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─西暦2008年12月18日
 午後5時35分

 「すべて、予定通り・・・目の前にいた四人、離れた場所で一人。全部で五人・・・」
 誰もいなくなった境内で、倉橋時深はゆっくりと呟いた。
 「・・・とうとう、始まってしまうのですね」
 時深は空を見上げた。
 「しかし、目の当たりにしてみると予想以上ですね・・・やはりこれは、4本の共鳴?それとも、本来の・・・いずれにしろ、こちらも用意しないと」
 そう呟いて真剣な表情をする。
 「今回の戦いは、甘くないですからね」
 時深は神社の裏へ消えていった・・・


─闘護の夢

 『誕生日、おめでとう、闘護』
 『闘護。今日でおまえは15歳になった。もう充分大人だろう』
 『改まってどうしたの、二人とも?』
 『闘護・・・お前に言っておかなければならないことがある』
 『言っておかなければならないこと?』
 『闘護・・・あなたは、私たちの本当の子供ではないの』
 『・・・へ?』
 『まずは、黙って私たちの話を聞いてちょうだい』
 『今から15年前・・・私たちは、熊野詣に行った。そして、その帰り・・・山の中で赤ん坊だったお前を見つけたのだ』
 『・・・』
 『その後、私は子供を産むことができない事がわかってね・・・あなたを引き取ることに決めたの』
 『そして、私たちはお前を息子として育ててきた』
 『・・・俺の名前はどうやって決めたの?』
 『私たちが決めたの。護るために闘う、という思いを込めて・・・』


─闘護が目覚めた次の日の朝

 「う・・ぅ・・」
 日差しを受け、闘護はゆっくりと目覚めた。
 「・・・夢、か」
 闘護は小さく首を振ると、周囲を見回した。
 『ここは・・・そうだ、俺は確か昨日・・・』
 昨日の記憶を闘護は思い出していく。
 『あの羽の生えた少女に連れられてこの家につれてこられたんだ・・・』
 闘護は立ち上がると周囲を見回した。
 『で、別の女の子にこの部屋へ通された後、背負っていた高嶺君をベッドの上に寝かせた』
 闘護はもたれていたベッドを見た。
 ベッドには悠人が苦しそうな表情で横たわっている。
 『その後・・・寝たのか、俺も』
 闘護は頭を掻いた。
 「それにしても・・・久しぶりに見たな」
 先ほど見た夢を思い返す。
 『父さんと母さんの告白・・・俺の出生か・・・』
 そこまで考えて、闘護は首を振った。
 「今はそんな感傷に浸っている場合じゃないか」
 『さて・・・』
 そばにあったイスに腰掛けると、闘護は腕を組んだ。
 「これからどうするか・・・とりあえず、高嶺君を置いていくわけにはいかないし」
 闘護は悠人を見た。
 「まだ、動かさない方がいいだろうなぁ・・・」
 そう呟いたとき、ドアをノックする音がした。
 「はい?」
 闘護の返答に、ドアが開いた。
 「“おはようございます”」
 入ってきたのは、昨日闘護達を部屋に通した少女だ。
 「ど、ども」
 言葉がわからない闘護は慌てて頭を下げた。
 少女は笑顔で会釈すると、悠人の方へ近づいた。
 「“そちらの人は大丈夫ですか?”」
 悠人の顔を見ながら、少女が心配そうに呟いた。
 「えっと・・・」
 『駄目だ・・・何を言ってるかさっぱりわからん』
 結局、闘護は言葉を理解するのは諦めて、とりあえず黙る。
 すると、少女は悠人のそばに寄った。
 「・・・」
 少女は心配そうに悠人を見ている。
 『高嶺君の心配をしているのか・・・っと』
 その時、闘護はあることに気づいた。
 『生理現象か・・・どうしよう?』
 闘護は少女を見た。
 少女は悠人の容態を見ている。
 『だが・・・我慢にも限界があるし』
 闘護は思い切って少女の肩を叩いた。
 「すいません」
 「“何でしょうか?”」
 少女は振り向くと、やはり闘護には解らない言葉を話した。
 「えっと・・・」
 『言葉が通じない・・・いや、こうなったらボディランゲージだ!!』
 闘護は意を決して少女から離れると、立ち小便のポーズを取った。
 「トイレはどこ?」
 「・・・?」
 闘護のジェスチャーに、少女は一瞬呆気にとられた。
 「だから、トイレ、どこ?」
 今度は、股間に手を当てて小便を我慢するポーズを取る。
 「!!!」
 すると、闘護の言いたいことを理解したのか、少女の顔がみるみる赤くなる。
 「“トイレですか?トイレは・・・”」
 少女は闘護の方を見ずに歩き出すと、ドアを開けて廊下を指さした。
 「“あそこです”」
 そう言って、廊下の隅にあるドアを指さした。
 「あそこか。ありがとう」
 闘護は礼を言うと、赤くなって俯いている少女の横を通り過ぎた。


