
 「誰だ?」
 「セリアです」
 「ああ、どうぞ」
 ドアが開き、セリアが入ってくる。
 「どうした?」
 「トーゴ様に伝令が来ています」
 「俺への命令?」
 「はい」
 セリアは一通の書簡を闘護に渡す。
 闘護は受け取ると早速中身に目を通した。
 「・・・ふーん」
 闘護は訝しげな表情で書簡を見ている。
 「トーゴ様?どうされたのですか?」
 「いや・・・」
 闘護は言葉を濁す。
 コンコン
 そのとき、ドアがノックされた。
 「はい?」
 「トーゴ様、至急ユート様の部屋へいらして下さい」
 ドアの外からヒミカの声が聞こえた。
 「悠人の部屋に?」
 「王都から命令が届いたそうです」
 「ふーん・・・わかった」
 闘護は返事をすると書簡に封をして懐に入れた。


 悠人、闘護、エスペリアの三人は、陥落した城の一室に集まった。

 「何だって・・・?」
 エスペリアの口から聞かされた言葉に、悠人は眉をひそめた。
 「ダーツィを陥落してまだ舌の根も乾かないうちに、今度はイースペリアに向かえ?」
 闘護は呆れた口調で言った。
 「幾らなんでも、急すぎやしないか?」
 「それは・・・」
 エスペリアも同じ感想なのか、言葉を濁す。
 「今は、守りを固めた方がいいと思うがね」
 「しかし、これは王から直接下された命令なのです」
 エスペリアは固い口調で言った。
 「逆らうことは出来ません」
 「・・・」
 悠人は苦い表情を浮かべる。
 「しかし、そうなるとおかしいなぁ」
 闘護は懐から先ほど読んだ書簡を取り出す。
 「ん?なんだよ、それ?」
 悠人は書簡に視線を向けた。
 「クソ王からの命令」
 闘護は悠人に書簡を放り投げた。
 「っとと・・・」
 悠人はあわてて書簡を受け取る。
 「命令?」
 「ああ。見てもいいよ」
 闘護の言葉に頷いて、悠人は書簡の中身を見てみる。
 「・・・何だと?」
 悠人は訝しげな表情を浮かべた。
 「どうしました、ユート様?」
 エスペリアが尋ねた。
 「闘護に、ラキオスへ帰って来いってさ」
 「トーゴ様に・・・?」
 「変な命令だな。何で闘護に帰還命令が出るんだ?」
 悠人の問いに、闘護は肩を竦めた。
 「さあな。どうせ何か企んでるんだろう」
 「企んでるって・・・」
 闘護の言葉に悠人はたじろぐ。
 「ま、逆らっても仕方ないし・・・とりあえず帰ってやるさ」
 「しかし、戦力が辛いな・・・まだ、みんな疲労が回復してないのに」
 悠人は渋い表情でつぶやいた。
 「だったら、ラキオスへ帰る途中でラセリオに寄ってファーレーンとニムントールにこちらへ来るように言っておくよ」
 「頼むよ」
 悠人の言葉に、闘護は頷いた。
 「エスペリア。現在の状況はどうなってるんだ?」
 悠人が尋ねると、エスペリアはコクリと頷いてテーブルの上の地図を見た。
 「ダーツィを攻めている間に、イースペリアはサルドバルトに押され、防衛戦を首都周辺まで下げています」
 エスペリアの言葉に、闘護は眉をひそめた。
 「まずいな・・・イースペリア王都がサルドバルトと離れてないのが裏目に出たか」
 「更に潜伏していた兵士が、ダラムを占拠した模様です。既にスピリットも配置されたようです」
 「ダラムって・・・それじゃあ、ラキオスもヤバイじゃないか」
 悠人は唖然とする。
 「はい。北上されればラキオスも危険にさらされます」
 「どうするんだ?」
 「王国軍と合流し、イースペリアの救助に向かいます。ヒエムナ、ランサを経てダラムを奪還、そのままイースペリアへ進軍します」
 「ま、ここからじゃあ、それ以外に方法はないな」
 闘護はため息をついた。
 「よし。それじゃあすぐに出発しよう」
 悠人の言葉に二人は頷いた。


 その後、闘護は悠人達と別れて、ラキオスへと向かった。
 途中、モジノラ大湿地帯を抜け、ラセリオへ到着する。


─聖ヨト歴331年 アソクの月 青 五つの日 昼
 ラセリオ

 ラセリオの駐屯地についた闘護は、早速ファーレーンとニムントールを呼んだ。

 「ファーレーン、ニムントール。ただいま参りました」
 「・・・何か用?」
 駐屯地のちょうど中心にある広場に、二人が来た。
 「久しぶりだな」
 待っていた闘護は軽く会釈する。
 「早速だが、ダラムに向かってほしい」
 「ダラムに・・・ですか?」
 「ああ」
 闘護は頷く。
 「イースペリアの救援が次の任務なんだが、ダーツィを落として間もないからみんな疲れが残っている。そこで、今回の作戦には君たちに参加してもらう」
 「わかりました。ですが、ラセリオを空けてもいいのですか?」
 ファーレーンが尋ねた。
 「ラセリオはいい。むしろラースの方が心配なんだが・・・今は、イースペリアの救援を優先する」
 「いつ行けばいいの?」
 「今日中に向かってくれ。イースペリアもかなり追い込まれているようだから、急いで欲しいんだ」
 「はい」
 「・・・ふぅ、面倒くさい」
 「こら、ニム!!」
 「ニムントール」
 闘護はニムントールの肩に手を置いた。
 「活躍、期待してるよ」
 「・・・うん。任せて」
 ニムントールは少し頬を赤らめて答えた。


