作者のページに戻る

─聖ヨト歴330年 スフの月 青 四つの日 夕方
 ラセリオ郊外

 「・・・・・・ん?」
 アセリアがふと、警戒し始めた。
 「あれ?どうかしたのか?」
 「・・・敵」
 ポツリと呟く。
 慌てて悠人は気配を探った。
 『確かに・・・スピリットがいるな。けど・・・』
 「随分遠いな。無理に相手にする必要もないだろ」
 「ん・・・」
 「え、アセリア?おい、待てって!おいっ!!」
 バサァッ!!
 アセリアは純白のハイロゥを広げる。
 『一人ででも行くつもりか・・・?』
 「ったく!俺も行くから1人で行くなって!!」
 悠人は慌ててアセリアを追った。


─同日、夕方
 ラセリオ郊外

 「いいか、アセリア。一人で勝手に行っちゃ駄目だぞ」
 漸く追いついた悠人は、アセリアに説教をする。
 「・・・」
 「エスペリアだって言ってるだろ?戦闘ってのは、キチンと準備をしてから行うものだって」
 悠人は渋い表情で続ける。
 「今みたいなことしてたら、怪我じゃすまなくなるぞ」
 「ん・・・」
 アセリアはコクンと頷く。
 『本当にわかってるのか・・・?』
 悠人は考え込む。
 「あ」
 『なんか、今の俺って先生みたいだな・・・なんだか、話を聞かない学生がどれだけ迷惑なのか、わかるなぁ・・・』
 少し反省する。
 「大体だな・・・」
 「・・・・・・来た」
 「は?」
 「行ってくる」
 「お、おい、俺の話聞いてたのか?」
 「ん・・・だいじょうぶ。負けない」
 バサァ
 アセリアは最後にチラリと悠人を見て頷くと、さっさとハイロゥを広げて飛んでいった。
 「負けないとかじゃなくてだな・・・って、ああ、もうっ!」
 悠人は首を振った。
 「待てよ、アセリア!!」
 悠人は【求め】を掴むと、アセリアを追って駆け出した。


─同日、夜
 ラセリオ

 「はぁ・・・」
 宿の部屋に戻るなり、悠人はため息をついた。
 「疲れた・・・」
 戦闘服を椅子に掛けると、悠人はドサリとベッドの上に転がった。
 『アセリアはどうしていつも戦いになると周りが見えないんだろう・・・?』
 悠人は考え込む。
 コンコン
 その時、ドアがノックされた。
 「はーい?」
 「エスペリアです」
 「どうぞ」
 悠人の返答が出てすぐ、エスペリアが中に入ってきた。
 「どうしたんだ?」
 「トーゴ様が到着しました」
 「闘護が?」
 「はい」
 「わかった。すぐに連れてきてくれ」
 悠人の言葉に頷くと、エスペリアは部屋から出て行く。

 少しして、エスペリアに連れられて闘護、セリア、ナナルゥが入ってくる。
 「よう、悠人」
 「闘護」
 悠人は立ち上がると、闘護と握手した。
 「久しぶりだな」
 「元気だったか?」
 「ああ。闘護、お前は?」
 「ああ、問題ない」
 「・・・」
 闘護の返答に、セリアは申し訳なさそうに俯く。
 「・・・」
 ナナルゥは相変わらず無表情だが、僅かに眉が傾いた。
 「?」
 二人の様子に、悠人は首を傾げた。
 「エスペリア」
 闘護は悠人のそぶりを無視してエスペリアに声を掛ける。
 「はい」
 「セリアとナナルゥに部屋を割り当ててやってくれ。あと、俺の部屋も用意しておいてくれないか?」
 「わかりました」
 エスペリアは頷くと、セリア、ナナルゥを連れて部屋から出て行った。
 「座ってもいいか?」
 「ああ」
 悠人の返事を聞いて、闘護は椅子に座る。
 悠人もテーブルを挟んで向かい側の椅子に腰を下ろす。
 「戦況はどうなんだ?」
 闘護が尋ねる。
 「バーンライトは、ラセリオ付近に何回か攻め込んできた」
 「そうか・・・これからどうする?」
 「とりあえず、ラセリオの防衛を続けようかと思ってる」
 「ふむ・・・」
 闘護は顎に手をやって考え込む。
 「どうだろう?少し山道に踏み込んでみないか?」
 闘護が提案する。
 「山道に?」
 「積極的に叩いておけば、向こうも引っ込むと思うんだが・・・」
 「うーん・・・」
 悠人は腕を組んで考え込む。
 「このまま、ここで防衛を続けるにしても、ここを素通りしてラキオスに進軍される可能性は十分ある。だったらある程度攻撃して、こっちに目を向けさせておくことも必要だろ」
 「成る程・・・」
 「どうだ?」
 「・・・やってみるか」
 悠人はゆっくりと頷いた。