 「ふぅ・・・すっきりした」
 闘護はさっぱりした表情で廊下に出た。
 『トイレは特に変わりなかったな・・・とりあえず、用を足すのには不自由しなくて済みそうだ』
 用を足した後、闘護はトイレを調べていたのだ。
 『もしも、トイレの使い方も日本と違ってたら・・・』
 そう考えて、身震いする。
 「おぉ・・ヤダ、ヤダ。ヤな想像、した」
 闘護は首を振って部屋に戻ろうと歩き出した。
 その時、ドアが開いて少女が出てきた。
 「おや?」
『妙に穏やかな表情だな・・・高嶺君に何かあったのかな?』
 少女はすぐに、闘護に気づいた。
 「・・・」
 頬を赤く染めながら、少女は闘護に会釈した。
 「ども。高嶺君に何かあったの?」
 闘護はそう言ってドアを見た。
 「“意識を取り戻しました”」
 「・・・よくわからないんだけど」
 言葉がわからない闘護は苦笑した。
 「“それでは、私は失礼します。ご用があったらベルを鳴らしてくださいませ”」
 少女は、会釈して去っていった。
 「・・・何、言ってたんだろ?」
 首をかしげながら、闘護は部屋に入った。

 「高嶺君」
 闘護の声に反応するように、ベッドの上に横たわっていた悠人が顔を上げた。
 「かん・・ざ、か?」
 悠人が信じられないような目つきで闘護を見た。
 「ああ。神坂闘護だよ」
 闘護は優しく微笑むと、ベッドのそばにあるイスに腰掛けた。
 「意識を取り戻したみたいだな・・・まだ、体は動きそうにないか?」
 「・・・どうして、お前がここにいる?」
 「森で倒れていた君を見つけたんだ。そしたら、君と一緒にいた少女が俺たちをここへ連れてきたんだよ。」
 「少女・・・さっきの少女か?」
 「いや、別の少女だよ」
 闘護が言うと悠人は周囲を見回した。
 「・・・ここはどこなんだ?」
 「わからない」
 闘護は肩を竦めた。
 「わからないって・・・」
 「わからないものはわからない。場所はもちろん、言葉もわからん」
 闘護は両手を上げて“お手上げ”のポーズを取った。
 「そもそも、何で俺たちはここにいる?」
 闘護の問いに、悠人は顔を背けた。
 「・・・知るか、そんなこと」
 「何か、覚えてることはないか?」
 「・・・そういえば、俺を救ってくれた少女がいた」
 「救ってくれた?もしかしてその少女って・・・青い髪に、白い羽根の?」
 「そうだ。知ってるのか?」
 悠人の言葉に、闘護は頷く。
 「俺たちをここへ運んできたのはその子だよ。ここに来てからは会ってないけど」
 「・・・」
 「他に聞きたいことは?」
 闘護の問いかけに、悠人はゆっくりと闘護を見た。
 「俺は・・・どれくらい、気を失っていた?」
 「少女に助けられたことを覚えていたのなら・・・半日ってところかな」
 闘護は窓の外を見た。
 既に日は高い。
 「・・・」
 「正直な所・・・」
 闘護は苦い表情で悠人を見つめた。
 「現状で理解しているのは、俺と君がここに来てから約半日経ったこと。ここは日本ではない場所で言葉も通じないこと、あとは・・・トイレが日本とあまり変わらないことぐらいだ」
 「・・・」
 「状況、把握できたか?」
 「あまり出来てない。日本じゃないってことはわかったけど・・・」
 「十分だ」
 闘護は身を乗り出した。
 「さしあたって・・・これからどうするか、決めたいんだけど」
 「これからって・・・」
 「まずは、ここがどこなのかを把握することかな」
 闘護は部屋の中を見回した。
 「この部屋の家具は、中世的・・・現代で、こんな家具を使っているのはヨーロッパぐらいだよな」
 「・・・そうか?」
 闘護の言葉に、悠人は首をかしげた。
 「仮定だよ、仮定。でも、それだと・・・」
 「それだと?」
 「言葉が全然通じないのが気になる。英語じゃなかったし・・・服装も妙だ」
 「妙?」
 「なんだか、ファンタジー小説に出てきそうな服だよな。現代にあんな服を着ている奴なんているのかな?」
 「・・・」
 「高嶺君はどう思う?」
 「・・・ここがどこだとか、そんなことはどうでもいい」
 悠人は重い口調で呟いた。
 「それよりも、佳織は・・・佳織はどこにいるんだ?」
 「佳織ちゃん?」
 闘護の言葉に、悠人の表情が険しくなる。
 「神坂・・・お前、佳織に馴れ馴れしいよな」
 「・・・そうか?」
 「そうだよ」
 「まぁ、先輩、後輩の間柄だしな。気にするなよ」
 「気にするんだよ!!」
 悠人は闘護の襟を掴んだ。
 「あんまり、佳織に近づくな」
 「・・・どうして?」
 「佳織のためだ!!」
そう叫んだ悠人に、闘護はあきれた眼差しを向けた。
 「高嶺君。君は、秋月君と同じ事を言うんだね」
 「何だと!?」
 悠人は、襟を掴んだ手に力を込めた。
 「俺は瞬とは違う!!」
 「ああ、そうだな」
 「・・・え?」
 闘護の肯定に、悠人は面食らった。
 「君と秋月君は違うよ。当然じゃないか」
 闘護は悠人の手を払いのけた。
 「ただ、君は・・・彼と同じ事を言ったんだよ」
 闘護はそう言って苦笑する。
 「前に、秋月君からも言われたよ。“佳織に近づくな!!”ってね。多分、今の君と同じ目で俺を見ていたんだろうな」
 「・・・」
 「俺が下心を持ってるんじゃないかって思ったんだろう。実際、部活で結構仲が良かった・・・というか、男で彼女と会話していたのは俺ぐらいじゃないかな。だから、そう思われても仕方なかったが・・・」
 「・・・」
 沈黙して自分を見ている悠人に、闘護は首を振った。
 「だがね。俺は佳織ちゃんは後輩としてしか見てないよ。大事な後輩としか、ね」
 「大事な・・・?」
 「そう。大事な、だ」
 闘護は悠人を見た。
 「彼女の音楽の才能は素晴らしい」
 闘護は懐かしむような表情をした。
 「最初に彼女のフルートを聞いたとき、震えたよ。俺なんて足元にも及ばないぐらいに素晴らしかった・・・」
 「神坂・・・」
 「だから、彼女がその才能を伸ばせるように、助言をしたりした。それだけだ」
 「・・・」
 悠人の懐疑的な眼差しに闘護は苦笑する。
 「ま、いきなり信用しろとは言わないさ。ただ、これだけは言っておく」
 闘護は真剣な眼差しを悠人に向けた。
 「俺は、彼女に妙な下心を抱いた覚えはない。親切心で面倒を見ている。それだけだ」