 ファーレーンとニムントールに指令を出し、闘護はそのままラキオスへと向かう。
 一方、二人はラセリオを南下、ミネア経由でダラムへと向かった。


─聖ヨト歴331年 アソクの月 赤 一つの日 昼
 謁見の間

 「スピリット隊副長、神坂闘護。ただいま帰還しました」
 闘護は片膝を床につけて頭を下げた。
 「うむ」
 ラキオス王は重々しく頷く。
 「早速だが、命令する」
 王が合図をすると、側近の一人が書簡を闘護に差し出した。
 闘護は無言で書簡を受け取る。
 「・・・これは?」
 闘護は書簡に視線を向けながら尋ねた。
 「お主への特別指令だ」
 ラキオス王はゆっくりと言った。
 「特別指令?」
 「そうだ」
 ラキオス王はニヤニヤと笑った。
 闘護は書簡を開けると中身を見た。
 『イースペリアの王都、イースペリアに行き、情報収集せよ。同時に、イースペリアの救援を行うこと。ただし、ラキオス軍として表立って行動しないように・・・だと?』
 闘護は目を丸くした。
 『何だ、この命令は・・・情報収集をしつつ、救援活動をしろ、だと?』
 闘護は訝しげにラキオス王を見る。
 「決して失敗してはならぬし、誰にも任務の内容を話してはならぬ」
 ラキオス王は先程と同じようにニヤニヤ笑っていた。
 「・・・」
 『極秘・・・随分と奇妙な任務だ。何を企んでいる・・・?』
 闘護は眉をひそめた。
 「わかったな」
 ラキオス王が念を押すように尋ねた。
 『・・・まあいい。イースペリアなら、悠人たちも来るだろうし』
 そう考え、闘護は頷く。
 「了解した」


─聖ヨト歴331年 アソクの月 赤 四つの日 夜
 ラキオス軍 駐屯地

 悠人のテントには、悠人、エスペリア、セリアの3人が集まって会議を開いていた。

 「今日の戦いでダラムの守備隊はほぼ壊滅しました。明日にはダラムも落ちるでしょう」
 セリアの報告に、エスペリアは頷いた。
 「ダラムを落とせば、後はイースペリアまで一直線です」
 「ああ・・・でも、みんな大丈夫か?」
 悠人は心配そうに二人を見た。
 「・・・疲れは残ってますが、大丈夫です」
 セリアが言い切った。
 「それに、早くしないと私達が到着するよりも先にイースペリアが陥落してしまいます。それだけは、何としても避けなければ・・・」
 エスペリアが厳しい表情で言った。
 「ユート様!」
 その時、テントの外からヒミカの声が聞こえた。
 「どうしたんだ?」
 「ファーレーンとニムントールが到着しました」
 「二人が?解った、通してくれ」
 悠人が答えると、ヒミカに連れられてファーレーンとニムントールが入ってきた。
 二人は悠人の前で横に並んだ。
 「ファーレーン、ニムントール、両名到着しました」
 ファーレーンが報告し、ニムントールと共に一礼する。
 「よく、来たわね。ラセリオからだと、ダラムを経由しないとここまで来れないでしょう?」
 セリアが驚きの口調で言った。
 「面倒くさかったよ・・・」
 ニムントールがボソリと言う。
 「ニム!」
 「だって、モジノラ大湿地帯を抜けるのに2日かかったんだよ」
 「モジノラ大湿地帯を抜けたのですか!?」
 ニムントールの言葉に、エスペリアが目を丸くする。
 「モジノラ大湿地帯って?」
 「ラキオスとイースペリアの国境付近に広がる湿地帯です」
 悠人の問いに、エスペリアが答えた。
 「街道を通らないのであれば、かなり時間がかかるはず・・・頑張ったわね」
 ヒミカが感嘆の口調で褒めた。
 「トーゴが急げって言ってたから・・・」
 「そうか・・・闘護には礼を言わないと」
 ニムントールの言葉に、悠人は感謝の笑みを浮かべた。
 「状況はどうなってるのですか?」
 ファーレーンが尋ねた。
 「明日、ダラムを攻めます」
 エスペリアが答えた。
 「二人とも作戦に参加してくれ」
 「はいっ!!」
 「うん」
 悠人の言葉に、二人は頷いた。