─聖ヨト歴330年 スフの月 青 五つの日 朝
 森の中

 スピリット隊は、山道を進む。
 先頭は悠人と闘護が、続いてエスペリア、アセリアが、後方にはオルファリル、セリア、ナナルゥが歩く。
 「あまり、やりすぎないようにした方がいいな」
 闘護が悠人に言う。
 「そうか?」
 「やりすぎると、向こうが死にものぐるいで攻撃してくる可能性がある。向こうが引っ込んだら、それ以上はするべきじゃないな」
 「確かに・・・ただ」
 悠人は難しい表情を浮かべた。
 「ただ?」
 「アセリアが無茶しなければいいんだけど・・・」
 「無茶?」
 「いつも、一人でドンドン前に出るからさ」
 「成る程」
 闘護は納得して頷く。
 「俺も注意しとくよ」
 「頼む」
 「アセリアだけじゃなくて、他のメンバーもちゃんと見てろよ」
 「わかってるって」


─同日、夕方
 森の中

 森の中で、一行はバーンライト軍と遭遇、激突した。
 敵軍は斥候部隊だったらしく、数も少ない。
 戦いは、あっという間にラキオス軍優勢となる。
 戦いが始まって三十分・・・既に敵の陣形は崩れ、ラキオス軍の勝利は揺るぎないものになっていた。
 スピリットの戦いというのは、チームワークの戦いと言える。誰か一人でも恐怖に打ち負ければ勝機はない。
 敵の支援担当が戦意を喪失した時点で、ラキオス軍の勝ちは決まっていたのだ。

