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─聖ヨト歴330年 エクの月 赤 一つの日 昼
 第二詰め所前

 「“ここが新しく作られた第二詰め所です”」
 「“ここが俺の新しい寝床ねぇ・・・”」
 闘護は目の前に建つ家を見て呟いた。
 「“この館に配備されるスピリットは五名。そのうち、赤と緑の二名はある程度訓練を行っていますが、他三名はまだ未熟です”」
 「“ふーん・・・”」
 「“こちらです”」
 エスペリアがドアを開ける。
 「“ああ”」
 エスペリアに先導されて、闘護は中に入った。


─聖ヨト歴330年 エクの月 赤 一つの日 昼
 第二詰め所、食堂

 「“こちらに・・・”」
 エスペリアに通されて食堂にはいると、五人の少女が立っていた。
 「“・・・彼女たちは?”」
 「“第二詰め所で待機しているスピリット達です”」
 エスペリアは少女達を見た。
 『ふーん・・・赤と緑と黒の髪が一人、青い髪が二人か・・・』
 闘護は手に持っていた袋を床に置くと、五人を見回した。
 「“こちらが、スピリット隊副長兼、第二詰め所管理者に任命されたトーゴ様です”」
 「“初めまして。神坂闘護だ”」
 闘護は頭を下げた。
 「“【赤光】のヒミカ=レッドスピリットです!!”」
 赤い髪の少女が元気な声で挨拶する。
 「“【大樹】のハリオン=グリーンスピリットです〜”」
 緑の髪の少女がのんびりした声で挨拶する。
 「“【静寂】のネリー=ブルースピリットだよ!”」
 青い髪の少女の一方─髪の毛をポニーテールにしている少女が明るい声で挨拶する。
 「“【孤独】のシアー=ブルースピリットです・・・”」
 もう一方の青い髪の少女─おかっぱの少女が大人しい声で挨拶する。
 「“し、【失望】の、ヘリオン=ブラックスピリットですぅ”」
 黒い髪の少女がおどおどした声で挨拶する。
 「“これから、よろしく”」
 闘護は端にいるヒミカに手を差し出した。
 「“こちらこそ、よろしくお願いします!!”」
 ヒミカは闘護の手を握り返す。
 「“よろしく”」
 続いて、ハリオンに手を差し出す。
 「“はいはい〜、こちらこそ〜”」
 ハリオンはのんびりと闘護の手を握り返す。
 「“よろしくね”」
 闘護はネリーに手を差し出した。
 「“これからよろしくお願いします!!”」
 ネリーはニカッと笑って闘護の手を握り返す。
 「“よろしく”」
 闘護はシアーに手を差し出す。
 「“お願いします〜”」
 シアーは少しおっかなびっくりした様子で闘護の手を握り返す。
 「“これからよろしく”」
 「“あ、あの・・その・・・は、はい・・”」
 ヘリオンは明らかに動揺した様子で闘護の手を握り返す。
 「“いや、そんなに緊張しなくていいから”」
 「“は、はい!!”」
 「“・・・ま、いずれ慣れるよ”」
 ヘリオンの返答に、闘護は苦笑する。
 「“トーゴ様”」
 挨拶を終えると、エスペリアが声をかけた。
 「“管理者の仕事は・・・”」
 「“大体解ってる”」
 闘護はエスペリアの言葉を遮った。
 「“この館の料理、洗濯、掃除、その他諸々の雑用をすればいいんだろ?”」
 「“そうです。ですが、トーゴ様一人で全てをすることはありません”」
 エスペリアはヒミカ達を見た。
 「“みんな”」
 「“はいはい。わかってますよ〜”」
 ハリオンが答える。
 「“料理は、私と〜”」
 「“私がします”」
 ハリオンとヒミカが言った。
 「“洗濯は各自で行うことになってます”」
 ヒミカの言葉に闘護は頷いた。
 「“洗濯はそれでいい”」
 「“では・・・”」
 「“料理と掃除は俺もするぞ”」
 闘護の提案に、ヒミカが目を丸くする。
 「“いいんですか?私とハリオンでやっても・・・”」
 「“自分のことは自分でする”」
 闘護はピシャリと言い放った。
 「“第一詰め所にいたときはエスペリアに甘えっぱなしだったけど、これからはね・・・”」
 闘護はエスペリアを見た。
 エスペリアは苦笑して頷く。
 「“トーゴ様がそう仰るなら、それでいいと思います”」
 「“エ、エスペリア・・・”」
 「“ま、そういうことだから”」
 闘護はニヤリと笑った。
 「“さてと・・・それじゃあ、俺の部屋を教えてくれ”」
 「“こっちだよ!!”」
 ネリーが闘護の手を掴んで引っ張る。
 「“お、おっとっと・・”」
 慌てて闘護は空いてる方の手で袋を掴む。
 「“ほらほら!!早く早く!!”」
 ネリーに引っ張られて、闘護は食堂から姿を消す。
 「“ネリー、待ってぇ・・・”」
 「“ね、ネリー。駄目だよ、トーゴ様が困ってるよぉ・・・”」
 シアーとヘリオンが慌てて二人の後を追う。
 「“もう、ネリーったら・・・”」
 ヒミカが呆れたように呟く。
 「“ヒミカ、ハリオン”」
 エスペリアは残った二人を見た。
 「“トーゴ様をお願いします。あの人は、少し感情的になりすぎるところがありますから・・・”」
 「“そう?凄く落ち着いてるように見えたけど”」
 ヒミカが目を丸くする。
 「“真面目で優しい人に見えましたよ〜”」
 ハリオンが言った。
 「“・・・そうですね。真面目で、優しい”」
 エスペリアは憂いを含んだ表情になる。
 「“真面目すぎる・・・優しすぎるんです”」
 「“すぎる・・・?”」
 「“・・・”」
 『“そう・・・真面目すぎる故に、ラキオス王と衝突し、自分の立場を危うくする・・・優しすぎる故に、無茶をして、自分の命を危うくする・・・”』
 ヒミカの呟きに、エスペリアは沈黙する。
 「“エスペリア?”」
 「“どうなさったんですか〜?”」
 「“・・・いえ”」
 エスペリアは首を振る。
 「“とにかく、トーゴ様のことをよろしくお願いします”」
 エスペリアは頭を下げた。