─目覚めてから3日後、昼・・・
 少女の部屋

 「“どけっ!”」
 「“待ってください!!まだ安静にしてなければならない状態です!!”」
 「“うるさい!陛下がお呼びなのだ!スピリットごときが我々の仕事の邪魔をするなっ!!”」
 突然、部屋の外から怒声が響いてきた。
 「何だ?」
 闘護は眉をひそめた。
 「・・ん?」
 寝ていた悠人が、喧噪で目を覚ました。
 程なく、扉が勢いよく開かれて、数人の男が部屋になだれ込んできた。
 「何だ何だ?」
 闘護はイスから立ち上がる。
 「何だよ、お前ら・・?」
 悠人も訝しげに男達を見る。
 「“貴様ら!!陛下がお呼びだ!!”」
 男の一人が叫ぶと、突然闘護の腕を掴んだ。
 「な、何だよ!?」
 闘護は掴んだ腕を振り払おうとした。
 「“逆らうな!!”」
 バキッ
 「がっ!?」
 その時、別の男が闘護を棒で打ち据える。
 「神坂!?」
 「“貴様っ!はやく起きろ!陛下がお呼びだ!”」
 闘護を殴った男は、そのままベッドに横たわっている悠人に向かって叫んだ。
 「??」
 何を言っているのか解らない悠人は、目を白黒させるだけだ。
 「“おきろと言っている!”」
 男は悠人の胸ぐらを掴んだ。
 「“お待ちください!”」
 「“その方はこちらの言葉がわからないのです”」
 「“だからどうしたというのだ。解らないならば身体で解らせてやるまでだ”」
 少女が何かを訴えるが、兵士は意に介そうとしない様子だ。
 「“やめてくださいませっ!”」
 「“離せ!汚らわしい手で触れるな!!”」
 止めようとした少女の手を、嫌悪の表情でふりほどく。
 「キャッ!」
 「チッ!」
 バキッ!!
 「〜〜ッ!」
 兵士が棒で悠人の頭を殴打する。
 「高嶺君!!」
 バシッ!!
 「ワ!?」
 闘護は我慢できず、自分の腕を掴んでいる兵士を振り払った。
 「“くそっ!”」
 悠人を殴った兵士が闘護に向かって棒を振り下ろす。
 シュッ・・・
 「!?」
 闘護は素早く動いて棒をかわす。
 「なめるな!!」
 闘護は驚く兵士の顔面に拳を繰り出した。
 バキャッ!!
 「ギャッ!!」
 拳を受けた兵士はそのまま仰向けに倒れる。
 「高嶺君!!」
 闘護はベッドの上で苦しそうにしている悠人に駆け寄った。
 「大丈夫か!?」
 「あ、ああ・・・」
 「“貴様ぁ!!”」
 その時、後ろにいた兵士達の殺気立った。
 「病人になんて真似を・・・許せん!!」
 闘護も負けじと兵士達をにらみつける。
 「“お待ち下さい!!”」
 すると、少女が闘護と兵士達の間に割り込む。
 「“どけっ!!”」
 兵士の一人が棒を少女に向ける。
 「“あなた方が受けた命令はこの人達を連れて行くこと。暴行することではないはずです!!”」
 「!!」
 少女の言葉に、兵士達がたじろいだ。
 「何だ・・・?」
 場の空気が変わったことに、闘護は眉をひそめた。
 少女は闘護の方を振り向くと、申し訳なさそうに頭を下げた。
 「“申し訳ありません。この人たちに従ってください”」
 「・・・」
 闘護は悠人を見た。
 「何を言ってるか解るか?」
 「いや・・・全然」
 「だよな」
 闘護は再度少女を見た。
 少女は俯いたまま、顔を上げようとしない。
 兵士達も、何か悔しそうな表情で二人を睨みながらも、手を出す気配はなかった。
 「・・・単なる謝罪なら、兵士達も下がるよな。なのに、後ろにいるって事は・・・」
 『さっき、こいつらは俺の腕を掴んで引っ張った。何故、俺を引っ張る?引っ張って・・・どこかへ連れて行く?』
 闘護は頭の中でそう結論づけると、悠人を見た。
 「多分、こいつらは俺たちを連れ出そうとしたんだ。少女が何か言ってこいつらは引いたみたいだけど・・・」
 「引いたんなら、何でまだ部屋にいるんだよ」
 「俺たちにまだ用があるのか・・・?」
 闘護は兵士達を見た。
 「フン!!」
 兵士達は不機嫌な様子で二人を見ている。
 『何かを待っている・・・?待てよ・・・』
 「高嶺君。もしかしたら、こいつらは俺たちを連れ出したがってるんじゃないのか?」
 「何でだよ?さっき、その子が謝ったじゃないか」
 「この子の態度から見て、俺たちに何かをお願いしてるんじゃないのか?黙ってこいつらに従って欲しい・・・とか。そうじゃなかったら、ずっと頭を下げ続けることもない」
 闘護の言う通り、少女は全く頭を上げようとしない。
 「こいつらにか・・・?」
 悠人は露骨に嫌そうな表情をした。
 「俺も嫌だよ。けど、ここは従った方がいいかもしれない」
 「何だと?」
 闘護の提案に、悠人は目を丸くした。
 「コミュニケーションがとれない以上、下手に相手を刺激するとヤバい。ここはおとなしくした方がいいと思う」
 「・・・」
 「兵士達が残っているのはさっきの続き・・・俺たちを連れ出そうとしているから、と思う。高嶺君」
 「・・・わかったよ」
 悠人は、ゆっくりと起きあがった。
 「大丈夫か?肩、貸すから・・・」
 闘護は悠人の肩を支えてゆっくりとベッドから起きあがらせた。
 「・・・悪い」
 悠人の言葉に、闘護は“気にするな”と肩を竦めた。
 そして、闘護は兵士達に視線を移す。
 「君たちに従うよ。どこにいけばいい?」
 闘護は小さく頭を下げて言った。
 「・・・???」
 闘護の言葉が理解できないのか、兵士達は顔を見合わせている。
 「仕方ないな」
 闘護は自分を指さした。
 「俺たちは」
 続いて兵士達を指す。
 「君たちに、ついていく」
 「・・・そんなんでわかるのか?」
 悠人が懐疑的な眼差しを向けた。
 「さあ」
 闘護は肩を竦める。
 「“ありがとうございます”」
 その時、少女が感謝の表情でそう言って頭を下げた。
 「・・・通じたのか?」
 「さぁ・・?」
 闘護と悠人は顔を見合わせる。
 「“来い!!”」
 数人の兵士達が歩き出す。
 闘護と悠人は兵士達に従って黙ってついて行く。


