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  白銀の心 〜想いと力〜




 序章 始まりの大地へ


その日、一人の少年がとある学校に転入してきた。
クラスは騒然とする。少年の髪に、瞳に、その容姿に。
白い少年、という形容は些か解り難いかも知れない。
しかし、その形容が一番解り易いのかも知れない。
簡単な挨拶を終えた少年の周りへと当然の様に群がる集団。
転入生がきたなら必ず起こる質問攻め。
第一陣をきった少女は、何も言葉にすることが出来なかった。
それは少年から感じる感覚、明らかな敵意。
一般の生徒にすら感じ取れるほどのその気は、周りの者を黙らせるには十分すぎた。
それでも懸命に話し掛ける者もいた。遠巻きから見守っている者もいた。朝から熟睡している者もいた。
しかし皆一様に、少年のそれを崩すことは出来なかった。
ただ時間は流れていく。一限が終わり、昼休みが過ぎ、帰りのホームルームが終了し。
少年は足早に教室を後にする。残ったものは重い空気だけだった。

………………

…………

……

少女は何度も何度も白い少年に話しかけた。だが、返答はなかった。
ふと、少女の脳裏に一つの疑念が浮かび上がる。
なぜ私はここまで必死になっているのだろうか?
転校生がきた。どうやら周りと打ち解けることが苦手のようだ。
ならば私が一肌脱ごうじゃないか。
そう思って一番最初に話し掛けた。いや、話し掛けようとした。
その銀の瞳に射抜かれるまでは。言葉にならない言葉が紡がれる。
自分でも何を言ったのか覚えていない。
間抜けなことを言ったかも知れない。まともなことを聞いたかも知れない。
だがもう駄目だ。この少年は駄目なのだ。本能的にそう感じた。
それは決して少女の性格が悪いのではない。むしろここまでよくやったんだ。
そう自分に言い聞かせ、少女はその場を後にした。

………………

…………

……

一人の少年が目を覚ます。周りを見てみれば何やら全体的にざわめいている。
と言っても騒がしいというわけではなく、何かに対しひどく動揺しているといった感じだ。
しかしながら少年は気付かない。自分が寝ている間に何が起きたのかを。
それは少年が、ただ単に鈍いからなのかもしれない。もしかしたらそうではないのかもしれない。
大きく伸びをする。時間は昼休み。朝から今までずっと寝ていたことになるが気にしない。
肉体労働をしている身としては仕方のないことだと思う、ことにする。
席を立ち、椅子を机に戻し、友人と学食に行こうと教室の扉に手をかける。
すると独りでに扉が開く。心霊現象、などということがあるわけがない。
目覚めた少年はここで初めて何があったのかを理解する。目の前の少年の姿に。
銀色の流れる髪とまるで宝石が埋め込まれたかのような瞳。
そうか、皆の様子がおかしかったのは彼のせいだったのか。
当たらずとも遠からずの解答。この少年の鈍さがよくわかる。
すると白い少年は目覚めた少年を僅かに一瞥し席へと戻った。
どうやら必要以上に見ていたことが気にくわなかったらしい。
その様に多少怒りを覚える。悪いのは確かにこちらだ。それは解る。
だがその少年から感じられる何か、それが自分と犬猿の仲であるもう一人の少年と似ていた。
だからかもしれない。しかしそれは所詮自分の理屈でしかない。
失礼なことをしたと思う。謝ろう、話し掛けてみようと思う。
結果は、後ろの方で不貞腐れている針金頭の少女を見れば一目瞭然だっただろうに。

………………

…………

……

彼を少年と呼ぶのは些か違うような気がする。彼は大人びているのだ。
それは決して、彼が老け顔だからだとか、寺の住職の息子だからだとかではない、筈だ。
表現することは難しいが、彼からはそこらにいるガキのような軽さが感じられない。
青年、と言うのが一番相応しいのかも知れない。
そんな彼だから、教室の扉を開けていち早くに気が付いた。
いつまで寝てるんだ、学食ずっと待ってたんだぞ、なんていう悪態は直ぐに引っ込めた。
その奇妙な光景に。
探していた人物の一人は後ろの方で何やらご機嫌斜めの様子。
それ+もう一人は教室の窓際の席で何やらアタフタやっている。
そしてその席にいるであろう人物を代入すれば自ずと答えは導き出される。
なるほど、青年は納得する。
朝のホームルームで遠目から見ただけではあるが、この空気の根源たる少年は確かに曲者だ。
ふと、青年の脳裏に浮かぶもう一人少年。
その少年から感じる雰囲気と、目の前にいる白い少年とのそれは驚くほど似ている。
青年の動きは速かった。
白い少年から目当ての少年を引き剥がし、ただ一言、すまん。
それだけだ。後ろの方でもそっぽを向いている少女を捕まえると足早に教室を後にした。

