─聖ヨト歴330年 エクの月  青 いつつ日 朝
  訓練所


尊たち第二詰所のメンバーは今訓練所にいる
尊が加わってからの初訓練だ。
まだ日も昇りきらない朝だった。

ミコ(ふぁ・・・・・まだ眠い・・・・・ラキオスに戻ってきたのはほとんど朝だったし。まぁしょうがないか。まさか堂々とあんなところに行くわけにはいかないし、あの事は知られないほうがいいし・・・)

尊は昨日の事を思い出しながら思った。

ミコ(でも・・・・・ホントに眠い・・・・)

よほど眠いのか無意識のうちにあくびが出ていた。
それに気づいたネリーが話し掛けてきた。

ネリ「ミコト様〜大丈夫〜?すっごく眠そうなんだけど」
ミコ「朝は弱いんですよ・・・」

とりあえず誤魔化した。
といっても朝が弱いのは本当のことなのだが。

ミコ「それにしてもネリーさんは元気ですね昨日あんなに遊びまわっていたのに」

昨日のネリーを思い出しながら尊は言った。
はっきり言ってネリーにも疲労という概念が無いのではないかと思ったほどだ。

ネリ「それはネリーが‘くーる’だからだよ♪」
ミコ「・・・・・・・・・・」
ミコ(理由になってない・・・・というかクールってどんな事か教えてあげたほうがいいのかな?)

そんなことを悠長に考えているとヒミカの声が飛んできた。

ヒミ「こら、ネリー!ミコト様が訓練を始められないでしょう?」
ネリ「わかったよ〜」

不満そうな顔でネリーは皆と同じように並んだ。
いよいよ訓練開始である。
とはいっても何から始めればいいのかまったくわからなかった。

ミコ(う〜ん、どうしましょう?何から始めていいんだかわからないんですが・・・・)

悩んでいる尊に助け舟を出したのは幻想だった。
ちなみに昨日はあの後一言も言葉を交わさなかったが、朝になると幻想はいつもと同じように接してくれていた。
尊にはそれがありがたかった。

幻想『みんなの力を知っておいたほうがいいんじゃない?』
ミコ(それもそうですね)
ミコ「では、皆さんの力を知りたいので僕と実戦形式で戦ってもらいます」
ヒミ「誰からいきますか?」
ミコ「あ、いえ。1対1ではなく皆さん全員できてください。連携の方も見たいので」
ヒミ「1対5ですか?それではいくらなんでも・・・・」
ミコ「まぁ、大丈夫ですよ」

とにこやかに尊は言った。
そして穴のあいた空間から幻想を取り出す。

ミコ「始めましょうか」

という声に反応し5人はそれぞれ神剣を握りなおした。

ミコ「いつでもどうぞ」

尊は笑顔のままそう言った。
まるで覇気が感じられない。
5人は戸惑ったがいつまでもこのままでいるわけにもいかないので戦闘態勢に入る。
まず尊に斬りかかったのはネリーとシアーだった。
鋭く重い斬撃が尊を襲う。
しかし尊は顔色一つ変えることなくいなしていまう。

ネリ「え!?」

ネリーとシアーははまるで柳でも斬っているかのように感じに驚いた。
2人の表情が真剣みを増した。
斬撃も更に鋭く重くなる。

ミコ(ネリーさんの攻撃は速さがありますね。シアーさんは狙うところが的確だ・・・・・)

尊は攻撃をうけながら冷静に観察していた。
2人の影からヒミカが飛び出し尊に襲い掛かった。
ミコ(ヒミカさんは動きが変則的で予測しずらいな。速さもそこそこあるし)

尊は3人の攻撃を受けてもなお笑顔が崩れない。

ミコ(そろそろ反撃しようかな・・・)

尊はヒミカの攻撃を受け止め反撃しようと思っていた。
しかしそれが実現する事は無かった。
剣撃をうけた瞬間ヒミカの剣が燃え出したのである。
虚をつれた尊は回転しながら後ろへ跳び距離をとった。

ミコ(なるほど。そんなこともできるのか)

そんなことを考えている尊に3人は更に追撃する。
しかも今度はそれだけではなかった。

ヘリ「テラー」

という声が聞こえたかと思うと尊は自分の体から力が抜けていくのを感じた。

ミコ「これは、まずいなぁ」

と少しも余裕の表情を崩さず呟く。

ミコ「風障壁 2 展開」

尊の詠唱を無視して3人は斬りつけた。
しかし3人の攻撃は尊に当たることなく地面に突き刺さった。
3人の攻撃はすべて尊に当たる直前でそれてしまったのである。

ヒミ「なっ!?」

3人とも何がおきたのかわからなかった。
実は3人の攻撃は尊の周りに吹く強風によってそらされていたのだ。
3人の動揺は一瞬だったが、尊が反撃に移るには十分すぎる時間だった。