─同日、昼
 謁見の間

 「っと・・」
 後ろの兵士に突き飛ばされて、闘護と悠人は大きな部屋に入った。
 「何だよ、ここ?」
 悠人が周囲を見回した。
 「さぁ?」
 闘護も視線を周囲に走らせる。
 「“漸く来たか”」
 「ん・・・?」
 前方から響いてきた声に、闘護は反応した。
 そこにいたのは、初老の男だ。
 『王冠をかぶって玉座に座っている・・・王様?』
 闘護はそのまま隣に視線を向けた。
 「・・・」
 男の隣には、白いドレスを身にまとい、気品を感じさせる少女がいる。
 『こっちは・・・年の差から考えてお姫様、か』
 「佳織!?」
 その時、突然隣にいた悠人が叫んだ。
 「お兄ちゃん!!」
 「!?」
 悠人とは別の声に反応して、闘護は声があがった方を向いた。
 「佳織ちゃん!?」
 そこには、後ろ手を鎖で繋がれた佳織がいる。
 「神坂先輩!!」
 「佳織!!」
 悠人が闘護の腕をふりほどいて佳織に駆け寄ろうとする。
 ドドド!!
 「うぉ!?」
 ところが、後ろにいた兵士達が悠人を取り押さえる。
 「悠人!?」
 闘護が駆け寄ろうとするが、別の兵士達に両腕を押さえられる。
 「くっ!!」
 「佳織!!佳織ぃ!!」
 悠人の絶叫が部屋中に響く。
 「お兄ちゃん!!お兄ちゃん!!」
 「この・・・離せ!!」
 バッ!!
 「ワァ!?」
 その時、悠人が力任せに取り押さえていた兵士達をふりほどく。
 「高嶺君!?」
 悠人の力に、闘護が目を丸くした。
 「佳織!!」
 そのまま悠人は佳織に駆け寄ろうとした。
 しかし、二人を囲んでいた沢山の兵士が再び悠人を取り押さえる。
 「ぐぅ!?」
 「高嶺君!?」
 「お兄ちゃん!!」
 「“さすがエトランジェだな・・・剣を持たずにこの力か”」
 王がゆっくりと呟く。
 「・・・」
 姫は黙ったまま悠人をジッと見つめている。
 「“離してやれ”」
 王の言葉に、周囲の兵士がざわめく。
 『なんだ・・・?』
 闘護は両腕を捕まれたまま冷静に観察する。
 「“し、しかし、陛下・・・危険なのでは”」
 「“大丈夫だ・・・大丈夫なのだよ”」
 兵士はあからさまに動揺しているのに、王は妙に落ち着いている。
 『あの男・・・何だ?何をたくらんでいる?』
 闘護は訝しげに男を睨んだ。
 その時、取り押さえていた兵士達が二人を解放する。
 「佳織!!」
 束縛が解けた瞬間、悠人が佳織の方へ走り寄る。
 「お兄ちゃん!!」
 「かお・・がっ!?」
 だが、あと10メートルほどのところで、突然悠人の身体が沈む。
 「お兄ちゃん!?」
 「高嶺君!?」
 棒立ちしていた闘護が慌てて悠人に駆け寄る。
 「が・・あぐ・・・」
 悠人は苦しそうにうめく。
 「大丈夫か!?」
 「お兄ちゃん!!」
 闘護は悠人の身体を素早く調べる。
 『脈拍が多い・・・息も荒い・・・どうなっている?』
 突然の現象に、闘護は困惑した。
 「“くく・・・。これがエトランジェなのだ・・・・・・我々には逆らえないのだよ”」
 王が愉快そうに笑った。
 「まさか・・・こうなることを知っていたのか?」
 闘護は王を睨んだ。
 「かお・・りぃ・・・」
 悠人は床を這い蹲って佳織に近づこうとする。
 「“ほう・・・なかなか見上げたものだ。よほど娘が、大切なようだな・・・”」
 「ハァ・・ハァ・・!!」
 しかし、少しだけ進んだ瞬間、悠人の身体が沈む。
 「お兄ちゃん!!」
 佳織が絶叫する。
