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─闘護の夢

 「おっと、そろそろ練習を始めて一時間か・・・少し休憩しよう」
 「は、はい・・・」
 「ふぅ・・・大分、上手になったね。高嶺さん」
 「あの・・・神坂先輩?」
 「先輩は、どうして部室に来るんですか?」
 「何でそんなことを聞くんだい?」
 「だって、先輩はもう引退して吹奏楽団に入ってるのに・・・」
 「ああ、なるほど」
 「どうしてですか?」
 「後輩指導だよ」
 「それじゃあ・・・」
 「それじゃあ?」
 「先輩は、どうして私ばかり指導するんですか?」
 「・・・やっぱり、そう感じた?」
 「はい」
 「うーん・・・」
 「どうしてですか?」
 「・・・高嶺さんが可愛いから」
 「えっ・・・じょ、冗談ですよね!?」
 「冗談じゃないよ。ただ、他にも理由がある」
 「他の理由・・・?」
 「君のフルートだ。俺が君に目をかける、最たる理由はね」
 「私の・・・フルート?」
 「そう。君のフルートは素晴らしい」
 「そ、そんな・・・私よりも上手な人はいっぱいいます」
 「上手という意味でなら、ね。俺だって、その点では君に勝っている自信がある」
 「だ、だったら・・・」
 「問題は、上手なだけじゃ駄目だってことだよ」
 「上手なだけじゃ・・・駄目?」
 「フルート・・・に限らず、芸術というのは、人の心に強く語りかけるものだ」
 「・・・」
 「そして、君の奏でる音色には・・・それが特に強い」
 「私の・・・?」
 「そう。人を惹きつける・・・そして、人を感動させるものが、君の音色にはある」
 「そ、そうですか・・・?」
 「ああ、間違いなくね。君の演奏を聴いている人の表情を見ていたらわかるよ」
 「・・・」
 「だから、君にはもっと上に行ってほしい」
 「上・・・?」
 「ただ上手いだけの俺にはたどり着けない・・・高みに、ね」
 「神坂先輩・・・」
 「ま、それが理由だよ。君に目をかける、ね」
 「・・・私に、そこまで行くことができるんですか・・・?」
 「それは君次第だ」
 「・・・」
 「俺に出来ることは、そこまで行くための手助けだけさ」
 「先輩・・・」
 「君は、そういうところまで行ってみたいと思わないかい?」
 「・・・」
 「音楽は人を癒せる」
 「!!」
 「君の音色は、それが可能なんだよ」
 「私の・・・フルートが・・・?」
 「君のフルートで、人々を・・・高嶺君を癒してみたくないかい?」
 「・・・お兄ちゃん・・・」
 「どうだい?」
 「・・・やります」
 「・・・」
 「私、やってみます。みんなの・・・お兄ちゃんの支えになれるのなら」
 「いい返事だ。それじゃあ早速練習を再開しようか・・・佳織ちゃん」
 「は・・はいっ!!」


─聖ヨト歴330年 シーレの月 青 四つの日 朝
 闘護の部屋

 「むっ・・・」
 闘護は目を覚ます。
 「・・・」
 ムクリと起きあがると、周囲を見回した。
 「・・・夢か」
 そして、ゆっくりと呟く。
 『佳織ちゃんを“佳織ちゃん”と呼ぶようになった頃か・・・』
 闘護は小さくため息をつくと、ベッドから出た。
 『平和だったなぁ・・・あの時みたいに、また彼女のフルートが聴けたら・・・』
 そう思って小さく首を振る。
 「・・・仕度、しよう」
 そして、側の椅子にかけてある衣服を手に取る。

 闘護の装備は、第二詰め所の管理人になってから変化した。
 ファンタズマゴリアの布で、現代世界での学校の制服(上着、シャツ共に半袖)と同じデザインの物を作ってもらい、それを着ていた。
 その下に、鎖帷子、すね当てを着込み、籠手をつける。
 そしてその上にラキオスの戦闘服を羽織る。
 以前、スピリット達が着ているエーテルによって作られた戦闘服を着てみたらという提案をヒミカがしたが、一日持たずにボロボロになってしまったのだ。
 理由は不明だが、エーテルによる服は着られないため、このような格好になった。

 「ふぅ・・・」
 闘護は仕度を終えて椅子に座った。
 『今日、開戦宣言が始まり、戦いが始まる・・・か』
 闘護は昨晩テーブルの上に広げたまま置いてある地図を見た。
 『ラキオス、サルドバルト、イースペリアの龍の魂同盟・・・』
 闘護は視線を走らせる。
 「当面の敵・・・バーンライト」
 闘護は小さく肩をため息をつく。
 「バーンライトを倒したらどうなるか・・・」
 『バーンライトと同盟を結んでいるダーツィ大公国、それに帝国が敵に回る、か』
 更に、視線を動かす。
 「ダーツィ大公国はともかく、帝国がしゃしゃり出てくる・・・そこがポイントだな」
 闘護は首を振った。
 『ま、ここで深く考えても仕方ない、か・・・』
 その時、ドアがノックされた。
 「トーゴ様、時間です」
 ドアの外からヒミカが呼ぶ。
 「わかった」
 闘護は立ち上がると、自分の頬をパチンと叩いた。
 「さて・・・行くか」