 「“ここだよ”」
 ネリーに連れて来られたのは、二階の一番奥の部屋だった。
 「“ほら、入って入って!!”」
 ネリーに押されて、闘護は部屋の中に入る。
 「“へぇ・・・”」
 部屋の中を見回して闘護は呟く。
 部屋の中には、ベッドとテーブル、椅子は二つあり、後はタンスが一つあった。
 窓は二カ所にある。
 「“日当たりが良さそうだね”」
 闘護は持っていた袋をベッドの上に置く。
 「“うん。この部屋は夜でも一番明るいんだよ”」
 「“ふーん・・・”」
 「“どう?気に入った?”」
 ネリーの問いに、闘護は頷く。
 「“ああ。気に入ったよ”」
 「“やったぁ!!”」
 ネリーは全身で喜びを表す。
 「“この部屋は、前に誰か使ってたの?”」
 闘護は、入り口の前に突っ立っているシアーとヘリオンに問いかけた。
 「“わ、私はここに来てすぐなので・・・”」
 ヘリオンが申し訳なさそうに俯く。
 「“私も・・”」
 シアーも首を振る。
 「“ネリー。君は知ってる?”」
 闘護の問いに、ネリーは首を振った。
 「“ううん。知らないよ。でも、館にある部屋の中だと、ここが一番日が当たるんだよ”」
 「“そうか・・・”」
 「“トーゴ様。その袋は何なの?”」
 ネリーがベッドの上の袋を指さす。
 「“荷物だよ”」
 「“すごく軽そうだね”」
 ネリーは袋を手に取る。
 「“あれ?本当に軽いよ”」
 袋を持ち上げたネリーは目を丸くする。
 「“そりゃそうさ”」
 闘護はネリーから袋を受け取ると、口を開けてベッドの上で逆さまにする。
 バサバサッ・・・
 「“あれ?”」
 「“これだけ・・・ですか?”」
 シアーとヘリオンが目を丸くする。
 ネリーはベッドの上に落ちたものを手に取る。
 「“童話とノートだけ?”」
 「“ああ。それだけ”」
 「“他には何もないの?”」
 「“無いなぁ”」
 闘護は頬を掻きながら答える。
 「“服とかは?”」
 「“再度支給し直すから、古いのは捨ててきた”」
 闘護は肩を竦める。
 「“ま、この服だけは持ってきた・・・というか、着てきたけど”」
 そう言って、着ている服を軽く叩く。
 それは、元の世界での制服と戦闘服だ。
 「“ふーん・・・あれ?この絵本・・・”」
 ネリーは手に取った童話に視線を落とす。
 「“あ〜、「四人の王子」だ”」
 シアーが横から覗きながら呟く。
 「“知ってるの?”」
 「“有名な話だもん”」
 「“私も好きですよ、その話”」
 ヘリオンが口を挟む。
 「“ふーん・・・”」
 闘護はベッドの上に腰掛ける。
 「“トーゴ様も好きなの?”」
 「“好きというか・・・”」
 闘護は天井を見上げた。
 「“ちょっと、興味が沸いたんだ”」
 闘護はそう言って窓の外を眺めた。
 「“・・・さて、まだ日は高いし”」
 闘護は振り返ると、三人を見た。
 「“これから訓練でもするか・・・?”」
 「“えぇー!?”」
 ネリーが不満そうな声を上げる。
 「“嫌か?”」
 「“ネリー、遊びたいよぉ”」
 ネリーの言葉に闘護は苦笑する。
 「“遊びたいって・・・”」
 「“ネリー、駄目だよ〜”」
 「“そうだよ。トーゴ様は遊びに来たんじゃないんだから・・・”」
 シアーとヘリオンが大人しい声でたしなめる。
 「“だってぇ・・・”」
 「“ま、遊びはともかく・・・訓練はやめとくか”」
 闘護はそう言ってニヤリと笑った。
 「“ホント!?”」
 「“今日はお互いを知ることから始めるか”」


 「“と、いうわけで・・・”」
 再び食堂には闘護を始め、ヒミカ、ハリオン、ネリー、シアー、ヘリオンの計六人が集まっている。
 「“今日は、お互いを知ることから始めたい”」
 「“はい!!”」
 ヒミカが元気よく返事をする。
 「“そんなに力まなくていいよ”」
 闘護は苦笑する。
 「“それで〜具体的には何をするんですか〜?”」
 ハリオンが尋ねる。
 「“言える範囲内で、好きなもの、嫌いなもの、趣味等々を言う、ってとこかな”」
 「“ネリーはね、ネリーはね!!”」
 ネリーが我先にと声を上げる。
 「“いや、まずは俺からだ”」
 闘護が少し重い口調で言う。
 「“トーゴ様が?”」
 「“そう。この館の新人だからね”」
 闘護は戯けてみせる。
 「“さてと・・・俺の好きなものは・・・”」


─聖ヨト歴330年 エクの月 赤 一つの日 夜
 食堂

 「“うわぁ・・”」
 「“ふわぁ・・”」
 「“凄い・・・”」
 ネリー、シアー、ヘリオンは、テーブルに並べられた料理に目を丸くする。
 「“今日は〜頑張りました〜”」
 ハリオンが胸を張って答える。
 「“なるほど・・・確かに、凄いな”」
 闘護も目を丸くしている。
 「“どうぞ、召し上がって下さい”」
 ヒミカに言われて闘護は頷く。
 「“それじゃあ、いただきます”」
 闘護は料理に手をつけた。
 「“では・・・”」
 料理を口の中に放り込む。
 【“・・・”】
 全員、固唾をのんで闘護を見る。
 「“・・・美味い”」
 闘護はゆっくりと呟いた。
 「“本当ですか!?”」
 「“ああ。美味しいよ”」
 ヒミカの言葉に頷くと、闘護は他の料理を口に運ぶ。
 「“ん・・これも美味しい”」
 「“あらあら〜よかったです〜”」
 ハリオンがニコニコと笑いながら言う。
 「“ほら、君たちも”」
 闘護はまだ箸を付けてないネリー達に言った。
 「“はーい!!”」
 「“え、えっと・・どれにしようかな”」
 「”い、いただきます・・・”」
 ネリー、シアー、ヘリオンが料理に手をつけ始めた。


─聖ヨト歴330年 エクの月 赤 一つの日 夜
 闘護の部屋

 「・・・よし。これで終わり、と」
 闘護はペンを置くと、ノートを閉じた。
 「このノートが何冊になるか・・・」
 そう呟きながら、闘護はノートを棚に入れる。

 そのノートは、日記であった。
 第二詰め所に来てから、闘護は可能な限りの記録をつけると決めたのだ。
 ちなみに、それ以前・・・第一詰め所での出来事については、エスペリアから聞いて日付と一緒にまとめていた。