 戦いの最中、悠人とオルファリルは他のスピリット達とは離れた所で戦っていた。

 「もう、オルファ達の勝ちだね♪」
 オルファリルが楽しそうに言った。
 「ああ、でも油断するなよ。まだ、どこから敵が来るか・・・」
 『逃げるヤツの背中を切る気にはならない・・・たとえ、それが弱さとなっても』
 悠人は逃亡しようとするスピリット達を無視して、剣を納めようとした。
 「さて!止めささなくっちゃっ!まだ終わってないもんね!」
 オルファリルは再び【理念】を構えて、殿をつとめるスピリットに飛びかかっていった。
 「なっ!?もう戦いは終わったんだぞ!!」
 悠人の制止も聞かず、オルファリルは走り出す。
 神剣を上段に構えて、歌うように魔法の詠唱を始める。
 「永遠神剣の主【理念】のオルファリルの名において命ずる!フレイムシャワー!」
 【理念】が光り出す。
 「敵さん達の逃げ道、全部焼き尽くしちゃえ!!」
 弾むような声。
 魔法の発動と共に上空がボッボッと輝き、火の玉が雹のように降り注ぐ。
 「あははは。燃えろ、燃えろぉぉぅ〜〜っ!死んじゃえ!死んじゃえ〜っ♪」
 火の飛礫は無差別に落下し、敵と森そのものにダメージを与える。吹き飛ばされるスピリットの姿にオルファリルは笑った。
 彼女は、圧倒的に優位になったことを楽しんでいたのだ。
 追いつめられたスピリットの一体が、木を背にして止まる。その隙に、オルファリルは間合いを一気に詰める。
 「もういい!やめるんだオルファ、やめろ!これ以上殺す必要はない!」
 『殺す必要がない?』
 叫びながら、悠人の心の中に疑問が浮かぶ。
 『俺は何を根拠に言ってるんだ・・・?』
 悠人の目に映るのは、いつものように楽しそうに笑いながらスピリットを殺そうとしているオルファリルだった。
 『あの明るく朗らかなオルファが、楽しそうに殺し合いをしている姿が見たくなかっただけかもしれない・・・』
 「もう、逃げられないよ♪おとなしく殺られちゃってっ!」
 「・・・!」
 敵スピリットがオルファリルを睨む。
 「よせ、オルファ!!そのスピリットはもう戦える状態じゃない!!」
 興奮状態のオルファリルに、悠人の言葉は届かない。
 自分の背丈ほどもある双剣を頭上で回転させ、狙いをつける。
 そしてそのまま、目にも止まらぬ速度で、敵スピリットに飛びかかってゆく。
 「てっりゃゃぁああああ!!」
 ザシュッ!!!
 空から勢いよく、振り下ろしたオルファリルの一撃。
 スピリットの胸を貫き、更に勢い余って背中の巨木にまで突き刺さる。
 「えへへ、どう?痛い?苦しい?」
 双肩を押さえようとするスピリットだったが、どう見ても致命傷は免れない。
 オルファリルが抉るように双剣を動かすと、大きく開いた傷口から鮮血が吹き出る。
 血はオルファリルの頭から下半身にかけてまで、びっしょりと赤く染めた。
 「・・・ウゥ」
 「まだ死なないよぉ?こうしたほうが、いいかな?」
 突き刺したままの【理念】を動かし、更に深く荒々しく傷口を広げる。その都度、肉がぐちゃぐちゃになる嫌な音がした。
 同時に【理念】から発せられる熱によって、傷口は焦げ、肉の焼ける臭いが辺りに充満する。
 「あは♪まだ、がんばるんだ!おもしろ〜いっ」
 オルファリルは笑顔で悠人を見た。
 「ねえねえ、パパ。この敵さん、まだ死なないよぉ?グリグリするたびに、ピクピクするぅ」
 剣を突き刺したまま、悠人にベットリと血が付いたままの顔で笑いかける。
 「・・・」
 『いつも天使のようなオルファじゃない・・・まるで悪魔みたい・・だ』
 あまりの凄惨さに、悠人は絶句する。
 「すごい!すごい!どうやったら死ぬかな?オルファだったら、ここまでがんばれるかなぁ?」
 「も、もう、いいんだ。やめてくれ、オルファ!!」
 悠人は耐えられないように叫んだ。
 「え〜〜〜〜っ!?せっかく敵さん、頑張ってるのにぃ」
 オルファリルは残念そうに言った。
 「オルファ頑張って、敵やっつけなきゃ!そうしないと、パパに褒めて貰えないもん」
 オルファリルは不満を露わにする。
 その表情には、自分のしていることに何の疑問も持っていない。
 『オルファにとって、スピリットを殺すことは、罪でも何でもないんだ・・・』
 「いいから、やめるんだ!!」
 悠人は悲痛な声で叫ぶ。
 『これ以上、オルファの戦う姿を見ていたくない・・・妹のような存在が、楽しく人殺しをしている姿なんて・・・』
 「そ、そうなの?どして?」
 オルファリルは本当に意味がわからないという顔で見つめる。
 「そっか・・・パパが言うんなら仕方ないもんね」
 しかし、悠人の表情を見てオルファリルは不服そうに呟く。
 「じゃ、止め、行くね♪」
 スピリットの状態は酷かった。手足は痙攣し、まもなく息絶えるのは確実である。
 それでも、オルファリルは止めを刺そうとしていた。
 「永遠神剣の主、【理念】のオルファの名において命ずる!このスピリットの体内に浄化の炎を!」
 満面の笑みで唱える魔法。それはまるで、勝利宣言のようだった。
 「やめるんだ!」
 悠人の制止も、オルファリルの耳には届かない。
 「いっけぇぇっ♪ファイアボルト、体の中で爆発しちゃえ」
 神剣魔法が完成する。
 【理念】の刀身が一瞬、赤く輝くと同時に、オルファリルとスピリットを中心に赤い魔法陣が広がる。
 スピリットの体の中に突き刺さったままの【理念】の切っ先から放たれた火は、スピリットの内側で炸裂した。
 ドーンッ!!
 爆発音と共に、スピリットの身体は砕け散る。
 もう命など残っているはずもなく、肉が焼けた臭いだけを残して金色の霧へと姿を変え始めてゆくスピリットの肉片。
 オルファリルの持つ神剣に、マナが吸い込まれてゆく。【理念】が敵を滅ぼした喜びに震える。
 「あ〜、気持ちよかった♪オルファ、敵さんやっつけたときが、一番気持ちいいんだ」
 オルファリルの顔に付着した血も、次々と蒸発していく。
 「オルファは・・・オルファは何とも思わないのか?あんな戦い方をして・・・」
 悠人は震える声で尋ねた。
 『・・・信じられない。あのオルファがこんなにも残酷だなんて・・・信じたくない・・・』
 「なんともって?なんのこと?パパ」
 【理念】についた目が光る。何かを求めているような、何か、その目を通して悠人達を見ているような光だった。
 「・・・もう敵は戦う気はなかった。あのまま逃がせばいいじゃないか。何で、わざわざ殺すんだよ」
 「?オルファ、何か間違っちゃった?でも、敵さんは殺さないとダメなんだよ?」
 オルファリルは笑顔で言う。
 「だって敵さんなんだもん」
 意味がわからないと言いたそうな顔で言う。
 『この世界では・・・俺が間違っているのか?』
 悠人は自問する。
 『解らない・・・さっきの光景が目に焼き付いて・・・離れない・・・』
 「・・・俺もよくわからない」
 悠人は力無く呟く。
 『殺さなければ死ぬ。そんな世界で、人殺しはいけないなんて考えは意味がないんだろうか?』
 悠人は拳を握りしめる。
 『俺がやっていることだって同じだ。オルファだけを責めるなんてお門違いなのも解ってる。それでも・・・』
 「ぱぱ、ど〜したの?どこか具合悪いの?」
 オルファリルが心配そうに悠人にすり寄る。
 「どこ?オルファ、スリスリしてあげるから」
 悠人を心配そうに見上げるオルファリル。
 既に血は消え、顔に泥が付いてるだけ。
 少なくとも、見かけだけはいつものオルファリルに戻っていた。
 「だいじょうぶ?パパ・・・」
 「ごめん・・・オルファ。俺がどうかしてた。心配かけてごめんな」
 「ううん♪パパが元気なら、オルファうれしいよ〜」
 オルファリルは笑顔で答える。
 『俺の常識に従うこと・・・この世界の常識に倣うこと」
 悠人は小さく首を振った。
 『何が正しいんだ・・・?』