─同日、朝
 第一詰め所、食堂

 食堂には、作戦会議のために悠人、闘護を始め、エスペリアたち第一詰め所にいるスピリットと、ヒミカ達第二詰め所にいるスピリットのうち、今回の作戦には参加しないセリアとナナルゥを除く全員がテーブルを囲うように集まっていた。
 上座には悠人と闘護がいる。

 「ユート様。謁見の間で聞いた通り、バーンライトが宣戦布告をしてきました」
 「みたいだな」
 「これにより、ラキオスとバーンライトは戦争状態に入ります」
 エスペリアの言葉に、悠人と闘護は頷く。
 「現在、スピリットの戦力では我が国が劣っています」
 「はっきり言うね」
 闘護が苦笑する。
 「ただし、サードガラハムの守り龍を倒したため、保有マナ量では我が国の方が有利です。バーンライトは、我が国が戦力を増強する前に叩くつもりなのでしょう」
 エスペリアはテーブルの上に広げられた地図の一転を指さした。
 「敵は兵力をリーザリオに集結している模様です」
 続いて指を走らせる。
 「後背を突くのが上策ですが、ラセリアとサモドアを繋ぐ、山間の道は閉鎖されてます」
 「と、なると・・・」
 悠人が腕を組む。
 「遠回りするしかないな」
 闘護が難しい顔で呟く。
 「はい。リーザリオとリモドアを経由して、首都サモドアに進軍しましょう」
 エスペリアは二人を見た。
 「今回が、始めての本格的な作戦行動となります」
 「ああ」
 「わかってる」
 「ユート様、トーゴ様。なんとしても、この作戦を成功させましょう」
 エスペリアの言葉に、二人は頷いた。
 「パパは隊長さんだね♪オルファ、な〜んでも言うこときくよ〜」
 オルファリルが明るい声で言う。
 「オルファ!!ユート様にそのような口の聞き方はなりません」
 「ぷ〜、なんで!?パパはパパだよ〜」
 エスペリアの言葉に、オルファリルは頬をふくらませる。
 「いけません!私たちは、ユート様の命令に従い、戦わなければなりません。解りますか、オルファリル?」
 エスペリアは厳しい口調でたしなめる。
 「エスペリア、いいんだ。俺も別に何が違うって訳じゃないし」
 『別に、隊長だからって何かが変わるわけでもないし』
 厳格にオルファリルを叱るエスペリアに、悠人が助け船を出す。
 『隊長という立場に、エスぺリアは変なこだわりにとらわれていると思えるな』
 闘護はふと、考える。
 「ほら♪ねぇ〜、パパもそう言ってるもん」
 エスペリアは真剣な眼差しを悠人に向けた。
 「ユート様、ラキオス軍スピリット隊・隊長補佐の立場から申し上げます。私たちは道具です。人ではありません」
 エスペリアは厳しい口調で言う。
 「ユート様がどう思われようと、これは紛れもない事実です。もう今までのようにはまいりません。アセリア、特にオルファ・・・!!」
 「う、うん・・・」
 オルファリルは沈んだ口調で返事をする。
 「ん」
 対するアセリアはいつも通りの抑揚のない口調で頷く。
 「ヒミカ達もです」
 【は、はい!!】
 エスペリアの言葉に、ヒミカ達も頷く。
 『・・・』
 エスペリアの態度に、闘護は眉をひそめる。
 「私たちは、ユート様の剣であり楯です。ユート様の言葉は絶対であり、自分の命よりも重いと考えなさい」
 「な・・!?無茶苦茶な事言うなよ、エスペリア!!」
 悠人の言葉に、エスペリアは表情を変えなかった。
 「何がおかしな事でしょうか。私たちは・・・スピリット。戦う道具なのです」
 エスペリアはそれ以上の問いを拒むように、強い口調で言った。
 「・・・」
 絶句する悠人の肩を、闘護が軽く叩いた。
 「ま、おかしくはないな」
 「闘護!?」
 「悠人。お前は俺たちのトップだ」
 闘護はエスペリア達を見回した。
 「お前には、俺たちの生殺与奪の権利があると思ってくれ」
 「だ、だけど・・・」
 「それがリーダーの役割だよ」
 闘護は悠人の肩を掴む。
 「リーダーが死ねといったら死ぬ。それが軍ってもんだろ?」
 「・・・」
 「そうだよな、エスペリア?」
 「は、はい・・」
 闘護に突然話を振られて、エスペリアは戸惑いながらも頷く。
 「と、いうことだ」
 闘護は悠人の肩から手を放した。
 「俺たちを道具として扱ってかまわない。それがリーダーの責任だ」
 「・・・」
 「ま、あんまり重く考えるな」
 闘護はニヤリと笑うと、悠人の耳の側に口を近づけた。
 「道具ったって、大切に扱うのが一番だろ?」
 「と、闘護?」
 「彼女たちをどう思うかはお前の自由だし、お前にどう思われたいかも彼女たちの自由」
 闘護は小さく肩を竦める。
 「要は、お前がしっかりすればみんな無事に生き残ることが出来る。それだけだ」
 「・・・」
 バシーン!
 「ってぇ!!」
 複雑な表情を浮かべる悠人の背中を、闘護が少し乱暴に叩く。
 「ほれ、しっかりしろ!!」
 「あ、ああ・・・」
 「全く・・・あのなぁ」
 闘護は渋い表情を浮かべると、悠人とエスペリアを見た。
 「戦う前から、いきなり士気を下げるな。隊長、隊長補佐を務めるなら、それぐらいわかってくれよ」
 闘護の叱咤に二人は俯く。
 「す、すまん・・・」
 「申し訳ありません」
 「わかればいいんだ」
 闘護は頷いた。
 「なぁ・・・闘護」
 悠人は闘護を見た。
 「・・・」
 「隊長はお前が・・」
 「駄目だ」
 悠人の言葉を遮るように闘護は言った。
 「闘護・・・」
 「永遠神剣を持たない俺が隊長になるわけにはいかない」
 「そんなこと関係ないだろ?」
 「お前やスピリット達には、な」
 闘護は肩を竦めると、悠人の耳元に口を近づけた。
 「生憎、俺はラキオス王をはじめとした、この国の人間に嫌われてるんだ」
 「・・・」
 闘護の言葉に、悠人は絶句する。
 「そういうわけで、隊長はお前がやれ」
 闘護は悠人の肩を叩いた。