 「ん・・・?」
 その時、棚にあるもう一冊の─ここへ持ってきた─本が目に入る。
 闘護はその一冊を何気なしに手に取った。
 「「四人の王子」・・・ラキオスに古くから伝わるお話、か」
 闘護は小さく呟く。
 「悠人とそっくりだよな・・・奇妙なぐらいに」
 そう呟いて、本を棚に戻す。
 「ふぅ・・・」
 そして闘護はベッドの上に寝転がる。
 『今日から、ここで俺の生活が始まるのか・・・』
 闘護は今日のことを思い出す。
 『ヒミカ、ハリオン、ネリー、シアー、ヘリオン・・・いい娘たちだな』
 自然と、頬が緩くなる。
 「あとは、彼女たちの実力か・・・どんなものか」
 そう呟きながら、闘護はゆっくりと瞳を閉じた。


─聖ヨト歴330年 エクの月 赤 二つの日 朝
 訓練所

 「“さて・・・”」
 闘護は、横列に並んでいる五人を見た。
 「“まず、君たちの訓練を見学させて欲しい”」
 【“はい”】
 五人の返事に闘護は頷く。
 「“さて・・・ヒミカとハリオンは、それなりの期間、訓練を行っていたって話だけど?”」
 「“はい〜”」
 「“はい”」
 闘護の問いに、二人は返事をする。
 「“で、ネリー、シアー、ヘリオンはまだ始めて間もない、と?”」
 闘護の問いに、三人はコクリと頷く。
 「“そうか・・・じゃあ、最初に二人一組で接近戦の訓練を、その後神剣魔法の訓練をしてもらおうか”」
 「“トーゴ様”」
 「“なんだい、ヒミカ?”」
 「“二人一組では、一人余りますが・・・”」
 「“ああ。ヘリオン”」
 「“は、はいっ!!”」
 闘護に突然名指しされて、ヘリオンは慌てて返事をする。
 「“君は居合い抜きの練習をしてくれ”」
 「“わわ、わかりました!!”」
 「“で、チーム編成はヒミカとハリオン、ネリーとシアーに分かれてもらう”」
 【“はい”】
 「“じゃあ、早速訓練開始だ!!”」


 「“えいっ!!はぁっ!!”」
 「“やぁっ!!”」
 ガキン!!キーンッ!!ガキーンッ!!
 「“ふむ・・・”」
 ヒミカとハリオンの打ち合いを闘護はジッと観察する。
 『ヒミカはレッドスピリット・・・だが、オルファよりも接近戦が出来るな』
 「“たぁっ!!”」
 「“えいっ!!”」
 ガキーン!!
 『ハリオンはグリーンスピリット・・・なるほど、防御がうまい』

 「“えいっ!!とぉっ!!”」
 「“やぁっ!!たぁっ!!”」
 キーン!!カキン!!
 「“ふむ・・・”」
 ネリーとシアーの打ち合いを闘護はジッと観察する。
 『どちらも、接近戦は互角・・・それほど実力には差がないかな』
 「“えいっ!!”」
 「“きゃぅっ!?”」
 ガキン!!
 ネリーの一撃に、シアーはひるむ。
 『シアーは受け身に回りやすいな・・・もう少し、積極性が欲しい』

 「“えいっ!!やぁっ!!”」
 シュッ!!シュッ!!
 「“ふむ・・・”」
 ヘリオンの居合い抜きの練習を闘護はジッと観察する。
 『速い・・・ブラックスピリット特有の素早さか』
 「“えいっ!!”」
 シュッ・・・
 『だが、あの弱気な性格が実戦でどれだけ影響するか・・・うーむ』

 「“ファイアボルト!!”」
 ドゴーンッ!!
 ヒミカの神剣魔法を闘護はジッと観察する。
 『ふむ・・・神剣魔法は、オルファに比べると威力が低い、か』
 「“はぁっ!!”」
 バーンッ!!
 『後衛よりも、前衛が向いてるか・・・』

 「“ウィンドウィスパー”」
 パァアアア・・・
 ハリオンの神剣魔法を闘護はジッと観察する。
 『エスペリアと同じように、サポートタイプの魔法か』
 「“はぁあああ”」
 シュゥウウウ・・
 『戦場では役に立つな・・・俺以外に、だけど』

 「“アイスバニッシャー!!”」
 「“アイスバニッシャー!!”」
 バシュゥッ!!
 ネリーとシアーの神剣魔法を闘護はジッと観察する。
 『どちらも、相手の神剣魔法を消滅させる魔法か・・・』
 「“えいっ!!”」
 「“やぁっ!!”」
 シュワァアアア・・
 『敵にレッドスピリットがいた場合に重宝しそうだな』

 「“テラー!!”」
 グォオオォン・・・
 ヘリオンの神剣魔法を闘護はジッと観察する。
 『アイスバニッシャーでは消滅できないブラックスピリットの魔法か・・・』
 「“はぁああ・・・”」
 グシュゥウウ・・・
 『うまく使えば、戦闘を有利に進められるかもしれないな』


 「“さて・・・”」
 闘護は集合した全員を見回した。
 「“みんなの訓練は見させて貰ったよ。大体、どんな能力かもある程度わかった”」
 闘護はヒミカを見た。
 「“ヒミカ”」
 「“はいっ!!”」
 「“君には、前衛を任せることになる”」
 「“はいっ!!お任せ下さい!!”」
 「“頼むよ”」
 ヒミカの返事に、闘護は頷く。
 「“ハリオン”」
 「“はい〜、なんでしょうか〜?”」
 「“君には防衛と補助を頼む”」
 「“わかりました〜”」
 闘護は頷くと、ネリー、シアーを見た。
 「“ネリー、シアー”」
 「“うん”」
 「“はぁい”」
 「“君たちは、前衛と補助だ。特に、敵が神剣魔法を使ってきたときには頼むよ”」
 「“まっかせて♪”」
 「“はぁい”」
 二人の対照的な返事に苦笑しつつ、闘護は頷く。
 「“ヘリオン”」
 「“は、はいっ!!”」
 「“あ、いや・・そんな力まなくていいから”」
 「“す、すみません!!”」
 ヘリオンの緊張した態度に、闘護は苦笑する。
 「“君には前衛と補助を任せるよ”」
 「“が、頑張ります!!”」
 「“もっとリラックスして良いから”」
 「“は、はいっ!!”」
 ヘリオンの態度に、闘護はヤレヤレと苦笑する。
 「“ま、とにかく・・・配置はそんな感じで行こう”」
 「“トーゴ様”」
 ヒミカが挙手した。
 「“何だい?”」
 「“防衛はハリオンだけですか?”」
 「“いや、俺もだ”」
 【“トーゴ様が!?”】
 闘護の言葉に、その場にいた全員が目を丸くする。
 「“ああ”」
 「“で、ですがトーゴ様は永遠神剣を・・・”」
 「“俺はスピリットの攻撃には耐性があるんだよ”」
 ヒミカの言葉を遮るように闘護が言った。
 「“だから、防衛は適任なの・・・と、言うかね”」
 そう言って闘護はため息をついた。
 「“防衛しかできないんだよね・・・攻撃が駄目だから”」
 「“どういう意味?”」
 ネリーが首を傾げる。
 「“うーん・・・口で説明するよりも、見た方が早いかな”」


