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 学校が終わると、生徒は思い思いに動き出す
 それはどこの学校でも見られる光景
 そんな光景にとけ込むように、一人の青年がいた・・・


─西暦2008年12月1日
 午後3時30分
 神坂闘護の教室

 「さてと・・・」
 神坂闘護は荷物を背負うと立ち上がった。
 ドン
 「っと」
 突然背中に何かがぶつかってよろめく。
 「邪魔だ」
 ぶつかったのはクラスメートの秋月瞬だ。
 「ああ、悪い」
 瞬の性格を知っている闘護は素直に謝った。
 「フン」
 瞬は闘護に目もくれず立ち去る。
 「ふぅ・・・全く」
 『もう少し人当たりが良くなった方がいいと思うんだがなぁ』
 闘護は肩を竦めた。


─西暦2008年12月1日
 午後4時
 3階の廊下

 「高嶺はいないか?」
 音楽室に入ってきた顧問は部屋を見渡してから尋ねた。
 「佳織ちゃんですか?まだ来てませんけど?」
 一人残っていた闘護が答えると顧問は渋い表情をした。
 「困ったな・・・」
 「何かあったんですか?」
 「ん?ああ、ちょっとな」
 顧問はそう言って頬を緩めた。
 「?」
 「どこにいるか、知らないか?」
 「さぁ?教室にいるんじゃないんですか?」
 「いや、教室にはいなかったんだが・・・神坂」
 顧問は呟くと、闘護をじっと見た。
 「な、何です?」
 「高嶺を捜してきてくれないか?」

 「何で俺が・・・」
 廊下を歩きながら闘護はブスリと呟いた。
 『どこにいるんだろ』
 注意深く廊下を歩いていると、曲がり角で茶色の髪の毛が見えた。
 『あれは・・・』
 闘護は髪の毛が消えた角に向かって走った。

 「っと、いたいた」
 角を曲がると、目的の少女─高嶺佳織が、階段の踊り場にいた。
 『おや?一緒にいるのは・・・』
 佳織と話している男には見覚えがあった。
 『あれは・・・確か彼女の兄・・・』
 高嶺悠人は佳織と何か話をしていた。
 佳織は心配そうな表情だが、対する兄の表情は笑顔だ。
 「おーい」
 闘護の声に二人が気づいた。
 「あ、神坂先輩」
 佳織が笑顔でこちらを見た。
 「佳織ちゃん。顧問が探してたよ」
 「え?先生が?」
 「急ぎらしいから、早く音楽室に行った方がいい」
 「わ、わかりました。それじゃあお兄ちゃん」
 佳織が振り返ると、悠人はわかったとばかりに頷いた。
 「俺はバイトがあるから帰りは遅くなるから、夕食は先に食べておいていい」
 「ううん。待ってるからね」
 佳織はそう言って走っていった。
 そして、踊り場には闘護と悠人が残る。
 「神坂」
 二人きりになって、悠人がゆっくりと口を開いた。
 「何か?」
 闘護は妹の先輩として何度か話をしたことはあるが、それほど親しい間柄ではなかった。
 「わざわざ佳織を探しにきたのか?」
 悠人が何か不安げな表情で尋ねた。
 「ああ。顧問に頼まれてね」
 「そうか・・・」
 悠人はそう言うと、さっさと歩き出した。
 「・・・」
 去っていく悠人を、闘護は何も言わずに見ていた。
 『何だ?いつもなら礼の一つでも言うのに』
 悠人の様子に闘護は首をかしげた。