 そして、悠人達スピリット隊はラキオスを出立、リモドアへと向かった。


─聖ヨト歴330年 シーレの月 青 五つの日 朝
 リーザリオへ続く道

 スピリット隊は、リーザリオに向かって進軍している。
 闘護、ヒミカ、ハリオン、ネリー、シアー、ヘリオンは先頭を、悠人、エスペリア、アセリア、オルファリルは後方を歩いていた。

 「はぁ・・・」
 「どうしたの、シアー?」
 ため息をついたシアーに、ネリーは声をかける。
 「うん・・・怖いなぁって・・・」
 シアーは沈んだ表情で呟く。
 「怖いって?」
 「敵と戦うの・・・怖いよぉ」
 泣きそうな表情で呟く。
 「そうかなぁ?」
 ネリーは首を傾げる。
 「ねぇねぇ、ヘリオンはどう思う?」
 「え、えぇっ・・?」
 突然話を振られて、ヘリオンは目を白黒させる。
 「戦うの、怖い?」
 「え、えっと・・・こ、怖い、です」
 ヘリオンは正直に答える。
 「ネリーは・・・怖く、無いの?」
 「うーん・・・」
 シアーの問いに、ネリーは首を傾げる。
 「ネリー、わかんないや」
 「・・・」
 「・・・」
 ネリーの回答に、シアーとヘリオンは唖然とする。
 「ちょっと、三人とも。静かにしなさい」
 前を歩くヒミカが叱る。
 【はーい・・・】
 シュンとする三人。
 「まぁまぁ〜、皆さん緊張してるんですから〜」
 ハリオンがヒミカをなだめる。
 「だけど・・・」
 「ハリオンの言う通りだ」
 その時、いつの間にか後方に下がってきた闘護が口を挟む。
 「トーゴ様!」
 「初戦なんだし、誰だって緊張するだろ」
 「それはそうですが・・・」
 「ヒミカだって、本格的な実戦は初めてだろ?」
 「・・・」
 闘護の言葉に、ヒミカはバツが悪そうに黙る。
 「ま、誰だって最初はあるさ」
 闘護は気楽な口調で言う。
 「トーゴ様も最初があったの?」
 ネリーが尋ねる。
 「ああ。俺の最初の戦いは・・・」
 そこで闘護は押し黙る。
 『最初の戦い・・・殺したのとは別でいいのか・・・?』
 「トーゴ様・・・?」
 沈黙する闘護に、ヒミカが声をかける。
 「あ、ああ・・・俺の最初の戦いは、ラースに攻めてきたバーンライトのスピリットとの戦いだな」
 闘護は慌てて答える。
 「ど、どうだったんですか・・・?」
 ヘリオンが恐る恐る訪ねた。
 「どうだったって・・・怖かったか、怖くなかったかってこと?」
 「は、はい・・」
 「怖くないと言えばウソになるけど・・・」
 闘護は難しい表情を浮かべた。
 「スピリットの攻撃が効かないんだから、みんなほど難しく考えてはいなかった」
 「そうですか・・・」
 「参考にならないだろ」
 闘護は肩を竦める。
 「・・・」
 「・・・」
 ヘリオンとシアーは何を言えばいいのか解らず、沈黙する。
 「でもでも、それじゃあトーゴ様は無敵なんだよね?」
 ネリーが目を輝かせて尋ねる。
 「スピリットの攻撃を受けないって意味ではな」
 闘護が答える。
 「凄いよね〜。トーゴ様って」
 「ネリー。そんなことは前からわかってることでしょ」
 ヒミカの言葉に闘護は苦笑する。
 「ま、死なないって意味では凄いかもな。けど、攻撃は出来ないんだから中途半端だけどね」
 「いえ、トーゴ様は我々の指揮官です。戦場で戦うのは、我々スピリットです」
 ヒミカが強い口調で言い切る。
 「・・・生憎だが、俺も戦場に出るぞ」
 闘護は少し表情を硬くして言う。
 「トーゴ様?」
 「俺はね。部下には危険な場所に向かわせて、自分は安全な場所でのうのうとしている・・・そういうのは大嫌いなんだ」
 【・・・】
 四人は何も言えずに沈黙している。
 「っと・・・ちょっと、マジになっちゃったな」
 闘護は頭を掻く。
 「ま、そういうわけだから・・・俺も戦線に出るよ。攻撃は出来なくても、楯ぐらいにはなる」
 闘護はニヤリと笑うと、ネリー、シアー、ヘリオンの頭をそれぞれポンと叩く。
 「君たちがピンチになったら、すぐに助けに行くからな」
 闘護の言葉に、三人は笑顔になる
 【はいっ!!】
 「もちろん、ヒミカやハリオンのピンチにも駆けつけるよ」
 闘護は、前の二人にも声をかける。
 「あ、ありがとうございます!!」
 「頼りにしてますねぇ〜」
 二人の言葉に、闘護は笑顔で応える。
 「!!トーゴ様!!」
 その時、ヒミカが血相を変えて叫んだ。
 「どうした?」
 「敵襲です〜」
 ハリオンものんびりした声で言う。
 「敵・・・?」
 闘護は周囲を見回す。
 「みんな、行くよ!!」
 【はいっ!!】
 ヒミカのかけ声に、闘護を除く全員が頷く。
 「っと、おいおい」
 「何してる、闘護!!」
 後ろから悠人達が駆けてくる。
 「あ、いや・・・」
 「行くぞ!!」
 悠人達は闘護を素通りして走っていく。
 「・・・」
 『敵が来たかどうか、よくわかるよな・・・神剣の気配を察知しているのか?』
 駆け出すみんなを、闘護は感嘆の表情を浮かべながら追いかける。