………………

…………

……

今日何度目かの溜息が境内に漏れる。少年は柱に身を預け紅茶をすする。
たまたま通りが買った神社、その古風な造りに少年は思う。
この国の文化は素晴らしい、だが人間は最低だ。
胸を抱くように握り締め目を閉じる。
僅かな期待があったのかもしれない。前とは違うという期待が。
無論そう問えば、少年は否定するだろう。
他国ではアジア人と馬鹿にされ、母国では外人と敬遠される。
だが少年は気にしない。完全というわけではないが人は慣れる。
それが悪い方向にでもだ。
飲み終わった缶を乱暴にゴミ箱へと投げやる。
だがそれは見当違いな所へと飛んでいった。
普段ならば確実に決めている位置での失敗は、やはり少年の心の揺らぎからだろうか。
仕方なく缶を拾いに行く。このまま放置してもいいのだが、少年はそれを拒む。
確実にそれを掴み、確実にそれをゴミ箱へと捨てる。
少年の性格が僅かに見て取れる場面だ。
踵を返し境内を後にする、つもりが思いがけない足止めを喰らう。
遠目からも見て取れる集団。制服から見て同じ学校のようだ。
見つかっては厄介だ。咄嗟に柱へと身を隠す。
声はどんどん近づいてきて、やがて止まる。
少年は悪態をつく。僅かに聞こえてくる話からは長くなることが伺える。
腰をおろし宙を仰ぐ。暫くは動けそうにない。さて、どうしたものか。
何となく胸元のペンダントを見る。それを優しく撫でると、少年の表情に若干の笑みが浮かぶ。
夕日が反射して、それはまるで燃えるように光り輝いて見えた。
いや、実際にそれは鈍い光を発していた。
その時だった。周りの世界が変化したのは。
外界から遮断されたような空間には音という概念がなく、妙な感覚が纏わりついてくる。
音の次は光だ。既に夕方で回りは赤く染まっている。いや先ほどまで染まっていた。
それが今では白い光に包まれている。その光は溢れ、やがては周辺の物全てを飲み込んでいく。
その光の根源が何なのかは解らない。
だから、少年は自分の胸元が輝いていることに気付かなかった。

………………

…………

……

目覚めた少年はまず天井が目に入る。見知らぬ部屋、体から何かが抜け落ちたような感覚。
ゆっくりと起き上がる。多少頭痛はするが大きな外傷はない。
よく見てみれば、この部屋にいるのは少年一人ではない。もう一人、少年がいる。
何がどうなっているのか、目覚めた少年は考える。
だが、それがうまくまとまる筈もなく。

カチャ

部屋の扉が開く。
反射的に構える少年が目にしたのは、緑の少女。
ブラウンの髪に翡翠色の瞳。
その吸い込まれるかのような瞳に、少年は言葉を失う。
綺麗だ。そう思った。
なんの飾り気もない言葉。
だが、それ以外の形容は今の少年には出来なかった。
緑の少女は僅かに驚いた様子だったが、直ぐに少年に柔らかい笑みをこぼす。
解らない。何も解らない。
ここはどこだ、君は誰だ、一体何が起きたんだ。
頭の中で次々と浮かんでくる疑問。
少年はまだ知らない。だが、後に理解する。
ここはどこで、少女は誰で、一体何が起きたのかを。
しかしそれはもう少し後の事。
この日、少年『葛綿樹流』は始まりの大地へとやってきた。




あとがき
どうも、作者のショウです。読みやすくしようと思って書いた結果がこれです!う〜む……ちなみに作中に出てくる少年、少女、青年などは皆さん御解りになると思うのであえて伏せときます。どうしても解らない、もしくはこの文章はどういった意味なのか、などの御質問等がありましたらss感想掲示板の方へお願いします。

一応僕の中ではこの話は既に完結しています。ですので文才さえあれば直ぐに終わるのですが……何も言わないでください。どうせ長くなっちゃいます。それでは『白銀の心 〜想いと心〜』、今後ともよろしくお願いします。ここまで読んで頂いた方、ありがとうございます。

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