 「大丈夫だ!!」
 その時、闘護が叫んだ。
 闘護は悠人の背中を優しくなでた。
 「高嶺君、落ち着け・・・落ち着くんだ」
 「ハァ・・ハァ・・・」
 闘護に言われ、悠人は少しずつ呼吸を落ち着けていく。
 「よし、その調子だ・・・とりあえず、落ち着け」
 闘護は佳織を見た。
 「高嶺君は大丈夫だ。君も落ち着いて」
 「神坂先輩・・・」
 闘護の言葉に安心したのか、佳織も次第に落ち着いていく。
 「かん・・ざ、か・・・」
 悠人が苦しそうに闘護を見上げた。
 「動くな。いいか、そのまま休んでてくれ」
 闘護はそう言うと、ゆっくりと立ち上がった。
 「神坂・・・」
 「動くなよ」
 闘護は佳織を見た。
 「佳織ちゃん。今からそっちに近づくけど・・・動かないでくれ。いいね」
 闘護はそう言うと、一歩、佳織に近づいた。
 「・・・」
 闘護の言葉に従い、佳織は耐えるようにジッとした。
 『高嶺君は動けなくなったが・・・俺はどうなる?』
 更に一歩、闘護は近づく。
 「“愚かな”」
 王がバカバカしそうに呟いた。
 一歩・・・一歩・・・
 「“・・何?”」
 しかし、次第に王の表情が余裕から驚愕に変わっていく。
 『何もない・・・このままなら、佳織ちゃんに・・・』
 闘護は悠人のように止まることなく、着実に佳織に近づく。
 「“そ、そのエトランジェを止めろ!!”」
 王の叫び声に、兵士達が騒然とする。
 『どうやら・・・俺は平気か。後は・・・』
 既に闘護と佳織の距離は1メートルにまで迫っていた。
 「先輩・・・」
 そこで、闘護は歩みを止めた。
 『二人を助けて脱出するか、それとも・・・』
 闘護は小さくため息をついた。
 「ここまでだな」
 「先輩?」
 「悪いけど、今、君を助けることは出来ない」
 闘護の言葉に、佳織は唖然とした。
 「え・・・?」
 ざわめく兵士達を尻目に、闘護はゆっくりときびすを返すと、佳織から離れて悠人のそばへ近づく。
 「神坂・・・お前、何・・を・・?」
 「喋るな」
 悠人のそばに来ると、闘護はゆっくりと佳織の方を振り返った。
 「気づいてるだろうが、ここは間違いなく日本じゃない。いや、下手すると・・・地球ですらないかもしれん」
 「え・・?」
 「な・・にぃ・・?」
 闘護の言葉に悠人と佳織は目を丸くした。
 「俺は君に近づくことが出来る。しかし・・・仮に二人を連れてここを脱出したとしても・・・その後生き抜ける可能性は限りなく低い」
 闘護はそう言うと、王を睨んだ。
 「ヒッ!?」
 闘護の睨み付けに、王は明らかに怯えた様子だ。
 「今は、こいつらに従うしかない」
 「ば、ばかな・・・」
 悠人が信じられないという口調で呟く。
 「少なくとも、ある程度コミュニケーションがとれるまで言葉を覚えること、あとはここがどこかということ・・・それが出来るまでは、下手に逃げ回る方が危険だ」
 「セン・・パイ・・」
 「かんざ・・か・・」
 二人の視線に闘護は苦笑する。
 「大丈夫。こいつらは君たちを殺すつもりはない」
 闘護は周囲を見渡す。
 兵士達はもちろん、王までも闘護の視線に恐怖している。
 『あれ・・?』
 しかし、一人例外がいた。
 「・・・」
 たった一人、姫は闘護を恐怖ではなく、驚愕の表情で見ていた。
 『何だ・・?』
 闘護は奇妙に思ったが、とりあえず首を振って二人を見る。
 「もしも俺たちを殺すのであれば・・・わざわざここへつれてくる必要もない。仮につれてきたとしても、すぐに殺すことは出来るはず。ここへつれてきたのは、何らかの企みがあってだ」