 「ヤァ!!」
 「くぅっ!!」
 ガキーン!!
 ヒミカと敵スピリットの神剣がぶつかる。
 ギシシィ・・・
 敵スピリットの方が力が強く、ヒミカが押される。
 「ハァッ!!」
 ガキン!!
 「!!」
 ヒミカの神剣が弾かれる。
 その隙に、敵スピリットは神剣を振った。
 シュッ・・・
 「っ!!」
 身体をひねってかわしたヒミカの腕を僅かに掠る。
 「はぁっ!!」
 そのままヒミカは身体を回転させて勢いをつけると、そのまま神剣を敵スピリットの胸に繰り出す。
 ザシュッ!!
 ヒミカの一撃が、敵スピリットを貫く。
 あっという間に金色の光となり霧散していくと、ヒミカは次の目標を探す。

 「ハアッ!」
 ガキーン!!
 敵スピリットの一撃を、ハリオンは素早い動きで受け止める。
 「えい〜!!」
 カキン!!
 ハリオンは、【大樹】をクルリと回転させ、相手の神剣を弾く。
 ドシュッ!!
 更に、そのまま【大樹】を敵スピリットの胸に突き刺す。
 「ギャアアアア!!!」
 断末魔の叫び声をあげ、金色の光と消えていく。

 「フレイムシャワー!!」
 敵スピリットが神剣魔法を詠唱する。
 「させないよっ!!アイスバニッシャー!!」
 しかし、ネリーも神剣魔法を詠唱する。
 シュワァアアアア!!
 「!!??」
 ネリーの魔法で敵スピリットの神剣魔法が消滅する。
 「えいっ!!!」
 その隙に、ヘリオンが一気に敵スピリットの間合いを詰める。
 「てやぁっ!!」
 そして、懐に入った瞬間【失望】を抜く。
 ザシュッ!!
 あっという間に真っ二つに斬られた敵スピリットが霧散する。

 ガキン!!ガキン!!
 「わっ、わっ、わぁ!!」
 敵の攻撃を必死で受け止めるシアー。
 「ハッ!」
 ガシーン!!
 「きゃあ!?」
 敵の一撃に、シアーがはじき飛ばされる。
 「・・・」
 敵スピリットは、そのままシアーに向かって剣を振り下ろす。
 「きゃあああ!!!」
 シアーは目を閉じて硬直する。

 ガキーン!!