─西暦2008年12月1日
 午後6時30分
 道場

 「はぁ!!」
 「むんっ!!」
 ビシッ!!ガシ!!
 「らぁ!!」
 バスッ!!
 「・・あら?」
 「甘いな」
 ドゴッ!!
 「ぐっ!!」

 「いつつ・・・」
 道場の壁にもたれながら、碧光陰は擦り剥けた左肘をさすった。
 「大丈夫か?」
 闘護が心配そうな表情で尋ねる。
 「擦り剥いただけだ。大したこと無い」
 光陰は笑って答える。
 「そうか」
 闘護は光陰の隣に腰を下ろす。
 「はぁ・・・それにしても」
 「何だ?」
 「お互い、なかなか防御を崩さないよな」
 闘護の言葉に、光陰はふむと頷く。
 「俺は基本的に自分から手を出さないからな」
 「俺もだ」
 闘護はそう言うと立ち上がった。
 「さて・・・そろそろあがるよ」
 「おう、お疲れ」
 光陰に会釈して、闘護は道場から出て行った。


─西暦2008年12月1日
 午後7時30分
 帰りに寄ったコンビニ

 「あれ?」
 コンビニに入るなり、闘護の視界に奇妙な光景が入ってくる。
 カウンタで大量のお菓子を貰って笑っている女学生と、何か渋い表情でその女学生を見ている店員だ。
 「サンキュ、ユウ」
 「あんまり来るなよ。バレてクビになったら困るんだからな」
 「わかってるって。大事な補給地なんだからヘマはしないわよ」
 カウンタで渋い表情をしているのは、悠人だった。
 そして・・・
 「あれ?神坂君?」
 こちらに気づいた女学生─岬今日子が言った。
 「ども」
 闘護は軽く会釈すると、入り口のそばにある饅頭の入ったボックスを見た。
 「すんません。肉まんを二個下さい」
 「あ、ああ。ちょっと待っててくれ」
 悠人は肉まんを二個、ボックスから取り出して袋に入れた。
 「二つで230円だよ」
 「ああ」
 闘護はポケットから小銭を取り出しカウンタに置いた。
 「ありがとうございました」
 悠人から肉まんの入った袋を受け取ると、闘護は二人を見た。
 「それじゃあ」
 そう言って、闘護は入り口で立ち止まった。
 「そう言えば・・・岬さん」
 振り返ると、闘護は今日子を見た。
 「なに?」
 「この前、音楽室にお菓子を持ってきたよね。夏君に頼まれて」
 夏小鳥は闘護の後輩である。
 「えっと・・・あぁ、持ってったわよ。それが?」
 「あまり音楽室を散らかさないでくれよ。結構、お菓子のクズが床に散らばっていたからね」
 闘護の言葉に、今日子は肩を竦めた。
 「はいはい。わかりました」
 「頼むよ。それじゃあ」
 闘護は二人に会釈してコンビニから出た。


─西暦2008年12月1日
 午後8時
 神坂闘護の住むマンションの一室

 「ただいま・・・っと」
 誰もいない部屋の電気をつけて闘護は呟いた。
 「今日も無事、終わったなぁ」
 闘護は椅子に腰掛けると、テレビの電源を入れた。
 「さて・・・」
 ポストに入っていた郵便物を眺めつつ、闘護はテレビから流れてくるニュースを聞く。
 「何もないな・・・寝るか」
 そう呟くと、闘護は洗面所へ向かった。


 そう、それは日常
 そう、それは普段
 そう、それは平穏
 しかし、そんな時間があっという間に失われていく・・・


─西暦2008年12月18日
 午後5時30分

 「はぁ・・・今日の夕食はどうしようかなぁ」
 そんなことを考えながら、闘護は帰路についていた。
 「カレーでも作って、2,3日持たせようかなぁ・・・ん?」
 ちょうどその時、闘護は神木神社の前に到着した。
 「神社かぁ・・・久しぶりに寄ってみようかなぁ」

 後に、闘護はどうしてそう思ったのか、悠人にこう言った。
 『何となく・・・ホント、何となくだよ』

 パァァァ!!!
 「!!」
 「!?」
 階段を歩いている時だった。
 境内に金色の柱が突然出現し、それと同時に誰かの怒声が上がる。
 「なんだ!?」
 闘護は慌てて階段を駆け上がった。
 そして、境内に到着したとき・・・
 「え!?」
 目の前の光景は・・・
 柱の中央には悠人が、その周りには佳織を始め、光陰、今日子、そして知らない巫女がいる。
 「おい!?」
 闘護は急いで彼らのいる所へ近づく。
 そして、膨れあがる金色の光に手を伸ばした。
 その瞬間!!
 『う、うわぁ!?』
 突然、自分の身体が何かに流されていく感覚に・・・
 闘護は意識を失った。