 次の日、悠人達ラキオス軍はダラムを占領、イースペリアに向けて進軍を続けた。
 そして進軍を続け、数日中にイースペリアに到着しようとしていた・・・


─聖ヨト歴331年 アソクの月 黒 一つの日 朝
 ダラム=イースペリア街道

 「エスペリア、特別命令って何だ?」
 歩きながら、悠人は隣を歩くエスペリアに尋ねた。
 「イースペリアのエーテル変換施設を機能不能にせよ、とのことです」
 「機能不能に?」
 「最優先事項です。あらゆる救助活動は行うな、と」
 エスペリアは何処か訝しげな表情で、命令の内容を悠人に告げた。
 「イースペリアの国民、スピリット、王族の保護よりも、イースペリアが保持しているエーテル変換施設を機能不能にせよ、とのことです」
 「なんでそんなことを・・・そんなことよりもイースペリアの人たちを保護するのが需要だろ。救援に行くんじゃないのか?」
 悠人は憤りの表情で言う。
 「ユート様・・・」
 「敵と味方に分けることが正しいとは思えない・・・だけど、イースペリアのスピリット達が死ぬのはおかしい」
 『原因が汚い裏切りによってなら尚更だ。これ以上、死ななくていい命が消えていくのは耐えられない』
 悠人は首を振った。
 「そんな命令は聞けるか!!俺たちは保護を優先・・・」
 「ユート様!これは・・・」
 強い口調でエスペリアは割り込む。
 「これは、王の命令なのです」
 そして悲しみを込めて言った。
 『・・・逆らっちゃいけないんだ。そうしないと、佳織も・・・エスペリア達も・・・』
 「くっ・・・!!」
 悠人は自分の両手は鎖に縛られていることを思い知らされる。
 「・・・ごめん。俺たちは・・・従うしかないんだよな」
 『佳織を助けるためにも、俺は自分の心を殺そうと決めたんだ。いつか慣れる・・・こういう事を繰り返していれば、いつかは』
 「・・・ユート」
 「ん?どうした、アセリア」
 俯いて悠人の袖を引っ張るアセリアは、何故か不思議そうな表情をしていた。
 「・・・どうして、ユートは迷う?戦い・・嫌なのか?」
 アセリアはゆっくりと言った。
 「カオリのため・・・戦う。・・・ユート、そう言っていた」
 アセリアの言葉に、悠人はゴクリと唾を飲み込んだ。
 「・・・」
 『・・・そうだ。迷っちゃいけないんだ』
 悠人は右手を握り込み、目を堅くつむる。
 『心を殺すんだ・・・心を殺すんだ・・・!!』
 「・・・?ユート?」
 「・・・もう大丈夫だ。行こう、みんな!!」
 『大切なものを守るために、犠牲は必要なんだ・・・』
 悠人は、そう自分に強く、強く言い聞かせた。
 だが、その刹那、闘護の言葉が頭の中をよぎる。
 【犠牲は、絶対に少ない方がいいって事を・・・】


─聖ヨト歴331年 アソクの月 黒 三つの日 昼
 イースペリア城、変換施設

 イースペリアに到着した悠人達は、特別指令を遂行するために二手に分かれた。
 悠人、アセリア、エスペリアの三人は変換施設への侵入を、オルファリルとセリア達第二詰め所のスピリットは三人の侵入を助けるために、城の外で陽動をかけていた。


 ボォォオオオ・・・
 「・・・!!」
 悠人達が変換施設に辿り着いた頃には、既に城の一部は炎上し始めていた。
 『急がないと!!』
 イースペリアとサルドバルト兵、そしてオルファリル達が外で交戦してくれているお陰で、悠人達は変換施設へと侵入に成功したのだ。
 『くそっ!!見ないようにとしても、目に飛び込んでくる』
 悠人は唇をかんだ。
 『今は早く任務を終わらせる。そうすれば・・・』
 城外でも、まだイースペリアのスピリット達が交戦を続けている。サルドバルトの方が戦力があるため、このままではイースペリアのスピリットは全滅するだろう。
 現在悠人達が優先すべき事は、イースペリアが崩壊する前にエーテル変換施設を破壊することであった。
 「エスペリア。どうして、わざわざ変換施設を破壊するんだ?」
 「理由は簡単です。敵側に利用されないようにです。すぐ動かせる状態で手に入れられたら、このまま攻め込まれてしまいます。そうなったら、いくらラキオスでも・・・」
 「そうか・・・向こうとしては、なるべく無傷で手に入れたい訳か」
 「ええ。そうすれば短時間でラキオスに対する足がかりが作れますから・・・」
 エスペリアは出来るだけ感情を抑えて言った。
 『侵略しようとする者、侵略を阻止しようとする者・・・戦う者のことなんて考えていない。どちらから見ても所詮、俺たちはチェス盤の駒でしかないのだろう』
 心の中で悠人は毒づく。
 「・・・ユート、こっち」
 アセリアが指さす。
 『既に敵も動いていることを考えると、ここでぐずぐずしていられない!!』
 「脱出のこともある。急いで済ませないと!!」
 「・・・ん」
 悠人の言葉にアセリアは頷く。
 「・・・おかしいです」
 エスペリアは訝しげに辺りを見回す。
 「通常、エーテル変換施設は、最後の防衛戦です。にも関わらず、こんなに手薄などということは・・・」
 「正面にあれだけ敵がなだれ込んでいるんだ。施設なんて、後でもう一度作ればいいって思ってるんじゃないか?」
 『交戦した形跡すらないのだから、ここの守りはないと判断してもいいと思うのだが・・・』
 悠人は言ったが、エスペリアは、納得がいかないという表情で辺りを見回していた。
 「ですが・・・」
 「とにかく、今は急ぐしかないんだ。行こう」
 悠人はそう言って強引に話を終えた。