─同日、夜
 森の中

 パチパチ・・パチ・・
 「・・・闘護」
 「ん?」
 たき火を前にして、悠人が小さく呟く。
 「ちょっと、いいか?」
 そう言って悠人は立ち上がった。
 「・・・いいけど」
 闘護は少し首を傾げながらも、悠人に続いて立つ。
 「エスペリア。ちょっと席を外すよ」
 「わかりました」
 エスペリアに声をかけて、悠人と闘護はキャンプから離れる。


─同日、夜
 森の中を流れる川の側

 「で?」
 キャンプから大分離れ、二人きりなるなり闘護が尋ねる。
 「・・・殺さなくちゃダメなのかな?」
 悠人がボソリと呟く。
 「・・・何だ、それ?」
 悠人の言葉の意味がわからないのか、闘護が聞き返す。
 「だから・・・敵は殺さなくちゃダメなのか?」
 「・・・難しい質問だな」
 闘護はうーんと唸ると、近くの岩に腰を下ろす。
 「向かってくるなら、戦うしかないからなぁ・・・」
 「じゃあ、逃げ出した敵はどうなんだ?」
 「逃げ出した敵?殺す必要がなかったら、殺さなくてもいいんじゃないのか?」
 「・・・それは、俺たちの世界の常識だろ」
 悠人の呟きに、闘護は眉をひそめる。
 「・・・何があったんだ?」
 「・・・」
 「悠人」
 「・・・実は・・・」

 悠人は、夕方の一件を闘護に語り始めた。

 「・・・って事があったんだ」
 「・・・」
 「なぁ、どう思う?」
 「・・・」
 「闘護?」
 返事を返さない闘護に、悠人は眉をひそめる。
 生い茂った木々が月明かりを遮っているため、闘護の表情は全く見えない。
 「・・・悠人」
 「何だ?」
 「何してんだ、お前?」
 異様なほど冷たい口調で悠人が呟く。
 「何って・・・」
 「オルファがスピリットを殺すところを黙って見ていたのか?」
 「・・・」
 「何故、止めなかった?」
 「だから、止めるべきかどうか解らなかったから・・・」
 「ふざけるな」
 悠人の言葉を遮るように、闘護が呟く。
 「止めるべきだったに決まっているのが解らないのか?」
 「それは、俺たちの常識だろ。この世界の常識は・・・」
 「倫理の問題だ」
 闘護は再び、悠人の言葉を遮る。
 「倫理・・・?」
 「・・・俺は苛ついている」
 闘護はボソリと言った。
 「苛ついてる・・・?」
 「殺したことを責める気はない」
 闘護は立ち上がると、悠人の方へ一歩進んだ。
 「問題は・・・」
 更に一歩進む。
 「問題は?」
 「オルファの態度、だ」
 どんどん、闘護は悠人に近づく。
 二人の距離は既に1メートルほどになっている。
 「態度・・・」
 「お前の話を聞く限り、彼女は楽しんでいたようだな・・・殺すことを」
 「あ、ああ・・・」
 「それが苛つくんだよ」
 更に、闘護が一歩前に出る。
 その時、闘護の顔がわずかな光に照らされた。
 「!?」
 その表情に、悠人はビクリと身を竦ませる。
 闘護の表情は、憤怒のものだった。
 「殺しを楽しむ・・・それが、どれだけ危険なことか・・・解らないのか?」
 「・・・」
 「どうなんだ!?」
 闘護は悠人の胸ぐらを掴みあげる。
 「そ、そりゃ・・・よくないことだってわかってる・・けど・・・」
 「解ってるなら、何故止めなかった」
 「・・・」
 沈黙する悠人に、闘護は呆れたように首を振ると、悠人を放した。
 「背中を見せた敵を殺すか否かは、個々の考え方に任せるさ。スピリットを殺せない俺にとやかく言う権利はない」
 闘護は悠人に背を向ける。
 「だがな・・・」
 そして、ゆっくりと振り返る。
 「殺すことを楽しむというのは・・・許せん」
 「闘護・・・」
 「そういう風に考えてると・・・いつか、必ず後悔する」
 「・・・」
 「殺し合いってのは命のやりとりだ。それを楽しむと・・・命の重さが解らなくなる」
 闘護は悠人をじっと見つめた。
 「その時、傷つくのはお前じゃない。オルファ自身だ」
 「・・・」
 「よく考えて行動しろ、馬鹿野郎」
 そう吐き捨てて、闘護は立ち去った。
 「俺は・・・」
 『どうすれば良かった・・・?』
 一人、残された悠人は自問を繰り返す。