 「大丈夫か?」
 「・・・あ・・?」
 その時、シアーの前に闘護が立っていた。
 闘護は敵スピリットの神剣を受け止めている。
 「むんっ!!」
 ガシッ!!
 腕を振って、敵の神剣を弾く。
 敵スピリットは二人に対して間合いを取る。
 「シアー!!」
 「は、はいっ!!」
 「俺が前に出てヤツの動きを止めるから、その隙に!!」
 「わ、わかりました!!」
 シアーの返事を聞くなり、闘護は一気に前に飛び出した。
 「ファイアボール!!」
 その時、敵スピリットは神剣魔法を詠唱する。
 バシュッ!!
 巨大な火の玉が闘護に向かって飛んでいく。
 「むんっ!!」
 しかし、闘護は両腕をクロスすると、そのまま火の玉に向かって突っ込む。
 シュワアアアア!!!
 「!!?」
 火の玉は、闘護にぶつかった途端白い煙を吹き出して蒸発する。
 「おらぁ!!」
 闘護は右拳を振り上げた。
 「クッ!!」
 敵スピリットは、慌てて神剣を振る。
 ガキーン!!
 闘護の左腕につけた籠手と神剣がぶつかる。
 「たぁああ!!」
 その時、闘護の背後からシアーが飛び出す。
 そして、振りかぶった【孤独】を一気に敵スピリットに目掛けて振り下ろす。
 ザシュッ!!!
 敵スピリットは、一歩も動けずに霧散する。

 そして・・・

 「でやぁああ!!」
 ザンッ!!
 悠人の【求め】が、最後の敵を真っ二つにする。
 「・・・終わったみたいだな」
 すぐ側にいた闘護が周囲を見回した。
 「はあはあ・・・みんなは?」
 悠人の声に、周囲に散っていた仲間が集まってくる。
 「全員無事です。ユート様」
 エスペリアが報告する。
 「ヒミカ。腕から血が出てるじゃないか」
 「大丈夫です。かすり傷ですから」
 闘護に声をかけられ、ヒミカは答える。
 「ハリオン。治療してやってくれ」
 「はい〜」
 ハリオンは、ヒミカの傷を負ったが箇所に手を添える。
 「アースプライヤー」
 緑色の光が傷を覆い、ゆっくりと治癒していく。
 「他は・・・大丈夫みたいだな」
 闘護は他のメンバーを見回して呟く。
 「どうする、悠人?すぐに出発するか?」
 「・・・」
 闘護の問いかけに、悠人は考え込む。
 『すぐに出発した方がいいか?それとも少し休んだ方がいいのか?』
 「ユート様。少し休憩を取った方がいいと思います」
 エスペリアが提案する。
 「そ、そうだな。じゃあ、しばらく休憩しよう」
 【はーい】
 悠人の命令に、ネリー達ちびっ子スピリットが嬉しそうに声を上げた。


