白銀の心 〜想いと力〜
第二章 運命の交差
「ショウ・メイスン…ショウでいい」
彼との出会いは私がその隊に所属を命じられて一年がたとうとしていた頃。
新しい訓練士が来るということで、私も少し気にかけていた。
「お前たち、面倒だから名前だけ言え。神剣の位、色はいらん」
その言葉が私には新鮮だった。
人間である彼が、スピリットに名前を聞いてきたのだ。
私はすぐに彼に興味をもった。
彼はやはり特殊な人間だった。
最初のイメージどおり無愛想で無口で、それでいてどこか優しくて。
スピリットは人間にとって道具であり、それ以上ではない。
私自身そう思っていたし、疑問に思ったことはそれまでなかった。
でも彼は違った。
口では私たちを罵倒するが、さりげない行動でフォローする。
それはまるで、人が人に接する時のように。
月日は瞬く間に過ぎていき、気が付けば彼に夢中になっている私がいた。
けれどスピリットである私が人間である彼に想いを告げるなど許される筈がない。
無論そんなことは解っている。
だから必死に自分自身を押さえ込んできた。
でも…
「お前は俺が好きか?」
ある日突然、何の前触れもなく告げられた言葉。
なんと答えたかは覚えていない。
というよりも恥ずかしくて思い出したくない。
そんな私に、彼はゆっくりと告げた。
「…新しい任務が入った。それが終わったらもう一度ここに来い」
私が頷くの確認して彼は笑った。
初めて見る、とても綺麗な笑顔だった。
「…死ぬなよ」
そしてそれが、私の見た彼の最後の笑顔になった。
………………
…………
……
少女の周りには誰もいない。
いつも一緒にいた仲間たちは、もういない。
圧倒的な力の前に、部隊は全滅させられてしまったのだから。
揺らぐ炎に照らされ輝く白銀の髪、手にはそれと相反する漆黒の剣を携えた少年。
その剣から発せられた無慈悲なる黒き雨に仲間たちは呑まれ、消えた。
逃げ延びたのは少女だけ。
信じたくなかった。
今までの自分が否定されるようで。
認めたくなかった。
現実だと理解している自分がいたから。
泣けなかった。
それがあの人との約束だったから。
やがて少女は走ることをやめる。
荒い呼吸を整えもせず、その場にうずくまる。
瞳は色褪せ、全ての感情が欠落していく。
その時だった。
ポツリ…
何かが少女の膝を濡らした。
雨か…
そう思い少女は空を見上げる。
雨は、まだ降っていない。
ポツリ…ポツリ…ザァァァァァァ…
冷たい雨に洗われ、少しずつ熱を失っていく少女の体。
だが、瞳だけは決して冷めることなく…
「……!」
その言葉は虚空へと吸い込まれていく。
降りしきる雨を払いのけ、少女は瞳に新たな焔を灯す。
聖ヨト暦330年 アソクの月 緑 五つの日。
この日、『紅蓮の猛火』率いるバーンライト王国妖精部隊がラキオス領内に進入。
ラースに建造中のエーテル変換施設の破壊を企てるも失敗、ラキオス王国妖精部隊と戦闘。
善戦するも、驚異的な力を持つ『エトランジェ』の前に敗北、壊滅する。
追記、少女『シスカ・レッドスピリット』の生存を知る者は樹流ただ一人である。
あとがき
短くまとめました。下手に長く書くよりもこちらの方が主旨が伝わりやすいかと思ったので。それではうまく表現できなかったところを誤魔化します。まず今回の主役といえる少女『紅蓮の猛火』こと『シスカ・レッドスピリット』ですが、もう一人の主人公です。彼女の紹介はとりあえず下のほうに。それと今度外伝みたいな感じでまとめてみたいと思っています。時間軸的なことを言えば、樹流や悠人が召還される以前〜物語最初のラース占領戦までですね。伝わりにくかったらごめんなさい。ちなみにシスカはオリジナルだけど完全オリジナルではありません。ちゃんとゲームに出てきてますw
さて、要するに僕が書きたかったことは何なのか?それは皆さんがそれぞれ考えていただけると嬉しいです。それぞれの見解が今後の話を大きく左右していくことだと思います。聞きたいことや意見があればBBSにお願いします。ただこれだけは念頭においといてください。『彼女たち』が生きたいと願っていたことを、樹流はまだ知りません。
いつも最後になりますが、ここまで読んでいただきありがとうございました。
シスカ・レッドスピリット
収まりの悪い赤髪と金の瞳をもつバーンライト王国のスピリット。基本的に穏やかではあるが、ある一定を超えるとキレる。甘いものと雨が好き。スピリットとしては高位の第六位神剣を保持し、『ラキオスの蒼い牙』、『漆黒の翼』と並ぶ『紅蓮の猛火』の二つ名で大陸に知れ渡っている。強力な神剣魔法『インフェルノ』から繋がる連撃は凄まじいものがあり、並みのスピリットでは歯が立たない。最も、『エトランジェ』の力を持つ樹流の前では無力だった。自分を守り殺された仲間たちの無念を晴らす為、自らの命をかけて戦うことを神剣に誓う。その彼女の瞳は、怒りの紅に染まっていた。
『ふざけないで…あなたの信念を、勝手に私に押し付けないで!』
永遠神剣第六位【陽炎】
大陸ではシスカのみが持つと言われる二刀一対の永遠神剣。二刀として使うか、柄の部分を繋ぎ合わせたランスとして用いる場合がある。シスカは好んでランス型を用いるため、【陽炎】の真の型を知る者は少ない。高位な神剣ではあるためはっきりとした自我を保有している。シスカとのシンクロ率は高く、一対多の戦闘でもある程度なら戦える。持ち主であるシスカに強力な炎の他に、ある特殊能力を与える。シスカの考える復讐を快くは思っていないが、仕方のないことだと割り切り力を解放する。
『彼は…あなたに似ている』