─同日、昼
 イースペリア城、変換施設中枢

 「・・・ここ・・・」
 アセリアが指さした扉に悠人は手を掛けた。
 ギギィ・・・
 扉を開けた先に、“それ”はあった。
 「なんだ・・・これ・・・!?」
 悠人は唖然とした表情で呟く。

 宙に浮かぶ巨大な水晶みたいな何かの結晶と、それに刺さった永遠神剣が鈍い輝きを放っていた。
 辺りは奇妙な蒼い石に囲まれ、無理矢理取り付けたようにしか見えない不格好な機械が、嫌な稼働音を発している。
 装置全体は普通の家くらいの大きさがあり、そのまま天井に繋がっている。
 この部屋全体が機械のようになっていた。
 未知の物体と、不気味な機械が繋がっているその姿は、とてつもない圧迫感と共に強烈な違和感を持っていた。

 「驚きましたか?これがエーテル変換施設の中心部。永遠神剣・・・全ての変換施設の動力中枢です」
 エスペリアの言葉に、悠人は唖然とした表情で黙る。
 『こんなでかい永遠神剣が存在するのか?それに、俺達の世界にある機械と同じような機械が動いているなんて・・・この世界は何なんだ?この剣は一体・・・』
 この世界にやってきて、悠人は初めて感じる強烈な違和感を持った。
 『あってはならないものを、今見ている。そんな気がする』
 悠人はゴクリと唾を飲み込む。
 「エスペリア・・・早く・・・」
 「そうでした。ごめんなさい、アセリア」
 エスペリアは小さな手帳を取り出すと、しおりを挟んでいた箇所を目で追っていく。
 「でも、こんな大きなものをどうやって破壊するんだ?」
 確認を終えたのか、エスペリアは丁寧に手帳をしまい質問に答えた。
 「マナ吸引装置を破壊させれば、マナの吸収が出来なくなり、全ての機能が停止する・・・筈です」
 僅かにエスペリアは言葉を濁す。
 「ユート様、アセリア。警戒をお願いします」
 「わかったよ。気をつけて」
 「はい、ありがとうございます」
 調整機の所まで梯子を登っていき、操作盤にたどり着いたエスペリアが、何か操作を行っている。
 そして悠人とアセリアは入り口を警戒する。
 『今のところ誰かが来そうな気配はないな・・・』
 悠人は振り向いて、改めて施設を見渡してみる。
 『やっぱり何かおかしい・・・どう考えても、文明のレベルからして違う』
 悠人は眉をひそめた。
 『エスペリアの話通り、エーテル技術はこの世界を根幹から支えて、人々の役に立っている。だが、なんて言うんだろう・・・便利すぎる気がする』
 悠人は警戒しつつ考える。
 『異世界だから。神剣があるから。それだけで説明していいのか?そう思うと、なんだか気持ち悪く見えてくる。闘護だったら、どう考えるだろう・・・?』


─同日、昼
 イースペリア城下町

 悠人達がイースペリアに到着した日・・・
 奇しくも、闘護が到着したのもまた同日だった。
 しかし、闘護は悠人達が攻め入るよりも前に潜入した為、悠人達とは別に行動していた。


 「くっ・・・!!」
 闘護は建物の陰に隠れて、周囲を探る。
 『イースペリアのスピリットは限界か・・・』
 サルドバルトのスピリットは強力で、ここに来るまで、何度と無くイースペリアのスピリットがマナの霧と化す光景を見てきた。
 『何とか、ここまで来れたが・・・』
 闘護は、何度もイースペリアのスピリットを庇い、何度もサルドバルトのスピリットの攻撃を受けた。
 『住民の避難もまだ完了してない・・・マジでヤバいぞ』
 イースペリアの住民は、大部分は逃げ出したものの、戦争による混乱の為に右往左往する者も多数存在し、王都の中で立ち往生している。
 そのような住民達に、闘護は逃げ道を指示したりもしていた。
 「みんなと合流は・・・無理か」
 闘護は悔しそうに呟いた。
 ラキオスのスピリットが王都に入ってきたことは、ここまで来る中で聞いていた。
 しかし彼らがいるのは、運悪く闘護のいる場所とは城を挟んで反対側だった。
 「どうする・・・どうする・・・?」
 闘護は自問する。
 その時
 ドゴーン!!
 「キャアッ!!」
 「ん!?」
 闘護の耳に爆発音と悲鳴が聞こえた。
 『この近く!?』
 闘護は走り出した。