 「“いいんですか、トーゴ様・・・?”」
 ヒミカが心配そうに尋ねた。
 「“いいからいいから”」
 闘護は気楽な口調で答える。

 現在、闘護はヒミカと対峙している。
 ハリオン達は、二人を遠巻きに見ていた。

 「“ですが・・・本気で私の攻撃を素手で?”」
 「“それが俺の訓練なんだ”」
 「“・・・”」
 ヒミカは難しい顔で闘護を見る。
 「“大丈夫、トーゴ様?”」
 「“え、えっと・・・大丈夫?”」
 ネリーとシアーが心配そうに尋ねる。
 「“心配しなくていいって。もう、大分前からエスペリアやアセリアと同じ事をしてたんだから”」
 「“アセリアと!?”」
 ヒミカが目を丸くする。
 「“あらあら〜それはすごいですね〜”」
 ハリオンがおっとりした口調で言う。
 「“さ、始めようか”」
 闘護は構えた。
 「“・・・手加減はしませんよ”」
 ヒミカも、アセリアと訓練していたことを知って、表情を引き締めた。
 「“望むところだよ”」
 闘護は挑発気味に答える。
 「“ふ、二人とも、怪我しないでください・・・”」
 ヘリオンが当事者以上に緊張しながら言う。
 「“行きます!!”」
 「“来いっ!!”」
 二人が動き出す。
 ガキーン!!!
 ヒミカの永遠神剣【赤光】を、闘護は両腕でクロスして受け止める。
 「“くっ・・やぁああああ!!!”」
 ヒミカは神剣に力を込める。
 「“ぬ・・・むんっ!!”」
 シャインッ!!
 「“あっ・・!?”」
 闘護に弾かれて、ヒミカの動きが止まる。
 「“そらよっ!!”」
 闘護はヒミカの腹に突き蹴りを繰り出す。
 「“くっ!!”」
 ドンッ!!
 ヒミカのガードよりも早く、闘護の蹴りがヒミカの腹をとらえる。
 しかし、ヒミカはわずかに後ろにずり下がっただけだった。
 「“・・えっ?”」
 「“・・・やっぱ、駄目かぁ”」
 唖然としているヒミカをよそに、闘護はため息をつく。
 「“あ、あの・・・”」
 「“解ってるよ。全然効いてないだろ”」
 闘護は肩を竦める。
 「“ほら、どんどん攻撃してくれ”」
 「“え、えっと・・・”」
 「“いいから。遠慮はいらない”」
 「“・・・は、はいっ!!”」
 ヒミカは再び神剣を構える。
 「“行きます!!”」
 「“おう”」
 「“いやぁああああ!!!”」


 「“はぁ、はぁ、はぁ・・・”」
 ヒミカが荒い息をついて永遠神剣を納める。
 「“ふぅ・・・”」
 闘護は落ち着いて汗を拭う。
 【“・・・”】
 二人の様子を、ハリオン達は唖然としながら見ている。
 「“と、トーゴ様・・・”」
 ヘリオンが恐る恐る挙手した。
 「“ん?”」
 「“ど、どうしてそんな平気な顔をしてるんですかぁ・・・?”」
 「“平気って・・・そうでもないけど”」
 闘護はそう言うと、両腕の籠手を外して、袖をまくった。
 「“あ・・・青アザが出来てる・・・”」
 「“痛そう・・・”」
 ネリーとシアーが闘護の腕を見て眉をひそめる。
 「“あれだけ叩かれたら、これぐらいの怪我は出来て当然だよ”」
 闘護は平気な顔をして言う。
 「“だ、大丈夫ですか!?”」
 ヒミカが血相を変える。
 「“大丈夫だよ”」
 「“あらあら〜今すぐ治療しますからねぇ〜”」
 ハリオンが闘護の腕を取る。
 「“アースプライヤー”」
 「“あ・・・”」
 ハリオンの手が光り出す。
 「“すぐに治りますからね〜”」
 「“・・・”」
 しばらく時間が経つ。
 「“あらあら?”」
 「“治ら・・・ない?”」
 ヒミカの呟きに、闘護は小さくため息をついた。
 「“もういいよ”」
 闘護はハリオンの神剣魔法を止めた。
 「“ですが〜”」
 「“言い忘れたけどね・・・俺には神剣魔法は効かない”」
 闘護の言葉に、全員が絶句する。
 「“魔法が効かないって・・・どうしてぇ!?”」
 「“どうしてぇ・・?”」
 ネリーとシアーの問いかけに、闘護は首を傾げる。
 「“わからん”」
 「“そ、それじゃあ、怪我をしたら・・・治せないんですか”」
 ヘリオンが震える声で言う。
 「“自然治癒のみで回復するしかない”」
 「“あらあら〜困りましたね〜”」
 ハリオンが、さして困ったようには聞こえない口調で呟く。
 「“ま、回復魔法だけじゃないからね。効かないのは”」
 闘護はニヤリと笑うとヒミカを見た。
 「“攻撃魔法も効かない・・・要するに、神剣魔法は全て効かないんだよ、俺にはね”」
 【・・・】
 絶句している五人を見て、闘護は苦笑する。
 「“ま、問題ないって。ダメージを受けても、自然治癒の速さが尋常じゃないから”」
 闘護は青アザの出来ていた腕を見せる。
 「“あ・・・アザがさっきより小さくなってる”」
 ネリーが目を丸くして呟く。
 「“よほどの致命傷を受けない限り、すぐに治るから大丈夫”」
 「“そ、そういう問題でしょうか・・・?”」
 ヒミカが脂汗を浮かべて呟く。