─聖ヨト歴330年 スフの月 赤 三つの日 朝
 森の中

 「・・・」
 「・・・」
 沈黙して歩く悠人の隣を、闘護がこれまた黙って歩く。
 先頭を歩く二人の雰囲気に、スピリット達はどうすればいいのか解らず、声をかけられない。
 「ね、ねぇ、エスペリア」
 耐えられなくなって、セリアが小さな声をかける。
 「何です?」
 「ユート様とトーゴ様、仲悪いの?」
 「いいえ、そんなことはありません」
 「だけど・・・」
 セリアは二人を見る。
 黙って歩き続ける二人からは、圧倒的な威圧感しか感じられない。
 「・・・確かに、最近のお二人は少し様子がおかしいかも知れません」
 エスペリアは小さい声で呟く。
 「ですが、お二人とも、緊張しているだけですよ」
 「そうかなぁ・・・?」
 「・・・」
 沈黙するエスペリア。
 エスペリア自身も、二人の様子に不安を感じていたのだ。
 「・・・」
 セリアも、それ以上聞けずに黙り込む。
 「敵だっ!!」
 その時、悠人が叫んだ。
 「全員、戦闘態勢をとれ!!」
 闘護も続いて叫ぶ。
 【はい!!】
 【は、はい!!】
 他のスピリット達に遅れ、エスペリアとセリアは慌てて返事をする。


 戦いが終わり・・・

 「パパ!パパ!」
 オルファリルが嬉しそうに悠人にかけてくる。
 「どうしたんだよ。やけに上機嫌じゃないか」
 「オルファね?今日でね〜・・・んー、クトラ(9)に、ラースでラトラロ(20)でぇ・・・」
 オルファリルは嬉しそうに言う。
 「これまでで、もうストラロス(100)くらいは、敵さん殺したんだよ♪褒めて褒めて!」
 嬉しそうに指を折る姿に、悠人は心が凍り付いた。
 以前、敵を楽しそうに、残忍に殺すオルファリルの姿が悠人の頭の中に思い浮かぶ。
 「・・・・・・」
 悠人はオルファリルを褒める言葉が見つからなかった。
 『殺したことを褒めていいのか?それが良しとされているからいいのか?』
 「?パパ、褒めてくれないの・・・?まだ足りない?」
 オルファリルの声がしょんぼりと小さくなっていく。
 オルファリルは叱られるのを待つ子供のように、上目遣いで悠人を見る。
 「殺すことに・・・足りるも足りないも無い」
 悠人はやっとの思いで声を絞り出す。
 「できれば、そんなことしないほうがいいんだ・・・」
 「なんで?オルファ、敵さんを殺さないと、褒めて貰えないよ?それにその方が気持ちいいもん」
 オルファリルはそう言うが、すぐに表情が沈む。
 「・・・ダメ、なの?」
 「殺さない方がいいに決まってる!!」
 悠人は絶叫する。
 それは、オルファリルにではなく、自分自身に対する叫びだった。
 「でも・・・パパも、カオリも、オルファ守りたいもん。それには殺さなくちゃダメなんだよ?そうしないと負けちゃうもん」
 オルファリルは必死の口調で続ける。
 「パパも、カオリも、トーゴも、アセリアお姉ちゃんも、エスペリアお姉ちゃんも死んじゃうのはヤダよ・・・」
 そして、再び上目遣いで悠人を見る。
 「それでも・・・ダメ?」
 答えを求め懇願するオルファリルの姿に、悠人の心が痛む。
 それは、悠人自身が抱えている苦痛をそのまま押しつけてしまったことに他ならない。
 『俺はバカだ・・・こんな戦いをするのはオルファのせいじゃないのに!!仕掛けているのは人なんだ』
 悠人は覚悟を決めたように首を振った。
 「いいんだオルファ、忘れてくれ」
 悠人はそう言うと、オルファの両肩に手を置いた。
 「でも、いつかオルファも・・・それに俺も解るときが来ると思う」
 悠人はオルファリルを見た。
 「だから、今は戦おう」
 「・・・いいの?」
 「ああ!」
 「良かった!」
 パァと輝く笑顔に戻る。
 そんなオルファリルに、悠人は微笑みを返しながら自問する。
 『自分の大切なものを守るために、どれだけのものを壊せばいいのか』
 そう考えて首を振る。
 『いや・・・今は考えるな』