 闘護は周囲の兵士を見た。
 「さっき、悠人が倒れたときも、悠人を殺そうとはしなかったしね」
 「それは・・・」
 闘護の言葉に、佳織が沈黙する。
 「どんな理由があるかはわからないが・・・今は、大丈夫のはずだ。こいつらは悠人を恐れているのであって、佳織ちゃんを恐れている訳じゃないだろう。俺たちの抵抗を封じるために君を人質にする可能性は十分あるから、少なくとも君を殺すのは俺たちの後だろうな」
 闘護は佳織を見た。
 「これが今、君が安全だと推測できる根拠。続いて・・・」
 闘護は今なお起きあがれない悠人を見た。
 「君は彼女を助けられないだろう。助けようとすれば、今みたいに動けなくなるだろうね。そうじゃないと、君が暴れたときに、なぜあの王の余裕だったのかが説明できない」
 「ぐっ・・・」
 悠人は悔しそうに唇をかんだ。
 「人質を助けられないなら、安心できるだろう?だから、二人とも今すぐ殺されることはない」
 闘護はニヤリと笑った。
 「先輩は・・・?」
 佳織が心配そうに尋ねた。
 「俺は動けるから大丈夫だ。高嶺君のように動けなくなることはないから、いざとなれば俺が君を助けられる」
 「・・・」
 闘護の言葉に二人は沈黙する。
 『そうは言ったものの、俺はどうなるかわからないけど・・・』
 闘護は肩を竦めた。
 『さっきの王の態度を見ても、俺が動けたのは予想外だった・・・俺がどうなるか・・・』
 そんな考えを思いつつ、闘護は表情一つ変えずに二人を見た。
 「わかったかい?今は我慢の時だ。わかったね?」
 「・・・」
 悠人は悔しそうに沈黙する。
 「・・・わかりました」
 佳織は耐えるような口調で呟いた。
 「佳織!?」
 佳織の返答に、悠人が声を上げた。
 「それでいい。今は我慢の時だ」
 闘護はそう言うと、身をかがめて闘護の肩を叩いた。
 「高嶺君。我慢だ。下手に暴れるよりも、おとなしくした方が有利に事を運べる」
 「・・・」
 「高嶺君!」
 悠人は闘護から顔を背けた。
 「勝手にしろ・・・」
 「すまん」
 一言謝ると、闘護は立ち上がって王を見た。
 「!!」
 闘護の視線に、王は身をすくませた。
 『言葉が通じない以上、ボディランゲージで切り抜けるしかないな』
 闘護は片手を胸に置いて、ゆっくりと頭を下げた。
 「失礼しました。現時点ではあなた方に危害を加えるつもりはありません」
 「・・・」
 闘護の言葉を理解していないのか、王は相変わらず怯えた眼差しを向ける。
 「だったら・・・」
 闘護は両手を上に上げた。
 「これならどうだ?」
 「・・・」
 流石に、この闘護の態度には王も奇妙に感じたらしい。
 「“その者を取り押さえなさい“」
 その時、沈黙してい姫が口走った。
 すると、怯えていた兵士達が一段と後ずさる。
 「“大丈夫です。その者に抵抗をする気配はありません”」
 「・・・」
 兵士達は顔を見合わせている。
 「“早くしなさい!!”」
 姫の怒鳴り声に、兵士達は慌てて闘護を取り囲む。
 「・・・」
 闘護は沈黙したまま両手を上げ続けている。
 「・・・」
 兵士達は恐る恐る闘護に近づく。
 『さっさとしろよ』
 心の中で呟きつつ、闘護は兵士達が自分を取り押さえるのを待った。
 「!!!」
 そして、全く動こうとしない闘護に安心したのか・・・
 兵士達は一気に闘護を取り押さえた。