─同日、夕方
 通路

 「“ふぅ・・・”」
 訓練所を出て、闘護は軽くため息をついた。
 『さて・・・全員の能力は大体解ったし・・・』
 闘護は歩き出す。
 『これからどう訓練するか・・・長所を伸ばすか、短所を補うか・・・』
 難しい顔で考え込みながら、闘護は帰路を行く。
 『ヒミカは接近戦を重視させたいけど・・・レッドスピリットがオルファしかいないから、神剣魔法も捨てがたいなぁ』
 闘護は頭を掻く。
 『ハリオンはやはり防衛を重視か・・・だが、回復魔法は重要だしなぁ・・・』
 うーむと唸る。
 『ネリーは、当面接近戦に重きを置くか・・・シアーには、少し神剣魔法を訓練させた方がいいかな』
 顎に手を置く。
 「問題はヘリオンだよな・・・ん?」
 と、その時視界に黒い髪の少女が入った。
 「あれは・・・ヘリオンじゃないか」
 ヘリオンは人間と何か話していた。
 闘護は物陰に身を潜める。
 『さて・・・隠れる必要があるのか否か・・・と』
 心の中で独り言を呟き、二人の会話に聞き耳を立てる。

 「“で、でも・・・”」
 「“いいから、言われた通りにしろ”」
 「“・・・”」
 「“スピリットのくせに、人間に逆らうのか!?”」
 「“い、いえ・・・”」
 「“ならば、大人しく従え”」
 人間は懐から小さな瓶を取り出し、ヘリオンに渡した。
 「“それをあのエトランジェの食事に混ぜろ”」
 「“・・・”」
 「“いいな!!”」
 「“は、はい・・・”」
 人間はヘリオンの返事を聞くと、その場から立ち去った。
 そして、その場にはヘリオン一人が残される。
 「“できないよ・・・こんなこと・・・”」
 途方に暮れたように呟く。

 「“・・・”」
 物陰から見ていた闘護は眉をひそめた。
 『俺の食事に混ぜろ・・・ね』
 闘護は顎に手をやる。
 『ヘリオンが嫌がるところを見ると・・・毒の類か』
 闘護は舌打ちする。
 「毒殺か・・・悪い手じゃないが・・・」
 そう呟くと、闘護はヘリオンに気づかれないようにその場を去った。


─同日、夕方
 第二詰め所、食堂

 「“ただいま”」
 食堂に入ると、ヘリオンが椅子に座っていた。
 「“お、お帰りなさい、トーゴ様・・・”」
 いつにもましてオドオドした様子でヘリオンが挨拶を返す。
 「“ああ。ん・・・?”」
 闘護の視界に、食材の入った袋が入った。
 「“それは?”」
 「“え、えっと・・・今日の・・・”」
 「“ああ、夕食の材料か”」
 闘護が言ったとき、食堂にヒミカとハリオンが入ってきた。
 「“トーゴ様、お帰りなさい”」
 「“お帰りなさい〜”」
 「“ああ、ただいま”」
 闘護は二人を見た。
 「“これ、今日の夕食の材料だろ?”」
 そう言って、闘護は袋を指す。
 「“はい。今日は私とハリオンが作りますから”」
 「“楽しみにしてて下さいね〜”」
 「“そうか・・・”」
 闘護は少し考えるそぶりをする。
 「“どうしました?”」
 闘護の様子に、ヒミカが尋ねる。
 「“なぁ、ヒミカ、ハリオン”」
 「“なんですか?”」
 「“なんでしょうか〜?”」
 「“今日から、料理を教えて欲しい”」
 闘護の提案に、ヒミカとハリオン、そしてヘリオンが目を丸くする。
 「“今日からですか〜”」
 「“ああ。昨日言った通り、俺も料理が作れるようになりたいんだ”」
 「“しかし、今日からでなくても・・・”」
 ヒミカの言葉に闘護は首を振る。
 「“いや、善は急げと言うからね。駄目かい?”」
 「“そんなことはないですよ〜”」
 「“それじゃあ、頼むよ”」
 「“わかりました”」
 三人は袋を持って台所に入っていく。
 「“・・・”」
 ヘリオンは、唖然とした表情でその様を見ていた。


─同日、深夜
 第二詰め所近くの森

 「“なんだと、エトランジェが料理を!?”」
 「“は、はい・・・”」
 「“ちっ・・・余計なマネを”」
 人間は悔しそうに呟く。
 「“し、しばらくは・・・トーゴ様も料理を作りますから・・・”」
 ヘリオンは怖ず怖ずと小さな瓶を差し出した。
 「“ふんっ!!”」
 人間は乱暴に瓶を奪い取ると、そのまま立ち去った。
 「“・・・はぁ”」
 一人になると、ヘリオンは安堵のため息をついた。
 「“よかったぁ・・・”」

 そんなヘリオンを、近くの木陰に隠れていた闘護は見つめていた。
 『どうやら、問題なさそうだな・・・ヘリオンも安全のようだし』
 闘護は安堵の笑みを浮かべた。
 『しかし・・・もしも成功したら、俺が死ぬだけじゃ済まないぞ。第二詰め所の中で犯人探しになって・・・全員バラバラになる所だった』
 闘護は眉をひそめる。
 『この世界の人間は、そういうことも考えないのか?それとも、そんなことを無視してでも俺を殺したいのか・・・クソ王は』
 「チッ・・・」
 小さく舌打ちして、闘護はその場を離れた。


─同日、深夜
 謁見の間

 「“毒殺は失敗したか・・・”」
 玉座に深く腰掛けながら、王は呟いた。
 「“申し訳ありません。エト・・いえ、ストレンジャー自ら食事を作っているらしく・・・”」
 身分の高そうな衣服を着た男が頭を下げる。
 「“仕方ない・・・次の作戦を考えるのじゃ”」
 「“ハッ!!”」
 「“何としても、あの化け物を殺さねばならぬのだからな”」
 王は恐れと蔑みの混じった声で呟く。