 「ふぅ・・・」
 闘護は近くの木に背を預けた。
 「大丈夫ですか、トーゴ様?」
 ヒミカとハリオンが駆け寄ってきた。
 「大丈夫だよ。俺より、ヒミカはどうなんだ?」
 「私も大丈夫です」
 ヒミカはそう言って闘護の隣に座り込む。
 「失礼します〜」
 ハリオンは、闘護を挟んでヒミカの反対側に座る。
 「初戦・・・感想は?」
 「・・・疲れました」
 「そうですねぇ〜」
 二人の回答に、闘護は苦笑する。
 「そうか」
 「これが、戦いなんですね〜」
 「まあ、ね」
 「エスペリア達は何度も戦ってるんだから、私たちも頑張らなきゃ!!」
 「あまり力むなよ」
 ヒミカの気合いに、闘護は少し渋い表情を浮かべる。
 「いつも気張ってると、保たないぞ」
 「そうですよ〜ヒミカ」
 「あなたはノンビリしすぎなの」
 ハリオンの言葉に、ヒミカは鋭く突っ込む。
 「そうかしら〜」
 「そうなの!」
 「まあまあ」
 闘護がヒミカをなだめる。
 「トーゴ様も言ってやって下さい。ハリオンったら・・・」
 「ま、あまりノンビリしすぎるのも問題だけどね」
 「そうでしょうか〜?」
 「けど、いざというときに、しっかりしてくれればいいんだよ」
 「そうですよね〜」
 ハリオンがウンウンと頷く。
 「トーゴ様、そんな甘いことを・・・」
 「ヒミカ」
 闘護はヒミカの言葉を遮る。
 「俺たちの戦いは始まったばかりだ。さっきも言ったように、気張ってばかりじゃダメだ。力を抜くときは抜かないと」
 「・・・はい」
 ヒミカは少しシュンとする。
 『ちょっと、言い過ぎたな・・・』
 「今は休憩中なんだから、安心して気を抜いていいんだ。戦闘が始まれば、さっきみたいにしっかり集中すればいい」
 闘護はフォローするように、優しく笑った。
 「その時しっかり集中するためにも、今はゆっくりと休もう」
 「トーゴ様・・・」
 「そうですよ、気を抜きましょう〜」
 「・・・ハリオン。君は抜き過ぎ」
 今度は闘護が突っ込む。
 「酷いです〜トーゴ様〜」
 「・・ぷっ」
 ヒミカが吹き出す。
 「ははは・・・」
 「あはは〜」
 つられて闘護とハリオンも笑う。
 「トーゴ様!!」
 その時、ネリーとシアーとヘリオンが駆け寄ってきた。
 「ほらほら、ネネの実だよ」
 ネリーは自慢げに、小さな実を見せた。
 「ヒミカにあげるね」
 ネリーが実を一つ、ヒミカに渡す。
 「あ、ありがと・・・」
 「ハリオンにも・・・」
 シアーが実を一つ、ハリオンに渡す。
 「ありがとうございます〜」
 「と、トーゴ様にも・・・」
 ヘリオンが実を一つ、闘護に渡す。
 「ありがとう」
 闘護は笑顔で受け取った。
 「悠人達にもあげたのか?」
 「ユート様には、オルファが・・・」
 シアーの言葉に、闘護は少し離れたところを見る
 そこで、オルファリルにネネの実を貰っている悠人、エスペリア、アセリアがいた。
 「みたいだな」
 闘護はそう言って、ネネの実を一口かじった。
 「うまい」
 「そうでしょ、そうでしょ!?」
 ネリーが嬉しそうに頷く。
 「甘い物は、疲労回復にいいんですよ〜」
 ハリオンがネネの実を頬張りながら言った。
 「そ、そうなんですか・・・?」
 ヘリオンが尋ねる。
 「そうなんですよ〜」
 「ふーん・・・」
 ヒミカが感心したように呟く。
 「君たち」
 闘護はネリー、シアー、ヘリオンを順に見回す。
 「今回の戦いは、よく頑張ったな」
 「えへへ」
 「は、はい・・・」
 「あ、ありがとうございます・・・」
 闘護の言葉に、三人は一様に嬉しそうに笑う。
 「初戦・・・どうだった?」
 闘護の問いに、ネリーは首を傾げ、シアーとヘリオンはオドオドする。
 「えっと・・・凄く疲れたかな?」
 「こ、怖かったですぅ・・・」
 「わ、私もです・・・」
 「そうか・・・」
 三人の回答に、闘護は頭を掻く。
 「まず、ネリーだが・・・疲れただけ、か?」
 「うん」
 「怖くなかったのか?」
 闘護の問いに、ネリーはウーンと首をひねる。
 「怖かったけど、みんながいるから大丈夫だと思ったよ」
 ネリーの回答に、闘護は目を丸くし、次いで苦笑する。
 「そうか・・・確かに、そうかもな」
 闘護はシアーとヘリオンに視線を向けた。
 「二人は怖かったということだけど・・・ネリーみたいに、仲間がいることで、少しは勇気が持てたかい?」
 闘護の問いに、シアーとヘリオンは首を振る。
 「そうか・・・」
 闘護がふぅと息をつく。
 『初戦ということを考えると・・・シアーとヘリオンが正しい』
 闘護は考える。
 『だが、戦い自体を考えると・・・ネリーが正しい』
 「トーゴ様・・・?」
 ネリーが心配そうに闘護をのぞき込む。
 「どうしたの?」
 「あ、ああ・・・」
 闘護は小さく首を振ると、五人を見回した。
 「戦いはまだまだこれからだ」
 【・・・】
 「シアーやヘリオンみたいに、怖くてたまらないことも何度だってある」
 闘護の言葉に、シアーとヘリオンは俯く。
 「しかし・・・」
 闘護はネリーを見た。
 「ネリーの言う通り、君たちは一人じゃない」
 闘護はゆっくりと立ち上がった。
 闘護より身長の低い三人は闘護を見上げた。
 座り込んでいるヒミカとヘリオンも闘護を見上げる。
 「仲間がいることを忘れないでくれ。ピンチになったら、迷わず助けを呼ぶんだ」
 闘護はゆっくりとシアーとヘリオンの頭の上に手を置いた。
 「わかったかい?」
 闘護が優しい笑顔で尋ねた。
 「わかりました・・・」
 「は、はい!!」
 シアーとヘリオンの返事に、闘護は満足したように頷く。
 「ネリー達もな」
 闘護はネリー達に視線を移した。
 「うん!!」
 「はいっ!!」
 「わかりました〜」
 三人の返事に、闘護は満足げに頷いた。

 その後、一行は再び進軍を再開する。
 途中、何度か敵と遭遇し、その度に戦闘・・・そして、勝ち抜いていく。
 時は過ぎ・・・シーレの月、緑 二つの日・・・


─聖ヨト歴330年 シーレの月 緑 二つの日 朝
 リーザリオ郊外

 「街はスピリットで固められてるな」
 闘護が双眼鏡を覗きながら呟く。
 「戦いはスピリットが行うものですから」
 エスペリアが抑揚のない口調で答える。
 「・・・」
 闘護はわずかに眉をひそめた。
 「ユート様。どうしますか?」
 「正面から行こう」
 エスペリアの問いに、悠人が言った。
 「正面ね・・・ま、それしかないか」
 闘護は双眼鏡から目を離す。
 悠人は後ろを振り返る。
 仲間は全員準備を終えて命令を待っている。
 「みんな!!行くぞ!!」