 「“陛下。このエトランジェ達はどういたしましょう?”」
 取り押さえられた闘護、悠人を見ながら兵士の一人が言った。
 「“ス、スピリット共の館にでも放り込んでおけ!!下賤なもの同士、勝手にするだろう!”」
 王は動揺した口調で叫んだ。
 「“・・・ならばエスペリアにでも世話をさせましょう”」
 「“そうしておけ。あの無骨な剣はまだ近づけるなよ。特に、そのエトランジェにはな!!”」
 王は闘護を睨んだ。
 「・・・」
 闘護は無表情で王を見た。
 「“は、早く行け!!”」
 「ハッ」
 闘護と悠人は、そのまま兵士達に引きずられて謁見の間から出て行った。


 「“はぁはぁ・・・何故、あのエトランジェには制約がかからん?”」
 王が悔しそうに叫んだ。
 「“それはたいした問題ではありません”」
 王の隣にいる姫は、冷静な口調で言った。
 「“何だと?”」
 「“あの者は自由に動けるにもかかわらず、我々におとなしく従いました。こちらに従う限り、不必要に刺激するよりは、踊らせておく方がいいかと”」
 「“むっ・・・”」
 「“それよりも、この娘ですが・・・”」
 姫は大人しくしている佳織を見た。
 「!?」
 姫の視線に、佳織はビクリと身を竦ませた。
 「“この娘は私に預けていただけないでしょうか?”」
 「“ん?どうした?”」
 「“戯れ相手がちょうど欲しかったところなのです。この娘もエトランジェ。ならばハイペリアの話しも聞けるでしょう。エトランジェの制約は、王族にしか効かないと聞きます”」
 姫は王を見た。
 「“私が常に監視していましょう”」
 「“ふむ・・・・・・なるほど。それも良いかもしれんな”」
 「“ありがとうございます”」
 「“王女として、間違いを起こさぬように”」
 「“はい・・・承知しています。父様”」
 姫は周りにいる兵士を見た。
 「“誰か、この娘を私の寝室の隣に”」
 「“そこは、殿下の客室では?”」
 兵士の一人が尋ねた。
 「“良い。目に見える範囲においておきたい。しかし、しっかりとした鍵と、武器になるようなものは外しておくように”」
 「“ハッ!”」
 「“もの好きなことだ”」
 王は呆れた口調で呟いた。
 「“ハイペリアのことには興味があります”」
 「“ふむ・・・・・・ほどほどにな・・・・・・。剣を持たぬとはいえエトランジェだ”」
 「“・・・はい”」
 「“来い!!”」
 兵士の一人が佳織を拘束する鎖を引っ張る。
 「キャッ・・!!」
 佳織は転びそうになるが、必死で体勢を立て直す。
 「“さっさと来い!!”」
 兵士の乱暴な力に振り回されながらも、佳織は唇を真一文字に結んで耐える。
 『お兄ちゃんや神坂先輩がいるんだから・・・絶対に、大丈夫・・・私・・・負けない・・・』


 「“スピリット、エトランジェ・・・。天が我等に力を与えているのだな”」
 「“・・・・・・”」
 「“いつまでも落ちぶれた小国でいるつもりはない・・・”」
 「“どうなさるおつもりですか?”」
 「“古豪の力というものを見せてやるのだ。歴史のない国々に大きな顔をされたくないっ!”」
 「“戦、ですか・・・”」
 「“龍の同盟も、所詮は我が国に頼ってのもの。もうすぐだ・・・・・・”」
 「“・・・・・・”」