─聖ヨト歴330年 エクの月 赤 三つの日 朝
 訓練所

 「“さて・・・今日は、スピリット隊の隊長を紹介するよ”」
 闘護は後ろにいる悠人を前に立たせた。
 「“高嶺悠人だ。よろしく”」
 悠人はペコリと頭を下げた。
 「“じゃあ、それぞれ自己紹介をしてくれ”」
 闘護に促され、ヒミカ達は自己紹介を始める。
 「“【赤光】のヒミカ=レッドスピリットです!!”」
 「“【大樹】のハリオン=グリーンスピリットです〜”」
 「“【静寂】のネリー=ブルースピリットだよ”」
 「“【孤独】のシアー=ブルースピリットです・・”」
 「“し、【失望】の、へ、ヘリオン=ブラックスピリットですぅ”」
 『俺の時と同じだなぁ・・・』
 五人の自己紹介を聴きながら、闘護は苦笑する。
 「“じゃあ、早速だが訓練を始めるか?”」
 「“ああ”」
 闘護の提案に悠人は頷く。


─聖ヨト歴330年 ソネスの月 緑 一つの日 夕方
 第一詰め所前

 闘護が第二詰め所に来て二ヶ月が過ぎた。
 そんなある日の夕方・・・

 「“あれ?エスペリア”」
 訓練から帰ってきた闘護は、第一詰め所前でエスペリアを見つける。
 「“トーゴ様!”」
 エスペリアは闘護の所に駆け寄ってくる。
 「“ちょうどよかった。後でそちらに伺おうと思っていたところです”」
 「“何かあったの”」
 「“はい”」
 エスペリアは二枚の紙を闘護に差し出した。
 「“これは?”」
 闘護は差し出された紙に目を通す。
 「“明日、第二詰め所にスピリットが二名配備されます。その命令状です”」
 「“新しいスピリットね・・・どういうスピリット?”」
 紙を受け取ると、闘護は尋ねた。
 「“青のスピリットと赤のスピリットがそれぞれ一人ずつです”」
 「“ふむ・・・”」
 闘護は頭を掻く。
 「“二人とも、既に訓練を行っています。今後の訓練については、トーゴ様にお任せします”」
 「“わかった”」


─聖ヨト歴330年 ソネスの月 緑 二つの日 朝
 第二詰め所、食堂

 「“【熱病】のセリア=ブルースピリットです”」
 「“【消沈】のナナルゥ=レッドスピリットです”」
 食堂の上座側に立つ二人のスピリットが自己紹介をする。
 「“神坂闘護だ。よろしく”」
 「“よろしくお願いします”」
 「“よろしくお願いします”」
 二人は頭を下げる。
 「“さて・・・とりあえず、みんなは彼女たちを知ってるらしいね”」
 「“はい”」
 闘護の問いに、ヒミカが答える。
 「“じゃあ、自己紹介は省略しよう。早速だが・・・”」
 闘護は二人を見る。
 「“君たちの実力を見てみたいな”」


─同日、朝
 訓練所

 「“まず、二人の実力が知りたい”」
 闘護はセリアとナナルゥを見た。
 「“それぞれ、得意分野を教えてくれ”」
 「“わかりました”」
 セリアは頷くと、早速説明を始めた。
 「“私は、接近戦と神剣魔法の消滅を得意とします”」
 「“・・・私は、神剣魔法を”」
 ナナルゥも答える。
 「“ふむ・・・なら、まずはセリアとヒミカが打ち合ってみてくれ”」
 「“はい”」
 「“わかりました!!”」
 「“ナナルゥは、接近戦の実力を知っておきたいから・・・”」
 闘護はハリオンを見た。
 「“ハリオン。相手をしてやってくれ”」
 「“わかりました〜”」
 「“しばらく打ち合いをしたら、次は神剣魔法を見させて貰おうか”」
 闘護はセリアとナナルゥを見る。
 「“ナナルゥの神剣魔法を、セリアが消滅させてみてくれ”」
 「“はい”」
 「“わかりました・・・”」
 「“じゃあ、始めてくれ”」

 「“はっ!!たぁっ!!”」
 「“えいっ!!やぁっ!!”」
 ガキン!!ガキン!!ガキーン!!
 「“ふむ・・・”」
 セリアとヒミカの打ち合いを、闘護はジッと観察する。
 『なるほど、接近戦が得意と言うだけはある』
 「“はぁっ!!”」
 「“えいっ!!”」
 ガキーン!!
 「“くっ・・!!”」
 「“むぅぅううう!!”」
 鍔迫り合いになった途端、ヒミカがセリアを押し返す。
 『パワーはヒミカの方が僅かに分がある、か・・・だが、他のメンバーと比べたら十分前衛をこなせるな』

 「“はっ!!はっ!!”」
 「“えぃっ!!たぁっ!!”」
 キーン!!カキン!!
 「“ふむ・・・”」
 ナナルゥとハリオンの打ち合いを闘護はジッと観察する。
 『ナナルゥの攻撃は・・・ハリオンに全然効いてないな』
 「“はっ!!”」
 「“えいっ!!”」
 キーン!!
 ハリオンは、ナナルゥの攻撃を余裕の表情で受け止めている。。
 『ナナルゥに接近戦は厳しいか・・・』

 「“ファイアボール!!”」
 シュゴォォッ!!
 ナナルゥの詠唱が終わると同時に、彼女の神剣【消沈】から火の玉が飛び出す。
 火の玉は、まっすぐセリアに向かって飛んでいく。
 「“アイスバニッシャー!!”」
 バシュゥッ!!!
 セリアの詠唱が終わると同時に、火の玉が突然出来た氷の壁に囲まれて消滅する。
 『ふむ・・・神剣魔法は、どちらもなかなかだな』
 「“はっ!!”」
 「“はぁっ!!”」
 バシュウッ!!
 『セリアは前衛、後衛両方いけるな。ナナルゥは後方支援に専念させた方がいいか・・・』

 「“二人の実力は大体解った”」
 二人の訓練を見終わり、闘護がゆっくりと言った。
 「“トーゴ様”」
 「“ん?なんだい、セリア?”」
 「“トーゴ様はストレンジャーと呼ばれるそうですが・・・エトランジェではないのですか?”」
 「“ん・・・ん〜”」
 セリアの問いに、闘護は難しい顔をする。
 「“どうだろうか?”」
 「“違うのですか?”」
 「“わからん”」
 闘護の回答に、セリアは目を丸くする。
 「“わからない?”」
 「“そう。わからない”」
 「“・・・あの・・それはどう意味ですか?”」
 「“口で言うよりも、実際に体験した方が早いだろ”」
 闘護はニヤリと笑った。
 「“体験・・ですか?”」
 「“そう。セリアとナナルゥに俺の相手をして貰おうか”」
 「“私とナナルゥが、ですか?”」
 「“ああ。嫌か?”」
 「“私は構いませんが・・・”」
 「“命令ならば”」

 「“じゃあ、始めよう”」
 闘護が構える。
 【“はい”】
 セリアとナナルゥもそれぞれ構える。
 「“トーゴ様。いくら何でも、同時に二人は危険なのでは?”」
 ヒミカが心配そうに声をかけた。
 「“かもしれんが・・・実力を試してみたい”」
 「“・・・”」
 「“さあ、二人とも。いつでもいいぞ”」
 「“わかりました”」
 「“行きます・・・”」
 二人は一気に闘護に向かって飛び込む。
 「“はぁっ!!”」
 「“!!”」
 ガキガキーン!!
 「“ん・・・なかなかだな”」
 闘護が呟く。
 二人の永遠神剣を、闘護はそれぞれ左右の籠手で受け止めていた。
 「“まだまだ!!”」
 「“はっ!!”」
 セリアとナナルゥは一旦闘護から間合いを取ると、再び攻撃を仕掛ける。
 ガキガキッ!!