 「うぅ・・・」
 「!!」
 闘護の視界に入ってきたのは、崩れた建物と、その下敷きになって呻いている女の子だった。
 「大丈夫か!?」
 闘護はすぐに女の子の傍に駆け寄った。
 「苦しいよぉ・・・痛いよぉ・・・」
 女の子は涙を浮かべて繰り返す。
 「くっ・・・」
 闘護は女の子の状態を見る。
 『崩れた家に挟まれている・・・』
 地面に這って崩れた家を調べる。
 『血の臭いはしない・・・女の子はどうやら、挟まっているだけか。どうする?』
 闘護は周囲を見回した。
 その時、
 「フィン!!」
 女性が血相を変えて駆け込んできた。
 「フィン!!しっかりして!!」
 女性は女の子の傍に駆け寄ると、大声を上げる。
 「ママァ・・・苦しいよぉ・・・」
 「フィン!!」
 女性は必死になって女の子の手を自らの両手で包み込む。
 「大丈夫だからね!!ママがいるから大丈夫!!」
 「ママァ・・・うん・・・」
 女の子は小さく笑った。
 ガシッ・・・
 「ふぅ・・・」
 その時、闘護が崩れた家の一部―女の子の体が挟んでいる梁に手をかけた。
 「えっ・・・?」
 女性は唖然とした表情で闘護を見る。
 「うぉおおおおお!!!」
 闘護は力を込めて梁を持ち上げようとした。
 ミシッ・・・ミシィ・・・ギギィ・・・
 梁はゆっくりと上に上がっていく。
 「ぐっ・・・くぅ・・・ぬぐぅ・・・!!」
 闘護は更に力を込める。
 ギシィ・・ギシィ・・・
 梁は闘護の腰あたりまで上がり、女の子の体が完全に見えた。
 「早くその娘を!!」
 闘護の叫びに女性はハッとすると、急いで女の子の体をつかむと、一気に引きずり出した。
 「フィン!!」
 「ママァ・・・」
 女性は嬉しそうに、女の子は安堵の表情を浮かべて抱き合う。
 ドゴォーン!!
 闘護は力を抜いて梁を落とす。
 「はぁはぁはぁ・・・大丈夫か?」
 闘護は荒い息をついて尋ねた。
 「は、はい・・・」
 女性は、恐怖の混じった眼差しを闘護に向けた。
 『こんなことしたんじゃ、ビビっても仕方ないな』
 闘護は手についた埃を払うと、二人に背を向けた。
 「あの・・・」
 その時、女の子が小さな声を上げた。
 「ん?」
 闘護は立ち止まると振り返った。
 「ありがとう・・・お兄ちゃん」
 女の子の言葉に、闘護は小さく笑った。
 「早く逃げなさい。ここは危険だ」
 「・・・は、はい。ありがとうございます」
 女性はそう言って、女の子を抱えて走り出した。
 女性の背中を見送って、闘護も走り出す。