─同日、夕方
 リュケレイムの森

 山道に潜んでいたバーンライト王国のスピリットを全滅させ、スピリット隊はラキオスへの帰還が命じられた。
 一行は、ラセリオを抜けてそのままラキオスへ向かう。

 「・・・闘護」
 悠人は、隣を歩く闘護に声を掛けた。
 「何だ?」
 「俺は、お前の意見が正しいと思う」
 「・・・?」
 闘護は眉をひそめる。
 「殺すよりも、殺さない方がいいし、殺すことを楽しむのは良くないことだ。それは正論だと思う」
 「・・・」
 「けどな」
 悠人は少し厳しい視線を闘護に向けた。
 「この戦争は、スピリット達が望んだものじゃない」
 「・・・?」
 「人間が起こした戦争だ。そうだろう?」
 「ああ」
 闘護は頷く。
 「だけど、スピリットは戦わなくっちゃいけない」
 「・・・」
 「戦うのは、スピリットのせいじゃないのに・・・戦わなくっちゃいけない」
 悠人の表情に悲しみの色が浮かぶ。
 「殺すことを悩み続けたら、どうなる?スピリットは俺みたいに明確な理由がある訳じゃない。なのに、正論・・・きれい事を言って迷わせてどうする?それで、もしものことがあったら・・・」
 悠人は闘護を見た。
 「今、戦うためには・・・正論に目をつぶるしかないんじゃないのか?殺すことを悩むくらいなら、楽しむぐらいの方がいいんじゃないのか?そうじゃないと・・・耐えられないよ」
 「・・・」
 「俺は・・・間違ってるか?」
 「・・・」
 闘護は苦い表情で悠人から視線を外した。
 「確かに・・・お前の言うことも一理ある」
 「闘護・・・」
 「だけどな」
 闘護は厳しい視線を悠人に向けた。
 「それでも、戦い・・・命を奪うことは避けるべきだし、それを楽しむのは罪だと思う」
 「・・・」
 「戦うことがどういうことか、命の重さとはどういうものか、ちゃんと考えるべきだ」
 「・・・闘護」
 「!?」
 闘護は目を丸くする。
 なぜなら、その時の悠人の表情は、酷く暗いものだったのだ。
 「お前は、殺してないからそんなことを言えるんだ」
 悠人の言葉に、闘護の眉がピクリと動いた。
 「・・・何だと?」
 「俺たちみたいに、実際にスピリットと殺し合いをしていれば、そんなきれい事ばかり言ってられなくなる」
 悠人は立ち止まると、闘護を睨んだ。
 闘護も歩みを止める。
 そして、後ろに続くスピリット達もまた、二人から少し離れたところで止まった。
 「戦争を起こしてるのは誰だ?スピリットか?そうじゃないだろ・・・戦争を起こしてるのは人間なんだ!!」
 「・・・」
 同じく立ち止まった闘護は、無表情で悠人を見ている。
 「スピリット達は望んで戦ってる訳じゃない。それでも、戦場に立てば殺さないと殺される」
 「・・・」
 「お前に、俺たちの気持ちがわかるか?殺し、殺される者の気持ちが?」
 そんな二人の後ろでは、エスペリア達スピリットが唖然とした表情で二人を見ている。
 「わかるか!?」
 グイッ!!
 悠人は闘護の胸ぐらを掴みあげた。
 「ユート様!!」
 エスペリアが叫ぶ。
 「悠人・・・」
 闘護はゆっくりと口を開く。
 「お前は、殺し合いに参加していない俺には何も言う資格はない、というのか?」
 「違うか?」
 「・・・」
 バシッ
 闘護は悠人の腕を払いのける。
 「お前がそう考えるのなら・・・俺にも考えがある」
 「何?」
 「次の戦い・・・俺に指揮をさせてくれ」
 闘護の提案に、悠人は眉をひそめた。
 「お前に?」
 「ああ。その時に証明してみせる。俺が言っている言葉の意味を・・・な」
 闘護は悠人をまっすぐ見つめた。
 「駄目か?」
 「・・・わかった」
 悠人は頷いた。
 「それじゃあ、この話は終わりにしようか」
 闘護は後ろを振り返る。
 【!!】
 立ち止まって一部始終を見ていたスピリット達はビクリと身を竦ませる。
 「早くラキオスへ帰還するぞ」
 闘護はそう言って歩き出す。
 「今日中にラキオスに帰還したいからな。徹夜で歩くぞ」
 悠人も闘護に続いて歩き出す。
 スピリット達は半ば呆然としつつも、慌てて二人の後を追いかける。

 結局、その後の帰路で二人が言葉を交わすことはなかった。
 ただ、沈黙して歩き続ける様子に、スピリット達は心配しつつ、声を掛けることが出来なかった。
 そして次の日の朝、思い空気を引きずったまま、悠人達はラキオスへ帰還した。