 そして・・・
 戦いは昼過ぎまで続き、ラキオスの勝利に終わる・・・


─同日、昼
 リーザリオ郊外

 「ふぅ・・・あらかた片づいたか」
 闘護は額の汗を拭った。
 大勢は決し、敵スピリットもほぼ全滅している。
 『まぁ、俺は何もしてないけど・・・』
 闘護は苦笑する。
 【トーゴ様!!】
 エスペリアとヒミカが駆け寄ってくる。
 「おう。状況は?」
 「生き残った敵スピリットは撤退しました。方角から、おそらくリモドアに向かったと思われます」
 エスペリアが報告する。
 「そうか・・・こっちの被害は?」
 「無傷のものはいませんが、動けないほどの重傷者はいません」
 「そうか」
 ヒミカの報告に、闘護は安堵の息をつく。
 「悠人はどうしてる?」
 「ユート様は、向こうの方で戦っていましたが・・・」
 エスペリアが指を指した方を、闘護は見た。
 「そうか・・・エスペリア、ヒミカ。とりあえず全員集めといてくれ」
 【わかりました】
 二人の返事を聞いて、闘護は悠人のいる方へ向かった。


 「ハァハァハァ・・・くっ」
 悠人は【求め】を大地に突き立て、体重を預ける。
 緊張状態の連続に、悠人の疲労は極致に達していた。
 「・・・ん。あつい、のか?」
 悠人の冷や汗を流している姿を見て、涼しげな表情でアセリアは尋ねる
 アセリアは、汗一つかいていない。
 「暑いか・・・それだといいんだけどな」
 悠人は苦い表情を浮かべる。
 「冷や汗ってヤツだよ」
 悠人はアセリアを見た。
 「アセリアは、怖くないのか?戦うのが」
 「こわい・・・?・・・ん、わからない」
 アセリアは、表情一つ変えず、ただ一瞬だけ目が泳いだ。
 『きっと、本当に解らないんだろうな・・・』
 「・・・正直言って、俺は怖い」
 悠人はゴクリと唾を飲み込む。
 「殺されることが・・・それに殺すことも・・・」
 『佳織を守るために、人を殺す・・・それが許されるのか?』
 「・・・」
 言葉が出ない悠人を、アセリアは不思議そうに見つめていた。
 「悠人!!」
 そんな二人の所へ、闘護が駆け寄ってくる。
 「闘護・・・」
 「どうやら、無事みたいだな」
 「ああ」
 「戦いは俺たちの勝ちだ。リーザリオは落ちたよ」
 「わかった」
 闘護の言葉に、悠人は頷く。


─同日、夕方
 リーザリオ郊外

 悠人達は、リーザリオ郊外にキャンプを張った。
 指揮官のテントには闘護、悠人、エスペリアの三人が集まっている。

 「トーゴ様、ユート様、リーザリオを制圧しました」
 エスペリアが報告する。
 「リーザリオが保有していたマナは、我が国のものとなります。リモドア攻略の足がかりとなるでしょ」
 エスペリアが笑顔を浮かべる。
 「お疲れ様です。まだ戦いは続きますけれど、今は勝利を喜びましょう」
 「そうだな・・・」
 悠人が頷く。
 「・・・一応聞いておきたいんだが」
 闘護が挙手する。
 「何ですか?」
 「街の被害は?崩れた家を幾つか見たが・・・」
 闘護が尋ねる。
 「・・・決して小さくはありませんが、人的被害はそれほど多くはありません」
 「そうか」
 「敵スピリットとの戦いは、市街戦もありましたから・・・」
 「原因は?」
 ずっと外で戦っていた闘護が尋ねる。
 「敵軍の隊長の作戦のようです」
 「なるほど・・・」
 闘護は眉をひそめる。
 「敵の隊長は、住民を巻き込んでも平気な性格ってわけだ」
 「・・・」
 「隊長は、人間なの?」
 「はい」
 「そうか・・・」
 闘護はため息をついた。
 「もう日も落ちます。リモドアへの進軍は明日からにしましょう」
 「ああ」
 悠人が頷く。


 次の日・・・
 一行はリーザリオを出発、リモドアへ進軍を開始した。


─聖ヨト歴330年 シーレの月 緑 五つの日 夕方
 リモドア

 「ふんっ!!」
 ズバッ!!
 悠人は周囲にいた最後の敵スピリットを切り裂く。
 「はぁはぁはぁ・・・」
 悠人は息を切らせながら周囲を見回す。
 『もう、敵はいないな・・・?』
 悠人の視界には、何一つ動いている物はいない。
 「悠人!!」
 その時、闘護が駆け寄ってくる。
 「闘護」
 「街の外は制圧した。こっちはどうだ?」
 「後少しだ」
 「そうか・・・」
 闘護は周囲を見回した。
 「随分と派手に暴れたな・・・」
 闘護は眉をひそめる。

 二人がいるのは街の商店街だが、スピリット同士の壮絶な戦いが繰り広げられたため、廃墟と化している。

 「・・・」
 悠人は黙って目を背けた。
 「指揮官は逃げたらしい。生き残ったスピリットに守られてサモドアの方へ向かったみたいだ」
 「そうか・・・」
 「・・・アセリアはどうした?」
 「アセリアは街の中心の方に逃げたスピリットを追ってる」
 「だったら、俺たちも行くぞ」
 闘護が走り出す。
 「・・・」
 悠人も闘護に続いて走り出した。