 「“はぁはぁはぁ・・・”」
 「“ふぅふぅ・・・”」
 「“さて・・・ここまでにするか”」
 闘護は額の汗を拭う。
 「“はぁはぁはぁ・・・と、トーゴ様・・・”」
 「“なんだ、セリア?”」
 「“ど、どうして・・トーゴ様は・・平気なんですが?”」
 「“平気って・・・ああ、息を切らしてないことか”」
 闘護の言葉に、セリアとナナルゥが頷く。
 「“そりゃ、俺は受けてただけだからな。大して動かないのに、疲れることもないだろ”」
 「“はぁはぁ・・・では、どうして我々の攻撃を受け切れたのですか?”」
 「“元々、防御は得意でね”」
 『それに、こっちの世界に来てから身体能力が飛躍的に上昇したみたいだし』
 心の中で付け加える。
 「“ふぅふぅふぅ・・・”」
 ナナルゥはセリア以上に疲れているのか、ずっと荒い息をついている。
 「“大丈夫か、ナナルゥ?”」
 「“ふぅふぅ・・・はい、だいじょ・ふぅふぅ・・ぶ、です”」
 『そうは見えないんだがな・・・』
 心の中で闘護は呟く。
 「“今日はこれで終わりにしよう。各自、休んでくれ”」
 【“はいっ!!”】
 「“はぁはぁ・・は、はい”」
 「“ふぅふぅ・・(コクリ)”」


─同日、夜
 第二詰め所、食堂

 「“それでね、オルファが・・・”」
 ネリーが楽しそうに話す。
 「“・・・”」
 モシャモシャモシャ・・・
 「“そ、そんなことないよ・・・”」
 シアーが慌てて答える。
 「“・・・”」
 パクパクパク・・・
 「“わ、私は・・・”」
 ヘリオンは遠慮がちに口を挟む。
 「“・・・”」
 モシャモシャモシャ・・・
 「“ハリオン、塩取って”」
 ヒミカが声をかける。
 「“・・・”」
 パクパクパク・・・
 「“はい〜これですね〜”」
 ハリオンはヒミカに塩の入った小瓶を渡す。
 「“・・・”」
 モシャモシャモシャ・・・
 「“・・・”」
 闘護はチラリとセリアとナナルゥに視線を走らせる。
 「“・・・”」
 パクパクパク・・・
 「“・・・”」
 モシャモシャモシャ・・・
 二人とも、他のスピリットの会話には参加せず、黙々と食事を続けている。
 そして、他のスピリットもそんな二人に何一つ言葉をかけない。
 『なんというか・・・もう少し、会話に参加してもいいと思うんだが・・・』
 闘護が考えたとき、二人が同時に立ち上がった。
 「“ごちそうさまでした”」
 「“ごちそうさまです・・・”」
 二人とも、自分の食器を持って台所へ消えていった。
 「“・・・なぁ、ヒミカ”」
 二人がいなくなり、闘護はヒミカに小さい声で話しかける。
 「“なんでしょうか?”」
 「“あの二人、いつもあんな感じなの?”」
 「“セリアとナナルゥですか?まぁ、そうですけど・・・”」
 「“そうなのか・・・”」
 「“何か?”」
 「“・・・いや”」
 闘護はそれ以上、何も言わずに引き下がる。
 『もう少し食事を楽しんでもいいと思うんだがなぁ・・・』


─同日、夜
 闘護の部屋

 「ふぅ・・・」
 闘護はベッドの上に仰向けに横たわった。
 「セリアとナナルゥ・・・か」
 闘護は、今日配備された二人のスピリットを思い浮かべる。
 『セリアはちょっと不愛想だけど真面目だな。実力もなかなかだ。すぐに実戦をこなせそうだ』
 ゴロリと寝返りを打つ。
 『ナナルゥは・・・』
 闘護は眉をひそめる。
 『あれが、神剣に取り込まれかけているスピリットなんだな・・・なるほど、何事にも受け身で、ある意味純真無垢かもしれない』
 闘護はため息をついた。
 『彼女の性格はともかく・・・能力については、神剣魔法に集中した方がいいかもしれないな』
 そのまま一回転して、再び仰向けになる。
 『しかし・・・どっちも、他のスピリットに比べて態度が硬いんだよなぁ・・・どうしようか?』


─聖ヨト歴330年 ソネスの月 緑 三つの日 朝
 訓練所

 「“セリア、ナナルゥ。今日は君たちに、スピリット隊の隊長を紹介する”」
 闘護は後ろにいる悠人を前に立たせた。
 「“高嶺悠人だ。よろしく”」
 悠人はペコリと頭を下げた。
 「“じゃあ、それぞれ自己紹介をしてくれ”」
 闘護に促され、セリアとナナルゥは自己紹介を始める。
 「“【熱病】のセリア=ブルースピリットです”」
 「“・・・【消沈】のナナルゥ=レッドスピリットです”」
 やはり、闘護の時と同じ口調で挨拶をする。
 「“あ、ああ。高嶺悠人だ。よろしく”」
 二人の態度に、悠人は少したじろぐ。
 『やっぱり、悠人も引いたか』
 闘護は小さくため息をつく。
 「“じゃ、じゃあ、訓練を始めよう”」
 【“はい”】
 『なんだか・・・やりにくいなぁ・・・』
 二人の返事に、悠人はまたたじろぐ。
 悠人の様子に、闘護は小さく肩を竦めた。
 『悠人も引いたか』