─同日、昼
 少女の部屋

 ドンッ
 「っと・・!」
 闘護は兵士に突き飛ばされて、バランスを失い部屋の中に転がる。
 ドサッ
 「くっ・・・」
 悠人は、兵士にベッドの上へ放り出された。
 兵士達は二人を解放すると、そそくさと部屋から出て行く。
 「つつっ・・・もうちょっと丁寧に扱えよな」
 打ち付けた尻をさすりながら闘護が愚痴る。
 「・・・」
 悠人は眉間に皺を寄せて黙り込んでいた。
 「高嶺君?どうしたんだ?」
 闘護の問いかけに、悠人はジロリと闘護を睨んだ。
 「神坂・・・本当に、これで良いのか?」
 「投降したことか?」
 悠人は、肯定とばかりに沈黙する。
 「ま、あの場で大暴れしたところで脱出は無理だったろうな」
 闘護はそう言うと、イスに腰を下ろした。
 「それぐらいは理解してるだろ?」
 「それは・・・」
 闘護の言葉に悠人は言葉に詰まる。
 「だったら、投降するしかないね。まぁ、他に選択肢がなかった訳じゃないけど・・・」
 「何だと!?他にも方法があったのか!?」
 悠人が声を荒げた。
 「どうせ言ったところで選択しないよ」
 「いいから言え!!」
 「はぁ・・・」
 闘護は頭を掻いた。
 「あの場にいた奴らを全員殺して逃げる」
 「・・・え?」
 闘護の回答に悠人は目を丸くする。
 「な、何を言ってるんだ・・・?」
 「あのとき、君は佳織ちゃんに近づくことは出来なかった。だが、君は強かっただろ?」
 「そ、それは・・・よく、覚えてないけど・・・」
 「つまり、君があの場にいた兵士達を全員ぶっ飛ばす。俺は佳織ちゃんを助ける。そして三人で脱出・・・って筋書き」
 「・・・」
 「少なくとも、何人かは殺さないといけない。そんな事が出来るか?」
 闘護は悠人の顔をのぞき込んだ。
 「・・・」
 「無理だろ?」
 闘護は肩を竦めた。
 「だから、言わなかったんだ。それに、あの場を脱出した後、どうなるかもわからない・・・そんな賭は出来ないからね」
 「お前・・・そんなことを考えていたのか?」
 悠人が驚きの表情を隠さずに尋ねた。
 「君があまりに激怒していたからね。逆に、こっちは冷めたよ」
 闘護はニヤリと笑った。
 「ま、どちらにせよ・・・しばらくの間はここにいるしかないね。これからどうなるか・・・わからないけど、いきなり殺すことはしないと思う。少なくとも」
 闘護は悠人を見た。
 「君と佳織ちゃんに限っては、ね」
 「神坂・・・お前は?」
 「俺はどうだろう?」
 闘護はふぅと息をついた。
 「ヤバイかもしれん」
 「ヤバイ?」
 「奴らの意図しない行動をしたらしいからな・・・」
 そう言って、闘護は首を振った。
 「まぁ、今更そんなことを後悔しても仕方ない」
 「神坂・・・」
 「とにかく、今は体を休めよう。俺はともかく、君は大分疲れただろう?」
 「・・・」
 「俺も、少し・・」
 闘護が言いかけたとき、ノックがした。
 「はい?」
 闘護が返事をすると、扉が開いて、いつも世話をしてくれる少女が入ってきた。
 「“大丈夫ですか?”」
 心配そうに少女が言った。
 「何を言ってるんだ?」
 悠人が闘護に尋ねる。
 「さぁ・・・待てよ?」
 そこで闘護はハッとした。
 『テスハーアってのはよく聞くな。決まって、心配そうな表情をしているときだった・・・ってことは?』
 闘護は少女を見た。
 「俺たちは、大丈夫だ」
 そう言いながら、闘護は自分と悠人を指さし、ガッツポーズを取った。
 「“・・・大丈夫みたいですね”」
 闘護のボディランゲージが通じたのか、少女は安心したように笑った。
 「通じた、かな?」
 闘護は悠人を見た。
 「さぁ・・・?」
 悠人は首をかしげる。
 その時、
 グゥ〜
 「あ」
 悠人のお腹が豪快な音を鳴らした。
 「悠人・・・腹、減ったのか?」
 闘護が呆れた表情で呟いた。
 すると、
 グゥ〜
 「あ」
 闘護のお腹が悠人に負けじと豪快な音を鳴らす。
 「・・・」
 「・・・」
 二人はバツが悪そうに顔を見合わせる。
 「・・・プッ」
 そんな二人のやりとりに耐えきれなかったのか、少女が笑い出す。
 「“食事を用意してきますね。少しおなかにいれたほうが良いでしょう”」
 そう言って、少女はテーブルに置いてある桶を取って部屋から出て行った。
 「・・・恥、かいたな」
 闘護は頭をポリポリ掻く。
 「・・・そうだな」
 悠人も頬をコリコリ掻く。
 「と、とにかく彼女は俺たちが空腹だってことを理解してくれたみたいだ」
 「そ、そうだな」
 二人とも、強引に納得して自らの恥を無視した。

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