─同日、昼
 イースペリア城 動力中枢

 「・・・ユート」
 アセリアの小さな呼びかけで、悠人は我に返った。
 すっと悠人の横に立ち、剣に手を掛ける。
 『珍しく緊張してる・・・ん!?』
 悠人が視線を追いかけると、いつの間に入ってきたのか、黒い人影があった。
 「くっ、敵か・・・早いな」
 「ユート、下がってて・・・」
 そう言ったアセリアの表情は、鋭い。
 『誰だ・・・?』
 身体にピッタリとした黒い装束を身にまとう、鋭さを内に秘めたスピリット。
 『明らかに今まで戦ってきたスピリットとは雰囲気が違う・・・』
 悠人が唾を飲み込む。
 「・・・ユート。エスペリアを・・・お願い」
 「お、おい、アセリア!!」
 悠人に言葉を残すと、剣を抜いて構える。
 『いつも何事にも動じないアセリアが緊張してるなんて・・・』
 そう思った瞬間、無造作に前傾姿勢になった黒いスピリットは剣に手をかけ・・・
 ガキンッ!!
 黒いスピリットの剣とアセリアの剣がぶつかった。
 『・・・ぜ、全然見えなかった!!なんて早さだ!?』
 これまでに戦ったスピリットとは桁違いの動き。
 アセリアが初撃を受け止められたことの方が驚きだった。
 「・・・ほぅ」
 呟きは離れた場所だった。
 悠人には、呼吸をするごとに別の場所へ行っているように見える。
 そして、異常なのはその剣技だった。
 鞘から抜こうとする動作は見えたのに、刀身は今もまた鞘の中にある。
 『居合い・・・ってやつか?』
 悠人はゴクリと唾を飲み込んだ。
 「少しは出来る・・・ならばっ!!」
 「・・・っ!!」
 ガキンッ!!
 再び悠人の視界から消え、次の瞬間にはアセリアと刃を打ち合わせていた。
 「フッ!!」
 力比べになりかけるが、スピリットはまた離れた。
 そして、いつの間にか神剣も鞘に収まっている。
 「よくぞ受けた。しかし、次は外しませぬ・・・」
 無駄な力のない自然な構えで、右手を剣に伸ばす。
 そして次の瞬間、再び神速で地を駆ける。
 「・・・ハァッ!!」
 地面ギリギリの所から、すくい上げるような斬撃がアセリアを襲う。
 『さっきよりも・・・速い!?』
 今度の剣戟は、影を追うので精一杯だった。
 「!!」
 黒い光が通過する寸前、アセリアは僅かに身を引いた。
 刃は反動で動いた髪をかすめ、数本がマナの塵と化す。
 「・・・っ!」
 続けざまの居合い。
 ガキンッ!!
 間一髪、アセリアは斬撃を刀身で弾いてかわす。
 しかし体勢は更に崩れ、反撃に転じることは出来なかった。
 神剣の衝突による衝撃で上体を揺さぶられたのだ。
 チャンスと見たスピリットは、神剣を鞘に戻すことなく二撃目を放つ。
 「ハッ、タッ・・・ハァァァッッ!!」
 ガキン!!ガキンッ!!シュッ!!
 そして、ここぞとばかりに連撃が襲う。
 ほとんどは受けたものの、一撃だけ足をかすめた。
 「・・・っ!」
 苦痛でアセリアの表情が歪む。
 「アセリアッ!!」
 声を掛けるものの、今の悠人ではこの戦いに割って入ることなど出来なかった。
 あのアセリアが厳しい顔で防御に徹している。
 「ど、どうして帝国が!?」
 操作盤のフロアから身を乗り出したエスペリアが叫ぶ。
 緊張と焦りから、その声は普段よりも甲高くなっていた。
 「帝国?アイツは帝国のヤツなのか!?」
 「はい。あれは漆黒の翼ウルカ。サーギオスの遊撃隊員最強のスピリットです!」
 「そんなヤツなのか!?アセリア、下がれっ!!」
 ガキンッ!!
 悠人の声が聞こえないのか、アセリアは無言のままウルカと斬り結ぶ。
 「駄目、アセリア!!いくらあなたでも・・・」
 そうこうしていると、外から数人の足音が聞こえてきた。
 いつ敵が雪崩れ込んでくるかわからない。
 「くそっ!!エスペリア、まだか!?」
 「・・・っ、あと少し・・・もう少しで、全部終わります!!」
 「わかった!!急いでくれ!!」
 悠人は入り口の前に走り、剣を構える。
 ゆっくりと呼吸を繰り返した。
 『大丈夫・・・やれるはずだ。暫くの間だけ保たせられれば、それでいい・・・!!』
 悠人は握りに力を込めた。
 『・・・来るっ!!』
 「はっ!!」
 ハイロゥを展開させた帝国のスピリットが飛び込んできたところに、フルパワーで神剣の一撃を叩きつけた。
 ドゴォーンッ!
 吹き飛ばされて、部隊一つが戦闘不能に陥る。
 『よし、これで少しは持ちこたえられるだろう!!』
 「アセリアっ!!」
 視線を戻すと、アセリアは明らかに消耗していた。
 足下もふらつき、防御しているのがやっとに見える。
 ラキオスの中では最速を誇るアセリア。
 だがウルカの速度は、それを大きく凌駕していた。
 『いや・・・速度だけじゃない』
 実際の所、腕力でも剣技でもウルカの方が上であった。
 希に反撃に出ても、かすることなく弾かれてしまう。
 遊ばれているわけではないが、危機感すら与えられていないのは確かだった。
 『こんな化け物じみた奴もいたのか・・・帝国とは、一体どんな所なんだ?』
 「ユート様っ!!作業が終わりました!!早く待避しなければ!!」
 その時、エスペリアがフロアから飛び降りる。
 「よし、アセリア。作戦終了だ!撤退するぞ!!」
 「・・・っ!!」
 悠人の叫びにピクリと反応するアセリア。
 しかし、そのせいで一瞬反応が遅れた。
 「・・・!!そこ!!」
 ドゴッ!!
 「っ!!」
 アセリアの腹部に鋭い前蹴りが突き刺さった。
 身体をくの字に曲げるアセリアに、神速の斬撃が襲いかかる。
 「アセリアッ!!」
 時間が、酷くゆっくりと感じられた。
 「!!」
 パァアアアア!!
 その瞬間、アセリアのハイロゥが強い光を放つ。
 光は一筋の光線となり、ウルカに向かって突き進んだ。
 「ム・・・・ハァァァッ!!」
 カシュンッ!!
 「な、に・・・!?」
 ウルカは剣の軌道を変え、光線そのものを打ち払う。
 衝撃で仰け反るウルカに、アセリアの刃が迫る。
 「テェアァァァァァァッッッ!!!」
 間違いなくアセリアに出来る最速の踏み込み。
 その姿がぶれ、悠人の目には白い影が映った。
 勝機はここしかない。
 地面すれすれから、伸び上がるようにして首を狙う。
 ウルカもまた、袈裟懸けに神剣を打ち下ろした。
 そして二人の剣は同時に空を切った。
 アセリアの剣は頬を、ウルカの剣はアセリアの胸元をそれぞれかすめている。
 「・・・」
 「・・・」
 振り向いた格好のまま、にらみ合う二人。
 もしお互いが後一歩踏み込んでいたら、どうなっていたか。
 「アセリア!!撤退します!!」
 強い叫びに反応し、大きく後ろに飛び退くアセリア。
 既に体力も気力も使い果たし膝を突くアセリアに、エスペリアが肩を貸す。
 「エスペリア、先に行ってくれ」
 「そんなっ・・・ユート様、無茶です!!」
 「・・・ユート・・・駄目だ・・・」
 二人は反対する。
 『ここで足止めが必要なら、それは俺の役目だ・・・さっきの戦いを見た限り、勝てはしないだろうが』
 「大丈夫だって!!いいから先に行け!!」
 悠人は叫んだ。
 エスペリアはあからさまに心配そうな顔をしたが、結局は大人しく従ってくれた。
 アセリアを連れてエスペリアが出て行き、悠人とウルカの二人が残る。
 『さて・・・後は、ウルカをどうするかだけど・・・』
 「見逃しちゃくれないよな」
 悠人はウルカを見た。
 ウルカの瞳はあくまでも静かで激情もなく、斬られた頬を押さえている。
 今は殺気を感じないものの、実力はさっき見た通りであり、油断は出来なかった。
 『油断してもしなくても一緒か』
 心の中で苦笑する。
 「・・・エトランジェか?」
 ウルカがゆっくりと尋ねる。
 「だったらどうする?」
 「まだ荒削り・・・しかし、良い腕をしている」
 ウルカの言葉に悠人は眉をひそめた。
 「・・・」
 『あの戦いの中で、俺の動きを見ているだけの余裕があったのか?だとすると、実力はいよいよ計り知れないな・・・』
 悠人は警戒を強めたが、ウルカは涼しい顔をしている。
 「手前の役目は既に終わりました。これ以上、戦うつもりはありませぬ」
 「おいおい、先に襲いかかってきたのはそっちだろ?」
 悠人の言葉に、ウルカは自分の手下がいた方を一瞥する。
 悲しみと寂しさと、それからまた別の表情があった。
 『なんだ・・・他のスピリットとは違う・・・?』
 「手前どもの任務は攪乱。首尾は良く・・・戦う理由も消えました」
 ウルカはあっさりと己の目的を話した。
 予想と違う反応に悠人はますます混乱した。
 『戦う理由って・・・何だ!?』
 「貴殿の名と、先程の剣士の名を聞かせて頂けませぬか?」
 「・・・俺の名は悠人。あいつはアセリアだ」
 「感謝いたします・・・では、また戦場で」
 余分な力がいっさい無い、自然体とも言える立ち方。
 その姿は、見惚れてしまうほど堂々たるものだった。
 「俺はゴメンだ」
 「フッ・・・残念です」
 そう言って走り去るウルカ。
 次の瞬間
 ズゴシュゥゥ・・・
 巨大な神剣へと繋がる機械の音が変わり始めた。
 エスペリアの操作が成功したのだろう。
 『漆黒の翼ウルカ・・・侍って感じだったな・・・』
 悠人は剣を収めて、出口に走り出した。