─聖ヨト歴330年 ソネスの月 緑 五つの日 昼
 第一詰め所前

 「“エスペリア”」
 「“トーゴ様”」
 館を出たエスペリアの前に、闘護が現れた。
 「“どうなさったのですか?”」
 「“今から何処かに行くのか?”」
 「“はい。買い物をするため、市場へ行くところでしたが・・・”」
 「“そうか。ちょうど良い”」
 「“何か?”」
 エスペリアの問いに、闘護は頷く。
 「“実は、俺も買い物をしたかったんだが・・・城から出たことがないんで、誰かに案内して貰おうかと思ったんだけど・・・頼めないか?”」
 「“・・・買い物ならば、第二詰め所の誰かに頼めばよろしいのでは?”」
 「“普通の買い物ならそれでもいいんだけどね”」
 闘護は頬をポリポリと掻いた。
 「“・・・何を買うつもりなのですか?”」
 「“実は・・・”」
 闘護はエスペリアの耳元に近づくと、ボソボソと何か囁いた。
 「“・・・なっ!?”」
 闘護の言葉に、エスペリアは血相を変える。
 「“何故そんなものを・・!?”」
 「“必要になるかもしれないと思ったからだ”」
 闘護は冷静な口調で言った。
 「“し、しかし・・・”」
 「“いざというときのためにも、準備を怠るわけにはいかないんだよ”」
 「“・・・”」
 「“さすがに、こんなものを買ってこいとは言えないだろ。君に頼んだのも、一番事情を知っているからなんだ”」
 闘護は肩を竦めた。
 「“俺もついて行くから・・・いいだろ?”」
 闘護は強い口調で問いかける。
 「“わ、わかりました・・・”」
 エスペリアはたじろいで頷く。
 「“ありがとう。それじゃあ、行こう”」
 闘護は歩き出した。
 「“・・・”」
 エスペリアは心配そうな表情で闘護のあとをつけた。


─聖ヨト歴330年 ソネスの月 黒 三つの日 深夜
 第二詰め所、玄関

 「“・・・”」
 音を立てずに、闘護は玄関に出た。
 「“トーゴ様?”」
 外へ出ようとする闘護に、セリアが声をかけた。
 「“ああ、セリア”」
 闘護は動揺した様子もなく振り返る。
 「“こんな夜更けに、どちらへ?”」
 セリアの問いに、闘護は頭を掻く。
 「“・・・ちょっと、な”」
 「“ちょっと?”」
 「“そう。じゃ、行ってくる”」
 セリアの訝しげな眼差しを無視して、闘護は館から出て行った。
 「“・・・”」
 セリアは少し考えて、闘護の跡をつけることにした。


─同日、深夜
 第一詰め所前

 「“・・・”」
 キョロキョロ
 闘護は周囲を見回す。
 『よし・・・誰もいないな』
 闘護は安心すると、ノックもせずに館に入っていく。

 「“・・・”」
 そんな闘護を、セリアは離れたところから隠れて見ていた。
 『トーゴ様・・・何をなさってるのですか?』
 その瞳には、疑念の色が浮かんでいた。


─同日、深夜
 エスペリアの部屋

 コンコン
 「“・・・どうぞ”」
 エスペリアが返すと、ドアが開いて闘護が入ってきた。
 「“こんばんは、エスペリア”」
 「“トーゴ様”」
 エスペリアは少し驚いた表情で、座っていた椅子から立ち上がった。
 「“このような時間に来るとは思ってませんでした。てっきり、明日来られるかと・・・”」
 「“さっさと手に入れたかったんでね」
 闘護は肩を竦めた。
 「“トーゴ様・・・”」
 「“で、例の物は?”」
 「“はい。こちらにあります”」
 エスペリアは部屋の隅に置かれている木箱に近づいた。
 闘護はも、エスペリアに続いて木箱に近づく。
 「“これです”」
 エスペリアが指さした木箱は、長さ2メートル弱、幅1メートル弱、高さ50センチメートルほどの大きさがある。
 「“・・・まるで棺桶だな”」
 闘護の言葉に、エスペリアは眉をひそめた。
 「“トーゴ様・・・”」
 「“あながち冗談でもないだろ”」
 エスペリアの表情に、闘護は肩を竦めた。
 「“さて、仕上がりは・・・”」
 闘護は木箱を開け、中をのぞき込んだ。
 「“・・・ま、これなら何とかなるな”」
 「“・・・”」
 「“悪かったな。変な物を頼んで”」
 闘護の言葉に、エスペリアは首を振った。
 「“いえ・・・ですが、そのような物を使うことに・・・”」
 「“なるね”」
 エスペリアの言葉を遮るように闘護は言った。
 「“今のままだと、間違いなく”」
 「“トーゴ様・・・”」
 「“とにかく、助かるよ”」
 闘護は軽々と木箱を担ぐ。
 「“だ、大丈夫ですか?”」
 「“平気だって。これぐらい”」
 心配そうなエスペリアに、闘護は軽い口調で答える。
 「“じゃあ、お休み”」
 「“はい。お休みなさいませ”」
 挨拶をして、闘護は部屋から出た。


─同日、深夜
 第二詰め所、玄関

 キィ・・・パタン
 闘護は静かに館の中に入った。
 「ふぅ・・・」
 闘護は小さく息をつく。
 「“トーゴ様”」
 「!?」
 突然、目の前にセリアが現れた。
 「“せ、セリア・・・”」
 「“お帰りなさいませ”」
 セリアは慇懃に礼をする。
 「“あ、ああ・・・ただいま”」
 「“もう、夜も遅いですから、あまり音を立てないようにお願いします”」
 そう言うと、セリアは自分の部屋へ戻っていた。
 「・・・」
 『まさか・・・ずっと起きてたのか?』
 心の中で呟く。
 『ま、まぁ・・・とにかく、さっさと運ぼう』
 キィ・・
 闘護は再び玄関のドアを開けると、外に置いてある箱を中に入れた。
 「さて・・・誰も起こさないように、と」
 出来るだけ静かに、闘護は自分の部屋に向かった。


─同日、深夜
 闘護の部屋

 ゴトン
 闘護は担いできた木箱を床に置いた。
 「さて・・・と」
 そして、闘護は木箱を開ける。
 「どこに置いとこうかな・・・?」





 龍のマナを得て、ラキオスは軍備の充実を図る。
 同時に、各国も軍事強化に走り出したらしい。
 戦争は始まる。
 間違いなく、多くの命が消える。
 異世界ファンタズマゴリア。
 悠人と闘護は佳織を助け、生き残れるのか・・・

 そして時は流れ・・・ついに平和は終わろうとしていた。

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