─不明

 「ここは・・・」
 闘護の周囲を無数の木々が覆い尽くしている。
 夜なのか、光もほとんど無い。
 「どこだよ・・・俺は、神社にいたんだぞ」
 闘護は唖然とした。
 『おれは・・・夢を見てるのか?』
 確認しようと自分の頬をつねる。
 「イテェ!!」
 痛みをしっかりと実感した闘護はゆっくりと立ち上がった。
 「どうなってるんだ・・・?」
 闘護は周囲を見回した。
 「・・・ん?」
 その時、闘護の耳に何か音が入ってきた。
 「何だ・・・?」
 闘護はゆっくりと音のする方へ歩み出した。

 ズバッ!!

 「!?」
 突然何かを切り裂いた音と、何かが消滅した音がした。
 『なんだ・・・?』
 闘護は注意深く音のした方を見た。

 『あれは・・・』
 視界に入ったのは、青い長髪の美しい少女がいた。
 少女の背中には・・・
 『羽根・・・か?』
 真っ白な羽根が少女の背中にある。
 『天使・・・?』
 闘護は一歩前に出た。
 その時、闘護の視界にもう一人、少女の前に横たわっている別の人間が入ってきた。
 「高峰!?」
 「!?」
 突然飛び出した闘護に少女は全く無警戒だった。
 闘護は悠人と少女の前に飛び込んだ。
 「何だ・・・君は?」
 「・・・」
 少女は突然の闖入者に半ば棒立ちになっていた。
 「君は・・・誰だ?」
 闘護の問いに、少女は何も反応しない。
 『敵ではないか・・・?』
 闘護は警戒しつつ、悠人の方を向いた。
 「!!」
 そして、悠人の姿に驚く。
 『何で、股間をさらけ出して倒れてるんだ?』
 悠人はズボンを引き下ろし、股間を出して寝転がっていた。
 「とにかく・・・」
 闘護は悠人のズボンを引き上げた。
 「ふぅ・・・」
 悠人の格好を整えた闘護は後ろを振り返った。
 少女は相変わらず無表情で突っ立っていった。
 「君は誰だ?」
 少女は何も言わずにこちらを見ている。
 『・・・敵意はないみたいだ。どうする?』
 少女はゆっくりと闘護に向かって手を差し出した。
 「ウナニスカ、ワ、ウースィセィン(あなた達を連れて行く)・・・」
 少女がゆっくりと言葉を発する。
 「・・・へ?」
 闘護は、少女の言葉に首をかしげた。
 「えっと・・・言葉がわからないんだけど」
 「・・・」
 少女は指しだした手を引っ込めずに闘護を見る。
 「・・・ついてこい、ってことかな」
 闘護はそう判断すると、気絶している悠人を背負った。
 「OK。どこに行くんだい」
 闘護が尋ねると、少女は闘護の手をつかんだ。
 「スマノ(行く)
 そう言うと、少女の羽根がゆっくりと羽ばたく。
 「え・・・えぇ?」
 少女の身体が浮き始め、更に自分の身体が少女の腕に引っ張られて浮かび上がる。
 「ちょ、ちょっと!?」
 闘護が慌てて身じろぎすると、少女はわずかに眉をひそめた。
 「デハルク、エミノ、ラス(動かないで)
 『う、動くなって事か?』
 少女の様子に闘護はそう感じ、とりあえずおとなしくした。
 すると、少女はどんどん空へ浮かび始める。
 それに引っ張られるように闘護と悠人の身体も空へ浮かぶ。
 『ど、どうなるんだ・・・?』
 己の決断に不安を覚えつつ、もはや身動きもできない自分の状況を受け入れて闘護はジッとした。
 そして三人はそのまま夜空へ消えていく・・・

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