─聖ヨト歴330年 スフの月 赤 五つの日 夕方
 館の食卓

 サモドア山道からの、バーンライトの猛攻を乗り切った悠人達は、次の作戦が決定づけられるまで、ラキオスの館で一時の休息を取っていた。
 ・・・カチャカチャ
 「・・・」
 無言のまま食器を片づけているエスペリア。
 悠人が隊長に就任した日から、エスペリアは悠人との距離を取るようになっていた。
 それは態度からも明らかで、悠人との会話に、以前のような暖かさを感じることは出来なかった。
 『・・・あの晩のこと・・・聞かないと、いけないのに・・・』
 闘護から、エスペリアに性行為をして貰ったあの晩については、己の弱さが原因であることを指摘された。
 しかし、それが本当なのかどうかはまだ本人から確認したことはない。
 悠人自身、何度もあの晩のことをエスペリアに聞こうとしたが、いざとなると勇気が出ず、未だに微妙な関係のまま宙ぶらりんになっていた。
 キンッ!!
 『ぐっ!!』
 一瞬だけ頭痛が走る。
 『くぅ・・・』
 悠人は目をつぶり、奥歯を噛み締め、表情に出ないように耐えた。
 【求め】の衝動は、以前にも増して強くなる。それも、エスペリア達に対しての性衝動として。
 『ぐうう・・・』
 悠人はひたすら耐え続ける。別のことを思い、自分の心を強く持つ。
 『・・・俺の心は俺のものだ。俺のものだっ!!』
 しばらく耐え続けると、頭痛は納まっていく。
 『今回も大丈夫だったか・・・』
 悠人は安堵のため息をついた。
 「・・・」
 エスペリアは一礼すると、台所に姿を消した。
 『耐えていた顔は見られてないと思うけど・・・』
 悠人は冷や汗を拭い、グッタリと食卓の椅子にもたれかかる。
 気持ちの悪い汗が、全身に伝わっていた。
 『・・・風呂に行って汗を流してこよう』
 「・・・ん?」
 「・・・」
 アセリアが悠人をじーっと見つめていた。
 『心配そう・・・ってわけじゃないな』
 じーっと悠人を見つめるアセリアに、悠人もアセリアを見つめ返してしまう。
 お互いの視線が完全に結びついているが、不思議と緊張感はない。
 『アセリアって、何か考えているのか・・・?』
 悠人は、失礼なことを考える。
 『アセリアは戦いの時は普段と別人のように軽やかに動き、敵を切り伏せていく・・・にもかかわらず、いつもは無口で必要な動き以外何もしない』
 「・・・」
 『今だって、何の意図があって俺を見つめてるんだ・・・?』
 悠人は小さく首を傾げた。
 『まさか・・・俺の頭痛と【求め】から生まれる性欲求に気づいているのか?』
 「・・・なぁ、アセリア。アセリアから見て、俺がおかしな所ってあるか?」
 「・・・」
 アセリアの視線が僅かに左右に動く。
 「・・・」
 その後悠人をジッと見つめたかと思うと、僅かに食卓の上の更に視線を移す。
 『だめだ・・・意味がよくわからない』
 アセリアの視線のみの会話を、悠人は理解できなかった。
 『気づかれてるのかどうか、さっぱりわからん・・・エスペリア達は、日常の「ん」という返事だけで理解してるみたいだけど・・・』
 「・・・ん」
 呟いたかと思うと、アセリアはテーブルの上に置かれていた布巾を持ち、身体を乗り出して、悠人の額の汗を拭った。
 「さ、さんきゅ」
 「・・・ん」
 返事をして無表情─微妙に満足な表情をしてると悠人は感じた─に戻ったアセリアは再びエスペリア特性のお茶を飲み始めた。
 『・・・不思議だな。この娘は』
 悠人はアセリアに倣うように、お茶を口に含ませた。


─同日、夕方
 悠人の部屋

 お茶を飲み終わり、部屋に戻った悠人は服を着替えようとした。

 「くっ・・・」
 悠人がシャツを脱ごうとしたら、背中にシャツが張り付いている。
 『アセリアが顔を拭いてくれたけど・・・身体も洗いたいな』
 悠人はふと考える。
 「風呂に行くか・・・」