─同日、昼
 イースペリア、城下町

 ゾクッ・・・
 「!?」
 突然、闘護は強い悪寒を覚えた。
 『な、なんだ・・・今のは?』
 闘護は周囲を見回す。
 聞こえてくる喧噪と、焦げた匂い、崩れた瓦礫。
 悪寒を感じる前と何ら変わった所はなかった。
 「何も変化はない・・・?」
 ゴクリと唾を飲み込む。
 『だけど、何なんだ・・・何かヤバイ感じがする・・・』
 ドーン!!
 「!?」
 その時、近くで大きな爆発音と煙が上がった。
 『戦いか!?しかしさっきの悪寒は・・・』
 そう考えて、闘護は頭を振った。
 『いや・・・今は助けることだけを考えろ!!』
 闘護は走り出した。


─同日、昼
 イースペリア城

 作戦が終了し、悠人、エスペリア、アセリアの三人は施設から脱出、城に到着した。

 ドクンッ
 「!!!」
 『なんだ・・・一瞬だけ背筋がゾクッとしたぞ』
 悠人はゴクリと唾を飲み込んだ。
 『背後で何か異質な気配が膨れあがってる・・・もう、施設からはかなり離れてるんだぞ』
 悠人は振り返った。
 『おかしい・・・地鳴りのような機械音が静まって、施設の動作は止まったはずなのに・・・嫌な予感が膨れあがってくる』
 〔契約者よ。この場を急いで立ち去るのだ〕
 その時、悠人の頭の中に【求め】の声が響き渡った。
 『何が起きようとしているんだ?アセリア達は何も感じていないぞ』
 アセリア達は、この変化に気がついていないようだった。
 エスペリアも平静を保っている。
 〔あの者が自らの死を選ぼうとしている〕
 『あの者・・・な、なんだ!?』
 悠人の頭の中に【求め】から施設の中枢にあった巨大な神剣のイメージが流れてくる。
 『神剣の死・・・なんのことだ?』
 〔ここにいては巻き込まれる。急ぎ立ち去るのだ〕
 『・・・わかったよ。理由はわからないけど、任務を終えた今は退却するしかないんだから・・・』
 悠人は城下町の方に視線を向けた。
 『イースペリアのスピリット達を救いたいけど・・・アセリアの状態も危険だし、余裕はない、か』
 「アセリアは俺が担いでいく。エスペリアは急いでオルファ達に連絡を!!」
 悠人はエスペリアを見た。
 「ただちにイースペリアから、全力で撤退する!!」
 悠人が叫んだ瞬間、エスペリアはキョトンとしていたが、すぐに悠人の本気をわかってくれた。
 「わ、わかりました!!」
 『何が起きるんだ・・・この感じは?』
 悠人の心はピリピリしたものを感じていた。