 「あれは・・・」
 二人の視界に、アセリアと、アセリアに追いつめられたスピリットが一体入った。
 既にスピリットは二人だけしかおらず、追いつめられたスピリットがサイトの敵スピリットであることはすぐに解った。
 「ん・・・、とどめ!」
 ザクッ!!
 リモドアを守る最後のスピリットに、アセリアは【存在】の刃を突き立てる。
 力が抜けてゆくに連れて、金色の光の霧になり、アセリアの顔を照らす。
 「・・・ふぅ」
 アセリアは血と死体と、金色の光に包まれた世界の真ん中に立ち、ため息を漏らしながら天を仰ぐ。
 【・・・】
 感情の込められていないそれは、何を意味しているのか二人には解らない。
 傷一つ無く、返り血も浴びていない純白の服と、青い髪が風にそよぐ。
 『今回の戦いは勝てた。でも、次は・・・?』
 アセリアを見ながら、悠人はふと考える。
 『いつまで戦い続ければいいのか』
 悠人はアセリアのように空を見上げた。
 暗雲から差し込む金色の光が眩しい。
 「・・・ん?」
 ジッとこちらを見ているアセリアと悠人の目が合う。
 「何だ、アセリア?」
 「・・・なんでもない・・・」
 アセリアはいつもの口調で答える。
 「あ、ああ。そうか」
 『まあいいか。今日は生き残れたんだから、とりあえずそれを喜ぼう』
 悠人は小さく首を振った。
 「行くぞ」
 闘護が声をかける。
 「・・・ん」
 アセリアはボンヤリとしている悠人をさしおいて、一人スタスタと歩いていった。
 「お、おいおい・・・」
 慌てて悠人も二人の後を追いかけた。


─同日、夜
 リモドア

 廃墟の一角で、原型を止めている家を接収し、一時的に滞在することになった。
 その一室─悠人の部屋─に、悠人、闘護、エスペリアが集まる。

 「おめでとうございます。リモドアを制圧しました」
 エスペリアが笑顔で報告する。
 「作戦は成功です。バーンライトは首都サモドアで防御を固めているようです。残存戦力は微々たるものと、情報部から伝達がありました」
 エスペリアは続ける。
 「一気に攻め落としましょう」
 「ああ」
 悠人はテーブルの上に広げた地図を見た。
 「ここからサモドアまで大して時間はかからないな・・・」
 「二日かな。敵がいなかったら、の話だが」
 闘護が呟く。
 「はい。出発は・・・」
 ドンドン
 その時、エスペリアの言葉を遮るようにドアが乱暴にノックされた。
 「誰だ!?」
 闘護がドアの向こう側に向かって叫んだ。
 「ヒミカです!!失礼します!!」
 そう言うなり、ドアが開いてヒミカが血相を変えて飛び込んできた。
 「何です!?」
 「これを!!」
 ヒミカはエスペリアに一通の書状を渡した。
 「これは・・・」
 エスペリアは書状に目を通す。
 すると、エスペリアの顔色が見る見るうちに変わる
 「エスペリア・・・?」
 「ユート様!!」
 エスペリアが血相を変えて叫ぶ。
 「バーンライトの工兵達が、ラセリオとサモドアを繋ぐ道を解放しようとしています!!」
 「なんだと!?」
 悠人が声を上げる。
 「ラセリオとサモドアの山道・・・」
 闘護は地図に目を走らせる。
 「まずいな・・完全に、裏側に回られるぞ」
 「何としても、阻止しないと」
 悠人はエスペリアを見た。
 「はい。ラセリオに戻り防衛をしましょう」
 「よし、それじゃあ・・・」
 「トーゴ様」
 闘護が言いかけたとき、ヒミカが口を挟んだ。
 「何だ?」
 「これを・・・トーゴ様への書状です」
 ヒミカが闘護に書状を一通差し出す。
 「俺に?」
 闘護は書状を受け取ると、早速中身に目を通す。
 「・・・なんだと?」
 闘護は読み終えると眉をひそめた。
 「どうした?」
 「ラキオスに戻ってこいだとさ」
 闘護は肩を竦めて書状をテーブルの上に放り投げた。
 「ラキオスに・・・?」
 悠人は書状を拾い上げる。
 「なになに・・・“スピリット隊副長トーゴは、至急ラキオスへ帰還せよ”?」
 「トーゴ様一人ですか?」
 エスペリアが尋ねる。
 「他のメンバーの名前が載ってないから、多分な」
 「どうして闘護だけなんだ?」
 悠人は書状を置くと首を傾げた。
 「さぁ・・・」
 闘護は呟くと天井を見上げた。
 「何を企んでるやら・・・」


 次の日、闘護はリモドアを出発、ラキオスへ向かった。
 一方、悠人、アセリア、エスペリア、オルファリルの四人はラセリオへ向かう。
 ヒミカ、ハリオン、ネリー、シアー、ヘリオンは引き続きリモドアに待機することになった。

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