ミコ「いきますよ。たえてください」

尊が最初に狙ったのはネリーだった。
瞬間移動したかのような速さでネリーの背後に移動し幻想を横薙ぎに払った。
当たるのは柄の部分だがしばらくは動けなくなるだろう。

ガツッ

幻想が当たったのはネリーではなかった。
というより幻想は止められていた。
ハリオンの持つ大樹によって。

ハリ「私を忘れてもらっては困りますよ〜」
ミコ「そのようですね」

にこやかに言いながら今度は幻想を切り上げる。
しかしこれもはじかれてしまう。
間髪いれずに連撃を入れるがすべて大樹で止められた。

ミコ(お、凄いですね。反応はかなりのものだ)

ハリオンは攻撃をうけながら反撃をした。
槍による突きが尊を襲うが尊は難なくこれを避ける。
しかし、避けたところにヒミカの燃える剣が迫った。
それも幻想で止める。
更にその背後にヘリオンが現れ居合切りで斬りつけた。

ミコ(ヘリオンさんは速さは群を抜いていますね。でも攻撃自体はまだまだかな?)

ヘリオンの剣を尊は右手一本で取った。
尊の右手から少量の赤い血が飛び散る。
痛覚がない尊にはなんの障害にもならないが。
しかしこれで攻撃が終わりではない。
ネリーとシアーの2人が剣を振り下ろす。

ミコ(連携もいい感じだな。でも、実戦経験が足りない)

尊はネリーの剣が届く前に横腹に蹴りを入れる。
そしてヒミカに足払いを食らわせシアーには鳩尾に掌薙を。
ハリオンは突き出されたままの腕を掴んで投げ飛ばし、ヘリオンの剣を取ったまま首に幻想を当てる。
さきほどの言葉を裏付けるかのように一瞬で5人を倒してしまう
ミコ「これで形勢逆転です」

にこりと笑いながら尊とが言った。
5人は尊の圧倒的な強さに唖然としていた。
5対1であったにもかかわらず、自分たちは決定的なダメージ、状況におかれてしまった。
しかし尊はヘリオンの刀を止める時にできた傷一つである。
力の差は圧倒的だった。
味方であれば心強いが敵になればこれ以上恐いことは無いと思う。

ネリ「エトランジェってこんなに強いんだ・・・・」

横腹を押さえながらネリーが呟く。

ヒミ「え?でもユート様はエスペリアたちに歯が立たないって言ってたけど・・・・」
ネリ「ユート様ってそんなに弱いの?隊長なのに・・・」

悠人の隊長としての威厳がガラガラと音を立てて崩れていった。
尊は何とかフォローしようと

ミコ「強さだけが人の良さじゃないですよ」

といっておいた。

ミコ「回復しますからまたすぐ訓練を始めましょう」

幻想から発せられる光に包まれると体の痛みは見る見るうちにひいていった。

ハリ「そういえばユート様はまだ神剣魔法を使いこなせていないんですよね?」
ヒミ「守り龍様にも殺されかけたとか・・・・そのときも確か尊様が助けたって聞いたけど」

更に悠人の威厳が崩れていく気配を感じて尊は話題を中断させることにした。

ミコ「さぁ、皆さん。訓練を再開しますよ。ではまず・・・・・・・・・・・・」

今日もつつがなく時はすぎていく









─聖ヨト歴330年 エクの月  青 いつつ日 夜
  リーザリオ付近の森


今日も尊はリーザリオ国内に来ていた。
幻想が退屈になったのか話し掛けてくる

幻想『尊もまめだよね。毎日ここにくるなんてさ』
ミコ「これから本格的に戦争もはじまりますからね。もっとやることも増えると思うけど」
幻想『皆にばれないようにするのも大変だよねぇ』
ミコ「そうだねぇ」
幻想『でもやめるきないんでしょ?』
ミコ「まぁね」

今日も尊はリーザリオの街の方へ消えていった。














ラキオスへの帰り道どこと無く昨日の事が思い出されて、気まずい雰囲気になった。
沈黙を破ったのは尊だった。

ミコ「幻想。昨日の事なんだけど・・・」
幻想『うん・・・・』

幻想の声もどこと無く沈んでいる。

ミコ「絶対・・・・絶対にいつか話すから、それまで待っててくれない?」
幻想『・・・うん!』



2人の距離が少しだけ縮まった。