─同日、昼
 イースペリア城下町

 ガキンッ!!
 「今だ!!」
 「!!」
 闘護の後ろにいたイースペリアのスピリットが飛び出した。
 ザシュゥッ!!
 「ァア!!」
 真っ二つに斬られたサルドバルトのスピリットが霧散する。
 「やった!!」
 闘護は周囲を見回した。
 「どうだ?」
 「・・・この近辺に、スピリットの反応はありません」
 イースペリアのスピリットが答える。
 ゾクゾクッ・・・
 「!!!」
 『くっ・・・また悪寒か!!』
 闘護は顔をしかめるが、すぐに首を振る。
 「それじゃあ、他の所の救助に回ってくれ」
 闘護はそう言って走り出す。
 「あ、あの!!」
 イースペリアのスピリットが闘護を呼び止めた。
 「何だ?」
 「あなたは一体・・・?」
 その問いに、闘護は肩を竦めて一言。
 「ストレンジャーさ」


─同日、昼
 イースペリア郊外

 悠人達は陽動作戦を行っていたオルファリル達と合流、イースペリア首都から脱出してだだっ広い草原にいた。
 まだイースペリア首都では、サルドバルトとイースペリアのスピリット達が交戦を続けているらしい。
 戦いで疲弊し休んでいる皆と、傷ついたものを癒すエスペリア達グリーンスピリット。
 悠人は少し離れた場所に一人座っていた。
 『任務は果たした・・・けど、イースペリアのスピリット達にも、人々にも、俺たちは何もしてやれなかった』
 悠人は苦い表情をする。
 『ただ、自国の都合しか考えない連中による任務を果たしただけだった・・・』
 そう思って、首を振る。
 『いや・・・佳織のためだ。これは仕方ないことなんだ!!』
 そう自分に言い聞かせる。
 「ユート様、お伝えすることがあります。お時間をよろしいでしょうか?」
 アセリアを最後に、全ての治療を終えたエスペリアが悠人の元にやってきた。
 向こうを見るとオルファリルが食事を皆に配っていた。
 「ああ・・・」
 悠人はさっき考えていたことを振り切るように頷く。
 「お隣、失礼いたします」
 エスペリアは悠人の隣に座ると、古びた手帳を取り出した。
 停止の処理をしていたときに確認していたものだ。
 「これを見て下さいませ」
 エスペリアはパラパラとページをめくった。
 まだ真新しいメモが記されたページで目が止まる。
 「これは?」
 図示され描かれているのは、何かの手順のようだ。
 「今回、指示された動力中枢の停止手順です。次に・・・」
 今度はページをずっと遡っていく。
 エスペリアが止めたページには、同じような図が書かれていた。
 「さっきと同じ図・・・?」
 ただ大きな違いは、赤い×印が大きく書かれていることだった。
 「これはかつて、私が教えられた、決してしてはならない手順なのです。杞憂ならばよいのですが、今回の・・・」
 エスペリアがそう言いかけた時だった。
 ドクンッ!!
 「!?」
 『さっきの背筋が凍り付くような感覚!?』
 悠人は咄嗟に立ち上がり、イースペリアの方角を見る。
 『外見上は変わってない・・・けど、マナの動きが異常だ』
 そして、足下から伝わる小さな振動。
 「何だ・・・何が起きてるんだ!?」
 空が暗くなっていくのと共に、悠人の身体・・・いや、周囲のマナが悲鳴を上げるように吸い寄せられていく。
 悠人はさっきの【求め】の警告を思い出す。
 『神剣そのものが死を選ぼうとしている?』
 「エスペリアッ!!」
 エスペリアも異常に気がつき、青ざめた顔をする。
 「やはり!あれは暴走の操作!!」
 エスペリアは悠人を見た。
 「ユート様っ、イースペリアの方角に守りの力を集中して下さい!!」
 エスペリアは振り返ってオルファリル達を見た。
 「みんなも、全力で防御を。“マナ消失”が来ます!!」
 『マナ消失・・・!?』
 その時、悠人の頭の中に〔求め〕の声が響く。
 〔心せよ、汝の力が試される・・・妖精達と力を合わせよ。そうでなければ、消滅する〕


─同日、昼
 イースペリア城下町

 「・・・ここも駄目か」
 闘護は唇をかみ締める。
 「サルドバルトのスピリットが大分進入してきた・・・このままだと、イースペリアは落ちるぞ」
 既に闘護のいる場所では凄まじい戦闘を行われたのか、崩れた家々が残っているだけだった。
 「まずいな・・・イースペリアはこのままだと・・・」
 ゾクゥッ!!!
 「!!」
 『何だ、この悪寒は・・・段々強くなって・・・くそっ!!』
 闘護の額に冷や汗が浮かぶ。
 ヒュゥウウウウ・・・
 その時、風が吹いた。
 『風・・・?』
 闘護は眉をひそめた。
 「空が・・・」
 そして、空が暗くなっていく。
 「何だ・・・」
 ヒュゥウウウウ・・・
 風は少しずつ強くなっていく。
 「・・・何が起きるんだ?」

 シュゥウウウ・・・・

 「!?」
 その時、城の方から何かが集束するような音が響く。
 そして・・・

 ドゴォオオオオオオオオオオ!!!!

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