─同日、夕方
 大浴場

 「はぁ・・・」
 悠人は大きくため息をつく。
 『それにしても・・・』
 風呂に入った悠人の心の中に、エスペリアのことが思い浮かぶ。
 「なんか、怒らせるようなことやっちまったかな・・・」
 最近、悠人に対して、エスペリアの態度が素っ気ない。
 その原因がわからず、悠人は困り果てている。
 「とりあえず謝っとく・・・ッてわけにもいかないしなぁ」
 『闘護に相談・・・って状況でもないなぁ』
 悠人は頭を掻く。
 帰路での一件以来、悠人と闘護はまだ一度も言葉を交わしてなかった。
 「とにかく、何とか打開しないとな」
 悠人は再び大きなため息をつくと、手ぬぐいに石けんをこすりつけた。
 「もう少し考えてみるか・・・ん?」
 大浴場の入り口から音がした。
 振り返ると・・・
 「・・・え゛?」
 「ユート様。お背中をお流しします・・・」
 当のエスペリアがそこにいた。
 「うわわっっ!!」
 悠人は驚きながらも、とりあえず手ぬぐいで前を隠す。
 『な、何がどうなってるんだ!?』
 「では、失礼します」
 その隙に、ニコリと笑ったエスペリアが、服を着たまま入ってくる。
 「いやっ、いいっ!!俺、自分で洗えるから!!」
 「まぁ、そうおっしゃられずに。たまには私にお世話させて下さい」
 「お、お世話なら十分されてるからっ!!」
 「まだまだ足りません♪」
 エスペリアは、最近の様子からは考えられないほど機嫌がいいようだった。
 『ど、どうなってるんだ!?』
 「それでは・・・」
 「あ・・・」
 悠人が混乱している間に、あっさりとエスペリアは悠人から手ぬぐいを奪うと、自分の持っていたものを腰の上に置いた。
 『・・・って、今ごく自然に見られた!?』
 「楽にして下さいね」
 「あ、あ、あ・・・」
 「では、まずお背中から・・・」
 「う、う、う・・・」
 結局、悠人はろくに反論も出来ないまま、されるがままになってしまうことになった。
 『もしかして、俺って情けない?』
 「ん〜んん〜〜♪」
 エスペリアは鼻歌を歌いながら、悠人の背中をこすっていく。
 それはいかにも楽しそうで、純粋に人の世話を楽しんでいるように聞こえた。
 「このくらいで、どうですか?」
 「あ、うん。気持ちいいよ」
 『多少抵抗はあるけど・・・エスペリアが機嫌直してくれてるみたいだし』
 悠人は完全に力を抜いて、全てを任せる。
 エスペリアは背中から腕、それから胸と、慣れた手つきで洗っていく。
 「ふはぁあ・・・」
 絶妙にくすぐったいような気持ちいいような感覚に、悠人は思わず変な声を出してしまう。
 「ふふ・・・気持ちいいですか?」
 「ん・・・かなり」
 「はい。それでは流します」
 大きな桶でたっぷりのお湯をすくい、一気に駆けられる。
 『気持ちいいな・・・』
 「ふぅ、さっぱりした。ありがとう、エスペ、リ・・・ア?」
 「はい」
 ニッコリと笑っているエスペリア。
 「・・・?」
 しかし、エスペリアは流すときにお湯を浴びてしまったのか、びしょ濡れになってしまった。
 薄手の服はぴたりと張り付き、身体のラインから肌の色までもはっきりとわかってしまう。
 『う・・・ま、まずい・・・』
 今の状況を理解して、悠人の頭の中でいくつもの事がぐるぐると回り始める。
 そして、悠人の身体の一部が、即座に男として当然の反応を示し始める。
 「ん・・・?」
 『し、静まれっ!!たぎるなっ、俺の男の血・・・!!』
 悠人の密かな願いは実を結ばなかった。
 「・・・あ、ユート様」
 悠人の変化に気づいたエスペリアが、頬を赤くする。
 「いや、あのっ、これは違うんだっ!!」
 エスペリアはやや俯いていたが、すぐに決意に満ちた表情で悠人を見た。
 「えっと・・・エスペリア・・・?」
 「はい・・・わかっています」
 エスペリアは悠人の股間に手を伸ばしていく・・・
 「え・・え・・えぇ!?」


 「ん・・・こんなに、熱くなってます・・・」

 「ちょっ・・・や、やめてくれよ!!」

 「どうしてですか?とっても悦んでいるのわかりますよ・・・」

 「うぁ・・・」

 「・・・ユート様、気持ちいいですか?」

 「エスペリア・・・やめ・・・」

 「それは・・・ユート様の本心じゃありません」

 「はぁ・・はぁ・・・」

 「一生懸命、ご奉仕いたしますから・・・」

 「何で、エスペリアがそんなこと・・・」

 「私は・・・こ、こういう事が、好きですから・・・」


 「え、エスペリア・・・そのっ!!」
 全てが終わって問いただそうとすると、エスペリアは頬を染めて目をそらした。
 「このことは、どうかオルファやアセリアには内密に・・・」
 「え・・・いやっ・・・俺、とんでもないことを・・・」
 「・・・お願いしますね」
 エスペリアは首を振ると、湯に浸していた手ぬぐいをソッと肩に掛けてくれる。
 「それでは・・・失礼します」
 笑顔を一つ残し、エスペリアは浴室を出ていった。
 取り残され、性感の熱も冷めると、悠人の身体を嫌悪感が支配していく。
 「俺は・・・俺はエスペリアに何をさせてるんだ・・・」
 『エスペリアが、何であんな事をしたのか、それはわからないけど・・・でも、抵抗しなきゃいけなかった・・・あんな事させたりしちゃ駄目だったのに・・・』
 悠人は唇をかみ悔やむ。
 しかし、それは既に遅い。
 そして、それがわかっているから、悠人はより己に腹が立つのだった。
 『畜生っ!!』


─同日、深夜
 悠人の部屋

 「・・・ぐぅっ!!」
 突如として、激しい頭痛に襲われる。
 飢え・・・渇き・・・【求め】がマナを求めて騒ぐ。
 「収まれ・・・このっ、バカ剣・・・ッ!!」
 悠人は叫ぶ。
 『・・・みんなは気づいているだろうか。ゆっくりと、俺が【求め】に呑まれかけていることを』
 悠人は唇をかんだ。
 『こんな剣で戦わなきゃいけないのかっ!?』
 強く苦悩する。
 『けど・・・手放せない。そんなことをしたら佳織がどうなるか・・・』
 「はぁっ・・・う、く・・・」
 『戦いだって、これからより激しくなる。俺が戦えないなんてなったら、エスペリア達にも迷惑がかかる・・・いや、それだけならまだいい。もしも命を落とすようなことになったら・・・』
 「くそ・・・どうすればいいんだ・・・っ」
 『バーンライトとの決戦は近い。【求め】の意志・・・それにどこまで耐えられるか・・・』
 「俺は・・・自分を保ってみせる・・・」

作者のページに戻る